「はい、そうなりますね、でも入って早々だからそれで普通では無いかと」
「は、はい?私は……最近はあんまりそう言うの見てもないですから」
「えっ、そ、それですか……それなら大丈夫ですよ、皆、親切で優しい人ばかりです」
「まぁ、そっちも落ち着いたら遊びに来てください」
「はい、気をつけてください、それではまた」
挨拶を合図に通話が切られたのを確認した後、原村和はベットに倒れ目をつぶった。
ここに来てからもう2ヶ月くらいがたった。新しい登下校道にも馴れつつあるけど、家でひとりに成ってしまうと訪れる下校後の静寂には馴れたはずだったのにじっとしてられない。自分の中で何かが変わってしまった事を気づきながらも、わざと振り向かなかった。
(勉強でもしますか)
最近は机の上に教科書と参考書が開いたままであんまり閉じなくなった。机の上を整理したら、もうしなくなる様に感じてたからだ。
椅子に座り結構時間が経った頃、下の階からベールが鳴る音がした。
和は1階に降りてドアホンにでる前に部屋の窓から外を見渡す。この時間だから予想がいく訪問客だろうと考えながら眺めるとそこには見慣れた金髪の少女が立っていた。
和は微妙な笑いを浮かべ階段を降りて行く。画面の中の少女はカメラを向けて手を振てみるなど明るい過ぎた。
「はい、原村です」
「ノドカ、遊びに来たよー!今、暇でしょ?感謝してね」
「今、開けますから上がってください」
扉の自動に開くモーターの音の後、馴れた走りで少女はすぐ家の玄関に飛び入り和の顔を見たら元気に喋りだす。
「淡ちゃん参上!ねぇー、聞いてよノドカ、亦野ったら本当うるさくてねー、今日も放課後だと言うのに放してくれないんだよ」
「それは淡さんが悪いですね、今、やっとう学校の部活時間が終わる頃ですのに……学校からここまで結構時間が掛かるのを考えると月曜日からのサボリですね」
自分の腰に手を当てて和なりには淡の愚痴に正確になツッコミをいれたけど、淡は逆ギレをするだけだ。
「一日くらい部活サボってもいいじゃん!友達が一大事でしょ?」
「それでも駄目です、自分で入った部活だから部活の終了まで授業時間と同じです、やるからには真面目にやって下さい」
「別に帰宅部の人に言われたくないですー!だ」
和はこの話題で得られる物など無いから、これ以上返事を返さなかった。一様こんな淡もお客だからリビングに案内、正確に淡が勝手に動かないようソファーに座らせてから台所に向かう。紅茶と、緑茶と、コーヒーなどが並んでいる所に手を伸ばした。
「お茶出しますけど、リクエストあります?」
「私、今は甘い物の気分だからクッキーとか似合う物でいいよー」
お茶をススメたのに何故か淡からクッキーの追加注文が加わった。仕方なくそれにも応じる為にポットをセットして棚から選んで出したココアパウダーと淡の口止め用の食べ物などを探しているとまた淡が話掛けて来た。
「そういえばさ、最近まゆの所あんまり行ってなかったかも」
「多治比先輩も部活サボって遊びに来たら怒るからでしょ?」
「バレた?でもまゆは人が良すぎるから優しく注意するだけなのに優しすぎてこっちが悪者にされる気分がちょっとあれだよ」
さすがの和も淡の顔を見てもないけど呆れ顔になってしまった。
「とても淡さんの所為にさか思えません」
「だから今度時間あったら一緒に行こうよ、三人で遊ぼ!まゆもノドカと遊びたいに違いないから」
「解りました、学校で会ったら先輩に言ってみます。淡さんのお誘いって言ったら喜ぶと想いますよ」
「ありがとう、最近テルは忙しいから会ってないし、穏乃とか奈良だし、私にはノドカしか無いよ」
「私が代用品の様な言い草ですね」
いつの間にかクッキーが並んでる皿を降ろしながらわざとすねったフリをする和に向けて淡は自分の人差し指を立て1の字を表した。
「一番ってことだよ!」
「はい、そういう事にしておきますね」
ふたりが両手にカップを持ってそういうくだらない話で盛り上げると、あっという間に日が夕暮れの時間が迫っていた。それに気づいたのは和の携帯から着信音が鳴った時であった。
『ピンピン』と鳴いて明かりが入ってる携帯の待機画面には6時と記されてる。『遅くなったなぁ』と考えながら、和は画面を変えてラインの目録から一番上の最新着信の差出人の名前を確認する。
「えぇっと……穏乃?」
「なんだ、それ穏乃からなの?私も見る見る!」
そこには緑の風景、今でも懐かしく感じてしまう阿知賀の皆がいて嘗て和もいた街が写った山からの写真が送られれいた。
横から覗いた淡は変な声をだす。
「何ここ」
「奈良です、正確には吉野、阿知賀に通っていた頃の奇麗な桜を思い出しますね」
「へー奈良ってこんな田舎なんだ、しょぼすぎー」
「ここはあくまで吉野山で、市街地まで出たら違いますよ、奈良だって古代では日本の首都だった頃も有りますし」
和はそう言ったけど淡は全然納得行かなそうな感情が顔に丸出しにしている。
「でも今はこっちが首都で一番でしょ?大昔の事なんかどうでもいい、ノドカも東京生まれだし今もこっちだから東京が一番って語りなさいよ!」
「そんな地元贔屓みたな事でも無いかと……東京でも奈良でも、そして長野も良いところですよ」
「ちっ、ノドカがその気なら私が穏乃に東京の写真送ってこっちが100倍良いって教えて勝つから!」
「あはは……お好きにどうぞ」
ふかふかなソファーに倒れ込み両手で自分の携帯を持った淡はギャラリーを探り出してすぐブツブツ言い始めた。
「でも、いきなり送ろうとしても良いもんが見つかんないなー、テルと私のツーショットばっかだよ」
「あんまり競争しなくても」
「これ送ったら嫉妬してくれるかな?」
「するわけ有りません」
ご自慢のテルとの写真コレクションが否定されて口を出して拗ねった淡はいきなり携帯を持った右手を上げながら立ち上がる。
「そうだ、今から出かけて写真撮りに行こう!ここでちょっと出かければ、スカイツリーでもなんでも居るし!きらきらな写真撮り放題じゃない?私、頭良いー!」
「ここからだとスカイツリーは結構離れてます、時間も時間ですし混んでるはずだからもっと掛かりますね」
「どんなに?」
「臨海高校よりは遠いですね」
ちょっと解りにくい和の例えに淡は唖然とした感情を隠さなし。
「行った事ないから知らないー」
「えっと、ここから東京国際フォーラムの2倍くらいです」
「それも知らない」
今度は和が淡の顔になった。
「……東京国際フォーラムはインターハイ会場でした」
「そうだったの?じゃあ、それは確か面倒そう……白糸台までの帰りも長いし、インハイの時も遠いから私達は同じ東京なのにホテルだったよ」
寮生活の淡が白糸台まで帰る為にもあんまり遠くまでは行けない、和がの家までだって決して近くない。今更だけど和には淡が一人で電車とかバスに乗り換えする姿が想像出来なかった。出来たから今ここに居るんだけどにも関わらず。
「じゃ、どこがいいんだよ……わからん!」
望んだことではなかったけどここまで来てもらった淡に少しは返すのが筋道だと考えた、和はちょっと凹み気味で頭を抱えてソワソワしてる淡に助け舟を出す事にした。
「東京タワーなら行けそうですね」
その言葉に目を光らせる。
「古い!でも穏乃にならいいか、東京タワーと東京の夜景ならバカでも解りやいしね!」
「穏乃は馬鹿じゃありません」
「奈良は鹿が有名なんだし、いいじゃん」
東京の地理、難しいです。