変身ヒロインが守る世界にて十人の変身ヒーローは戦う   作:庫磨鳥

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※申し訳ありません。少しもたついてしまい遅れてしまいましたが、小説タイトルを変更しました。

感想、評価、お気に入り登録、誤字報告、いつもありがとうございます( ̄▽ ̄)!

どこまで予定通りにするか悩みましたが、不器用なのでこのまま行きます。

長かった2章も、ゴールが見えてきました。頑張りたいと思うので楽しんでいただけたら幸いです。


四回戦 試合前

アーマード側の楽屋にて、すでに変身した姿であるブレイダー・ジャスティスはパイプ椅子に座り、己が持つ特別な銃。『バックルピストル』の側面にでている『B.S.F』の画面を見ながら、キーを操作していた。

 

 

DAMAGE OPERATION
→→→→→→→→→
OBJECT/ETHERIC
DEAD SAVE
→→→→→→→→→
1%/50%/100%/OFF
WEAPON SOUND
→→→→→→→→→
.45%.
GIFT METHOD
→→→→→→→→→
THINKING/VOICE/INPUT
GIFT RESTRICTIONS
→→→→→→→
WORLD/COUNTRY/ARMY
EQUIPPED WITH AI
→→→→→→→→→
YES/NO
RANGE LIMIT
→→→→→→→→→
.100M.
RADIO
→→→→→→→→→
ON/OFF
NEWSPAPER
→→→→→→→→→
ON/OFF
LANDMINE INSTALLATION
→→→→→→→→→
Auto-A/Auto-B/Semi-auto
SENTRY GUN DEPLOYMENT
→→→→→→→→→
auto-A/auto-B
B.C.N WEAPONS
→→→→→→→→→
APPROVAL/REJECT
第一確認 CAUTION!!!
→→→→→→→→→
承認/拒否
第二確認 DANGER!!!
→→→→→→→→→
承認/拒否
最終確認 滅ぼしても後悔しませんか?
→→→→→→→→→
承認/拒否

 

ジャスティスのスキル『正義の現実』にて千を超えている“自作した設定(オプション)”の中から、四回戦の戦いを想定して変更が必要だと判断したものを変えていく。

 

「――うわ。それ許可出しちゃうわけ? ついに世界滅ぼしちゃう系?」

「ナハハ。なんか世界が滅びる前にやりたいことあるか?」

「そりゃもちろん結婚っしょ。好きな人とフォーリンラブって乙るって最高じゃねー!」

「ありかもしれないが、世界は滅びないので、その話は夢終いだな」

 

ジャスティスに背後から抱きつき作業を見ていたすみれ色のバンギャ系魔装少女。第十支部の代表兼リーダー、ヴァイオレットだった。いつものように遇われた彼女は唇を尖らせて、わかりやすく不満を露わにする。

 

「ぶー。現実主義な男はモテ期がダッシュで逃げるっシュ。ってモテないほうがあーし的には有り難かったわ。これからも面倒っちぃ性格でよろしゃすー」

「俺ほど非現実的なやつも早々いないと思うがね。つーかよ。あっちに居なくていいのか?」

「もう今更って感じー。バスター・クイーンの件は、あーしがフォローしても手遅れ残念お疲れ様っす。なので避難も兼ねてお邪魔しました」

 

バスター・クイーンが一般人に脅迫、誘拐未遂、殺人未遂を行なったことは飼い主である協会本部の上層部にも予想外だった。ジャスティス経由で状況を知ったヴァイオレットは慌てて探すも結果は最悪の事態にはならなかったが手遅れであり、その代償として第三試合にてヴァイオレットは、正体不明の魔装少女を代打で試合に出すという無理に付き合わされることとなる。

 

『自分たち』(協会)の未来が掛かっているとして、上層部を言いくるめるのは苦労した。なにせ鬼美という魔装少女をこれっぽっちも知らないのだ。説得に使う材料そのものが存在しないので『アーマード』と交渉したのは自分だという実績を全面に押し出して、強引に行くしか無かった。

 

「あーしが推薦したって言っても、あの鬼美って魔装少女まじわからんてぃんぬ。だから変に絡まれるまえにどろんさせて貰いましたわー。最終局面だし監視オフったんだけど、ジャスティス的にはあり?」

「そうだな。残り二試合にて『協会』は勝ち越しているんだ。たとえ次俺が勝ったとしても、あと一試合チャンスが残っていると終わるまであいつらはテコでも動かんくなっただろうよ」

 

――賭け事において中途半端な勝利を目の前にした時がもっとも足を止めて、さらに手を動かしてしまう瞬間である。それをよく理解しているジャスティスは、これで大人たちは最後の最後まで希望を幻視して自分が王手を打ったとしても逃げないだろうと確信する。

 

「んじゃ。あーしがやる事って戦争中は無いっぽいから、監視は最低限にして後片付けの準備にうつんねー」

「頼むぜ。ならあとは俺がいい感じに勝つだけだな」

「ほんと――冷たいね」

 

抱きしめる力を強めて顔を首元に埋めるヴァイオレットに、ジャスティスはそっと頭に手を置いた。

 

「どうした? やっぱり“ここ”に居るのは辛いか?」

「……うん、本当なら頭を擦りつけて謝りたいけど、それしちゃったらお終いっしょ?」

「お前の好きなようにしてもいいんだぜ?」

「してるし。その結果がコレだし……ほんと優しいね。まさよしは」

「だから本名で呼ぶんじゃねぇよ」

 

ギャル風の軽快なノリの裏側でヴァイオレットは将来の不安や責任の重圧、そしてこの土地にある“過去の因縁”によって疲労を積み重ねていた。多少計画が狂うリスクを取ってジャスティスの所に来たのも心を整理するためでもあった。

 

――過去は変えられないのならば、彼女は決して止まらない。

 

「そういや『アーマード』はいまどんな感じー?」

「『塾』の魔装少女が危害にあったとあって空気を切り替えた。ごっこ遊びと言い張れなくなった以上、アンギルには余分に働いてもらわないとな」

 

『戦争決闘五番勝負』は単なるイベント。不安を生み出して余計な問題を生まないためにも、そんな空気を作ってきたアンギルであったが、これからは誤魔化しが効かなくなると、現在進行形で目に見えてわかるほどヒリついたドーム内の環境に合わせるため場の空気を変える作業に追われていた。

 

直接的な言及は避けて、ほんの少しの不安を煽ることでこれから始まることへの覚悟を持たせる。また、味方するわけでもなく、むしろ敵意をわざとらしく剥き出しにして“ジャスティスだから”という価値観を改めて視聴者に植え付ける。そして隠してきた裏事情をぼかしながら小出しすることで考察する余地を与え、そうやって正しくも曖昧な情報を他人が考察ありきでSNSに広めることで、理解するための都合のいい判断材料を適当にばら撒く。

 

――それは焼け石に水なのかもしれないが、これらのアンギルの努力によって、ジャスティスが四回戦である程度の無茶をやったとしても、それを理解しようとする者が一定数現われる。これらは戦争が終わった後に最も効力を発揮するもので、勝敗は別にして戦後処理を行なう身としてアンギルの行ないはジャスティスにしろ、ヴァイオレットにしろ素直にありがたかった。

 

「相変わらず教えを広めるのが上手んだよなあいつ。流石は天使様だぜ」

 

――誰にも理解されない“正義”をギリギリ理解できる“なにか”へと転がり落とす。アンギルは過去『アーマードchannel』にてジャスティスという存在の社会評価を、僅か一ヶ月にして変えたのだ。あの時、自分のことながら正義は、偉業とも呼べるものを達成した貧弱なアルビノ少年を心の底から賞賛した。

 

「一緒に仕事できるの、あーしもガチ楽しみしてるから、よろしく言っておいてっちょ」

「まっ、明日から何度も話すことになるだろ。体のデキに比べて無茶が過ぎるからな。面倒みてやってくれ」

「あいあいさー」

 

――配信最中のアンギル。くしゃみがでてしまい。無茶しすぎたかなと持ってきた錠剤を服用するか悩む。

 

「第3支部のほうは?」

「中途報告がねぇからな。どうなってるかは分からん。だが『B.S.F』の動きを見る限りは順調に進んでいるみたいだぜ。今んところこちらで分かるのは第3支部も他と同じく『秘密大工』が関わっていることが確定したぐらいだな」

 

GPS機能によってアビスの『B.S.F』の場所をリアルタイムで確認している正義。その『B.S.F』の“ありえない”動きを見て、第3支部は自分が追っている『秘密大工』の存在が関与していることを把握する。とはいうものの、あくまで建設に関わった以上の関係性は無く正体不明を暴ける痕跡は見つからないだろうなと判断する。

 

『秘密大工』。協会支部や『裏案件』で使用された非合法の建物建築に関わっている超常的な建築技術を持つ個人か組織かも分かっていない謎の存在。放っておくと碌なことが無いとジャスティスが追っている存在であり、彼が『戦争決闘五番勝負』を始めた理由の中には、派手なアクションを起こすことによって『秘密大工』が表に出てその正体を掴めないかという事情もあった。

 

しかし、結果は空振り、逃げたのかそもそも傍観しているのかまでは分からないが、戦争中、『秘密大工』は動く気配を見せなかった。

 

「そんなわけでだ。めぼしいもの消されちまうのは百も承知だが、『協会』本部に保管されている資料は見たいからな。この戦争、俺は真面目に勝ちに行くつもりだぜ」

「ちょーやばたにえん……こんなこと言うのまじマンジなんだけどさ、このタイミングで戦争したの、あり寄りのありだったかもしれんね」

「ああ。戦争始まってからだが、俺も心の底からしてよかったと思ってるぜ」

「なにかあんの?」

「明日になったら教えてやるよ。超弩級の世界の秘密ってやつをな」

 

もっと早くいいやがれよ、あの野郎。とジャスティスは内心で失楽園に愚痴る。結果論であるがカオスがぶち切れて、戦争を始めたのは正に神がかったタイミングであり、ジャスティスは、こういう奇妙なかみ合わせがあるから人間ってのは賭け事やめられねぇんだよなと冗談混じりに口にした。

 

「マジで不安なワンフレ。そんなこと言われたらリポりまくっても働くしかないっしょ」

「無茶するんじゃねぇぞ」

「どっちにしても戦争終わったら『協会』の改革で鬼忙しくなるし。活ヲ入れどき一本釣りってね。応援よろしゃす」

 

『戦争決闘五番勝負』の本腰が達成されてしまえば勝敗関係無く、明日から『協会』はあり方を変えざる負えない。そんな『協会』の変革を先頭に立って行なう手筈となっているヴァイオレットは、魔装少女のため人々のため、そしてなにより自分やジャスティスのために己の時間を全て捧げる覚悟だった。

 

「……でも、たまには一緒にランチでもいってくんない?」

「カラオケ付きのディナーに連れてってやるよ」

「それマ? じゃあモーニングもあり?」

「悪いな。俺は朝は寝ているタイプなんだ」

「それ嘘でしょ、もう」

 

本当に優しいんだからとヴァイオレットは静かに暴れる切なさを胸の奥底に仕舞い込み。そっとジャスティスのマスクに唇を当てて離れる。

 

「……まさよし」

「なんだ?」

「すきだよ」

「――ああ」

 

素っ気ない答えに満足したヴァイオレットは外へと出て行く、静かになった室内でジャスティスはバックルガンをベルトに装着しなおす。準備はとっくの昔に終わっていた。

 

「いい女だよ、ほんとによ」

 

誰にも聞かせるわけではないひと言は元から存在していなかったように溶けて消えてしまう。それからジャスティスはなにをするわけでも無く、自分の出番を待った。

 

「――ブレイダー・ジャスティス様。お時間となりました」

「ああ。ならいくかね。戦争しによ」

 

+++

 

「応援してます。頑張ってください!!」

「怪我には気を付けてくださいね」

「女神様が勝つって信じてます!」

「もう女神様はやめてっていつも言ってるでしょ? 私のことは普通に呼んで」

「そんな、恐れ多いです……」

 

スタッフから同じ第7支部に属する魔装少女たちが無断で入ってきたと言う報告を受けたフスティシアは彼女たちの元へとやってきた。用を尋ねれば直接フスティシアのことを応援したくてと言う彼女たち、スタッフからも散々注意されたとあってフスティシアは軽く注意したあと彼女たちの激励をしっかり受けとめた。

 

「でも、次からはちゃんとスタッフに許可をとってから来て頂戴ね」

「「「「は~い」」」」

 

観客席に戻る第7支部の魔装少女たちを見送ったあと、フスティシアは表情を暗くする

 

「――私は必ず正義であると証明して、彼女たちと……」

「あれー。ふっしーじゃーん。もうすぐ出番なのに元気なさそうだけどどしたん? マジヤバ鬼緊張で虹ってる系?」

「ヴァイオレット先輩!?」

 

第十支部のリーダーにて魔装少女の身で支部を運営管理する代表にもなった女傑。ヴァイオレットに話しかけられたフスティシアは思わず驚きの声を上げた。なにせ彼女はヴァイオレットを同じ魔装少女として尊敬していた。

 

彼女は現場で戦う魔装少女を第一に考えながら、一般職員たちも常に気に掛けており、情報の発信能力や運営センスの高さから組織内外問わず高い評価を得ている。またフスティシアからすれば『協会』の不正を決して許さず。他の支部の魔装少女たちの悩みにも真摯に対応して、時にはひどい無茶な要求から自分の立場を賭けてでも魔装少女たちを守る、まさに目指す理想の体現者だった。

 

ブレイダーとの戦いにて“なぜか”一方的に『協会』が悪いとされた事件にて、信用を失い『協会』が傾き掛けたさいには支援者(スポンサー)たちに一人ひとり頭を下げ続けて『協会』を持ち直したのは、第7支部では一時期話題を独占したほどであり、フスティシアもこれが切っ掛けで彼女のファンになった。

 

「それでふっしー、もうすぐ出番なのにここでなにしてんの?」

「後輩の魔装少女が無断で入って来ちゃってね、その対応をしていたのよ。というかふっしーってなに?」

「そりゃフスティシアの愛称っしょ。嫌だった?」

「いえ。驚いただけよ。全然ふっしーで良いわ」

 

女神様など愛称というものには慣れているが、まるで友達みたいな呼ばれ方は初めてで、それも尊敬している先輩に呼ばれるなんてと、フスティシアは嬉しくなる。

 

「それでヴァイオレット先輩はどうしてここに?」

「あーしはバスター・クイーンのことで『アーマード』の方におじゃまーした帰りなんよ」

 

フスティシアは分かりやすく顔を歪める。バスター・クイーンが一般客に危害を加えたとして拘束されたことは、すでに『協会』側に通達されており、それを聞いた時フスティシアは真っ先に上層部に確認しにいったのだが、明確な回答を得られず終いとなった。だから事件が起こった事は知っているが、その詳細をフスティシアは知らない。

 

「……バスター・クイーンの事は聞き及んでいるわ。でもどうして『アーマード』に?」

「バスター・クイーンが襲った一般客がブレイダーの知り合い系でさ。それでブレイダー激おこぷんぷん丸カム着火インフェルノーになっていたから、それ沈めるために頭下げに行ったわけよ」

「そうだったの……」

「この件に関しては完全に『協会』が悪いからね。とりあえず無かったことでオールオケーってなったわー。まーじ焦ったー」

「な……ま、まってちょうだい!? 無かったことにって……ヴァイオレット先輩。あなた犯罪を隠蔽したの!?」

 

フスティシアはショックを受けた。正義の魔装少女だと認識しているヴァイオレットが魔装少女の犯罪行為を無かった事にしたと言うとは思わなかったからだ。

 

「あー、めんご。とりあえずこの戦争の間てきなー。終わったらちゃんとするから、そこまでがまんおなしゃす」

「未遂とはいえ傷害事件が起こった以上、然るべき対処を行なわないと!」

「ちょいまち! ふっしーの気持ちはヤバイほどわかりみが深いけどね。もしここで騒動を大きくしたら、いちばん秋葉の人たちに迷惑かかるじゃん」

「それはそうだけど、少しの間だけでも隠蔽するなんて間違ってるわ」

「最悪、続けられなくなってチケットの払い戻しになったら。発生する負債は鬼すぎてマジつらたん。外との関係復興の足がかりになるならって過去を飲み込んで貸してくれたってのにさ。あーしたち『協会』や魔装少女が二度も“ここ”を滅ぼす事になったら、もうどこにも顔向けできなさすぎてマジヤバよ」

「滅ぼすって、そんな言い方をしては誤解を招くわ。秋葉原内に魔装少女の進入制限を掛けたのは、被害にあった魔装少女、そしてこれから被害にあう可能性がある子たちを守るために仕方なくの判断よ。……あれは当然の結果よ」

 

秋葉原の歩行者天国において千人におよぶ観光客などに囲まれた魔装少女が恐怖によって魔法を発動してしまい。複数の重傷者を出すことになった。この事件を理由に『協会』は秋葉原に半永続的に支部の撤退及び魔装少女が秋葉原区画内に入ることを禁止した。その事で秋葉原は都市としての機能を完全に停止、無法地帯にまで陥ったことをヴァイオレットは『協会』と魔装少女が秋葉原を滅ぼしたと言い、フスティシアは間違えていると訂正する。

 

「――ふーん」

 

ヴァイオレットの纏わり付く空気が変わったが、フスティシアは全く気がつかない。真っ直ぐに強固な彼女の瞳。真面目、若さ、正義感。色んな気持ちが宿っているが、ヴァイオレットにはそれがまるで他人のモノに見えた。

 

「あ、そいやさ。今からジャスティスとガチンコするじゃん? なにか作戦とかはある系?」

「作戦というものは無いけど、ヴァイオレット先輩は私の『固有魔法』をなにかご存じ?」

「あーね。それ言っちゃうってことは、もしかしてすごいこと考えとる?」

「察しの通りよ。私の『固有魔法』――〈執行者〉は必ずジャスティスを打倒して、世界に平和をもたらすわ」

「あーし的には無茶やめちーなんだけど、そこんとこどうよ?」

「ごめんなさい。でもこれだけは譲れないわ。これは第7支部のみんな、ひいては“被害者”たちの願いであり、私の宿願よ」

 

 

ブレイダー・ジャスティスを完全なる悪だと断言して覚悟を露わにするフスティシア。彼女の属する第7支部は規律と誠意を重んじて、グレムリンを倒し人々を守ることを掲げる。同時にアンチブレイダー集団という側面を持つ。そのため第7支部に集まるのはブレイダーに嫌悪感を持っているもの、あるいは“被害者”たちである。

 

――どうかあの悪を倒してくれ。

 

彼らの思いを一身に背負い、フスティシアは自ら手を上げたのだ。

 

「――そろそろ時間ね。ヴァイオレット先輩、私はこれにて失礼するわ」

「呼び止めてめんご」

「いえ。こちらこそ貴重な時間を貰えて嬉しかったわ。ありがとう」

 

体内時計で分刻みに正確に時間を把握しているフスティシアは、待機時間が来たと美しさすら感じるお辞儀の後、綺麗な姿勢で反転して歩き出した。

 

「当然の結果? ……んなわけあるかよ」

 

背中を見送ったヴァイオレットが苛立ちを吐き出した。その後、ほんの一瞬でも激情を露わにしてしまったことに反省しながら、その場を後にする。

 

ヴァイオレットは、このまま戦わせるのは不憫だと思って声を掛けた。でも、彼女の話を聞いて考えを改めて、そのまま送り出した。結局、彼女は最初から舞台の配役としてこれ以上ない適切な人材だったから目を付けられたのだった。

 

――計画は計画のままに進む。もはや情が正義に入り込む余地はない。

 

+++

 

今までの戦いと比べて会場の空気はあまりにも重苦しかった。ざわつきを形成している言葉は棘があるものばかりで、両手を合わせて本気で祈る者。唇を噛みしめて憎悪を瞳に宿す者。その手には自作の横断幕やプラカードを持っているものが多数、そこに書かれている言葉が彼らが抱く気持ちを物語っていた。

 

 

 

 

死んでよ滅びろ化け物

!!

ジ ゴ 

オ ち

ク に

ろ !

平 和 な 世 界 を か え し て

キ エ ロ ヒ ト ゴ ロ シ

 

 

――これらは全て、ある一人の正義(人間)に向けるために作られたものだ。彼らは願う。この日をもって自分たちに降り注いだ不幸よ終わりになれと、まだか、まだか、まだか。そう待ち続けた気持ちが、耳にこびり付いて離れない機械音声を聞き爆発する。

 

 

 

 

▽△▽△▽△▽△▽△▽

◇◇◇〔START〕◇◇◇

▽△△▽△▽△▽△▽△

 

 

「しねぇえええええ!!」「きえろ!!」「かえせ! 俺の全部かえせ!!」「お前のせいで人生めちゃくちゃだ!!」「報いを受けろゴミやろう!」「なにが正義だよ極悪人がよ!」「一秒でも早くくたばりやがれ!」「あんたのせいで仕事もお金もなくなったじゃない!」「殺されろ化け物ぉおお!」「お前に撃たれた場所がまだ痛くて仕方ないんだ!」「社会の癌がよ!」

 

罵倒の嵐。まだ本人が現われていないのにも関わらずこれである。秋葉ドームで購入した缶やペットボトル、中には食べ残しごとグラウンドに向かってぶん投げる奴が後を絶たず。それらは全てブレイダー・ナイトの無色透明のバリアによって阻まれている。コントロールが悪くて他の観客にものが当たろうがお構いなし、その客ですら怒りに我を忘れて頭に当たったスチール缶を改めて投げ入れようとする始末。まともな観客もいるのだが、あまりの怨念振りまかれる光景に縮こまることしかできない。

 

そんな罵詈雑言に、軽快で機械的なチップチューン音楽が他者の感情を全てはね除けるが如く鳴り響き、問題無く続いていく。

 

 

 

 

 

◆△▽△▽△▽△▽△▽◆

◇〔WHO are YOU?〕◇

◆▽△▽△▽△▽△▽△◆

 

「変身」

 

 

顔を出せよ卑怯ものと誰かが叫んだ。確かにジャスティスはブレイダーで初めて変身する様子を表に出してない。事実、会場に流れているこれらは全て先に録音していた音声でしかなく、本人はすでに変身済みである。そんな事も気付かず騒ぎ続ける観客たちにジャスティスは満足そうに笑みを零した。

 

 

 

〔PRESENT〕

 

変身音声が終わったタイミングで、観客席からでは丁度見えないあたりで待機していたジャスティスが悠々閑々とした態度でグラウンド入りを果たす。

 

≪ある日。正義は無慈悲にも執行された。たったひとりによって世界は変わり果ててしまう、たくさんの犠牲を払って……それが神が選んだ道とでもいうのかお前は!?≫

 

声はより大きく、恨み辛みはより強く、そんなものに揺れ動いていたら正義(ジャスティス)なんてやってないと言わんばかりに、歩みがブレること無かった。プロが声の大きさで負けてなるものかと司会者が声を張り上げる。

 

≪正義は必ず勝つと誰かが言った。勝ち続けるお前はまさしく正義であろう! 人間は悪だと評される。ならばお前を止められるやつは人の中に居るのだろうか!? 今日とて無慈悲の弾丸が悪になる命を打ち貫く!!≫

 

ちょっとだけ遊び心が沸いたジャスティスは反対側の出入り口に向かって、拳銃を模した手を突き出して撃つジャスチャーをした。その事によって観客たちはより盛り上がり、さらに罵る声を大きくする。

 

≪ノーヒーロー。敵を撃つだけの正義! ブレイダアアアア! ジャスティィィスッ!!≫

「――盛り上がってるようでなによりだぜ。ナハハ」

≪――そんな正義の化身に待ったを掛けた魔装少女が現われた!≫

 

ジャスティスの登場が完了しても観客は興奮冷め非ず。そのまま続いて魔装少女の登場に移る。入場曲として用意された雅で静かな音楽は人々の感情の渦によって呆気も無くかき消されてしまう。

 

嫌悪の対象とされながらも決して隠すことはなく何時しか特別であると認識された黒色の長髪を靡かせた魔装少女。儀礼服を模した魔装と、それにデザインを合わせた無骨なロングソードを片手に狂い無き歩幅で前に進む。

 

≪天から全てを与えられた彼女を人々は女神と称える。そんな彼女は事実とでも言うように語って見せた。私が本物の正義であると。ならば貴女は世界を変えた男を打倒するために現われたとでも言うのか!? 人々よ、禁じられた名を持つ女神たる(おの)が覚悟を見よ!≫

 

予定よりも早めに指定された定位置に寸分狂い無く立ち止まると、彼女はロングソードを天に掲げた。

 

≪悪を倒す正義の魔装少女。その名は――フスティィィシアアアアアアアア!!≫

 

 

†-†-†-†-†-†-†-†-†-†-†

L e a d e r  o f  t h e   7   t h b r a n c h

 

justicia

 

†-†-†-†-†-†-†-†-†-†-†

h i t o n o m e g a m i

 

 

「寂しいものだな。誰もきいちゃいねぇ」

 

フスティシアの登場を歓迎する声は無く、結局はじまりから現在までジャスティスに対する怨嗟で会場は埋まり続けている。

 

「……あなたは、これだけの数の訴えを聞いてなんとも思わないの?」

「訴えね。単なる鬱憤晴らしの下品なものに見えるが、文化の違いってやつか?」

「っ! やはり貴方のような心がない人間が正義を掲げた存在だなんて間違っている!」

 

――フスティシアは直接話して、ジャスティスはやはり討ち滅ぼすべき敵だと認識する。

 

「必ず貴方を倒して、真の正義を取り戻してみせる!」

≪ブレイダー・ジャスティスVSフスティシア! 両者揃った所でお待たせしました! 戦争決闘五番勝負、第四回戦≫

「気合い入れているところ悪いけどよ」

≪開始ィィィィィ!!≫

「〈魔法展開(スペル):キャットウォーク〉!」

 

試合開始の始まりとともにフスティシアは魔法による加速を行ない、ジャスティス目がけて突進。

 

「はあああああああ!」

「俺は悪魔みたいに真っ向勝負なんて出来ないぜ? それに――」

 

かなりの速度で向かってくるフスティシア、ジャスティスはその進路に金属の筒を生成して軽く前に投げた。それを手榴弾の類いだと判断したフスティシアは、例えダメージを受ける事になったとしても、自分の『固有魔法』で解決できると、そのまま距離を詰めることを選択する

 

――彼女は、人が作った兵器というものに疎かった。嫌悪のしすぎで調べることを怠ったからというのもある。だから筒に描かれていたマークが、どんな意味を含んでいるか知らなかった。

 

筒の蓋が勝手に開きカシュっと空気が外に吐き出される音が鳴る。爆発物ではないと気付いた彼女が、筒の正体を探ろうとするが、なにもかも手遅れだった。

 

「――ごほっ……?」

 

突然、喉に水が溜まり呼吸ができなくなる。何事だと足を止めれば力が入らなくなり膝から崩れ落ちる。とりあえず呼吸をしなければと水を吐き出す。地面はこんなにも赤黒い色をしていただろうか? 足だけでは無く全身に力が入らなくなって震えるほどに寒い。そして地面だけではなく景色が赤く染まっていることにも気付いた。

 

「な……にがー」

 

痛みが無く、ただ感覚が無くなっていくためフスティシアは己の状況を遅れて気付いた。口から、目から、鼻から耳から毛穴から、あらゆる場所から大量の血を吐き出している自分が居る。なにをされたのだと顔を上げようとするまえに、強引に髪の毛を掴まれて無理矢理立たされる。

 

「これは戦争なんだよ。正義同士がぶつかりあう戦争ってのはな、いつだって汚ったねぇ恥知らずの殺し合いでしかない……なあ、そうだろ。それとも綺麗なものだと思っていたのか?」

 

メカメカしく人間らしさをそぎ落としたジャスティスのマスク。間近で目にしたフスティシアはそれがヤケに恐ろしく見えた。

 

「夢見がちが過ぎる正義の魔装少女(フスティシア)――お前は俺の敵だ」

 




Q:話の展開が被るということで参加を止めたハーメルンのイベントはなに?
A:心折杯

ジャスティスの設定図の詳細な説明は試合が終わった後に後書きにでも記載したいと思います。次回はいつも通りぐらいになると思うのでお待ちになってください次回。
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