いきなり色々すっ飛ばしてますが、本家もこんな感じだったし、多少はね。
さて、ちょっと早いですが後書きにアンケート置いておきます。テーマは「月夜の黒猫団のサチとフィリアを除く男性メンバーの命運」です。どっちを選ぶかで6話以降の内容がガラリと変わってくるので、興味ありましたらぜひ投票入れてみてください。
※9/23 15:00頃一部訂正入れました。
ギルドホームにいる設定だったら、40層じゃなくて30層にいなきゃおかしいですよね。危ない、危ない。
多くの人々に希望を齎した第一層攻略からちょうど一年近く。いまなお、百層突破を目指し奮闘する人々が迷宮区に潜り続けている。時に一人で。時に仲間とパーティを組んで。そして、密かながら俺も迷宮区にギルドメンバーの皆と一緒に潜り続け、生き残るためにレベルを上げることを欠かさなかった。一定に達したところで次の層に移り、そこで迷宮区に挑みモンスターを倒し続け、また一定に達したところで次の層へといったスパイラルリズムを繰り返しながら大分上の層まで上り詰めた。現在の層、第40層に差し掛かっていた。
「えー、皆にもう一度我がギルドの現在の目的を説明します。俺達のギルド《月夜の黒猫団》は当初の目的である《攻略組》への参加と共に我がギルドの戦力強化のため、キリトを我がギルドに招待する事です!」
「いよっ、リーダー!かっちょいい!」
「今どこで何してんだろうなぁ、アイツ」
「頑張ろう、皆。キリト、多分一人でまだ頑張ってると思うから」
それは三ヶ月前の事。ギルド全体の貯金総額が200万コルに達し、念願のギルドホームを購入し、第30層に設立。それを期にさらに勢いを増した《月夜の黒猫団》はギルドの名と共にメンバーのレベルも急上昇を続け、全員の装備も悪くない感じになってきた。
「それにしてもリーダーはともかく、あのサチがねぇ・・・・・・」
「何よぅ、私が強くなったことが不満な訳?」
「いや、そういうわけじゃなくてさ。ただ、どういう心境の変化かなって思っただけだよ」
俺の心境を変え、今の《月夜の黒猫団》が成り立つに至ったきっかけを作り出してくれた彼は今頃何処で何をしているだろうか。もしかしたら俺達よりも遥か上の層に上り詰めて、《攻略組》の一員として途轍もなく強いモンスターと勇敢に戦っているのだろうか。
「ふぅ・・・・・・」
「おっ、おかえり~」
自分の部屋に一人戻った私は安堵の息をつく。すると、部屋のベットの上で寛いでいた親友のフィリアが此方に気付いて手を振っていた。
「もぅ、自分の部屋でもないのに寛ぎすぎじゃない?」
「ケチ~、ここまで一緒に登り詰めた戦友じゃんか」
私は当初、始まりの町から出るなんてこと考えもしなかった。ただただ、死と恐怖に怯えて何をしないで終わるのをひたすら待ち続けただろう。でも、その考えは第一層でフィリアと、そして第一層攻略拠点の街でキリトと出会い、一緒に戦ってからは恐怖はそれ程感じなくなった。
「にしても、第一層の頃から感じてはいたけど、只者じゃないね《黒の剣士》」
「そうかな?でも、そうだとしたらそんな彼の背中を追いかけてる私達も只者じゃなくなるね」
「へへっ、それは光栄だね」
その時のことは、自分でも何だかよく分からなくて、でも嬉しくて。人との交流についても初対面だと私はあまり相手を信頼できない。このネットゲームの世界でなら尚更だ。でも、何だかキリトだけは信用出来たし、初めて会った感じじゃないような気がした。
「それに、私が第一層で初めてモンスターと戦った時に見たあの映像と関係があるなら・・・・・・」
「あー、あのギルド結成後にキリトが来て調子乗って、キリト以外全滅したって奴~?」
「相変わらず酷い事言うなぁ、フィリアは。もしかしたら調子に乗ってなかったかもでしょ」
「まぁ、今ここじゃないどっかで起きたこと気にしても仕方ないしね。今は、意外にも全員生存だし」
あれ以来、特に戦闘中におかしな描写が挟まることは一切なくなった訳だが、1年経った今でもはっきりと鮮明に覚えている。あの映像で自分を守ろうとしてくれた少年もキリトという名前だった。さらに言えば、服装も装備も同じ。やはりあれは単なる偶然ではないのかもしれない。
「そして意外と言えばもう一つ。まさか、私があのヘタレ共のギルドに所属する日が来ようとは」
「そう言う割に、結構楽しんでない、フィリアは」
「まぁね。何やかんやギルドに入った時に得られる恩恵には大分助かってるし。悪くないね」
一時的な繋がりだった事もあるけど、今や攻略の最前線で戦うキリトとはあまり長い事一緒にいることはできなかった。それで、ケイタが頼ったのがフィリアだ。普段は犬猿の仲と言えど、お互いに実力を認め合っている、か。いいよね、そういう関係性。
「ねぇ、キリトは今何処で何をしてるのかな?」
「さぁね。最前線で頑張ってるかもだし、あの時みたいにフラフラ寄り道してるかもだし」
2023年2月23日 17:30 《アインクラッド》第35層・ミーシェ
「君はMMORPGは《ソードアート・オンライン》が初めて?」
「はい・・・・・・」
「どんなゲームでも人格の変わるプレイヤーは多い。中には進んで悪人を演じる奴もいる。俺達のカーソルは緑色だろ?犯罪を行うとカーソルはオレンジに変化する。その中でも殺人を犯したプレイヤーはレッドプレイヤーと呼ばれる」
「・・・・・・・っ!?人殺しなんて・・・・・・」
宿の中の一番端のテーブル席。そこで黒一色で装備を固めた男と男なら誰でも一度は守ってやりたくなるような容姿をした少女が向かい合って話をしていた。男、そうキリトは今ここにいた。《月夜の黒猫団》のメンバー達が行方を追っている間に彼はある筋からの依頼を受け、ここ35層まで《攻略組》の面子でありながら降りてきたのである。そして、そのついでにフィールドで出会った少女の手助けをしてやることにしたのだった。ここで起きた出来事は少女を成長させた、しかし、これはまた別のお話である。
2023年2月23日 17:45 《アインクラッド》第30層・《月夜の黒猫団》ギルドホーム
「リーダー、新しい依頼届きましたぜっ!」
ダッカーが何処からか何通もの手紙を持ってきてこちらに渡す。依頼ポストにたまっていた依頼の内容が書かれた手紙を全部持ってきたのだろう。大概が30層付近又はそれより下の迷宮区でのモンスター討伐だったり素材集めだったりするので心配はないのだが。
「そうか。ん~、ここの層付近なら誰がソロでも大丈夫だな。誰か、手空いてる奴いないか?」
「あぁ、なら俺が行ってくるよ」
そう言って立候補したのがメイス使いのテツオだった。《月夜の黒猫団》団長である俺の右腕的存在でチームのまとめ役だ。出来れば残って指揮を頼みたいがこの忙しさだ、仕方ないだろう。
「それじゃあ、テツオ、任せたよ。もしもの為に、ポーションと転移結晶予備に多く持って行けよ」
「分かってるって。じゃ、いってきまーす!」
自分のアイテムストレージの中身を整えた後、すぐさまテツオが出かけていく。それに続いてササマル、ダッカーも複数の依頼を受け、出かけて行った。残っているのは俺とサチの二人だけ。そういえば、さっきからサチが自室に戻ったっきり帰ってこない。様子を見てから俺もクエストに出よう。
「おーい、サチ?」
「ケイタ?」
ドアをノックして呼びかけてみると、サチが呼びかけに応じてくれた。俺はそのまま扉を開けて中へ入り、サチの座っている椅子の向かい側の椅子に座る。別段、サチの様子は普段通りだった。そして、サチの隣にはフィリアもいた。
「俺もクエストでるけど、サチとフィリアはどうする?」
「私?う~ん・・・・・・私は後で行こうかな、ここでもうちょっと考え事したいから」
「私もパス。私がサチ以外の為には動かないの、知ってるでしょうよ?」
「偶には、俺達と行動してくれてもいいんじゃないか」
「お断りします~ぅ」
「はぁ・・・・・・そう言うと思ったよ。じゃあ、先に行ってるな」
腰掛けていた椅子を離れ、静かに部屋を出る。終始サチは俺と話していながらもまるでどこか遠くを見つめていた。この一年近くで彼女は変わっていた。このゲームに閉じ込められた時は顔を真っ青にして街の中に引きこもっていた臆病な彼女はもうここにはなく、今は己が強さを磨くために懸命に歩を進めている・・・・・・そんな表情を浮かべていた。その真っ直ぐな瞳は常に自分たちではなく、あの第一層攻略の際に出会ったキリトという一人のプレイヤーを見つめている。まるでその少年こそ自分が目指す強さの先にあるものだと言わんばかりに。
――ケイタが部屋を出ていく。不意に私は視線を窓の向こうへと移す。臆病だった私に初めて戦いへ踏み出すための勇気を与えてくれたあの日の彼。この一年、彼を目標に様々な試練を黒猫団の皆と乗り越えてきた。せめて彼ともう一度出会う時まで、彼と背を合わせて戦えるようにならなければ。
「よし、行こう・・・・・・!」
「久々のクエストだね、燃え滾ってきた!」
私は新たな槍を装備して、フィリアと共に部屋を出た。自分と彼に負けないために私は進まなゃいけないんだ。
2023年2月23日 19:20 《アインクラッド》第40層・迷宮区
『シギャアァッ!!』
「はぁぁぁぁぁぁっ!!」
『ギャアァァァァッ!?』
『ガァァァァァッ!!』
「やぁぁぁぁぁぁっ!!」
『グゴォォォォォ!?』
虚空に響き渡る剣戟と魔物達の断末魔。複数の敵に囲まれていようと彼女にとってそれはほんの些細なこと。他の時間軸において彼女は幾度となく魔物の大群が待ち受けている部屋・・・・・・所謂モンスターハウスと呼ばれる場所で殺された。だからこそ、この彼女自身がそれを経験したことがなかったにしろ、それらの経験を直接見たからこそ出来る芸当なのだ。
「ごめん、フィリア。そっちに一匹行った!」
「オッケー、任せて!」
数体の魔物に攻撃を行うと同時に残りの魔物たちの動きを的確に捉えて、柔軟に躱す。そして、瞬時に標的をそれに変えて吹き飛ばし効果のあるソードスキルで再び壁際まで弾き飛ばして距離を取る。その恐るべき反応力の速さ、まさに《彗星》。
「そんでさー・・・・・・って、おぉっ!見ろよ、あれが最近噂の《彗星》だぜ!?」
「マ、マジかよ・・・・・・動きが俊敏すぎてヤバイな」
「あれでβテスターじゃないってどういう事なんだよ、強えぇ・・・・・・」
彼女の周りにはたまたま同じエリアに探索に来ていたプレイヤーたちがどんどん群がってきて、いつの間にかギャラリーが出来上がっていた。
「ふぅ・・・・・・この依頼内容はこれで完遂かな。えっと、次は――」
「「「サチさーん!!ちーっす!」」」
「――えっ、あっ、わわわっ・・・・・・!?こ、こんにちは」
「ひゃあぁぁぁっ、サチさんに気づいてもらえた・・・・・・!」
「バカヤロ、サチさんは俺の方を見てたんだよ!」
「何言ってやがんだ、お前みたいな奴の顔をサチさんが見るわけねぇだろぉ?」
サチが仕事を終えて周囲の様子に気がつくと最近はこんな感じの雰囲気が続いていた。だが、彼女は特に不快には思ってなく、むしろアイドルになったかのようなもてなし具合にビックリして少し嬉しいと感じているくらいである。
「はいは~い、見世物じゃないよ、散った散った~」
奥で鍵がなければ開かない仕様になっていた宝箱を物色していて、一時的に別行動になっていたフィリアが戻ってきた。そして、サチの周辺に群がる男たちを引っぺがして先に進もうとしていた。
「おぅ、そうしたら何かキリトのやつとまさかの再会でよー・・・・・・って、そこにいるのもしかしてサチちゃんじゃねーか?うおーい、サチちゃ~ん!」
すると、サチを見に来たギャラリー陣の少し後ろを通過しようとしていた野武士面の男がふと足を止め、彼女を呼んでいる。サチはそれに気づくと直ぐにフィリアと合流し、ゆっくりとその人物の元へと近づいていった。
「えっ?あ、クラインさん、ご無沙汰してます」
「おぅ、久しぶりだな!いやぁ、こんな可愛い女の子に挨拶されるようになるとは俺も罪な男だぜ、へへへっ!」
「あ、あははは・・・・・・(汗)」
この男はクライン。第一層の始まりの街において最初にキリトに声をかけたプレイヤーである。第一層攻略の際は攻略組に参加しなかったものの、お付きの仲間達とギルド《風林火山》を作り上げてからはメキメキと実力を伸ばしていて、今はもう最前線攻略組の一員でもある。
「久しぶりじゃない、野武士面。私一応可愛い女の子なんだけど」
「いやぁ、初対面でいきなり人の首元に短剣突き付けた奴を女性と見ろって方が無理だろ」
「へぇ、言うようになったじゃない。何なら、もっかいやってあげようか?」
「はい、戯言はそこまで」
クラインとフィリアの言い争いが勃発しそうになったところで、前方から声が聞こえたかと思うと次の瞬間、クラインの首元にはひと振りのレイピアが寸止めされていた。細剣《ランベントライト》。この剣を扱い、誰よりも俊敏で正確な一撃を放つ人物はこの世界の中で彼女しか存在しない。
「あの~、ア、アスナさん?何を怒っていらっしゃるんですか、ねぇ?」
「別に。ただ、知り合いが変態ストーカーナンパ男さんになられても困るから早めに芽を積んでおこうと思っただけのことよ?」
明らかに激怒しているような赤いオーラを背に纏いながら、満面の笑みを浮かべている端正な顔立ちの女性。そう、彼女こそかの有名なギルド《血盟騎士団》復団長、別名《閃光のアスナ》その人である。
「サチ、フィリア、怪我はなかった?」
「あ、えと、と、特にないから大丈夫だよ?」
「私も大丈夫だよ~」
「なら良かった、何かされてからじゃ遅いものね。せっかく登場した面木も丸潰れになるかもだし」
「とほほ・・・・・・俺は一体、何だと思われてんだよ」
彼女とは第一層攻略の場において、キリト、ケイタ共にパーティを組んで戦った仲である。それ以来、直接顔を合わせてはいなかったが、たまに通信を取りあっていた事もありサチとは良き友人のような関係になるに至ったのである。
「それにしても最初見た時よりも随分と印象が違くなったわね、貴方」
「えぇ~、そうなんです、かね?私的にはあまり実感とかないんだけど・・・・・・」
「駄目、もう少し自分に自信を持って。レベルだっていい線いってるし、謙遜しなくて大丈夫よ?」
サチからすれば実の姉のような頼れる存在と言えるだろう。現に先程のサチの戦闘スタイルが完成するに至ったのはアスナの指導あってこその事だった。
「フィリアもさっきの戦闘はいいフォローだったわね」
「へへっ、まーねー」
「いいなぁ、フィリアみたいな優秀なトレジャーボックス開封要員がいれば、下の方まで良い装備が届けられるのに・・・・・・」
「いやぁ、流石に大規模ギルドなんだからそこは気にしなくて大丈夫でしょ」
近くに団員を配備した状態で、そんな愚痴を漏らすアスナ。実際、彼女の所属する大規模ギルドの《血盟騎士団》は上位プレイヤーには充実した装備が行き渡っているが、下位プレイヤーにはあまりその恩恵がなかったりもする。心優しい彼女はそれを不満に思っているのだった。
「副団長、そろそろ時間です」
「わかってるわ。それじゃサチ、フィリア。次までお互いに話したいことはとっておくってことで、ね」
「ありがとう、またね」
「ばいば~い」
アスナは話を切り上げると後ろに続く兵団に号令をかけ、回廊結晶を取り出し、血盟騎士団全ての団員共々別エリアへと転移していった。そして、途端にざわついていた空間が元通りの静けさを取り戻し、辺りが静寂に包まれた。
「・・・・・・副団長サマは忙しいねぇ」
「大変そうですね。でも、少し憧れちゃいます」
「ここで黙って突っ立てても何だからクエスト手伝うかい、サチちゃん?」
「そうですね・・・・・・今日受けたクエストの中で一番難易度が高いものなんですが」
サチはメニューを表示して、指定したクエストの内容をクラインへ見せる。クラインは一瞬顎に手を置き、何かを考えるような仕草を見せてから、サチに向かってOKのサインを出した。
「いよぉーし!おい、お前ら!もう暫くサチちゃんのクエストに協力してから解散にしようぜ!」
「「「「おぉぉぉー!!」」」」
普段、むさい男同士で集まっているだけあってクラインの取り巻きたちは直ぐに賛成の意を唱え、次々と後に続いた。この団結力を前に流石のサチであっても軽く引いてしまったが、協力を求めたのは自分の方だからということで律儀にもその感情をグッと抑えていたという。
「クラインさん達はもう攻略組の一員なんですよね。どうなってるんですか、攻略組の内部って」
「ん~、なんつったらいいのかねぇ。やっぱここでゲームオーバーになれば現実でも死んじまうっていう薄気味悪い事実にプレッシャー異常に感じまってるせいで雰囲気は良くないかもなぁ」
「・・・・・・私たちから見た攻略組とは大分違う感じですね。もっとこう、ゲームクリアの為に必死になりながらも皆で支え合ってるものだと思ってました」
「まぁ、現実は厳しいよね。いやぁ、うちのギルドにも理想的な攻略組を想定している馬鹿がいるもんだから困ったものだね、全く」
この場にケイタ達がいなくてよかった。そう私は思った。ケイタ達が話しているのはあくまで《攻略組》外部から見た理想的な組織としての姿。だけど実際は負の感情に包まれながらも重苦しい空気の中で戦い続ける、戦闘集団。こんな事実、ケイタ達だったら絶対に耐えられないかもしれない。
「キリトは・・・・・・今もその中に交じって戦っているんですか?」
「あぁ、階層ボス攻略には参加してるぜ。ただ、そのボスの部屋を見つけるまでの間、階層を降りたり登ったりで何かやってるみたいなんだ」
「私はまたキリトと一緒に戦いたい。だからアスナの指導を受けてここまで強くなりました」
それが私の中にある今一番強い想い。第一層にいた時、まだ死への恐怖に怯えて全てから逃げ出していた私に戦う覚悟をくれた人。あの人の背中はいつも少し寂しそうだった。出来るなら、もう一度あの優しい背中を預かって戦ってみたい。
「けっ、キリトの奴が羨ましいぜ。こんな可愛い子にそこまで思わせといて姿を未だ見せていないたァ冗談がすぎるぜ」
「・・・・・・」
「大丈夫さ、サチちゃん。恐らくあいつも何か考えることがあってのことだから顔を出さないだけかもしれねぇし、よ。これでも俺はキリトの野郎とはゲーム開始直後からの仲だからな、へへへっ!」
そう言ってクラインさんは私に向かって自慢げに笑ってみせた。うん、大丈夫だよね。それにまだ私のレベルじゃ最前線は無理そうだから。その楽しみはもう少し後のお楽しみってことでとっておこう。
『シギャァァァァァァァッ!!』
「・・・・・・ッ!?」
「うおっと、サチちゃんのクエストのボスモンスター様がお出ましだぜ、おめぇら行くぜぇ!」
「「「「おおおおおおおおおっ!!」」」」
突如、目の前に現れた私の受けたクエストのボスモンスター。ガイア・トレント、レベル50。今の私と同等のレベルだ。一人でなら苦戦しそうだが今はフィリアとクラインさん達がいる。大丈夫、やれるはずだと自分に喝を入れ、モンスターに攻撃を仕掛けた。
「《ヘリカル・トワイス》!」
まずは、ボスモンスターの周囲に出現した取り巻きを範囲技で巻き込みながら、一掃。ボスモンスターの周囲がガラ空きになったところをフィリアとクラインが左右から同時に攻める。
「《インフィニット》!」
「《ダンシング・ヘルレイザー》!」
サチ、フィリア、クラインがボスに食いついたことを確認した《風林火山》の面々は周囲にリポップし始めた取り巻きを引き付けて、三人の邪魔をさせないとばかりに立ちはだかる。そして――
「スイッチ、行くぞ、サチちゃんよぉ!」
「はい!・・・・・・フィリア、行くよッ!」
「分かった、アレだねっ!」
「「合体連携奥義・・・・・・《シューティング・ブラスター》!!」」
『グゴォォォォォォォォォッ!?』
ボスモンスターの繰り出す一撃一撃を躱し、大技後の長い硬直時間を狙い、二人が放つは、最近になって情報が公開された《合体連携奥義》。使用するにはチームとの息の合ったプレーが必要とされるが、それを意識しなければならない程、サチとフィリアの連携は薄っぺらいものではない。
此処の階層に辿り着くまで、幾度となく共闘してきた彼女達の連携は、キリトとアスナが組んだ場合と全く同等のレベルまで研ぎ澄まされていたのだ。そして、そんな彼女達の猛攻にボスモンスターは成す術なく、断末魔を上げ、消滅した。
『Congratulation!!』
「「やったぁ!!」」
「へっ、二人とも強くなりやがったなぁ。俺達すっかりお飾りじゃねぇか」
クラインの言葉に《風林火山》メンバー全員がうんうん、と何度も頷いた。まるで、自分の娘たちの成長をこの目で見た父親のように。
「そんな事ないですよ、クラインさんたちのサポートがあってこそ出来た事ですから」
「うん、悔しいけどサチの言う通りかも。流石、攻略組最前線で張ってる面子は格が違うね」
「へへっ、んな事たぁ・・・・・・あるけどよぉ?」
女性陣二人に持て囃されて調子に乗ってしまったクラインが、いつもの悪い癖を発動させる。個人的にはいいタイミングでサムズアップを決めた、とでも思っているのだろう。勿論、こうなってしまっては気持ち悪さにとどめが聞かないことを知っているメンバー達は黙秘を貫いた。
「あ、ほら、またすぐそうやって調子乗る。そういうところがなければモテそうなのにね」
「あ、あはは・・・・・・」
そして、こういう時は必ずフィリアはズバっというタイプだ。一方サチはと言うと、他人に気を遣い過ぎるが故に、苦笑しかできなくなってしまった。
「あんだよ、俺的には決まったと思ったのによー。こういう時のキリトと俺の何が違うって言うんだよ」
「キリトはああ見えて謙遜してる方だし、何か純粋に可愛いよね。ジャンルが違うんじゃない?」
「可愛い・・・・・・うん、フィリアの言う通りかも。何か気になっちゃうよね」
「うえぇぇぇ、サチちゃんまでキリト派かよー!?そりゃあねぇぜ・・・・・・」
対立候補に出したキリトに擁護の手が回ったことに気を取られたせいで、肝心の話の中身は聞いていないクライン。これもまた彼の悪い癖の一つである。可愛い、と女性に評されることがキリト程の何とかして格好つけたい年頃の男をどれほど傷付けるか。その事実を知る者はこの空間には誰一人としていなかった。
「ちぇー・・・・・・おっと、まぁ、しかしだ。サチちゃんの今回の目的は無事達成できたみたいだが、これからどうするんだ?」
「えっと、私達は一回ギルドホームに戻ります。ね、フィリア」
「そうだね~、一回アイテムボックスの整理とかもしれおきたいし。今日はもう遅いしね」
時刻を確認すると、先程から大分時間が経過し、21:00を回っていた。そろそろ帰投して、夕食をとらねば腹が減って仕方ない時間帯だ。
「そっかー。まぁ、飯にもありつかねぇといけねぇわけだしな。んじゃ、またなサチちゃん」
「はい、お疲れさまでした~!」
「「「「「お疲れさまでしたーーーーー!!」」」」」
クライン達とパーティを解散し、サチが笑顔で見送るとクライン共々、《風林火山》のメンバー達は少し離れたところでとどまり、大きめの声で労いの言葉を口にし、深々とお辞儀した。流石のサチもこれにはまた若干引いてしまったのは無理もない。
それから、フィリアと共に迷宮区を脱出した私は、ケイタ達の待つギルドホームへと戻り、漸くの夕食にありつけた。そして、その翌日。その日は、予定通り起床できるようにアラームを設定していたが、そのアラームが鳴るより先に誰からかコールが入った。予定より少し早かったが私はすぐに起き上がり、呼び出し人の名を確認する。そこには昨日の迷宮区で少しだけ話した友達のアスナの名前があった。珍しいこともあるものだと思いながら、私は急いでギルドホームの外に出ると、迷わず通話ボタンをタップした。
『もしもし、サチ?』
「あ、もしもし。何かあったの、アスナ」
『・・・・・・少し急ぎで伝えたい要件があるの、いい?』
「う、うん」
何だろう、いつもと少し様子が違う。何か焦っているような不安に駆られているような、そんな感じ。ギルドの皆に悟られないように、極力声を忍ばせて、アスナの次の言葉を待った。
『実は最近、《黒いPC》っていう奇妙な噂があってね。聞いたことある?』
「ううん、そういう噂は聞こえてこないけど」
『そっか。じゃあ、最初から説明するね』
アスナによれば、その噂はこんな感じだった。何でも、それらしきPCを見つけたという人曰く、ゲーム開始当初から今までに死んでいったプレイヤーそっくりの容姿をしているらしく、傍から見ると少し黒味がかかっている以外はほぼそのままの姿らしい。で、その人は運良く途中で怪しいと思って近づかなかったから良かったものの、その人の後に知り合いに似た黒いPCを追っかけて行っちゃった人がいて、その人の友人が言うには、その日のその時以来、その人を幾ら探しても見つからなくて。コールもしたけど一向に繋がらなかったみたいで、今でも色々な方法を使って捜索中なのだとか。
『それで、その証言からある仮説を立てたんだけどね。どうやらその黒いPCに遭遇して、後をついていくと行方不明になっちゃうらしいの』
「えっ、ってことはもしかしてその友達の人はまだ帰ってきてないって事?」
『えぇ、残念ながら。一応、その道のプロにも依頼してみたけど、全く居場所が掴めないんだって』
さらにその話には続きがあった。それはその友人が行方不明になってから、数か月後の事。頼みの綱の捜索隊も打ち切りを決め込み動かなくなった頃、突然その友人が第24層の草原エリアに現れたのだと言う。彼を探し続けた友人は彼に話しかけようとした。しかし、そこである事に気付いた。そう、彼もまた黒いPCとなっていたのである。時を同じくして、第1層の始まりの街にある、死亡したプレイヤー名がびっしりと書かれている、教会の中の大きな石板の中にいつの間にかその彼の名前が書きこまれているのだった。そして、その彼が死んだ日付が。
『黒いPCに接触して付いて行って、友人と別れて十数分後経った後の時間だったみたい』
そう、もうすでに彼は死んでいたのだ。あの日、共に行動していた友人と別れ、知り合いそっくりの黒いPCに付いて行った直ぐ後に。
『でも、この話は不可解な点が多いんだよね。まず最初にその彼の名前が書かれた《犠牲者の石板》についてなんだけど。本来ならあそこ、PKされたり、モンスターに倒されたりすると一秒の誤差もなく記録されるはずなのよ』
でも、彼の場合は違った。彼の名前は草原エリアで彼とそっくりの黒いPCが目撃されるまで石板に一切書かれるようなことはなかったらしい。否、実際に言えばそういった事例で石板に名を刻んだプレイヤーは彼だけではなかったようで、少なからずいた。その全員に共通する点が、何れも黒いPCに付いて行ったという事である。
『それで、今、その黒いPCの調査が《血盟騎士団》に依頼されててね。過去に目撃されている場所に私がいるわけなの』
「それって、本当に大丈夫なの、アスナ?嫌だよ、私、アスナが行方不明になっちゃったら」
アスナの話を聞いてからというもの、私は正直嫌な予感しかしなかった。以前、始まりの街で私が街の外に感じていたのと同じ不安が再び私の心を支配する。
『大丈夫、と言いたいところだけど、他の騎士団員も血眼で探してるみたいだから、あまりここでは気軽に口にはできそうにないかな。でも・・・・・・』
『私は、貴方を最前線で迎えるまでは死ねないから』
「うん、分かった・・・・・・約束だよ」
『えぇ、約束』
通話越しにでも分かるくらい、アスナの肩の荷が少し軽くなったかもしれない事を感じた。うん、アスナならきっと大丈夫なはずだ。だって、私より一回りも二回りも・・・・・・それこそ、キリトと同じくらい強いんだから。
『それじゃあ、そろそろ切るわね。まだ確証はないけど、サチも気を付けて』
「うん、それじゃあ、またね」
『ん、またね、サチ』
そのやり取りを最後に、アスナとの通話が切れる。私はメニュー画面を閉じて、そのまま草むらに倒れこむ。
「黒いPC、かぁ・・・・・・」
胸を過ぎるこの一抹の不安を、私は今、抑えることが出来ずにいた。
To be continues…
~次回予告~
大規模ギルド《血盟騎士団》に届けられた、一般プレイヤーからの多数の調査依頼。そして、その標的はSAO内を密かに騒がせている《黒いPC》についての調査任務だった。次回、ソードアート・オンライン-青き少女の証明-第三話「Knights Of Blood」。突如として起こりうる変動は、世界の意思か。はたまた、何者かによる介入か。物語はまだ動き始めたばかりである。
現在、原作主人公なのにMORE DEBAN状態のキリトさん。
この話で初登場したオリジナル要素の《黒いPC》。元ネタは.hack//G.U.のドッペルゲンガーです。元ネタの方だと本人の死亡とかは関わってこないんですが。今の段階では「稀に出現する奇妙なPC」(※ここでのPCはプレイヤーキャラの略称です)、と言う訳です。
次回からは出来上がり次第の更新を予定しております。乞うご期待。