優希-Yūki-、再び全国へ   作:瑞華

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第24話、東風の神

「五筒でなら九蓮宝燈か」

「それが優希に来たら止まるか……いなか」

 

 久は腕を組んで妙な笑いを浮かべた。楽しさの笑いではない、胸のあたりからドクンと心拍は段々と上がっていくのを自覚してる。

 

「多分そのまま攻めるでしょう」

 

 口で同意は表しなっかたけど、久も冷たい意見の数絵と同意見だった。優希は既に手牌の中で赤五筒を面子候補で使ってる。それを含めてドラが2つ乗ってるし、一向聴で親だし、このままうまく行けば降りに出る事はない。点数面でも上昇する余地があるし十分な高打点確定だ。多分突っ走る。

 この空気にひとりだけ省かれた紫芝菜月は上半身だけを動かして自分の横側、ソファーの隅っこに座ってる上原美篶の耳元に口を寄せた。

 

「……上原さん、あれ清一色でなら待ちはどれなの?」

「二三筒です、五筒の方がチューレンの3面張です」

 

 皆が手牌を一瞬見ただけで読めるのに、自分だけ読めないからこっそり聞いてみる菜月に、美篶も同じくこっそり教えてあげた。

 

「皆さんは見て無かったでしょうけど、鶴駕は先局の2本場でも字一色の二向聴まで張ってました」

「何ですって?」

 

 急に久の声が以前と違く大きく高鳴った。

 その反応に数絵も少し驚く。この人からはわざとからかう以外一度も大げさな仕草など見た事が無いのだ。

 

「……役牌チャンタに持ち込むか悩む様子でしたが、それより優希の方が速かったので」

「それなら役満手に近い手を連続で、しかも今度は聴牌までした?」

「東1局では前に鳴きが無かったら九種九牌だったんじゃ……それも含めばこれでもう3回連続で手が役満に向かっとるちゅう事なんじゃが?」

 

 1回は偶然で済ませる、2回続けば自然では無い。なら連続しての3回は?原村和なら『凄い偶然』だと言うだろうし、獅子原爽も『それは偶然』だと言い立てる筈だ。

 竹井久はそんなデジタル一辺倒な考え方はしないし、あんな馬鹿げた戯言も信じない。毎回のツモに意味が有ると考えるように、この牌の流れには明から人の意思が働いてる。

 久は右手の指で下の唇を強く当てた。横の二人にも久の体に力が入りすぎたのが解る。

 

「これは……ゆみ、まんまと私を騙したのね」

「何じゃそれは?」

 

(どうやらおかしかった、妹尾さんだけ来なかった理由が……今になってやっと解った……切り札を隠す為だと疑いもしなかった私の負けだね、ゆみ)

 

 

(これは清一色にでも和了りたいんだけど……そんなやすくは出ないのかな)

 

 佳織はまた要らないツモ牌の九索を切った。誰から見ても筒子の染めてだとバレてるはず、この様な場面での選択は絞られる。先制したのなら尚更だ。

 

(ならばここで勝負!)

「リーチします!」

 

 佳織は勢い強く牌を曲げる。

 

 それと同時に中継室からも大声が放たれた。

 

『これは、鶴駕の妹尾佳織!高目役満の倍満確定リーチを掛けました!』

『三筒がドラ表示だからほぼ二五筒の両面待ちだな、高目より倍満でも和了るつもりなのか』

『ダマテンに取らず勝利に向かって真正面に出る鶴駕、果たして他の3校はどう出るのか!?』

『川の字牌でほぼ清一色が見える、ほぼ出和了りは無理だ』

『ならこのリーチは打点を上げる為の物だと見ていいのでしょうか?藤田プロ』

 

 頬杖を解いた藤田靖子プロは空にした皿を後ろにして2杯目のカツ丼を手に取る。

 

『言わば防御だ。これならどうせリーチを掛けなくても出ない、はなから出和了りは諦めてるんだ。ここでの狙いはダマテンよりハッキリしたいんだ、他家に対して降りろという脅迫を』

『なるほど』

 

 

(これは……この私を追い抜いた?だけど私は引かないじぇ!)

 

 佳織が掛けたリーチの直後、優希も今回のツモで聴牌を取る事が出来る。安牌で入れといた川にもう二枚在る東を切った。

 

(今度はあっちか……)

 

 妹尾佳織と片岡優希、二人によって流れがおさしく成ってるのは井上純が一番よく知ってる。優希か聴牌即リーを我慢したのもだ。

 

(あいつが鳴きで調子狂わなく鍛えたのは私だが、それでも私の麻雀がずらせろっと叫んでる!)

「チー!」

 

 文堂星夏の捨てた両索で向聴が進まない鳴きを入れた。場の流れを変える。

 

『妹尾佳織、一発ならず!……おーおっと!これは!』

 

(ここでこれは困るじぇ……)

 

優希の手牌 二三四六七八③赤⑤33赤567 ツモ⑤

 

 ぱっと見ても危険牌の五筒をツモって来て、分かれ道に立ってしまった優希は簡単に捨て牌を決められない。緊張で大きく息を吐いた。優希から見ては何が当たり牌なのかまったく見分けがつかない。見るたび全部が危険牌に見えてしまう。

 

(あいつの牌は99%筒子の清一色だじぇ、なら待ちは?147の筋か258の筋か、それともそれとも複合多面張あのか?いや……)

 

 考えてもそこらへんは謎だ。

 優希は場に出されてる筒子を再度確認した。鶴駕の上家、ノッポからから出た筒子を鳴かなかった。清一色なら泣いても満貫だしドラを含めば跳満、なのにドラの四筒が捨てられてるのに眼が止まってしまった。

 

(複雑に考えても答えは出ない、これで和了り牌を釣りだす!)

 

「通らば……リーチだじぇ!」

 

 手牌の中から赤五筒を握り強く振り下ろす。

 だけどそれは、佳織佳織の和了り牌だ。

 

「ロンです!32000の2本場は32600です」

 

 綺麗な牌、麻雀において一番の美しい役の青い筒子が佳織の指によって倒される。

 

『役満、役満九蓮宝燈が炸裂しました!!鶴駕学院が1位を走る清澄高校の連荘を止めて一気に1位に立ち上がります!!』

 

 

 佳織と優希の顔が順番に映し出される中継画面を見ながらまこは残念な感情を隠せなかった。

 

「あちゃぁ……無茶な事をしたな」

 

 部屋の誰も言葉選ぶのに時間が掛かってすまう。

 今の振り込みで最下位、点棒を渡す優希の表情から悔しさが読める。

 

「いや、私のせいだわ」

 

『妹尾さんが追い詰められた時、役満の可能性が有るなら気をつけてね』

『挑戦者は何時も追い詰められたような物だじぇ』

 

 優希は電話越しの声にそのまま疑問を返した。

 

『確かにそうなんだよね……妹尾さんは個人の成績だけでなくチームの点数にもよる事を考えたら、本人の志にも大きく影響を受けるのだけど……なら優希に常時気をつけてね〜ってのは無理かな』

『若干馬鹿にした気がする……けど、それに役満って結構多すぎるじょ?国士か鳴きの大三元か四喜和・清老頭でないとほぼ判断出来ないし、四暗刻なんか透視能力無いと予想出来ないじぇ』

『それもそうなんだよねー』

 

 意外と現実的な指摘をしてきた優希に久も加える言葉が無かった。確かに門前なら役満など運からの恵み、実力とはまた異なる領域にある。人間にはそれが分からない物だ。

 

『ならあんまりこだわらなくて、優希の直感で打つのも良いかな?』

『そうするじぇ、任せときな部長!』

『頼むわよ、エース』

 

(何してるんだ…私は)

 

 優希は河底牌を打牌し、そのまま手牌を伏せた。

 誰からも和了りの宣言が無い。

 

「ノーテン」

 

 南1局での親も流れてしまう。

 

 

 鶴駕の控室では自分たちが一位になってる点数を見て、後輩二人が嬉しそうだけど呆れた顔をしていた。

 チームメイトの妹尾佳織が龍門渕の井上純から満貫を奪う場面が流されてる。役満で大きく点差を広げたのが1局1局の打牌にも影響を出してるのも読める。

 

「佳織先輩と個人戦ならクソゲーですよねーやりたくないなー」

「かおりん先輩は加治木先輩のおかげ有って、爆発するまで何度でも食らいつく化け物になったっすよ!」

「私も同感だよ、妹尾先輩が私たちの中で一番守備が出来る人だからね……役満で終わらせるか、終わらないと逃げ切るとかインチキすぎるよ」

 

 稲葉(いなば) 日詰(ひづめ)は何回もやられた記憶を刺激されてあやふやな感情が表になっているし、高田(たかだ) (まゆみ)もまま同じくだった。

 

「うむ、私たちで打つ時なら確かにそうだが今は心強いだろう?稲葉さん」

「そうですねー、今はありがたいだけですー」

「かおりん先輩そのまま行けー!」

 

 津山睦月の言葉には頷いていた高田(たかだ) (まゆみ)は、よく聞けない東横桃子のイキナリの大声に驚いてしまった。

 

「何時の間に来てたんですか?東横先輩……」

「朝から隣に座って居たっすよ、まゆみちゃん後輩」

 

 

[南3局] 親、井上純

 

 優希の手牌はすらすらと捨てられる簡単なタンピン牌に成なりつつある。だけど今はこの牌だとイマイチ打ってる気にはならない。ツモの流れにそのまま乗ってるだけだ。

 優希は役満放銃以外はツモで削られたくらいで高い放銃はしなかった、けれど大した和了りも無い。1年前の前半戦で焼き鳥にされた事に比べればましだけど。

 明からに速度が落ちている。抜かれてるのを同然に思うのも仕方ない。

 

「ロン、3900の1本場は4200です」

「はい」

 

 星夏がトップの佳織からやっと直撃を取れた。安いけどトップからの出和了りは貴重だ。これで僅か400点差だけど龍門渕を抜けて風越が2位になり、清澄との差はもっと広げた。

 案外守備が固くなった佳織はダマテンじゃないと振り込みが無いし、襲いかかる龍門渕を跳ね返す出和了りも取れた。

 鶴駕が役満で登った1位から揺るぎないまま、前半戦はオーラスまで来てしまった。

 

(ここで少しでも追いつきます、キャプテン!)

 

(オレがこんな所で3位だと?透華に怒鳴られるのは嫌だな)

 

(出来れば連荘、配牌がままだったらこのまま耐えるのが良いよね)

 

(このオーラスで私は……)

 

 各自考えの中で別の物を描きながら、南4局の親である佳織がサイコロを回す。

 コロコロと音を聞きながら優希は点棒箱上の点数表示を再度確認した。一位の鶴駕とは48200点、3位とも17000点に近い差が出てる。

 

(このまま行けば次鋒の美篶は全然安心して打てないじぇ……)

 

 先輩の優希が先鋒で後輩の美篶が次鋒、前に出場する自分では美篶のカタキを取れない。美篶のカタキを取るべき状況になるならそれは染谷部長の仕事だ。

 この点数は次の後輩だけ繋がるのではない、最後の大将戦まで繋がる。

 

(私はここのまま後輩に大荷物を渡すつもりか?)

 

 麻雀の大会で選手は観客と隔離されるしかない。そうでないと嫌でも流れる外部からの情報で試合が成立しないのだ。

 だから終わるまで仲間たちの様子も知らない、試合中にはただ今までの経験で皆何をしているか想像してみるだけだ。

 

(先輩は常に後輩のカタキをとってくれる覚悟で挑むべし)

 

 優希は最初の2幢を持って来て開いた。

 

(染谷部長と部長が私に今年も先鋒を任せた理由は解ってる筈だったじょ?私)

 

 2つ目の2幢も横に並べて開く。

 

(多分だけど、団体戦みたいな短期決戦で私は天江衣に勝てないじぇ……そんなの前々から嫌なほど解ってる。打てば打つほど変な力に振り回されて差が出ちまってたから)

 

 3つ目の2幢も開く、これで12枚。

 

(先輩が私に任した役割りは皆の前に立って皆に次の一手を渡すこと、私から団体戦の最後まで続くんだ。なのに私は半分しか戦ってないじぇ)

 

 親の妹尾佳織がツモった後、最後の1枚まで加えて理牌した。

 

『我、東風の神なり!東風戦続く限り、我に敗北無しだじぇ!』

 

 佳織の最初の捨て牌は中。

 

(違う、私は東風の神なんかじゃない)

 

 役牌だが誰も鳴いて持っていかない。

 

(この局は終われば後にもう一回半荘の東場が来る。その時ならまた強くなれるだと?)

 

 優希はツモ牌に手を伸ばした。

 

(南場で勝てないのは私の思い込み、そんなの私が決めつけてるだけだじぇ)

 

 その後、右にツモ牌を表にした。

 

「捨てる牌がない」

 

『地和だ!』

 

「ツモ、8000・16000…!!」

 

『前半戦終了!!』

 

長野 団体戦 先鋒前半終了

1位 鶴駕  111700

2位 清澄  111500

3位 風越   88600

4位 龍門渕  88200




鶴駕学院1年、稲葉 日詰(いなば ひづめ)、高田 檀(たかだ まゆみ)も登場です。
上原美篶と同じく、今度は長野の鶴駕周辺の地名からです。
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