命を無視された兵隊   作:901ATT

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3話

 戦闘を主とするオペレーターは武器を扱うものが大半だ。

 中には、その強靭な肉体や、鍛え上げた武威を遺憾なく発揮して戦う者も居るが大半は何かしらの装備がある。

 それは剣であったり、槍であったり、斧であったり実に様々。遠距離ならば、弓矢、弩、アーツユニット等々。

 その中でも、銃は希少だ。失われた技術を用いた代物であり、基本的にラテラーノがその技術を独占しており、扱うにはアーツの適正を求められるから。

 話を戻そう。己の得物は、己で整備する。これは武器を扱う人間としては基本だ。

 何故なら、武器を持つ人間は武器こそが生命線であるから。自分の生殺与奪の権利を見ず知らずの他人に握らせるなど馬鹿のする事。

 

「なあ、オーランド。もっと改造しちゃダメか?」

「…………勘弁してください」

 

 ロドスの一室。工房のようになったその場所で、オーランドは大きな体を縮こまらせて懇願する。

 彼の前では、彼の使う拳銃をバラシて中身を改める女性鍛冶師、ニェンの姿があった。

 彼女こそ、オーランドのドア・ノッカーにライフリングその他諸々を仕込んでドア・ノッカーⅡへと改造を果たした張本人。

 その在り方から胡散臭いとも言われるニェンだが、オーランドは割と彼女の部屋を訪れている。

 これは定期的なメンテナンスの為だ。もしもこれを怠ってしまうと、彼は拳銃を放棄しもっと猟奇的な戦法を取らなければならなくなるだろう。

 精神的にも、肉体的にも追い込まれること間違いなし。だからこそ、オーランドは拳銃のメンテナンスを買って出てくれるニェンに感謝していた。

 もっとも、その改造癖ともいえる趣味趣向は受け入れがたいというのが現実なのだが。

 一方、ニェンはというと彼女としても珍しい代物を弄れるのは面白いらしい。

 改造に関しても、拒否されてばかりだがオーランドの押しへの弱さは彼女も確認済み。いずれは押し切ろうかと考えていたりする。

 銃の整備が終われば用件は終わり。弾丸の補充を行い、受け取った拳銃はホルスターの中へ。

 

「他に、武器を持ったりしないのか?お前の体格なら、長物だって余裕で扱えるだろう?」

「…………いえ、自分は長物の扱いは―――――」

「元軍属だろう?何だったら私が斧か槍、矛でも拵えてやろうか?習うにしても、ここには腕利きが多い。指導者には事欠くまい?」

「…………」

 

 話が通じない雰囲気を受けて、オーランドは閉め口するしかない。

 前にも再三書いたが、彼は体格が良い。その身長は二メートルを超えているし、体重も筋肉によって百キロオーバー。ぶっちゃけ、本人の闘争意欲が薄くなければラップランドの様な戦闘狂になっていたかもしれない。

 そんな彼は、角材を一つ持つだけでも凶器になる。

 当然だ。彼の筋肉はボディビルダーの様な見せる筋肉ではなく、戦闘で生き残る為についた筋肉なのだから。

 そこに彼専用の振るえる武器など手に入ってしまえばどうなるか。戦場はより苛烈に、鮮烈に、凄惨なモノへと変貌を遂げる事だろう。

 ただでさえ、オーランドのメンタルはガタガタなのだ。武器の必要以上の所持は、その均衡を破壊してしまいかねない。

 迷うのは断り方。どうしても、相手の事を一番に考え、自分の事は二の次三の次であるせいでオーランドは煮え切らない事が多かった。

 傍目にも分かりやすい挙動不審。当然ながら相対しているニェンにも分かる。

 

「…………まあ、無理にとは言わないが。だが、覚えておけよ。お前にはまだまだ可能性があるって事をな。そして、その時はこの私が直々に武器を打ってやろうじゃないか」

「…………」

「そう複雑そうな顔をするな。お前の悩みは、ありふれてはいるが決して蔑ろにして良いものじゃない。答えは自分で出せ。そして、周りに同調するな。良いな?」

「…………はい」

 

 年長者としての矜持か、彼女の瞳は射抜くように真っ直ぐとオーランドへと向けられる。

 危うさは、脆さだ。もしもを考えるのも、大人の務めだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ニェンの工房を後にしたオーランドは、気配を消したまま廊下を行く。

 ブーツが僅かに軋みを上げるがそれだけで、衣擦れの音一つしない。

 目指すのは自室。オーランドの得物は拳銃だけではなく、尚且つそちらの方はメンテナンスはしているモノの実戦投入はしていない代物。

 理由は単純明快で、グロテスクな事になってしまうから。それはもう、一昔前のスプラッター映画も裸足で逃げ出すほどの、猟奇的で、サディスティックで、破滅的な救いようのない光景が作り出される事だろう。

 それが分っていながら、手放せないのはソレが腰に下げたランタンや脇下の拳銃と同じく自分の過去の証であるから。

 

「…………はぁ」

 

 徐に左手をランタンに伸ばし、その指先が触れたところでオーランドはため息をついた。

 過去へと思いを馳せる度に情けない自分が嫌になる。

 どんよりと重たくなった空気を纏ったまま、運よくと言うべきかその足は誰にも出会うことなく自室へと辿り着いていた。

 殺風景な室内。纏っていたコートを脱ぎ、帽子をラックに掛けてオーランドは使った形跡のほとんどないベッドの下へとしゃがみ、手を伸ばす。

 引き出すのは、銀の外装をしたアタッシュケース。

 ダイヤルロックとシリンダー錠によって閉じられたその中身こそ、彼が今まで封印してきた武装の一つが収められている。

 鍵は彼の手の中にある。開けるかどうかの決定権も彼にある。

 決めるのは、オーランド自身。これから先の戦いを生き残っていくために、周りを生き残らせていくために、戦力の強化は必要となるのは明らかなのだから。

 首から下げた鍵へとシャツの上から触れる。

 開ける()()なら簡単だ。ダイヤルを合わせて、鍵を開ければいい。それだけで、中身を外気へと晒すことが出来る。

 その手を押し留めるのは、彼の弱い心。

 ただ只管に怖かったのだ。自分が、昔に立ち戻ってしまうのではないか、と。

 鍵は揺れるばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一人の男が苦悩に苛まれたころと、時を同じくしてロドスの頭脳は執務室に集まっていた。

 

「ドクター。何故、お前はあの男を重用しているんだ?」

 

 静かな声で切り出したのは、黒衣に身を包んだフェリーンの男性、シルバーアッシュ。

 この場に居る、他の面々の視線も執務机についたドクターへと集まる事から、少なからずこの話題には関心があるらしい。

 そして、見られる当人はというと、

 

「…………そんなに、贔屓してるっけ?」

 

 誰とは言われずとも分かったのか、その上で首を傾げていた。

 この反応にシルバーアッシュは、目を細める。

 

「私が、誰の事を言っているのか分かったのか?」

「え?オーランドの事でしょ?シルバーアッシュって、彼の事を話す時には眉間に皴が寄るからさ」

「…………」

 

 思わず、シルバーアッシュは眉間を揉んだ。完全な無意識であったらしい。

 割とキリッとして、大人な男性といった雰囲気を常に放つ彼にしては珍しい仕草というか反応だ。だが、そんな無意識の反応が出てしまう程度には彼は、オーランドというオペレーターを懸念事項として注目しているらしかった。

 黙ってしまった彼に変わり、次に声を上げたのは龍の女性、チェン。

 

「シルバーアッシュに同調する訳では無いが、私としても少し気にかかるな。君はなぜ、オーランドというオペレーターに信を置ける?」

「チェンさんも?うーん…………でも悪い人じゃ、無いから…………」

「確かに、彼の基地内での行動は荒れていない。寧ろ、私たちに対して一線を引き世話を掛けないようにしているのは、知っている。だが、戦場でのあの男はどうだ?最早、兵士ではなく兵器と呼ぶ方が正しいんじゃないか?」

 

 チェンが指摘するのは、二重人格ともいえるオーランドの戦闘スタイル。

 チェンもシルバーアッシュも、どちらもそれぞれの陣営で上に立つ人間だ。不確定要素と言うか、不透明な人間をおいそれと重用できるはずもない。

 彼らはそれぞれ、ドクターに対して一定の評価をしている。しているからこそ、こうして会談という形で忠告しているのだ。

 だが、当の忠告を受ける側のドクターの反応は芳しいとは言えない。

 

「うーん……でも、オーランドは変わろうとしてるから、ね」

「変わる?あの男がか?」

「そう。時間はかかりそうだけどね。だから、そんな時だからこそ側に居たいと私は思うんだ。贔屓してるように見えたら、ゴメン。でも、ね?」

 

 フードの下困った様に微笑むドクター。

 ここでは言っていないが、もう一つの理由としてはオーランドというオペレーターの戦闘能力も加味しての擁護であった。

 前衛オペレーターでありながら、重装オペレーター顔負けの高耐久に相手重装オペレーターの防御を撃ち抜ける攻撃力。メタい話、医療オペレーターとセットで通路を塞げば早々抜かれないポテンシャルの持ち主なのだ。

 ただ一方で、ドクターもオーランドの二面性に対して何も心配していない、何てことはない。彼女は戦場で轡を並べるチェンやシルバーアッシュとはまた別の視点からの情報を持っていた為だ。

 その視点というのが、ロドスの医療関連トップであるケルシーからの資料。

 鉱石病は源石融合率と血液中源石密度、それから造影検査によって診断を下される。

 そして、オーランドの融合率は18%。血中の密度は0.31u/Lと周りと比べても比較的高かったりする。

 本題はここから。オーランドの体は、()()()()痕が残っていたのだ。それも一度や二度の話ではない、傷の処置などの手術痕とは違う明らかに別の目的をもって開かれた痕。

 彼を第一部隊で運用し続けるのは、その実力と同時に他の部隊では万が一があったときに対応しきれないから。もしもがあれば、制圧するのも已む無しという事。

 

「とにかく、オーランドに関してはもう少し、時間を貰えないかな?」

「…………ふぅ……考えがあるのなら、私としてもこれ以上の追及はしない。だが、肝に銘じておけ盟友よ。あの男はいずれお前に牙を剥きかねないという事をな」

「その時は、貴方に助けてもらうかもねシルバーアッシュ」

「人たらしだな、お前は…………」

 

 呆れたようにため息をつくシルバーアッシュは、自分と同じくその手の期待をされているであろう同僚をチラリと見る。

 上からの命令であれ、自分の目的であれ、利用しようと思っていても手を貸してしまう。そんな素養がこのロドスのドクターにはあった。

 もしも彼女が本気で助けを求めるならば、このロドスのオペレーター達は我先にと馳せ参じ、その力を発揮する事だろう。

 それが分かるからこそ、二人は忠言を行ってしまったのだろう。本当に危険視するならば、秘密裏に相応の処理も可能であったのだから。

 これがロドス。たった一人を起点として広がった繋がりこそが、彼らの武器なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 光ある所には、必ず影がある。

 

「―――――漸く見つけたわ。まさか、あんな場所に居るだなんて」

 

 ツンと鼻につくアルコールのニオイと、それに負けない、いや人によっては嗅ぎ慣れないそのニオイが充満した暗室。

 蛍光灯の冷たい光が照らすスチールデスクの上には、何やら数字が文字、グラフがびっちりと書かれた数枚の紙。それから、数枚の写真が広げられていた。

 

「貴方は、私のモノなのよ。血の一滴、毛筋の一本に至るまで、何もかもが私の物。フフフ…………」

 

 蛍光灯の影となった場所に佇む誰かの、恍惚とした笑い声が響き渡る。

 資料の一つ。光の下、一枚だけ綺麗に見えた写真があった。

 証明写真のように、肩より上が写った写真だ。

 

 そこに写るのは、ウルサスの青年。その顔には真一文字に鼻の上を通る、縫合痕が刻まれていた。

 

















ふと、鉄血のミカみたいなループスかリーベリをペンギン急便にぶっこむ話が読みたいなと思う、今日この頃です
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