変身ヒロインが守る世界にて十人の変身ヒーローは戦う 作:庫磨鳥
おかげさまで、自分でも驚くほど続いております( ̄▽ ̄)これからも頑張って行きたいと思うのでよろしくです。
今回から見せ方が変わるので、詳しい説明は活動報告の方に記載したいと思いますのでよろしければ↓の方からご確認ください。
活動報告
ブレイダー・デビルの変身タグをリニューアルしました。こちらも気に入って貰えたら幸いです。
機種によって見え方は違うと思いますが、スマホ版のさい特殊タグ表現があるところは画面を横向きにして見て頂けたら嬉しいです。
ブレイダーVS魔装少女五番勝負。
カオスによる宣戦布告が行われた翌日に『魔装少女協会』の公式アカウントおよび『アーマードchannel』にて、大々的な宣伝が行われた。第一世代のブレイダー五人とリーダー格の魔装少女五人における三本先取を勝利とする
どうして開催されたのか、勝った場合、負けた場合なにかあるのか、そういったものがぼかされている中で、とりあえず自分が思い描いていた戦争にならないことに人々は一喜一憂した所で、その五番勝負が開催される場所に驚く事となった。
――『見捨てられた街 秋葉』
十年前の歩行者天国にてグレムリンが現れて魔装少女が駆けつけて、それを倒した。事件が起きたのはそれからだった。
脅威が取り除かれたや否や、野次馬たちが当時12歳であった魔装少女を囲いだした。記録によればそのときの人数は現地人および観光客を合わせて1000人を超えていたとされる。
ただ現実に現れた魔法を使う少女を見たい。そんな一途な気持ちだったのかもしれない。その場に居た人間は後に語る、気がついたら、ただ前へと前へと押されてしまったと。その結果、囲われた魔装少女は人の雪崩に押しつぶされてしまう。抜け出すことが出来ず、絡み合う足に何度も何度も踏まれてしまい、圧迫される。
大人たちの下敷きとなる。そんな普通の少女なら死んでもおかしくなかった状況に魔装少女は恐怖のあまり魔法を一般人に向けて放ってしまった。
結果、奇跡的に死者こそ出なかったが、後遺症を残すほどの重傷者を数名出した事件となり、責任の所在によって、様々な意見が飛び交う中、当時の『魔装少女協会』は、ある決断を行う。
――秋葉原の協会支部の撤退および魔装少女に出入りを完全に禁止する。
「あの頃は本当に酷いものでしたね。
西洋サイズの巨大な家具が目立つ室内にて、そんな家具たちすら小さく見えるほどの巨漢の肥えた中年男性がステーキとライスを交互に頬張りながら話を続ける。
「それでも秋葉を捨てきれない人々が立ち上がりましたが、グレムリンの存在がそれを邪魔してしまいます。なにせ魔法じゃないと駆除出来ない上に強い。並の格闘家でも太刀打ち出来ず、自衛隊の装備を持っていたとしても個体によってはこちらが普通に負けます」
綺麗にライスを食べきったと思えば、男性は炊飯器からおかわりを山盛りよそい、食事を再開する。
「法外の人間ですら、そんな秋葉原を見捨て始めた時、当時十六の少年が颯爽と現れました。彼は尋常では無い強さを持っていて、グレムリンの撃退だけではなく戦える大人たちをまとめ上げて、『秋葉自警団』を設立。それからさらに数年後、大人になった少年はヒーローとなりました」
ずっと食べている料理から離さなかった視線を正面へと動かすと、そこには顔に傷跡を持っているサングラスの青年が居た。
「ですので、私は秋葉を管理する個人として純粋に嬉しいですよ。あなたがこうやって私を頼ってきてくれたことが、ブレイダー・デビル」
「俺たちの要望を聞いてくれてありがとよ。まさか会場だけではなく、その準備とかも全部やってくれるとはな。商売のことはあんまり分からんが、大丈夫なのか?」
悪魔が食後の一服と煙草を加えると、傍に控えていた中年男性の部下がライターを差し出してくる。
「ありがとよ」
煙草に火を付けて一呼吸。手を上げて礼をすると、部下もまた会釈を返し元の立ち位置に戻る。
「問題ありませんよ。黒字にすることは正直難しいですが、投資とはそういったものです。この秋葉はネット環境が戻ったこともあって、外と同レベルの生活環境まで戻る事ができました。しかし、これからの事を考えれば内々のままやっては行けません。『アーマード』と『魔装少女協会』の戦争。会場提供者として、しっかりと利用させて貰いますよ」
「下手に義理人情なんて言わないのは、ほんとお前らしいよ。アングリー」
「私たちにとって義理人情なんて“あって当たり前の常識”です。それを土台にして金や地位を求める。そうでなければ『落葉会』の組長なんてなれませんでしたよ」
――見捨てられた秋葉を表で牛耳る元裏の組織『落葉会』、暴力団組織の下っ端であった彼らは同じように見捨てられて、この街へと流れ着いた真性の成り上がり集団。秋葉のブレインであり、行政機関が機能していない秋葉のルールと商いを管理している。アングリーはそんな『落葉会』の組長、つまり事実上、秋葉のトップである。
そしてアングリーこそ、今回の『戦争決闘五番勝負』にて会場の用意だけではなく機材や交通、ホテルや細かなもの、それに必要な人員全て用意してくれた張本人である。
「ついこの間の静けさが嘘のように、ここ最近の秋葉は本当に賑やかになりましたよ。私たちも貴方が帰ってくると聞いた日からお祭り状態です」
「そんなもんかね」
「ホホホ。相変わらずこういった話は苦手な用ですね」
「……いい加減年なんだし、少しは喰うの抑えたらどうだ?」
内面を当てられた悪魔は、照れくさくなって話題を変える。
すでにステーキは三枚目、ライスは六合目ほど、サラダボウルが空になった回数は数えきれず、それでもなおアングリーは食事を続けていた。いつもの光景ではあるが、悪魔は久しぶりにあったこともあって言うだけ言った。
「出来ませんね。食べるのは私の生き甲斐ですし、私にとって身体に溜まる脂肪こそ財宝そのもの、充実した人生の証として出来るだけ多くの贅肉と共に黄泉の国に行く予定ですので」
「そうかい。悪かったな余計なこと言って」
「いえいえ。言い返すものではないのですが、デビルも煙草は止めないので? ヒーロー稼業に差し支えると思いますが?」
「これだけはどうしてもな」
「体力などに影響が出ませんか?」
「天使に言われて健康診断したんだが、本当に吸っているのかと疑われたよ」
「ホホホっ! それはなによりですね」
生粋の喫煙者と暴飲暴食を生き甲斐とするアングリー。年齢は丁度親子ほど違う二人であったが、お互い世間的に悪い事とされるものを止められないどうし、結構気が合う事が多かった。
吸いきった煙草を灰皿に押し付けた悪魔は立ち上がる。
「ごちそうさん。美味かったよ」
「シェフに伝えておきましょう、これからどこへ?」
「自警団の方に、あんまり気は乗らんがな」
そういって苦笑する悪魔は、嫌だからというものではなく気恥ずかしさからくる反応だった。
+++
秋葉原が見捨てられてから、動かなかった大人ばかりだったわけじゃない。それこそ『協会』のご機嫌とりを行い、なんとか魔装少女たちに来てもらうように頼んだり、国には武力的支援も要請した。しかし、その全てが大人の事情で一蹴されてしまう。
国はともかく、すでに失脚している当時の『協会』の上層部が関係復帰を断った理由は、とても勝手で、愚かで、無個性で、無知で、なんとまぁ差別的な理由であったと真相を知った悪魔は“一般人”という『悪』を知った。フェアリーが関わっていなかったらこそ余計に人の悪に触れた形となる。
それが秋葉の外で暮らすことを決意した一因にもなっており、現在、それが周りに回って秋葉で協会と決着を付けようって言うんだからと、デビルは因果というものを感じていた。
「……変わってんなぁ」
元は歩行者天国として有名であったビル通り、悪魔の記憶では変わる事の無かったサブカルチャーの広告板が並び、ゴミも多く、見て分かる通り治安が悪い印象があった。
それが今では、ゴミはどこにも落ちておらず、看板に描かれているものは全て悪魔の知らないものへと変わっており、超大型ディスプレイには最新のアニメPVが流れている。行き交う人々に見知ったものはおらず、悪魔はここ行き交う数百あまりの人が全員外から来た者たちだと把握する。
「天使から、秋葉原が戻ってきたってネットで騒がれていたって聞いていたが、ここまでとはな」
ふいに悪魔は観光客の中に変なものを見つけた。メイド服と目だけを隠すタイプのマスクを着て、アニソンらしき音楽に合わせてダンスをする男性。近くにはスマホが設置されており生配信中だという事が分かる。あまり褒められたものではなく、もう少ししたら『秋葉自警団』が来て止められるだろう。
だが踊っている本人、それと見ている数人が楽しそうに涙を流しているのを目にした悪魔は少しだけ昔を思い出した。
――拙者たちの世代はな! ここでこんな風にバカ丸出しで踊ってみたとかしてたんだよ!
「……ああ、本当だったみたいだな」
見捨てられた秋葉での暮らしは、確かに命懸けの日々であった。グレムリンだけではなく無法なことをいい事に暴走する人間も多くいて、戦いがあった数と同じだけ不幸があったといっても過言で無かった。
それでも悪魔は、この秋葉に“捨てられて”よかったと改めて思う。
「ここに居ると、また煙草が吸いたくなるな」
さすがに歩き煙草は出来ないなと、悪魔はその場を後にし目的地である『秋葉自警団本拠地』へと歩みを再開する。
+++
「……なんだこれ?」
グレムリンを秋葉から追い出して人を守るために、自分の元へと集ってくれて結成された『秋葉自警団』。その拠点は元はなにかの事務所だったオンボロの二階建てビルだった。しかし、その建物は紆余曲折あって倒壊したこともあり、新築が建てられたとはデビルも聞いていたのだが、その新築が想像外のもので思わず引いてしまう。
四階建ての、まさしく現代建築に相応しいビルが建てられていた。だが問題なのはそのビルの塗装が誰かをモチーフにしているか一発で分かる金と黒であり、イナズママークや見たことがあるマスクの横顔などのペイントが添えられており、極めつけは『秋葉自警団本拠地』と彫られた看板の隣に鎮座する、等身大のブレイダー・デビルの銅像が置かれている。
「若? 若じゃないですか!? お久しぶりです!」
外でこれなら中はどうなってるのか考えるのも億劫となり、もう帰っちまおうかなと入り口前で悩んでいると背後から聞き覚えがある声を掛けられる。
「……
後ろを振り向くと、そこにいたのは未成年時代の時に出会い、そして戦友となった三十路の男性。悪魔が抜けてから自警団をまとめ上げている霧升団長である。
「お久しぶりです。そんでもって敬語なんてよしてくださいよ。あなたに下手に出られちゃ、申し訳なさで膝に力が入らなくなってしまいます」
「今は団長だろ?」
「団長でもなんでも、若はあっしらをまとめ上げた初代団長なんです。どっしり構えてくれた方があっしだけではなくみんなも気が楽ってもんですよ」
「相変わらず口がうまいな、お前は」
「それだけが取り柄ですからね。今も昔も」
「んなことあるかよ。お前がいなきゃ、俺はとっくの昔に死んでたよ」
霧升は秋葉原を拠点としてオタクを狙ったグレーな商売をする人間だった。そのためか口は達者であり、また組織管理の才能を持ち、悪魔の相談役を担っていた。そんな霧升が傍にいてくれたからこそ悪魔は『秋葉自警団』をまとめ上げられたし、死に目にあったさい彼の機転によって何度も救われてきた。
「それこそお互い様ってやつです。黒歴史を積み重ねていくあっしを変えてくれたのは若なんですから」
霧升は褒められた人間ではなかったが、若き頃に悪魔と出会い魅了された人間である。ただのクズとして死んでいくはずだった人生を変えてくれた悪魔には生涯で返しきれない恩をかんじており、こうして互いが互いを尊重する良好関係は今もなお続いている。
「それにしてもどうしてここへ? 試合前の観光ですか?」
「そんなところだ。新しい本拠地が建ったとは大分前から聞いていたが、見たことが無かったからな……こんな趣味が悪くなってるとは思わなかったが……」
どうりで誰も写真を送ってこないわけだと、呆れた声を出す悪魔に霧升は苦笑で返す。
「みんな若の事が好きなんですよ。あっしも含めて秋葉の外に出た後はしばらく涙が止まりませんでした。中には、若成分補充とかいって天使が生産するグッズを買いあさるやつが続出したぐらいですぜ」
「ああ……天使からいつも秋葉の発注が多すぎるって聞いた事があるな」
「運び屋連中しか居なかった昔ならいざ知らず、今では『落葉会』がきちんと物の流れを管理してくれていますからね。おかげでグッズだけではなく生きるのも楽になりました」
運送関係からも見捨てられた秋葉は日用品から食料まで入手困難な時期があったが、『落葉会』が立ち上げた運送会社のおかげで、外の物がかなり入りやすくなった。
「そういえばヒーローショー、まじで最高でした。全員泣くほど感動していましたよ。そういうあっしも、ちょちょぎれましたがね」
「感動する要素あったか? というか勘弁してくれ普通にはずい」
身内に見られていることを知って悪魔は気まずそうに顔を逸らす。その様子にお変わりありませんねと霧升は笑った。
「お前も人のこと言えないだろ」
「そうですね。代わりと言ってはなんですが秋葉の方は大分様変わりしましたよ。少し寂しい気もしますが、『北陸支部』と仲良くできたこともあって安全が戻り、昔のようにとは言えませんが、着実に“まとも”になっていっています」
「ああ、俺も見た」
二人はしばらく黙って街の音に耳を傾ける。悪魔たちが知る秋葉はもっと静かで退廃的で空気そのものが終わっていた。それが今では騒がしく活気あって息を吹き返している。
「……国の機関もいずれは何食わぬ顔で戻ってきて、俺たちはお役目御免になるんでしょうね」
「どうだろうな。話に聞くかぎり、ここはまだ臭い場所らしい。話が纏まらない以上は、秋葉は秋葉のままだろうな」
「それはそれで、ずっと定年退職出来なさそうで嫌ですね……っと誰か来ましたね」
「……ああ?」
最初に霧升が気付いた、こちらに歩いてくる小さな人影たち、悪魔は誰か即座に気付き思わず声を上げた。
「蜜柑? どうしてここに?」
「え? あ、ああー!! デビルさんがいる!?」
「え、うそぉ!? どこに!?」
「……お知り合いですか?」
「ちょっとな。片方は知らないがあの子は魔装少女だ」
「なんとまぁ。秋葉に魔装少女が、時代は変わりましたね」
小さな影は二人いて、その片割れは悪魔がよく知る人物だった。小鳥遊蜜柑。『裏案件』にて知らずの内に魔装少女にされてしまい、事情を説明されることなくグレムリンと戦わされた女の子。ブレイダー・デビルの大ファンであり、ヒーローショーをやることになった切っ掛けの子である。
「あ、あの! お久しぶりです! ヒーローショー凄いかっこよかったです!! とくにアビスさんとの戦いがかっこよくてその……味方同士なのに戦うのってなんだかいいですね!」
「若、この子才能ありますぜ」
「なんか似たようなこと天使も言ってたわ」
「蜜柑ちゃん走るのめっちゃ速いじゃ……ん……」
桃色の少女が少し遅れて到着し、悪魔を見て固まる。見覚えがありまくるその反応に悪魔はすぐに自分の顔を見て驚いたと分かった。
悪魔の風貌は頬に傷跡があるサングラス。年端もいかない少女からしたら怖いだろうものである。
「あの、蜜柑ちゃん? デビルってブレイダー的な意味じゃないやつだった?」
「え? 違うよ。この人がブレイダー・デビル……ってあ、ごめんなさい! 変身してないのにデビルって言っちゃってました!」
「俺の場合はいいから、そんな畏まるなよ」
「若、元から身バレとかあんまし気にしないタイプでしたからね」
動画活動などで公言などはしていないが、元から隠す気はそれほど無く、秋葉では知るものも多い。それでも悪魔の素顔があまり世に知られてないのは、日本が培ってきた変身ヒーローに対するマナー。またはジャスティスの影がちらつくなど、様々な要素が噛み合った結果である。
「てことは、本当にブレイダー・デビルなんだ! すごい! サインください! ――あ、はい、まずは謝ります……。 あの、最初疑っちゃってごめんなさい!」
「気にしなくていい」
「じゃあサインくださ――はい、後にします……」
まるで“誰かに叱られた”かように縮こまる桃色の少女。悪魔はどうにも初めてあった気がしないでいた。その違和感はすぐに払拭されることとなる。
「えと、そういえば自己紹介がまだだったね! 私、桃川暖子と言います!」
「桃川暖子……あー、もしかしてセブンスの件で巻き込まれた魔装少女か?」
「あ それわたしですね!」
「この子も魔装少女とは驚いた」
まさか、スレに時折出てくる桃ちゃん本人に、それも蜜柑と一緒に出会うとはこれも縁かねと悪魔は思う。
「というかだ。二人はどうしてココに?」
「えっと、私たち『塾』のみんなと一緒に試合を見に来たんですけど、はぐれちゃいまして」
「ご、ごめんなさい。私が色々と目移りしちゃって」
「あれは仕方ないよ。というか私が話フリまくっちゃったのが大体の原因だし」
原則、一度魔装少女になってしまえばその力を失うことは無い。現状、明確に魔装少女の力を失わせる方法はアビスのスキルぐらいである。
そのため小鳥遊蜜柑を含めたあの事件で魔装少女にされた子たちは、事件後『塾』預かりの魔装少女となった。蜜柑は『協会』が定める魔装少女規約で定められている魔装少女として活動できる年齢の十歳に達しておらず、とりあえずは魔装少女としてどう生きるのかの勉強中である。
また蜜柑たちは『裏案件』に関わっているとして、『協会』そのものに存在を伏せられており、十歳未満の子たちは十歳の誕生日を迎えたら順次、色々な理由を付けて公式に発表していく手立てとなっている。なおこの計画の裏に居る『協会』関係者は、すみれ色のギャル風魔装少女だったりする。
「保護者の方とは連絡が付いてるんです?」
「その、二人してスマホの充電が切れちゃいまして……めっちゃ話が盛り上がって、そのまま充電忘れてしまいました……」
「私も写真たくさん撮ってたらいつのまにか……」
「そいつはいけねぇ。見知らぬ街で誰にも頼れなかっただろ? ちょっと待ってな、いま携帯充電器持ってきてやっからよ」
「……迎えは来たようだぞ」
――わん!!
「あ、
「かわいい! お手とか出来るかな?」
「ていうか、めっちゃちっちゃいね! 名前なんていうんだろう?」
チワワ並に小型な淡紅色のふわふわした毛並みを持つ子犬が、こちらに寄ってきて一鳴き。それに続いて漆黒色の魔術師のようなフード付きコートの男性が遅れて傍に来る。
「この子たちの迎えか? 奈落」
「元は混沌が頼まれたんだけど、時間があるからボクが代わりに来たんだよ」
「えっと……どなたです?」
「アビスだよ。ブレイダー・アビス」
「ええ!? あのアビスさんですか!?」
子犬と戯れていた桃川たちであったが、思わぬ奈落の登場に驚愕する。蜜柑も変身した姿は見たことあったが、こうして直接会うのは初めてだったため桃川と同じように驚く。
「小鳥遊蜜柑ちゃんと桃川暖子ちゃんだね。塾長から頼まれて迎えに来たよ」
「わん!」
「もうすでに会場の中に入っているから一緒に行こう。物凄く心配していたから、ちょっと怒られるのは覚悟してね」
「うっ、はい……えっと、アビスさん?」
「生身の時は奈落って呼んでね」
「あ、ごめんなさい。奈落さん。わざわざありがとうございます」
「ありがとうございます!」
構わないよって薄く微笑む奈落、その笑顔を見た桃川は妙な怖さを感じ取ることになる。その原因が何かを考えてしまったら、なんだか悪い気がして気にしないことにした。
「ほら、とりあえず携帯充電器持っていきな、秋葉に来てくれた記念のプレゼントだ」
「あ、ありがとうございます!」
「ありがと――あ、こ、これってもしかして……」
「お、やっぱり蜜柑の嬢ちゃんは分かるかい? そうデビルをモチーフにした限定グッズさ、秋葉にはこういった許可を得てデビル関連の観光名所やらグッズが沢山あるから探してくれな」
なお、本人に許可を得たのはかなり後出しだった模様。さらに付け加えるならGOサインを出したのは天使である。
「もしかしてって思ったけど、やっぱりアレとかアレとか、デビルさんをモチーフにしていたんですね……また後で見に行かないと!」
「おっと、もしかして迷子になったのは、それが原因だったか。目移りさせちまうってのも考えもんだな」
霧升は黒と金の携帯充填機を二人にプレゼントして喜ばれる。悪魔は多分、あれ誰かの私物だなと思ったが黙ってることにした。ほぼ間違いなく布教用で余ってるやつだと知ってるから。
悪魔は、寄ってきた子犬の頭を撫でる。
「ありがとな“希望”、お前が居てくれて助かったよ」
「わん♪」
「あの! 悪魔さん!」
「ん?」
「試合、頑張ってください!!」
「……ああ、見てってくれ」
事情を深く知らない蜜柑は、純粋に試合に勝てるようにと声援を送る。それに悪魔は複雑な心境を黒いレンズの奥に隠して、笑顔で応答した。
二人が奈落と子犬――希望に連れられて会場へと向かった、一緒について行ってもよかったが、煙草を吸いたい気分になってしまったため、悪魔は少し時間をおいて向かうことにした。
「どうぞ」
「あんがと」
煙草を咥えると、当たり前のように霧升がライターを取り出して火を付けてくれた。悪魔は煙を深く吸い込んで晴天に向かって吐き出す。
「……俺はお前たちを裏切ることになるかもしれん」
「悪魔は、神様に見捨てられた者たちにとって最後の希望。握って貰った以上、死ぬまでその手を離しませんよ。それが昔っから言われてる悪魔の契約ってやつですからね」
「そうやってお前は付いて来てくれたな」
「はい、あっしだけじゃねぇ、この秋葉にとって若、あなたは“悪魔”でヒーローですから」
――てめぇらの行いが神が決めた正しき道って言うんなら、俺は悪魔でいい。
社会が定めた決まり事、それによって危ぶむ人々のために拳を振るう少年を誰かが指差す。それに対して少年は傷だらけとなりながら断言した。
「ああ、そうだな――俺は悪魔だ」
「行ってらっしゃい。ご武運を」
霧升に見送られながら、悪魔は自分が戦う場所へと歩みを進める。自分の行いがどういった結果になるか分からない。だからこそ悪魔はいつものように戦うことを決意する。
+++
第5支部は芸能事務所も兼用している特殊な支部である。なので第5支部に属する魔装少女たちはグレムリン退治を二の次あるいは完全に蚊帳の外へと出して、アイドル業をメインとして活動している。そのため支部のリーダーを決める方法も他では考えられない、ファンによる投票によって決められてる。
――そんな第5支部にて十才の頃からアイドルとして活動し、三年連続でリーダーの座をキープしている魔装少女が居た。
「――ひとみ、やっぱり止めようよ」
濃紺色の髪を持つ高校生ほどの少女が、自分よりも少しだけ小さく正反対に明るい水色の髪の少女に、何度目か分からない提案をする。
「うにゅー。いくらお姉ちゃんのお願いでも、これだけは聞けません!」
「でも……相手がいくらブレイダー・デビルだからって危険だよ」
「心配しないでお姉ちゃん! ジャスティスやアビスならともかくデビル相手に私が負けることなんてないんだから!」
いつもの事ではあるが、自信満々なところがたまに傷な妹に心配の念が積み重なる。妹は例え失敗しても、瞬時に成功の糧にしてしまう天才で、いざ本番のステージに立ってしまえば、妹は誰よりも真剣になるのは知っている。しかし、今回ばかりは相手が悪すぎるのではと不安は消えない。
「アルテメット・アイドルは名前の通りさいきょー! 悪魔なんてすぐに退散させちゃうんだから!」
魔装少女五番勝負の先鋒。つまりブレイダー・デビルの対戦相手こそ、そんな絶大な人気を持つ魔装少女『アルテメット・アイドル』こと『
それでも姉心として、今回は流石に相手が悪すぎるのではないかと思う。
「いくらアイドル活動のためだとは言え、あのデビルだよ? お姉ちゃんは反対だよ」
「大丈夫だよ。私が戦うのはあくまでもファンを増やすためだし、もし危なかったらすぐに降参するから!」
ひとみが今回五番勝負に出た理由は言ってしまえば、アイドルとしての人気取りだった。
「ひとみは何度もグレムリンを倒しているから、みんな戦えるって知ってくれているよ」
「ううん。確かに凄いって言ってくれてるけど、それは魔装少女アイドルの中では“戦えるだけ”ってぐらいの認識だよ。アンチもファンも、結構な人がそう思ってる」
「仕方ないよ。だってひとみは“本気”を出したことないんだから」
「だから、わたしは本気のわたしを見せるためにもデビルと戦いたいの」
自分の濁ったものとは違い、どこまでもキラキラと輝く妹の瞳に見詰められる。いつもの負け確定演出、逆転する事も出来ず、結局いつも通りに根負けした姉は降参を示す。
「……そこまで言われたら、なにも言えないね」
「
「でも怪我は絶対しないでね」
「もちろんだよ! 怪我なんてしたらアイドル失格だからね!
「今度謝らないとね」
頭を差し出してくる妹に、姉である『
「もう中学生なんだから、そろそろ姉離れしないとね」
「え~。やだ~。お姉ちゃんとずっと一緒に暮らす~」
「姉としては、ひとみにはちゃんと自立してほしいよ……」
「やだー。お姉ちゃんとはずっと一緒に居るー」
自分の事が好きすぎる妹。想衣は姉としてと言うにはその声色は妙に重々しかった。そんな姉の言うことにひとみは、いやいやと全力で甘える。
「そろそろ出番でーす!」
「あ、はーい!! いまいきまーす!!」
スタッフの呼びかけに、ひとみは元気よく返事して立ち上がりポーズを決める。
「チェンジリング!」
惹彼琉ひとみは白と水色のアイドル衣装を纏った魔装少女アルテメット・アイドルへと変身する。
「お姉ちゃん! 最後に元気を注入して!」
「もう、ほんと甘えん坊なんだから」
手を広げて待機するひとみを、想衣はそっと優しく抱きしめる。
「魔装少女でもなんでも、私はお姉ちゃんの妹だから……だからお姉ちゃん、私のことずっと傍で応援してね!」
「……うん」
「じゃあ。言ってくるね!」
「頑張ってね」
元気いっぱいに控え室を出て行く妹を、想衣は見えなくてもしばらく手を振り続けた。
「――ごめんね。こんなお姉ちゃんで」
+++
見捨てられた秋葉では、昔と比べて変わらずに残っているものもあれば、大きく変わった場所もあった。それこそが『秋葉ドーム』。グレムリンによって無残にも破壊された土地に建てられたもので、建築面積は東京ドームよりも一回り小さいものの、観客動員数三万人、グラウンド面積130×110の巨大会場である。
『落葉会』が、いつか外との交流が再開する将来を見据えて建築したものであり、その理由の中には大々的な大型建築の仕事を外部発注することで秋葉の現状を外へと匂わせることや、仕事口を増やす事による雇用の増加。大暴落した際に購入した秋葉の土地を他に食い込ませないためや、今の秋葉や『落葉会』の存在を知らしめるシンボルとしての効果も期待されている。
魔装少女とブレイダーの対決。さらに言えば見捨てられた秋葉が会場とあって、一試合ごとに設けられた抽選倍率七十倍の争奪戦を勝ち抜いてきた客で満員御礼となっていた。
老若男女は、出回る売り子たちから商品を買いながら、まだかまだかと興奮冷めあらぬ様子で試合が開始されるのを待っていた。
そして、事前に予告されていた開始時刻ぴったりにドームのスピーカーから聞き覚えのあるポップな歌が流れて会場に歓声が上がり、観客の大半が自前のペンライトを取り出した。
音楽の名前は『アイドルでもいいでしょ?』。アルテメット・アイドルのデビュー曲であり、動画再生数2000万越えをしている流行を築いた音楽である。
≪――彼女が魔装少女に選ばれ、アイドルとなったのは三年前。彼女は生まれながらに星だった。エベレストの頂点に立ったものは今までにもいたであろう。しかしそれでも宇宙より見下ろす天才には届かない……! 太陽と月にも負けぬ星は、空を見上げる我らを見てなにを思うだろうか≫
流れている歌と似合わない硬めの前口上が語られる。その内容が大げさで尖っているのは仕様と言うものだろう。
搭乗口にスモークが炊かれ、それを突っ切るように少女が現れた。
≪ただ踊れるだけの偶像? 歌うだけの幻想? それだけのものに私たちは手を伸ばしはしない!! その小さな体には世界を輝かせるだけの光が宿ってる!≫
自分の魔道具であるマイクを両手に持ち、精一杯空気を吸い込み――。
≪私は証明するためにここに来た! 自分もまた世界を守る魔装少女なのだと! 第5支部魔装少女リーダー! アルテメット・アイドルの登場だああああ!≫
「みんなああああああああ! おまたせええええええええ!!」
アルテメット・アイドルの登場によって、天にも届くであろう、おおよそ三万人によるファンたちの雄叫びが上がった。
アルテメット・アイドル
|
観客席は水色と白色のペンライトで埋め尽くされ、自分の色で染め上げられた会場全体に平等的に手を振い続ける。ファンは後にこの時の様子を語る。気のせいかもしれないけど、彼女は僕ら一人ひとりにちゃんと眼を合わせてくれたような気がしたと。
そしてアルテメット・アイドルが、口元にマイクを近づけると止まぬ歓声がピタリと無くなり、彼女の声を聞くためだけの舞台が出来上がる。
「――わたしは今日勝つためにここに立っています。だからみんな私が勝てるように心の底から応援してください!!」
その声は会場全体にしっかりと届き、頑張れと、勝とうねと、怪我だけはしないでくれと言う言葉が混ざり合い、ドームを揺らすほどの声援としてアルテメット・アイドルに返ってくる。
ファンたちにありがとうと改めて礼を言ったアルテメット・アイドルは自分が出てきた反対側の入場口へと体を向けた。
――音が変わる。アイドルソングから一変、ギターやドラムを中心とした肩にのし掛かるような重い低音が、全てをかき乱すように鳴り響く激しいものへと。
青と白で輝いているペンライトが、
第一試合の観客の大体は高倍率を勝ち抜いてきたアルテメット・アイドルのファンで構成されているからこそ、場を盛り上げる方法を熟知していた。しかし、それだけではない、アイドルに人生を捧げている老若男女たちではあるが、彼らは我らがアイドルの対戦相手の登場も今か今かと待ちわびていたのだ。
なにせ対戦相手は、“あの”ヒーローなのだから。
「きゃああああああああああ!! デビルさーーーーーん!!」
「蜜柑ちゃんまだ出てきてきてないから、落ち着いて!」
その中にはこってり絞られたが、そんな事を忘れたと言わんばかりに騒ぐガチファンの少女が居たとか。
≪――神様に見捨てられた人々は、絶望の淵に禁忌に手を触れた。どうか二束三文しか出せぬ、私たちを助けてくれと神の敵に願ったのだ≫
観客たちは驚くことになる。何故なら搭乗口に出てきたのは頬に傷跡があるサングラスの男性だったからだ。誰だという疑問と、まさかという期待が入り交じったどよめきが会場を走る。
闊歩する男性は手に持っていた『
≪契約は成った。人々の願いを叶えるために神の敵――悪魔はヒーローになった≫
|
おなじみの変身音が『B.S.F』と同期している会場のスピーカーから流れたことで、アルテメット・アイドルの登場の時に負けないほど会場のボルテージは最高潮に達した。
≪さあ、現れてくれ我らのヒーロー! ブレイダアアアアー! デビルウウウウ!!≫
「――変っ身!」
サンジョオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!
金の装飾品が輝き出して男性を包み込む。そして光が消えるとそこには金と黒の
ブレイダーデビルが現界していた。
――電気が周辺に飛び散る様は見た目と相まって怖れられるものに見えるだろう、しかし、だからこそ彼の生き様に憧れ、好いてしまうものだ。そして気付く、彼は私たちを守ってくれている悪魔なのだと。それを人は自然と零れ落ちるようにヒーローと呼んだ。
≪ブレイダー・デビル
少しメタ情報となってしまいますが、作者のちょっとした遊び心で本来はアルテ“ィ”メットの所を、アルテメットにしています。
理由の一つとしてはそっちの方が可愛いかなと(  ̄▽ ̄)多分……。
かなり長めの話になりましたが、これでもかなり削った方だったり……それで意味不明な所があったらごめんなさい。場合によっては外伝作らないと行けないかも……