料理対決・・・ではないが、ニ乃に完全に圧倒されてしまった三玖は部屋へ逃げるように入っていく。そして、それを心配した風太郎は追いかけるように部屋にはいる。
「どうしたんだよ?」
ベッドに座り悔しそうに俯いている三玖のとなりに座り込む。原因はわかっているが、ここまで悔しがるとは、それほど料理が本気なのだろう。
「・・・何でもない、ごめん、変な感じになった」
理由を聞きたいだけで、決して謝罪が欲しいわけではないが、沈んでいる三玖に対して話題を変えようと机にある留学パンフを手に取る。
「ほら、せっかく成長する機会があるんだ。二乃を見返してやるって言うか、ギャフンと言わせるというか・・・」
上手く言葉が出てこないが、ひとまず元気になってほしい一心に声をかける。
「・・・留学は二乃が行くべきなんじゃないかなって思う」
「・・・どうしたんだよ急に」
「ニ乃の料理見たでしょ・・・やっぱり私じゃ足元にも及ばない。二乃は別にやりたいことがあるからって断ったらしいけど、二乃だったらもっと上を目指せる・・・」
彼女が留学を悩んでいた理由がようやくわかった。味覚障害だけでなく、自分よりもニ乃の方がより多くの知識を得るため、スキルアップのために行くべきなのではないかと考えていたようだ。確かに、先程の料理はどちらも美味しかったが、ニ乃が上回っていたのは事実である。
「・・・だからって三玖が行かない理由にはならないだろ?」
「そうだけど・・・でもこの一枠は二乃に・・・」
「話は聞かせてもらったわよ!」
その重苦しい空気に風穴を開けるように扉を開け声の主が入ってくる。その正体は二乃だ。
「三玖。せっかくの機会なのよ!これでアンタが目指している料理が見つかるんじゃない?」
「でも!・・・私は、二乃にもっと・・・上の料理人に・・・」
三玖の気持ちを伝えるが、その発言に少しうんざりしたような表情を一瞬浮かべるも自分の心境を語る。
「あのね!・・・はぁ、向上心のあるあんたにこれ言うのもどうかと思うけど、私は日本一も世界一も興味ないわ」
「・・・え?」
三玖からしたら意外な答えだったのだろうかきょとんとした表情を浮かべている。それに対して風太郎は優しく微笑んでいる。それは二乃が目指しているものだろう。
「私はみんなが帰ってこれるお店。そう言うのを作りたいのよ」
「帰ってこれる?」
「・・・まぁ、みんなが夢に向かって羽ばたいて行くのを私は巣でも作って待ってるわ。だから色々挑戦してきなさい!特に三玖!」
「ひゃい」
急に指さされたので驚いてしまい変な声が出てしまったがそのまま続ける。
「留学の件も自分の将来を考えるって言ってるのに私ががどうとか関係ないでしょ!」
「うぅ・・・」
そう言って怒っている二乃だが、その次には優しく声をかける。
「だから、挑戦してきなさい。私たちは待ってるから。それに、料理人としてあなたを必要としてくれる人が地球上で一人くらいはいるわよ。きっと」
「二乃・・・」
そう言って彼女は何か決心した・・・しかし、その割にはジトーっと二乃を見つめる。
「料理で格の違いを見せつけるようにして自信なくさせたくせに」
「フン、飴と鞭よ」
「鞭が多い」
そう二人は会話しながら部屋を出て行き、蚊帳の外だった風太郎もその後をついて行く。二人はそのままキッチンに立ちテーブルで待っていた姉妹も待っていたようだ。
「さて、みんなお待たせ」
「また始めるね」
そう言って最初に風太郎が所望していた鴨肉の調理に取り掛かる。下処理で血合い、筋、薄膜を丁寧に取り除く。その後赤ワインと数種の香草に漬けて臭みを取る。ニ乃もそこまでの調理手順は同じようだ。
「じゃあ、バジルソース」
そういって三玖は風太郎のご要望のソースを作り始めようとするが、ニ乃は再びアレンジを加えてきた。
「じゃあ、あたしは柑橘系」
そういって、オレンジの果肉を搾り出し始めた。
「えー、お肉にオレンジって合うの?」
「確かに想像つかないね。それでどうなの料理評論家のお二方」
四葉と一花は疑問な表情を浮かべながら風太郎と五月に聞いてくる。
「評論家じゃねーよ・・・まぁ、逆にバジルに並ぶポピュラーなものだよ」
「まぁ、二乃がそれだけで終わらせるとは思いませんけど・・・」
意外かもしれないが鴨肉に果物や柑橘系のソースを合わせるのは定番でもある。しかし、五月の予想通りだ。
「・・・デコポンですか」
二乃が手に取ったのはデコポン。オレンジに比べ甘
味よりも酸味に特化した柑橘類。
「また聞いたことないものをやってくれるな」
おそらくだか、将来の自分の店のためにメニュー開発を行っていくために色々研究をしているのだろう。
「酸味強めだから、バルサミコ酢は・・・でもそれで味が纏まる?うーん・・・逆に・・・」
調理工程はまだ未定なのかニ乃はぶつぶつといいながらソースの作り方を考えている。行き当たりばったりではあるらしい。しかしながら作業の手は止めていない。
「(皮がパリパリになるタイミング・・・)」
フライパンに集中している三玖。焼き上がりのタイミングを逃さないよう真剣に見極めている。
「ここ」
フライパンから取り出し、いい感じに油ものって美味しそうだ。そして、バジルソースをかけて完成だ。しかしそれよりもニ乃の皿が先にサーブされる。
「じゃあ、お先ね」
そう言って提供された料理は鴨肉にデコポンソース・・・ではない、そのまま果肉が乗っている。果肉をシャリに見立てた寿司のような一品だった。
「では、いただきます」
そう言って五月が食べると衝撃が走ったように驚く。
「これは・・・果肉にバルサミコ酢を塗ってますね!酸味はデコポンである分、バルサミコ酢を熱して酸味を飛ばし、甘味だけ残している!」
「ああ、しかも塗った直後にバーナーであぶることによって香ばしさが増している!」
「そ、ちょっと寿司をイメージしたわ。シャリの果肉にネタの鴨肉、そして、わさびの役割をしているのがバルサミコ酢。どうかしら、新しいでしょ?」
得意気に一つ一つ解説していく。確かに今までに見たことのないものだ。
「なんか料理漫画の解説者になってるね、あの二人。あーあ、グルメコメントの仕事入ったときどうしよ、自信なくす」
「うん、おいてけぼり感がすごい・・・か、鴨の香ばしさが凄い!うん、美味しい!」
言葉通り置いていかれる二人。四葉も真似ようとチャレンジするが、抽象的でよくわからなかった。
「じゃあ、次は私」
そう言って出されたのは、正直普通であった。レシピに忠実と言えば聞こえはいいが先ほどのニ乃の品に比べて面白味はかけている。
「ではいただきます」
「(見た目のインパクトは完全にニ乃だが・・・)」
先ほどのやり取りを見た風太郎はそれで終わるとは思っていない。それが的中した。
「バジルだけの清涼感じゃありません!」
「ああ、これは・・・」
「「わさび!!」」
「当たり、バジルだけじゃなくてわさびも入れた日本式のバジルソース」
意外性のある驚きの品を提供する三玖。そのよいリアクションを見たニ乃は横から一口盗る。
「うん、美味しい・・・負けたわ」
そう優しそうに言うがそのあとにすぐムッとした表情になる。
「あーあー、ムカつくわ!負けたの腹立つ!三玖!最後はドルチェよ!これは意地でも負けられないから」
「わかった」
お互いにキッチンに戻り最後の調理を進めていく。
そしてその際に決めたようだ。三玖は自信に満ちた表情でニ乃に言い放つ。
「留学いくよ。私」
「ふーん。行くのね、まぁ、そんな気がしたけど」
「うん、ニ乃にも勝ちたいし、圧倒的に」
「そんな台詞は100年早いわよ」
「うん、でも、頑張るから応援してね」
そう言うとニ乃は彼女の決心を受け止める。
「はいはい。不安も多いけど頑張んなさいよ」
「うん・・・不安もあるから・・・勇気もらおっかな」
「??」
その発言に困惑していたがお互いドルチェづくりを開始した。
そして、料理勝負も終えたのだが、リビングで寝っ転がっている風太郎と一花と四葉。ただ単純い食いすぎだ。そしてその倍近く食べている五月は何事もなく過ごしている。
「まさかあの後にデザート三連戦やるとは思わなかった・・・」
ドルチェの最初の勝負で引き分け・・・そして次もその次も引き分けていた。さらに次に行こうとしたので流石に止めた。
「あー、胃がむかむかする」
「今日晩御飯いらないよー!」
「あー、結構カロリーとっちゃった・・・痩せないと・・・」
デザート合計6品食べたので胃もたれがする。一花もその横で胃薬を飲んでいる。
「飲む?」
「ああ」
「私も!」
そんな光景を見て料理人二人は申し訳なさそうな表情を浮かべている。
「熱くなった。ごめん」
「私も悪かったわ」
「いや、料理に関しては俺がやってくれって言いだしたことだしな。ありがとな三玖」
「うん。それでねフータロー。私留学行くことにした。だからおねがいがあるの」
「なんだ?」
せっかくの門出だ。出来ることならばしてあげようと思い軽く返事をすると意外なものだった。
「会えなくなるからデートしよ」
「・・・は?」
まさかのお誘いだった。