百錬オルガと同じく月一で更新行く方針にしました。他二つもよろしくね。
パソコンのある日常
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百錬オルガ
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2024年10月26日 13:29 《アインクラッド》第65層・迷宮区 神殿エリア
『『『『『『ァァァァァァァァァァァァァ・・・・・・!!』』』』』』
「総員、突撃ッ!」
「「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」」」」
黒いPCの強襲騒動から9日後の事。ギルド《血盟騎士団》のアスナ班は装備と人員の一新を以って、突如フィールド一体の空が赤く染まったという情報のある、第65層の迷宮区へと足を踏み入れ、課された任務の続行を図った。
小隊長のアスナを筆頭に、一行は神殿エリアの奥へと進んだところで、その場で無限増殖を繰り返す黒いPCの群れと遭遇。すぐさま、戦闘行為を開始し、現在に至る。
「先輩、スイッチ、行きます!」
「あんまり無茶しないでね、キリノ。・・・・・・スイッチ!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
《閃光》のアスナと《隼》のキリノが息の合ったコンビネーションを見せつつ、群がる黒いPC達を瞬く間に殲滅していく。なおも湧き出る黒いPC達。
風を纏い、空を跳び、大地を駆ける。この戦場で繰り広げられている、息をも付かせぬ激戦の連続。それは見る者達を圧倒し、彼らに勇み足を与える。
「我らが小隊もアスナ班に続け、遅れるでないぞ!!」
「「「「了解しました!!」」」」
「入隊歴の浅い小娘共にばかりいい思いをさせるな、全軍突撃せよぉぉぉぉっ!」
「「「「我等、ギルド《血盟騎士団》第6部隊!面壁九年、堅牢堅固!!」」」」
今まで見たこともない異様な光景を前に、後れを取っていた他部隊に漸く出陣の合図が掛かる。此処に、白き鎧をまとう騎士達と黒いオーラを纏いし人ならざる者達の死闘が始まった。
「キリノ、さっき見たっていう大群を指揮してるっぽい人影って、今どこにいるか分かる?」
「はいっす、此処から真っ直ぐ向かって5時の方角、その中心部にまだ留まり続けてます!」
「分かった。それじゃあ、一気に距離を詰めて、敵の指揮官を優先して撃破しましょう。サポート、お願いできるかしら」
「了解っす!指揮系統がなくなればきっと、この間見たく増殖しなくなるはずです!」
一方、アスナとキリノはそんな他小隊の者達の事など一切気にすることなく、キリノが黒いPCが増殖し始める前に見たという指揮を行っている黒い影を追っていた。幾ら圧倒的な集団性を持つ敵でも指揮系統に狂いが生じれば、場に混乱が生じるのは必至だ。故にそこを一気に付く、つもりのようだ。
「《アクセル・スタブ》!」
「《スター・スプラッシュ》!」
この先へは行かせまいと次々と立ちふさがる黒いPCを、切っては捨て、切っては捨てて行く。そして、彼女たちの見据える先に、例の指揮官らしき人物の姿が飛び込んできた。
「先輩、奴を肉眼で捕らえました、いつでもどうぞっす!」
「えぇ、私も確認できたわ。これで終わらせるわよっ・・・・・・《シューティング・スター》!!」
キリノがアスナにありったけのアイテムでバフを与えて、アスナはそれらを受け取り《リミット・オーバー》でバフ時間を延長し、突撃系のソードスキル(後、省略しSSと表記する)を使って接近し、その相手に手に持った細剣を突き付ける。
『――それでは、これより第1層攻略会議を始める!』
『ここで俺が言うべきことはたった一つ。皆、勝とうぜ!』
『ぐっ、ぐあぁぁぁぁぁぁぁ!?』
『済まない・・・・・・後の事は、任せた・・・・・・』
この勝負、勝った。《閃光》のアスナが、敵の指揮官への奇襲を成功させた。この報告を受け取ったその場にいる誰もがそう勝利を確信した。だが――
「そんなっ、貴方は・・・・・・!?」
『・・・・・・』
その指揮官と真正面で向き合った、アスナの動きが止まった。今までのように見ず知らずの人に化けた黒いPCではない。その人物は、デスゲーム開始当初から階層攻略に加わっていた人物なら知らないことはないといわれた彼のものだった。
「ディアベル・・・・・・さん」
「・・・・・・」
ディアベル。かつて、キリト、アスナ、エギル、キバオウ等と共に第1層攻略に果敢に挑んでいった人物だ。元βテスターとして、元々仲の悪かったβテスター組と一般プレイヤー組の因縁を取り払い、理想の攻略組の骨組みになると期待されていた人物だ。しかし、その彼は第1層のボスであるイルファング・コボルトロードのβテスト時とは異なる攻撃によって命を落としている。だからこそ、普通であれば此処にいるはずがない。
『・・・・・・』
「かはっ・・・・・・!?」
「そんな・・・・・・先輩が・・・・・・」
ドシュッ、と音がして、黒の騎士の剣は、彼女の腹部に深く突き刺さる。一時の心の隙を突かれたアスナは、反撃することも叶わず、そのまま地面に倒れ伏した。
『殺ス・・・・・・』
黒の騎士はそう一言呟くと、何処からともなく先程アスナに突き刺した剣と同じ剣を取り出し、《閃光》の首元を切り裂いた。頭部が転がるわけでもなく、血も出ない。ただその光景は周囲の者達を絶望させるには十分だった。
「先輩ーーーーーーーーーーーーッ!!」
キリノの悲痛な叫びも空しく、彼女の身体は淡い光の結晶となって砕け散った。そして、その瞬間、その場にいた全ての《血盟騎士団》団員達の戦意があっという間に削がれる。
『帰還スル・・・・・・』
同時に、彼女の死を以って興味を失ったらしい黒の騎士は、黒いPC達に号令をかけ、彼らと共にその場から姿を消した。
『2024年10月26日13:35 ギルド《血盟騎士団》副団長、《閃光》のアスナ、死亡』
各層の攻略会議場に号外として張り出されたその訃報は、多くの者を悲しみに陥れ、攻略組の最前線を担う者達からも希望を奪った。
そして、その翌日。そんな《血盟騎士団》に追い打ちをかけるかのように、団長のヒースクリフが突如として行方不明となる。有志やメンバー達による懸命な捜索も空しく、2024年10月30日、ヒースクリフ団長の行方捜索が打ち切られるとともに、ギルド《血盟騎士団》はその活動を停止した。当然ながら、階層攻略も直に攻略されるはずだった第74層のボス部屋を目の前にして攻略が一時断念される形となった。
2024年10月31日 8:40 《アインクラッド》第55層・グランザム 《血盟騎士団》本部・跡地
「・・・・・・」
そして、その訃報が伝えられた5日後の事。活動を停止し、ギルドホームの役割を果たすことがなくなった《血盟騎士団》の本部は解体され、すっかり更地となったそこに一人の少年が座り込んでいた。黒剣《エリュシデータ》を背負い、全身を黒い装備で固めたPC。そう、彼こそ《黒の剣士》キリトである。
「キー坊・・・・・・」
そして、そんな彼の近くに歩み寄って話しかける人物が一人。キリトのβテスト時からの知り合いで情報屋のアルゴだ。普段は滅多に表通りに姿を現さない彼だが、アスナの死を受けて立ち直れずにいるであろう彼を心配して出てきたようだ。勿論、いつもの正体を隠すための羽織物を被った状態ではあるが。
「アルゴか、アスナの事ならもう聞いたよ」
「うん、未だに信じらないけどネ」
事実として、第1層攻略時からキリトはβテスト時に他の誰も登ったことのない階層までたどり着いた経歴があるが故の知識量の豊富さを他人から妬まれ、大勢のヘイトを買った。
しかし、当時彼と行動を共にしていた、《閃光》と呼ばれる異名が付く前のアスナは、その対極を行く存在として崇められることになった。
「すまん、暫らく一人にしてくれないか」
嫌われ者ではあったが、そんな自身と同じ強さを持つ彼女の存在に、心奪われていたのはキリトも同じだった。だからこそ、あんなに強いプレイヤーがまさかここで脱落するなどとは夢にも思わなかったのである。
「アーちゃんの事は残念だが、変なコトは考えるんじゃねーゾ、キー坊」
「・・・・・・」
キリトの言葉を受け、考えうる最悪の選択肢を選ばせないように忠告をすると、アルゴはそのまま町の裏路地へと姿を消した。それと同時にキリトはその場から立ち上がり、別の場所へと向かう。もし、彼女がまだ生きていたのなら、自分がここで止まるのを望みはしないだろうと。そして、なにより、彼にはもう一つ気になる事があった。
「こんな時だってのに・・・・・・ヒースクリフ、アンタは何を企んでるんだ」
彼の狙いは、急に行方をくらました《血盟騎士団》ヒースクリフに向けられていた。前々から彼が他のプレイヤーとは何かが違うと睨んでいた彼は、自分のギルドの精鋭中の精鋭の死亡が伝えられた翌日に、その男がとった突然であまりに不可解な行動に、疑問を覚えていたのだ。
「それに茅場明彦・・・・・・アンタはまだこの後に及んで、ただの傍観者でいるつもりなのか」
このゲームに今起きている異常事態、恐らくこれはゲーム制作時には考えられていなかった仕様。ならば、このゲームの開発者であり、態々アーガスから権限を全て奪ってまでこの世界に入り浸ろうとした彼が、この他人からの侵略と思わしき事態を放置するはずがない。
「俺は・・・・・・どうするかな」
そして、この時の彼は不思議と冷静だった。それはきっと今の彼自身にも分かっていない事だろう。ただ、何故か無様に取り乱すことはなかった。同時に、今の現状ではまだすべてが見えているわけではないという事。ならば、己が成すべきことはただ一つ。彼女、アスナの分まで戦い続けるだけだと、強い気持ちを胸に秘めて。
2024年10月31日 9:00 《アインクラッド》第40層・アルハイム
「そんな・・・・・・嘘、嘘だよね、アスナ・・・・・・」
場所は変わって第40層。アスナの訃報がギルド《月夜の黒猫団》のいるこの層に届いてから、サチは失意のどん底にいた。
「ぐすっ・・・・・・約束したじゃん、約束って言ったじゃん私・・・・・・なのに、なのにッ!」
あんなに強かったアスナが負けた。しかし、それよりもこの前自分はダッカーに励まされて、前線で戦い続けるキリトとアスナの力になりたいと思って、レベル上げを頑張った。だが、結果はこのザマだ。守ると決意したその友人は自分が追いつく前にその命を散らしてしまったのだ。サチにとって最早、これ以上の絶望と屈辱を味わう出来事が他にあるだろうか。いや、ない。
「「「・・・・・・」」」
「ひぐっ・・・・・・う、ううっ、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
サチとアスナの交流は知っていたものの、それ以上の事は何も知らないケイタ達はサチの泣きじゃくる姿を見て、こんな自分達が何と声を掛けたらいいかわからず、只々、心配そうに見つめる事しかできなかった。ダッカーとフィリアを除いては。
「いいのかよ、こういう時こそサチと同じく、アスナとも交流のあるフィリアが宥めたりするもんだろ」
その頃のダッカーは、自分の部屋に籠り、黙々と鍛冶作業に勤しんでいた。フィリアはその部屋の中で壁に寄りかかり、ダッカーの作業を黙って見つめる。そんな彼女の姿に煮えを切らして、ダッカーは作業する手を止めることなく、フィリアに話しかける。
「私もあったとはいえ、サチ程交流があった訳じゃないし・・・・・・」
ダッカーの問いにそう返した彼女も、心の中ではこれで本当に正しかったのか、とまだ迷いの中にいた。親友である自分が、悲しみに暮れる彼女に、いの一番に声を掛けるべきなんじゃないだろうか。だが、幾ら取り繕ったところで、彼女が本当に求めている回答が出るはずもない事も分かっている。
「それに今サチに必要なのは慰めじゃないと思うんだ」
こんな風に軽々と口にできる自分が嫌いだ。でも、今はこの判断が正しいと信じたい。ゲーム開始直後の打たれ弱い彼女なら耐えられたものではなかったのだろうが、今の彼女は強い。だからこそ、そんな強い彼女を信じるのも長年一緒だった親友の務めであると言い聞かせた。
「そういうもんか・・・・・・ふーん」
その言葉を聞いても、ダッカーは特に気にも留めずに一心不乱に作業を熟し続ける。何が彼をそこまで駆り立てるのか、それはこの間のサチを慰めた時に、彼女とした約束があったからだ。
「・・・・・・(俺もケイタ達と一緒でサチが《閃光》のアスナとどういう交流をしてきて、どんな絆を紡いできたかは知らない。けど、だからこそ、言葉に出すよりやるべきことが他にある)」
自分がログイン時に見た彼女と、最近の彼女では明らかに心の変化による差がある。そう気づいていた彼は、『そうだろ、ダッカー』と自分に言い聞かせるように握っていた槌に力を籠める。
「・・・・・・(確かに仰ぐべき師は失った。けど、今の彼女には俺達もいる、それに俺と交わしたもう一つの約束もある。だから絶対に逃げることはしないはずだ)」
だったら俺は、その約束を果たすためにやるべきことをやるだけだ。それに、今行動に移さなければ後で絶対に後悔する。そういう予感があった。
「そういえば、アンタ。前に、習得予定とか言ってたユニークスキルはどうなったの?」
「あぁ、その事か。勿論、もう少しで習得できるとは思うぜ。戦闘でも抜かりは無い様にしないとな」
ふと、フィリアが口にしたのは、以前自分がサチに付き添う形で《月夜の黒猫団》に合流した時にダッカーから聞いた、ユニークスキル習得のために扱う武器を変えた、という話の続きだった。
「それに、ずっと短剣使ったままだとお前と被るしな!」
「その理由はもう聞き飽きたわ。本当のところを教えなさいよ、アンタがメイン武器を大斧に変えておきながら尚、取得難度が高いって言われるユニークスキルに挑む真意をね」
フィリアのその言葉を聞いて、ダッカーは一瞬表情を曇らせたが、すぐにいつもの表情に戻り、口を開いた。
「別に、そこまでマジに聞かれるほどの奥深い理由なんて俺にはねーよ」
「でも、サチが強くならなきゃって自分で言ってんだ。なら、俺だって負けてられないから、それくらいの事はやってのけねぇと、なんて思ってさ」
これはただ単に男の意地、と言う奴だ。好きだった女がまだ上を目指そうとしている、なら自分はそれを手本としながらそれよりも高みを目指したい。そしたら、きっとその先にまだ見ぬいい女がいるかもしれない。ホントはまだサチに遠からず振られた傷心から回復してないけど。
「そ、じゃあ、アンタは正真正銘の馬鹿ね」
「あぁ、そうさ。俺は馬鹿なのが売りだからな、へへへっ!」
そう言ってダッカーは、へらへらと笑って見せる。呆れた、これだから男って時々しょうもないわよね。
「・・・・・・で、その習得しようとしてるユニークスキルって何なの?」
「聞いて驚くなよ、俺が覚えようとしてんのは――」
2024年10月31日 9:30 《アインクラッド》第48層・リンダース リズベット武具店前
「また来るって言ったじゃない・・・・・・馬鹿・・・・・・!」
そして、またここにもアスナの訃報を悲しむ人物が一人。そう、此処の武具店の店主、リズベットである。サチがそうであったように彼女にとってもアスナは大事な友人の一人だったのだ。
「「「「・・・・・・」」」」
更に、そんな彼女の様子を店の外から心配そうに見ている男たちがいた。そう、皆様の御察しの通り、クライン率いる、ギルド《風林火山》の面々である。
「ちっ・・・・・・やっぱまだ駄目そうか。おい、おめぇら、行くぞ」
仲間たちの気持ちは分かるが、この場では自分たちの出る幕はないし、言えることも少ないだろう。そう判断したクラインがメンバー達を窓辺から引きはがし、撤退を促した。
「だ、だけどよぉ、リーダー」
「へっ、分かってねぇなあ、オメェら。今の現状で俺らが何をすべきか、考えれば分かる事だろ?」
飄々としているようにみえて、このゲーム内で知り合ったプレイヤー達の事を理解者で居ようとするこの男は、やはり只者ではない。本来なら、こういう面をちゃんと表で見せていればそれなりにモテるはずだろうに。いやいや、欲望に忠実な分、実に残念な男である。
2024年10月31日 10:20 《アインクラッド》第65層・神殿エリア転移門前
「なんで、何で先輩だけ・・・・・・何でなんですか!?」
モンスターの来ない安全圏で、地面にへたり込み、泣きじゃくる私。あの後、先輩が目の前で殺されてから、私のメールBOXに先輩の名前でメッセージが届いていた。中身には何も書かれておらず、代わりに。
「こんなの・・・・・・こんなの受け取れないっすよ。これは、これは先輩だから扱えたのに・・・・・・」
先輩が、最期まで身に纏っていた装備一式が入っていた。細剣《ランベンライト》と《閃光》のアスナ専用防具。自分ではそう思っていたが、ステータス上はどうやら私も全部装備できる程には強かったらしい。皮肉すぎる・・・・・・本当に皮肉すぎるステータスだ。
「でも、もし先輩がこうなる事も見越したうえで、私にこれを送ってくれたとするなら・・・・・・」
「他の誰でもない、私が先輩に代わって調査を進めなくちゃいけないんだ」
アスナ先輩と私が所属していた、ギルド《血盟騎士団》は活動を停止した。しかし、まだこのゲームの要である階層攻略も残っているし、黒いPCも以前として正体がつかめていない。なら、先輩から遺志を継いだ私がこれに関わらない訳にはいかない。
「待っててくださいね、先輩。敵は必ず討ちます、だから、見ててくださいっす・・・・・・!」
装備変更画面を開き、私は先程開封して手に入れた装備一式を一括装備する。忽ち、私の姿が《閃光》の影武者ではなく、《閃光》のアスナそのものになる。後ろ姿だけ見たら、確実にどう見たところで本人だ。
「《ランベンライト》・・・・・・ちょっとだけ、私に力を貸してください」
武器が意思を持っているというわけではないが、それでも、今ばかりはランベンライトが自分を使うことを許してくれた気がした。キラッ、と光る剣身を鞘に納め、私は歩き出した。先輩の敵討ちを果たすために。
――それは、《隼》が《閃光》を継いだ、まさにその瞬間であった。
しかし、決意を固めたところで果たして何処から攻めるべきか、決めあぐねていたキリノの元に一通のメールが届いた。
『今後の方針でいくつか確認しておきたいことがある。65層の転移門前で落ち合おう キリト』
「キリトさん・・・・・・」
差出人は《黒の剣士》キリトからだった。アスナを通して何度か交流したことがあり、噂で聞くような人ではないという事も分かっている。そして、何よりこのSAOの中では一番強いと定評のある人物。これ以上ない嬉しい展開にキリノの心は一転して舞い踊り、気付けば返信の文を打っていた。
「えっと・・・・・・分かりました、今丁度65層にいるので転移門まで向かいますね、っと」
了解した旨のメールを送り、神殿エリアを離れていくキリノ。そして、そんな彼女の位置から少し離れた神殿の入り口前の柱の陰。そこに、《閃光》のアスナを打ち取った《黒の騎士》が彼方の様子を伺いながら、ずっと立ち尽くしていたことを、キリノはまだ知らない。
2024年10月31日 10:20 《アインクラッド》第50層・アルゲード
『【号外】攻略組希望の星、ギルド《血盟騎士団》所属《閃光》のアスナ、死す』
「・・・・・・」
情報屋によって町中に配られている、とある情報雑誌のそんな文面が躍る紙面を見ながら、街中で冒険者というにはあまりにも見当違いの赤いスーツに身を包んだ男が一人、佇んでいた。
「《閃光》のアスナ死亡って・・・・・・おいおい、どうすんだよ!?」
いや、正確には一人ではない。その周りには数人の男達がその男と同じように佇んでいた。そして、その内の一人がその紙面を見て焦りだしたのだ。
「おまけに《血盟騎士団》も活動停止とか、このままじゃ俺達この世界で犬死も同然じゃねぇか!?」
恐らく、彼等も今までの攻略組の活躍に希望を感じていた者達なのだろう。だが、その希望の芽も潰えた。故に不安を感じていた。しかし、そのスーツ姿の男は違った。
「いいや、違うな。それじゃあ、筋が通らねぇ」
「はぁ!?」
先程から騒いでいる金髪の男が疑問を投げかけるも、その男の目は何処か遠くを真っすぐと見据えて、この暗雲に覆われ始めた世界で何かを掴もうとしているようにも見えた。
「長らくここに閉じ込められた奴らの希望として君臨し続けたデカい勢力が一つなくなった。だが、これは、俺達がその座まで一気に駆け上がる、そのチャンスだと思わねぇか」
「そうだな、団長の言う通りだ。やるなら今しかねぇって事か」
「うん、どっちにしろアンタの命令なら、俺達は必ずやり遂げるだけだ」
「応よ!今こそ俺達の本領発揮だ、目にもの見せてやろうじゃねぇか!」
そして、その男の決意の言葉に周囲にいた他の三人の男が、同意ととれる意気込みを放つ。一人は武骨で荒々しい鋼のような体を持った男、一人は小柄だが極めて冷静に対処する男、もう一人はおちゃらけた雰囲気を醸し出す元気溌剌な男だ。
「成程。やはり、君達ならば当然戦いを優先するものと思っていた。私の目に狂いはなかったな」
すると、後ろからまた新たな男が姿を現した。先程の騒いでいた男と同じ金髪をしているが、彼とは違って冷静に何か含みのある笑みを携えた男だった。
「アンタか。すまねぇな、突然呼び出したりしちまってよ」
「いいや、問題ない。寧ろ、君達の作戦の一員として加われる事、改めて光栄に思う」
「これでアンタとも腐れ縁ってわけか、よろしく」
「フ、そうだな。キミのいつも通りの活躍、期待させてもらおう」
リーダー格の男と小柄な男が彼と親しげに話している。如何やら、彼らはここ最近どころではなく、もっと長い年月を経て共に行動していた者達の様だ。
「それで、団長。まず手始めにどうするよ、どうせならデッケェ花火でも打ち上げようぜ!」
「あぁ、先ずはお前の言う通り、空いた座を掴み取る為の大舞台が必要だ。さて、何処にするかな」
そう言って、団長と呼ばれた長身の男はこの世界の階層情報がまとめてあるマップを広げる。そう、彼らは今、攻略組最大と謳われた《血盟騎士団》に取って代わる、新たな攻略組のトップとして自分達のギルドが君臨することを計画しているようだ。
「劇的な舞台に似つかわしい劇的な演出をお望みか。ならば、これはどうだろう。君達好みの良いシナリオが描けそうなのだが」
冷静さを崩さぬ金髪の男が、彼らの広げるマップのとある一点に、分かりやすくマーカーを加える。
「何から何まで準備済みってわけか。相変わらず恐ろしいな、アンタは」
「何、私に伝説の一節を垣間見せてくれた、君達への返礼としては安いものだ」
「そうやってアンタは・・・・・・まぁ、頼もしい事に変わりはない、か」
その後、彼らはその作戦について長らく話し合った末に、確定した情報を書き留め、それらをギルドのメンバー全員に対して送信した。遂に、此処からこの世界においての彼らの快進撃が幕を開ける。いざ、救世の旗を掲げよ。搾取され続けた者達よ、反撃の狼煙の下に集え。
「団長、ギルドの用意、出来ました!」
再び新たな男が、その場に姿を現す。小柄だが、先程出てきた同様の男とは違い、元気溢れる少年のような性格をしていた。彼の背後には、長身だがまだ顔に幼さが残る青年が連れ立っている。
「おぉ、サンキュな。いつも仕事が早くて助かるぜ」
「へへへっ、コイツも頑張ってんだ。俺も頑張らねぇと!」
団長と呼ばれた男に褒められて上機嫌の彼は、隣の彼を指さしながらそう宣言する。それにしてもこれまで色々な人物が出てきたが、ここまで女っ気に欠けるギルドは珍しい。果たして、彼らは一体何者なのだろうか。
「漸く俺様の新しい装備が試せそうだ、ワクワクしてきたぜ!」
「また突っ込みすぎて死にかけないように注意しろよ・・・・・・」
「ああ、畜生!ここまで来ちまったらやるしかないだろ、ヤケクソだ、やってやろうじゃねぇか!」
「張り切りすぎて足引っ張ったら、許さないよ」
「ふっ、はははははっ・・・・・・!」
「うげぇっ、またあのうさん臭い奴来てんのかよ。オレ苦手なんだよなぁ、あの人」
「こら、本人の前でそんなこと言ったらダメだろ。長らく付き合いある人なんだから」
騒がしい者から落ち着き取り払った者、色々愉快な者まで。十人十色ともいえる強烈な個性を持った男達がお祭り騒ぎ状態でその場から去った後、団長と呼ばれた男だけがその場に残った。否、彼の他にも一人男はいた。あの面子からは想像もできないほど気の優しそうなふくよかな男だ。
「悪いな、もしかしたらまた変な事に突っ走っちまったかもしれねぇ」
「ホントだよ、今回も上手く行く保障何て何処にもないって言うのに」
団長と呼ばれた男の話に半ば呆れながらも、その言葉を信じて精一杯サポートする、とでも言いたげな表情をした彼はこのギルドの参謀か何かだろうか。彼らの間に結ばれた固く大きな絆は、この時点で既に察するにはあまりに十分すぎた。
「けど、これが俺達の新しい一歩になるんだね」
「やっとここまで来た、漸くだ。漸く、散々コケにされてきた俺達が入り込める隙が出来たんだ。恐らく、これ以上に利用できるもん何て、今の俺等にゃ望んでも手に入らねぇものばかりだからな」
「やるぞ、俺達で一気に駆け上がる。もうどうせ、逃げ場なんてねぇんだ」
「あぁ、分かった。ただ、無茶だけはしないでね。ウチのギルド、只でさえ少数精鋭なんだから」
「分かってるさ」
彼らはお互いに拳と拳をぶつけ合い、先に去って行った一団の後に続いた。
「・・・・・・(やはり、彼らは持ってるのだ。
冷静に事を見つめる金髪の男は、和気あいあいとした空間の中で一人何かに思いを馳せていた。彼の言うあの時代とは、一体何の事なのだろうか。
「そんな彼らだからこそ、私は力を貸している」
「今こそ、この私と彼らが中心となって、新たな伝説の幕開けを作ろう」
「バエルよ、私は此処にいる・・・・・・!」
高らかに頭上に手を伸ばし、何らかの答えを得た彼は、その場を静かに立ち去った。
果たして、この一団の活躍によって、新たに紡がれていく物語とは。そして、この物語の主人公でもある彼女と邂逅した時、徐々に面相を変えつつあるこの世界が如何なる決断を下すのか。祝え、今こそ改変の時の鐘は鳴り響いた。全ての予想を覆す、そんな旅に諸君らを案内しよう。
To be continues…
~次回予告~
――黒の剣士と《閃光》を継いだ少女は、真実の探求へ。
――青き少女とその仲間達は、遥かに強い決意を抱いて。
――紅蓮の武士は今一度、奮い立つ。
――そして、とある男の遺志を継ごうとした者達の壮絶なる葛藤劇。
見逃すことなかれ、これは全て、管理者のいなくなった世界で起こる、異世界の記録。
次回、ソードアート・オンライン-青き少女の証明-第五話「Dark Knight」。
次に、お前はこの世界が元とは違う色に染まりつつあることを知る。
恐れることはない、此れから紡がれる全てを知り、全てを悟れ。
多分、原作の登場人物たちは絶対ここまで冷静じゃいられないはず。
感想や御意見など伺えたら、ありがたいと思う次第です。
次回、お楽しみに。