「・・・・・・」
此処はギルドに要請された様々なプレイヤーからの依頼が貼り出されるクエスト用の掲示板。そこに貼られた一枚の依頼書を手に取り眺める、一人の少女。
「此処って・・・・・・」
依頼の内容と指定のエリアを見た時、彼女は思い出した。
いや、思い出したというのは少々誤解を招く言い方かもしれない。正確には、第六感や未来予知のそれに近い。この世界での彼女は、その場所でのことを全く経験していない。しかし、彼女が偶に見る、とある並行世界においての自分の末路。彼女はこの階層の迷宮区のとある場所でその命を散らすことになる。だが、それは彼女が戦う事から逃げた場合である為、この世界の戦う道を選んだ彼女には関係のない話だった。
「よしっ・・・・・・!」
何かを決意した表情を見せた彼女は、その依頼書を手に自分が所属するギルドのホームへと向かった。さぁ、準備は整った。今こそ語ろう、彼女達の辿るべき運命の序章を・・・・・・!!
2023年12月23日10:28 《アインクラッド》第40層・アルハイム 《月夜の黒猫団》ギルドホーム
「「「「「27層迷宮区のトラップエリアの殲滅ぅ!?」」」」」
サチを除く月夜の黒猫団5人は、彼女が持ってきた依頼の内容を聞いて、一同がほぼ同時に驚愕の声を上げた。
「わ、分かってんのかサチ、27層のトラップエリアって言ったら極悪級に攻略ムズイんだぜ!?」
「そ、そうだよ。只でさえ死んだら終わりの世界で初見殺しのエリアなんだよ、僕らじゃ無理だ!?」
「今まで何人も引っかかって全滅してるって話だし・・・・・・や、止めとかない?」
各階層においても別段あっても不思議ではないトラップゾーン、所謂《モンスターハウス》と呼ばれる場所。珍しいアイテムが手に入る可能性のある隠し扉の奥の宝箱。MMORPGプレイヤーであるならば、そんな演出を憧れた事だろう。それに擬態する形で偶に存在するのがソレである。
しかし、そんな中でも群を抜いてSAO攻略層《アインクラッド》第27層のモンスターハウスは、初見殺し・難易度極悪級・鬼畜仕様、等々と恐れられ、数いる攻略組の実力者達すら攻略に消極的であるエリアとされている。故にケイタ達はその攻略に無謀にも挑もうとしているサチを全力で止めようとしているのだ。
「サチ、本気なの?」
只管にビビり倒す男達とは違って、フィリアは至って冷静だった。だからと言って、サチに呆れているわけでもなく失望しているわけでもない。彼女はその選択がサチが間違いなく自身で選び取ったという事を確認する意味でそう問いかけたのだ。サチもそんなフィリアの真意を察したようで、しっかりと彼女に向き合った上で言葉を紡いだ。
「うん、本気だよ。仮に皆が行かないって言ったら、私は一人でも此処に行く」
サチが真剣な表情でそう答えると辺りがシーンと静まり返った。この場にいる5人は伊達にサチと付き合いが長いわけではない者達ばかり。彼女が心の底から、本気で言ってることは間違いないと誰もが察した。
「サチ。な、何か具体的な作戦でもあるのか・・・・・・?」
「ある、って言いたいところだけど。実際のところ、あってないような話みたいになるよ」
全員が息を飲む。それ位に、彼女の今の言葉は無茶苦茶過ぎた。
「そ、それじゃあ無茶過ぎ――」
「ケイタ、アンタは黙ってなさい。で、どうするつもり」
皆の代表をするようにギルドリーダーのケイタが声を上げるが、フィリアがそれを制す。ケイタはそんな彼女の威圧に負けて敢え無く口を閉ざした。
「私が前に見たその部屋の中のモンスターの動きと配置、それを今から皆に教える」
「だから皆は、それにあった対策を思いつく限り実践して戦って。それだけだよ」
勿論、サチとて何も調べずにこれを提案しているわけではない。この依頼書を手に取った時から該当エリアの情報を色々な情報屋を尋ねて回った。そして、自身が見た並行世界の自分が体験した出現モンスターの行動パターン。それらを全て記録し、それを打倒することでこの世界の自分が漸く胸を張って攻略の最前線へと赴く為のきっかけとしようとしていたのである。
「――以上が、私が皆に伝えられる精一杯」
「無茶かもしれないのは分かってる。でも、別の世界での私達が出来なかったことを成し遂げなきゃ、例え今の私達でも最前線に行くのは難しいかもしれない。だからお願い、皆の力を貸して!」
「「「「「・・・・・・」」」」」
サチの説明と必死のお願いを聞き、その場にいた5人は再び押し黙る。それも当然だ。仮にそれが実際に並行世界の自分達を襲った悲劇とは言え、今の自分達がやるべきことに必ずしも繋がるとは限らない。もしかしたら回避しても特に問題はないのかもしれない・・・・・・だが。
「そっちの世界だとアタシは此処に居なかったし、サチとも知り合ってすらないんでしょ?」
「うん。少なくとも、私の見た映像の中にはフィリアはいなかったよ」
「そっか。まぁ、別にどっちでもいいんだけどね。アタシは勿論サチに付いて行くよ、親友だしね」
「フィリア・・・・・・!」
ここ以外の世界では決して交わる事のなかった親友が最初に名乗りを上げ。
「分かったよ。サチがそこまで言うなら、俺が行かない訳にはいかないな」
「ダッカー・・・・・・!」
「へへっ、言ったろ?サチの夢、応援するってよ」
次に幼馴染みのダッカーが何時ものように軽口を叩いて、重い腰を上げ。
「そうだな。思えば、サチがここまで俺達に意見する事自体、珍しいもんな」
「・・・・・・何か一言多くない、テツオ?」
「ははっ、ごめんごめん。と言う訳で、俺も賛成だ」
《月夜の黒猫団》の実質的副リーダーのテツオが、揶揄い混じりに賛同し。
「だったら俺も賛成かな。何か最近ダッカーの奴が気合入ってるみたいだし、負けられないね」
「へぇ、見た目に似合わず熱血だったんだね、ササマル」
「うぐっ・・・・・・と、取り敢えず、やると決めたら絶対にやる。お前には負けないからな!」
「へっ、精々頑張ってくれや、ササマル君」
最近サチの次に実力を伸ばしつつあるダッカーに、対抗意識を燃やしたササマルが続き。
「残るはケイタだけだね」
「サチ・・・・・・俺は・・・・・・」
サチに「自分も賛成だ」という旨の返事をしようとして、言葉に詰まるケイタ。サチの見た記録のようなものの中では《月夜の黒猫団》メンバー内で自分だけがその場に居合わせなかったと聞いた。自分はその時にギルドホームの購入の為に別の階層へ出向いていたという事も、その悲劇が自分の居ぬ間に起き、自分の元へ戻ってきたのは親愛なるメンバー達ではなく、とある一人の新参者の少年であったと言う事も。
「おっ、どうしたリーダー。まさか自分だけ逃げるつもりじゃあ、ないよな?」
「ほっときなさい。ソイツ、アンタ達が思ってるより相当ヘタレだから時間かかるのよ、きっと」
「俺達の夢の為に、そろそろ腹くくる時が来たんじゃないか。そうだろ、リーダー?」
「俺達の紅一点であるサチにここまでお願いされたんだ。やるしかないだろ、リーダー?」
そしてその後、別世界の自分は街の中でアインクラッド外周に身を投げ、自殺を図ったのだという。そのまま行方を眩ましても良かったというのに、態々自分にメンバーが全滅した旨を伝えに来た彼の目の前で。ではその時、自分はどんな気持ちだったか。絶望、失望、怒り、悲愴・・・・・・そのどれでもあるがどれでもない。少なくともそこにあったのは。
『だから、だからビーターと組むのは嫌だったんだ・・・・・・!!』
そんな事態に陥って尚、自分が隠していた力で皆を守る事を選ばなかった黒の剣士・キリトへの憎悪と、自分の目の届かない場所で死んでいった彼等を最後に見たのがその彼だったという嫉妬という感情。それ以外の何物でもなかったと、そう思った。
「・・・・・・それでも、万が一に全員がその世界の時みたいに死ぬかもしれない」
「だから俺は、皆みたいに早々簡単には決められない」
「ケイタ・・・・・・」
いや、寧ろその世界の自分はまだ良かった方だと思う。もし、それが自分を含めた上で行われていたものだったとしたら・・・・・・自分はきっとモンスターに倒されて死ぬ前にせめて一太刀と、キリトに手をかけていたかもしれないのだから。故に、自分はそこに本当に行くべきなのだろうかと。もしかしたら想像通りに皆が殺され、自分が惨めに発狂するだけで終わるかもしれない。
「仮にそれが事実なら、俺は相当のクズだ」
その世界では晴らす対象がいた。ただ、この世界では全滅すればそれまでで他に晴らすべき相手は存在せず、同時に別世界よりも皆は強くなっている。となれば、最悪自分が自分だけが生き残ってしまった場合どうなるか。答えは考える間も必要ないほどに単純明快だった。
「当たる対象がいないなら、自分の中で無差別に対象を作り始めるかもしれない」
他のプレイヤーを無差別的に襲い、殺し、蹂躙し、狂気と共に去っていく。今、SAO内で問題となっている殺人ギルド《ラフィン・コフィン》に所属するプレイヤー達のような快楽的殺人を楽しんでしまうかもしれない。自分の身に起こった不幸を他人にも強制的に味合わせる為に、やがてはこの世界の創造者にその復讐の刃を向ける為に。
「そっか、ケイタはそう思うんだね」
かも知れないという負のスパイラルに囚われていたケイタは、その声に思わずはっとなって顔を上げる。その先には、こんな自分に優しげな微笑みを向けながら何処か寂しそうなサチの姿があった。何故、何故彼女はそこまでし最前線に早く行きたいのか。以前に彼女から聞いてもう分かっている事を彼は心の中で投げかける。
「あー、つまり・・・・・・リーダーが駄目って事はこの話は無し、って事か?」
「ある程度の覚悟はしたんだけどね。まぁ、仕方ないよ」
「そっかぁ、何か不完全燃焼だな~」
そんなサチとケイタのやり取りを見て、他のメンバー達にも次第に諦めムードが漂い始めていた。サチ個人で受けるなら兎も角、これはサチが《月夜の黒猫団》として受ける為に持ってきた依頼。そのギルドの実質的リーダーであるケイタが駄目だと言えば彼等はそれに従う他ないのである。それも一部の例外を除けば、の話であるが。
「ふーん、あっそ。じゃあ、この依頼、私とサチの二人だけで受け直しましょ」
今までのやり取りを聞いていたフィリアは、まるでこうなる事を予見していたかのように興味のなさそうな顔でそう呟くと、サチの手を取って依頼を受け直すために外へ出ていこうとしていた。
「えっ、でも、皆は・・・・・・」
「さぁね。でも、本当に行く気があるなら付いてくるでしょ」
「こうなっちまったんなら猶更だろ。当然、俺も付いて行くぜ!」
「万が一を考えて人数は多い方がいいって言うしね。俺も同行するよ」
「フィリアがいる事以外は状況が全く同じ、か。別世界の話とは言え、ゾッとする顛末だよね」
サチが心配そうな視線を向けるが、その瞬間彼等はフィリアの言うとおり、その依頼を受けに同行する気満々の様子であった。
「何・・・・・・だって・・・・・・!?」
彼等の一連の行動を見たケイタは驚愕に目を見開いた。ああ、このままでは別世界同様、彼等とは此処で一生の別れとなるかもしれない。そしたら自分は外周に身を投げて後を追うのか、狂気を纏って一切合切を殺戮するキラーマシンと化すのか。
「それじゃあ、ケイタ。行って来るね」
「・・・・・・!」
「私が責任をもって、皆を守るよ」
「だからケイタは此処で待ってて。必ず、皆を無事に返して見せるから」
そこで自分も含めて全員が帰る、とは言わないんだな。ケイタは彼女を真っすぐ見据えながら、心の中でそう呟く。分かっている、彼女のその生真面目な性格で考えそうな事が。自分が持ってきた依頼に並々ならぬ責任を感じていて、万が一の時は自分がその全責任を取って、自分を犠牲にしてでも仲間を必ず生きて帰すと。確かに仲間が全滅するよりは後の自分の心的ストレスは圧倒的に軽いはずだ。だが、そんな愚策を彼女の身一つに全て任せてしまってもいいのか、別世界の自分が彼女に望んだ事はこの言葉なのか?そして何より、後の自分が後悔しない為には今の行動は本当に正しいのか、と。
――いや、答え何て既に決まっている。自分はきっとその世界でも。
「・・・・・・待ってくれ、皆」
「ケイタ?」
「そのままでいい。そのエリアは俺達《月夜の黒猫団》全員で行くべき場所だ・・・・・・!」
彼女の望むがままの事がしたい、彼女の笑っている顔が見たい。全ては高校に入ってから出会った、彼女への淡い恋心を一度として伝えられなかったその後悔から起こした行動であったと。
2023年12月23日11:20 《アインクラッド》第27層・迷宮区 回廊エリア
「あっ、待ってましたよ!アナタ方が《月夜の黒猫団》っていうギルドさんですよね?」
サチたちが回廊エリアに転移し、問題の部屋のあるフロアの前で一人の黒いフードを被った男のプレイヤーが此方側に駆け寄って来る。如何やら、この依頼を出した依頼主のようだった。
「はい。俺達が《月夜の黒猫団》で間違いありません」
「おおっ、やっぱり!何処か面構えが違うと思ったんスよ、流石は《彗星》のサチをお抱えになっているギルド様、覚悟が違ぇや!」
その男は不自然な程に彼等にゴマをすって来ている。それに初心者と銘打ってはいたものの何処か胡散臭い感じがする。そんな喋り方であった。
「いや、困ったことにオレの友達が此処に挑もうってしつこいんですよ」
「危ないからやめろって何度説得しても、虎穴に入らずんば虎子を得ずって言って聞きませんし」
「だからいっその事、俺がギルドさんに依頼してそこを潰してもらえば親友も諦めると思うんで。そこを何とか、よろしくお願いできませんかね?」
勇気と無謀を履き違えているその友達が色々と噂の立つそのエリアに自分と他の仲間を巻き込んで飛び込む前に、依頼を解決してもらい、とあるギルドが腕試しに来て潰していったという情報を流せばその友達も「それなら仕方がない」と諦めるだろう。そう言う体の依頼であるという。
「勿論、対処して頂ければ報酬はきちんとお支払いしますよ」
「まぁ、アナタ方からしたらはした金かも知れませんが、それでもで御座います」
あまり信用は置けなそうだが、それでも引き受けてしまったものは仕方がない。《月夜の黒猫団》メンバー達は彼の説明を静かに聞いていた。そして、その男の話が終わってからメンバーを代表してリーダーであるケイタが彼に依頼受諾の同意と質問を投げかけた。
「分かりました、この依頼は俺達が処理します。因みに、貴方はどうなさるんですか?」
「お、オレですかい?いやぁ、オレ何かが付いて行ったら弱すぎて足手纏いになっちまいまさぁ」
「じゃあ、此処で待ってて頂いて、依頼が終わったらこの場で報酬の提示をお願いします」
「了解っス、朗報お待ちしてますぜ!」
彼の態とらしい敬礼に見送られる形で、《月夜の黒猫団》メンバー達はトラップエリアのある隠し扉の前にやってきた。周りを見回すが、特に罠が仕掛けている痕跡はなく、少なくとも意図的にトラップを仕掛けて妨害するという行為は行っていないように見えた。
「(そりゃあ、まぁ、今から入るフロアがトラップみたいなもんだし・・・・・・無いよな?)」
唯一無二の大規模ギルドであり、今までSAO全体の秩序を守っていた《血盟騎士団》がいない今、そう言う依頼者を装った無法者達からのトラップPKが横行し始めている。そんな背景もあり、念には念をと言う事でフィリアの索敵スキルも使ってもう一度満遍なく探して貰ったがそういった類のものは一切見つからなかった。流石に杞憂だったのかもしれない。
「よし、それじゃあ開けるぞ、皆」
ケイタの言葉に一同が同時に頷くと、彼は隠し扉に触れ、その部屋の全貌を明らかにした。見た目は至って普通の部屋と何ら変わりない。部屋の奥には宝箱が鎮座していて、如何にもレアアイテムが隠されていそうな雰囲気を醸し出していた。
「リーダー、あれがきっと例の宝箱だぜ」
「見た目は宝箱、でも中身は死のパンドラボックスってか。おっかないなぁ」
「じゃあ、皆。予定通りのフォーメーションで行くよ・・・・・・!」
サチが考案したフォーメーションで対応する事となった《月夜の黒猫団》メンバー達は、サチを先頭に部屋へ突入しようとした。すると――
「あ、皆さん!ちょ、ちょっと待ってくださーい!」
後ろから声が聞こえたので、全員がその場で立ち止まって背後を振り向くと、先程の依頼者の男が慌てふためいた仕草で此方に近づいて来ていた。何か伝え忘れでもあったのだろうか。
「はい、何でしょう?」
「そう言えば、コレを渡すのを忘れてました。一時的にステータスアップ出来るポーションです」
男が渡してきたのは人数分のステータス強化用のポーションだった。何の変哲もない、普通にどこのお店にでも売っていそうな特別珍しくもないものだ。
「力をお貸しできない分、ソレを飲んでさくさくっと倒してきちゃってくださいな!」
「ふぅん・・・・・・その割に一本ずつなのね」
「いやぁ、ははは。お恥ずかしい事に後で渡す報酬にお金使いすぎちゃいまして。前渡しとかではないですけどそれが限界でしてね」
「・・・・・・ま、いいわ。その代わり、後の報酬は期待しておくわね」
「はい、お任せくださいッス!」
男から渡された一時強化ポーションを受け取った5人は、そのまま部屋の中に入り、奥に設置された宝箱の取っ手に手をかけ、中身を開け放った。
⚠WARNING!!⚠WARNING!!⚠WARNING!!⚠WARNING!!⚠WARNING!!⚠WARNING!!⚠WARNING!!⚠WARNING!!⚠WARNING!!⚠WARNING!!⚠WARNING!!⚠WARNING!!⚠WARNING!!⚠WARNING!!⚠WARNING!!⚠WARNING!!⚠WARNING!!⚠WARNING!!
ブーブーというけたたましい警告音が鳴り、部屋中に表示された『WARNING!!』の文字の羅列と同時に青く光っていた部屋のライトの色が赤色に変わる。そして、それに作用されるように彼等の周囲に大量にリポップされ始めるモンスターの大群。先程までの無機質な雰囲気が一気に禍々しいものに切り替わった。そう、これこそがモンスターハウスの神髄。数あるトラップの中でも群を抜いてプレイヤー達に絶望の死を味合わせてきた極悪級の仕掛け。それが今、《月夜の黒猫団》メンバー達に襲い掛かってきた・・・・・・!
「行くぞ、皆!!」
「おっしゃあ、やってやらァァァァァ!!」
「生きて帰ってやる・・・・・・絶対にッ!」
「やあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
範囲攻撃で薙ぎ払い、敵が吹き飛んだところで各自が狭い部屋の中で分散し、なるべく敵の各個撃破を狙っていく。如何に極悪級のトラップと言えど、数に限りはあるというもの。アスナやキリト達が交戦した《黒の使徒》のように無限に増殖する訳ではない為、ガードと小まめな回復を繋いでいけば、決して勝てない戦いではない。
「行くぞッ、《ストライク・ハート》!」
「喰らえぁッ、《エクスプロード・カタパルト》!!」
――ケイタが敵に連打を叩き込み、ダッカーが敵の群れに突進し、体勢を崩しにかかる。
「まだまだァ、《サイレント・ブロー》!!」
「これでも喰らいなさい、《インフィニット》!」
――テツオが範囲技で敵が密集する空間に風穴を開け、フィリアがそこに入り連撃で敵を屠る。
「くたばってたまるかよ・・・・・・《ヴェント・フォース》!!」
「一気に決めるよ、《ダンシング・スピア》!」
――ササマルとサチが協力して複数の敵を挟み込み、連撃に次ぐ連撃で数を減らしていく。
「へへっ、大分モンスターの数も減ってきたんじゃねぇか?こりゃあいけるかもなァ!」
「その減らず口はほとんど倒し終わった後で言うのね。油断してると足元掬われて死ぬわよ?」
「んな事、分かってらァよ・・・・・・ッ!!」
メンバー全員が引っ切り無しに敵の動きを見つつ、攻撃を加え、サポートを欠かさず、敵からの反撃に備える。まさに最強の布陣といても過言ではない彼等のフォーメーションは、次々と敵の勢いを削いでいく一方の圧勝具合であった。
「いける・・・・・・このまま圧していけば、勝てるよこの戦い!」
「よォし、それじゃあトドメを刺す前にアイツから貰ったポーションで一気に決めようぜ・・・・・・!」
「うん。それじゃあ、私とフィリアで敵をヘイトして引き付けるから、皆はその間に!」
「・・・・・・何も起こらないといいけど、ね」
敵の数もそれなりに減ってきて、猛攻を受ける心配がなくなったので、残る敵の引き付けをサチとフィリアに任せ、4人の男達は依頼主から貰った強化ポーションを一気に飲み干して、再びSSの構えを取った。
「うぉぉぉぉぉっ《クレセント・アバ・・・・・・うぐっ!?」
「ダッカー!?ぐわっ、な、何だ急に動きが・・・・・・!?」
「畜生、何でいきなり麻痺毒なんかに・・・・・・!?」
「まさか・・・・・・さっき飲んだポーションに仕組んであったって言うのか!?」
しかし次の瞬間、男達4人は次々と床に倒れ伏し、身動きが一切できなくなってしまった。
「どうしよう・・・・・私、解毒薬持ってきてない。フィリアは!?」
「ごめん、サチ。アタシも今回は持ってきてない・・・・・!」
――状態異常『麻痺毒』。この状態異常になると身体全体が痺れて動けなくなり、一定時間の間行動不能になってしまうという恐ろしい状態異常である。通常のフィールド内でなっても一歩間違えれば危険な状態だというのに、この脅威がまだ去っていないモンスターハウス内でなったとなれば、それは死を意味する。
『ひゃははははははっ!見事に引っ掛かりやがったな、ご苦労様ァ!!』
「「「「「「・・・・・・・!」」」」」」
そして、そのタイミングでチャットBOX内に先程の依頼者からそんな内容のチャットが送られてきた。そう、彼の正体はケイタ達が最初危惧していた、トラップPKを繰り返す常習犯であったのだ。
「クソッタレ・・・・・・どうして、こんな、事を・・・・・・ッ!?」
『どうしてだってェ?ハッ、そんなの決まってんじゃねぇか』
『最近調子に乗ってるテメェらを目立たないように葬れってボスからの指令だからだよォ!!』
「・・・・・・!!」
部屋に入る時までのあの気持ちの悪い態度は何処へやら。そのチャットの文章は先程までの彼とは打って変わって、他人の不幸を嘲笑う悪魔のような口調になっていた。
『女子2人も仕留めらんなかったのは残念だが・・・・・・まぁいい』
『今どれくらい倒したかは知んねぇが、流石にまだ全部は倒せてねぇはずだ。つまり、その状態・その空間内でソイツになったのなら、後は死あるのみだよなァ!?』
『『『『『・・・・・・・!!』』』』』
そんな彼の愉悦混じりの嘲笑に呼応するかの如く、サチとフィリアの陽動に気を取られていたモンスターたちが全員恐ろしく速い速度で床に倒れ伏す彼等の元へ一直線に向かっていった。
「くっ・・・・・・コイツ等、アイツらが麻痺毒に掛かった瞬間、一斉に向こうにターゲット変更した!?」
「そんな、そんな事、絶対にさせない・・・・・・ッ!」
常人の真似できない尋常ならざる速度で、すぐにその敵の前に身を置くと正面で槍を構えて立ちはだかるサチ。そんな自分達を守ろうとする彼女の姿を見て、ケイタは声にならない叫びをあげる。
「ぐうっ・・・・・・サ、チ・・・・・・逃、げろ・・・・・・!」
「そんな事、出来るわけない・・・・・・!言ったでしょ、皆にもしもの事があったら私が守るって!」
モンスターの大群が勢いを落とさずに目の前のサチに向かって突進し続ける。
――残り9メートル。
「こうなったら一か八か・・・・・・行くわよッ!」
サチの援護に向かう為、移動距離の長いSSを併用しながらサチのいる場所へと近づこうとするフィリア。しかし、あまりにもサチとの間に差が広がり過ぎていて、救援は間に合いそうにない。
――残り8メートル。
「サチ・・・・・・ッ!」
「もし、此処で私がやれることがあるのなら・・・・・・!」
「私は、私は皆を守れるだけの力を以って、前に突き進む・・・・・・!」
サチが手慣れた動きでメニュー画面を素早く表示させ、ある項目をタップしては、またある項目をタップしてを繰り返す。そして、とある画面でその指を止めると、画面上に承諾を求める表示が浮かび上がる。
――残り7メートル。
「ち、きしょう・・・・・・!まだ、だ・・・・・・俺も、諦めるわけ、には、いかねぇんだァァァァァァ!!」
直後、ダッカーがその状態から全身の力を振り絞り、サチの隣に並び立つ。自身でさえも何故この状態異常下で動けたのかは知らない。ただ、一つだけ。一つだけ譲れないものがあるとしたら。それは彼女と交わした約束を果たす日まで決して死んではいけない事。何より、一度惚れた女に追いつく為には其れこそ死ぬ気で背中に食らいつかねば。彼女が遥か遠くの存在になってしまう前に。
「ダッカー、もう大丈夫なの!?」
「へ、へへっ、何かよく分からねぇが何とかなっちまったみたいだ・・・・・・!」
「・・・・・・そっか。それじゃあ、一緒に切り開くよ!」
「おう、サチこそ俺の新武装を見て驚き呆けるんじゃねぇぞ!!」
――残り6、5、4・・・・・・
ダッカーもサチと同様にメニュー画面を光速タップし、同じ表示を浮かび上がらせたところで指を止める。既に大群は超至近距離まで迫りつつあった。
――残り3、2、1・・・・・・
「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」」
Player:Sachiがユニークスキル《二槍流》を獲得しました
Player:daccarがユニークスキル《大鎌》を獲得しました
「《ディメンション・スタンピード》・・・・・・!!」
「《エクゼスト・グランドダッシャー》・・・・・・!!」
ダッカーの振った大鎌が大地を震撼させ、サチの振った双槍がその場にいるモンスターのHPを削り切り。やがて、その大群は彼等の目と鼻の先で攻撃モーションに移ろうとしたところで動きを完全に止め、全てが瞬く間に消滅した。
「ち、畜生・・・・・・何なんだあのSSは!?お、覚えてやがれ・・・・・・ッ!」
モンスターの完全消滅と共にトラップが解除され、扉が開かれるや否や件の依頼者はその場から急いで逃げ去っていった。こうして、多少のトラブルはあったが彼等の因縁の場所である此処アインクラッド第27層迷宮区のトラップエリアは無事、解除されたのであった。
2023年12月24日9:30 《アインクラッド》第40層・アルハイム 《月夜の黒猫団》ギルドホーム
「――それじゃあ、皆。行ってくるね」
あの戦いから1日が経ち、その翌日の事。遂にその時は訪れた。
「本当に行くのか、サチ?もうちょっとゆっくりしてっても・・・・・・」
「うーん、気持ちは有り難いけど。やっぱり私としては少しでも早く追い付きたいから」
因縁の場所を踏破したサチがキリト達の居る最前線へ合流する為、一時的に《月夜の黒猫団》から脱退し、上の階層を目指す旅が始まろうとしていたのだ。勿論、彼女の隣には相棒で親友のフィリアの姿もあった。
「よォし、間に合ったァァァァ!!」
「うおっ!?ダ、ダッカー、急に部屋の扉勢いよく開けてどうしたんだよ???」
「サチ、約束のモノが出来たぜ。受け取りやがれッ!!」
そう言うとダッカーは徐に小脇に抱えていた一式に統一された装備をサチに手渡す。彼女の特徴に合った水色が目立つ軽量化された鎧と青色に輝く二振りの槍だった。
「『彗星の鎧』一式と『蒼龍槍リヴァイアサン』。どっちもダッカー様オリジナルの超究極仕様だ!」
「ふふっ、もしかしなくてもこの名前、ダッカーが考えたの?」
「おうよ、自信作も自信作だからきっと今後のサチの助けになる事請合いだぜ!」
「そっか。ありがとダッカー、大事にするね」
サチはそんなハイテンションになったダッカーを見て、くすくすと笑った。人生で初めての自分の為だけに作られた武装。こんな装備を作り上げてしまうなんて、ダッカーは本当に凄腕の武具職人になったなぁと思わず感心してしまう程に。
「じゃあ、そろそろ行くね。アルゴさんとも待ち合わせして待たせてるし」
「おう、行ってこい!《彗星》のサチ!」
「もぅ、その名前で呼ぶのやめてよぉ!」
斯くして、彼女は旅立った。未だ大いなる混沌が渦巻くこの世界で、再び自分が憧れた強さを持つ彼に出会うために。そして、志半ばで死んでいった親友の敵討ちを果たし、彼女がやりたかった事を自分が変わりにやり遂げようと。そう、心に誓いながら。
To be continues…
~次回予告~
遂に真の強さと親友の敵討ちを目指す彼女の旅が始まった。
そんな中、とある別の世界から舞い降りし、一人の妖精と一人のガンマン。
彼等が狂った歯車の上で出会う時、物語・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――よく聞け、愛しき子孫共よ。
遂に彼の暴虐の魔王がSAOの世界に一プレイヤーとして現れる。
次回、ソードアート・オンライン-青き少女の証明-第七話「Reunion Of Fate」。
努々忘れるでないぞ。
予告より2時間遅れました、本当に申し訳ない。
さて、次回は遂にあのお方が参戦ですよ。乞うご期待。