変身ヒロインが守る世界にて十人の変身ヒーローは戦う 作:庫磨鳥
あっちの作品と同時投稿を目指してなんとか上げることが出来ました。天国と地獄を同時に書いている気分でした( ̄▽ ̄)
ここから2章は終盤になっていきますので、最後まで楽しんでいただければ幸いです。
借金漬けのあげくに浮気をして家族を捨てようとした父親を刺し殺した母。そんな母も、私が声を掛けたらアパートの十階であった部屋の窓から飛び降りた。それが、後にサイレント・オルクスという魔装少女となる女の子が孤児になった理由。
孤児院での生活は地獄だった。どこからか情報を仕入れてきた同年代の子供たちからは差別的扱いをされる毎日で、あだ名は人殺し、殺人鬼、シリアルキラー、少しでも感情的になれば派手に殺されると大人たちに突然襲いかかってきたと訴え始め、常に私達の世話を面倒そうにしていた大人たちはたいして調べもせず、声の大きいほうの意見を鵜呑みにして悪いこと全て私の所為にした。
だから、悪い魔装少女を殺して世界を平和にするというお仕事は私にぴったりだと思った。魔装少女というものに憧れていたというのもある。世界平和のために働けるというものは生きる免罪符となり、教育によって与えられた使命感は自分という存在そのものを肯定してくれる気がして。また訓練を共にする同年代の女の子との生活は普通に楽しかった。
私にとって暗殺者として育てられる環境は充実していたんだと思う。でも、時間が経つにつれて本当に魔装少女を、人を殺さないと行けないんだと自覚し始めると、恵まれていると思っていた環境もまた違う地獄でしかなかったと気付いた。そんな私たちの不安を察知した大人たちは教育方針を切り替えた。恐怖や痛みによってトラウマを刻み込み逃げられなくなるようにと、飴を全て取り上げられて何度も何度も暴力を振るわれた。
私たちは辛いって言葉を口にすることが多くなった。逃げ出したいって思うようになった。だけど、そんな力は無くて、どんな大人たちよりも怖い魔装少女が居たこともあって、次第に私たちは諦めていった。地獄で生きて、地獄の使者となり、地獄に送り、最後には地獄で朽ち果てる。それが祝福されずに生まれてしまった私たちにはお似合いなのだと受け入れた。
眼を背け、耳を塞ぎ、口を押さえて静かにする毎日。父を刺し殺した母親の顔が自分に見える。そんな夢ばかりを見るようになって、最後はきっと十階の窓から飛び降りるんだろうなって何度も自分の末路を考えて母を羨む。人殺しの子供なんだ、せめて手を汚すのは自分だけにしようと言う潔癖な誓いだけが、この時の生きる唯一の理由だった。
救いはないと絶望の淵に居た私たち。そんな私たちを救ってくれたのは、また違う
膝を震わせて、強い吐き気に襲われながらも、目標となった魔装少女を殺そうとしたその手を黒い手が止めた。
――ダメだよ。そんなことしちゃ。
当たり前を論じるように優しく叱られた。それがあまりにも悲しくて嬉しくて理不尽で全てがどうでもよくなるもので、私は赤ん坊のように泣いた。
自分たち『元懲罰部隊』を保護してくれたブレイダー・アビスは、色んなことをさせてくれた。美味しいご飯を食べさせてくれた。色んなゲームを遊ばせてくれた、それ以外にも沢山数え切れない普遍的な幸せというものを経験させてくれた。四人で過ごしたクリスマスは今でも私の一番の思い出だ。
そんな幸せに満ちあふれている日常にちょっと耐えきれなくなって。私たちはアビス様の手伝いをさせて欲しいと頼み込んだ。少し困った様子で承諾してくれたアビス様、絶対に無茶はしないでと言ってくれた事が嬉しかった。魔装少女の力を燃やして普通の人間として罪を償わせるというのは、植え付けられた使命感を満たすのに充分であり、なによりも恩人であり大切な人であるアビス様の役に立てている。その事実がただただ幸せだった。
自分の人生を幸せに変えてくれたアビス様の傍にずっと居たい。夢と呼ばれる私欲が生まれたことに浮かれた私はアビス様本人に、恥ずかしいから内容は隠しながらも夢ができたと報告した。
――夢を持てたのはいいことだね。
そう喜んでくれるアビス様に私はなにも考えずに、アビス様にも夢があるんですかと問い掛けた。
――あるよ。それがボクの生きる意味だ。
それ以降、私は怖くなって夢の話をしなくなった。
+++
アビスたちはスレプトに教えられた立ち入り禁止と書かれた扉の前まで到着した。アビスは扉のノブを掴みながら、暫く棒立ちで考え事をしており、その様子にオルクスは先ほどのスレプトとのやりとりを思い出して不安を募らせていた。
――モニカさんに会ってきて。
オルクスはアビスの過去を殆ど知らない。自分たちの過去が碌でもないことも起因し、他人の過去を聞く行為は『元懲罰部隊』ではある種の禁忌みたいなものになっていた。ただそれを踏まえてもアビスの過去を聞くのがみんな怖かった。今でもそれは変わらずオルクスは聞きたいことを口から出せず不安になって腹の底に溜め込み続ける。
「アビス様」
「……オルクス」
「どこまでも付いていきます」
ここからは一人で行くと言われるのを察知したオルクスは、ハッキリと自分の意志を伝える。
「……困ったな。どちらにしても力を貸して貰えないと進めなさそうだ。頼めるかい?」
「……っ! はい!」
扉には厳重な電子ロックが掛かっており、アビスは困ったように言う。オルクスは否定されなかった安堵と、役に立てる喜びに不安が中和されて自分でも意外と思うほどハキハキとした声で返事をする。
本当ならアビスの腕力で強引に破壊することは可能である。ここまで来たのならば穏便に動く必要もないだろうと扉を殴りかかろうとした直前、オルクスに名前を呼ばれたことで考えを改めることになる。その理由はアビス本人にも分からなかった。
「では、行きます〈
物体を通り抜ける魔法を使い扉の奥へと進んだ先は、汚れひとつ無い白壁が目立つ円形空間だった。宙に幾つもの光の玉が浮かび上がっており、オルクスはここが普通の部屋ではないことを理解する。
「ここは……」
「オルクス。ここにいる間は変身を絶対解除しないで」
「え? は、はい……アビス様、この部屋はいったい?」
「簡単に言えば物質生命体にとっては宇宙空間に等しい、擬似的に作られた“巣”だね」
「――っ!? アビス様!?」
「落ち着いて」
室内全体から反響した幼い声が魔法の念話のように直接頭の中に入り込んでくる。敵かと戦闘態勢に入るオルクスを、アビスが静止させる。
「アビス様。ここはなんです?」
「フェアリーだよ。肉体すら捨てて食べることだけを選んだ彼らの“巣”だ」
「“巣”ですか?」
フェアリーは感情を生きる糧とする。それは自他問わず、菓子を食べた時の“甘くて美味い”という感情。あるいは人が美味しいものを食べて満たされる気持ちを感じることが彼らの食事となるのだ。そんな感情を得るためにフェアリーたちは物質世界で活動するために魔装少女と正反対。つまり擬似的な物質生命体となって活動する。それが彼らがデフォルメされた着ぐるみ姿の理由である。そして、この室内に漂う光る玉こそ、宇宙服に等しい着ぐるみを脱ぎ捨てたフェアリーである。
「うん。彼らは魔装少女の因子を無条件で与える代わりに、ありのままこの空間だけで生きることを選んだんだ。多分、ここに居るフェアリーは信仰の類いが好物なんだと思う」
「……人の子飼いになったフェアリーですか」
「はっきり言っちゃえばそうだね。彼らは自らの意志で“蚕”になって生きる道を選んだんだ」
常に宇宙服を着る生活というのは人間にとっても苦痛でしかない。地球には美味しいご馳走が山ほどあるが、同時にフェアリーにとって命に関わる“恐怖”を感じてしまうリスクもある。そんな地球での生活を苦痛と感じるようになり、また半恒久的に自分の好物である感情が得られるとだけあって、この空間にいる数十体のフェアリーたちのように着ぐるみも思考性も捨てて人に飼われるペットに降るものも少なくない。
「他の協会でも時折、こういった施設はあるんだ。まあ違う形の共存だね」
「フェアリーたちをこのように扱っていいんです?」
「そこは人もフェアリーも同じでね。十人十色ってやつだよ」
「スレプト・シェパーデスはどうしてこの部屋に行くようにと?」
「あっちに扉がある……シスターはきっとその奥だ」
フェアリーの“巣”は通過点に過ぎず。シスター・イースターは反対側に存在する扉の先に居るのだとアビスは確信していた。
「擬似的に作られた精神世界だから酸素も無ければ、入り込んだ物質を分解排除する魔法が組み込まれている。普通の人間が入れば即座に分解されて消滅しまう空間。それを利用して第3支部は無断でシスター・イースターに会うような不届き者対策として、このような配置にしたんだ」
アビスはブレイダースーツを着用しており、オルクスは魔装少女であるため無事であり、普通の人間は入るだけでほぼ即死する凶悪な罠と言ってもいい。それを通路扱いするのはあまりにも過剰防衛だとアビスから話を聞いたオルクスは呆れた。
声も匂いも音も聞こえないフェアリーたちであるが、触感のようなものはあるらしく奥の扉へと進むアビスたちに反応してざわつきだす。
奥の扉の前に到着するあたりには、フェアリーたちはアビスたちを完全に侵入者だと断定して、排除しようと動く。フェアリーではないのに巣の中で活動できていることから相手を魔装少女だと判断して、魔法を発動しようとする。その効果は『魔力放出』。対象者の魔力を強制的に外へと放出することによって、魔装を強制解除させようとするものだ。本来であれば魔装少女を無力化するだけのものだが、物質は全て分解霧散する“巣”と合わせると、抵抗するヒマも与えず魔装少女を即死させる凶悪なものへと変わる。
そんなフェアリーたちに対して、ブレイダー・アビスは魔法が発動される前に背を仰け反らせるように後ろを振り向いた。
ほんの刹那、室内に炎を散らすと光の玉であるフェアリーたちは幼い悲鳴を上げて、アビスとは反対方向の天井の隅へと避難する。
すぐに修復はされたが“巣”の一部が焼却されたのを感じ取ったフェアリーたちは、アビスが自分たちを殺せる存在だと気づき戦意を消失させる。フェアリーたちは安寧を手に入れた代償に、この“巣”の中でしか生きていけない。必要最低限の思考以外を忘却してしまった結果、着ぐるみを纏う魔法も忘れてしまい。この“巣”が燃やされてもフェアリーたちに逃げ場所はなく、ただ死を待つしかできなくなる。
「――行こうか」
脅えて徐々に静かになっていくフェアリーを余所に、アビスはそれだけ言って扉の奥へと進み。オルクスは静かにその後ろをついていった。
+++
「またエレベーターです」
「きっとこれが最後だろうね」
扉の先にあったのは質素なエレベーター。アビスとオルクスはここまで来たら迷う必要はないだろうと、下矢印が表示されているボタンを押して中へと乗り込んだ。エレベーターの中にはボタンはなく時間と共に扉が閉じて動き出す。
「……これだけの施設があるなんて、協会はすごいです」
まだまだ目的地に到着する気配のないエレベーター内。気まずい沈黙に耐えきれなくなったオルクスが呟く。
「そうだね。作れるだけの人材も資金もありそうだけど……きっとここは協会自体が作ったわけじゃないと思う」
「この施設を作ったのは協会ではないのです?」
「第8支部もそうだけど『裏案件』では、幾つかこういった地下施設を何度も見たことがあってね。いるんだよ。こういう秘密基地を作るのに長けて『協会』と繋がりを持っている『
アビスは第8及び第3のような地下施設或いは秘密基地を見るのは、なにも協会関係だけではなく『裏案件』で何度も見かけた。
「短期間で痕跡を残さず誰にも気付かれずに、ひと目を避けたところに気がつけば出来上がっている。そんな人間業じゃない建築を行う個人なのか集団なのかも分からない人外。正義がずっと正体を探ってるんだけど芳しくないみたい……きっと、この戦争に乗った理由も『秘密大工』の尻尾を掴むためなんじゃないかな」
「ブレイダー・ジャスティスが追うほどの相手」
アビスの言うことだから信じはしたが、そんな人物が本当に居るという実感のようなものが沸かなかった。しかし、あの正義が追っていて尻尾すら掴んでいないという情報に一気に現実感が増して、オルクスは背筋が寒くなった。
「まあ正義の場合、色んな考えの目的のひとつに過ぎないとは思うけどね。なんだかんだで仲間思いな人だから、ボクたちの手伝いがメインっていうのも本当だろうし」
「……皆さんはどうして『戦争決闘五番勝負』をしようと?」
「『協会』が手遅れなほどの罪を犯していたからね。感情、打算、将来の不安から無理にでもその罪を清算させるためなのは間違いないよ。ただ、それぞれ思惑があるのも確かだね」
「……アビス様は、どうして戦争に参加したんです……いえ…………どうして第3支部に来たのですか?」
オルクスは禁忌に触れてしまった恐怖と後悔に身体が震え上がりそうになる。アビスは言っていた。個人的な理由でシスター・イースターとの接触を避けていたと、スレプトはモニカという人物に会ってきてと言いシスター・イースターの道を指し示した。つまりアビスには死んでしまった大切な人が居ることは明白で、その人物がアビスにとってどれだけ重要な存在なのか察するのは簡単だった。
「……モ、モニカさんに会いに来たんですか?」
それでもオルクスは改めて問い掛けた。今のアビスはどこか危うくて、このままなにもせずに傍にいるだけでは、なにか取り返しの付かない事になりそうだったから。
「――昔、魔装少女になりたいって夢を持った人がいたんだ」
アビスは静かに語り始める。エレベーターはまだ止まる気配はない。
「でも、その夢を叶える前に亡くなってね……。ボクはこの“目”を手に入れて、人の魂は死後、天に還り、また地上へと降りるのを知った。生まれ変わった彼女が別人でしかないのは分かってるんだけどね……でももし、彼女が生まれ変わって、また魔装少女になりたいと言うならば……たとえ千年後、万年後になっても」
到着を知らせる鐘がなり、エレベーターのドアが開かれる。
「もう誰にも――夢の邪魔はさせないのさ」
いつもの決め台詞。悪い魔装少女を燃やしたり、自分たちを助けたのはアビス自身の夢に関係する行動だと思っていたが、今ここで初めてオルクスはアビスの言う夢が“彼女”の物だと知った。悪い魔装少女を燃やすのも、きっとそれが関係しているのだろう。もしかしたら千年後、万年後になっても彼女が魔装少女になれる環境を維持することが目的なのかもしれないと考える。だが、そんなことは今はどうでもいい。
――昔、夢が生きている理由だと私に聞かせてくれました……じゃあ、あなたの夢はなんですか!?
エレベーターの外に出るアビス。その背中に向かってオルクスはそう声を張り上げようとした。しかし、奥の方から聞こえてきた音楽に意識が逸れてしまう。
「これは……歌?」
舞台のような段差の先に居たのは小さな女の子と一体の人形。アビスたちが来る前に歌われていたのか、女の子は、もの悲しい旋律に会わせて一節を強く高く気持ちを込めて歌い上げる。
――Dear♪My♪Sister
「君の炎が、そのまま現れているような、とても悲しい歌だね――アルテメット・アイドル」
歌いきった小さな女の子――
「――ここは絶対に通さない」
次は四回戦……さあどうしよう(  ̄▽ ̄)。
四回戦は、いつもよりも投稿が遅れるかもしれないのでお待ちいただけると幸いです。