優希-Yūki-、再び全国へ   作:瑞華

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第36話、染谷まこと部長の重さ

(ふゥ……優希もあるまいし、ここで起家を取ったんじゃが……狙いはワシの個人収支ではないし、余計に面倒いだけじゃ)

 

 心の中でブツブツと、不満を吐き出した染谷まこは、最初から配牌をどう転がせるか、選択を強要されていた。

 

 麻雀とは先が見えない分かれ道を選択し続ける競技だから同然毎回自分のツモ番が回る度に選択はするけど、セオリー的に明確で選ぶ行為が要らない手牌だって有る。 打点の高さを狙うなら対子や両面搭子で先が見える牌ならさっさと和了を決める方が良い。

 だけど世の中そんな簡単には行かない。 曖昧な手が入って、まこは悩む。

 赤ドラが一枚入ったけど、あんまり中の形が良くない手を持って、現状に一番点数が離れてる鶴賀を落とす為に脳を働かせた。

 狙い撃ちは偶然の産物であって、狙って出来るものではない。 直撃なら確実に試合を終わらせる手、直撃ではないとラス回避出来ない手なら、回し打ちにでも山越しにでもして、狙い撃ちをする。

 だけどそれは深い意味では、意図的に狙ったのではない。 そうするしかない手が入ったから、そうせざるを得ないから、そうなっただけだ。

 

(相手の手から溢れ出す牌を、正確に自分の待ちにすると言う考え方自体が既にオカルトじゃ)

 

 また誰かを麻雀牌で撃ち抜いてる筈の女に文句を言ってやりたい気分だ。

 現状、まだ川に顔は無い。 卓上の顔を浮かべるのは出来なかったけど、このまま普通では行かないと、直感が囁く。

 

(何かが起こるのを待ってる様子見ムードは性に合わん)

 

 まこは浮いてる字牌では無く、中張牌から落とし初めた。 流れるように綺麗な牌の並び方をして良型で張りたいのは麻雀を打つ誰も同じだけど、今はこのまま待ちを絞って置きたい。 最初から一気通貫の目だけを残しって、萬子は諦める。

 

 9順目、まこは一通・ドラドラの満貫確定の形で聴牌した。 待ちは357筒の両嵌張の何方かを切れば4筒か6筒の嵌張待ちになる。 鳴かず門前で聴牌したので遅くも早くもない。 まだ聴牌気配は悟られてないかもだと、まこは判断した。

 鶴賀からも筒子は2枚捨てられている。 それに川から大体の顔は見えてきた。

 

(リーチで中筋引掛けを狙うか、このままダマで待ち構えるか)

 

 もう少し良い待ちにしたかったけど、流れがこれなら受け入れるしか無い。

 普通に考えて6万点は飛ばないのはまこも承知の上だった。 宮永照や天江衣のようなオカルト雀士なら、点数関係なく飛ばせるかもだけど、そんな天江が待ち構えている龍門渕を今相手にしているからこそ、無理を通すしかない。

 

(部長として腕の見せ所じゃ)

 

 まこは長く迷わず七筒を川に出した。

 

 その姿から、一はまこの様子を伺った。

 普通なら様子見ってのも有る点差に、もこの目に火が付いれるのは明らかだった。 どうにも気になる。

 

(染谷さん、トップなのに変わらず攻撃なのかな? 理由は多分……こっちの衣を意識してるから?)

 

 気持ちだけなら一にも分かる。 国広一より衣の恐ろしさを深く体験した者は多くないだろう。 天江衣に付いて何も知らないまま、同じ卓に座った代償は、永遠に良い思い出に変わらないくらい大きかった。

 だから、なんと言えない既視感を感じとっている。

 

 (それにあれ……どう見ても竹井さん……だよね)

 

 まこのイメチェンにも理解に苦しむけど、それはまた別の問題なのでそこは気にしない事にした。

 それより自分の手牌から纏めるべき。 なのに、この局はどうにも進まない。 こういう時だって有るのが麻雀だ。

 一が牌に悩んでいる間、あっという間に回ってきたツモ番だけど今回も無駄ツモ。

 

 また、目に火を灯してる清澄にツモ番が流れる。

 

 

『清澄、ツモ切りで今回もリーチせずダマテンのままです。 場はまだまだ静かな状態』

『アイツは、また打ち方が変ったな』

 

 感の良い靖子ちゃんの言葉に、久は軽く笑った。

 

「やっぱり靖子の目には見えちゃうか。 流石プロ、まこは最初から勝負する気だと、すぐ分かるじゃない」

 

 藤田靖子だってトップリーグで活躍してるプロ雀士なのに、久はあまりにも評価が低い感じで藤田靖子を扱う。 それも半分くらいは冗談だからだけど、南浦数絵にはそんなに気軽に振る舞う久が理解出来なかった。

 

「私達には何度も無理って言ってましたけど。 すこし無理をしてるのではないでしょうか?」

 

 久とは対照的な低い声が後ろで突っ立っている数絵から聞こえてくる。

 その方を振り向いた久は、あっさりと顔を縦に頷く。

 

「そうかもね。 夢乃さん呼んで弘世菫の真似させたの、結局は成果無しだったと聞いてたけど、ならそう思っても納得いくわ」

「元々染谷部長は攻撃に向いた打ち手ではありません。 無理に突っ走ってここでやられたら、元も子もないですが」

「数絵はまだ理解だ足りないな。 部長たるもの、向いてない仕事だってやりこなすべきよ」

 

 久は両手を組み子供を観るような目線で、数絵に笑いを送る。

 

「まこは部長だから、このまま貴方に大荷物を渡したく無いのだよ。 数絵ちゃん」

 

 

 

 

[10ヶ月前、東京]

 

 一人で卓に着いてるまこは、牌を並べて一つ一つ手牌を聴牌に勧めながら迫る対局の脳内シミュレーションに一心になっていた。

 自分が見た予想とは全く違う結果の写真の中身と、その手に至るまでの牌譜を見比べて、その打ち手の考え、思考、癖、考えを論理的な理解に変える重い作業になっていた。 この作業の問題は、自分の常識で考えず相手の能力を基礎にした上でそれを選択した論理的な理由を探り出すのは、脳のリソースをかなり消耗する事だった。

 なんでこんなオカルトな理由で牌を選択したのだと言いたい気持ちを抑えて、その人に成りきる。 難しくて同然だ。

 頭を抱えて倒れたいけどまだ眠れないまこの隣で、久はパソコンをいじるのに夢中になっていた。 夜が深まるのにも関わらず、どっちも決勝戦に向けて最後の調整に成る日を大切にしている。

 でも、やっぱり深夜までの長時間労働はきつい。

 座ったまま後ろに倒れたまこは、独り言のように言い始める。

 

「中国麻將での打ち方をそのままリーチ麻雀で使ってくる郝慧宇、明らかな牌の偏りに大したデメリットも無しに相手を翻弄される松実宥。 それに弘世菫も、その二人に負けないくらい異常な打ち手……。 面倒くさいのう」

 

 全国決勝の卓に真っ直ぐな打ち手など来れないのが同然だけど、その中でもこれは酷い方だとまこは思った。 狙ったように、相性の悪いヤツばかりの次鋒卓に、悪意さえ感じる。

 

「おい、久よ。 この写真でますます理解に苦しむ事になるんじゃが……闇に落ちる気分じゃ。 特に弘世」 

「弘世は普通のリーチ麻雀のセオリーを守りながら打っても強いよね。 生まれ持った特製や環境で、打ち方がそう成るしか無かったのでもないのに、態とそんな打ち方を身に付けたのだから、もっとたちが悪い相手なのかな」

 

 パソコンの画面から目を離さないまま、久はペラペラと分析した内容を口にだす。

 

「全く持ってな。 これもある意味怪物じゃ」

「彼女は普通の麻雀にも通達してる。 県内で名の高いエースくらいの力を持った上に、他人には無い武器をもうひとつ備えてるのと同じだよ」

「2つの武器……、そこが郝慧宇や松実宥と違う所か」

 

 郝慧宇と松実宥は自分の麻雀を何処までも貫く。 どっちも自分のやり方を捨てられないのにも見える。 その中、松実姉に限っては松実妹の前例からして、打ち筋を変えたくても変えられない予測に確信もある。 弱点が特に無いのが問題だけど。

 でも、弘世は話が違う。

 

「簡単に切り替えが出来るのはAブロックの準決勝で見たし、またそのシャープシュートが上手く行かななかったら、また普通に強い者に変えて来るわよ。 だから、それに完璧な対応が出来ても、山はもう一つあるのよね」

 

 まこの溜息がもっと深くなった。

 久の冷静な判断と分析は重い。 ここまで来るのに、久の優れた分析能力に助けられて来たのも事実だけど、やっぱりそんなに冷静には対応出来なかった。

 

「先ず、今から弱音吐くにでごめんなんじゃが……これ見てて解った事が有るじゃ……」

「何?」

 

 久が体の向きを変えて自分の方を見下ろすと、少し時間を取ったまこは、右手で天井の光から目を隠して話を続けた。

 

「ワシが覚えとる卓上の顔達の整理が必要になってのう。 レパートリーは多い方が断然に良いけど、あんなに特徴が濃んだヤツらのは、何時でも使えるもんじゃないし」

 

「それはそうだよね。 相手によって戦術変えるのべきだから。 で、それに何か問題でもあるの?」

 

 まこは久の目線を感じて歯を食いしばった。

 自分から話たのに、弱音を吐くと改めて恥ずかしく成るけど、一度出した話題は最後まで話は続けるしかない。

 

「それがな……ワシがこのままもっと上を目指せば、段々上に行く度に記憶に変な顔もどんどん増えるんじゃろ?」

 

「うん、そうなるよね」

 

「それをどんどんカテゴリー化して分類してたら、ワシが覚えとったもんは消える気がするんじゃ。 試合の相手に合わせて覚えたイメージを毎回選択するなら、それはもう記憶や経験による予測じゃなくなり、ワシは何処まで判断するべきか悩んで来たのじゃよ」

 

 まこの麻雀での予想は、今まで重なった自分だけのビックデータから紡ぎ出した物で、オカルト麻雀とはその理屈が違う。 なのにそのオカルトのせいで、また変わらなければならない。 久相手にも結構痛い目を見たが、今はもっと根本的な部分を刺さった気持ちだ。

 自分を信じる事が出来ないと、麻雀は出来ない。 麻雀は闇の中を、懐中電灯一つを持って、一人で歩くような競技だ。 自分の目に映った物を疑い始めたら切がない。

 だからまこは怖くなったのだ。 自分を何処まで信じるか、曖昧になる前に。

 

「むしろ自分の考えを絶対に信じ切る者が可笑しいよ? 私達は特別では無い。 絶対者じゃないんだからそれで良いよ、まこ」

 

 いつの間にかすぐ隣まで近づいた久は、まこの手を取り横に片付けて、直接まこと目を合わせた。

 

「き…急に何なんじゃ」

 

 まこが慌てても構わず、ふっと音をだして笑っては、久も横に倒れる。

 誕生日では半年しか差がないので、後輩よりは親しい友達だと思ったけど、やっぱり年下には頼りになる先輩が必要だったなーと久は思った。

 一緒に並んで横になった二人は、床で天井を見上げたまま、動かなかった。

 

「勿論、そんな部類が有るから内気になるのも分かる。 散々見てきたでしょうね、今の全国で」

 

 全国の恐ろしさ、久は2回戦で味わった物、後輩にはそんな思い出をさせたくない。 放ったらかしにしても和くらいなら絶対しないだろう。

 

「そうじゃな。 正気には相手出来へん気がする」

 

「でも、うちの1年トリオも充分に異常だよ? 勿論咲は論外だけど、和もそうだし、優希でさえ私達には持ってない何かを持ってる。 今まで相手にして来たでしょう?」

 

「そんなもんかのう」

 

「あの子達は、私の想像以上の所まで行ける気がするんだよね。 頂点に至る道に乗れる資格?それくらいの」

 

「プロの話か?」

 

「分かりやすい例えでなら、それか」

 

「ワシと久は、それが欠けとるちゅうのか」

 

「認めた上で頑張るのよ」

 

「なんじゃ、あんたも怪物みたいな後輩に引け目感じとったんか?」

 

「同然でしょう? 私達は普通の女子高生だから」

 

「久が普通の女子高生? うちの全生徒が鼻で笑うじゃろ。 胸に手を当てて考えてみんさい」

 

 

 

 

 今の染谷まこがどんな気持ちで、全国に向かうこの試合に挑んでるのか、久はまこ本人じゃないから分からない。

 インターハイ初出場で全国制覇など、馬鹿げた夢を口にした先輩の夢の為に打ってるのなら嬉しいけど、敷いて言えばまこが自分の為に頑張るのを祈りながら中継画面を見ていた。

 

 牌をツモ切りして何巡目か、画面の中で不気味な笑いを浮かべたまこは、綺麗に牌を倒す。

 

「ロン、12000」

 

『開幕一閃! 次鋒戦は先頭清澄からの和了りで動き出す!』




Merry Christmas & Happy New Yearです。
多分、今年最後の更新になります。
9月から今日まで、私に取っては長い時間でした。
ありがとうございます!
来年もよろしくお願いします!
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