八幡の大学生活がロックでポップなのは間違っている。 作:桔梗
昼飯を軽く済まし、俺はかなりの距離を散歩していた。いや、途中電車に乗ったから、正確には散歩より観光と言ったほうが良いかもしれない。
とにかく、一日でたくさんの場所に行った。桜で有名な公園。下町風の商店街。ついでにこれから通う大学も。おかけで足が痛い。おまけに今は春休みでどこも人が多く、余計に疲れた。
そうこうしていると時間というのは早くすぎるもので、気が付いたら陽は落ちかけていた。
昼間の青空が、天からこぼされた絵の具で橙色に移ろいゆく。街も、空から滲み出た橙で眩く染まる。
俺は思わず目を細めた。
「違う道、通って帰るか。」
そして誰に言うでもない言葉を、自然に出てきたこの言葉を、俺はボソッと呟いた。
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回り道とは実に楽しいもので、それはやはり、子供心をくすぐられる冒険的要素があるからではないだろうか。
しかし、冒険にはリスクが付きものだ。
リスクなくしては冒険とは呼べず、多くの人はこれによって途中で歩みを止めてしまうのだ。
ならば、今の俺は、リスクを犯してでも進むべきか。
俺は立ち止まり、その建物の敷地へと足を踏み入れた。赤いドアの前に立ち、顔を上げる。
「ライブハウス…か……」
見上げた先には、黒い文字で『LIVEHOUSE CiRCLE』と書かれている。
ふと、俺は考えついた。ライブハウスでバイトなんてどうだろうか。
考えたものの、俺はライブハウスというものについて全くの無知であり、結論は見えなかった。
というものの、今までは一人でギターを弾くのが楽しく、他人のバンドというものにほとほと興味が無かったのだ。
だからこそ、本当の喜びが、楽しみが眠っているのではないか?
しばらくして、そんな疑念に似た欲望が、何度もシャボン玉のように、生まれて、消える。を繰り返していた。
そして同時に、この心が今日この瞬間、日暮れの冒険中だからこそのものだと言うことも悟っていた。
意を決し、踏み出した足は空回り、靴に付着していた砂が短く音を立てた。そして俺は、迫る運命に気が付かなかった。
「入らないんですか?そこに立っていては利用者の邪魔になりますよ。」
後ろから掛けられたその声に、俺は二年前の再来を直感で感じ取った。
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声を掛けてきたのは、珍しい水色の髪を湛え、ギターを背負った制服姿の女子生徒だった。
その目に怒りは無く、純粋な正義で俺を咎めているようだった。
「あ、あぁすいません。どうぞ」
年下に指摘されるのはやはりバツが悪く、俺はさっと道を開ける。
やはりライブハウスは諦めるか。そう思い帰ろうとした時。
「あなた、ここで立ち止まっていたということは、ライブハウスに興味があるんじゃないですか?」
彼女は俺を呼び止めた。まさか止められるとは思わなかったので、俺は面食らって振り返った。
両者に流れる一瞬の沈黙。
しかしそれも束の間。
「私が気にかけることではありませんでしたね。失礼しました。」
そう冷たく言い放ち、彼女はライブハウスに消えていった。
一方的に呼び止められ、息もつかせず遠回しに興味がないと言われれば、もはや俺に引き下がるという選択肢は残っていなかった。
彼女に反応し、しばらく開いたままの自動ドア。それが閉まる前に、俺は体を滑り込ませる。先程とは違い、靴から砂利の音はもう聞こえない。
「やっぱり、興味あったんですね。」
彼女は振り返らずにそう告げた。
手玉に取られていたことを自覚し、俺はそのやるせない気持ちのまま問うた。
「なんで、見ず知らずの他人にそこまでするんですか?」
彼女は足を止め、そして半身で振り返る。
「目が楽しそうだったから……ですかね。」
髪の毛が掛かって顔はよく見えず、おまけに、またしてもすぐ去ってしまったのだが、一つだけ。この言葉が本心からの言葉であることは分かった。
ライブハウスとはどのような場所なのか。俺には想像出来なかった。故に、ライブの熱気が想像の何倍も凄まじく感じた。
暗転したステージに、照らされるスポットライト。
ステージに立つ者へ送られる声援と、客に向かって奏でられる旋律。
その中には、入り口で声を掛けてきた彼女もいた。
メンバー紹介で、名は氷川紗夜だとそう名乗った。
紗夜。
まだ一言二言しか会話していないが、ここまで、名前のイメージ通りな人物を俺は見たことがなかった。
pixivでも同じ作品を先行で公開しています!是非そちらもご覧ください。