変身ヒロインが守る世界にて十人の変身ヒーローは戦う 作:庫磨鳥
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これにて七色の章は完結となります。今後の活動について活動報告で記載したいと思うのでよかったら見てください。
黒染めに染まったブレイダー・セブンス。装甲が分厚くなり体が大きくなったこともあって本人は内心でヘラクレスフォームと名付けた。〈ブラックサレナ〉による“全力”の強化は、その名の通り筋力、体力などの肉体的なものから、気力、活力など精神的なもの、そして跳躍力、全速力など行動の全てに強化補正が掛かるといったものだ。
そんなセブンス・ヘラクレスフォームは、場所をビルの屋上からだだっ広い橋の上へと場所を変えてクツツと入れ替わるように現れた恐竜型グレムリンに真正面から殴り合いを挑んでいた。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
―GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!?
殴る、殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る横腹を蹴って、よろめいたところをアッパーカット。金属で覆われた超重量級の肉体が宙に浮き、橋の下である道路へと落ちる。
アスファルトを砕くほどの落下衝撃に見舞われる恐竜型グレムリンだが何事もなく起き上がり、大幅に向上させられた再生能力によって、セブンス・ヘラクレスフォームの豪腕によって砕かれた骨や左腕に装備されているパイルバンカーによって抉られた肉を瞬時に治す。
大型トラックを簡単に吹き飛ばせる力を持ち、なおかつダメージを瞬時に回復する能力を持つ恐竜型グレムリン。俗に言うSクラスと呼ばれる動く災害として扱われる強さを持っていた。
しかし、今のセブンスにはどうでもよかった。“殴ればいつか殺せる”と、とてつもなく冷静にシンプルな結論をだして橋から飛び降り、敵の頭に踵落としを食らわせる。
〈ブラックサレナ〉は“全力”を強化すると同時に理性を失わせて暴走させる狂化を付与する。しかし現在のセブンス・ヘラクレスはアイビー・ゴールドの『固有魔法』である〈ゴールデンリボン〉の効果によって狂化は抑制されている状態である。
しかしながらわざと半端掛けしているような状態であるため多少狂化に影響されており、そもそも“全力”強化も合わさってセブンスの思考は暴“力”性が増していた。
――GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!
地上最強生物と歌われる姿を持つ恐竜型グレムリンも黙ってはいなかった。割られた頭蓋を再生しながら反撃を開始する。逆関節の足を限界まで閉じて一気に解放。肩を前に突き出して突進を繰り出す。
恐竜型グレムリンのショルダータックル。瞬間時速180キロの人型砲弾にセブンスは直撃して吹き飛ぶ。
「グアッ!!」
セブンスは体を捻って足の裏を地面へと向けると両足を勢いよく伸ばしてアスファルトをぶち抜き、地面を抉ることで速度を殺す。十数メートル移動した所で完全に止まり、視線を正面に向けると巨大な肩が再度迫ってきており、セブンスは考えるよりも前に右拳を突き出した。
+++
七色は戦いの最中、集中力が強化されている影響か一種のトランス状態に陥り、猛攻を繰り広げる中で思考は過去の思い出を呼び起こしていた。
――両親が死んでから、心を染めていた色と呼べるものが全て抜け落ちてしまった。
金持ちとも、何かしら特別な才能で活躍しているわけでもないサラリーマンと主婦。だけど優しくて、厳しくて、面白くて、格好良い、そんな父と母だった。
そんな両親に憧れた。それぐらい子供にとって血の繋がったふたりの親は理想であり目標になるほどの人間に思えたのだ。
少しのんびりとしているけど結構頑固で落ち込んでいたりするとすぐに察知してくれて頭を撫でてくれる母親のように、ちょっと頼りないように見えるけど、常に家族のためにと仕事でも休みでも頑張ってくれて時には強かった父親のように。そんな親の下でたくさんの思い出を作って大人になりたかった。
でも、その夢はもう叶わない。二人は死んだ。俺の知らないところで事故にあって当たり前だった日常の中でいなくなってしまった。
父さんの色、母さんの色。どちらも大事な色だったけど、遺影の前にした俺はそのどちらの色も無くしてしまった。
爺ちゃんに引き取られて、新しく始まった生活は変わった事ばかりだったけど特別なことはなくすぐに慣れることは出来た。本人は照れて否定するかもしれないけど、わざとらしいほど無遠慮にご飯の時でも何でも話しかけてくれたのは変わる切っ掛けになったと思う。
それでも抜け落ちた色は戻ることなく生きるという事が途端に難しくなり、しばらくは延々と熱中していたはずのゲームを暇潰しの道具として動かし続けた。
どうして自分は生きているんだろうと自問自答の日々。その答えの行き着く先は、いつだって父さん母さんは自分に生きて欲しいと願っているというものだった。
だから俺は死んでしまったふたりのために生きたかった。生きるためには新たな目標が必要だった。だから俺は――数多くある爺さんの言葉の中で都合が良さそうなのを頭に浮かべて、比恵に声をかけたんだ。
それからの日々は俺には勿体ないぐらいの日々が始まった。比恵は自分の傍にいつも居てくれて、なにもやる気の無い俺に色んな事を教えてくれた。もっとも綺麗な灰色の彼女に俺は色んな事を教えて貰ったんだ。彼女と居る時間は本当に尊くて、自分がどういう人間かを自覚出来る時間だった。
中学生になってからは比恵は俺の事を好きと言ってくれるようになった。それがどんなものか気づけないほど俺は鈍感ではなかったらしい。きっとこのときに俺はもっと真剣に対応するべきだったんだと思う。だけど、適当にはぐらかす日々を選んだんだ。
自分を救ってくれた彼女の事は大切に思っていた。だけど俺は彼女の事を自分が生きるために必要な“色”としてしか見てないんじゃないかって思うと怖かった。だから俺は彼女に甘えることにしたんだ、いつしか自分が君の灰色に染まったんだと自信を持てる日まで。
でも、ブレイダー・セブンスになって自分は無色でしかないと突きつけられたことで、その考えはいつしか形骸化してきて甘えだけが残ってしまった。ブレイダーになってからの日々は自分に色んなものを与えてくれる日々だった。仲間と呼べる人も尊敬できる人もできて、自分を本気で好きだと言ってくれる人が四人も増えて、だから余計にのめり込んでしまって、きちんとやらないと行けないことだけを忘れてしまって、そのツケを彼女たちが支払う形となってしまった。
愛想を尽かされても仕方ながないことをしてしまった。それでも許されることなら、俺の想いを聞いて欲しいと願う。
――今はまだ大人になれないバカの発言でしかないかもしれないっすけど。
灰稲比恵。銀毘麻胡。粟財弁金。朱福あずき。そして黒稗天委! 俺を好きで居てくれるお前らを俺はっ!
+++
「
泥臭い殴り合いに変化が訪れる。何度もセブンスの攻撃を食らい続けてきた恐竜型グレムリンは、再生能力が次第に落ちていき傷が目立ち始めてきた。改造グレムリンの中でも最強を誇る巨体がついに膝を付く。
セブンスは空に向かって雄叫びを上げる。五人に届くようにどこまでもどこまでも高く。それに呼応するかのように左腕のパイルバンカーがカチリと音を立てた。
セブンスは残っている全てのエネルギーを解放、左腕を視線と水平になるように構えながら駆け出した。
目標である恐竜型グレムリンが危険を察知して立ち上がろうとするも、それはもはや急所を狙いやすくするだけの愚行にしかならなかった。
杭にはクリムゾン・スピアーの『固有魔法』。〈絶対貫通〉が付与されており、その名前のとおりあらゆる物質を貫く事が出来る。
シルバー・バレットの『固有魔法』。〈シルバーショット〉は触れた物質を銀へと変質、あるいは人差し指が向いている方向へと亜音速で射出する事が出来る。セブンスは二番目の効果を自身に付与。亜音速まで急加速する。
風景が後ろへと流れていく高速の世界にて、セブンスは直感に従い拳を突き出した。
人型の弾丸となったセブンスの左拳が恐竜型グレムリンの溝内部分へと触れた瞬間、速度と力、セブンスに加算されているエネルギー全てを込めた杭が射出され、恐竜型グレムリンの胴体を容易く貫いた。
色さえ失ったことを粛々と告げられる。
全てのエネルギーが消失したかのように拳を突き出した状態で不自然に急停止したセブンスは、ゆっくりな動作で左腕を後ろに下げて杭を抜いた。恐竜型グレムリンは膝から崩れ落ちて、胴体に開いた先が見える穴が広がるように粒子化していき、最後には普通のグレムリンのように完全に消失した。
「…………」
戦いは終わり、妙に気まずい静けさが辺りを支配する。変身を解除を念じるとアーマーたちが逆再生するかのように欠片へと変わっていき体から離れていく。そして欠片たちは手へと集まり最後には『B.S.F』へと元に戻った。
「……あ~、えと」
七色は気まずそうに頬を掻いて後ろを振り返る。そこには傷が治っているグレイ・プライド《灰稲 比恵》が立っていた。
「できれば、安静にしていてほしかったんすけど……」
「幸太……私は幸太のことが大好きだよ」
彼女が脈拍もなく告白してくるのは、いつもの事だった。だけどその表情は強い不安と決意に満ちあふれており、ここでいつものようにはぐらかせてしまえば彼女はどこかへ遠くへ行ってしまうのだろうとすぐ分かった。
「……小学生の時に比恵に声を掛けた理由。爺さんが俺にしてくれたようにしたかったって言ったっすよね? ……今ではそうでありたいと頑張ってるっすけど比恵の時は正直、単なる都合のいい言い訳でしかなかったっす……比恵。こんな俺に助けを求めてくれて、おかげで俺は救われたっす。本当にありがとう」
「――どんな理由でも、私を助けてくれたのは幸太だよ。助けてくれて本当にありがとう。大好き、本当に大好きだよ。私のヒーロー」
結局のところ七色も灰稲、そして他のセブンスガールも似たもの同士が集まって傷のなめ合いをしているだけなのかもしれない。でも、それを七色は幸せだと断言する。
まだ高校生な自分に出来ることは少なく、はっきりと決断できる度胸は無かった。だけどもう二度とこんな事が無いように、一歩踏み出す覚悟を決める。
「比恵。今から最低なこと言っていいっすか?」
「はい。いいですよ」
「俺は――灰稲が、みんなの事が同じぐらい大好きっす! だからこれからもそばにいてほしいっす!」
「――っ! はい!!」
非常識で酷い告白なのだろう。それでも初めて愛する人から好きと言われたことで灰稲の不安は呆気も無く消え去り、その眩しい花嫁の笑顔に、七色はドキリと心臓を鳴らした。そして――
「――嬉しい」
――背後から聞こてきた声に、別の意味でドキリと心臓が鳴った。
「か、銀毘さん……?」
「いやね。そんな他人行儀で呼ばないって言ったでしょ? 私の事はマコって可愛く呼んで? ううん、いま呼び方なんてどうでもいいの。あなたが私の事を大好きって言ってくれたことが本当に嬉しい。この日を是非国の記念日にしましょう? っていけないわね、流石に冷静に欠いていたわ。本当にこんな女でごめんなさい。私と貴方の記念日で良いわよね? さあ、盛大にパーティをしましょうか、場所はホテル付きのレストランで良いわよね? 一生の思い出になるように乾杯しましょう? もちろんその後は私に弾丸を撃ち込んでね?」
「どうしてここに居るっすか!?」
「ちょっと、抜け駆けは無しでしてよ!? 計画がご破算になったのですから、まずは改めてスケジュールを組み立てることから始めるべきですわ!」
「弁金!? それにあずきも!?」
「わ……たしはさい……ごでもいいで……すけど……」
「幸太」
七色の右腕を銀毘が、左腕を粟財が腕を組み、そっと背後に近づいていた朱福が背中にぴったりと張り付く。そしていつの間にか灰稲が真正面に立っていた。絶対逃がさないお決りの陣形である。
「……もしかして、みんながいること分かってましたっす?」
「幸太が悪いんですよ? 気付かないんですから」
「いつものことっすけど! 嵌められたっす!? あ、アンギルにナイト! ヘルプミーっす!!」
このままだとラブホリターンズだと、少し離れた場所に立っているアンギルとナイトに救いを求める。
「……どうしよっか?」
「みんなの傷は癒やしたし、もう別にいいんじゃないかなー」
「七色は?」
「大丈夫そうだし、なんかあったら彼女たちがどうにかするとおもうー。報告はあとでスレで聞けばいいでしょ」
「そっか。まあ天使はショーのこともあるし、王様は先に仕事に戻ったし馬に蹴られる前に帰りますか」
「さんせーい。ではかいさーん」
「ふたりともー!? 空飛んで帰らないで!? というかアンギルに関してはなんでチャリ乗って浮いてるっす!?」
「いーてぃー」
「そうじゃなくて!? あっちょまってくださいっす! 置いてかないでー!」
「幸太」
「七色……いえ、幸太君」
「もう遠慮する必要はありませんわよね! 幸太!」
「ちょ……っとはずか……しいけ……ど……こ、幸太さん」
自分が一歩踏み出したと思ったら、十歩ぐらい接近してくるセブンスガールに思わず顔を引きつらせてしまう七色。ここで灰稲が爆弾をもう一個。
「私、いま変身解除したらすっぽんぽんなんですよ?」
「まだそこまでの覚悟は出来てねえっすよ!」
「…………」
「って、びっくりした!? ごめん気がつかなかったっす!」
いつものように騒ぎだす七色たち、そこには五人目のセブンスガールとなった黒稗天委も遠慮がちに立っていた。
「……私は「そういえばなんて呼べばよかったっすか?」……え? えっと名前で呼んでほしい……ってそうじゃなくてっ!」
脅えながらも何かを言おうとし黒稗だったが、七色のわざとらしい無遠慮な問い掛けに遮られてしまい、完全に言いたかったことが頭の外へと行ってしまい言葉に詰る。
セブンスガールたちは最初だからここは譲ってあげると七色から無言で距離を置いた。
「そっか。じゃあ、天委」
「ひゃ、ひゃい!」
七色が名前を呼び笑いかけると、黒稗は一瞬にして顔を真っ赤にする。
「これからよろしくっす!」
「っ! う、うん! うんっ!!」
生まれながら嫌われ者とされてきた黒き少女は、この瞬間だけは全てを忘れて、ただの女の子のよう涙を流しながら笑い。大好きな人を強く抱きしめた。
こうして、新たなセブンスガールが迎え入れられた。
――ちなみに七色は童貞喪失の危機はまだ続いており、一人増えたことで逃げる難易度が上がるのだが、その事には気付いていなかった。
+++
――自分が改造を施したグレムリンと入れ替わって転移したクツツ。
彼が逃げ込んだ先は、自身が受け持つ区画にある他の建物と比べて斬新性がありすぎるために浮いている巨大な3階建ての建物、『魔装少女協会』が管理する第8支部である。現代の技術を惜しみもなく使われておりポップなデザインとは裏腹に至る所に近未来的な技術が多く導入されている。
「あーもー。むかつく!! クソクソクソ!!! せっかくいい気分だったのに最後にあんなことがあるなんてクツツってば本当に不幸!!」
その支部の奥。関係者専用の通路を通り過ぎて、特殊なパスカードがなければ使うことができないエレベーターに乗り込み。クツツは地下へと降りる。
第8支部の地下。そこはクルルを筆頭にした関係者たちによるグレムリンの改造施設である。そこはまるでSFと中世ファンタジーが入り混じった空間となっており魔法陣が敷かれている手術台に擬似的な空間の裂け目を発生させる装置。そして改装した機械グレムリンを縮小し意識消失保存させる保管庫などがある。
「あーもー。こうなったら改造グレムリン全部出しちゃうもんね。クッヒャハハハハハ!! あの様子じゃ誰か一人は死ぬでしょ!! クツツの食事を邪魔した罰だよ!」
恐竜型グレムリンほどの強い個体はないものの、桃川や天財に送られた改造型グレムリンで三割ほどであり、残っている在庫の全てを放出するとなれば都市ひとつ大惨事にするほどである。
元からそのつもりで作ってきたんだ。その予定が早くなっても、似たものを糧として生きる仲間たちは誰も文句は言わないだろうと、クツツは短絡的に実行することを決める。
「クッヒャハ! 今日はいくらでも食べられそうだ!! 死んでいく様を大スクリーンで見よう! いつもは不味くて吐き気がするポップコーンと炭酸ジュースも今日は美味しく食べられそうだね!!」
チーンと到着を知らせる音が鳴り、扉が開き、エレベーターの外へと出たクツツはすぐに違和感に気づいた。
「……?」
無音。いつもは聴こえるはずの装置の駆動音すら無い。クツツは奇妙な不気味さに他のフェアリーの気配を探る。いつもは必ず2、3体のフェアリーがいるはずなのに探知できない。
この後に及んで、またなにかトラブルがあったのかとクツツは苛つく。だからこそ地上へ戻るという発想は最初から無く、そもそもクツツにとって地下施設は決して明るみになってはならないもの、異常事態があれば確認しに行くのは当たり前であり、ここへ来た時点で定めは決まっていた。
――精神生命体にとって恐怖の感情はもっとも忌避すべき感情である。取れないほど心の奥底にこびりついてしまった恐怖は糧になることすらなく、さらに腹の奥で粘り着くように他の感情を得ることを阻害、フェアリーの中には恐怖に支配されたことで感情の供給が出来なくなって餓死するものもいる。
通路を進むたびにクツツはそんな恐怖に襲われる。蛍光灯が点滅している室内は部屋を見渡せば不自然に荒らされており、機材たちは破壊され尽くしている。僅かに残るついさっきまでフェアリーが居たであろう痕跡が不気味さを増長させ、本来はその部屋に保管されていたはずのグレムリンが全て居なくなっている。
――地下施設は誰かの襲撃にあった。じゃあ誰が? その答えを見つけるのに、そう時間は掛からなかった。
「ーーど、どうしておまえがいるんだよっ!?!?」
施設の最奥に到達したクツツは、通路の行き止まりにて立っていた渦巻くマスクを被るそいつの名を発狂気味に叫んだ。
「ブレイダー・カオス!」
「……汝か、私の仲間を貶めた張本人は――哀れな愚者よ。這い寄れ混沌の足下に」
「あ、あ、あああああああああああああああああああああああああああ!!!」
慈悲の無い冷たい宣告と共に、カオスの周辺で蠢いていた影がクツツの方へと向かう。クツツは咄嗟にカオスに背中を見せて、全速力で来た道へと戻ろうとする。
必死の逃走。故に違う方向から手が伸びてきたことに気づかなかった。
「――ぐえ!?」
クツツを捕まえたのは、カオスの影では無く。漆黒色に染められた手。
「ア、アビス……」
「――君で十三体目」
この施設に関わっていたフェアリーの数はクツツを除いて十二体。つまり他のフェアリーが居なかったのは、とっくの昔に奈落の手によって全て燃やされていたということだ。
「ま、まってくれ!? もう悪いこともしない!! なんでも言うこと聞くから! 他の支部のことも全部話すよ!?」
「ボクの仲間を弄んだ諸悪の化身よ」
「まってって言ってるでしょ!? お願いいやだっ! いやだっ!? 死にたくない!! ――あ、あ、あつい! あついあついぃいいいいいい!!」
握りしめられたクツツは、鉄板の上で焼かれているような熱さに悶え苦しむ。クツツは必死に抵抗するが、もはや体を動かすことすらままならず叫ぶ事しか出来ない。
「烏滸がましい奈落の死者が――全てを終わらせよう」
そんなクツツに容赦なくアビスは告げる。
「クラッシング・バイ・アビス」
「あづううううううううううううううぐべっ――――」
右腕の三つのΘが開眼。黒い炎に焼かれ、まさに地獄の苦しみを受けて泣き叫ぶクツツをアビスは躊躇いなく握りつぶした。
グシュっと生々しい音が鳴り、クツツだった灰が宙に舞う。その灰すらも粒子となってクツツというフェアリーは最後は己が尤も好物とする最大の苦痛を味わいながら果てることとなった。
+++
混沌がチャットルームを立ち上げました
招待した奈落が参加しました
招待した悪魔が参加しました
招待した正義が参加しました
招待した失楽園が参加しました
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奈落:こうやってチャット機能を使って話すのはいつぶりだろうね?
正義:さてな、希望が現れたとき以来だったか?
正義:それで? 終わったのか
奈落:うん。混沌と一緒にグレムリンを改造していた施設を壊滅したよ
正義:あーあー。せっかく王様に運ぶの変わって貰ったのに全部終わっちまった後か
正義:これじゃ俺が行ってもオーバーキルにしかならねぇな
奈落:改造されていたグレムリンは混沌が、フェアリーはボクが全員殺した
奈落:結果的に第八支部のフェアリーを全員殺したことになる
奈落:だから、今回はこっそり後片付けとは行かないね
正義:どうせ早いか遅いかの違いだったんだ。お疲れさん。ナハハ
正義:んで? どうして混沌も悪魔も黙ってる?
正義:まっ、悪魔の方はどうせしょうもないことで落ち込んでんだろ?
悪魔:……ショーなんてやっている場合じゃ無かっただろ
正義:はっ、ガキたちの笑顔は一円も価値がなかったってか? 可哀想な話だな。えぇ?
悪魔:てめぇ
奈落:もしも君が動いてショーを台無しにしてしまったら、今度は天使が困っていたよ
奈落:背負いすぎて、いま困っている人を優先しすぎてしまうのは君の悪い癖だ
悪魔:それは、そうだが……。
奈落:君がヒーローであることは天使の願いでもあるんだ
奈落:それを蔑ろにしないであげて
悪魔:わかったよ。ショーなんてって言ったのは悪かった
悪魔:ただ、正義。てめぇは後でマジで殴る
正義:まっ迷惑かけたからな、甘んじで受けてやるよ
悪魔:……ちっ。それで混沌はどうした?
混沌:……この結果はひとえに私の力不足が招いたものだ
混沌:故に全ての責めは私にあろう
混沌:本当にすまなかった
正義:てめぇの方が書き込んでいるのは珍しい
正義:裏案件な事態ではあったが、対応が遅れたことで落ち込んでいるわけじゃないんだろ?
混沌:……社会の安定を壊すことを怖れて、自己解決を頼りにしていた結果がこれだ!
混沌:七色やセブンスガールだけではない! どれだけの無垢な少女が犠牲になった!?
悪魔:何があった?
奈落:別にいつものことさ。
奈落:ボクらがブレイダーになる前から続いていた不幸があった
悪魔:……仕方ないだろうが
奈落:そうだね。でも、助かっている魔装少女もいるのは事実だからと
奈落:干渉を控えたことを混沌は後悔しているんだ
正義:なるほど、便利は便利だと思って放っておいたらもっと酷いことになっていたと?
正義:んで。自分が決めた事の結果がこれだと頭を抱えてるってか?
悪魔:あれは俺たちが全員で決めたことだ。その言い方は止めろ
正義:俺はそう思ってるぜ? でも混沌はどうだかね?
正義:お前はこれからどうするつもりだ? どうせ今までのようには行かないんだろ?
混沌:……私たちは所詮、正義ではない
混沌:だからこそ己の罪深さを理解しながらも問うことを許してくれ正義よ。
混沌:汝ならどうする?
正義:なにも変わりはしないさ
正義:敵を排除するための正義がやることなんて、これしかないのさ
正義:戦争やろうぜ
一話の終わりのように、これから物語が始まっていくんだと、そしてまったく違う別の物語が動き出したんだと。ちゃんと表現できていたら幸いです。
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第二章「
活動報告にて作品や今後、作者についてちょっとだけお話させてもらってますのでよろしければ。
↓
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