戦姫絶唱シンフォギアVC Depthe of the unDergrounD   作:サリッサ@無期限休止

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こんにちは。サリッサと申します。
開いていただき、有難うございます。
イベントに参加したくて作っていたものですが、そのまま腐敗させてもと思い投稿中…

※拙作シンフォギアVCシリーズの一幕である設定上、前回の「HomeFronters」の流れを少し含みます。
読んでいらっしゃらなくても大筋としては問題ない範囲かと思われます。
気になられた方は是非、前作も読んでいただけると幸いです。↓
https://syosetu.org/novel/231953/



D2 深淵の

「……はッ?!?」

少女は跳ね起き、あたりを見渡す。場所は先ほどと変わらないが、先ほどの窓らしきものは消失している。

 

『……』

異形はそのまま寝そべったまま、眠たげに瞼をあげる。

「私…気絶しちゃっていました?」

異形は形成した発生器官に手を伸ばし、またも欠伸をかく。

『直視しただけでそのまま壊れる者も多い。貴様はむしろ骨があるようだ』

その言葉に、引きつった笑みを浮かべる響。そのまま問答を再開しようとしたが、しかしそれは叶わなかった。

 

 

音がする。

 

 

何かが、這ってくる。

 

 

暗闇の中で、響の聴覚が鋭利に反応した。粘質のような、それでいて金属がすり合うような嫌な音も交じる。そのような異音が一定の間隔でもって、近づいてくる。

「ヒキガエルさん……」

臨戦態勢を取り、音の先を注視する。緊張する少女に対し、異形は興味なさ気に呟いた。

『彼奴らか。ここに投棄されていた生物の成れの果てだ。アヤツの差し金だろう。貴様を狙っておる』

欠伸交じりの言葉に、響は目を見開く。それが正しければ、音を発しているモノはすぐにこつらへやってくる。

しかし、彼女は身構えたまま、その場から逃げようとはしない。

『どうした?』

問いに対して、振り向かずに答えた。

 

「ヒキガエルさんを残して、ここを離れるわけにはいきません」

それを聞き、異形は空間が割れんばかりに笑い出した。響はあまりの音に目を白黒させる。もし鼓膜があれば確実に破れているほどの衝撃だったが、聴覚に大きな異常はない。どうやら本当に、この場に身体は存在しないようだと、響は悟る。

『貴様、随分と珍妙なことを言う。彼奴らは貴様の居所と捕縛が目的であろう。よしんばワシに噛みついてきおったら、身の程をわきまえさせてやるわ』

そう言い、縦に大きく裂けた口を舌なめずりする。悪寒のする動作を横目で見た響だったが、いよいよ対象が近づいてきていることを察し、どうすべきか決めあぐねる。

 

『フム…』

その姿を見、異形は声帯代わりとして利用していた物体を、勢いよく叩き潰した。

衝撃にたじろぐ響をしり目に、手に残った残骸を、彼女の方へ放った。残骸は放物線を描き、吸い寄せられるように肩に乗る。

「うぇ?!」

その残骸は、コウモリに近い頭部をもつ、小さな置物のようなモノへ形を変えた。そして、尚も驚き呆けている響に向けて、その口から改めて音が発せられていた。

『貴様は面白そうだ。逃避行に手を貸してやる。それ、早く逃げねば取り喰われるぞ』

「なんだか全然わかりませんけど、有難うございます!」

 

異形が真実を口にしているのならば、ここに留まる必要もなく、そして危険だ。

響は肩に珍妙なモノを携えたまま、走り出した。あてなどない。しかし彼女の本能が、這い寄ってくるナニカから兎にも角にも、逃げること選択させる。

異形は暗闇に消えていく姿を見送ると、先ほど同様、微睡の中に横たわった。

 

『妙な匂いのする者よ……結末は見えているが…』

 

そしてその異形の口が、微かに開く。

 

『しかし、暇つぶしには、丁度イイ』

 

 

──────────────────────────────────────

 

「響!!!!!」

 

緒川に連れられ、入室した小日向未来。その目が、未だ起き上がらぬ親友の姿を目の当たりにする。

複数の機械に繋がれているが、外傷もなく、心電図によって生きていることはわかる。道中で状況を聞いて覚悟はしていたものの、動揺を隠すことはできなかった。

「こンのバカ……」

共に来た雪音クリスが隣で悪態をつく。言葉遣いこそ悪いものの、言葉の裏には彼女なりの親愛があることを、部屋のほとんどが知っていた。

「緒川さん、ありがとうございます」

「ええ……状況を、教えてもらっても?」

 

緒川の問いに、蘭堂が向き直り答える。

「現状は、進展なしだ。脳の微弱な反応等からいろいろ推測するに、少し前から走り始めている。何かを見つけたのか、はたまた追われているのか」

一層不安にさせることを平然と言い捨てる。

「何とかならないのかよ!ホラ、こっちにも同じ機械あンだろ?」

そう言って詰め寄ろうとするクリスを、切歌と調が止める。

 

「残念ながら、もう一つのフィードバックシステムを使っても、設計通りの運用しかできませんでした。

例えるなら、列車の到着駅が違うんです。この機械がA地点に着くために作られたものだとすれば、響さんがいるのは、使われた線路も到着した駅もわからないX地点にいる、と言えます…」

エルフナインの解説に、蘭堂が続く。

「いた連中にはさっきも言ったが、場所、エルフナインの例に準ずるなら到着した地点、と言うべきか。そこがわかれば、こちらから線路を引けるかもしれん。一応考え得る可能性に対応できるよう、準備はしているがな。しかし、正確な場所がわからにゃ、どうにもならん」

 

「ただ手をこまねいていることしか出来ねぇのかよ……」

奥歯を噛み締めるクリス。助けに行きたくても、行けない。共に死線を潜り抜けてきた一同だからこそ、この先が全く見えない状況は、非常に耐えがたいものだった。

「こちらの声を、響に届けることはできないんですか?」

しばしの沈黙の後、未来がそう、蘭堂に聞く。

「ゼロ、ではない。まだ完全な乖離状態ではないからな。しかし、届くかどうかは、距離にもよる。それこそ別の星ほど離れているってんなら、億が一にも届かぬだろうね」

 

肩を竦める蘭堂を見、未来が頷く。そして昏睡状態の響の隣に立ち、その力通わぬ手をそっと握った。

「響……負けないで……」

エルフナインがそんな未来の傍に歩み寄る。

「未来さん…これを」

手渡されたのは、シンフォギア、ガングニールのコンバータユニットだ。

「解析していたものを、今日返すつもりでした…だから…」

未来は赤い首飾りを受け取る。そして、自分のせいだと震えている、その小さな身体を抱きしめた。

「大丈夫、響なら、きっと…」

「そうとも!届く希望があるのなら、それをやらない道理はない!」

翼が皆を鼓舞し、クリスが頷く。

「だな!寝坊助野郎を起こしてやるのも、あたしらの仕事か!」

「デース!」

「はい」

「そうね」

 

続く奏者面々を見まわし、改めて、未来はガングニールを受け取った手で、響の手を優しく包む。

「……私たちは、ここにるよ…だから」

 

 

「帰ってきて、響」

 

少女の微かな呟きが

空を小さく、波立たせる。

 

 

──────────────────────────────────────

 

「ハッ…ハッ…」

 

少し目が慣れてきたように感じる暗がりを、立花響は走り続ける。未だナニカに追われ、謎の物体を肩に乗せたまま、状況は全く進展していなかった。

「まだ…追ってくる…ッ」

『それはそうだろう』

肩の異形が語り出す。

『彼奴は不定形かつ身体を好き勝手に変容させる。貴様らで言う、聴覚や触覚などの器官を作成して、それを用いて追っておるのだ』

肩のモノに目を向ける響だが、留まって話す余裕はない。

「私…いま…身体は…ここにないって…」

『そうとも。貴様本来の肉体は此処には存在しない。しかし、』

異形はその仮初めの肉体をくねらせながら言う。

『不安定領域はいわば重なり合わせ。狭間におるのだ、貴様は。精神と物質が相互作用し、循環する中間存在。したがって…』

 

異形は話を中断した。不思議に思った矢先、響は何かに足を引っかけ、物の見事に顔から転倒してしまった。

『こうして物理存在に影響を受け、そして与える。完全に肉体から切り離され、精神のみとなれば、別だがな』

悶絶する響を愉快そうに嘲笑し、異形は続ける。

 

『切り離されれば、貴様らの漂う、時間や空間の概念からは外れたモノとなる。

物理事象を、聞くことも見ることも感じることもできない。無窮の深淵に呑み込まれ、肉体との繋がりを得なければ這い出ることは叶わない。貴様ら脆弱な存在ならば、即座に狂い掻き消えるだろう』

目を持たぬ顔をもたげ、暗闇の、その先をじっと見据える。

 

『だからこそ、アヤツは貴様を、この狭間に引き込み、彼奴らの身体を使って探しているのだ。

狭間であれば、その矮小な精神を破壊させず、座標の特定と干渉が相対的に容易であるからな』

「言ってること……ぜんぜん…わかりません……」

難解な話に、ほとんど理解が追い付いていない彼女であったが、身をもって体験した以上、そうと認識するほかない。身体はないけど、存在は此処にある。そもそも何に躓いたのか。響は足元を見、眉をひそめた。

 

「靴?」

 

そこには、

形状としては見慣れていながらも、

明らかに厚手で普段使いしないであろう類

例えるなら、雪山を想定したような長靴が

一足、風化しかけた状態で転がっていた。

 

それだけではない。

 

周囲を見渡せば、古ぼけたリュックサック、破損した古い双眼鏡やカメラに加え

どの生き物なのか、犬や鳥類らしき骨が

周辺に無造作に散らばっていた。

 

「これは…いったい…」

思わずその場から動けなくなる響。

『ああ、地上から引き込んだ折に、中に居ったルル・アメルと原始生物の残骸か』

異形は思い出したようにそう呟く。この乱立する黒い棟に、他の人間がいたのか。

しかし、状況は響にこれ以上考える猶予を与えない。

 

『それ、呆けている場合ではないぞ。彼奴はそこまで迫っておる』

異形の言葉を聞き、響は跳ねるように立ち上がり、再び走り出す。考えている暇はない。一刻も早く、どこかへ逃げなければ。少女は走り出す。

 

 

何処へ?

 

 

走ることはやめられない。しかし、少女の思考は先ほどの残骸と、そしてこの先が見えない暗黒の到達点に、考えを巡らさずにはいられなかった。いつまで、走ればいいのか。

 

〔おねぇちゃん!〕

 

その時、懐かしい声が、彼女の脳裏に響いた。

 

それはいつだったか、あの、黄昏時。年下の少女を救うべく、無我夢中で走り続けたあの時。

まだシンフォギアを手にしていなかった時に、少女から掛けられた言葉だったか。

あの時も、同じようにどこかへと走っていた。

 

頭を振り、進んでいた彼女の足に、不意に力が加わる。思わずよろけ、手を付いた。また何かに足をかけてしまったのか。足元の物を確認しようと目を向けた響の顔が、

青く染まった。

 

 

 

透明なゼリー形質に、肌色の線が微かに入った、そんな無形の物体が、足を掴んでいる。

 

考えるよりも早く身を翻し、空いていた足でゼリー状の物体を強く蹴り飛ばす。反動を活かし、後転の要領で立ち上がると、暗がりから大きく距離を取った。

 

 

「……」

 

もう、ソコに居る。

 

 

少し開けた場所の中心で、響は眼前の暗黒を凝視する。先ほど足を捉えていたゼリーが、その中に吸い込まれていく。

そして、その全容が少女の前に姿を現した。

 

ソレは、ゲームなどで登場するスライムと酷似していた。しかし、明らかに異常。少女の十倍はあろうかというその体躯は、ゼリー状の体内には幾多の目や耳、口のようなものが浮かび、どの生物のものかもわからぬ腕や牙が、いたるところから生えては同じ肉へと飲み込まれていく。

先ほど肌色の正体は、皮膚か。そんな想像など意味もなく、この不気味な存在は、身体を微かに震わせながら、響の元へゆっくりと、しかし確実に、迫っていく。

 

 

 

勝てない

 

 

 

彼女の思考が、そう告げていた。

 

「誰に…?」

 

無意識に、その言葉が口から洩れていた。

誰に私は負けるのか。圧倒的死の予感を前に、少女の思考は冷ややかに、自問する。どうして、負けるのか。

己を見る。そこには歳相応よりもやや鍛えられた腕があった。が、目の前に這いずる化け物に対しては、あまりにも無力と言う他ない。

 

「死ねるか……」

言葉と共に、一年前を思い出す。纏えば確実な死をたどると言われた、あの諸刃を、それでも手にしたのは、果たして何のためだったか。死ぬためだったか。

違う。諸刃すら失った状況で尚、戦場に向かったのは死ぬためだったか。

違う。

 

「ここにはいられない…帰るんだ…私の居場所に、みんなの所に、私の陽だまりに!」

 

恐怖を、激情が塗りつぶす。

 

だからとて、少女の身一つ。眼前の化物相手に何ができようか。人間の常識など軽く凌駕する、真なる魍魎に対し、その拳はあまりにもちっぽけだ。

 

「だと…してもッ!!!!」

合い対した者たちに、そして何より自分自身に向けて続けた言葉が、自然と紡がれる。そうとも、武器ならばある。

槍ではなく、もう一つ、あの日受け継いだ想いが。

 

生きることを諦めない、強き心が。

 

 

「うおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」

 

立花響は走り出す。今度は前へ。前へ前へ。化け物にその身をさらす。自殺行為だ。

 

だとしても。そうして握ったその拳が

 

 

〔響!!!〕

 

 

化け物を、壁面に叩きつけた。

 

しばし、その場の何もかもが、何が生じたのか理解できなかった。

しかし、その確かな感触を、立花響は知っている。

 

そうとも、

 

 

いつだって、どんな時だって

 

胸の歌は

陽だまりは

繋ぐための手は

 

側で彼女を支えてくれていた。

 

 

「ガン……グニール」

 

 

そこには、右腕だけながらも、確かに彼女の

 

ガングニールがあった。

 

 

その装甲は輝く粒子となり、集いて赤い光となる。

その光は響の手に漂っている。そこから聞こえる、確かに、温かい声が。

 

 

〔響さんしっかり!!頑張って!〕

〔貴方はどんな時でも立ち上がってきたでしょう!〕

〔帰ってきたらクレープいくらでもごちそうするデス!〕

〔いつまでもグースカこいてんじゃねぇ!〕

〔負けるな立花!私たちが付いている!〕

 

〔響!!!信じてるから!〕

 

 

「ありがとう…皆」

赤く輝く光が、胸元へと導かれる。そこは、あの時受け取った、傷の場所。

 

〔生きるのを、諦めるな〕

 

そう、背中を押してくれた、言葉と共に、光を胸に押し込む。

その瞬間、彼女の身体が

眩い閃光を放った。

 

 

「この拳も…命もッ!!!!」

 

 

化け物が、一度不規則に身体を魚籠つかせる。己の触手をまとめ、巨大な触腕と化し、それでもって押し潰さんと、閃光へ迫る。

 

 

しかしその腕を、閃光から生まれた正拳が打ち飛ばした。

 

最早無力だと震えていた少女はいない。

黒と橙の織り成す装甲を纏った、

 

 

立花響がそこに居た。

 

 

 

「撃槍!!!ガングニィィィィイルだァァァァァァァァァァあああああああああああ!!!!!!」

 

 

 

──────────────────────────────────────

 

「響くん!!!」

 

奏者たちが仲間に声をかけ続ける中、そう言って入室したのは、彼らの上司であり、少女の師匠、風鳴弦十郎。

「弦。お偉い方と会議じゃなかったのか?」

状況観察を行っている蘭堂が手をあげる。弦十郎は旧友の傍に向かう。

「会議など後でもできる。同席者には悪いが、俺にはそれよりも優先すべき事態と判断したまでだ。それよりも蘭堂…進展は…」

「ないね。とりあえず藤尭と友里以下には、特異反応が各国のどこかで生じていないか、監視してもらっている。場所がわかれば、手はある。それだけ──」

 

その言葉を遮るように、研究室内に突如光が生じる。

 

「な?!」

その場の全員が驚く中、響と未来の繋いだ手の中で、光は強く輝いている。

 

『これは…アウフヴァッヘン波形!!!』

友里からの通信が、研究室に木霊する。

『照合……この波形は!!!』

藤尭の操作によって映されたのは、見慣れた、

そして待ち焦がれた名だった。

 

 

「ガングニールだと!?!」

 

ギアは今も未来の手の中だ。しかし、まぎれもなく、この反応は

『でも…この座標は…地中?!?』

言葉と共に切り替わり表示されたのは、遥か地底の底に輝く、ガングニールの反応だった。

 

「なるほど、地下か」

蘭堂が膝を叩く。

「それなら!蘭堂さん!!」

エルフナインが素早く蘭堂の方を振り向く。彼も頷いた。

「琴で作るか。了解した」

すぐさま行動に移る二人。事前に用意していた機器を、フィードバックシステムに次々に接続していく。

「響さんが見つかったデスか?!」

切歌の問いに、エルフナインが答える。

「はい!これなら響さんを助けに行けるかもしれません!」

喜ぶ一同。しかし、蘭堂は眉に皺をよせていた。

「場所はわかった。あとは誰を送るか…だが…」

その呟きに真っ先に反応したのは、

 

「俺が行こう」

風鳴弦十郎だった。

「弦十郎叔父さま?!」

翼の驚きの声と同時に、マリアが一歩出る。

「風鳴司令、ここは私が。状況が前回のフィードバックシステムと近いのであれば、あの夢の中でギアを纏った私が、適任です」

「一人なんて危険すぎるよ。どうにかして装置を増やせないの?」

調に問われたエルフナインは言いよどむ。

 

「人数の、問題ではない、と言うべきか、ここは」

蘭堂が、作業をしつつ告げる。一同が注目する中、彼は続けた。

「相手がなんだと思っている?地球産のアダム・ヴァイスハウプトも目じゃない、正真正銘の埒外存在だ。徒党を組んで行ったところで、全員発狂して御陀仏だぞ」

「んなこと言ってる場合じゃ──」

クリスの続く言葉を、弦十郎が制す。

 

「だからこそ、だ。俺なら一度、似たような存在と会っている。そうだろう?」

見据えられた蘭堂は肩を竦めた。

「ウォーキングデッド事件か。否定はしない。しかし、それでもお前の精神がもつかは、賭けになる」

その言葉を聞き、弦十郎は微かに笑う。

「少なくとも、ノイズが相手でないのなら、俺の拳も役に立つはずだ。

道筋が決まり、それしか出来る手がない以上、この場に司令として残ろうが残るまいが、大差あるまい。それにな……」

弦十郎はベッドに横たわる、少女の姿を見た。

「たまには、ちゃんと師匠らしく助けてやるのも、必要だろう?」

弦十郎の態度に観念したのか、蘭堂は手を挙げた。

「強がりこそが人らしさ、か。わかったよ。どのみち誰かは送らにゃならん」

 

頷き、弦十郎はそこに居る者、そして管制している仲間たちに告げる。

「ここから先は、改めてエルフナイン君と蘭堂の指揮に従ってくれ。響くんは必ず俺が連れ戻す。こちらは頼んだぞ」

「「「はい!!!」」」

全員の声を聞き、大きくうなずく。そして、彼はその体格には不釣り合いのベッドに横たわった。その傍に、蘭堂が近づく。機器を弦十郎の身体に接着していく中で、徐にポケットのモノを手渡した。

「コイツを持って行け。今回のキーアイテムだ」

「これは…」

そこに居る誰もが知っている、ダウルダブラの破片。事件当時に回収されたものだろうか。

「ギリシア神話の一節には、竪琴を用いて冥界へ想い人を取り戻しに行く英雄譚があります。今回はその神話事象を局所改変して…」

エルフナインはそう告げると、機械のスイッチを入れる。

「冥界、つまり地下世界への切符と見立てて使用します。これにより、響さんのいる場所への、精神転移を試みます」

「服や荷物はそのまま反映される。転移自体の失敗は考えなくていい。目が覚めたら異空間。俺のお墨付きだ」

その言葉に、弦十郎は苦笑した。

「フィールドワーカーのお前のか?心強い」

「あと一つ」

蘭堂は友人へ、最後に忠告を加える。

 

「先の伝承もそうだが、連れ戻そうとした者は悉く失敗している。あの世のモノを摂取した場合、連れ戻すのはほぼ不可能だ。もし──」

それ以上を、弦十郎は言わせない。

 

「言っただろう。必ず、連れて帰ると」

「……そうかい」

蘭堂は短くため息をつくと、装置から一歩離れた。

 

「よし。やってくれ」

 

エルフナインが頷き、装置に動力が伝わる。ポケットのダウルダブラの破片が熱を帯びていく。

そのまま風鳴弦十郎は、身体が地中奥底、奈落のその先へと引き込まれるイメージの中、

意識を落とした。




読んで下さり、誠に有難うございます。
いかがでしたでしょうか。

次回より本格的にバトルスタートといった感じになりました。

クトゥルフ神話関係をご存じの方だと引っ掛かるような点を、幾つか配置したつもりなのですが…
わかるよう描写できたかな……

一応大筋書き終わっているので、pixivの方と合わせて随時投稿して参ります。
今後とも宜しくお願い致します。

また、
宜しければ、コメント、評価頂ければ幸いです(^^
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