優希-Yūki-、再び全国へ   作:瑞華

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第47話、突破

長野 団体戦 副将 前半戦

南1局5本場 親、龍門渕高校

1位 清澄  159000

2位 龍門渕 134500

3位 風越   73800

4位 鶴賀   32700

 

「うむ……」

 

 見るだけで疲れが襲いかかる様な数字、自然に口からほんの少しの溜息が漏れてしまった。

 局が流れ、また次の配牌を迎える短な時間、その何秒という間が余計に長く感じる。

 鶴賀学院の副将である津山睦月は、嫌でも目に入ってくる絶望的な点数を何度も目の当たりにした。

 

(ここまで9局、私だけ焼き鳥か……)

 

 心の中では自分に向けての、がっかりな気持ちの言葉を呟いたが、それ自体がショックってわけではない。

 今日この県予選会場に足を踏み入れる前から、大会が始まるよりずっと前から、覚悟は既に出来ていた。

 全国並みの実力者相手に桃子ならともかく普通は太刀打ち出来ない。余計に数多い長野の化け物達を相手出来るのは、名実相伴う鶴賀学院のエースである桃子だけ、その出番が来る前まで広い点差を付けられるのは予想の範囲だった。

 予想っていうか当たり前の事、それを踏まえて、このメンツを相手にして大活躍とか大逆転とか、そういう生ぬるい考えなどはしない。負ける覚悟はしていた。

 だが覚悟有ったとしても、さすがにこれ程の一方的な流れを迎えると頭の中が混雑になるのは仕方ない。

 

(難しい所だな)

 

 睦月はそう考えながら新しい配牌を見下ろした。

 けど、やっぱりこの土壇場から脱出する緒は、ちっとも見えやしない。

 客観的、正直に言って鶴賀学院は相変わらずの弱小校。それは去年の県大会団体戦3位という実績が有っても、ほぼ変わらない。

 その結果を作り出したのは、今になって考えると必然だった偶然、有能過ぎる一人の先輩と、その先輩が呼び寄せた切り札。

 自分にはそんな奇跡のような事を呼び起こす力がいないと、よく実感している。

 睦月はこんな圧倒的点差を背負って対局に挑む事自体が初めての事だ。

 

(去年は先鋒の私から最下位に落とされてたし……)

 

 去年までは先鋒として出た睦月が、後ろの仲間達に点差を背負わせる方だった。

 先鋒とは重い責任を感じる役、最初のスタートを切る先鋒だったけど決してきらびやかな役にはなれなかったのだ。

 

(控室に戻っては窓際に突っ立っていたし)

 

 後ろに少しでも多い点棒を引き渡す為に打つ団体戦では、自分の記録が落ちての辛さや悔しさよりも仲間達への責任感の方がが重い。

 なのに不思議にも今の睦月は圧迫感など感じなかった。むしろ、今は以外とスッキリして新鮮な気持ちも感じてる。流石に笑みまでは浮かばないけれど、落ち着いた顔くらいは作れるらしい。

 なんだか、弱音など口にしなかった部長と先輩の事が思い浮かぶ。

 

(何で先輩達は何時も気軽に見えたのか、今になって分かった気がするよ、先輩方)

 

 二人は常に前向きだった。

 後輩達の前では弱さを隠して後輩たちの目が届かない所では落ち込んだ事も有るかもだけど、後輩の前でそんな姿を見せなかっただけで自分とは大違いと、睦月はそんな事を考えながら牌を握った。

 去年までの睦月が、先鋒を努める者の宿命として強豪校の強者達を相手にながら得た事が有るとしたら、こういう絶対的絶命の状況でも怯まない度胸くらいだ。

 

(やれる事だけやれば良いんだ)

 

 河を確認する同時に素早く上家と下家の様子を伺った睦月は、軽く牌を切った。

 三筒、中張牌を切り始めるのに迷いは無い。

 それを逃さずに、龍門渕透華の鋭く冷たい眼光が睦月の指を刺す。

 睦月は自分が前に出る事を悟られても構わないつもりだった。

 

(今の状況、明白に龍門渕透華に流れがある。一人だけの6連続和了、完璧な独壇場。これも確率的には勿論ありえるけどね)

 

 そんなふうに安直な考えをする瞬間、確実に殺される羽目に陥る時だと、怪物の世界を覗いてしまった睦月は分かっている。

 

(そろそろ止めないとな。八連荘役満ルールはないけれど、やられたら笑い事だよ。これも記録に残るんだしね……)

 

 真剣な状況の上だが、なるべく軽い気持ちでいようと睦月はしょうも無い考え方をした。

 この危機を脱出する一手を探しながら、自分の上家に座っている、もう一人の怪物の方へ、ちらりと流し目をする。

 怪物は怪物同士に殴り合って欲しかったが、どうやらその願いは叶うようにない。

 

(流石の南浦さんも龍門渕さんには敵わないのだろうか)

 

 睦月の眼には、強敵を前にして固まったままの、一人女の子だけが見えていた。

 

 

(こんなのに対処なんて出来るのか?)

 

 今の南浦数絵は雀卓の前では実に久しぶりに、絶望という感情を覚えていた。

 何局も繰り返しても思うままには進まない局だけが続き、もはや数絵に出来る事だとしたら歯を食いしばるくらいだけであった。

 非情な卓の上で、ツモ巡だけが流れて行く。

 

(これはもう、まるで私の牌が見えるような動き……これは単に器量の差で説明付けられる話ではない……龍門渕が秘めていた能力なのか?)

 

 ここまでは龍門渕のワンサイドゲームと言って過言では無い。

 最初の1局を除けば、はっきり言って数絵に取っては最悪としか言いようが無い内容だった。数絵には、この可笑しくて笑いが出そうな状況をくぐり抜ける方法が全く見えていないまま、ここまで来ている。

 どう攻めても龍門渕透華は、それを待ち構えていたかのような動きで一歩先を行った。

 ツモ・出和了を問わず塞がれ、何かをするチャンスすら与えない速さには驚きと言うか、恐ろしいくらい。

 自分より強い相手、壁のような相手を前にして力で防ぐという考えは完全に裏目に出たと言ってもいいだろう。自の運気が最も高い所に至る南場ですら勝てない。速攻で龍門渕の親を流すつもりだったのだが、力比べで負けてしまったのだ。

 それは今も変わらない。

 腕に震えなどは起きないけど、充分な辛さを抱えてまた山から牌を持ってきた。

 

(これではもう……)

 

 またしても無駄ツモ、二向聴から手牌が進まない。

 南入してからもう5回も龍門渕透華に先手をとられた。南場だとしても、そろそろ牌が答えてくれないのかも知れない。

 そんな数絵の事情などお構い無く、誰もが牌を切るのを待っていた。

 また一歩進むしかない。

 

(上家の透華はまた軽く字牌を処理した。隙が無い……)

 

 知ってはいたが上家の龍門渕透華は思った以上に手強い相手である。

 下家には一切有効牌を渡さないから鳴きを入れるのも困難だし、先にテンパイした場合はその直後に何の情報もなしに牌を切る事になるので、油断など出来ない。

 だが数絵は運を恨む事も誰かを責める事も出来なかった。この席決めを選んだのは自分、生憎だが龍門渕透華の下家に座ったのは数絵自身なのだから。

 

(ここで防御に切り替えるべきか?いや、それはナンセンス……)

 

 何が有っても、それだけは出来ない。

 と、数絵は心の中で繰り返す。

 

(そうしたら、勝ち目は完全に無くなってしまう)

 

 どんなに勝機が見えなくたって、勝負のケジメは、ここで自分の手で決めなきゃ駄目だ。

 さもないと誰もが恐ろしい光景を目の当たりにする事になるだろう。

 

(次の大将戦、あの天江衣が出てくるからには)

 

 数絵は、あの時の練習試合で天江衣の麻雀を直接見た記憶を思い出した。

 天江衣の試合は、中継カメラを通してではなく直接自分の眼で見る事に意味が有る。そかを確かめたその時ら、何度も考えて来た。

 彼女に勝つイメージを持つ事すらままならない本物の怪物、天江衣。

 このまま勝負の行方が大将戦で決まる事になるとしたら、次は何も出来ずにただ蹂躙されるだけの姿を、その目でご覧になるだけだと数絵は分かっていた。

 このオーダーを部長から聞いた時反論など口にしなかった。

 すぐ理解出来たからだ。戦力を前借りしたのと同然なこのオーダーはある意味で正論だって事を。

 これは最善。

 だが、そうやすやすとテンパイまで繋がらない今のままでは、その予定された事実を避けられるたった一つの方法が遠ざかっているだけ。

 鶴賀を飛ばす所か、仲間が、先輩と後輩が繋いでくれたトップまで盗られるのも可視圏。

 汗で手の感覚が少し鈍くなっている。

 

(もう龍門渕がテンパイしている可能性も考慮せねばならない……)

 

 ツモって来たのは「發」

 もう風越の河に1枚出されている。多分、持っていても使えない牌だ。

 引く事は意味を持たなない。これは切るべきた。

 なのに、ここまですぐ捨てられた筈の牌が、何故か手から離れなかった。

 

「……くっ」

 

 数絵は小さく舌打ちをしてしまった。

 それは多分他の3人にも、はっきりと耳に聞こえた筈た。

 到底感情を隠し切れる状態ではなくなった数絵は、龍門渕が序盤に捨てた一筒に手を伸ばした。

 これで今の巡は免れる。

 そう考えながら牌を河に出した。

 

「ポン」

 

「!?」

 

 先に前に出たのは鶴賀の津山睦月。

 睦月の鳴き宣言に、誰よりも真っ先に反応したのは、龍門渕透華だった。

 

(破られた?)




本当に遅くなりました。
読んで頂き誠にありがとうございます。
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