優希-Yūki-、再び全国へ   作:瑞華

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第27話、風が吹いてくる音

 1位とは26100点差、自分は何回も稼いだのにほぼ原点で留まってる。井上純は危機感を覚えていた。卓の右に居る場表示を裏返すと先鋒戦最後の4局の始まり、そして自分の最後の親番だ。

 後少しって場面まで行けたのに結局のところ、抜ける事は出来ずどんどん遠ざかる。

 

(ここで清澄のチビっ子を止めないと勝ち目がない)

 

 逆転を必ずこの親番で決める必要は無い。だけど純は勝つ気でこの椅子に座ってる。逆転だけでなく引き離すのを狙うならここでの連荘しかない。

 出来るのか?と自分に聞いてみても答えは帰ってこない。どうあれ、牌を握ればすぐ解る事だ。

 

「じゃサイ回すぜ」

 

 

[南1局] 親、井上純

 

 この試合最後の親だと言うのにこの牌の流れは純に味方してくらなかった。

 無駄ツモの流れを優希に押し付けたのに何故か捨て牌の選択に迷いなど一切感じられない速い打牌に逆に圧迫されてしまう。

 

「ロン、5200」

 

 二三四④⑤⑥778899北 ロン牌 北

 

 目立つ勢いなど感じられない優希のダマの一盃口ドラ2に妹尾佳織が放銃してしまった。

 北は完全に安牌ではないとはいえ、序盤で川に1枚出されてたし聴牌気配も感じられなかったので要らないと見てツモ切りしたのに、そこを刺された。

 

「はい」

 

(これで2位との点差も1万点以上……)

 

 佳織は平然なフリをして点棒を出した。

 絶望的な点数ではないけど、逆転の希望が見えないのも事実ではある。

 聞いてた優希の麻雀とは程遠い打ち筋。正直の所、佳織はこれを不運と考えたいけどこれは不運などでは無いと女の感が言っていた。不運で済ませば、次は必然によって負ける。この道を歩くと段々わかってくるのだ。

 

 

[南2局] 親、妹尾佳織

 

「リーチ」

 

 誰からの追撃も許さないとの勢いで、牌を曲げた優希はそっとリーチ棒を置いた。

 今度はダマテンに取らずあっさりと優希の二索切りリーチだ来た。捨て牌から見ては字牌を整理してからの正直なリーチだった。

 

(ならばツモ狙いの中張牌の良型、両面くらいか?)

「チー」

 

 もう変な状態に成ってる優希が流れを変えようが構わないのは知ってるけど、純は一応一発は消しておく。

 

(今のチビから本物の原村和の打ち型が現れてるのなら、そんな簡単に一発ツは出ないだろうけど、出たら困るな)

 

(張り合える牌ではないから守備に集中しよう)

 

 優希はツモ和了成るず、星夏のツモ番が回った。

 

(普通に考えて良型での押しに違いない、なら待ちは多分……)

 

 リーチを掛けこれ以上考える必要の無い優希以外の3人の考えは卓の上で交差する土壇場。

 優希を含め三人の牌を確認した星夏は深くて長い深呼吸をした。

 星夏の目に見えてる優希の牌はタンピン、リーチ宣言牌の二索裏スジの三索と六索を暗刻で抱えてるのは好都合だった。三暗刻まで育てたいけど、上だけを見てたら逆に最下位で動けなくなる経験も散々した。

 

(今度も私の予測を信じるしかない)

「……通らばリーチ!」

(今のは私に打ち方を教えてくれた先輩とコーチを信じきるのでもあるんだよ!)

 

 星夏の手から強く川にだされた五萬を見た優希からは発声が無い。

 

『風越の追っかけリーチ、龍門渕と鶴駕は降り気味、これで二人の捲り合いになりました!果たしてこの局を制するのはどっちか!』

 

(負けるもんですか!)

「ツモ!」

 

 三三四四五⑦⑦333666 ツモ二萬

 

「裏2、2000・4000!」

 

 裏ドラが頭に乗って一盃口なしにも満貫になれた。

 この和了りでやっと1位の勢いを止めたし風越は4位からも脱出。

 星夏の口元に小さく笑いが出てしまった。これくらいで満足したのかとコーチに怒られるだろうと思いながらも、嬉しいのは嬉しい事だ。

 

 

[南3局] 親、片岡優希

 

 配牌を取ってくる指が緊張で固まってる。

 妹尾佳織は今まで麻雀を打つ時、感情的には緊張はしても自分に見えていてやれる事は出来るだけやり遂げた。結局は緊張なんかに飲み込まれない性格だという自覚もあった。なのに今になって危機感が迫ってくる。

 

(前半に役満和了ったのに、今は4位まで落ちてどんどん離されてる……)

 

 佳織は恐れ恐れ点数表示番を見下ろした。

 何時も弱者の立場で前に向かって追う者だった昨年に比べれば、今年は短い時間だけど追われる者になってしまった。先輩たちと頼れる後輩に頼り導かれたけど、今度は新しい後輩たちから期待もされている、何もかも昨年とは違う。

 今ならすこしくらい追う者と追われる者の違いが解ったかも知らない。

 

(加治木先輩と二人で出かけた時は桃子ちゃんに追われたっけ)

 

 なんでも無い出来事、先輩と後輩との思い出。ぎゅっと両手共々拳を握った佳織は控室で自分を見てる筈の仲間たちと、何処かで携帯でも持って今の中継を見てくれてる筈の先輩と幼馴染のお友達の事を想像する。

 

「あらら、また妹尾さんの手が」

「……あんなのインチキじゃろ!」

 

 久とまこの漫才みたいな反応を、後輩の四人は黙って眺める。勿論、画面に映る相手の手牌を見たら同じく騒ぎたがるのも解る。

 

 佳織の手 五九九①①⑨⑨⑨99西發中 ツモ一萬

 

 どう進むべきかが明らかに見える牌、気まぐれの牌からの恵みにドラの一筒まで抱えてる。佳織はこれを流れるように仕上げるだけだ。

 

「ポン」

 

 この手は門前の機会など待つ必要は無い、対面の文堂星夏から九萬を迷わず鳴いていき西を落とす。親のツモ番を飛ばせたのはお望みの事だ。

 

「それポンです」

 

 下家の優希から捨てられた9索にも手を伸ばす。これでもう一向聴になれた。後は対子の一筒を鳴けるか、ツモで一筒,一萬,發が入ってくれば聴牌だ。

 でも、鳴きで公開された情報を与いすぎている。既に、ここに座ってる3人に形は見えてる。純も、星夏も今なにが起きてるか気付いてる。

 

(何だ!妹尾佳織、点数が落ちたからまた来るのか!?)

(清老頭……?また役満が来るんですか?まさか……)

(……)

 

 上家のポンでツモ番が続いた優希は佳織の川に目をやった。

 中張牌は五萬一枚しか無いし生牌の字牌をガンガン捨ててる。どうせ止めるのが出来るのでもない。

 優希は平然と字牌から牌を選ぶ。佳織から出た發から手放す。

 

(これ、もう数牌の1と9は捨てられないじぇ)

 

 清老頭か混老頭,それともジュンチャンなのか、序盤では確信が出来ない。危険牌とみなされる1,9とその周辺の牌も出さないはずだから壁が出来るまでは辛抱だ。

 

(でも耐える間に、部長の助言通りこの好運の持ち主が本物ならツモ和了りを決める)

 

「ポン!」

 

 優希は純が捨てた白を鳴いて佳織のツモ番を飛ばした。純も結構危ない橋を渡るのだと承知の上で捨ててくれたのだと今打ってる全員が解ってる。聴牌なのか分からないけど一回でも先延ばしにしたいのは3人共同じだった。

 そして星夏に回ってきたツモ番。山の贔屓に彼女はもううんざりになった。

 

(なんでここで一萬なんだよ!これどう見ても理不尽でしょう!?)

 

 絶対捨てられない牌が手に入ってしまった。和了り牌だったかもと想像すると怖くなる一萬、優希の鳴きが無かったら佳織に流れた牌。

 

(たった半荘2回で一人に32000点を2回も取られてたまるもんですか!)

 

(4位なのに皆さんからマークしすぎだよ……!)

 

 そろそろ佳織も焦ってくる。間違えたら自分が数牌の么九牌を抱えてる分、無駄ツモなく中張牌だけで追いかけるのも有りそうな話。

 統計的に見れば平均配牌は3.4向聴くらいだ。速い速度を誇る片岡優希が役牌を鳴いてるのを考えれば、もう注意しなければならない。

 

 佳織は顔色一つ変えずに中を川にだした。

 

(聴牌か!)

 

 言葉なくても空気が重くなる。それに連れて雀士達の息も遅く重くなる。

 

(歴では皆さんに程遠いかも知りませんけど、私だってこの1年間麻雀に青春を駆けて来たよ。今度は私の力で勝ちたい!今度は間違いません!)

 

 何をしたのかも分からないまま褒められても心の底から嬉しくはない、今は自分が前に立ってるからには友達や後輩の期待を裏切りたくない、その気持ちでいっぱいになった。

 透明な瞳に意地という火を灯した佳織は山から牌を取る。

 

「ツモです!」

 

佳織の手、一三①①⑨⑨⑨ [999][九九九] ツモ二萬

 

「ジュンチャン三色同刻ドラ2、3000・6000です」

 

 佳織は自分がツモって来た二萬を見下ろした。

 もうすこしで清老頭も狙えたけど跳満の和了。一萬が惜しくなる形だけど、それでは間に合わないとの判断で諦めた。

 

(……後で牌譜を見るのが怖くなってきたよ)

 

 3人から渡された点棒を入れてから、佳織は優希の方に目線を移してみた。その一瞬、言葉までは分からなかったけど、優希の口元が動いていたのに気づいた。

 

「もう……眠気は冷めたじぇ」

 

 誰の耳にも入らないくらい小さく、口の中で独り言をつぶやいた。

 

 

[南4局] 親、文堂星夏

 

 星夏の連荘がない限り、これが先鋒戦最後の局になる。

 

「リーチだじぇ!」

 

 たった3順目でこの試合の終点に向か為の先制リーチを仕掛けたのは誰でもなく東風の神、片岡優希だった。

 季節外れではなく、場外れの東風が最後の最後で力強く吹いてくる。

 

(なんだコイツ、気まぐれにも程があるだろ!)

 

 風と共に押し寄せてくる波が卓上を襲う、純の目にはそのイメージがはっきりと見えたけど、何か出来る手牌ではない。純は黙って牌を見送るしかなかった。

 続いで星夏も369索待ちの良型で聴牌、最後の親番、一歩遅れたけど勝負するに不足はない良い手だ。

 

「通らばリーチです」

 

『また捲り合い勝負!今回はどっちが先に立つか!』

 

 南2局に続き、同じく優希と星夏の捲り合い勝負を知られる落ち着いた三科アナウンサーの声に、会場の観客席は騒がしくなる。

 

 清澄・龍門渕・風越・鶴駕4校の控室には静寂が漂うが、そこに在る少女たちは心の中では誰よりも大きく叫んでるはずだ。

 ふたりのリーチに対してこれと言える対策は無い。佳織からは現物、純からもほぽ安全な3枚目の西が出された。

 

 そして優希のツモ。

 牌からの音が卓から四人に響き渡る。

 

「ツモ!2000・4000だじぇ!」

 

 優希は先鋒戦最後の和了を一発ツモで綺麗に決めた。

 

 

長野 団体戦 先鋒戦 終了

1位 清澄  132200

2位 鶴駕   94200

3位 龍門渕  93900

4位 風越   79700




やっと先鋒戦が終わりました。

それと仕事のせいで更新がどんどん遅く成りました……(泣)
今回も読んで頂きありがとうございます!
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