優希-Yūki-、再び全国へ   作:瑞華

22 / 57
第22話、明日には

「それでは皆、いよいよ初出陣の時間じゃ!」

 

 1回戦の観戦とお昼の時間はあっという間だった。簡単な作戦会議の後にいよいよ迎えた2回戦、新生清澄高校麻雀部は記念すべき初戦の場に向かった。

 試合開始5分前との案内放送が流れてる中、優希は仲間たちにVサインを作って見せた。

 

「やっと公式戦で打てるじぇ!」

「緊張感無さすぎだよ、片岡さん」

「俺の作ったタコスは最強だから頑張れよ」

「頑張って下さい、先輩」

「優希、勝って来い」

「頼むわよ」

「任せとけ!」

 

 堂々と卓に向かう優希を送ってから、残りの5人は中継が流されてるホールに足を運べた。昼も過ぎて取材の熱気はひとまず収まったので、5人集まって見届ける事にしたのだ。

 シード高の登場にざわつくギャラリーに溶け込んで、優希がサイコロを回す姿を見ながらまこは久との会話を思い浮かべる。

 合宿として久の大学に行った時、ふたりだけで買い出しに行ったら急にオーダーに対して言い出した事を。

 

『先鋒は同然だけど優希、最速最大の破壊力で一気に突っ走ればその時点でゲームの勝負を釘付ける、県予選の2回戦くらいは多分簡単だよね』

 

「貰ったじぇ!ロン、18000!」

 

 東1局の初っ端から優希の親跳が炸裂する。安牌すらほとんど無い6順でキツイ放銃だ。

 10万点から36000点差を付けられては視野が暗くなるだろう。

 

(これが宮永照と張り合った怪物なの?)

 

「どんどん行くじぇ〜!」

 

 卓上に波乱を巻き起こす東風の神はまだまだ止まらない。

 

 

『次鋒は美篶がいいよね、優希の後だから高い手にこだわず安心して速度と守備中心に打てばまま行けると思うし』

 

「ツモ、800・1600の1本場は900・1700」

 

 他家のツモ上がりで南場での美篶の親が流される。

 美篶は前のツモ順で手牌に仕舞い込んだ二萬を見下ろした。対面のツモ和了りを決めた牌、筋頼みでこれを出したら放銃した筈。軽いため息と共に手を伏せる。

 

(ふう……親番が流されたけど安い親被りだから良かったかな?)

 

 画面の中の後輩の顔を見て優希は不満そうに自分の膝を叩いた。

 

「美篶の奴、親が流されたのに笑ってるじぇ!根性が足りん!」

「まあまあ……アレが美篶にさせた打ち方じゃけん役目を果たしてるだけ、ムキになるな」

「ふん、私のタコスあげないじょ!」

「正確には俺のだけどな」

 

 京太郎のツッコミには無反応で済ませる優希だった。

 

 

『中堅はまこに任せるわ、最上級生の役目はわかるよね?私の後継者として頑張ってね部長!』

 

「ロン!12300!」

 

『おおっと、清澄の染谷まこ、4連続和了!』

 

 門前なのにリーチを掛けない萬子の染め手と役牌、合わせて満貫の和了は親だから十分な火力を放つ。

 最下位との差がとんでもない事に成りつつ有る。試合は完全に傾いてる。それは観戦してる誰にも明確となった。

 

「なんだかまこちゃんってずっと一色の手張ってない?」

「それもそうだけど、アレでダマの狙い撃ちとか意味不明だじぇ」

「染谷部長、捨て牌で一色なのを隠すカモフラージュもしてますし鳴きも控えてます……私が相手だったら絶対打たれました」

 

(もうすぐ、私の出番か)

 

 南浦数絵の高校で最初の団体戦出場、あまりにも酷い点差、なのに心の底から緊張感が湧いて来る。

 

 

『副将は数絵、優希が東1局の起家で始まりを支配するとすれば、数絵ちゃんは南場での支配力で対局の最後を制する事が出来る、ここでシャットアウト』

 

(まったく……最初から最後まで全力で打つのが前提とは、よくも無理を言う監督で困りますが……)

 

「ツモ、8300ALL」

 

(求められる役割りならば)

 

『おおっと、ここで試合終了!南浦数絵選手が南1局4本場、怒涛の快進撃が飛び終了で試合を終わらせた!清澄高校が明日の決勝進出のチケットを手に入れました!見事な成績です清澄、さすが今年も健在だと知らしめている!』

 

 南入早々迎えた数絵の親番、誰にも和了を許容しなかった数絵は、椅子から立ち上がってはすぐ髪を結んだ。その姿がスクリーンから皆にも流される。

 

「え、終わったの?」

「やった、かずちゃんの和了りで決勝進出だじぇ!」

「おお、数絵のヤツ、凄いじゃねーかよ!」

「やりましたね、先輩」

 

 皆と一緒に勝利を祝っても良い時、まこは腕を組んでひとりで笑ってる。

 

(本当にやらかしたじゃないか、やっぱ部の事を一番よく知ってるのはあんたじゃよ)

 

『県予選での作戦は簡単、数絵ちゃんまでに他家を飛ばす』

『……言ってくれるじゃないか』

 

 久にそう言われて、まこは袋を持ってる手から力が抜ける気分になった。

 めちゃくちゃな作戦、それを作戦と呼べるのか?まこにはそうしか考えようが無い。だが冗談にも思えないくらい真剣だ。

 

『じゃ、大将は居らんのか?』

『名前だけなら今学生議会副会長の菜月ちゃんを入れれば出場に問題は無い』

『菜月?ああ、紫芝か?ワシと同じクラスじゃ、その子がやってくれるのか?』

『本人には私から言っておくから大丈夫、けど点差をいっぱいつけてからの1,2回戦くらいならともかく、今すぐ麻雀の大会に出すのは無理だね』

『じゃ、どうするんだ?やるなら前に出して数絵を大将にした方がましじゃろ』

 

 まこがオーダーを決めるならそうした、それしか答えが無い。合理的・効率的・現実的、現状でそれ以外は無い。

 けど久は予想したままの反応を見せてくれるまこにくくっ笑いながら話を続けた。

 

『正論だね、確かに前例も有るしね、昨年の鶴賀は素人の妹尾さんを入れて決勝まで来たし、ゆみの最後の国士が決まってたら優勝は鶴賀だったよ』

 

 確かに加治木ゆみはそのオーラスで国士無双を一向聴まで仕上げた。一歩早く東を手に入れてたら国士無双で逆転しただろ。ダークホースの大逆転になったかも知れない。

 

『それを知っとるんなら尚さらじゃ』

『そう、それは有効な作戦だった、四暗刻の不意打ちが見事決まったのも有るけど素人を入れて挑むのも可能だと知らしめたのよ、だけど結果はどうなった?勝ったのは清澄高校だよ』

 

 そうだ、鶴賀は負けた。同じ方法ではかなわないのだ。

 

『それは良い作戦、他の県だったら私も菜月ちゃんを次鋒くらいにしたわ、だけど長野には天江衣がある』

『天江衣か……』

 

 その名前にまこは何も付け加える事が出来なくなった。全国魑魅魍魎のひとり天江衣、自分と同い年とは思えない外見とは大違いな実力で可笑しな打ち筋をする。

 その天江と座って完全に押されてた数絵の顔がまこの脳裏をよぎった。

 そこでやっと、まこも久の意図を察した。魔物たちの道に堅実だけではかなわないのだと。

 

『優希では天江さんと相性が悪すぎる、数絵ちゃんは強いけどまだその領域には至らない、美篶だってまだまだ精神的に不安定だから後半に出したくないね』

『そりゃー理屈はワシも解るが……』

『相手の4番とは勝負しないのが野球での定番だよ?』

『野球じゃあるまいし、フォアボールとか無いんじゃが』

 

 野球はよく知らないけどまま解るような例えで、冗談には冗談で返す。

 だけどどうやら本気みたいだった。

 

『そうかな?昨年の井上純は2回戦をたったひとりで片付けた、決勝の大将戦では天江衣が風越を意図して0点まで落とした、あなた達に出来ない訳が無い』

『褒め言葉としちゃありがたいがのう』

『根拠の無い褒めじゃないわよ、今の清澄なら副将まで一校でも飛びにする条件くらい出来る、県予選さえ突破したら1ヶ月以上時間も有るから、それまで菜月も美篶も勝てるように奇術とセンスを身に付けば良いし』

 

 久が言ってるのはとても現実的だとは思えない、一か八かの賭けだ。

 まこは袋の中からペットボトルを2つ取り出す。

 

『これからの事を考えると喉乾いたのう』

『これは数絵とふたりだけで知っといてね』

 

 ありがたく冷たいのを受け取った。久も結構喉が乾いたらしい。

 

 

 昨年は県予選1日目の帰り道に最終の列車と遭遇する程、遅い帰宅と早い出発を経験した。だが今年は違う、何と6人で結構なホテルに宿泊する事が出来た。

 さすがは学校の予算を貰える実績の力は大きかった。お金が有ると何でも出来る。昨年の部長でありながら学生議会長だった久は味わえなかった贅沢、昨年全国での活躍の原動力だった久のお陰で、まこ部長の面も立ったものだ。

 

「ふふんー!美味しいご飯にふかふかなベッド、これ以上何も求めないじぇ」

「説明はこれくらいで良いとするか、皆頭にちゃんと入れたかのう?」

「バッチリだじぇ〜!」

「本当か?もう忘れてるんじゃないのか?」

 

 食事後のデザートとしてタコスを口の中にいっぱい入れてからの適当な返事、まこから疑いの目線をが放たれても優希は全然構わない。それが優希だ。まこも優希に限ってはこれを聞いてるよりタコスを十分に食べる方が大事な感じがし始めたので、これ以上の説教は言わないと諦めた。

 それよりは新人の二人だ。

 缶コーヒーとにらめっこをしていた美篶はため息をついてしまう。

 

「……私は何もしないでお昼食べて、夕食も食べてる気がするんですけど……これで良いのでしょうか?」

「上原さんがそんな事言ったら、私なんか1局も打ってないよ……私だけ指示も無いし」

「何もしてないってのは違います、会場に馴染んで腕と頭を動かすのも準備ですから」

 

 ベッドの上で聞いていた優希は数絵にしてはやけに優しい言葉付きに違和感を感じたが、つづく内容はそうでもなかった。

 

「それに美篶と菜月先輩には技巧を求めてないのを気にする必要も有りません、最善の結果を期待しますが、期待される結果は人それぞれです」

「えっ、それはそれで何も期待して無いみたいじゃん……いや、逆だった、このまま期待しないで下さい!」

「いやいや、団体戦には5人が各自違う相手と張り合うんじゃ、同然作戦も違うし、同然それぞれ違う役目が有る」

「そうだじょ、私が全部倒すから大丈夫だじぇ!」

「余計なお言葉じゃ!」

 

 菜月の気持ちも解るけど、まだやる気を吹き込んで置きたいまこは、優希の腰に枕を投げて黙らせた。

 ぐえっと優希が上げた悲鳴と共にベッドから落ちる音がしたのだが、誰も心配してあげない。

 

「他の3校、予想通り龍門渕と風越に鶴賀……」

「1年ぶりの再戦だって記事も出てるけど、清澄の出場選手は半分以上が初戦だねー」

 

 今日は圧倒的に勝ったと言うのに夕食から相変わらず心配そうな美篶と、その隣で携帯でニュースを検索してた菜月は他人事のように言う。菜月なりの不安を隠す方法だ。

 

「菜月先輩と美篶、明日の心配は明日にしてればいいじぇ」

 

 床で這い寄った優希は菜月と美篶でもなく数絵に絡みつく。それに数絵は我慢して反応してあげない。

 

「明日が有るから祝っても頭に入れないんですね、私もそうですよ」

「ワシもじゃ、だから明日は盛大に祝おう!」

「そうだ、今日の朗報をのどちゃんと咲ちゃんにも伝えなきゃだったじょ!」

 

 立ち直った優希は静かな夜景を眺めながらメールを打ち始める。

 

 

 軽く冷たくて透き通る空気が降りて、照明の光が眩しい夜の高級住宅街を走り抜ける少女がいた。

 東京の週末はどこに出かけようとも道路が混んでるのは同然、駅に降りてからすぐ見える車の列に焦ってしまってはタクシーに乗るのを諦めてからずっと走ってる。それからずっと自分の足で、息苦しくて限界を越えようともただ走る。

 目的地である高いマンション、何度もマップのナビに入力しておいた住所と見比べた。迷子にはなれないけど、見てしまうのは何故だろ。

 震える細い足を止めて、マンションの共同玄関に入ってからやっと息を抜いた。

 原村和は、ラインの着信目録から大星淡の名前を探して押した。最後に届いた絵文字いっぱいのメッセージの中に書かれている番号通り呼び出しをかける。

 幸いその呼びは無駄には成らなかった。

 

『はい宮永です、どちら様ですが?』

「えっあの……原村…和と申します」

『お久しぶり、原村さん』

「もしかして……照お姉さんですか?」

 

 宮永照はその質問に無言を返事の代わりにした。和の方では顔が見えないと言うのに顔をうなずく。

 ひとつの卓に座ったとは言え、直接会話と呼べるほどの言葉を交わすのは今が初めてだけど照は昨年のインターハイで一回だけぶつかった原村和の事を覚えていた。

 でも和は、宮永プロから自分が前に会ったことが有る原村和だと気づいてくれたのは多分淡から先に連絡をもらったに違いないと想った。

 途切れてしまったので次の言葉と気持ちを整理するけど、ままならない。でも訪ねてきた和が踏み出すしか無い。

 

「……あの、あの…咲さんを呼んで頂けますでしょうか?」

『話があったら言って、隣に居るから』

 

 和は宮永咲の声が聞きたかったけど、わがままは言えない。

 この機械の向こう側から咲が聞いてくれるなら、入って来いと言ってくれなくても、返事をしてくれなくても、独り言のように話し始める。

 

「咲さんすみません、私は勇気のない馬鹿でした」

 

「咲さん聞いて下さい、私の顔を見てくれなどと言いに来たんじゃ有りません」

 

「私がどんなに語っても説得力など無いタダの綺麗事です、解かってます……だけど清澄高校麻雀部に居た頃の皆さんはいつも本気でした、私も本気でしたよ?本当です」

 

「今日、私達が居ない清澄高校はインターハイに挑みました……明日の長野県予選決勝では昨年と同じく清澄・龍門渕・風越・鶴賀の4校で行われると先ネットでも読みましたよ、1年しか経ってないのに懐かしいですね」

 

「明日は咲さんも予選に出るのでしょうか?これからのインターハイは期待になりますね、一緒に戦った友達が二人も全国で活躍するのを見れるならば嬉しい限りです」

 

「ああ、一緒に大会に出た事は有りませんが、穏乃や憧と玄さんも有りますし花田先輩も自慢のお友達ですね」

 

「この前、優希と会った事が有りましてですね、その時優希がこう言ったんです」

 

「咲さんと私が戻って来なくても、私達がどんな所で迷っても、自分が道しるべに成る為にと、私達がどこに居ても会える為に全国のに映し出されるカメラの前に立つ為に麻雀を打つと言ってくれました」

 

「ちょっと恥ずかしい話ですね」

 

「だけどその恥ずかしくて優しい心意気が有るから今日まで頑張れたんだと私は想います」

 

「……」

 

 ずっとインターホンの前に立って和の声を聞いていた照はマイクオフのボタンを押して、妹の顔を覗いた。

 

「咲」

「お姉ちゃん」

 

 照は離れるのも近づくのも出来ず、かよわくて枯れてる咲の頭を撫でてあげた。

 

「私にはあの時も勇気が無かった、だから貴方に何も言えなかったよ」

 

『だから私はとても感謝しています』

 

「でも咲は違った、勇気が無くて留まっていた私と話す為に来てくれた、二度も声をかけてくれた」

 

『逃げてしまった私は目標も力にも成ってあげられません、短い人生で二度も逃げてしまった馬鹿な者で、すみません』

 

「多分、咲なら麻雀で駄目だったら3度もそれ以上もしたと思う……咲にはそれが出来る勇気が有るんだ」

 

『……私ってば何言ってるのでしょう?ハハッ』

 

「咲、いつもあなたの花は自分の限界を超えた所に咲いたから」

 

『今日は連絡もなしに押しかかってすみませんでした照お姉さん』

 

「最後にもう一言だけ、これからも何処にいでも頑張って下さい、咲さん」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。