優希-Yūki-、再び全国へ   作:瑞華

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第51話、自分の舞台へ咲く

『先制リーチ!でも龍門渕は既にダマテンに取っている!さぁ、このリーチで押し切れるか清澄高校!』

『へぇー、あの子面白い事をするな』

 

 高調する試合の雰囲気をさらに盛り上げるアナウンサーの高らかな声と緊張感などこれっぽっちも感じられない解説。妙な組み合わせだが、それがまた妙に安定しているコンビの声がスピーカーから出て、画面には戦う少女達の面々が次々と映し出されている。

 高校1年を懸ける真剣勝負、その青春の一瞬を長い時間アスファルトの一本道を走る車の中で眺める少女がひとり。

 だけど、目を光らせると言うより不安を抱いて揺れる瞳をした女の子は、息をする音すら段々と小さくなる。

 

「どう?あの子達は勝てそう?」

「それが…えっと……」

 

 いきなり質問が飛びかかると、答えに慌てるのが声に出た。

 手持ちのスマホとの睨めっこだけをずっとしていたので、纏められない考えが邪魔をするので仕方ない。

 先まで何を考えながらこれを見ていたのかすらあやふやになってしまう。

 こうなると、笑いで誤魔化すしか無い。

 

「……分かりません。私、対局を読むのはあんまり得意じゃないんです。アハハハハ……」

「そう?それにしては真剣そうに見えたけど」

「えっと……」

「それとも、見てたら自分の出番の方が心配になってきたのかな?」

 

 言われてみると確かにそうかもと、彼女は思った。

 これを見ている間は、自分も彼女らと同じ所に立つ高校生雀士である事に実感がわく。

 それは期待でありながらも不安の原因。

 多分前で飛び終了が起きなければこれから出る事になるだろう。今は制服も着てないけど、彼女達と同じ。

 

 やっぱり気持ちを誤魔化すのもあんまり得意ではなかった。

 今のような内心なんか、運転席でハンドルを握ったまま目も合わせてない相手にも見透かされてしまうから。

 

「……やっぱり私はダメなのかな」

 

 何をやらせてもダメ────

 身近な友達から言われた事を、酷いとは思いつつも、ある程度認めざるを得ないのも事実。

 所詮彼女の中で自分は特に取り柄の見えないごく普通の女子高生なのだ。

 麻雀牌を握る時、その時だけを除くならば。

 

「カメラ越しで見た宮永さんは別人のようだったけど、直接卓に着かないとそうには成れないのね」

 

 そう言いながらハンドルを回しながらちらっと横目をする先生を避けて、宮永咲は眼差しを伏せる。

 

(先生は、麻雀を打ってる私しか知らないよね……)

 

 言葉に含まれている色んな意味を探ってみると、咲の考えはまた複雑に絡まる。

 咲は、宮永咲と言う高校生が・雀士としての自分が、インターハイで戦う子達にどんな風に思われているか、よく知っている。

 友達の中でのように普通過ぎる女子高生では片付けない。

 でも咲が自分に下す自己評価は、1年も前の家族意外の人と麻雀を打った事は一度も無かったあの頃から大した進歩を果たしていなかった。

 今も適当な答えが見つからなくて、慌てながらもじもじしているだけのちょっと鈍い子。

 

 だから大人にはそれすらも可愛く見える。

 

「フフッ」

 

 咲のぎこちなさそうな反応に釣られて、車を運転しながらも先生から小さい笑い声が漏れてしまった。

 

「ごめんなさい。余計なプレッシャーを掛けちゃったみたい。そんな真剣に悩まなくていいよ。緊張を解してあげようと思ったんだけど逆効果だったかな」

「す…すみません」

 

 これに謝らなくて良いのに、咲はぺこりと首を下げた。

 単にデレ隠しではないらしく、本気で謝ってもらうのは困る所だ。

 

「いやいや、私の方こそ。他人の試合なんてプロにも知らなくて同然なのに」

「知らない…って訳ではないんです。あの南浦さんとも一度は打ってみましたし、すっごく器用な人でした」

 

 咲にも丁度1年前になる県大会ははっきりとお覚えている。

 その後の合同合宿では今見ている卓に着いている3人と直接対局したり実戦のような張り合いをご覧になったりし合った。

 

「でも龍門渕さんだって恐ろしい時は途轍もなく怖くて……その時は相手にもなれませんでしたけど」

 

 丁度咲が手に持たスマホの中では、龍門渕透華の手牌が倒される瞬間が流れている。

 

『龍門渕高校が止めました!この一閃が清澄高校の積み棒をまた箱に戻します!』

『だが、まだリードをキープしているのは清澄だ』

 

 表情の無い龍門渕透華の顔が画面いっぱいに映る。

 

「あの時の感じ……」

 

 冷やされたかのような咲を見て、何故か先生の顔が綻ぶ。

 

「なーんだ、分かってるじゃない」

「はい?」

 

 透かさず問い返した咲は依然として訳のわからないって顔になっている。

 先生は咲と違ってなんだかすっきりした表情で、話を続けた。

 

「最初に私が聞いたのはね?これからどうなるかじゃなくて、どうなりそうなのか──。貴方の考えを聞いてみたのよ」

「あ……」

「貴方の考えを、感想を聞いてくれればそれでいいの」

 

「まだ自信が無い?」

「は…はい……」

 

 隠して置きたい本音を、もう見透かされている相手に隠し続けるのは無駄。

 先生と生徒と言うお互いの立場が持つ魔法で、咲の本音が漏れ漏れになる。

 

「正直、今もこれで良いのか分かりません。お母さんは自分の人生は自分で決めろって言いましたけど……これで良いのかは……」

「間違いも、それなりに良い事だと思うよ?」

 

 先生の言葉には軽い言い方だったけど、重さも感じられた。

 

「大事なのは自分で選択する事。それが正しい選択かは別」

 

 交差点の赤信号に車を止めて、二人は今日初めて目を合わせた。

 言葉は要らない。もうすぐ目的地へ着くから。

 常に迷子になりがちな咲にも、この交差点を過ぎたら到着って分かって来る。

 

 その後すぐ、地区大会会場前に車が止まる。

 

「はい、先に行ってね。先生は車を止めてから後で行きますから。一人で大丈夫よね?」

「はい、大丈夫です。多分……」

「多分?」

 

 変な所で語尾を濁すと、不思議そうに小首をかしげる先生に、咲は慌てて早く諸主席から降りてドアを閉めた。

 

「いいえ!ありがとうございました!」

 

 ぺこりと礼儀正しく挨拶をして、咲は会場へと走りだした。

 これからすぐ出番が来る。

 宮永とアークタンデ

 その中でどっちを選ぶべきだったか、それが明確になる日が来るだろうか。それはまだ分からない。

 分からない事だらけだけど、それでも咲は自分が選んだ戦場へと向かう。

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