五月が部屋にこもってからというもの姉妹や風太郎がノックをしても戻ってくることはなかった。食べ物でも釣ってみたが、反応はなし。
「・・・五月」
先ほどの反応は尋常じゃなかった。普段の五月からは考えられない行動だった。それに、最後に何か言っていたようだが・・・そう考えていると玄関のほうから扉の開く音がした。
「ただいま」
その正体は仕事を終えた五つ子の父マルオだった。前日から手術だったらしく、一度風太郎のために家に戻ってた休憩時間以外、ぶっ続けで勤務していてようやく帰宅した。
「おかえり。パパ」
「おかえりなさい」
「おかえりー!」
「お義父さん。おかえりなさい・・・」
そう言って三人の出迎えに表情は変わらないようにも見えたが、少し嬉しそうな雰囲気を感じた。
「・・・上杉君。君にお父さんと言われる筋合いはない。一花君と五月君は?」
「・・・まだあまり、動きたくないみたい」
二乃が現状を伝えるが、少し不安げな表情をする彼女に彼は落ち着いた行動をとる。
「そうか、二乃君。お疲れ様。君の面倒見の良さがあったからこそ、家を任せられた。ありがとう」
そう言って娘にだけ見せるような和やかな表情。以前はそんな表情は見せたこともなかったが、彼も五つ子との関わりで変わっていっているのだろう。
「だ、だから君は止めてって・・・まぁ、どういたしまして・・・」
少し照れた表情をする二乃。
「三玖君。少し、軽食を頂きたい。何か簡単なものでいいから作ってくれないか?」
「うん。わかった。おにぎりかなんかでいい?」
「ああ、よろしく。四葉君。車いすはどうだい?何種類か用意したが、不備や欲しい機能があれば新しいものを用意するが」
「うん。これで大丈夫!ありがとう!」
「そうかい。でも、そればかりではなく、歩行訓練を日に日に行うようにしよう。不恰好になってしまうかもしれないが、歩けるようになるから」
そう言って彼女たちの現状を把握したのか、親というものは恐ろしいとも思った。精神的に追い込まれていそうな二乃には頼りがいがあるとやさしい言葉をかけ、料理をしないと言っていたが、自信を取り戻した直後の三玖に対して料理をお願いしたり、四葉にも気にかけつつ、希望を持たせるように次のステップに取り組む指示をする。そして、テーブルに座ると今度は風太郎を見てきた。
「そして、上杉君。君にアルバイトを提案したいのだが、時間はあるかい?」
「え?」
そう言って取り出してきたのは簡単にまとめられたA4の資料。風太郎にも座るようにそれを読み上げる。
「今回はリハビリテーション・・・つまり、理学療法士、言語聴覚士、作業療法士と言ったところだ。アットホームで楽しい職場。給料は相場の5・・・いや、7倍だ」
「それって国家資格が必要なんじゃ・・・」
確かの上記の三種は国家資格が必要となるもの、資格は愚か、福祉の専門に関しての勉強など触れてこなかった風太郎にとっては戦力にもならないだろう。
「これは決して、私の経営している病院の雇用ではない。家庭教師同様、私との個人的な契約だ。二乃君からの推薦もある。簡単にお手伝いさんという形で構わない少し、考えてもらえないかい?もちろん、君にも予定はあるし、プロでも難しい仕事だ。自身を優先してくれて構わないし、やらないというのであれば、それも構わない」
そう言って先ほどの資料をまとめ上げ、それをクリアファイルに入れて、風太郎に丁寧に渡す。そして、その表紙を眺めていると、マルオはリモコンを取り出し、テレビを見始める。まさかの恋愛青春ドラマで現在、女子中高生に大人気の作品「恋に恋する乙女の恋心」という作品を鑑賞し始めた。
「・・・そういうの、見るんですね」
「内容に興味は無い。一花君が出ているからね」
そう言うと、二乃が近づいてきて耳元で囁く。
「パパは一花の出てるドラマや番組は全部チェックしてるのよ」
それを聞き、この方は本気で娘たちを愛しているのがわかる。実の娘というわけではなく、自分の憧れた人の子供と言うだけでは説明がつかない。そして、このアルバイトも、風太郎を信用してのものだとも思う。
現状の娘たちを誰かに預けるというのは相当の信頼がないと頼めないことだと思う。しかし、風太郎には思うところがあった。
「(今の俺に・・・)」
自信はないわけではなかった。彼女たちからの信頼はあるし、更には、好意を持ってくれている。専門的な知識などは、一から覚えて行けばいい。だが、先ほどの五月と話すチャンスすらつかめなかった風太郎にできるのかどうか不安になってしまっていた。
「たぶん、今の状態では、五つ子の全員からは承認されない・・・と思います」
先ほどの、五月の態度を見ると、そうなるだろうとも思っていた。部屋に行って、私は大丈夫です、それより四葉との時間を・・・と強気に突き放す彼女の光景が目に浮かぶ。
「なので!五月を納得させるまで、お時間いただいてもよろしいでしょうか!」
そう頭を下げて、自らに課題を作った。このままでは五月は納得しないだろう。彼女のことも考えての発言だった。
「・・・わかった。だが、期限は三日だ」
それに応じたマルオは簡単に承認票を作り、五つの枠を作る。その上に五つ子たちの名前を書きだした。
「全員から、承認票にサインをもらうこと。代筆はばれるからね」
そう言ってそれを渡すと同時に、三玖が軽食を持ってきた。
「ありがとう、三玖君。これを食べたらまた仕事に戻る。その前に二人の様子も見に行く」
多忙である彼は子の休憩が終わった後また病院に戻るとのこと、そして、マルオはまだ部屋から出てきていない一花、五月の体調をチェックしに向かった。
そして、その間に、二乃が風太郎が貰った承認票にサインをする。
「はい、これ」
それを三玖に渡し、三玖も同様にサインする。
「うん。はい」
四葉も同じくサインする。
「はい、風太郎」
四葉からそれを受け取り、サインの五分の三が開始一分ほどで埋まった。
「あんたは逃がさないから」
「フータロー。またよろしくね」
「よっろしくおねがいしまーす!」
風太郎の要望によりマルオから提示された条件をクリアすべく、彼女らの力も借りることにした。
そして、風太郎自身も、彼女らを助けたい気持ちを強く表した。