優希-Yūki-、再び全国へ   作:瑞華

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第30話、上原の勝てる麻雀

「あの子……相変わらず守備とか全然考えてないんじゃ!?」

 

 画面の中の友達の打ちに高田(たかだ) (まゆみ)は目が回ってしまった。

 親がリーチを掛けようが、お構いない嵌搭子を処理する稲葉日詰の大胆なのか、怖いもの知らずなのか分からぬ打ち。攻撃一辺倒の麻雀は赤の他人でも正気では見れないのに、それが点数を繋ぐ仲間だったら尚更だ。

 それに反してふたりの先輩達は落ち着いて観戦するだけだった。

 

「やっぱり稲葉(いなば)さんはせっかちだね。でも運任せだけの打ちはしないから、上手くいけばそれが強みに出る筈だよ」

「ここで見てるだけの私達が稲葉さんの心配をしてもしょうがないさ。今も通ってるし見守ろう」

「先輩達の言い分も解りますが、あれは私のステルスなみの捨て牌選択っすよ?」

 

 慌て出した檀に比べ部長の津山睦月や妹尾佳織は大した事でもないって態度で、後輩を安心させる。

 3年の先輩達が大丈夫と言って落ち着いてるのに、自分だけ騒ぐのもアレだったので檀は小さくため息をつく。

 

「ハァ……日詰(ひづめ)は前から打ち方変えないって雰囲気でしたし……これもしょうがないもんでしょうか?」

「うむ、高田さんも今は信じて待とう」

 

「また無視された!」

 

 また、桃子だけを除いて3人だけの会話が成立してしまった。

 一緒に部活して2年目なのに、相変わらず影の薄い東横桃子が独り言ではない独り言を口ずさんでいると、テレビ画面の中ではあっさりと東2局は終わっていた。

 

 

「ツモ、1300ALL」

 智紀の手、二三五五九九九①①①⑤⑥⑦ ツモ一萬

 

 安いツモ和了を決めた智紀は連荘棒ひとつを右側の隅に置いて残りの点棒は箱の中に閉まった。そうしてから点数表示を再度確認する。

 

(点数表示は100900点だけど100点多いから、またリーチを掛けてもマイナスではない)

 

 早い段階でやっと純の失点を取り返したけど次鋒戦は始まったばかりだ。まだ対局は長い。

 意味が有るのではないけど、何でもない事を考えてみる。麻雀を打っていると局の間には無駄な考えが浮かぶものだ。

 智紀は気を引き締めてサイコロのボタンを押す。

 

 

 パットしない安い和了を決めた智紀を見ている藤田プロの手にはやっとカツ丼の皿がなくなってる。

 音声だけ流れるとは言え、あれこれ不誠実過ぎる態度の解説のせいて三科アナは少し疲れ気味だけど、中継に集中し声を引き直した。

 

「さぁ、龍門渕高校の沢村智紀選手の連荘です!これから順位に変動をもたらすとなるか!」

「全員が地道に点数を稼ぐスタンスに入ってるな」

「確かに先鋒戦で高打点が多かったのでそうも見えますね」

「このままだと結果は見えるんだけど」

「まだ次鋒戦始まって2局ですよ?」

 

 藤田プロは久々に解説らしい発言をしたつもりだったのに、三科アナの反応はイマイチだった。

 藤田プロは少し拗ねったように声のトンが高くなって言い返す。

 

「そんなの2局見れば解るんだよ。1位の清澄だけ点差が離れてるから打点が欲しい場面なのに、別に手代わりも待たないし、速度で連荘を狙うのでもなさそうだ。特に龍門渕がな」

「なるほど。攻めて逆転を狙うより今の点数状況を崩さず、また次に繋ぐ作戦と言う事でしょうか?」

「点数だけ見ればそう。近頃の麻雀は昔に比べてリーチ判断が早くなってる。ぶっちゃけ良型ならのみ手でもリーチ掛けろと言ってるんだ。龍門渕の次鋒はデジタル打ちの中でも最新に近い打ち方を身に付けてるに見えるし、他家も降りる時は確実で冒険はしない。これなら攻め役が変わっても同じだろ」

「龍門渕の沢村選手も深堀選手も、去年の大会でも派手で目立つよりは堅実な成績を残しました。このふたりが場を作ると、清澄と鶴駕の1年もそう流されると言う事ですね?」

 

 三科アナが選手達のプロフィールが乗ってる資料と取って一言加えると、藤田プロも同じ物に目をやった。

 戦力分析や解説のネタ用で用意された資料など、解説の為には殆ど目を通す事が無かったのに、プリントされてる資料を読むのは珍しい。

 読み終わってまた頬杖を突いだ藤田プロは軽く笑う。

 

「一人だけ除けばな。今の雰囲気を作ってる3年生ふたりに1年のガキが反旗を立ててるけど、どうなるだろか」

 

 東2局は藤田プロの読み通り、深堀純代のリーチに全員が放銃しないまま流局で終わった。ドラを3枚も抱えた跳満確定だったけど、全員降りに出ると、リーチ棒が無くなり、ノーテン罰符で2000点の所得だけになった。

 

「ちっ、これは惜しかったし!」

 

 池田華菜は猫のようにガルルルと変な鳴き声を出しながら有りもしない猫耳としっぽを尖らせて、純代の大物手に誰も引っ掛からない事に本人より悔しがってる。むしろ本人はあまり気にしないようにも見えるのに対照的だ。

 

「キャプテン、まだ試合は長いです」

 

 池田キャプテンの隣で観戦していた大迫(おおさこ) 昭乃(あきの)は、馴れた手捌きで猫に成りきってる華菜の姿勢を元通りに座らせた。

 その茶番を見てはいられなかった久保コーチが眉間にシワを作ってる。

 

「そうだ、池田。少しは静かにしろ!」

「は…はい…」

 

 久保コーチの起こり混じった声が無いと、普段の華菜は止まらないので部員としては助かったものだ。

 

 

(このままでは点数が減るだけ、やっぱり竹井先輩の言ってた通りかな……)

 

 32200点を稼いた時点で受け継いたのに、逃げるので背いっぱいだった。相手にならないのが同然だけど、それを認めたらそこで終わりなのは美篶(みすず)も知ってる。竹井監督の指示はこんな打ちではなかった筈だ。

 

『美篶ちゃん、次の次鋒戦では何も考えないで良い、今日の打ち方はただひたすら攻撃だよ』

『はい?それでは防御は……』

 

 確かに昨日の2回戦に対して染谷部長から伝えてもらった竹井監督の指示は防御に中心を置いて打つのだった。それが真逆の指示に変わってる。

 疑問混じりの表示が確かな美篶に、久は手を左右に振った。

 

『要らない要らない、いや違うか……攻撃しなくては勝てないんだよね』

『それはそうでしょうけど……』

 

 勝てないとの言葉に美篶の声が少し小さくなる。その言葉が余計に美篶の耳の中で響いた。

 久はそれを察したのか久手を振る。

 

『いやいや違うの、私が言ってるのは戦略的な観点から』

『戦略……ですか?』

『ふうん……例えばね?自分が10万点のリードを引き継いだ大将だとして、2位に49900点失って200点のリードで終わったらどう?』

 

 例えとしては雑だったけど、何を言いたいのかは、はっきり解る例えだったので美篶はすぐ答えた。

 

『それでも勝った事になるとの話がですか?』

『そう、点棒が金に変わる博打の麻雀なら話は別だけど。ね?』

 

 久はウインクでも加えばキラット光るエフェクトが見えるような仕草をしてるのに、華やかな女子大学生からの例えではない。

 あんまり考えたくもない話に苦笑いを作ってしまう。

 

『博打は……結構ですけど、竹井監督の仰る意味は分かりました。けれどその例えだと、むしろ守るのを考慮した方が』

『それが違うんだよね、だからの攻撃なんだ』

 

 久は美篶の話を切って伊達眼鏡を掛けてから目を合わせた。

 

『美篶ちゃん、本当に守って勝てるの?』

『……』

 

 同然、点数を奪い合う麻雀で自分の点数を守るだけでは決して勝てない。

 でも竹井監督が言ってる事はそれではないと、美篶にも解ってきた。

 

『私も美篶ちゃんに10万点差あったら守るだけで1位で引き継いでくれると思うよ、でも10万点差を付けてあげるのは無理。だから、自分に出来る事をしようって事』

 

『私に出来る事……ですか?』

『自分に出来る事って、ちょっと枠にはまった言い草だったかな?』

 

 久はデレかくしのフリをしながら笑う。

 

『次鋒戦の全員が貴方より段違いの器量を持ってるよ。全員が大会出場経験を積んでる実力者、罠も張るし美篶ちゃんのスケスケの手牌などお見透し。それが今の時点で現実的な自己評価だね』

『はい……』

 

 久は自分から厳しい事を言って置いて、励ましのつもりで美篶の肩を叩いた。

 

『そんなに落ち込まないで、ただ相手が有利な領域で戦うのは上策じゃないって言いたかったのよ』

 

 そう言ってから持って来たかばんから妙なものを取り出した久は、それを美篶の手に渡した。

 

『それと!次鋒戦始まる前に、このバナナと牛乳食べてから行ってね!」

 

 

[東3局] 親、稲葉日詰

 

 配牌の理牌を終えた美篶は左端に置いた索子から向聴数を数える。

 

(索子と南で4ブロック、やっと鳴いて流せる手が来た)

 

 ブランクが長かった美篶は、染谷部長を含める先輩達から短気集中の麻雀教育が脳に積み込まれていた。その中の麻雀理論書からの話だと、鳴き混一色にしても良い線は混一色に出来るブロック四つ以上、今回の配牌はその最低限を満たしてる。

 

(今は流局とリーチ棒を合わせて1600点も付いてくるのを考えると、早和了りが一番な筈)

 

「チーです」

 

 上家から索子が出る途端、美篶は左端から二三索を倒して、萬子のど真ん中の六萬を切り出した。

 赤五を鳴いたのでも無く、二三索の両面搭子を僅か2順目から鳴き出すと、誰から見ても速い手が揃っての速攻だと解る。

 けれど速度で勝てば良いのだと考えた美篶は攻めに入った。

 続いて純代は發を捨て、ツモ番が回った智紀は手牌の右側で止めた手を動かせ字牌と索子を通り過ぎ、萬子で止めた。

 

(清澄が走り出してる。手牌を見せてもらいたいけど、今の牌は後半前の休憩時間に見れば良い。ここで鳴かせて和了らせる必要は無い)

 

 打牌は美篶と同じく六萬、役牌の暗刻を持ってるとしても、これを鳴いていく筈はない。

 でもその下家の稲葉の考えは違うらしかった。

 

「ポンです」

 

 稲葉は悩む仕草など一切なく、平然と美篶の自風の南を切った。

 

(流石に今の南を切りは可笑しい)

 

 智紀からは可笑しく見えるけど、手が高いのなら理解出来る範囲だった。

 

(私以外は清澄の特性を知る訳が無いから同然かも)

 

 なのに稲葉は、わざと美篶を鳴かせたいかのように、また索子を切り出して、美篶はそれを鳴いて行く。

 

「チーです」

(これで聴牌)

 

 混一色と自風だけだけど聴牌を取れた。

 美篶の手から索子が溢れだしたその時、明らかに日詰は不気味に笑っていた。

 やっぱり降りに決めてる風越と龍門渕の振り込みは無い。

 稲葉日詰は自分のツモ番が回ってくると、迷わずツモ切りで牌を曲げる。

 

「リーチ!」

 

(どっちの運が上なのか、勝負!)

 

(既に私より速かったの!?)

 

 日詰のリーチと、聴牌気配が明らかな索子の染めての美篶。この局はふたりの一騎打ちみたいな状況になる。

 もう3副露で手が4枚しか残ってない美篶と、リーチを掛けた日詰の事実上捲り合いの勝負。その第1打は下家の美篶に回された。

 そもそも一発消しの鳴きを入れるのも出来ない捨て牌だったけど、鳴くと裸単騎になってしまい逃げる所が完全に塞がれる。

 残念ながら美篶のツモ和了には成らなかった。

 

(どうすれば……)

 

 もう現物はないし、美篶が鳴いて使ってる一五索以外、川に索子自体が無い。他家からは美篶の見え見えの染めてに注意してるし同然だ。

 なのに美篶の手には索子しか無い。数牌の壁も無い。逃げ場など何処にも無かった。

 運任せに追い詰められた美篶は聴牌を維持するか降りるかの選択すらならないこの状況が何時よりも重く感じられる。

 

 手は22346。降りなら手に残ってる対子の二索を取ったのだけど、これは切れなかった。頭を崩したら勝負にならない。順はまだ10回以上有るから到底逃げ切れない。

 

(なら攻める……)

 

 美篶は二索から指は離して、手牌から六索を取り出した。

 

「ロン」

 

 六七八⑥⑦⑧1113456 ロン牌6索

 美篶の手からは四索以外全部待ちの複合多面張、手牌を倒した稲葉日詰は裏ドラ表示牌をめくる。

 

「リーチ、一発、赤1、残念ですねー裏無し、7700の2本場なので8300」




30話です、驚きです。
前に活動報告に書いてたんですが、投稿した最初は短くして終わるつもりでしたのにどんどん長くなってます。
今回も読んで頂き、誠にありがとうございます!
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