変身ヒロインが守る世界にて十人の変身ヒーローは戦う 作:庫磨鳥
評価数が100を超えたようで、本当に嬉しい限りです。
そして誤字報告をしてくれた方、いつも本当に多くてすいません( ̄▽ ̄;)そしてありがとうございます。
色々と不器用な自分の作品ですが、楽しんで貰えたら幸いです。
私事ではありますが、同じハーメルンで執筆活動をしているめど(激熱西方歌詞姉貴)さん。
特殊タグ関連で大変お世話になっており、ご本人様から許可を頂いたので、一度、ちゃんとしたお礼をこの場を借りて行いたいと思います。いつも本当にありがとうございます。
それでは本編をお楽しみください。
≪ーーというわけで戦争決闘五番勝負、第一回戦が開始されました。『アーマードchannel』では引き続き僕ことブレイダ―・アンギルとゲストのグレイ・プライドさんで進行していきたいと思います≫
≪よろしくお願いします≫
≪試合の状況は共通で『魔装少女協会』の公式channel、国外含めて四つのテレビ局にて放送されており、チャンネルや番組ごとに解説者がいるので、自分のお気に入りのチャンネルで試合を見守ってねー。さてとゴングは鳴ったけど、まだ両者とも動かないね≫
≪様子見とはちょっと違う空気です。お互い動かない理由が別にありそうですね≫
ドーム内の放送施設にてアンギルとグレイ・プライドが、『アーマードchannel』にて配信している試合の様子を見守っている
――ブレイダー・デビルという見た目からして怖く、本気になれば小さな女の子ひとり塵にするのも容易い存在が目の前に敵として立っている。しかし、アルテメット・アイドルの心は穏やかだった。
その理由は芸能界という魑魅魍魎が住まう界隈にて三年間トップアイドルとして関わってきたアルテメット・アイドル自身の直感が、
それだけではない、常にあるステージに立っているときに生まれるはずの孤独感が無く、まるで姉が傍にいるような安心感が緊張や不安を消していく。まさかそんな事があるはずないと気持ちを切り替えようとするが、奇妙な感覚を振り払う事が出来なかった。
「……アルテメット・アイドルでよかったか?」
「アルテちゃんでいいよ。悪魔のお兄さん」
魔装少女とブレイダー。聴覚機能は強化されており数十メートル離れていても、はっきりと会話出来る。アルテは内心で話しかけられたことに驚くも、それをおくびに出さずアイドル活動で培った営業能力が条件反射的に会話を成立させる。
「ちゃん付けはちょっと恥ずかしいから勘弁してくれ。アルテって呼ばせてもらうがいいか?」
「仕方ないなぁ。じゃあ私が勝ったらアルテちゃんって呼んでもらおうっと、それでどうしたの?」
「んー。気分を害したら悪いんだがな――『固有魔法』を使うまで俺は手を出さない」
「……わたしはありがたいけど、本当にいいの?」
実のところ、アルテは戦闘が得意な魔装少女ではない、それでも本人がデビルに勝てると自信を持っているのは『固有魔法』の存在があるからだった。
しかし、完璧に発動するまでにかなりの時間を要する。だから試合が始まったらすぐにアイドル活動で鍛え上げたおねだり術を全力で活用して、何がなんでも『固有魔法』を発動させる計画していたのだが、まさかデビルの方から『固有魔法』を発動してもいいと言われるのは予想外であった。
≪おっと、デビルからの先手を譲る宣言だ~≫
≪何か狙いがあるんでしょうか?≫
≪さあ。でもデビルらしいなって気はするねー。意外とエンタティナーなんだよね。そういうところだぞ。あ、ちなみに戦っている二人の声は最新の音声機器によって、会場だけではなく配信にも届くようになってるよー≫
「……わたし、悪魔のお兄さんにどうやって頼み込もうか数日間悩んだんだけどな~」
「悪いな。俺は勝負をしないと行けないんだ」
「むむっ! それって『固有魔法』無しじゃ、わたしの事瞬殺できるってこと!?」
「多分な」
「微妙なお返事はノーセンキュー! 具体的に秒で言ってよ!」
「0.2」
「コンマ!?」
ふくれっ面を見せるアルテに、デビルは少し困った様な反応を見せる。そのやり取りに会場からは笑いが零れた。アルテのプロとしての高い意識が、ここは笑いをとって見ている人々を楽しませるところだと考えるよりも先に体が動いた結果だ。
≪あー。平和だねぇ。もう勝敗関係無くこれで終わんないかなー≫
≪アンギルさん。ほんね出ちゃってますよ? 大丈夫なんです?≫
「さて、どうする?」
「ふふん。私の魔法を見て後悔してからじゃ遅いんだからね! 〈
大人に甘えることも手慣れているアルテは遠慮無く『固有魔法』を発動。マイクはヘッドフォン型へと変わり、可愛らしさを感じるカラフルなスピーカーたちが会場に散らばる。そしてアルテとデビルの丁度中間当たりに魔方陣が浮かび上がり、そこから背丈がデビルと同じくらいのメタリックなモデル人形が現れた。
≪アルテメット・アイドルの『固有魔法』が発動されて、ステージとモデル人形が一体出てきましたね? どういった魔法なんですか?≫
≪はい。私の知る限りになりますが〈コッペリア・レ・ステージ〉は、アルテメット・アイドルが歌うことで、ゴーレムが強化されて戦い出すといったもののようです。そもそも彼女が戦う事は滅多にないので、見られること自体珍しく、同じ魔装少女として楽しみです≫
≪グレイってけっこう魔法オタクなところあるよねー。曲の方は僕も聞き覚えがあるよ。確か『ブレイブコール』って言う、アイドルソングというよりも、バトルの挿入歌みたいで派手で格好良いやつだ。まさに、あそこで歌うのは打って付けのやつだね≫
アルテは胸に手を当てて静かに深呼吸をする。自分が勝つには音ゲーで言うところのフルコンボを出さなければならない。つまりたった一つの失敗が、そのまま負けを意味して
――緊張して怖い……だけど自分はアイドル。ライブに立った以上、歌いきるまで逃げることは出来ない!
アルテメット・アイドルは覚悟を決める。
――アイドルはいつも全力だった。だけど魔装少女はと言われれば、サボりがちだったのは本当。だから今日、わたしはアイドルとしても魔装少女としても全力で戦って勝つ。お姉ちゃんのためにも!
「いくよ。悪魔のお兄さん! 魔装少女アイドルの全力を見せてあげる!」
静かなソロギターが音楽が会場中に響き渡ると、
その動きは鈍く、遅い。どうにも頼りなくシュールな光景だった。
≪おっと音楽が鳴り出したと共に人形、魔法名からしてコッペリアかな? それが動き出してデビルに向かっていきましたねー≫
≪魔法が発動したからだと思います。見た限り完全自立型のようですが、それにしても動きが悪すぎる気がします≫
≪うん、戦闘できるようには見えないよねー≫
広大なドームで奏でられるものにしては些か侘しいものである。しかし、曲はまだ始めもはじめ、導火線に火が付いたばかりである。
アルテは軽く息を吸って左手を胸に置き、右手を横へと広げた。
――歌いだしと同時に音楽がギターとエレクトリカル楽器が織りなすアップテンポへと変わる。
ハジマリを告げる合図は ちっぽけなキミのハートで!
ドンドン鳴る成る鼓動に名前を付けようか!
『ブレイブコール』
――これは、曲のワンフレーズをアルテが歌いきるまでに起きた出来事である。
早口で歌詞が綴られると、コッペリアに変化が訪れた。モデル人形な造形は騎士甲冑のように変化し、体格も一回り大きくなった。観客たちがコッペリアの変化を認識したころには、悪魔の目の前まで接近して拳を振りかぶっていた。悪魔は冷静に、己の顔面に向かってくる拳を裏拳でいなす。
「やるな」
コッペリアの連撃にデビルは回避に専念する。その中でコッペリアが速度、威力ともに最強格であることを把握したところで、迫り来る顔面を狙った拳を強く払いのけ、体勢を崩したコッペリアの顎にすかさずアッパーカットを繰り出した。
それに対してコッペリアは敢えて自分から真上への跳躍により回避、そのままバク転を行い距離をとる。
≪すげぇ! 姿変わったと思ったらデビルと殴り合った!?≫
≪凄い……曲の出だしだけでどれだけの
自由の翼は背中に無いけど前に進む足はあるから 進んで転んで回って立って歩いて
行けるよ ほ ん と う?
2
「――行くぜ」
手に電気を纏わせたデビルは接近してくるコッペリアに自らも駆け出した。互いの突き出した拳がぶつかり、キィンと甲高い金属同士の接触音が鳴る。デビルは触れた拳からコッペリアの身体に電気を流すが、影響を与えることなく、電気は身体を伝いそのまま地面へと流れて行ってしまった。
――電気や雷そのものは、効果がないみたいだな。
デビルは冷静に且つ迅速に放電を抑えて、スキルによって発電させた電力を蓄積させる方向へとシフトチェンジした。デビルは
――押され始めてる……! できれば3フレーズ目に入るまでに主導権握りたかったけどっ!
アルテはデビルの強さを実感して少し心を乱す。それでも音程がずれることもなく、振り付けも完璧と遺憾なく天才性を発揮。そんな中でアルテは2フレーズを歌いきる一秒にも満たぬ時間内に、迷い、別の道を探し、そして当初の予定通りに3フレーズ目に入ることを決断する。
曲のテンポが遅くなり、その分音が重くなる。曲調が変わった瞬間デビルは直感に従い腕を頭上に向かってクロスさせる。
デビルが防御体勢を取ったほぼ同時に、コッペリアのチョップが脳天めがけて振り下ろされた。
「ぐっ……!」
あるいは鋼すら砕けるであろう威力に、デビルは咄嗟に全身の関節を動かして衝撃を地面に逃がす。ひび割れ地面が爆ぜる。第三者からは見えなくなった土煙の中でコッペリアは、痛み動きが鈍ったデビルの腹部へと正拳突きを放った。
デビルは砂煙の外まで突き飛ばされ、コッペリアも砂煙から飛び出してデビルを追う。その姿はさらに変化しており、鎧が増して巨大化しているだけではなく腕がオラウータンのように長くなっている。
≪見えなくなったと思ったら、デビルが突き飛ばされて出てきた! コッペリアの攻撃を食らったのか!? いやマジか! これは予想外すぎる!≫
涙の 意味が 強さって呼ぶなら 雫が落ちる度に
残るものはなに?
デビルはさらに発電量を上げ限界まで電気を溜め込んだ。それはデビルが完全に本気を出した事を意味し、雷光の如く縦横無尽に会場を駆け出し始めた。
コッペリアはそんなデビルの動きを予測して先回りを行いながら、長い手を最大限利用した鞭のようにしなる連続フリッカージャブを繰り出す、その威力、数ともに曲がるマシンガンと例えても大袈裟では無かった。
デビルは回避に専念して隙を見つけては攻撃を繰り出して行く。より効率的に最適化した動きで、相手の隙に強烈なパンチやキックをお見舞いする、試合はさながらキックボクシングのように成ってきたが。両者の動きがあまりにも速すぎて、試合を見ている常人には、ただただ雷光と破壊される会場の中、アイドルが歌っている様を見せつけられる形になっていた。
≪いや、もうこれ見えねぇから実況出来ないねー……さて、曲調がバラードになった途端、強さがすごい増したけど、そんなことある?≫
≪……あくまで予測にはなるんですが、恐らくアルテメット・アイドルの『固有魔法』の本質は、召喚したコッペリアを“強化”するものではなく“成長”させるものではないかと≫
≪成長?≫
≪はい。先ほど強化と表現したんですが、それだとデビルさんに匹敵する力を手に入れたとしても、次第に、まるで武術の達人のように動きがよくなっていくのは難しいんです。なのでコッペリアという“対象”に起きている現象は強化ではなく
≪なるほど。つまりアルテメット・アイドルが歌うほどにコッペリアは経験値を獲得していって、レベルアップをしているから、ステータスも伸びるし、技も覚えるのね≫
デビルは戦いの最中で、コッペリアの動きが段々と多彩になっていくのを感じ取る。ムエタイから空手、ボクシングに留まらず、柔術や合気道、カポエラやテコンドーなどの動きも見せ始めた。人間が編み出した技術を、長い手と巨体と人間離れした身体で繰り出してくるってのは中々堪えるなと、デビルはとにかく防御に徹する。
ちなみにグラウンドと観客席の間には魔装少女数名とブレイダー・ナイトの協力の元無色透明なバリアが張られており、一定の安全は確保されている。
≪……そうか、それなら歌はかなり効率が良いですね≫
≪どゆこと?≫
≪経験値と技の出処についでですが、これも確証はありませんが経験値の会得条件は彼女の歌を聞くこと、そして経験値の出処は人の情報だと思われます≫
≪人の情報?≫
≪その人が持つ
≪あー。現在『アーマードchannel』の同時接続数は120万人だけど、国内外問わず色んな方法で配信されてるから……億を超えちゃうかもねー≫
≪つまり億単位の人々の経験値をあのコッペリアは得ている……この考察が間違っていなかったら、とんでもない話です≫
≪そりゃーデビルでも苦戦するよねー≫
≪
グレイの考察はほとんど正解であった。『コッペリア・レ・ライブ』は、アルテの歌を聞いている人間が生きて得た人生の経験をコピーしてコッペリアという端末に継ぎ足していくものだった。
ただ、得られる経験値はひとりに対して1%~5%であり、その中に戦いに必要な技が得られるかどうかは完全なるランダムである。そのため百人千人程度では平均的なグレムリンを一体倒せるかどうかで留まってしまう。
この特性故にアルテは今まで“本気”と言えるほどの実力を出し切れた事が無かった。グレムリンの出現はランダムであり、戦いの様子を生配信するという行為は火種になりやすい事からできなかったのも要因となっている。
だが今回は全世界の人間が注目するであろう試合。アルテはここで歌えるならデビルに勝てると踏んだのだが……。
――予想よりも歌を聴いてくれる人が少ないっ! このままじゃレベルが足りないよ……!
コッペリアに経験値を与えるためには、アルテの歌を人に聞いて貰う必要があった。しかし人は興味の無い歌は脳が勝手に雑音だと処理してしまう。そうなったらパスは繋がることはない。故に当初から戦闘用の歌として作られた『ブレイブコール』は、出来るだけ沢山の人に聞いて貰う工夫が成されているのだが、状況はあまり芳しくなかった。
この試合のメインはあくまでもデビルとコッペリアの戦いでである。たとえ見えていなくても、地球上の生物を超越した戦いを少しでも見ようと、視力に集中するあまり耳の機能を低下させる人間は、ファンが多い会場内だけで数えても少なくは無かった。
さらに言えば、そこら中で鳴る電気音や破壊音が歌を阻害しており、ここに来てアルテはデビルとの相性の悪さを実感する。
アルテの視力は常人の範囲内であり、戦いの様子は直接見えていない。しかしコッペリアから伝達されるダメージ、身体を再生したなどの情報から漠然と戦況を把握する。コッペリアはレベルアップを続けており、ステータスも技も無制限に増えていく、しかし、それでも今だ雷鳴にすら届かず。
デビルは直に必殺技を繰り出してくる、しかも必ず当ててくるだろう、アルテはこのままでは負けるのは時間の問題だと、とっさの判断で一手加えることにした。
Oh...零れる...
Oh...零れる...
≪……あれ? こんなに長い間なんてあったっけ?≫
≪スキャットと呼ばれるものですね。元々はないんですか?≫
≪うん。サビに入る前に一節あるんだけど、そこが好きで頭の中で歌おうとしてたらタイミングがズレて混乱しちゃった≫
アルテはメロディーをループさせて、元々は無かった
そんなのは不可能……なはずだった。
――彼女は天才アイドル。一番の盛り上がりどころは、たとえ見えなくても本能で感じることができる。
泣いたって失うばかりでしょ!!
伴奏が無となり、アルテは溜めていた気持ちを全開に
試合に夢中になっていた人が、仕事に集中していた人が、作業に没頭していた人が、試合に見向きもせずお喋りに興じていた人が、テレビを付けたまま夢現だった人が、アルテの歌に意識を向けた。
そして大幅なレベルアップを果たした瞬間こそ、デビルがコッペリアを投げ技にて遠くへ飛ばすことに成功し、キメ時だと必殺技の構えをとるために足を止めた、まさしく絶好のタイミングであった。
「……なっ、ぐ!?」
音速の壁を突き抜けたコッペリアが、そのままの勢いでデビルにタックルを食らわせてグラウンドの端までぶっ飛ばし、バリアに叩き付けた。
≪二人が見えたと思ったら、デビルがぶっ飛ばされた! みた感じ必殺技を放とうとしたところを狙われたか-!?≫
≪歌い出しのタイミング完璧でしたね≫
≪そして続けて、コッペリアの猛攻が始まったー! 端に追い詰めたデビルをとにかく殴る! 心なしか姿が変わっているようだけど、最初あたりしかちゃんと見えていなかったから分かんないなー!≫
≪むしろ肩幅が小さくなりましたね≫
巨大化し続けていくと思われていたコッペリアの体格は逆に引き締まった姿となっていた。デビルに勝つために速さを求めて支障がでる部分をそぎ落とした印象を受ける。
コッペリアはデビルに蹴りを放ち、拳を穿ち、ありとあらゆる技を駆使して、デビルを攻め続ける。
ブレイブコール!
行かないでよ六等星!日が昇る前に飛び上がれ!
ブレイブコール!
夜の帳よ無力な私のお願いを聞いて!!
≪デビルさんが防戦一方となっています、アルテメット・アイドル、完全に足を止めて倒しに行っていますね。やはり早く決着が付けられなかったのが響きましたか?≫
≪それは無いよ≫
いつか 流星になって永遠に……
コッペリアはすでにステータス上ではデビルを超えていた。それでもレベルアップはまだまだ続く。『ブレイブコール』は元から一番しかない曲で、次のワンフレーズで曲は終わりとなる。
だからといって試合が終わるわけでは無い、あとは勝つまでメドレーを歌い続ける。たとえそれが何十時間掛かっても勝つまで。
≪デビルって確かに最初から必殺技だぜ! ってイメージあると思うけど、それは出来るだけ速めに倒して被害が出ないようにするためなんだ。だけど――≫
あなたのもとへと……!
アルテが無事に歌いきるほぼ同時、コッペリアはひたすらガードして耐えていたデビルに対して、防御ごとぶち抜く踵落としを繰り出した。
≪――元々、デビルは超々持久型のヒーローだよ≫
踵落としは脚を振り下ろす技である。
その振り下ろされるまでの僅かな“間”。デビルはそこで初めて動き出した。
小さなステップで真横へとずれて身体を縦にする。コッペリアの踵が空振りとなり、地面へと接触するよりも速く、デビルはコッペリアの顔面に強烈なコークスクリューブローを繰り出した。
≪悪魔は……本当に強いんだ≫
――雷の悪魔になる前の少年は、この秋葉でずっと戦い続けてきた。常に自分よりも大きく強く、倒す事は叶わず、腕を振るうだけで簡単に人の命をもぎ取れる存在と。
!悪逆! |
デビルは追撃として人間で言うところの鳩尾部分に掌底を食らわせて吹き飛ばす。右腕に迸る
!壊滅! |
「っ!? 行ってコッペリア!!」
アルテの指示に従って、コッペリア、即座に体勢を立て直して音越えの速度にて距離を詰める。
――それを悪魔は、光の速度で迎え撃つ。
!粉砕! |
シィイイイイイイイイイイックス!!
落雷そのものの突き蹴り六連打がコッペリアに直撃。音の壁を突き破りながら百メートル以上ある反対側の端まで吹き飛んだ。バリアに直撃したコッペリアは粉々に砕け散る。
バリアは見事、観客の安全を守ったものの遅れて聞こえて爆音とドームそのものが揺れたことで、観客席から沢山の悲鳴があがる。
「きゃっ!?」
アルテは爆風にさらされて体勢を崩し尻餅をついた。完全に腰が抜けてしまって立つことが出来ない、アルテは恐る恐るとした様子でゆっくりとデビルの方に視線を向ける。
デビルは威風堂々とした姿でたち、たった一言アルテに問うた。
「――――どうする?」
続けるのか、降参するのか、アルテはショックから回復できていない思考で考える。
デビルと打ち合えた、さらには追い詰めることも出来た。最後に反撃を食らったものの自分の強さをアピールするには十分すぎる成果だ。アイドルとしても、魔装少女としてもアピールは大成功と言える。なら怪我をする前に引くのもプロであると、アルテメット・アイドルはそう判断する。
――これ以上無理したら、お姉ちゃんに約束破ったって怒られちゃうよね。でも……負けるのは嫌だ!
だが、“惹彼琉ひとみ”個人の想いが勝ってしまう。善戦したんじゃダメなんだ。デビルという地球最強の存在を倒して、自分はようやく文字通りアルテメット・アイドルとして盤石な地位を得る。
――勝てば、ファンも沢山増えて、もっともっと稼げる――そうしたら……今度こそずっとお姉ちゃんと居られるんだ!
「ま、まだまだいくよ~!!」
アルテは立ち上がって、自身の魔道具であるマイクを出現させて叫んだ。その諦めない姿勢に静かになっていた会場から、アルテを応援する声が聞こえてきて、徐々に大きくなっていきついには大歓声へと変わる。
――そんな中、アルテはデビルに勝てる方法を必死に探す。
たしかに『ブレイブコール』より再生数が多い曲や、売れた曲はいくつかある。だけど『ブレイブコール』と比べれば、聞いてくれる層が限られるため、先ほどよりもレベルアップすることは不可能だと判断する。
『ブレイブコール』をまた歌ってもそうだ。歌い方やメロディを変えたとしても、またそれかと意識を逸らしてしまう人は少なくない。それにメロディやタイミングをデビルに知られてしまった以上、意表を突くことは絶対に出来ないであろう。
立った。マイクを握った、みんなが応援してくれる。諦めるつもりは毛頭ない。最後まで歌い切る覚悟はある。
ーーそれでも、わたしは勝てない。
≪……動きがありませんね?≫
≪デビルはアルテメット・アイドルが歌わない限り動かないだろうし……って動いているやん!≫
≪はい、アルテメット・アイドルの方へとゆっくりと進み始めました。何をする気でしょうか?≫
「な、なに?」
アルテの目の前まで来たデビルは、戸惑うアルテをしばらく見つめた後、小さくため息を吐いて手を頭に乗せた。
「……強いな」
「ふえ?」
デビルはそれだけ言って、アルテに背を向けて入場口へと向かって歩き出した。誰もが混乱する中、デビルは、そのまま会場を後にした。
≪デビルさーん!? ちょっと-!?≫
≪帰っちゃいましたね……≫
≪え? これ試合的にどうなんの?≫
残されたアルテは、唖然としながら自分の頭に手を置いた。
――『一回戦。デビルの棄権により、勝者アルテメット・アイドル』
これにて第一試合は終了。次はスレ回となります。
ちょっとした小話。必殺技を放つ前のデビルの一連の動きは、最近見た仲間の戦い方が咄嗟に出たものです。また蹴り技にしたのはコッペリアの手が長いから、腕だとリーチ的に不利と判断したからです。多分速度差的にパンチでもよかった()。
では、また明日の正午に。