これが19話になります。
まぁ別にどっちでもいい事ですが、これが見やすい感が有りました。
まだ暑く成る直前に行われる県予選が間近な5月末に、清澄高校麻雀部の女子たちは元部長であり今は部員だけが認めた非公式監督である竹井久の呼び出しに応じて長野県を出る鉄道に乗った。
県外に進学したのを理由に、ほぼメールやラインでの連絡だけで時々連絡もなしにふっと勝手に現れる久だったが、今度は久からこっちに来いと電話が掛かってきた。
出発前の優希は合宿だと言ったから前のように山の中の旅館とかを想像したけど、全く違う建物だらけの都会に来ている。
「部長だ!」
「やぁ皆、それじゃ行こうか」
朝早く長野から出発したが昼過ぎにやっと駅前で久と合流する事が出来た。駅から一直線の大通りに続いて行くと、左右には森のようにいっぱいの木々を誇る敷地が現れる。
「おおっ!なんか教会っぽいのがいっぱい有るじぇ!」
「あら、言われてみればそうも見えるか」
「いや、全然違うじゃろ」
優希はちょっと古い歴史を感じる西洋風の近代的な建物たちに対する感想をそのまま言い出したが、まこのツッコミにもう一度見回してやっと、誰も隠さてなかったここの正体に気づく。
「なんだ、よく見たらここは部長の通う大学じゃないか?」
「そうだよ、文句ある?」
「私達が勝手に入っても良いんですか?」
休日だからなのか学生たちがほぼ見当たらない学内を歩きながらの数絵の質問に久は顔にハテナを浮かべる。考えれ見れば成長期が過ぎた女子だから18だろうが19だろうがほぼ違わない。歳は1年か2年くらいしか離れてないけど、どうにも自分たちは高校生だという意識があるから意識する。
「見た目では高校生か大学の新入生か判らないでしょう?」
「でも、やっぱ華やかな女子高生とは違うじゃろ」
「私に喧嘩売ってるの?」
久の前でニヤけるまこに久はマジなのか分からないほどの低い声を返した。
「その意味でなら美篶は大丈夫そうだな」
「えっ、どういう意味ですか……?」
「言った通りの意味だじょ」
大学生を超えて出勤中に見えるスーツを完璧に着こなしてる美篶に優希が親指を立てる。
「別に大学なんて開かれていて同然な場所よ、それにこっちも非公式の合宿だから」
「こっちも?」
数絵が疑問を浮かべてる間もなく、久はある建物に入っては4人を急かす仕草をした。
くだらないボケとツッコミを繰り返しす内に真の目的地に辿り着いたのだ。
「皆、早く来なさい〜!多分私達が最後だから」
ちょっとお急ぎの久の足音が遠ざかるけど、もう疲れてるに加え2泊の荷物まで背負ってる清澄高校麻雀部は遅く遅い速度で追いかける。
多目的室と書かれてる大きい扉の前で待っていた久は、荒い息を吐き出す美篶まで全員が揃うとぱっと勢いよく扉を開けて、四人を中に押入れた。
「はいはい~最後のスペシャルゲストを紹介します~!こちら清澄高校麻雀部です!パチパチパチパチ」
口で拍手の音を出してまで大げさな歓迎をする。
久の大きな声と共に入った清澄麻雀部は中を見回した。雀卓が幾つか在る、ひと目にもそこが何の為の場所なのか解った。だけどその中で4人揃って動かしてるの卓は1個しか無かった。牌を触っている僅かな先客たちの目線が一箇所に集まる。
この状況に戸惑ってる清澄の4人に、久は向きを変えてこう言った。
「そしてようこそ、一橋1年麻雀チームへ!」
「こっちがお客にされちゃったじぇ!」
「私達の生け贄にしてあげるわよ」
一生懸命にふざけてる久を見て、卓に座ってた四人が近づいてくる。皆見覚えの有る顔ぶれたちだ。
「こんにちは、1年ぶりだね」
「遅いやん久……でも大歓迎するわ、清澄の皆さん」
「今年は初めて顔を合わせるのか、初めて見る顔もあるな」
「はじめまして、二日間ですが一緒に頑張りましょう」
4人各自多用様々な挨拶だ。全員、昨年には3年生としてインターハイに挑んだ者たち、個性豊かなのは同然のことだ。
「加治木さんに臼沢さんか」
まこは何度も一緒に打て親しい加治木ゆみと、多分原村和に結構な恨みが溜まってる筈の臼沢塞は一見で思い出したけど、清澄と直接対戦してない二人の名前を思い出す為に眉間に皺を作る。
「それにインターハイで見覚え有るけど、確か……」
「古塚梢と申します、昨年のインターハイでは劔谷高校の中堅を務めるました、よろしくお願いいたします」
「うちは園城寺怜や」
和服が似合うような大和撫子と、だるいそうで眠い目が真逆だ。覚えてくれないのにも関わらず親切丁寧な梢のに比べ、怜のは短すぎる名乗りだけだった。麻雀して倒れても大会出場は諦めないのに、こういうのは不誠実過ぎる。
「南浦数絵です、こっちは1年の上原美篶、知ってます筈ですが片岡優希と染谷まこ先輩」
「よろしくだじぇ!」「よろしくお願いします……」
清澄も体調的の優希と美篶で真逆なタイプの挨拶を贈る。
「部長、大学の部活に私達呼んでいいのか?」
「部活じゃないわよ?選抜とは程遠い一年生5人と部外者の高校生だけの部活動とかありえないじゃない、自主的な強化合宿さ」
非公式監督らしき非公式合宿に優希は目を丸くする。
「そんなん弱音みたいなもん出しても、こんなん集まれば一橋の次期エース達なんじゃろ?」
「年内にそうしてもらうで」
「園城寺さんは何時も自身ありありだね」
怜の自身満々な顔を見て塞が呆れ顔になると、ゆみは手で口を防い でふっと笑った。
「まぁでも、ここで園城寺だけは麻雀特待生だから認めるしか無いな」
「私達もこれから精進して結果が付いてくれれば良いでしょう、その為に今は誰であれ自分を磨く時ですよ」
「梢はいつも前向きだな、自責の念が強いのだけ除けば」
「そ…そうでしょうか」
久の言葉に梢は少しデレるのか恥ずかしいのか顔をそらした。
「園城寺ならプロチームの指名受けて高校卒業と同時にプロ行きのイメージがあったから、学校で会った時は驚いたな」
「うち、ちょっと病弱で」
「関係ないでしょう、それ」
誰が見ても園城寺怜へのツッコミは臼沢塞の役割となってるように見える。この中で怜と塞だけが知らない。
「このメンバーで怜シフトシーズン2してもらうんで、頑張るしかないんわ」
その言葉に、言い出した園城寺怜以外の一橋1年全員が、図々しい怜を哀れな者の様に見る。
その意味が解らなかった古塚梢だけが疑問を浮かべて怜に質問を返す。
「怜シフト?私は初耳ですがそれは何ですか?」
「梢は喜んでやると言い出す感じが有るから言ってなかったで」
「私もやらないし、誰も怜の面倒見てあげないよ」
「ゆみちんがやってくれそうやん」
「知らん!全く、あだ名だけすぐ覚えるな」
確か聞き覚えの有る呼び方にまこが久の背中を軽く叩いて疑問を確認した。
「鶴賀も来てたのか?ワシらだけじゃないのか?」
「先週にね、蒲原さんの車で何人かは観光もしたわよ」
「ほほう、部長も次は車で迎えに来てくれ」
すぐ隣にいた優希の無理な要望も久の耳に入っただろうが、久は牌が散らかっている卓から風牌4枚を選びだした。
「では揃うメンツは全部揃ったし、早速強化合宿に張り込みましょう!」
「無視された!それに私は長旅に疲れてるじょ……」
「麻雀の合宿に麻雀やらないと何をするんだ?体力を付けるのも修行のひとつよ、未だに飽きっぽいのままじゃだめでしょ?」
スパルタ式を押し付ける気満々な言葉に優希は嫌だという感情を丸出しにする。急な呼び出しに夜遅く準備をしたのであんまり睡眠をとってない。だからの愚痴だったが何時からなのか久が優希に対して鬼のように容赦がない。それは与える練習の量からも見られる。
「少しは堪忍袋を増やさないとね」
顔は笑ってるけど、優希には体と精神を蝕む為に這い寄る混沌に見える。優希は久に肩を握られ逃れないのを実感する。
「怜、この子滅茶苦茶にいじめてね」
「うち、そういうの殺し屋みたいなもんちゃうで……」
・
タコス充電も出来ないまま牌で一方的に殴られた優希がやがて目をくるくるっと回してる。
「本当疲れたじぇ……ご飯寄越せ!ご飯!」
「優希が壊れてしもうた……久、これで大丈夫なん?」
「どもどもー、怜は麻雀なら使える子なんだね」
「何か皆に私のイメージ悪くないん?」
久の差し金で結成した『優希を散々イジメ隊』の活動が被験者である片岡優希のオーバーヒットによって解散される頃、別の卓では麻雀より話が盛り上がっていた。
「リーグでは豊音も時々出てるし、嬉しいけどやっぱ羨ましいな」
「姉帯プロか、私達の世代でもう選抜固定の宮永照以外では一番目立ってるのは確かだな」
「宮永照さんに関しては同じ世代だとはとても思えませんね……別格といいますか、昨年に2回戦を抜けてたら白糸台と会うのでしたけど」
「やっぱワシも全員がワシと同じ学年の龍門渕を意識してしまうし、誰も同じじゃろう」
雑談も多いけどやっぱり麻雀で集まった雀士たちだからプロ麻雀の話も主な話題になる。
大学生に成っても麻雀の道を歩いていくというのは自分たちもプロの世界にも行きたいとの願望の現れだ。だから一歩先にプロの世界に踏み入れた、昨年の戦友だちの成績も見る。それが同じ高校の友達ならなおさらだ。
同窓会みたいなってる大学1年の会話に、これからの進路に悩む高校3年の染谷まこも自然に溶け込んでる。
「それで清澄は団体戦にエントリーは出来るのか?」
ゆみは前に久から大体の現状は聞いているけど、心配しているとの気持ちを込めて聞いてみた。
だけどまこと数絵は目を合わせて困った笑いをした。
「そうですね、美篶一人得るのも苦労しましたので今は分かりません」
「す……すみません」
「数絵は別に責めてるんじゃないさ」
「なら久が留年した設定で出るのはどうだ?」
「それより、桃子ちゃん貸してくれない?」
自分の名前に反応して久が話に割り込んで来た。
無理な冗談にゆみは鼻で笑う。
「ももは昨年も今年も鶴賀のエースだ、やるわけがない」
「あら、残念だわ」
「ほな暗い予想はいいから別の話や、今年のインハイなら何処が優勝に1番近いと思うん?」
急に怜が言い出したその質問に、清澄の2年生以下と塞だけを除いたここ全員の目つきが鋭く変わる。
確信に満ちてる雀士たちの決して曲げない目から、見えないスパークが走り駆け抜ける。
「清澄」「鶴賀だ」「劔谷ですね」
「同然千里山やろ」
「言い出したあんたまでそれか!」
塞のツッコミに怜は呆れたとの表情を浮かべては頭を左右に振った。
「塞は母校に対する愛が足りないな、そんなんじゃ駄目やで」
「……大阪人本当面倒いわ」