優希-Yūki-、再び全国へ   作:瑞華

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第39話、華菜ちゃんは挫けないし

 この半荘は、また一方的な内容にはならなかった。 誰もが警戒し合う一触即発の状態で、何時導火線に火が付いてないまま進行していた。 読みを間違えたら即撃たれる、その考えが4人の頭の中を支配する。

 

ー不注意な反応で手の内を読まれ隙を見せる訳には行かない。 あくまでも無心に無表情に、どんな場面でも冷静に。

ー打牌に時間を使い過ぎるのも駄目だ。 残した手牌の形がその牌と深く関係していて、そこに意味が有ると悟られる。

ー感情を隠さないと、表情も読まれる。 プロのレベルに至るとそんな些細な事まで分析され、実戦で逆手に取られる。

 

 どれだけ麻雀に真剣な高校生だろうと、プロリーグのレベルは雲の上の話しなので、そこまで意識して打ったりはしない。 極めて僅かな数、トップクラスのプロにも打ち勝てる高校生だろうと、その部分は抜けている場合も多い。 いちいち精神力を使って逆に調子が崩れるなら、むしろ意識しない方がマシだという判断なのだ。 滅多に崩れる事の無い、大人達さえも超える、頑丈な女子高生雀士だけが、やりこなす領域。

 

 なのに昨年は、高校生の大会で最も大きいインターハイで、相手選手の打ち方に、本人すら知らない癖まで分析し、それを実戦で適用して、強豪校達を打ち砕いた大人気ない実業団選手出身の監督が有った。 それを起点に、他人事でも無くなってしまったのだ。

 その年トップレベルの高校生はプロの世界でも即活躍する。 1万人の頂きに至るほど、プロ並みの戦術と攻略作戦を敢行する者は必ず有る。 油断など出来ない。 特に、捨てられた川からそういった情報を直接読み取り、それに合わせて対応するタイプの染谷まこには、余計に卓上の情報を増やしてはいけない。

 それはこの3人共、同じ気持ちだった。

 まこは、メガネを外している。

 

 既に南4局、逆転の手は見えないまま時間だけが過ぎてもうオーラス。

 

「リーチ」 

 

 国広一の鮮やかなリーチ発声が雷のように落ちて、場が揺らめく。 1000点棒を取り出す時、カラカラと鳴る鎖の音は、凄まじい効果音と成っていた。

 一の細い指が点棒を供託する。

 これでまこのツモ番。 全てがぼやけて見える眼で、まこは卓上全体を見下ろした。

 リーチを掛けた一の捨て牌はオタ風の字牌幾つと八索、直前に曲げたのは五筒、それに東家。 この局、運は国広一に味方していた。

 どんな待ちなのか読めないからって逃げるとしても、このまま放っておけば流局、親の聴牌で1本場に入て龍門渕のチャンスは続く。 龍門渕は現在2位、追いかけられる者も、追いつきたい者も、ここで食い止めたい。 普通ならそう考える筈だ。

 

(これで……行こうか)

 

 まこからはドラの九索が出された。

 席の順番に遵って次のツモ番である檀は、山から牌を取るか、それとも一発消しに鳴きを入れるか悩む。

 檀のバラバラな手牌では避ける事は出来ても、ツモ和了を止めるのは出来ない。 小さい確率でもここで失点の幅を縮めておくのも理はある。

 だけど、たちまち仕掛けるのを諦めて山に手を伸ばした。

 

 ツモった牌は發。 運良く役牌が暗刻で揃ってくれたのだが、一歩遅かった。

 流れるように手配の上に横にした發を乗せると軽快な音が鳴る。 檀は悩む姿など一切なく、手配の中から發をツモ切りで捨てた。

 空切り。 發を手配に入れて攻撃に出るように見せかける。

 無事に通ったのでツモ順が回って行く。 檀から見て最後の1枚の、發単騎待ちではなかった。 

 

(ここで發? 役牌抱えて攻撃だと読んだんじゃが……?)

 

 外して髪の毛に刺さって置いたメガネを取るか、まこは少し悩んだが、余計に注目されたくなかったので、それは諦めた。

 前順、まこは川から過去の記憶から、ここで鶴賀を鳴かせた後、攻撃に出た牌で放銃を予測したのだが、鶴賀の高田檀は九索を見逃した。

 九索はドラを鳴かせて手変わりで余る危険牌を引き出す為の餌だったのだが、まんまとハズレ。 

 

(降りか攻めか、よく分からんのー。 このまま国広さんに期待するか)

 

 4位の鶴賀の点を減らしてくれるなら、それが誰でも構わない。 連荘してもっと減らしてくれるなら思う壺だ。 飛ばされた時、100点でも多ければそれでいい。 数絵ならそうしてくれると、信頼していたからそんな打ち方を選ぶ事も出来る。

 今回は少し見え見えの仕掛けだったのかもだと思いながら、張り合いから手を引いて、まこも守りを固める事にした。

 結果的に、まこの狙いは半分だけの成果を貰った。

 

「ツモ!」

 

 裏ドラを捲る一の指先に、4人の眼が集まる。

 

「4000 ALLーー!」

 

 親の満貫が炸裂する。

 

 

 

 

長野 団体戦 中堅戦 前半

南4局 1本場

1位 清澄  147000

2位 龍門渕 124700(親)

3位 風越   78000

4位 鶴賀   50300

 

「深堀先輩のお陰で3位まで上がれたのは良かったけど、私のせいで未だに遠い……」

「文堂さんも荒ぶる卓でよく戦ったと思いますよ? あれは絶対に負けたんじゃないです!」

 

 浅井真澄は、未だに挫けている文堂星夏を励ましていた。

 自分を責める気持ちは十分に解るけど、そんな事を口の外に出すと、皆の空気まで冷めてしまう。 もしかしてと思った真澄が、深堀先輩の顔色も伺ったら、やっぱりそっちも似たようなもんだった。

 

「そうでしょうか……」

「……はァ……」

 

 合唱のように二人の溜息が混ざる。

 

「次鋒で深堀先輩も個人収支なら1万点も稼いで2位だし、まだまだ、これからです」

 

 区間個人記録では1位の沢村智紀と近差だったけど、悔いが残るのはしょうがない。

 控室を重い空気にしている二人の間で、真澄一人が奮闘の苦労をしていると、吉留未春は顔を星夏の耳近くに寄せた。

 

「文堂さん、対局終わってコーチも怒ってなかったからさ。 胸を張って」

 

 誰にも聞こえないくらいの極めて小さい声量でそう言って、その後は純代の方に顔を向けて笑ってあげる。

 

「福路先輩に頼りっぱなしだった昨年に比べれば、私達は成長したんだよ。 今日の試合がその証拠になる」

 

「そうだ! この華菜ちゃんが全部倒してやるー!!!」

「池田ァァッ!! 静かにしないか!? もう少しは部長らしくしてろ!!」

「は、はいっ! すみません!」

 

 久保コーチの怒鳴りつける声に、池田華菜は座ったまま直立不動になってしまった。 背筋を伸ばして固まったまま動かない。 後ろに在るコーチからは頭くらいしか見えない筈なのにもそうだ。

 部員達とはちょっと離れた後ろの窓際で、ひとり足を組んで座っている久保コーチは、相変わらず何を言っても怖い。 辛い口ぶりだったけど、それもごもっともな言葉なので、口答えなど想像も出来ず、そのまま華菜の絶叫は泡になり消えて、哀れなキャプテンに向けて部員達の温かい目線が集まる。

 表に華菜の叫びに同調は出来なかったけど、この部屋の誰もが華菜と一緒に叫びたい気持ちだった。

 

 華菜の隣に座っていた文堂星夏は、背の高さに随分と差がある先輩に近づいてた。

 

「キャプテン、大丈夫ですか?」

「ああ、私は大丈夫だ、文堂。 それより試合だ」

 

 何もなかった事にして、とぼける華菜は、今更威厳の先輩ズラで腕を組み正面のテレビに目線を移した。

 

 現在、国広一の和了で龍門渕との点差すら4万点以上。 この時点で長野の決勝は清澄と龍門渕の争いに絞れたように見える。 認めたくはないけど、長野県の内と外、色んな所で今この試合を見ている視聴者達はそう思うに違い無い。

 今の連荘が終われば、正確に半分を消化した事になる。

 残りは半荘5回、長くは無い。 逆転の見込みがないとは言えなくても、ここで何らかのチャンスが無ければ辛いのも事実。 副将と大将、残ってる相手は手強い。

 今年からは副将を務めている吉留未春は、後1半荘で自分の出番が来るのにも関わらず、後輩の試合を観るのに夢中に成っていた。

 今年の中堅、大迫昭乃の相手には、去年には未春と同じく次鋒として戦った染谷まこが有る。その打ちを用心深く観察していた。

 

「随分と良いように使ってるね。 相変わらずって言うか…」

 

 また、ここで出る理由が無い中の対子を落とす、まこの手を見て、未春はそう言った。

 星夏も、染谷まこの打ち筋からの違和感なら感じている。

 

「染谷さん、福路先輩の闘牌と似てるんじゃないですか? 先から鶴賀の妨害ばっかで龍門渕はどんどん点数増えてるし……」

「自分のリードを減らす危険を犯してまで妨害するとか、本当ムカつく!」

 

 恐る恐る言い出した星夏とは対照的に、また興奮気味の華菜はもうコーチに怒られたのを忘れている。

 

「他家の活用は、染谷さんも特技だったよ」

「去年もそうでした。 それが染谷さんらしい打ち方です。 自分に取って悪い方に流れるのを予感して、良い方向に変えてます。 それにちょくちょく見せる刃も鋭いし、去年より断然上手くなってると思います」

 

 未春の言葉に浅井真澄が解説を付け加えると、星夏は眼を丸めて真澄を見た。

 

「浅井さん、よく知ってますね」

「あァ、去年は昭乃と一緒に録画は散々見て、牌譜取ってましたから」

「そうだったね、その時はふたりのお陰で助かったよ。 今更だけど、ありがとう」

 

 未春がごく小さく頭を下げるような仕草を取ると、真澄は両手を降った。

 

「いえいえ、部員として同然の事でした。 役に立ったなら嬉しいけど、それは私達の為にやった事でもありますから。 その時の経験で私も成長したし、昭乃もレギュラーになんて、なれなかった筈です」

「浅井さん……」

 

 痛ましい眼で自分を見つめてる星夏に、真澄は気軽な声を返す。

 

「大丈夫です、文堂さん。 試合を見守りましょう。 昭乃は今の相手達がどんな打ち方をするのか、昨日の試合もちゃんと読み通して、この試合に臨んでいますから、きっとやってくれます」

 

 今は会場で戦ってる昭乃が、1年前はバクアップしか出来なかった事を踏み出して、この1年間、部内試合を勝ち抜く為に、どれほどの努力を重ねてやがてレギュラーの座を取ったのか、分からない者はない。

 立った数ヶ月で78位からレギュラーになった文堂星夏も、よくわかる。 それが出来なかった時の気持ちも。

 

「そうだ、やってやろうじゃないか。 それで全国に行くんだ」

 

 華菜は不気味な笑いを浮かべて、そう言った。

 勝てば、困難の記憶も、重ねた努力も、かいた汗も報われる。




 ここでは優希ちゃんが主人公の筈なのに、もう何回も、まともに出てない気がします。
 皆は自分の人生での主人公だからかな? 咲-Saki-はそういう作品ですからねー

 それと各校のオーダーが公開されたので、ここで登場人物の紹介を書き込んで置きます。

 以下は第72回全国高等学校麻雀選手権大会の長野県予選、団体戦決勝進出校のオーダーになります。

清澄高校 麻雀部
先鋒 片岡 優希(2年)
次鋒 (うえ)(はら) ()(すず)(1年)
中堅 染谷 まこ(3年)
副将 南浦 数絵(2年)
大将 ()(しば) ()(つき)(3年)

龍門渕高校 麻雀部
先鋒  井上  純(3年) 
次鋒  沢村 智紀(3年) 
中堅  国広  一(3年)
副将 龍門渕 透華(3年)
大将  天江  衣(3年)
補欠  杉崎  歩(2年)

鶴賀学院 麻雀部
先鋒 妹尾 佳織(3年)
次鋒 (いな)() ()(づめ)(1年)
中堅 (たか)()  (まゆみ)(1年)
副将 津山 睦月(3年)
大将 東横 桃子(2年)

風越女子 麻雀部
先鋒 文堂 星夏(2年)
次鋒 深堀 純代(3年)
中堅 (おお)(さこ) (あき)()(2年)
副将 吉留 未春(3年)
大将 池田 華菜(3年)


 以下は71回レギュラー以外の短い紹介です

(うえ)(はら) ()(すず)(1年)
国広一の小学生大会頃の仲間で、以外は名前から全部オリジナル。6年ぶりに麻雀に復帰

(なん)() (かず)()(2年)
71回インハイ長野県予選個人戦2日目5位
祖父の南浦聡プロの下で平滝高校に通っていたが、久にスカウトされて清澄に転校

()(しば) ()(つき)(3年)
昨年は清澄高校学生議会の書紀で、全国大会初戦開始前、久に掛けられた応援電話に出た子。
今年は学生議会の副会長で、まこのクラスメイト

(いな)() ()(づめ)(1年)
オリジナル、全中大会出場経験が有って、2年前のインターミドルでは原村和と会った。

(たか)() (まゆみ)(1年)
オリジナル、小学生時代から稲葉と友達で、麻雀は中学で始めた。

(おお)(さこ) (あき)()(2年)
去年、レギュラーになれなくて清澄と鶴賀の1,2回戦牌譜を作って渡した部員のひとりで、今年はレギュラーになった。

(あさ)() ()(すみ)(2年)
去年、レギュラーになれなくて清澄と鶴賀の1,2回戦牌譜を作って渡した部員のひとりで、レギュラーには入れなかった。
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