佐天涙子のお姉ちゃん   作:シーボーギウム

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覚悟

 

 翌朝、私は彼女に適当な服を着せて某第7学区の病院に来ていた。かの冥土帰しがいる病院だ。個人的に医者は彼以外信用していない。

 

「やぁ、なんだか久しぶりな気がするんだね」

「何年も前の話を掘り返すな……」

 

 私とて、相応の時間を経て大能力者に至ったのだ。今でこそ能力の影響で自然治癒力は跳ね上がっているが、昔からそうだったわけではない。訓練で怪我をしては彼の世話になるというのはよくある話だった。

 

「それで?今回は何をすればいいのかな?」

「この子の身体を調べて欲しい」

「ふむ……何か病気なのかい?」

「造られた、説明はそれで充分か?」

 

 彼の纏う雰囲気が僅かに変わる。顎に手を当て少しの間考え、彼は言葉を続けた。

 

「分かった。少し待っててくれるかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 待合室の椅子に座りながら、思考を巡らせる。生活で必要なものに関しては懲罰部隊の後輩をパシって買わせに向かわせているから問題ない。

 

(第二位マジでどうしよう……)

 

 情報統制はしているが、いつまでも隠せるとは考えていない。いずれバレればあの非常識は確実にこちらを襲撃するだろう。断言するが、私では第二位には勝てない。何かしら対抗策を打っていなければ蹂躙されるのは間違いないだろう。

 

(ん……?)

 

 ふと、こちらに向かってくる赤髪赤眼の少年(目が死んでる)が視界に入る。その手には紙袋があった。私がパシった懲罰部隊の後輩だ。制服のワイシャツの上からカーディガンを着た彼の身長は年齢13歳にしてまさかの171cm。歳の割にかなりデカい。

 名を無紙 紅翔(むがみ あかと)。懲罰部隊所属の異能力者(レベル2)だ。

 

「どうした?そんな顔して」

「あんたマジか……」

 

 信じられない、という顔をする彼は紙袋を私に突き付けながら、

 

「中学生男子が!女性モノの下着の店に一人で入る苦悩が分かるか!?どんだけ変な目で見られたと思ってんだコラァ!!」

「いや別に下着まで買ってこいとは言ってないんだが」

「は?」

「私は『女の子用の服とか買ってきてくれ』と言っただけで下着まで買ってこいなんて言ってない」

「……………………」

 

 紅翔がガクッと崩れ落ちる。どうやら勘違いで地獄を見たようだ。ご愁傷さまである。

 

「まぁ、後でなんか奢るよ」

「……………………」

 

 紅翔は真っ白に燃え尽きていた。

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

 項垂れたまま帰った紅翔を見送った後、私は冥土帰しに呼ばれ彼のいる部屋に向かった。

 

「結論から言うと、治療が必要なんだね」

「……まぁ、予想通りだ」

 

 彼女は恐らく妹達(シスターズ)やケミカロイドと似たような存在だ。このまま何もしなければ極端に短い寿命に彼女は殺される。

 

「治せるか」

「僕を誰だと思ってるんだい?」

「……愚問だったな。どれくらいかかる?」

「ふむ……大体夏休みが終わる頃までだね。恐らく彼女を造ったところは設備が整っていなかったんだろう。普通よりは成長のスピードは速かったようだけど、そこまで高速で成長させられたわけではないようだ」

 

 成程と頷きながら、新たな疑問が浮かぶ。その程度の設備も整えられないような組織が、どうやって一方通行のDNAを手に入れたのか、という疑問だ。何かしらの偶然か、後ろに別の組織がいて、そいつらの捨て駒だったのか……

 

「とりあえず、今日から入院だね」

 

 そこで話を終えて、私は彼女の元に向かう。冥土帰しに伝えられた病室の扉を開けば、彼女はベッドに座って外を眺めていた。私に気づいてこちらを向くが、それ以上のアクションは無い。

 彼女はかなり自我が薄い。それこそ妹達なんて目じゃないレベルだ。なんせ今のところ彼女が言葉を発したところを見たところがない。何なら首肯する以外まともな受け答えも無い。

 彼女を例えるなら、真っ白なキャンバスだ。まだ色の無い彼女には自分が自分足り得ると確信できるものを持っていない。その色を持っていない。

 

 だから、私から一つ色をプレゼントすることにした。

 

「ずっとあなたとか、君とかじゃ不便だから名前を考えた」

「…………?」

 

 この子を助けたいというこの正義感は偽物だ。私は木原定理が開発担当になったと同時に、他者を無条件に助けようとする思考回路を植え付けられた。私は上条当麻のように"助けたい"から助けているんじゃない。"助けるべき"と、理由も根拠もなく考えるように精神を開発(・・)されたのだ。

 助けたいという気持ちで私は戦えない。その気持ちで戦えるのは、妹の、涙子のための時だけだ。

 

(だから、これは覚悟だ)

 

 逆に言えば、妹の為なら私は命を賭けられる(・・・・・・・・・・・・・・)。歪な自覚はある。だからこそ私はこの内面が嫌いだ。

 

 嫌いなものを、嫌いなままにしておくのは性にあわない。

 

 故に、私は己自身の内面を真っ直ぐに叩き上げる。その為の布石として、私はこの子を利用するのだ。そして同時に、私が命に代えてでも守る為の名前をこの子に刻み込む。それを、私が本物(・・)に至るための礎にする。

 

「佐天凛子。良ければ、この名を受け取って欲しい」

 

 この子を救うことから、本物(ヒーロー)への道を始めよう。

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

「クヒ、クヒヒヒヒ……」

 

 その白い怪物から、歪んだ笑みが溢れ出す。

 

「ヒヒ、ヒハハハッ!」

 

「ヒヒャハハハハハハハ────ッ!!!!」

 

 狂声。歪んだ精神、歪んだ思考、その全てが歪み切った怪物(木原)は、己の身体を掻き抱きながら笑い続ける。

 

「七年ッ!長かった!!気の遠くなるような道程!!私の『解析』ですら届かない君の行動!!正義の思考を植え付けなお予測のつかない君は!!遂に私では手に負えない領域へ至るため!!その道を進み始めた!!!」

 

 ここにはいない彼女へ、そんな言葉を紡ぎだす。

 

「私の全てを糧に進むといい!!歓迎しよう!!最早君は私の実験動物などでは無い!!」

 

 天に手を掲げ、怪物は高らかに謳う。

 

「貴女を、愛してる」

 

 その狂気が木原と混ざり合う。歪みに歪んだ愛が、解き放たれた瞬間だった。

 




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