優希-Yūki-、再び全国へ   作:瑞華

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第23話、先輩たちの思惑

 会場の朝は早い、集まって来る観客たちと選手たちは今日を待ちに待ったからだ。清澄高校麻雀部も結局は家から朝早く出た時とほとんど同じ時間帯に浅い眠りから眼が覚めてしまったのでいち早くチェクアウトし会場に向かった。緊張は体を蝕むけど心の燃料にも成る。

 ホテルの朝ご飯を食べて一時間ほどしか経ってないのに、片岡優希は会場に入る前からタコス専用のバックを肩に掛けている。今年は京太郎からちゃんと2半荘分を貰ってるし大丈夫だ。

 

「皆の衆、行ってくるじょ」

「優希、相手の勢いを折るんじゃ」

「全部倒して来るじぇ!」

 

 まこの指示と言うより願望の言葉に格好良く挨拶を残した優希は自慢のカッコいいマントを京太郎に渡して堂々と控室の扉を出る。

 

 今日の競技はたった決勝のみ、出場する学校は4校、その4校が先鋒から大将まで各2半荘を総10半荘分の対局を積んで長野県を体表して全国大会に出場する最強の学校が決まる。

 長野の高校生20人が険しい道のりを潜りに、4校から今日のスタートラインに立つ先鋒の選手たちが次々と集まって来た。その場面を現場のカメラからの中継で一番早く見届ける三科アナウンサーの声が場内に響く。

 

『まず最初、県内屈指の名門の名に輝きは戻るか!風越高校2年、文堂星夏!』

『昨年は無名のダークホースだったけど今年からは違う!鶴駕学院3年、妹尾佳織!』

『一昨年の優勝校の龍門渕高校は今の決勝に3年連続出場中、龍門渕高校3年、井上純!』

『そして言うまでもない昨年優勝校!清澄高校2年、片岡優希!』

 

 中継席から熱い紹介を放つ三科アナウンサーの隣には解説として藤田靖子プロがだるそうな顔で座っていた。

 

「先鋒は基本エースポジションだからでしょうか?今年の先鋒に1年は無く、全員が昨年の決勝にも出場した選手です」

「決勝進出の4校が昨年と全く同じになったからな、基本的に先鋒はエース、学年が上がってポジションを先鋒に変える場合も有るし連続で先鋒を務める強いヤツも有る」

 

 片手に持った温かいカツ丼の蓋を開けながら、藤田靖子プロはそう言った。

 

「確か風越と鶴駕は中堅と次鋒から先鋒に変わってて、清澄と龍門渕は去年のままですね」

「1年からエースなのは数少ない特別な者達、全国の頂点に近づくほど1年生は急激に減る、理から外れた例外だ」

「そう言われてみると、龍門渕は先鋒から大将までの5人が1年生から3年間ずっと同じ選手です、これもかなり特異な例でしょうか?」

「まぁな、あいつらには別の理由も有ると思うが」

 

 全く中継の解説という自覚など無いかのように箸を握ってパクパクといい食べっブリにカツ丼を口にすると、三科アナは別に追加コメントはしなかった。

 

 対局室に4人の雀士が集まると開始1分前との場内案内が流される。

 相手の3人は既に着席しているのを眼で確認した優希は自分が対局室に最後に入ったのに気づいた。早速タコスいっぱいのバックを運営側の人に確認されてから、一段上の卓に着く。

 

「やぁ、久しぶりだな」

 

 優希の挨拶に佳織は胸元に手を合わせては大げさに嬉しい笑顔を見せてくれた。

 

「本当ですよ、皆さんとまたここで会えて嬉しいです!」

「今年はオレの分のタコスは無のかよ、チビ」

「私の分だけだ!ノッポは龍門渕透華に買ってもらえ!」

 

 昨年の合同合宿で馴染んだメンツだから軽い冗談も出るが、純から昨年の恨みを思い出せると優希はギギギと反応する。

 

「はいはい」

 

(この人たち、全然緊張感無いのは何でだろう……)

 

 星夏だけはこの異常な雰囲気に馴れず少し汗をかいてしまった。

 やがて照明の明かりが消えて、軽々しい雰囲気の裏に隠された緊張感と共に起家を決めるサイコロが回される。

 

『先鋒戦、開始です』

 

[東1局] 親、片岡優希

 

 配牌を開けた優希は眼を光らせた。満面に花が咲く、この配牌だとポーカーフェースも要らない。

 迷わず箱を開けて1000点棒を取り出した優希によって、全員同じの10万点のバランスが始まり早々壊れた。

 

(配牌から聴牌、天和にはなれなかったじょ……でも)

 

 その仕草が他の3人にも優希の考えが頭の中に流れ込んだ。

 優希は最初の牌を横に曲げた。

 

「リーチ!」

 

(ふうん、私の麻雀はここからは攻撃あるのみ!)

 

 六萬のツモ切りから出された高らかなリーチを宣言でここは一気に戦場と成る。

 

(ダブルリーチ!?)

(初っ端からか)

(余計に予想通りですよ、先輩!!)

 

 3人とも困る。手に六萬が無いと安牌など存在しない。

 一番にこの地雷に踏み出す優希の下家に座ってる星夏は、優希の親ダブルリーチに配牌から有りもしない安牌を探すハメに落ちいた。仕方なく第1打は西の対子を崩して凌ぐ。

 

「ポン」

 

(放っておけば一発も有り得るし、まずはこの流れを断ち切る!)

 

「ええっ!」

 

 純の鳴きに変な声を出したのは佳織だった。同然、優希はこんな事に驚かないのだが他の二人は優希の顔を見てから佳織に目線を変えた。

 このポンは自風の明刻で聴牌を追いつくよりは、流れを変えての防御の為にした鳴きだったけなので佳織が驚く理由は無いのにだ。

 

「な……何だよ?」

「あ……えっと、え、何でも有りません…ツモります……」

 

 純の目線とツッコミに対して口の中から空回る言葉をいっぱい飲み込んで、顔を赤く染めた佳織は慌てて自分のツモ牌を取る。

 

「九種九牌じゃったか」

 

 敵の事ながらも、染谷まこは画面の中の妹尾佳織の初心者っぷりに残念な声を上げてしまった。

 佳織にはこの危機を簡単に逃れる手が入ってたのに上家のせいで出来なくなったのが辛い筈だ。リーチ棒を掛けたまま流局になってしまうと、1000点差でも優希を4位に出来るところだったし、優希に微笑む場の流れも断ち切れた。

 でも、もう鳴きのせいで出来なくなってる。

 

 まこを含め清澄高校の控室では同然皆がテレビの前に集まって優希の動きに気を注いでいたけど、これくらいは他校に感情移入もする。

 

『10種10牌も親のダブリーなら降りに使うのが一番でしょうね』

『だな』

 

 優希のダブリーは3順目でツモ和了りになり、東1局は1本場に転がろうとする瞬間、清澄高校の控室にも転がって来た者が居た。

 

「優希は今日絶好調みたいだね」

「久!」

 

 聞き慣れた元部長の音声を捉えて反応したのは現部長のまこが振り向くと扉を仕舞いながら入ったのは誰でもない、竹井久だった。

 

「よっ!」

「あんた……何しとるんじゃ?」

 

 確かにどう見ても竹井久だったけど、ちょっと気になるところが有るとすれば、変な赤いメガネを掛けて髪型もポニーテールになってる所くらいだ。最後に一番訳のわからないのは、何故か卒業した筈の清澄の制服を着ている事。

 

「どう?やっぱセーラー服って可愛いよね?それを大学生になってやっと解ったのよー、高校生活の半分くらいは損したわ」

 

 ハロウィンでもないのに完全に仮装を楽しむ気持ちが丸出しだ。大体制服なのも可笑しいけど、スカーフの色も2年生用の緑になっている。

 数絵以外の全員が眼を丸くして、堂々と女子高生気取ってる久も見た。知り合ってからほとんど制服の久先輩を見てきた筈なのに何故かちゃんと言葉に出来ない違和感を感じてる自分にも驚いていた。

 

「可愛いですね、先輩」

「本当?ありがとうね」

 

 女子高生の久を今初めてご覧になった美篶の、お世辞か何かの褒めにも素直に喜ぶ久に若干ツッコミたくなったのは学生議会の方だった。

 

「部長!?」

「会長……?」

「やぁ!久しぶりだね〜元気か?学生議会の諸君」

「久しぶりも何も……何ですか?」

 

 在校中には威厳をばらまく完璧を気取る学生議会長だったのに、変な大学生コスプレイヤーに成ってる今の状態に明確な理由を思い浮かべたのは、まこだけの様だった。

 

「その格好でなら入らせてくれたのか?」

「まーね、やっぱ県大会は適当だよ、すこーしだけ嘘ついたら入れたの」

 

 確か選手控室には出場選手一行と運営関係者以外は入れないのが規則だ。だから竹井久はこの部屋に出入り出来ないのだが、それをあっさり突破したのだ。

 来てくれたのは嬉しい限りだけど、口からはありがとうの言葉より他の事が出てしまう。

 

「あんたさ……バレたら困るからここから出るなよ!」

「はいはい、部長さん、じゃお昼は須賀君が買ってくれるのよね?」

「来てそうそう買い出し命令ですか……」

 

 優希専用のタコス要員は勿論、5人の買い出し要員も覚悟している事だけども、入って早々これは辛い。

 

「相変わらず人使いが荒い」

「私はそういう女ですよ」

 

 適当な口答えの久は持って来たかばんを放り投げて、まこと菜月の間に割り込む。

 

「昨日今日暇だったでしょう?菜月ちゃん」

「いえいえ全然!緊張で暇ってのも有りません、でも機会が来たら会長の為に頑張ります!」

 

 怖い怖いと言ってたくせに直接顔を合わせると掌を返してる菜月に久は笑ってしまった。

 

「その調子だ、で…試合はどうなってる?」

 

 ソファーには座らず窓際に立っていた数絵は低い声で答える。

 

「優希の連荘で2本場です、竹井監督」

「もう?早いわね、いや優希が随分速いのか」

「でも今は少しだけ危ない場面になっています」

「どれどれ?」

 

 久のせいで皆は逃した1本場の結果で増えてる点数と現状に眼をやる。

 テレビには少し悩んでから手変わりを選択した井上純の打牌の後に、妹尾佳織の手牌が映し出された。

 

佳織の手牌 ①①①②③③④⑥⑦⑧⑨⑨⑨ ツモ七




 やっと県大会の決勝が始まりました!
 大将戦まで5回は清澄の皆にも、私にも険しい道となる感じです。
 書くたびに原作とアニメの咲-Saki-見てますけど、知らなかった(正確にはちゃんと見てなかった)設定が見当たりますね。
 それと、原作とアニメから違う設定も結構目に入ります。
 体表的にはroof-topがメイド雀荘と雀荘だったメイド喫茶で違うのは有名ですし、他にも原作では龍門渕の県予選2回戦で副将の龍門渕透華が篠ノ井西を飛ばしてますがアニメでは先鋒の井上純が飛ばした事になってるのと、原作では県大会団体戦決勝が最低でも長野・西東京・東東京・鹿児島は同日に行われた事になってますが、アニメでは西東京の決勝は長野決勝の翌日に行われた事になってます。
 ここでは一応原作とアニメのどちらかでなく、それぞれ楽な方を選んでます、好き勝手ですね。
 最近は仕事以外はこれ書くだけで、ネット麻雀もほとんど週に1半荘くらいです。麻雀では少し壁を感じてますが、昨日は久々に大三元の辺張出和了で上家飛ばし勝ち逃げしました。
 これからの展開の悩みで頭いっぱいだからでしょうか、ちんぷんかんぷんの後書きはたまらなく楽しいです。
 読んで頂きありがとうございました。
 女子高生コスプレの竹井久が見たいですね、
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