邂逅
「御坂美琴?」
親友の初春飾利の言葉に、佐天涙子は複雑な表情を見せた。御坂美琴を知らない訳ではない。むしろ良く知っている。この学園都市において最も有名な超能力者だ、知らない方が珍しい。しかし、それと同時に彼女が常盤台中学の生徒であることも有名だ。涙子が気にしているのはそこだった。
「えーあそこのお嬢様って低レベルの能力者馬鹿にしてそうなんだよなぁ……私はいいかなぁ……」
「いいじゃないですか!お嬢様!」
如何にお嬢様が素晴らしいかを伝えようと熱弁を始めた親友に涙子は苦笑する。しかし彼女にとってはお嬢様への憧れというものは無く、むしろ高レベル能力者へのコンプレックスが勝る。自身が卑屈な態度を取ってしまうことは容易に想像できる分、会うのは控えたかった。
「佐天さんもきっと一度見れば考えが変わりますよ!さぁ、待ち合わせまでもうすぐです!急ぎますよぉ!!」
「え?ちょ待っ、初春!?」
結局、彼女は親友に連れられ、半ば無理矢理に連れて行かれるのだった。
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「はぁ……」
「あ、あははは……」
分かりやすく項垂れる第3位に、涙子は困惑を隠せずにいた。想定通りに出会ったばかりの時に卑屈な態度を取ってしまった彼女だが、かの第3位、御坂美琴にはそれを気にする素振りは無かったのだ。かと思えば、クレープのオマケのキーホルダーを貰えなかっただけでここまで落ち込んでいる。思っていたよりもよっぽど付き合いやすい人物だった。
(私はいらないけど……お姉ちゃんは欲しがりそうだからなぁ……)
涙子はポケットの中のキーホルダーに意識を向ける。彼女の姉はこういうよく言えば可愛らしい物が好みだ。しかし忙しい身であるのもあって中々こういうものを集められずにいるのだ。
(うーんでもなぁ……)
目の前の御坂があまりにも見ていられない。涙子は善人だ。力なく、弱い存在でありながらそのうちに眠る善性は、この世界でヒーローと呼ばれるに相応しいものを持っている。仮に高位の能力者だったのならさぞ多くの人を救っただろう。
そして、その善性故に彼女はそのキーホルダーを御坂に渡す事を決意した。
「あのー、私ので良ければいりますか?」
「良いの!?」
一言で瞳をキラキラと輝かせる御坂に苦笑を浮かべながら、脳裏に浮かんだ姉の落ち込む様子に涙子は僅かながら罪悪感を覚えた。しかし後悔は無い。これくらいならば許してくれる、ということは彼女が1番良く分かっていたし、自身が溺愛されている自覚からむしろ頭を撫でながらほめられるだろうことまで予想はできていた。
「ほんっとうにありがとう!この埋め合わせはいつかするから!」
「いやいや、これぐらいいいですって!」
キーホルダーは涙子にとって無価値なものだったが、無意味なものでは無かったようだ。おかげで彼女は御坂美琴という新たな友人を手にすることができていた。
しばらくして、涙子は眼前で繰り広げられる
「何かイメージと違いましたね」
「あはは……そうだね、でも……」
本気で嫌そうにしている御坂に憐れみの視線を向けながら彼女は続ける。
「私はこんな感じの人で良かったなぁ」
「ふふ、そうですね」
最終的に白井は御坂の電撃で撃沈した。
「そういえば、あそこの銀行まだ昼間なのに何でシャッター閉じてるんでしょう?」
「あれ?ほん」
ドゴォォォォォン!!!
「な、なに!?」
突然の爆発音に涙子が困惑していると、銀行から3人の男が出てきた。それを見て即座に反応したのは
白井は即座に男達の逃げ道にテレポートし、初春は自身の持つ端末から
そうして事態がトントン拍子に進む中、広場にいたバスの乗務員と思わしき女性が誰かを探していた。
「どうしたんですか!?」
「子供が、男の子が1人いないんです!!」
どうやら先程広場にいた子供達の内の一人が行方不明らしい。初春が捜索の手伝いを申し出ると共に御坂、涙子もその男の子を探す。バスやその周りを探すが、中々見つからない。
そんな中、涙子は銀行を爆発させた男達の一人が男の子を人質にしようとしているのを目にした。すぐさま近くを見回すが、戦力となる存在達は遠くて今から呼ぶのでは間に合いそうにない。
「私だって……!」
男の子の下に駆け、強盗に連れ去られないようにその身体を掴む。
「てめぇ!邪魔すんな!」
「ダメ!」
涙子は男の子の身体を離さないようにしっかりと掴む。やがて涙子が諦めない事を察したのか、強盗は腹いせに彼女の頭を蹴り、逃走用の車の下へ走っていく。
その様を見ていた御坂は怒りに思考を支配される。彼女は白井を呼び止め、こちらに突っ込もうとする強盗の車の前に飛び出そうとして、
その前に、凄まじい
(あちゃー……)
その圧の主を察した涙子は痛む頭を押さえながら、その主に視線を向けた。
涙子と同じ黒い髪をシニョンにまとめ、黒のノースリーブのタートルネックとジーンズに、ジャンパーを肘まで脱いだ、身長168cmの女性がそこにいた。
「ちょっと!あんた邪魔よ!」
「……悪いがここは譲ってもらう。私は今、酷く気が立っている」
1度は噛み付いた御坂だったが、彼女のあまりにも重い怒りの気配に思わず一歩下がる。女性はそれを流し目で確認してから、車に目を向けた。
「さて……」
瞬間、彼女は凄まじい速度で車に向かって突っ込んだ。そして拳を振り上げ、ボンネットを思い切り殴り付ける。そのあまりの威力に車のフレームが尽く歪み、走行不能の状態に陥った。
彼女は運転席の扉を腕力で引き剥がし、男の胸ぐらを掴んで引き寄せた。
「まずは私怨を晴らさせてもらおうか」
「は?」
ドゴォ!!と凡そ人間が出してはいけない音と共に男が吹っ飛び、涙子の近くの茂みに突っ込んだ。涙子が見れば、男は鼻血を流しながら気絶している。
「救急車を一台」
そう電話に話す女性に、周囲の者は皆呆然としていた。
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「ちょ、貴女それ傷害罪ですのよ!?」
朱色の髪の少女、白井黒子がそう言って寄ってくる。まぁ予想出来た反応だ。しかし私の暴力には一応私怨とか関係なく正当性があるのだ。
「一七七支部の白井黒子だったな」
「え?何故それを?」
首を傾げる彼女に懐から取り出した手帳を見せる。盾のマークが刻まれている。それを見て、彼女と少し遠くにいた初春飾利が驚愕の表情を浮かべた。
「
「「えぇぇぇぇ!?!??」」
驚愕の声がその場に響いた。
妹絶対守るウーマン佐天零子