優希-Yūki-、再び全国へ   作:瑞華

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桜の春と龍門渕(3)

「実に良い朝日だ」

 

 窓際に立ち、天江衣はそう言っていた。日差しが注がれるホテルの一面全部が窓ガラスの所で、外を見渡しながらだ。

 ここでなら大手町から丸の内、遠くには霞が関までの業務地区を埋めている建物が全てを脚の下に置ける。衣にはそれすらも嬉しくてたまらないものだった。

 似合わない事を口にするのは何時もの癖のようなもの。自分なりに良い言葉だと思っている様に見える。

 龍門渕透華は、そんなふうに格好をつけて後ろを振り向く衣の目線が自分に向けられたのに気づいた。

 

「長かった旅も終わろうとしているな、トーカ」

 

「何、感傷に浸ってるんですかね……この子は」

 

 私の朝は何時だって忙しいのに面倒な子供やらと、透華は思う。

 自分ながら綺麗な素材だとは自慢してるけど、それと同時に自己主張の強い髪の毛に、念には念を入れ丁寧に片付けるなど、身仕舞いの真っ最中に衣の言葉に付き合ってあげる余裕など無かった。

 屋敷に居る衣は普段、平日休日問わず今の時間帯に自分で起きる事など期待できないない子供のような生活をしている。そのくせに、旅行先となると、それもまた子供のように早起きをするのだった。

 それが本意では無くとも、透華にはそんな衣がふざけているのにしか見えなかった。

 まるで子供だ。

 

 透華がその顔を見向きもせずに乗ってくれないと、衣の方から長くため息を突くのが聞こえた。

 

「全く……トーカは風流を知らない子だな」

 

 衣は、全然サイズの合ってない、体を包んだ小夜衣の裾を床にひきずりながら私の方へゆっくりよ歩いてきた。

 堂々と立ち振舞っても雰囲気など無いのだけど、本人は知らないらしい。

 

「ここで、この眺めを見れるのも今日でお終いと思うと残念だが、仕方あるまい」

 

「茶番はもう良いですから、とっとと準備しなさい。早くしないと衣だけ置いて行きますわよ!」

 

 龍門渕透華の堪忍袋は割と小さい。終わりを知らずに続く衣の言葉に、透華はキレた声を出してしまった。けれど、そんな事を気にする衣ではないと、透華だって知っている。

 引いてる顔を作っては図々しく逆ギレして向かってくる。

 

「トーカが寝坊したのを衣のせいにしても困るな」

 

「ここまで来て夜1時に絵本読んでくれと急かしたのは、どの口ですの!?」

 

「知らないな──」

 

「ぐぬぬぬ……」

 

 昨晩、透華が誰の子守で遅く寝所に着いたというのに、衣は顔色一つ変えずに恍ける。

 流石の透華だって呆れてしまった。

 と言っても、何でもない事に怒るのに時間を無駄に使うのも駄目なのだった。何よりも今先ヘアドライヤーやらなんやらでセットが終わった筈の髪の毛が台無しになり兼ねない。

 そのような透華の内心など知らないのか、衣はそんな彼女の前をする抜けて、いつの間にかメイド服になっている国広一の後ろに隠れた。

 

「衣は言われた通り早起きしたんだぞ!」

 

 ふわふわなメイド服のスカートに包まれ、いい気になってる衣の顔を見て、透華はこれが姉妹喧嘩なのかと思ってしまった。

 透華も衣も、元々は一人っ子だというのに何故姉妹喧嘩をしているのやらと、そんな事が頭の中に浮かぶ。

 少し頭が痛くなったけど、どんなに苛ついても頭は冷静にと考え、深呼吸をする。

 さいわい、透華にも一人の味方くらいは持ってるのが救いだった。

 

「はいはい、透華も衣もそれくらいで良いから。衣はこっち座って」

 

 こういう時に場を整理してくれるのは一しかない。

 

 

 

 選抜高等学校麻雀大会、その最終日。

 全国32校の強豪校だちの中で頂点を決める決勝戦が行われる日の朝、龍門渕高校麻雀部もその現場に向かった。

 春季大会は5位決定戦も個人戦も無い故に、二日前の準決勝で敗退した龍門渕高校は、もう東京を離れても構わないのだけど、まだここの地に残っているのは最後まで見届ける為だった。

 なのに会場へと出発したのは、既に先鋒戦が始まってる頃合いだった。

 その原因に、寝坊をした透華本人は衣のせいだと思ってるけど、近いとはいえ遅く車に乗って会場へ向かう気持ちは決して楽ではない。

 

 車酔いなどとは無縁な沢村智紀は相変わらずノートパソコンをいじっていた。

 他の4人より先にネットを通じて試合の進行状況確認してるけど、智紀からも試合の流れは言わないし、透華からも訊かない。

 今日の決勝に進出したのは、白糸台、臨海、阿知賀、三箇牧の4校。

 龍門渕に勝った三箇牧で無く、もし清澄があったら、去年のインターハイ決勝と同じ組み合わせになる。

 ルールと戦力が違う大会でも、割と上下は変わらないのかも知らないと、透華は思っていた。

 透華としては、せめて自分達が決勝まで上がっていたらと思う気持ちもある。

 だから透華は自分では認めたくないけど、まだ長野に帰らず、ここにある。

 外には春らしさが漂っているのに、透華の心は晴れない。

 

「エトピリカに成りたかったペンギンか……覚えてないや。多分屋敷には無いと思うよ」

 

「絵本の内容ならここでも調べられる」

 

 パソコンから眼を離さなかった智紀は、透華の方をジロっと見つめてた。

 眼鏡の下からたというのにも、透華は智紀の目線が自分に刺さるのを感じられた。

 一と智紀は、透華が昨夜通りすがりに言った事も覚えて話題に持ち込む繊細さがあるけど、それは良い所でありながらも、偶には余計な所でも有った。

 

「その必要はありませんわよ、智紀。その絵本がどんな内容かまでは別に関係の無い事ですわ」

 

 透華がそう言うと、二人はそれ以上何も付け加えなかった。

 

 昨日の夜、真屋由暉子は透華に火種を投げて来た。

 何故そんな話を私にしたのだろう、……私を動かしかった?それ以外は考えられない。などと、透華は色々考えてしまう。

 そんなふうに頭いっぱい埋められていた透華に、衣の声が飛びかかった。

 

「気になるなら、ののかに直接聴けばいい。トーカは馬鹿だな、友達に遠慮など要らぬ」

 

 衣にも解るくらいに顔から感情が出ていたらしいと透華は気がついた。

 

「私は別に原村和と友達になった記憶はありませんわよ。ライバル、打倒する相手、それだけだった関係ですわ」

 

「素直じゃないな」

 

 透華なりにはきっぱりと言ったつもりだったのに、衣は時間差も無くそれを鼻で笑った。

 そんな適当なごまかしの言葉を言っても、衣は騙されない。

 勿論、衣だけでない。他の皆もそうだった。

 

「うん、そうだね。透華は何時も本音は言わないよね」

 

 透華だって、本当が気づいている。

 でも、ここでは言い張るしかない。

 

「ふん、どうとでも言って下さいまし」

 

 

 

 東京国際フォーラム

 春休みが終わると高校3年となる透華たちは、この会場で高校生として麻雀を打てる機会は後1回しか残っていない。

 龍門渕透華は今まで、全国制覇などの大した夢を見た事は無かった。

 最初は衣に自分以外の友達を作ってあげる為、県予選、全国、そして世界へと衣を連れて行く道のりとして始めた事。両親を亡くした以来は屋敷の狭い部屋と、ぬいぐるみ達が世の全てだった衣の世界を本当の意味で世界に広げてあげる為に頑張るうちに、龍門渕透華も麻雀という競技で私自身の能力を証明する事に夢中に成っていた。

 高校生の公式戦は本の一握りでしかない試合の結果で決まる。そんな大会の優勝など、数回の勝ち負けでしな無く、実力がはっきり区別出来るものではないと、透華は思っていた。

 だから透華に優勝自体は大した意味があるのでは無い。

 我の道を歩く過程で、もし得られたら少し嬉しくなるだけの物。それ以上の価値は感じられなかった。

 その考え事態は今の変わっていない。

 でも、イザとなってここに立つと、透華は勝ちたくなる。

 誰だったそんな気持ちにする、可笑しな空気がこの会場には溢れていた。

 

「早う行こう! 衣はケイの試合が見たい!」

 

「はいはい、解りましたわよ」

 

 袖を引っ張りながら急かす衣に、透華はそう言った。

 準決勝での荒川憩との対局から、その荒川憩がよっぽど気に入ったらしかった。基本自身の試合じゃないと興味を持たない衣が今日まで帰ろうなどと言わなかった理由でも有ると、透華は察していた。

 でも、急ぐ必要は無い。透華達が会場へ出発する前から先鋒戦は始まっていた。今更走っても先鋒戦には間に合わない。

 そして透華の予想通りホール入り口前のロビーは騒がしく成っていた。

 次鋒戦開始までの休憩時間が始まったばかりに入場したらしく、何処を見ても入場客でいっぱいになっていた。

 基本は高校生が多いけど、やっぱり報道陣も結構見かけられる。

 

「あっちに先鋒戦の結果出てるぞ」

 

「何処だ、純!」

 

 純がロビーの中心に設置された大型ディスプレイの方を指差と、衣の眼は純の指先を追った。

 次鋒戦開始時刻が表示されている時計と、先鋒戦終了時の順位と点数が流れている。

 遠くからも学校名くらいは見えて、もっと近づくと点数と出場選手の名前も眼に入った。

 

「ケイ、ケイは何時出るのか?」

 

 衣の言葉に透華はすぐ三箇牧の所に眼を向けたが、そこに荒川憩の名前は無かった。

 

「今日、荒川憩のポジションは大将」

 

「そうか、それは良かったな。楽しみが最後なのも良かろう」

 

 画面に出てない荒川憩の出場順番を智紀が教えてくれると、衣は満足したようだった。

 試合の行方など興味無い衣は置いといて、透華は現状の点数の方を確認した。

 一と純も、透華の隣で同じ所を確認する。

 

「おーっと、白糸台がトップか?」

 

「宮永照が居なくとも強いのは変わらないね」

 

 先鋒戦でトップに立ったのは白糸台、チームを先頭に立たせたのは白糸台の1年、大星淡だった。

 2位の阿知賀を退けて見事にトップ。今の先鋒戦で大星淡は阿知賀の松実玄にまで勝ち越た事になる。

 順位と点数だけで内容までは分からないけど、それだけでも予測くらいなら出来る。大した点差は無いけど、一度でも大きな点数変動を起こす松実玄の火力を考慮すると、その松実玄にチャンスを与えなかったのだと考えられる。

 同じ火力型の大星との互いに殴り合いになってた可能性もあるが、それも含めて後で確認しようと、透華は考えた。

 

 それよりはここからの8半荘がどう流れるかだ。

 夏のインターハイの主力となる2,3年生で再編した各高校の今の戦力を自分の目で確認出来る最後の機会なのだから。

 

「すぐ始まると思うし、席を取って置きましょうか」

 

 そう言った透華は中継が見られるホールAの入口に足を運ぶとしたが、また袖を引っ張られ僅か一歩しか動けなかった。

 

「その前に、おやつ買ってこう!」

 

「もう、すこしで昼ですけど」

 

「でも、衣は喉乾いたし」

 

 先までは早く行こうと言ってた口から寄り道を求まれるとは思っても見なかったのだけど、透華はこんな時に限って衣に二つ返事しか出来ない。

 ため息と一緒に首を縦に振った。

 

「はいはい、解りましたわ。では三人は先に入ってらっしゃい」

 

「それなら、ボクが行くよ」

 

「私も頭を冷めて置きたいので」

 

 一の言葉を軽い断って3人を先に行かせてから、自分より誕生日の早い衣という子連れの透華は売店の有るフロアに向かった。

 

 東京国際フォーラムは内部構造が複雑なほうだけど、もう何年も対局室、控室、中継ホールを行き来してる間に馴染んでいた。子供っぽい所が多い衣とは言えども、ここで迷子に成るとは思はないけど、これが気が楽だ。

 女子高生たちでいっぱいの今、ここの売店にも人は多かった。

 久々に自分の手で買い物をする事になった透華は、一段と中を見回ってから冷蔵庫の前に止まった。

 ここまで来たからには、いざ庶民的な味を楽しもうと、安くて甘さが過剰なくらいのペットボトルのミルクティーに目をつけた。

 

「衣は何にしますか?」

 

 一と純、智紀の分まで選んでから、透華は後ろのお菓子コーナーの方を振り向きながらそう言ったけど、そこから衣の返事は帰って来なかった。

 正確には、透華でなく他の誰かに向けての、衣の声が店の中に響いた。

 

「────誰だ、お前は!」

 

「貴方、天江衣でしょう? 私はあんたの事知ってるのに、あんたは私の事知らないんだ」

 

「お前何か知らないぞ。それより衣を見下ろすな!」

 

 その時、透華の眼に映ったのは、様々なお菓子の前で高校生という歳が似合わなく対峙している二人だった。

 衣と、また一人。子どもじみた声と、年上に対する尊敬や礼など微塵も感じられない言い草。

 その持ち主の顔は良く知っている。

 透華はここで見かけたのを一瞬は驚かったが、すぐ呆れた顔に成って、二人を見下ろしながら一歩つづ近寄った。

 

「私はね───」

 

「白糸台高校麻雀部チーム虎姫の大星淡、ですわよね」

 

 透華の口から自分の名前を聞いた大星淡は、龍門渕透華と眼が合った土壇にやりと笑った。

 

「ピンポンピンポン!正解です。そこの良い子には、あわあわポイントを1ポイントあげますよ──。で、そこの長野の田舎娘は私の名前すらも聞いたこと無いわけ?」

 

「子供じゃない! ころもだ!」

 

「いや……別に『こども』とは言ってないけど……」

 

「兎に角だ─! お前なんか知らないぞ! 衣が何故お前のような無礼者の名を存じなければ成らないのだ!」

 

 物理的な意味で自分を見下ろすとか、子供扱いにコンプレックス持ちの天江衣が逆上してるように見えるけど、大星淡の口ぶりも半端なく酷いのに変わりはない。

 

「あんたが荒川憩に勝ったら今日相手する予定だったけど、がっかりだよ。龍門渕高校」

 

「喧嘩を売るなら他を当たって頂けますか?」

 

 黙って聞いている理由もなかったので、透華は衣の隣に立ち、淡を睨みつけた。

 こんなに挑発されて笑ってあげる義理あない。

 

「何よ、これでもノドカのお友達だって聞いたから親切に挨拶したのに」

 

「これの何処が親切ですか」

 

 この小娘の辞書に『親切』がどう記述されているのが、透華は一度確認したいと思った。

 でも、案外衣はそれに気にしてないようだった。

 

「お前も、ののかの友達なのか? ののかと麻雀打った事あるか?」

 

「私は無いよ。私はノドカが麻雀やめた後から友達になったんだし」

 

「それは残念だな。ののかは面白い麻雀をしてくれた。その記憶を共有出来たら嬉しかったものの」

 

 先まで言い争っていたのに、衣は本当に残念そうな表情になっていた。

 でも、大星淡の考えは少し違うようだった。

 

「いや、ノドカは強いけど、あんなしょうもない麻雀なんて面白くないし」

 

「お前、ののかの友達とは言えども、ののかの麻雀を侮辱するならこの衣が許さんぞ!」

 

「面白いとか面白くないとか、デジタル雀士として、面白く無いと言う意見は認めますわ」

 

 また言い争いに拡散する前に、透華は言葉を挟んだ。

 急に入ったが、これは本当の気持ちだ。見ている側からすればデジタル派は決して面白くはない。

 

「分かってるね、龍門渕」

 

 そう言いながら気まずく笑っている大星淡もまた衣のような魔物、そのような者達の眼にどう映るのか、龍門渕透華はよく知っている。

 

「まァ、テルに1度くらい負けたくらいで、諦めちまう子と打っても、この私が勝つに決まってるけどね。じゃァ、私はこれから控室に戻るから。バイバイ──」

 

 そう言い残し手を振って帰ろうと後ろ向く大星淡に、透華の冷たい声が飛び掛かる。

 

「テル? 宮永照?」

 

「そうだよ。他にテルって無いでしょう?」

 

 今日の麻雀界で照と言えば即ち宮永照しか居ない。透華もそれくらい解る。

 最強の高校生として高校麻雀のステージを離れ今はスタープレイヤーの列に伍した宮永照。

 その宮永照と手を合わせた者は本質的なものを見透かされると言われている牌に愛されし魔物。

 腕組を解いて拳を握る透華の手を見て、衣は透華の顔を見上げた。

 

「トーカ?」

 

「……宮永照に負けたから、麻雀をやめた? 何ですの、それは!」

 

 急な怒鳴り声に淡はこわばる。

 透華の冷たく燃える眼光の前で、縛らせたように動けない。

 

「私は麻雀をやめた理由など一度も聞いた事は御座いませんわよ! なのに何で貴方はそれを知ってるのですか!」

 

「なんでって……テルが観たのを教えてくれただけ……」

 

「なら宮永照は何で知ってるんです!」

 

 龍門渕透華という女の存在感に完全に圧倒され、自分のおでこから汗が流れるのを感じた淡は目を閉じた。透華の目から逃げる為にはそうするしか無い。

 そのまま淡は震えながらも叫ぶ。

 

「……なによ! 訊きたいのならノドカにでも訊いたら!」

 

 淡の叫びを最後に3人の間には沈黙だけが流れる。透華からは何事も帰って来ない。

 何秒が過ぎて淡は恐れ恐れながらも目を開け前を見たけど、そこの透華は冷たいか熱いか、そのどっちでもなかった。

 ただ、怒っているだけ。

 何秒しかない間、音が消されたような時間は、透華の口からまた回り始めた。

 

「衣、先に一の所に戻ってらっしゃい。私はちょっと用事が出来ました」

 

「おい、トーカ!」

 

 そのまま、会場を抜け出す透華の後ろを、衣と淡は視野から失った。

 

 

 

 その後、透華は無我夢中で走った。

 ハギヨシを呼ぶのも忘れた。

 

『そう望むのが私のエーゴを押し付ける事なら諦めますけど、違うなら私は無理にでも押し付けます』

 

 昨夜の真屋由暉子が言ってた言葉が頭の中いっぱい響き続けるだけ。

 丸の内から新宿の住宅街までは思ったより遠くは無かったけれど、さすがの東京市内は思った以上に混んでいた。

 予定も計画も無しに、前に調べて置いた原村和の住所だけをあてにして、目的地の家に着くのには結構な時間を尽くしてしまった。普通の住宅の中、何も変わった事のない家の前に止まったタクシーから透華は降りた。

 

 全国どの学校も今は春休み期間、休日とは言え家にあるとは限らないけど他に宛はない。原村和が留守でも夜中までは帰って来るはず、待ち伏せをするのだって出来る。

 だけど門の前に立った透華は、イザとなっては顔を顰めてベールを鳴らすのに戸惑ってしまった。

 でも、ここまで来て迷っていると時間だけが過ぎる。

 気を引き締めて、ベールのボタンを押すとしたその瞬間、後ろから人気がした。

 全身のアンテナを尖らせた透華は、ゆっくりと後ろを振り向く。

 

「何かご用ですか?」

 

 そう柔らかな声が聞こえた時、透華は驚きを隠せなかった。

 自分より10センチほと低めな背筋、春の桜を思わせる色の髪の毛が風になびいて、堂々さと凛々しさ溢れる顔立ちと眼が透き通る彼女を見下ろして、透華は自分も目を疑ってしまった。

 

「原村…さん……、私は」

 

 両手いっぱい買い物を持っていた、その人は透華に微笑んだ。

 

「娘のお友達?」

 

 原村嘉穂は、娘とそっくりだった。




透華のお母さんはどんな人でしょうかね。気になります。
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