優希-Yūki-、再び全国へ   作:瑞華

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第52話、当たって砕ける

長野 団体戦 副将 後半戦

南3局一本場

 

『ロン、3900の一本場は4200ですわ』

 

「龍門渕高校が止めました!この一閃が清澄高校の積み棒をまた箱に戻します!」

 

 和了が決まると三科アナウンサーの声も一段と大きく響く。

 卓上で点棒の精算より早く、中継画面にはリアルタイムで点数変動が反映された。

 

「だが、まだリードをキープしているのは清澄高校!」

 

 1、2位の両校の間にはまだ安手の一度や二度くらいの直撃では捲れない点差が有る。

 にしてもリーチを仕掛けた張本人からの綺麗な出和了は狙撃された南浦数絵に十分痛い一手だったと言えるのに、龍門渕透華本人は喜ぶ気配を一切出さない。

 麻雀牌を触っている時だけは無表情でなんの隙も見せはしない。

 高校生レベルでは有り余るくらいの十分な切れ味、普通なら大したもんだと褒める気もするだろうけど、解説の藤田プロはあまり感心しない顔のままタバコの火を消した。

 でも解説の顔は滅多にカメラに映らない。

 表情より言葉でプロ雀士解説としての評価をする。

 

「先制リーチから手替わり無しに出和了、止めたと言うより一歩前を行ったな」

 

 対局はいよいよ迎える副将戦オーラスに入る。

 最後の賽を回すのは龍門渕高校。

 ここまで1位の座を守っているのは清澄高校だが、直前の局で連荘を阻止した龍門渕の動きに誰もが全神経を尖らせている。

 対局に挑んでいる少女たちも、それを見守っている人も同じ。

 

『さぁ……このオーラス、龍門渕高校としては逆転を狙いたい局面です。果たしてここで逆転は起きるか?』

『何も起こらないだろうと思うがな』

『はい?それはどういう……』

『言葉通りの意味だが?』

「はぁ……』

 

 漫才にもならない解説が県内放送とネットに流れ炎上するであろうと無かろうと、卓上では局が流れる。

 前の局と似たように牌が答えてくれないままだとしても、四つの手牌はそれぞれの形へと進んで行くしかない。

 

(今まで私が相手した誰より不気味な打ち方をする)

 

(うむ……このままでは流れを変える──っても出来ない)

 

(私は最後まで引っ張られるだけなの?)

 

 局は6巡目を過ぎた。

 早かったらそろそろ河から手の方向性が見えてくる所なのに、相変わらず龍門渕からは大した気配は無いまま進むんでいる。

 以前と同じく次々と么九牌を切り出すだけでぱっと見では纏まらない捨て牌は他家が鳴きを入れるのも許さない。

 

(ここで一番積極的に出られるのは彼女なのに、どこまでも最後まで弄ぶつもり?)

 

 そんな打ち方が数絵に疑問を呼び起こしたのは同然とも言えるだろう。

 全国へと進む為なら県大会の団体戦では1位を取らないとなんの意味もない。故に、この中でも強く推す必要があるのは2位でラス親の龍門渕である。

 表向きには1位を守り抜くだけで良い清澄を除いて、風越と鶴賀も大将戦に繋ぐ為に100点でも多く稼ぐ必要が有るのは同じだが、連荘が出来るわけでもないこの場面では、軽視出来ない放銃するリスクを背負う事になる。

 このままでは誰もが前に出ないまま残りの山だけが減っていくだけ。

 躊躇ったのでもないのに牌は進まなくまた一巡。

 決めるならここで決断するしかないと、南浦数絵はそう考えて心を決めた。

 

(鳴かせないと言うなら門前で牌を作るだけ)

 

 手牌のど真ん中で手が止まる。

 本来なら切るべきの浮いてる牌を残し、そのまま既に完成してる順子を壊した。

 

(私は前に出る。泥塗れになろうと勝つ為に打つ!)

 

 まだ山に残ってそうな対子を中心に牌を立て直す。

 勝つにはそれしかない。

 迷い消え殺気に近いもんを風に乗せて放つと、その気配が他家に気づかれない訳がないが、最早それは考慮するに値しない。

 

(ふうん、まわり道ですか)

 

 同然、怪物には気付かれている。

 あり得るかも知らないのビジョンが、見える筈のない方角からのイメージが、相手の手の内が勝手に流れてくる。

 人知と五感を越えた感覚を持った者に分からない筈がない。

 南浦数絵の手牌の馬鹿らしさに、透華は呆れてしまった。

 

(これは無意味、バカそのものとしか言いようがありませんが……)

 

 四暗刻──

 単騎に変えると門前で直撃出来る役満ではある。可能性が有るとしたらそれしか無いのも理解出来る。

 今回の大会ルールにダブル役満は無いが、ここで鶴賀に32000点の直撃なら願望の飛び終了で終わらせるのも出来るだろう。

 でも、それすら確率論で考えたらとても非現実的。

 やりたいからってやれる訳がない。

 

(呆れましたわ。これ以上付き合う必要があるでしょうか?)

 

 もう捨て牌は3列目に入っている。このまま好きにさせても不発に終わる。

 それがデジタル派の一角としての答えであった。

 透華は、引っかからない相手に現物を落とす。

 

 それは正しい判断。

 数絵の四暗刻は最後まで届かず、副将戦最後の局は最後まで誰の和了も許さなく海の底まで辿り着き、終わった。

 対面の河底を確認して、手牌を伏せる。

 

「ノーテン、とても残念ですわ。ここで終わりだなんて」

 

 心にも無いから世辞を口にした透華の河には流し満貫が出来ている。

 だけど、今回の大会ルールにそれは存在しない。

 

『試合終了────』

 

長野 団体戦 副将戦 終了

1位 清澄  156500

2位 龍門渕 141000

3位 風越   69300

4位 鶴賀   33200

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