ヴァイオレットのお話。
「おめでとう。二人はきっと、幸せになる」
―――――
時折思うのです。これはもしかすると、夢なのではないのだろうかと。あまりにも幸福で、あまりにも温かくて、あまりにも穏やかで、それ故にこれは夢なのではと、ぼんやりそんなことを思うのです。
大きな姿見に、花嫁が映っております。全ての支度を終え、雪色のドレスに身を包み、純白のベールで顔を隠す、一人の花嫁。それが、私自身であることが、いまだに不思議な現実なのです。
そして、もう一つ。
「ヴァイオレット。入ってもいいか」
軽やかな音を響かせるドアの向こうより、その方のお声がします。何度も耳にしてきたお声です。いつも耳にしていたいと願うお声です。いつまでもお側にいて欲しいと祈るお声です。私へくださった名前を、誰よりも大切に、愛しさと慈しみに満ちた音色で呼んでくださるお声です。
姿見より目を離し、扉を振り返ります。お会いしたい方が、その向こうにはおります。早くこの姿を見せたい方が、その向こうにはおります。
「――はい」
けれど不思議と、返事に窮したのです。ドレスを指先で摘まみます。言葉にできない緊張で、喉が貼りついております。上手く、声が出ません。
霞んで春に溶けてしまいそうな私の声は、けれどしかとドアまで届いていた様子。カチリとノブが回って、開いた扉の隙間より、その方は現れます。
――呼吸の仕方を忘れてしまいそうです。
後ろ手に扉を閉めるギルベルト様。その姿は、先程まで姿見に映っていた私と同じ、頭の先から足元まで眩い純白。ホワイトスノーのタキシードが、すらりと長身のお姿に似合っております。
まるで――御伽話の王子様のようで。エメラルドの瞳に吸い込まれて、息が詰まってしまいます。
似合っております。素敵です。かっこいいです。言葉にしたいことが次から次に溢れて、しかしどうしてもそれを声には出せず、もどかしさでまた息が詰まります。
椅子へ腰かけたまま、動けない私。同じように、ギルベルト様も扉の前で私を見つめ、そのまま動かずにおります。結婚式を目前にして、不思議な沈黙が私たちの間に流れておりました。
「ギルベルト様――」
「ヴァイオレット――」
どれほど見つめ合っていたのでしょうか。気恥ずかしさが頬を熱くするのを感じて、ようやく唇をこじ開けると、お互いの声がお互いの名前を呼びました。綺麗に揃った声がまたむず痒くて、思わず頬が綻ぶ。弓なりになった薄緑の瞳が、きらりと光っておりました。
ギルベルト様が、ゆっくりと私の方へ歩み寄って参ります。左目に嵌る宝石が、その間もずっと、私を見つめております。窓から差し込む春の陽射しが揺れる只中に、ギルベルト様を見つめる私が映っておりました。
私のすぐ前までやって来たギルベルト様が、膝を折ります。椅子に腰かける私より、ギルベルト様の方が少しばかり、お顔が低くなりました。
「とても素敵だ。すごく似合っている。――綺麗だ、ヴァイオレット」
あたかも夢のような言葉に、惚けて息が漏れるのです。
「あんまり綺麗で、言葉が出てこないんだ」
同じです。私もギルベルト様に見惚れて、あなたの言葉に心奪われて、言葉が出てこないのです。
「――ギルベルト、様も」
ようやく、貼り付いた喉をこじ開け、声を紡ぎます。
「ギルベルト様も素敵です。とてもよくお似合いで――見惚れておりました」
「……そうか」
微かな赤が、ギルベルト様の頬を染めます。眦を下げ、口元を緩めて、ギルベルト様が私へ微笑みかけるのです。そうするとまた、私は息を飲んで言葉を紡げなくなるのです。
胸の辺りが、ふわふわと不思議な心地がします。あたかも翼を得た鳥のように、この身があの空へ飛び立ってしまうような、そんな錯覚を抱いております。
幸せです。いいえ、きっとこれは、幸せ以上なのです。あなたに見つめられていること。その微笑みを目にすること。あなたのために、婚礼衣装を着ていること。そのどれもが、幸せの一言では表せない、無上の喜びなのです。
「……夢のようです」
夢のように。あまりの幸福で、地に足がつかず。宙を漂う心が、いずこかへ飛んでしまいそう。
「……ああ。本当に、夢みたいだ」
頷いたギルベルト様。潤んだ瞳が数多の光を帯び、薄緑色の宝石に幾千の彩をまとわせます。それは正しく、今私の胸にあって輝くブローチと同じ。初めて美しいと感じた、私の宝物。
瞬きができません。今目を閉じてしまったら――この夢が、終わってしまいそうなのです。
「――でも、夢じゃない」
ギルベルト様の右手が伸びます。白い手袋をした手。それが私の頬に触れ、優しい動きで撫ぜるのです。手袋の下にあるのは、私と同じ、冷たく硬い機械仕掛けの手。それなのに、触れられたところが暖かく、心地よい。
頭を傾け、私はその温もりに身を委ねました。
目を閉じます。暖かな感触は消えることなく、むしろより鮮明に浮かび上がるのです。
――ああ。これは、夢ではないのですね。
「ギルベルト様が、おります」
「――ああ。私はここにいるよ、ヴァイオレット」
春色のお声が答えます。
「私のお側に、おります」
「君の側にいる。これからはずっと、君の隣にいる」
指先が慈しむように頬を撫でます。
「私の頬に、触れております」
「触れている。君の存在を、感じている」
愛しさで奏でられた言葉に耳を澄ましております。
「とても穏やかに、微笑んでおります」
「君があんまり可愛らしいから、頬が緩んでしまうんだ」
――目を開きます。
エメラルドの瞳と、目が合います。ずっと私を愛してくださった瞳。私が愛してやまない瞳。堪らなく愛おしい人の瞳。
その美しい瞳の中に、微笑む私がおります。
「夢では、ないのですね」
「――うん。夢ではないよ」
あなたは確かにここへいらっしゃいます。
私も確かにここへおります。
陽射しの中で向かい合い、確かに見つめて、ここにおります。
私の頬へ触れるギルベルト様の手に、私の手を重ねることができます。
反対に私の手を伸ばせば、ギルベルト様の手を取り、指を絡めることもできます。
夢は、夢でなく。
触れるたび、現実になっていくのです。
幸福が形になっていくのです。
愛しさが形になっていくのです。
「ギルベルト様」
絡めた手を、強く握ります。
「口づけを、くださいますか」
贅沢な願いを口にします。
これほど幸せでなお。
これほど愛しくてなお。
私はまだ、求めてしまうのです。
どうか、どうか、愛しさの証を。
もう、この心より溢れてしまうほどに、いただいておりますが。
どうか、どうか、もう一つ、あなたの証を。
私の唇に、くださいますか。
「――わかった」
微笑みのままに、ギルベルト様は頷きました。重ねた左手と、絡めた右手の力を緩めて離すと、ギルベルト様は両の手でベールに触れます。私の顔を覆う、薄くて半透明の一枚の布。悪いものより私を守ってくれるという布は、同時に私とギルベルト様を隔てる壁でもあります。
そのベールに、ギルベルト様が静かに指をかけます。私は小さく頭を垂れ、目を閉じてその時を待つのです。
ゆっくりとベールが持ち上がっていくのを感じます。隔てていたもの、隠していたもの、それが少しずつ取り除かれていきました。
さらりと春の風を孕んで、ベールは私の後頭部へと降ります。
「――顔を上げてくれ、ヴァイオレット」
「――はい、ギルベルト様」
優しい声に導かれるまま、私は目を開き、顔を上げました。
愛しさで輝くエメラルドの瞳に、愛しさで微笑む私がいるのです。
「君が、よく見える」
「はい。ギルベルト様がよく見えております」
隔てるものなどなにもないのです。
あなたは確かに、そこにいらっしゃるのですから。
阻むものなどなにもないのです。
あなたは確かに、触れられるのですから。
拒むことなどなにもないのです。
あなたは確かに、愛してくれるのですから。
「ヴァイオレット」
ギルベルト様が私の名を呼びます。美しい響きで奏でられる、私の名前。その美しさが、ギルベルト様がたくさんの想いを私の名前へ込めているからだと、知っております。
左の手が私へ伸びて、髪に触れます。指先が髪を撫ぜ、慈しむように手櫛を通します。それから、あたかも宝物を扱うように、優しい手つきで私の頬へ触れるのです。
「ヴァイオレット。君を愛している」
はい。存じております。そのお心を、今ははっきりとわかるのです。ギルベルト様がどれほど私を想い――愛してくださるのか。それがはっきりとわかるのです。
そして、私も――
「愛しています。ギルベルト様」
そう、伝えずにはいられないほど、心から愛しております。
額を、重ねます。
手を、重ねます。
指を、絡めます。
鼻先を、触れます。
「愛してる」
「愛しています」
間近で笑って、どちらからともなく目を閉じます。
そうして、誓いの口づけを。
重ねた唇に、ギルベルト様の熱を感じます。繋がった私たちの間で、お互いの体温を交換します。流れ込むのは愛おしさ。触れたところから、ギルベルト様の想いが私の内へと入り、全身を巡るのです。
温かいです。あなたの想いが、温かいのです。重ねた手のひら。絡めた指。触れる唇。その全てが愛おしく、また愛おしさでこの身が温かくなる。私の心が温かくなる。
……これ以上の幸せなどないと、思っておりました。けれど、ここに確かにあるのです。幸せ以上を、今感じているのです。何度も何度も、「これ以上などない」と思い、けれどその度にギルベルト様はこれ以上を与えてくださる。
今、幸せです。これ以上ないほどに、幸せなのです。もしかするとギルベルト様は、また、今以上の幸せを与えてくださるのかもしれませんが。いいえ、きっとそうに違いありませんが。それでも今が、私には一番の幸せなのです。
愛しい人が、ここにいる。
愛しい人に、触れている。
愛しい人と、手を繋いでいる。
愛しい人の、お名前を呼べる。
愛しい人とキスを交わして。
そして、愛しい人に、「愛してる」と告げられる。
それが一番の幸せなのです。
ギルベルト様。愛しい、ギルベルト様。
ですから、私は。
きっと、一番幸福な、花嫁なのです。
名残惜しく思いながらも、唇を離します。もう、式の時間です。エントランスでは、きっと皆さんが待っております。
花婿様が私の髪を撫ぜ、指先で梳いて、それから静かに立ち上がりました。
「行こうか、ヴァイオレット」
「はい。ギルベルト様」
差し出された左手に、そっと私の手を重ね、添えます。その手を、ギルベルト様の手が包むのです。
――「ヴァイオレット、手を。私の側を離れるな。ずっと側にいるんだ」
あの頃より、少しも変わっておりません。私の手を取り、引いて、導いてくださる。その手の温もりは今でも、変わっておりません。
私はその手と生きていく。この方の側で生きていく。それが私の幸せなのだと、随分と前より気づいておりました。
「ギルベルト様」
温かな手に引かれて立ち上がります。愛しい名前を呼んだ私の瞳を、ギルベルト様が見つめ返しておりました。
「どうした、ヴァイオレット」
――どうか。
「どうか、私を、離さないでください」
繋がれた手を、私も握ります。感覚などないはずの手で、ギルベルト様の手の感触を確かめるのです。
決して離しません。もう、二度と。
どうか離さないで。もう、二度と。
そう願い繋ぐ手に、ギルベルト様もまた応えてくださる。握られた機械仕掛けの手が、カチリと軋んで音を立てる。
「君を離さない。決して。もう二度と、離しはしない。――約束する」
そのお約束を心に刻み。私はギルベルト様とともに、扉の外へと歩み出すのです。
「はい。私も離しません。ずっとお側におります。――お約束します」
可愛らしいフラワーガールが、私とギルベルト様の前に立ちます。赤髪の三つ編みを揺らし、白い歯を見せて笑う少女――テイラー。一杯に花の詰まった籠を掲げてから、テイラーは真っ赤な唇を開きました
「綺麗だね、ヴァイオレット」
琥珀色の瞳がきらりと輝きます。その瞳に私もまた頬を緩めました。
「ありがとうございます。テイラーのお召し物も素敵です」
「えへへ、そう?」
「はい。とてもよく似合っております」
テイラーはまた白い歯を覗かせてはにかみます。体を揺らすのに合わせて翻るスカート。可愛らしい、という言葉の似合う様子に、隣のギルベルト様も微笑みます。
「テイラーちゃん、ありがとう。フラワーガールを引き受けてくれて」
「――ん、任せて。幸せを運ぶのが、一人前のポストマンだから」
満面の笑みのまま、テイラーが親指を立てて突き出します。その仕草に私はギルベルト様と顔を見合わせ、そして揃って同じサインを返すのです。
「おい、テイラー。そっちだけで話してんなよ」
下の階より、ベネディクトの声が聞こえてきます。その声にキラキラと瞳を輝かせたテイラーが、二階通路の手すりより身を乗り出し、エントランスを見降ろします。そこにはベネディクトが――そして私たちを待つ方たちがいるはずです。
「今行くよ師匠ー!」
「わかったから!危ねえから乗り出すな!」
ベネディクトの静止も聞かず、手すりの上で器用に手を振るテイラー。軽やかに床に戻ってきたテイラーが、恭しく一礼して踵を返し、廊下を歩き始めます。大手を振り、踵の音も高らかに歩を進めるテイラー。「ついてきて」と言いたげな背中を追いかけて、ギルベルト様とともに一歩を踏み出しました。
社屋の中央、エントランスへと続く長い階段。社長がこの日のために新調したという、エカルテ島の雪のような白いカーペット。階段の両側には、溢れるばかりの春の花々。それらの続く先に、こちらを見つめる人たちがおります。
「――新郎新婦、入場です」
カトレアさんの伸びやかな声がエントランスに響きます。それに合わせて、テイラーが階下へ恭しく一礼。彼女は顔を上げると、花びらを絨毯の上へ敷き詰めながら、一段一段階段を下りていきます。楽し気に揺れる夕焼けの赤髪、その頭上から降り注ぐ色とりどりの花びら。三つ編みの少女は正しく、彼女の言う通りの幸せを運ぶポストマンです。
そのテイラーを、ベネディクトが優しげな瞳で見つめています。
「ヴァイオレット」
雪の絨毯を進むテイラーに目を向けていた私を、ギルベルト様が呼びます。声に導かれて、エメラルドの瞳に顔を向けました。ギルベルト様は左の目を――そしておそらく、眼帯の下の右目も、柔く細めて微笑んでおりました。その目は階段の先を見て、そしてまた私の目を見つめるのです。薄緑の宝石に宿るのは春の陽射し、真白な絨毯、鮮やかな花々。それらに囲まれた私。
繋いだ私の右手を、ギルベルト様はゆっくりと引き上げ、手繰り寄せ、そして――
手の甲へ口づけてくださる。
たったそれだけの仕草に、どくりと心臓が強く打つのです。初めての経験ではありました。私の手にギルベルト様がキスをするのは今までにないことです。機械でできた手に感覚はなく、手袋をした手に感触はなく、それ故ギルベルト様の唇の柔さも体温も甘やかさも感じようはないのです。それだというのに、その感触は鮮明に私の脳裏へ焼き付けられます。
「――行こう、ヴァイオレット」
眦を下げるギルベルト様に頬の熱をごまかすことはできず。頷く前に見えたギルベルト様の瞳には、頬を朱にした私が映っておりました。
エントランスへの階段を一段降ります。ギルベルト様の手にエスコートされ、雪のカーペットへ足を降ろす。こつりと二人の足音が揃って音色を奏で、メロディーを刻むのです。
こつり。こつり。二人の歩調が揃っております。二人のリズムが揃っております。一歩を踏み出すたび、白い絨毯の上で私たちの歩みが重なるのです。
その旋律を、愛と、誓いと、幸福と、呼ぶのでしょう。
階段の踊り場にて、一度、歩みを止めます。二階にいる時よりずっと近くなった、ギルベルト様と私を見つめる目。見守っている方たち。
人として未熟な私を見守り、時に諭してくださった方。
ドールとしての私を支え、ともに働いてくださった方。
大切な人の大切さを、私と分かち合ってくださった方。
「ギルベルト・ブーゲンビリア。ヴァイオレット・エヴァーガーデン。――さあ、誓いの言葉を」
紫水晶の瞳を細め、カトレアさんがこちらを見ます。
誓いの言葉。それは本来、教会などの神前で、神様に向けて交わされるものです。ですが、CH郵便社は教会ではなく、またここへいる方たちに神職者はおりません。誓いの言葉は、ギルベルト様と私、二人の間で交わされるものです。神様へ誓いを立てることを、ベネディクトは強く反対していました。とても不機嫌だったようにも思います。
特定の神様を信仰している訳でもないギルベルト様と私には、むしろこちらの方が自然であるような気がするのです。
誓いの言葉を先に述べるのは、ギルベルト様です。エントランスよりこちらを見守る方々へ目を向けるギルベルト様。その横顔を窺います。
「――ヴァイオレット。少し、手を離してもいいかい」
私にだけ聞こえる声が、問いかけます。私は頷き、ギルベルト様と繋いでいた右手の力を弱めます。
左足を引き、わずかに身を屈めるギルベルト様。「愛してる」と囁きかける瞳に、ギルベルト様が何をなさろうとしているのかを、私はすぐに理解しました。
ふわり。
膝裏に添えられた右腕。肩を支える左腕。ギルベルト様はその両腕で包むようにして、とても軽やかに私をその胸元へ抱え上げます。
ギルベルト様は、時折これをなさるのです。洗濯物を干し終えた朝に。野原にランチボックスを広げる昼に。配達業務へ向かう夕方に。湯浴みより上がった夜に。短い質問で尋ね、こうして私の体を抱き上げてくださる。
ギルベルト様を一番近くに感じる時間なのです。この身はギルベルト様の温もりに包まれており。少し腕を伸ばせばギルベルト様の頭を抱えることができる。そして二人の吐息が混じるほどに、私たちの顔は近くなるのです。エメラルドの輝きを、私一人のものにできるのです。
今も、同じです。
ギルベルト様の瞳に見つめられております。
ギルベルト様の瞳を見つめております。
ギルベルト様の温もりに包まれております。
一番近くに、ギルベルト様を感じております。
「ギルベルト、様――」
惚けて息が漏れるのです。すぐ間近のお顔より目が離せないのです。私の世界の全てが、ギルベルト様ただ一人になるのです。
「――誓います」
よく通る声が。しかしとても穏やかで、柔らかく、優しく、まるでこの社屋を包み、窓より祝福している春の陽射しのように朗らかなお声が、私のすぐ側でするのです。
私を見つめる薄緑に、私の碧が映っております。
「ヴァイオレットを心から愛しています。必ず幸せにします。決して離れることなく、側にいます。――二人で生きていきます」
それが、ギルベルト様の誓いの言葉。心からの約束の言葉。
――私はその言葉に応えたいのです。ギルベルト様の「心から」には、いつだって応えたいのです。
そのために生きてきたのです。
そのために生きていくのです。
「誓います。心よりギルベルト様を愛しております。あなた様を幸せにします。いかなる時も寄り添い、幸せになります。――二人で生きて参ります」
ギルベルト様の首へ伸ばし絡めた腕へ、わずかに力を込めます。すでに触れる寸前の私たちの顔が近づきます。
「――二人とも、おめでとう」
温かな人たちの祝福に包まれて、きっと世界一幸福な私たちは、世界一の喜びを抱えて、口づけを交わすのです。