五等分の障害   作:森盛銛

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32話 三玖の料理

「・・・はぁ」

 

時刻は昼前、自室に戻っている三玖は以前学校から頂いた留学の書類関係を眺め、思わず溜息をもらす

 

「私のやりたいもの・・・」

 

専門学校で学んで様々な料理の知識を得てきたが、自分に会うものや、ジャンルを決められないでいた。なので、軽く自分がその道に進んだ時にどんな感じなのかをなんとなく想像してみる。

 

「お寿司屋さん・・・へい、お待ち!」

 

「イタリアン・・・Prego, buon appetito(どうぞ、お召し上がりください)」

 

「フレンチ・・・Tout se passe bien Monsieur(お味はいかがですか?)」

 

 

 

 

 

「何やってんだ?」

 

「ひゃ!?・・・フータロー、ノックぐらいして!」

 

先ほどのイメトレを見られ、恥ずかしくなり、顔を赤く染めているが、風太郎はお構いなくそのまま部屋に入っていく。

 

「この前借りた本は読破したから、次の本借りに来た」

 

そう言うと以前伝えた自由に読んでいいと許可をした本を数冊取り出そうとすると、机の上にあるものに目が行く。

 

「留学?・・・フランスか」

 

「あっ・・・」

 

相談しようと思っていたものだが、都合のがいいのか悪いのか、風太郎に見つかってしまった。

 

「フレンチは結構手間がかかる料理だからな。日本の刺身みたいな素材の味を提供というよりは、めちゃめちゃ手を加えるらしいし」

 

などと、ちょうど返した本にそのようなことが書いてあったのを思い出す。

 

「そうだね。フレンチは宮廷料理・・・かなり偉い人が食べるものだったからね」

 

留学先はフランスでつまりはフレンチ料理学ぶことになっている。

 

「なぁ、三玖。頼みがあるんだが・・・」

 

「フータローが私に?」

 

「実際こういった料理って食ってみないとわからないから、作ってくれないか?」

 

本だけで料理を学ぼうというのは流石に無理があった。店に行って学ぶのもよいが、正直それでは金がかかる。

 

「・・・うん、いいよ。でも味音痴のフータローにわかるかな?」

 

「・・・自覚ないんだけどな」

 

そう小馬鹿にしたように言うが、彼からこういうお願いをされるのは初めてだ。今まで、三玖自身からしか、料理を食べてほしいとお願いしておいたが、今回は風太郎からである。なので、本当はすごくうれしい。

 

「じゃあ、買い物行かないと。フータロー、荷物持ちお願いしてもいい?」

 

「ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言ってリビングに集まっていた姉妹たちに買い物に行くことを伝え、二人でスーパーへ出かける・・・が、若干の修羅場があった。

 

「最近風太郎がかまってくれない・・・」

 

確かに、二乃の店の件だったり、一花の収録の件で今三玖と買い物という状況だ。彼女である四葉はぷくーっと頬を膨らませて不満そうだ。

 

「す、すまん・・・でも、五つ子のサポートが俺の仕事で・・・」

 

「・・・義兄さんは家庭よりも仕事優先タイプですね。ちゃんと家族サービスしないと捨てられちゃいますよ」

 

先程の風太郎の言い方では五月の言う通り、仕事優先にしてしまうタイプだ。

 

「そ、そんなことないぞ!な、四葉!」

 

「ぶー・・・一花は昨日お仕事一緒にしてたし、二乃と五月は風太郎の家に泊まりに行くし、三玖は今から買い物に行くし・・・」

 

優先したいのは山々だが、正直四葉が優秀すぎるというものもある。風太郎が用意したメニューも完璧にこなしていて、徐々に歩ける歩数も増えている。まぁ、そうやって頑張っているのでご褒美でも上げることを考える。

 

「・・・よし、今度旅行に行こう」

 

「え!いいの!?やったー!!」

 

その風太郎の提案に先ほどとは違い満面の笑みを浮かべ始める。お金に関しても今のアルバイトで結構な額を頂いてるので結構いいところには行けるだろう。

 

「・・・チョロいなー。俺の彼女」

 

「それ本人には言わないようにね」

 

風太郎が失礼な独り言をつぶやき、唯一聞かれた三玖にくぎを刺された。ひとまず、四葉のお許しが出たので三玖と買い物に出かけることにした

 

 

 

 

 

 

 

 

「フータロー。ちなみに何が食べたいとかある?」

 

「鴨肉の緑ソースかかってるやつ」

 

「・・・バジルのこと?」

 

スーパーなので作れるフレンチは限られるが、今のリクエストであれば揃うので、必要な材料メインの鴨肉をはじめソース用のバジル、その他調味料や付け合わせ。

 

「・・・ねぇフータロー・・・もっと色々作ってもいい?」

 

「いいのか?フレンチみたいな手の込んだものを何品作ってもらうのは迷惑かと思ってたが・・・」

 

「ううん。というより、フータローは私のために料理を学んでるんでしょ?だったら、私も頑張るし、フータローには見てほしい。私がどれだけ成長したか」

 

三玖の成長は再開した初日に食べたオムライスで成長しているのは重々承知しているし、高校生の時はあまりよくなかったものの文化祭ではすごく活躍をしてくれた。今更でもあるが、彼女の成長を改めて見れるのは楽しみでもあった。

 

「じゃあ、頼む」

 

「うん」

 

そうと決まれば、買い物かごにどんどん材料が放り込まれていく、いったい何品作るつもりなのだろうかわからないほど盛られていた。そんな中、風太郎が突然、部屋にあったものを思い出したので聞いてみる。

 

「そういや、部屋に留学のパンフあったけど、する予定なのか?」

 

「・・・どうだろうね。悩んでるよ」

 

少し落ち込んだような表情を浮かべる。

 

「やっぱ、味覚か?」

 

「・・・うん。それもある」

 

「も?」

 

「・・・何でもないよ」

 

そう言うと、レジのほうへ進みだし会計を済ませるようだった。そして留学の件を聞こうとはするものの三玖は何かとはぐらかすのでこれ以上聞くのはやめた。

 

「重・・・」

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

帰宅中。エコバック四袋分を購入したが非力の二人で息を切らしながら運ぶ。そもそもこんな買い物をする予定でもなかっただろうが、一花か二乃あたりを連れてくればよかった。

 

「ただいま・・・」

 

「おかえり。うわー、すごい量」

 

出迎えてくれた一花が買い物袋を持ってくれて、そのままリビングのほうへ運び出し、風太郎もそのままついて行く。三玖はだいぶお疲れのようで少し玄関で息を整えてる。

 

「悪いな。運んでもらって」

 

「大丈夫だよ。あ、それと、ジャーン!」

 

冷蔵庫に買ったものをしまっていると、見せてきたのはSNSだ。そこのトレンド、急上昇に中野一花と書かれてあった。

 

「今日の放送で私の聴覚障害が認知されたよ」

 

「その割には余裕な表情だな」

 

風太郎の言葉通り一花らしい余裕の表情だし嬉しそうでもあった。

 

「うん。癖は強いけど、これは私の個性であり、武器でもあるからね。それで・・・」

 

そう言うと今度はメールを見せてくる。相手は社長からで内容はオファーがあったとのことだ。

 

「補聴器メーカーのCMのオファーがあったよ。いやー、いきなりCM舞い込んでくるとは、運がいいよ」

 

「そうか、おめでとう」

 

「ありがとう。フータロー君が素直に祝福してくれるなんて珍しい」

 

「嫌味かよ」

 

「・・・ううん」

 

やっぱりファンや世間の声よりも君の賛辞が一番うれしいよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、始めるね」

 

「ああ、よろしく」

 

体力が回復した三玖がキッチンに立ち、風太郎の所望するフレンチを作ることになった。姉妹全員は着席し、待っている。しかし、二乃は少しそわそわした様子だった。

 

「簡単にコースにしよっかな」

 

つまりは前菜からデザートまで何品か作るようだ。そうして準備を始めようと風太郎があげた霞包丁を手に取る。それと同時に見ていた二乃が立ち上がり、キッチンへいき、持っていたナイフケースを置き、こちらも風太郎からもらった黒刀包丁を広げだす。

 

「サポートするわ。下ごしらえとか結構かかるでしょ」

 

そう言って髪をバイトの時同様動きやすいようにする。そして材料を確認しレシピを確認すると、すぐさま作業に入りだした。

 

「ご要望は?」

 

「にんじん、ズッキーニ、黄パプリカはバトネ。ミニトマトは下茹でしてエモンデ。カリフラワーも茹でといて、茹でた後は氷水に浸して、後はスープで使うじゃがいもはコンカッセ。エシャロットはアッシェ。」

 

「わかったわ」

 

そう言うと即刻言われた材料に手を付ける。にんじんは皮むきから棒状にカット。残りも同じようにカットをし、トマトはヘタを取って下茹で、そしてトマトの薄皮を剥ぐ。そしてカリフラワーの下茹でを開始する。

 

「フータロー君。二人は何を話してたの?」

 

二人の息のあった行動は見事だが、見ていた一花は何を会話しているのかはわからなかったので風太郎に聞いてみる。

 

「バトネ、コンカッセ、アッシェ、この辺は切り方だな。エモンデは皮むき。エシャロットは玉ねぎかその親戚」

 

バトネはバトン切、コンカッセは粗みじん切り、アッシェはみじん切りだ。それぞれフランス料理の専門用語だが、学校で学んだのだろう。その間に三玖が用意しているのは白ワイン。それを鍋に移し火にかけ、アルコールを飛ばす。

 

「カリフラワー浸したわ。ハイ、あと甘さのグラニュー糖と酸味のワインビネガー」

 

二乃は三玖の行動を先読みし、次に使う材料を持っていく。確かにメニュー通りのものではある。

 

「あ、酸味はレモン汁使う」

 

「はぁ!?野菜の甘みと酸味をたたせるワインビネガー一択でしょ!」

 

「野菜の素材の味を活かしたい。ここは軽く酸っぱさを感じるレモン汁」

 

調理中に喧嘩を始めてしまったので風太郎が止めようとするが、五月が待つように言う。

 

「あれはたまに起こることですし、こっちのほうが私的には得なので!」

 

なぜか笑顔でそう答える五月だが、その理由はわかった。

 

「じゃあ、材料半分もらうわ。私はワインビネガーで作るから、あんたはレモン汁で作りなさい」

 

「わかった」

 

「二人が味付けで言い争いをすると二種類の味が楽しめます!」

 

「・・・あっそ」

 

五月の相変わらずの食欲に少し呆れてしまったが、正直、料理の勉強のために色々な味が食べれるのは風太郎もありがたい。

 

その後二人の調理工程。アルコールを飛ばし、氷水で冷やした白ワインにグラニュー糖、そして二乃の鍋にはワインビネガー、三玖の鍋にはレモン汁を加える。そして、そこに加えるのはゼラチン。

 

「何作ってるんだろ?」

 

「おそらく、テリーヌですね。フランスの定番前菜です。肉や魚を使うことがありますが、今回は野菜メインみたいですね」

 

四葉の疑問に五月が答える。さすがMAYの名で活動するレビュアー。ちなみにテリーヌは具材を型にはめゼラチンで固めたもの。最近ではお菓子としても作られることが多い。提供する際に切った断面が美しい。

 

その後、二人が長方形の型を用意して、ラップで型を覆う。その中に白ワインベースのゼラチンを流し込み、切った野菜類を敷き詰めまた先ほどのものを流し込むを繰り返す。普段なら冷蔵庫で冷やすが、すぐさま提供するのでそして終わったら今回は氷を敷き詰めたバットで冷やす。

 

「後は冷やして完成。じゃあ、次はスープね」

 

「わかった。じゃあ半分・・・」

 

そう言って先ほどスープ用に切ったじゃがいもを渡そうとする。

 

「いいわ、それはあんたが使いなさい。私はこっち使う」

 

そう言うと二乃は自前でじゃがいもを用意する。それは少し小ぶりのものだ

 

「三玖、レクチャーしてあげる。素材の味を活かすこと」

 

そう言うと、二乃はじゃがいもの調理を始める。三玖はその間に切ったバターを鍋にいれ、エシャロットを炒める。しんなりしてきたら切ったじゃがいも、そしてコンソメ、塩コショウをお湯で溶かしたスープベースを加える。二乃もじゃがいもを加えるまでは同じように調理手順を進めるが、スープベースが違う。

 

「ブイヨンレギュム?」

 

つまりは野菜ベースの出汁。さっぱりとした味わいになるが、スープベースとしては薄くなってしまう。ちなみにブイヨンをより煮込み凝固したものがコンソメとなる。

 

「食べればわかるわよ」

 

そして二人は鍋のものをミキサーにいれスープ状になるまで混ぜ合わせる。そして盛り付けと同時に生クリームを加えて混ぜ合わせる。これでスープは完成。そして、前菜のテリーヌもいい感じに固まってきた。型を外してラップを取り、断面がきれいに見えるように切り分け、盛り付ける。

 

「野菜テリーヌとじゃがいものポタージュ」

 

前菜とスープ。二人がそれぞれ同時に皆にサーブする。まずは三玖のテリーヌ。人参、ズッキーニ、黄パプリカ、ミニトマト、カリフラワーの断面がゼリーで固めて並べられ美しい。

 

「・・・うまい」

 

「へぇー、これがテリーヌか、お姉さん初めて食べた」

 

「うん!美味しいよ三玖!」

 

「確かに、夏野菜を感じるのであれば濃い味付けより素材の旨味でレモンなんですね。すっぱさもいいアクセントです」

 

各々料理の感想を言ってくが、皆良い反応だ。それに三玖の成長を嬉しく思った。

 

「ハイ、じゃあ私の皿もどうぞ」

 

そう自信満々に言う二乃、高校の時は相手にならなかっただろうが、今では良い勝負が期待できるのではないかとおもいながら一口頂く。

 

「・・・!」

 

風太郎が食べたのは先程と同じテリーヌなのか疑問に思うほど、美味しい。

 

「これも美味しい!」

 

「私はこっちかなー」

 

「野菜の甘味活かし、酸味をよりプラスすることで全部の野菜が上手く纏まっています。それに、この歯ごたえ・・・」

 

「あら、気が付いたかしら、三玖はバトネだったけど、私はジュリエンヌでやらせてもらったわ、その方が味が染み込みやすいし、歯ごたえも楽しいでしょ」

 

ジュリエンヌとは千切りの事、切った人参一本一本にあのソースが中まで染み込み全体に行き渡っている。全体の反応を見ると、二乃の方が一枚上手だったのがわかる。

 

「じゃあ、次はスープ・・・」

 

そういって、今度また、三玖の皿を頂く。薄い黄色にトロトロのスープが食欲をそそる。

 

「これもうまい!」

 

「やっぱりスープはベースが重要ですからね、ジャガイモをより美味しく味わえます、ビシソワーズでもいいかもしれませんね」

 

「確かに、それも食ってみたい」

 

風太郎と五月が料理の感想を言っていくなか、一花と四葉は置いてけぼりにされていた。

 

「風太郎とそれっぽい話してるから、五月が頭よく見えるね」

 

「うーん。五月ちゃんの食い意地は凄いから料理の知識もあるんだろうね」

 

「確かに冷製スープでも美味しいかもね、じゃあ次あたし」

 

そういうと三玖と同じ、いや、少し色が濃い。スープのベースは三玖の方が濃いものを使用しているので疑問に思った。とりあえず、一口頂く。

 

「なんだこれ!?甘い!」

 

「えー?何で?」

 

「ホントだ!カボチャみたい!」

 

「調理手順はほとんど一緒でスープは三玖のよりも薄味のはず、なのに何でこんなしっかりした味・・・まさか!?インカの目覚め!」

 

「ご名答。流石MAY」

 

その秘密はジャガイモの品種。三玖が使ったのは一般的で肉じゃがなどの煮物に合うメークイン。しかし、二乃が使用したのはインカの目覚めという品種。

 

「メークインの糖度は5、それに対してインカの目覚めは7~8。この糖度ならこれだけの味で勝負できるわ」

 

つまり、インカの目覚めはかぼちゃやサツマイモレベルのものを持っているということ。

 

「だから、ベースを薄味のブイヨンレギュムに?」

 

「そういうこと。三玖のテリーヌは素材を活かすんだったら旬なものを選びなさい。夏野菜とか、今回のはズッキーニ、パプリカぐらいね。後は茄子やきゅうり、オクラなんかもいいわね」

 

「・・・はぁ」

 

どうみたって二乃ほうがこちらも一枚上手である。そんな状況に三玖は溜め息をつく。やっぱり、二乃は流石だ。いつまでたっても追い付けない私の目標。

 

「何溜め息をついてんのよ、次は魚?肉?」

 

「ちょっと休憩・・・」

 

そういうと、三玖は自室に戻っていった。その際、皆が料理に夢中になっているなか少し涙を浮かべていたのを風太郎は見逃さなかった。

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