大学周辺の街は何処でも大きく変わらない。大学キャンパスを中心に拡大した商店街が流行に敏感な若い大学生狙いの食べ物や買い物で備えられる。娯楽も同じだ、ボードゲームは時代が変わってもアナログでしか感じられない楽しみを求める客と、友達に連れて来たか興味本位で訪れた新たな客、両方を同時に攻略する無理ゲー的な経営を強要されている。
「こう言った店は初めてですが、見た目は普通のカフェと変わらないですね」
「日本の雀荘とは大違いな感じがしますけど……ここは雀荘じゃないから関係無いのかな?」
木材柄のインテリアやちょっとぬくもり系的な茶色い照明ですごく落ち着いた雰囲気の所だった。壁には凄い量のボードゲームのボクスが2メートルに近い棚いっぱいになっている。でもふたりの目当てはボードゲームじゃないから幾ら有っても関係ない事だ。
室内でも日傘を差したままの明華はカウンターに直進して、咲は解らぬ言葉で話を始めた。しばらく他の客を観察してると、話が纏まったのか、明華はペコッと挨拶して咲の所へ戻って来る。
「咲、好都合です、ここの店長さんが数合わせしてくれるそうです、店長ともう一人はここの娘さんがリーチ麻雀なら出来るらしく、今上の階から呼んでくれるとおっしゃいました」
「それは良かったですね」
良いんだか悪いんだか誤魔化しの笑い状態の咲は明華に手を引っ張られて、カウンターから出た店長さんが案内してくれた別の部屋に入った。そこには自動卓が一個いたけど卓の上には麻雀牌でなく別のカードゲームが散らかっていた。多分麻雀の卓で使われる場合より、四角いゲームテーブルとしての役名が主に成っていたらしかった。
店長は背面黄色の牌を全部自動卓の中に入れて青色の牌から東南西北の牌を抜いて卓の上に並ぶ。明華が先にひとつを捲った。
「咲、選んで下さいね」
牌を引いて椅子に座った咲と店長、そして間もなく部屋に入った背丈小さい少女が加わった。顔立ちも中学生くらいに見えるけど、最後の牌を取る指は、結構麻雀を打ってるとしか見えない手さばきだった。
先に言ってた店長の娘さんだろうと思って咲は二人に向けて簡単な挨拶をした。発音は下手だったけど、挨拶くらいは二人とも解ったらしい。
やっと4人で卓を囲むと明華が嬉しそうな笑顔で、まだまだ変な顔になってる咲を覗き込む。
「では半荘2回で宜しいですね、ルールは基本ありありで25000点スタート30000点返し、赤五は萬筒索各一枚、頭ハネで、責任払いは大三元・大四喜だけだそうです、他に質問有りましたら私がお聞きしますけど」
「いいえ有りません、大丈夫です」
「ならサイコロ回しますね」
「はい、よろしくお願いします」
咲の言葉に続いて明華も何かを喋る。理解出来なくても、咲にもそれが同じよろしくとのお礼の挨拶だと解った。店長と娘さんも咲が何を言ったのか理解した模様だった。お互い話が通じ無くてもルールだけ一緒なら簡単な合図だけの麻雀なら進行に何の問題も無い。
何時ぶりか、牌に触る感覚を手は忘れてない。
[東1局]
東、宮永咲
南、娘さん
西、雀明華
北、店長
同然のように配牌から西が3枚揃ってる明華は咲の打牌に集中した。普通に字牌切りの繰り返しで流れる、最初から突っ走る攻撃は見せない気だと判断した明華は自分から仕掛けるか悩んだ。
誰も鳴きを入れない静かな場で捨て牌を曲げて初めて発声をしたのは明華でなかった。
「Riichi」
店長の娘さんが小さい声でリーチを宣言し、リーチ棒を出した。この自動卓にはリーチ棒を置く所がないから適当に上げておく。
誰も鳴いて手牌の数を減らしてないから即放銃はほぼありえない、明華から安牌の發を出した。
(やる気が無くとも嶺上牌は咲の有効牌に成ってるのでしょうか?プラマイゼロの為の支配力を張ってるかどうか、確認しますか)
明華はどの様に確認するか方法を考えてみた。大会でも牌譜を書く人も無いから、嶺上牌が咲の有効牌か確認する為には、咲の嶺上開花での和了を待つか、嶺上牌を奪って全人の和了を封じ流局まで導き聴牌宣言を見る方法だけだ。
なのに両方も困難な他家の先制リーチ。一巡目は誰の放銃も無く一発ツモならず、期待はずれのツモにがっかりの感情が顔に出るのを隠さない娘さんがツモ切りをする。
生牌の西が出て来た。
「Kan」
自風を捕えた明華が娘さんからの西を持っていき大明槓した。嶺上ツモは8索で、一応8索は咲の捨て牌でも、筋でもなかった。明華は多分咲にはこれが有効牌だろうと考える。
明華は軽い手さばきでツモ牌を表にして下ろした。
「Tsumo, 1600/3200」
一ニ三③③67中中中 (西)西西西 ツモ8
いきなりの嶺上開花に場の空気が凍る。最初の和了が嶺上開花なのはどう考えてもオカルト、それでも麻雀では何もかも偶然に出来る。
咲もそう考えたい気持ちはいっぱいだ。だが今、目の前に座って居るのは「風神」雀明華だ。自分の親を流し僅かだけど4位まで下げたこの一手が偶然の訳が無い。
明華はニコッと対面の咲に笑いを送った。
[東2局]
リーチ棒を奪われた少女は安い親かぶりに当たった咲とも僅差だった。ただ自分の手と相手の捨て牌で残りの枚数を数えて前に進む、親だから危険牌を考える理由は無いとの勢いだった。
それに運も応じる様に7順で聴牌に至る。
「……Riichi!」
打点を上げる為にニ三筒の搭子まで捨てて作った高め満貫の三色をダマテンに取らずリーチを掛ける。
(無理をするのは焦ってるのでしょうか、見た目と違い頭に血が登りやすい性格?)
「Ron, 2600」
リーチから2順目に門前の明華から放銃してしまう。格の違いと言う物が明らかな状況だった。運に左右されるのが麻雀だけど、完璧に待ちを読まれて安牌を落としながら和了るとそれは実力の現れだった。
悔しそうな顔で点棒を渡す。
2連続和了で自分の親を迎えた明華からいきなりプレッシャーが消え去ったのを、咲は気づく事が出来た。普通の麻雀ならむしろ点数を稼ぐ機会として攻撃に来る番に手を引く、咲は東3局を連荘する事で点差を付けるのを控えてるのだと考えるしかない。
その局では明華の手はただ静かだった。東だけを川に出せないまま完全な店じまい、その局では店長の娘が意地の3度目のリーチでやっと和了に成功した。
[東3局] 終了
宮永咲 19800
娘さん 26800
雀明華 32000
店長 21400
9月は暇だったのに10月に入って試験やら仕事やらで時間が減ってます、分量が短いから一週間に3回は更新する目標だったのに……!
せめて週に1回くらいは必ず……!