優希-Yūki-、再び全国へ   作:瑞華

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第14話、また逢う日まで

「優希、帰りましょう、天江さん達が待ってますよ」

「……行くじょ」

 

 後ろから聞こえてくる和の呼び声に小さく答えはしたけど、優希は座ったままピクッともしなかった。木の陰の下に居るベンチで遠い陽だまりを見ながらぼっとしてるだけ、木々をすり抜ける風に暑さが迫って来る。

 興が冷めたと言ってはひとりで何処かに行ってしまった龍門渕透華から帰る車は残すから優希には好きにしろとの伝言を頼まれた和はハギヨシの案内でホテルとすぐ接してる公園でひとりの優希を見つける事が出来た。喧嘩と言うか、良くない言い争いの揚げ句、飛び出した優希だったけどあんまり遠くまでは行けなかった。ここ東京で何の縁も無いし携帯も財布も持ってない優希が行ける所なんて、そもそも存在しなかった。

 和はそっと優希の隣に座って優希の顔を覗いた。その目とほっぺに涙の跡みたいな痕跡が無いのを確認しては頭をぺこっと下げる。

 

「優希、ごめんなさい」

「のどちゃんは何も悪くないじょ」

 

 和には無表情な優希を見たことが何時以来か思い出せなかった、良い方ても悪い方ても感情ははっきりするのが優希だった。和は苦笑いを浮かべて顔を左右に降った。

 

「いいえ、謝らせて下さい、元を辿れば龍門渕さんがあんな風に言ったのは私が弱いからです」

「アイツも悪くないしのどちゃんも弱くなんか無いじょ、私が余計な事を言ったせいだ、こっちこそごめんな」

「龍門渕さんも本音は優しい方だと知ってます、優希も何も悪い事はしておりません」

 

 お互い自分だけが悪いと言う、知りたあってから4年目に至るとそういうもんかも知れない。和も優希と同じく遠い空を見上げた、東京の空でも長野の空でも全く同じ青くて白い雲が流れてる。

 和は目を閉じたまま一年前の記憶まで遡って、何時しかお父さんに約束を言い出した日の事を思い出しながら口を開いた。

 

「1年前の私は何処か勘違いをしてました、いいえ……もっと質の悪い傲慢でした、私なら高校の全国でも勝てると、だから私はお父さんとそんな無茶な約束をしたんです」

「私ものどちゃんなら全国優勝出来るって信じてたじぇ、今もそれが間違いとは思わんじょ」

 

 優希はそう言ってくれたけど和は昨年の試合を思い出せると、自意識過剰だと笑われても仕方ないと考えていた。昨年の個人戦トーナメントでぶつかった者の中でも特に強かった高校3年生たち、千里山の清水谷、新道寺の白水、琴似栄の吉田などの堅実で空きがない強者達、そしてインターハイ絶対王者の宮永照まで、彼女達の強烈な打ち筋は麻雀とインターハイへ挑む志しを感じさせた。その青春の夏でネットの世界とはまた違う新たな壁を体験した。だから優希の前では少しくらい弱音を吐いてしまう。

 

「……でも今考えるとそんな約束せずにお母さんにワガママをした方が良かったかも知れませんね」

「それこそ、のどちゃんの生き方とは程遠いんじゃないのか?」

 

 確信に満ちてる優希を見たら和は言葉が喉を通らなくなってしまった。生き方とは何か悩み続けるのこそが人生だけど、それを知るにはまだまだ幼いと自覚はある。だけど優希は言い切った。

 直ぐ答えられない和の横顔から複雑な感情を読み取った優希はベンチの済を蹴ってぴょんと飛び上がる。結構な距離を立ち幅跳び選手の様に飛んで着地してはくるっと回って和の前を向いた。その後、目からイナズマでも放つかの様に両腕を組んで堂々と大地に立つ。

 

「衣はのどちゃんが人生に生かされてるって言ったよな?私には衣や宮永照みたいに変な洞察能力は無いからそれが正しいか知らないけど、私が見て来たのどちゃんは正しいと思うのは絶対曲げない不器用な子だって知ってるじぇ」

 

 何年も見てきたイタズラ混じりのスッキリした微笑みを見せてくれる優希と目が合って、和はやっと昔の空気に戻った気になった。

 

「私の事をそのように考えてたんですね」

「親友だから何でも知ってるじょ?」

 

 冗談には冗談で返す、それが見た目は軽いけど中身は深い友達の在り方だ。そう考えてるから和も優希も笑える、何でも笑える関係だ。どんなに離れて時間が経っても疎遠になど成らない、それをお互いを見て確認したかった。

 優希は腕組を解いて指を唇に当てた。

 

「ふふむ……冗談はこれだけど、それとな……全然責めるとかじゃ無くてな……」

「はい、言ってみて下さい」

 

 咳払いをした優希の声が段々小さく成る。

 

「知ってるけど、そもそも私が麻雀始めた理由はのどちゃんと遊びたいからだったじょ」

「そうでしたね」

 

 和は敢えて短い返事だけを口にする。優希の言葉を待ちながら膝に手を置いてスカートの端を押した。

 

「だから、のどちゃんがもう側に居ないまま麻雀を打つのが寂しいのも本当だし、咲ちゃんも居なくてもっと寂しいじょ」

 

 そんな事は言葉にしなくても解っている、和も同じだからだった。電波を通じては決して言わない事を話ながら恥ずかしめに赤くなった顔と表情を隠す為に後ろ歩きで少し離れてる気持ちも解った。だから和は優希の言葉が過ぎれても何も言わない、優希の感情をあやふやにする言葉など飲み込んだ。

 

「でも寂しいけど私は麻雀を打ち続ける、だから今でものどちゃんに心残りが有るなら私に任せて観ていて欲しいじぇ、これから何処でもこの私の姿が見られる様にして上げるから安心してな……のどちゃんも咲ちゃんも、どんなに離れていてもテレビの中で私を見掛けたら私達は何処でも一緒だじぇ!」

 

 勢い良く並べたけど優希は自分がうまく言えたかも、伝えられたかも、全然分からなかった。だた鏡を観なくても耳まで赤くしているのは間違いないだろうと思っただけだった。心がスッキリとまでは行かなくとも自分の感情は後で整理すれば良いから今はこれで程でも良い、けれど和がどの様に受け入れたのか、今どんな表情をしているか、直視するにも勇気が必要だった。だから優希は和に右手を差し出した。

 

「恥ずかしい事いっぱい行った気がするじぇ……もう帰らなきゃ!アイツらを待たせるのも悪いし、お金も持って無いから置いて行かれると困るじぇ」

 

 和は差し出した優希の手を左手でぎゅっと強く握った。

 

「はい、行きましょう」

 

 優希と和は並んで速くも遅くも無くただ互いに速度に合わせて歩いた。ふたりは木々で埋め尽くされている公園の緑の下に溢れる家族や友達、恋人だちの中をすり抜ける。そう黙々と歩いているとこめかみから汗が一滴流れ落ちた、暑い太陽の陽射しから夏が近づく時期だと気づく。

 公園の出入り口を出たら通りの向こう側がすぐホテルの入口だ、そこから一番近くの横断歩道を渡って、和だけが足を止めて握っていた優希の手を放した。

 

「優希、私はここで帰ります。龍門渕の皆さんにはよろしく伝えて下さい、長野に帰ったら染谷先輩にも元気にと」

 

 後ろを振り向いた優希は残念そうな表情を隠せなかった。半年ぶりに会ってまだ1時間くらいしか立ってないけど、もう行き先が異なる友達を引きずる事は出来なかった。

 大人ぶって空になった手を、まだ指先に温もりが残っている内にポケットの中へしまい込んだ。

 

「解ったじょ、ここからのどちゃんの家は遠いか?」

「いいえ、間近ですよ、あそこのバス停ですぐですから、心配要りません」

「そうか」

 

 後ろのホテル以外にも高いビルが無数の東京のど真ん中、テレビの番組やニュースで観た東京都庁が威圧感と存在感を誇る風景が、優希にここは自分の故郷の地では無いと伝える。だけどまた来られる事を、優希はまた次を約束する。

 

「じゃ、夏には1日くらいのどちゃんの家に泊まりに来るからな!寝かさないじょ!」

「はい、待ってます」

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