萬子 一二三四五六七八九
筒子 ①②③④⑤⑥⑦⑧⑨
索子 123456789
字牌 東南西北白發中
「じゃぁ、ムロのやつはまだ補欠ですらないのか?」
「それもそうだけど、私らに打ち勝つ程で無いと全国の卓で会うのは無理っぽいじょ、やっぱりムロもまだまだだな、で、のどちゃんの方は最近どうだ?」
「そっちじゃなくて、学校生活の方だじぇ」
「まぁ、私くらいにいい人はあんまり見かけないがな、だから私の人生は順調だじぇ」
「あぁ、勿の論だじょ!じゃぁな、もう下校時間だしまた掛けるじぇ!」
通話を切った片岡優希は元部長の竹井久がいつも昼寝をしていたベッドから部長のまこを引きずり出した。照明も消してカーテンを暗幕の代わりに万全を尽くした仮眠室になっている部室の奥は部長室にでもなったみたいに使われている。
「もう帰る時間だじょ、染谷部長」
「……もう完全下校時刻か?」
外しておいた眼鏡を探す手だけが布団の中からテーブルに向かう。手の感触だけで取った眼鏡を持ち起き上がっては、あくびからするまこの頭は寝癖で普段よりくるくるとなっている。その残念な姿を見た優希は笑いを堪えなかった。
「ぷっ……そうだじょ、今日の部活も暇だったじぇ」
「部長、先日須賀さんが持って来た書類ですが、さっき早く提出してくださいと言いに来ました」
「面倒いな、ワシも月に一回や二回くらい寝坊したいんじゃ……」
まこにとって家の手伝いは長く続いた事だけど、部長の仕事も増えて時間を作るとなると面倒な仕事も有りちょくちょくと疲れが溜まってしまう。
鏡の前に立って制服のスカーフを結び直したまこは髪の毛に起こった惨状を手っ取り早く整理してから結構広い感じの部室を見渡した。
「結局上原は今日も来なかったか?」
「来ないのなら彼女の選択を尊重するのが正道ではないでしょうか?」
「本当に麻雀が嫌いなら南浦という女子高生雀士の名前もろとも平滝高校所属だったのも知っている理由がおらん」
「言われてみれば確かにそうですね」
パソコンの前に座ってキーボードを叩いていた数絵の手が止まる。今になって気づいた洞察力の無さにぐっとくるらしい。
「それなら麻雀を気にかけている自体は疑いようが有りませんね」
まこは適当に放っておいた自分のかばんを取って帰る準備を済ませた。今日は何もしないで寝てたから部室内に整理する物など無い。
「副部長、牌譜の整理が終わればこれから店に出るワシに代わって書類の件は適当に書いときいんさい」
「既に書ける所までは書いておきました、残りは県大会出場希望者を確定だけです。それを提出した後で追加予算の申請をするのが順番だと言ってましたので」
「そんじゃ残りは監督にやらせろ、監督!」
「竹井さんと相談しますか?」
大声を上げたまこに対し、数絵はとぼけてかばんの中から携帯を出して見せる。
迫ってくる提出期限を思い浮かべてため息をついたまこは自然とおでこに皺を作ってしまった。これらが無いとお金が貰えないしお金が無いと何も出来ないのを誰よりも良く知ってるのは、ほかでもない今から仕事に出るまこだった。
「今は待つしかないじゃろ。優希、京太郎は明日来るんじゃったけな?」
「多分そうだじょ」
「明日は5人だったらいいのう」
・
「おはよう、着替えて交代するけんちょっとまっといて」
「はーい」
バイトの子と交代したまこはもうなれたメイド雀荘の制服であるメイド服に着換えた。今日は6時からのシフトだ。経営者の身内だから決まったシフトでも無いけど一応はそうだった。
『お客様』ここでは『御主人様』のオーダーに対応し、『退店』ここでは『出かける』御主人様達が使用した雀卓を整理しながら異常がないか確認する仕事はもう体が勝手にやってくれるほど馴れた。だから染谷まこはその時間を有効に活用する為に脳も動かせる。出前とか熱シボで卓に近づく時にはゲームの進行を見極めてみる、ちょっと暇になる時間が有ると強い客の打ち筋で学べる事は記憶の中にイメージで入力する。
最近は昨年の事故をきっかけに弱く見える初心者にも目をやる事がちょくちょく有った。今もその真っ最中だ。今まこが観ているのは初心者じみた若い女の人だ。おっさんがほとんどの雀荘ではあまり見かけない客だったのでなんとなくレパートリーのいちページにしようと選んだ。
(これは残念な、上がれる前に放銃だな)
彼女の手で聴牌を取るには『二三四五』から何方かを落とすしかない、1位まで逆転を狙う三色を付けるには五萬捨てだけどそれはリーチを掛けている下家の和了牌だ。まこはだからの放銃予想をしたのに外れた。なんと『2234』から4を捨て一向聴を維持する。
(降りか?いや、4も安牌じゃない)
これで萬子がよく来て3を処理すればダマテンのタンヤオで阻止しが出来るかも知れない。そうなると2位くらい狙えるだろうとまこは思った。続いての下家はツモならず、次には対面が捨てた安牌の①を上家がチーで持っていって安牌となった4を捨てる。そして回って来るツモ、なんと2を引けた。先に②を捨てたらツモ和了だけど、これで危険な生牌の筒子を捨てずにダマテンで捲り合い勝負に出られるとまこは思った。なのに、ここでもう一度まこの予想が外れた。
「リーチします」
(ここでは大胆過ぎるじゃろ)
そして横にして川に出したのは同然3だ。同然下家からのロン宣言は無かったが。
「それロンだ。ジュンチャンドラ2の7700」
「は……はい」
「まくられたか、残念だな」
緊張のせいか震えてる小声で答えながら点棒を渡した彼女には情けを掛けたくなる。
まこが立っていた位置の視野からは上家の手牌が見えなかったので知らなかったけど先の鳴きで聴牌した上家からの放銃だった。これで彼女の成績は4位転落となった。レートなど無いから損はないけど負けたらそれ自体損な物だ。
「じゃ、腹も減ったし今日はこの辺にしとくか、お疲れさん」
「お嬢ちゃんも次は勝つんだよ」
「お……お疲れ様でした」
他の客三人は料金を支払って帰る模様だったけど、この女性はまだ帰ると気は無かったらしく空になった卓にひとりで座ったままだ。
客が帰るから料金とかでレジを見てきたまこは、いまだその卓にひとりで若干落ち込み気味のままだった彼女に近づいた。長い髪の毛で貞子にでも見えるのがもっと気になってしまう。新しいお客様だからもっと来てもらいたいのも有るから話を掛けてみる事にした。
「お客さん、少し助言聴いてみますか?」
「……はい?私ですか?」
まこが話をかけるとガタガタとゆっくり見上げる女性を見たら、出入りする客がほぼ固定されている雀荘みたいな店にこれほど人見知り過ぎの人がひとりで来る自体が疑問になった。故にわざとでも笑顔を作って接客する雀荘経営のプロっぶりを見せようとする。つもりだったが
「あんた、上原じゃないか」
「そ……染谷……先輩?」
染谷まこと上原美篶、両方とも驚いて変な声になっていた。ずっと覗いたのは椅子に座ている背中と手牌で、学校でもまだ一回会っただけだから見慣れて無かったので顔を合わせてやっと気づいた。
「なんじゃその服のコーディネートは、会社帰りのストレス解消に来た新卒か何かだと思った」
「それはその……えっと、先輩もメイド服……ですね」
学校の制服ではあまり出ない個性と好みが感じられる外見だった。スーツに近い無彩色だけど明るめなフォーマル、どう見ても社会人だ、それにしか見えない。勿論まこの方は仕事場の正装見たいな物だけど美篶には知る余地もなかったから疑問にした。
「先輩こそここのバイトさんでしたか?麻雀の繋がりで?」
「いや、バイトじゃなくて、この店はワシの家族でやってるんじゃ」
「そうだったんですか……知ってたら来なかったのに、内緒にしたかったよ……」
「なんの内緒じゃ?麻雀部には来なかったのに雀荘まで来て?」
「ち……ちが…違います、ご…誤解です、こ…これは麻雀しましたけどこれはその……」
まこを見上げていた顔を赤くした美篶は言い分を並ぼうとしたが慌てて文章すら成立しない。で、まこは気にしてないとふんと笑った。自分を見上げてる美篶の頭を撫でるように下げて目線を同じ位置にしようと上家の席に座る。
「そりゃー見たら解る、とても麻雀になれてない様に見えたし。なんで来たんじゃ?」
「それが……ですね、小学生以来とはいえ下手過ぎると皆さんがガッカリするだろうから練習も兼ねて今どのくらい出来るか試してみると思って初めて来てみました……」
「なんじゃ、誰もそんな風に思わん。って事は一緒に麻雀部でやっていく気はおるんだな?」
「私が上手く出来れば……ですけど、今見たいではとても……」
「そんな心配いらぬわ、ワシが鍛えてあげるから。まずは先言って上げると思った話からじゃ、これ見てみ」
「は…はい」
まこは壊れてる牌を取って元の手牌に戻し並ぶ。和了の一巡前の物にして美篶の牌も戻して開いたまま話を始めた。
「結果論になるけど、オーラスで放銃したのは、攻撃したからじゃ」
「リーチした方からでは守れたのにもですか?」
「上家は前にあんたが四索を切ったから聴牌したんじゃ。完全安牌を捨てて置いたら軽く一筒とか鳴けない、どうしても四索が残るから降りただろう。けれど」
美篶の牌から四索を抜いて川に捨てる。それから持っている手牌からも四索を指差した。あきらかに余る牌、これが有ると純全帯幺九は成立しない。
「一筒が来なかったら意味ないけど上家から安牌として出てくれた上に先にあんたのおかげで四索を捨てられる様になってるから聴牌したんじゃ、でないとこんな物騒なもの捨てられん」
それからは先の再現を行う。一筒を鳴いて、四索を捨てて聴牌、美篶の牌からは当たりの三索を持って行き逆転直撃の完成だ。
「リーチ相手に勝負したら他家も機会を得る、それを思ときんさい」
「そんな方向で考えもしませんでした、衝撃的……です」
この話を聴いてむしろ真っ白になってしまった若い雀士を見てまこは教える甲斐が有るだろうと考えた。久ほどじゃないけど、自分も待つ事には馴れたつもりであった。
「ならこれから考えれば良い、教えて上げるから覚えて行けば良いだけ。教える時間なら作るしまだまだインターハイ本戦なんか夏じゃ、ワシらと一緒に行ってくれるか?」
「インターハイは分からないけど部員から始めてみます……ありがとうございます先輩」
さぞ弱々しい声だった。
けれど、これで満足したまこはまた頭を撫でて上げる。
「先輩として同然だ、ありがとう後輩」
何とか10話まで来られました。それとは関係ないけどタイトルをちょっと咲-Saki-っぽく変えてみました、これもアリですね。
ここまで読んで頂きありがとうございます、これからも清澄高校2年の優希をよろしくお願いします。