変身ヒロインが守る世界にて十人の変身ヒーローは戦う 作:庫磨鳥
お気に入り3000件達成しました。3000件記念にイラスト依頼でもしようかなと思いましたが、今ちょっと生活があれなのでいつかできたら良いなと思います( ̄▽ ̄)色々ありました。
作者的には三割しか出し切れなかった気もしますが、それで丁度良かったのかなという想いもあります。こんな感じですが楽しんでいただけたら幸いです。
試合が始まる前からあれほど五月蠅かった会場の音が死んだ。たとえ戦車の砲弾を受けても怪我をしない魔装少女が全身から血を吹き出した。さらにジャスティスに乱暴に髪を掴まれて倒れることすら許されない凄惨な光景に、抱いた感想は多種多様であれど全員が共通して言葉を詰まらせたのだ。
≪――というわけで四回戦始まって早々、自己紹介する暇もなくフスティシアは全身血塗れになっちゃったねー。これは秒速KOかなー? あ、四回戦の実況はブレイダー・アンギルだけでやっていくよー。といっても今回はあまり話せることは少ないかもね。あと遅いかもだけどグロ注意ね。というか見ないことをオススメするよ≫
試合が始まってからのアンギルは、先ほどまでの暖かさや軽快さが嘘であったかのように、冷たさを感じられる声で淡々と話し始めた。そんなアンギルの話を聞いた視聴者たちは状況が変わった事を明確に感じ取り、怖がるものは言うとおりにブラウザを閉じて、視聴し続けるものは覚悟を決めて目を向ける。
――これから始まるのはあのブレイダー・ジャスティスの戦いだ。
「――ごほっ!」
再度大量の血を吐き出したフスティシアは混乱から復帰できないでいた。自分は一体何をされたのか皆目見当が付かないからだ。渇いた空気音が聞こえて、気付けば全身血塗れになる。どうすればこんな惨い状況になるのか、思いつく限りの兵器を頭の中に浮かべても該当するものが判らない。
「考えるのは結構だが、いいのか? このままじゃ死ぬぜ?」
そう言いながらジャスティスは、フスティシアの事を前に向かって放り投げた。三回ほど転がり数メートル先へとうつ伏せで止まる。
「う……あ……えほっ!……〈
迫り来る死をようやく自覚したフスティシアは口に溜まる血を吐き出しながら『固有魔法』を唱えた。するとフスティシアの身体に劇的な変化が訪れた。全身に纏わり付いていた血が綺麗さっぱり無くなった。それだけではなく、いまにも魂が『三途の川』へと還りそうだった魔装少女は元気に立ち上がり剣を構えた。
「こうやって直接目にすると便利な『固有魔法』で羨ましくなるな。しかし、体に入り込んだ“細菌”にも適応されるか心配だったが、元に戻ったようで安心したぜ」
フスティシアの〈執行者〉は、フスティシアという個に対して完全なる健常な状態へと“リセット”する『固有魔法』である。彼女は己が受けたダメージやデバフ、果ては消費した体力から“魔力”を無かったことに出来るのだ。つまり、消費した魔力もまた〈執行者〉が発動した時点で元に戻るともはやバグと言いたくなる仕様となっているため、彼女は精神が擦り切れるまで半永久的に戦い続けることが可能な魔法少女である。
「細菌……? まさか今のは!?」
「ご明察。BC兵器ってやつだ。ちなみにBCは
筒に描かれていたマークだけでは気付かないほど知識に疎いフスティシアであったが、細菌という単語で自分の身に起きたことを理解した。
この世には、あまりにも非人道的が過ぎると禁止された兵器が幾つも存在する。そんな禁じられた兵器、その一種をジャスティスは躊躇いなく魔装少女相手に使ったのだ。固まる張本人を差し置いて会場がざわつき始める。自分もフスティシアのようになるのか? でもなにも起きていないぞ? そんな無意味な問答が繰り返される様子に、下手にパニックにならないってのは平和ぼけの良いところだなとジャスティスは内心で有り難がる。
「安心しろ。拡散能力は高いが十秒外気に触れただけで完全に死滅するやつだ。射程範囲は精々3メートルほどかね、だから観客席にまで届くことはないぜ」
≪だからって使うなよバカ≫
そんな風に軽く語るジャスティス。自分たちの命が脅かされないと分かった観客たちは感情を爆発させる。ふざけるな。そんなもの使うな、人の命をなんだと思ってやがる。罵倒の嵐は再度吹き荒れるが、ジャスティスはその全てを受け流す。
「どうして!? そんな残酷なことができるの!?」
「俺もそう思うよ。ブレイダー・ジャスティスを殺すつもりにしてもやりすぎじゃないか?」
「ジャスティスを殺す? なにを言っているの?」
「俺のスキルはな、我ながらチートだなと思わず笑っちまうが世界に存在する“兵器”を自由に生成できるものだ。逆に言えばこの世のどこかに、“それ”が作られなければ生成することは出来ない」
ジャスティスが生み出せるのは、実用段階にまで到った現存する兵器だけである。つまり先ほどフスティシアに使った兵器は、この世のどこかにオリジナルが存在しているという証明である。そして問題は一体なにが目的で作られたかということ。
「これはな俺を殺すために開発された兵器なんだよ。出来たてほやほや、実用段階に到ったのは僅か二週間前だぜ。コンセプトは必要最小限の犠牲なら目を瞑るだ。チャンスがあれば都会の交差点でも使っていただろうな」
ブレイダー・ジャスティスに対する大国たちの評価は最優先抹殺対象である。彼は世界の全てを狂わせた個人であり、培ってきた立場を全てひっくり返した忌むべき存在である。故に多少の犠牲はあっても、彼を殺傷できれば日本を除いた世界にとって御の字なのである。
「そ、そんなのあなたの勝手な妄想じゃない!」
「すでに計画書は発行されて、国同士の話し合いは終わっていた。俺の正体が露見してチャンスがあったら躊躇いなく使う。投げる人員も選出済み。さらに作戦の結果は別にして報道機関と協力して全責任を俺になすりつける話も済んでいる。流石は長い間国を運営してきた政治家様たちだ。そういう所はマジで尊敬しているぜ――なあ?」
ジャスティスは会場の外。この戦いを見ているであろう偉い人たちに向けて語りかける。そこに含まれている感情は失望。自分を殺すための兵器を開発するのはいい。むしろ歓迎していた。開発される兵器はなんにせよ自分の力になるのだから。
≪ほんと
それにしたって最近は安価且つ暗殺紛いのものしか作られておらず、対処や管理などの面倒ばかりが増えるだけで、これといって使えるものが無いに等しかった。逆上心を失わせないために見逃していた“半分”も、そろそろ不必要かとジャスティスはつい戦いとは関係のない思考を挟む。
「……っ! 仮にそれが本当だとしても。あなたに非があるのは揺るぎの無い事実よ! そんなおぞましい兵器を使われる自覚が無いなんて言わせないわ!」
「おいおい。作った側に批判は無しか?」
「作ってしまうほど追い詰めたのはあなたよ」
そもそもこういったものを作らせるために過分に追い詰めたのは事実なので、ジャスティスはそう言われるのも仕方ないなと肩をすくめた。
「先に始めたのあっちなんだがね。あいつら俺だけ狙えばいいものを俺が住んでいるってだけでついでに日本も焼こうとしたからな。さすがに俺のせいで日本に住まう無辜の命が失われるのは申し訳ねぇって頑張ったんだぜ?」
ジャスティスの言うことは本当であるが、全てではない。過去、数種類の不幸と理由、そして“正義”が絡み合い。結果的に世界相手に単身で戦争を起こして勝利した。敗北した世界は正義の名の下に多大な代償を支払う事となり心の底から後悔する事になる。
――思い出せば、パイプで人を殴るのも厭わないチンピラを撃ったのが始まりだったか、随分と戦火が広がっちまったものだな。“正義”になるって簡単に言えたあの時が懐かしいぜ。
「……あなたは正義の名を持つには危険すぎる」
お喋りはお終いだと、フスティシアは剣を水平に構えなおした。
「世界を脅かす諸悪の根源。私が今日をもって引導を渡してあげるわ!」
「魔装少女はいつから人殺しOKになったんだ? それとも正義を名乗ってればなにをしても許されるのか?」
「どこまでも人を馬鹿にして! 〈
ジャスティスの挑発に、分かりやすく感情的になるフスティシアは魔法を唱えて剣を横薙ぎに振るう。すると三日月状の物体化した斬撃がジャスティスに向かって飛翔する。
――〈スラッシュ・オブ・クレセント〉にて発生した魔法における斬撃物体。幅全長およそ108センチ、厚みは7センチ。モース硬度推定7以上。空気抵抗を完全に無視した時速57キロにて消費魔力コストに比例した距離を飛ぶ。完全なる直線軌道を維持して進むが強力な衝撃による軌道変更は容易い。
ジャスティスは極めて冷静にごついリボルバー拳銃を生成して即座に発砲。マグナム弾は斬撃物体の中心よりも右側に命中する。その事により左右の前に進む力のバランスが崩れて軌道が狂い、あらぬ方向へと飛んでいく。
「始まったばかりよ!」
フスティシアはジャスティスを中心に弧を描くように走りながら、何度も剣を振るい斬撃を飛ばす。決して魔力消費が少ない技ではないのに、後先考えずに連射するのはひとえに〈執行者〉による魔力リセットがあるからだ。
横、縦、斜めと角度を変えて襲いかかってくる〈スラッシュ・オブ・クレセント〉を、ジャスティスは人から逸脱した百発百中の射撃によって軌道を変え続ける。リロードの代わりにリボルバー拳銃そのものを捨てて、新しく弾丸が込められたリボルバー拳銃を生成。手数が足りないと判断すれば二丁持ちとなり連射力を補う。その様は曲芸染みており、余裕綽々な態度と相まってフスティシアを苛立たせた。
されとて彼女の剣筋は鈍ることなく、時々こちらに向かってくる銃弾も冷静に対処していた。埒が明かないとフスティシアは見計らった再び距離を詰める決断をする。先ほどは呆然としてしまい対処が遅れたが、また同じことをされたら〈執行者〉でリセットすればいいという考えだ。
「行くわよ! 〈
――地面を足で蹴った際に起こる作用・反作用の数値に干渉して加速力を上げる魔法。
弾切れになったリボルバー、トリガーから人差し指を離して手を開いて地面に落とす。そして人差し指以外の指を閉じる挙動の間に新たなリボルバーを生成して握るとトリガーに指を掛ける。一秒にも満たないリロードの瞬間を狙い。フスティシアは魔法を唱えて急接近する。
ジャスティスが体の向きを変えること無く側面に位置するフスティシアに向かって発砲。銃弾が眉間に向かう。フスティシアは次の一歩目を踏みしめる足を反対側の方へと出した。足が交差した体制となったことで体の位置が横へとずれる。銃弾は何もない空間を通り過ぎた。
クロスオーバーステップと呼ばれるスポーツで使われる足さばきによって銃弾を回避したフスティシアは、2発目が来る前に地面を強く蹴ってさらに加速する。
「獲った!」
この距離では銃のトリガーが引かれるよりも剣が速い。間合いへと到る一歩を踏み出したフスティシア――地面からカチリと音が鳴った。爆発した。フスティシアは吹き飛ばされた。
「――っと、ちと近すぎたな」
ジャスティスは予め地雷を幾つか地面の中に生成していた。『ブレイダースーツ』の頑丈さ込みで、ほぼ間近に設置したのは良かったが、それでももう少し距離を離せばよかったかと爆風と飛び散る土と、それに混じる血に当てられながらぼやく。
「……っ! 〈
宙を舞っているフスティシア、その足は失われたが意識はきちんと保たれており、今度はすぐさま『固有魔法』を発動、肉体は元に戻り、飛び散った血は跡形も無く消え、ついでに消費した魔力がリセットされる。
「地雷だなんて!」
フスティシアはしっかりと着地し、反射的に叫んだ。
「気を付けろよ。他にもたくさん埋まってるぜー」
「その程度でっ!」
「なら、程度を増やそうか?」
ジャスティスは、自分を中心に
「地味に見えるが、簡単に百回は殺せる陣だぜ? 殺す気は無いけどな」
「例え百回、千回でも、足をもがれようが胸を撃たれようが〈執行者〉があるかぎり私は負けないわ!」
フスティシアは恐怖することなく果敢に攻めの姿勢でジャスティスに斬り掛かる。
+++
少女は生まれた時から天才で、真面目だった。物覚えがよかったために五才の頃には漢字を覚えて、小学生になる前にはすでに社会のルールというものを身につけていた。また容姿も秀でており、悪感情を抱かれやすい黒髪ではあったが、その美貌と合わせて見ればなんと綺麗な髪を持つ日本美人だと特別視された。
そんな特別な少女を両親たちは褒め称えた。トンビがタカを産むどころでは無い、まるで神の子そのものを授かったような幸福感を娘本人に毎日に伝えた。
――まるで自分たちの子じゃないみたい。
少女は天才であると同時に真面目だった。経験が足りなさすぎて、なにごとも真正面から受け止めることしか出来ない少女は毎日聞かされる褒め言葉を真摯に受け止め続けた。
――じゃあ、私は人間じゃないの?
+++
≪試合が始まって五分が経過したけど、凄惨な場面が繰り返されるだけで進展ないねー≫
アンギルの言うように、ジャスティスの兵器たちが攻撃し、フスティシアが〈執行者〉を発動して突っ込んで、またジャスティスの兵器が攻撃するいたちごっことなっており、この五分間変化が無かった。せいぜいジャスティスが途中から椅子に座りラジオで音楽を流して新聞を見ると寛ぎだしたぐらいだろう。
一方フスティシアは果敢に攻め続けていた。剣を強く握りしめて足を止めずに攻撃を加え続けるも脚が地雷によって吹き飛ばされる。
「〈
女の子らしい細い身体が機関銃から放たれる弾丸の雨によって蜂の巣へと変わり果てる。
「〈
空へ跳べば浮遊するドローンたちの猛攻によって撃ち落とされてしまう。
「〈
フスティシアは見るも無惨な死に体となるが〈執行者〉を唱えればすぐに元通り、そしてまた死に体となり、元通りになるを五分間ずっと繰り返していた。エンターテイメントの欠片はなく、先に進むわけでもなく残酷なシーンを延々と見せ続けられる状況にまともな視聴者たちは気持ち悪さに負けて視聴するのを止める。
「……そろそろか」
フスティシアは足を止めない。搦め手も策略も一切行わず、ただ愚直に攻め続ける彼女を見ながら、ジャスティスは無機質に判断する。
する必要はないがジャスティスは立ち上がると指を鳴らした。すると猛攻を加えていた兵器たちが粒子となって消えて無くなる。
「なんのつもり!?」
「いやなに。いたいけな子供にトラウマ植え付けるのは心苦しくてな」
≪優しさが遅い≫
「殺されそうになってたんだ。仕方ないだろ?」
≪配信聞いてんじゃないよ≫
戦いに集中しろと冷たく言い放つアンギルに、ジャスティスはいつもの調子で笑う。
「んでだ。フスティシア」
「……なに?」
わざわざ名前を呼んだということは何かあるのかと、フスティシアは兵器たちを片付けた真意を探る意味も込めて反応する。
「お前が脳筋で、夏休みの宿題をサボってでも勝つまでやるのはよく分かったぜ。だからこそ聞きたいんだが、お前なんでそんなに俺を負かせたいんだ? 俺はお前に何かしたか?」
「……いいえ。私は直接あなたに何かされたことはない……だけど! 正義の名を語り、法を守らず私刑し続けるあなたを決して見過ごすことはできないわ!」
「耳が痛い話だな。なるほど市民を護る魔装少女として、人々を恐怖に陥れる俺は確かに悪そのものだなぁ。だがそれだけか?」
「なにが言いたいの?」
「いやなに。今の言葉――本気ではあるが本命に聞こえなくてな。他に理由があるんじゃねぇのか? そんな誰もが口にしてそうなやつじゃなくてよ?」
「な……にを……」
――フスティシアは動揺して言葉を詰まらせる。次に逆鱗に触れられた如く激情に頭が真っ白になるが、残された理性がそれを口にしたらお終いだと体ごと停止させる。
「なあ、フスティシア。お前はどうして俺を倒しにきた? 『協会』のためか? 国のためか? それとも世界のためか? あるいは
たたみかけるように断言されたことに、フスティシアは意味が分からないと何時のように拒絶しようと思ったが言葉が出なかった。
――それほどまでに“図星”を突かれたことが、あまりにも衝撃的だったのだ。
「第7支部では女神様と慕われているみたいだな。いや支部だけじゃない。学校でも家でも、どこへ言ってもお前は“女神様”なんだってな。フスティシア?」
+++
あまりにもはやく早熟してしまった少女は、学校生活において孤独であったが充実していた。
彼女は真面目すぎる所があったが、文武両道で品行方正、そして嫌悪の対象となりやすい黒髪であるにも関わらず、その美貌から特別視扱いされて、むしろ憧れの対象となった。
――同じ人間とは思えない。
少女に酔いしれるクラスメイトが無意識に発した評価は本人を除いた全員の総意となった。少女の学校生活は対等な友達がおらず年相応に遊ぶチャンスに恵まれないものであったが、自己肯定感に満ち溢れているものであり、少女は確かに充実していた。
孤高。それが自分の運命であると本人も受け入れていた。
それが変わってしまったのは珍しい、ほぼ初めての失敗によるものだった。その内容自体は落ちていたボールペンを間違った人に渡してしまったというものだが、明らかに女子が好むデザインであるはずなのに近くに落ちていたからと男子に渡してしまった事にある。
男子もすぐに間違いを正せばなにも問題無かったのだが、落とし物は偶然にも好きな女子のペンであったことから男子は思わず嘘を付いてしまう。そして嘘がバレてしまった時。女子たちは男子を批判するも少女が躊躇わず、自分のミスから始まった事だと謝罪すると場は収まる事となった。
本来の持ち主である女子生徒と嘘をついてしまった男子も和解し、むしろ良い雰囲気になったことで些細なミスから発展した事件は大団円で終わった。
少女にとって問題はこの後である。女子トイレにて事件となんら関係の無いクラスメイトの女子数人が集まりこの事件を題材に、少女の悪口を言っていたのだ。完璧である少女が初めてと言っていいほど見せた隙。気に入らない彼女たちからすれば格好のネタになるのは当然だった。
一目で女子の物と分かるのに男子に渡したの絶対わざとだと、性格が悪すぎると、あんなの普通じゃ考えつかないと悪口はエスカレートしていく。
真面目な少女は決して陰口をとうてい看破できず、彼女たちの前に出ようとしたが。
――同じ人間とは思えないね。
少女の足が止まった。
+++。
「――適当なこと言わないで!?」
「“適当”だから言ったんだぜ?」
フスティシアの声は震えていた。ジャスティスはゆっくりと前に歩み始める。
「俺に勝った所でお前の望むものはなにも手に入らない。むしろ遠ざかるに決まっている。なあ? 正義の“味方”の女神様?」
それを急所を的確に貫いた皮肉だと知っているのは本人だけだった。これ以上は聞いてはいけないと思うも、どうしても無視することは出来なかった。
「世界はお前のことを俺を倒した英雄じゃなくて、第二の正義としか認識しないだろうよ。ここぞとばかりに俺に積み上げられた恨み辛み、責任を全て押しつけてくるぜ? 日本も巻き込まれるだろうな。その先で不幸になった奴は、いったい誰を悪にしたてあげることやら」
「……っ!」
――正義の言葉は、鋭い針となって心臓に突き刺さる。
「フスティシア。真面目なお前の行き着く先は正義の味方じゃない。単なるはた迷惑な悪だぜ」
「違う!」
防衛本能が働き、考えるよりも先に強く否定する。そのあと人生で一度も出した事のない己の叫声に戸惑い、その様子を見られてしまった事がなによりも失態だったのではないかと言う恐怖が体を蝕み震え出す。
「フスティシア」
目の前まで来たジャスティスはゆっくりと浸透させるように名前を呼ぶ。それが最も嫌う行為だと知っているから。
「俺を倒すのは、本当にお前の意志か?」
「……」
真面目で融通の効かないフスティシアは答えられない。確かに己の意志であることは間違いない。なにせ最終的に手を上げて戦うと言ったのは自分自身であるのだから彼女は肯定するのが当然である。しかし、ジャスティスの問い掛けは、表面上の理由ではなく、深く奥底の誰も知らない意志を探るものであるため答えられない。
誤魔化しも嘘もできない。かといっても真実を口にすることも出来ない。逃げ道も進む道も閉ざされた少女は思考を停止させる。
「なにしてんだ!」「はやくたおせえええ!」「とまってんじゃねぇよ!!」
観客たちの声がグラウンドまでに届き、フスティシアの耳に入ったことで彼女の意識は現実に戻る。そうだと彼女は思い出す、自分にはブレイダー・ジャスティスに勝たなければいけない理由があるんだと、こちらを見つめるメカメカしいマスクを睨み返す。
「私が貴方と戦うのは私自身の意志よ! 私は私を頼ってきてくれた彼らのために戦い、貴方に勝利して救ってみせるわ!」
「へぇ」
「約束しなさいブレイダー・ジャスティス! 私が勝ったら。彼らを苦しみから解放すると!」
「それは別に良いがな……具体的にはどうすればいいんだ? “痛み”を消せばいいのか?」
『正義の現実』にて生成された兵器は、その設定から肉体を傷つけず痛みのみを与えることが出来る。また与えた痛みを半永久的に残すことも出来れば、一定時間経てば消すことも出来る。無論、タッチひとつで現存する痛みを無くすことも可能だ。
「それとも賠償でもすればいいのか?」
「彼らの平穏だったものに関わるすべてよ。あなたが奪った全てを返して頂戴!」
「すべてね……どんなものでもか?」
「どんなものでもよ」
「――そうか」
ジャスティスは観客達に目を向ける。フスティシアを応援、というよりかはジャスティスを飽きずに罵倒し続けている彼らを見渡す。そして一万以上の中のひとりに向かって指をさした。
「――
会場のスピーカーから人物の名前が呼ばれる。観客たちはいきなりなんだと苛立つなかで“ひとり”分かりやすく違う反応をしたものが居た。その人物こそジャスティスが指をさしている男性である。
「青のニット帽と紙マスクを被って黒字で死ねって書いた看板持っているやつ。お前だよ。十四ヶ月ぶりだな。振り込め詐欺からは足を洗ったのか? お前が行なった詐欺が原因で三人が自殺したが、その家族には頭を下げにいったか?」
「――え?」
間の抜けた声は誰のものか、それが分からないほど会場は分かりやすく静まり返った。
名前を呼ばれた男性は上手く呼吸ができない。あいつの所為で普通に働いている馬鹿なサラリーマンたちよりも大金持ちになってこれからだって言う時に、仲間もろとも何発も銃弾を浴びせられて、集めた金を元の持ち主へと返金させられた。幸いその行動のおかげで証拠が無く、ジャスティス本人も警察に連絡などはしないので罪が表沙汰にでることは無かったが、未だに撃たれた腹部が動く度に激痛に見舞われて生活すらまともにできず、第7支部の支援を頼りに生きて居た。だから男性は全てを台無しにしたジャスティスを恨む。日に日に恨みを強くする。恨んでいるが――まさか“覚えられている”とは夢にも思わなかった。
過去の記憶がぶり返し、忘れていたトラウマが再び熱を取り戻して喉を焼く。そんなのどうでもいいとばかりにジャスティスは、次は反対方向に指をさす。そこに居たのはふくよかな中年女性。
「元教祖の
それだけ言ってまた別の人物に指を向ける。
「転売屋の
ゆっくりと、されど即答で名前を呼び、職業を呼び、過去と現在を読み上げるジャスティス。
≪……そこの頭おかしいのはね。どこかにメモしているのか、本当に全部記憶しているのか知らないけど、自分の行なった事全部覚えているし、ちゃんとその後どうなったとか定期的に調べたりするよ。責任感に満ちあふれてるねー≫
誰が聞いても碌でもない観客たちは青ざめる。ふとこの戦いが全世界に生中継されていることを思い出した。よく見ればドームの大画面に映っているのは自分たちではないか、それに気付いた誰かがパーカーのフードで顔を隠した。すると伝播するように横の人間から真似をしてフードが無ければ上着でそれが無ければ服を上げて行った。
――そして、数十人を除き、一万人の観客たちは様々な方法で顔を隠した様子が映し出される。
「……な、なんで……」
そう口にするが頭では理解していた、彼らはタダ自分の悪行から来た罪の清算を踏み倒すために自分を利用していたのだと、だが心が拒否する。そうしなければ今までギリギリのバランスで積み上がってきたものが崩れ落ちるから。フスティシアは膝から崩れ落ちそうになるのをなんとか耐える。
「ま、まって!? まってよ!!」
顔を隠した人たちは次々と観客席から出て行く、それを必死に手を伸ばして静止するも誰も聞こうともしない。
――誰もが私に背を向けて去って行く、こうなりたくないから私は――私は“こう”なったのにっ!!
「――正義の味方が過ぎたなフスティシア」
とことん無機質なジャスティスのひと言が、乱れるフスティシアの心を抉る。剣と共に
+++
より完璧でなければならない。より正しく生きなければならない。より誰かのために生きなければならない。
そうでなければ人は逸脱した私を拒絶する。高い崖の上でしか生きていけない私を誰も見上げてくれなくなる。孤立は孤高から孤独へと変わる。私は強くひとりぼっちを怖れた。社会から外れた存在だと認めたくなかった。
どれだけ輪に入ることを望もうとも普通の人たちにとって、私は女神なのだ、人外なのだ。些細なミスでも、私にとっては人の失敗ではなく女神の失態となるのだ。
だから、私は都合の良い人になることにした。困っている人に力を貸したり、悩んでいる人の話を聞いて解決したり、誰かのために献身的に動き続けた。そんな私は何時しか正義の味方と呼ばれるようになった。自分の居場所を見つけられたようで嬉しかった。
そして流れるように魔装少女になることを産まれてきた理由だと言わんばかりに強く勧められた。だから私は魔装少女になることを決めた。皆が言ったからなると決めたんだ。
開催日が近くバスで行ける範囲にあったことで第7支部主催の交流会にて、黒髪でありながらもその日に魔装少女になるのが決まった。自分を選んでくれたフェアリーの好物は『憧憬』。曰く色の嫌悪感が完全に消失するほど私から得られる感情がとても豊富だったらしい。
あまりにも呆気なく私は魔装少女になった。取っ手を引けば扉が開くようなほど当然に。黒髪であるのにも関わらず。私は魔装少女になれてしまったのだ。
第7支部での魔装少女としての生活は礼儀と規律を重んじる事が絶対で日本を守る正義の味方として模範的な生活をしなければならなかったが、それが自我が芽生えた時から生きてきた私の世界とたいした違いは無く、すぐに馴染んだ。
学校生活と社会福祉活動、そしてグレムリンの討伐を望まれるままに熟す私は、いつしか理想的な魔装少女と称えられるようになり、憧れる者として、疎まれる者としてその両方からもやはり特別扱いされた。
だからより完璧に、より正しく、より誰かのために生きる。周りに人は増えたが彼、彼女たちは放つ光を求めて近くに居てくれるだけで、明かりが澱めば離れてしまうことが嫌でもわかってしまうから私は魔装少女として完璧に振る舞いつづけた。
そんな生活を暫く続けていると、リーダーにならないかと推薦されて、そのまま名乗りを上げた。リーダー選挙において他の先輩に大差をつけて勝利した。対抗馬であった先輩にすら当然の結果だったと心からの賞賛を贈られる。私がリーダーになるのは皆にとって定められたものに見えたらしい。
諦めに近しくも全く違う感情を抱いた私は、上に立つものであることは仕方ないと甘んじたが周囲はそれ以上に私を押し上げた。それが当然だと周りが持て囃す。
ブレイダーが現われた時、私は批判した。だってそうじゃない。彼らは法律や社会のルールを無視して力を行使しているのだ。そんな彼らを許容することは第7支部のリーダーとして許されない行いだ。逆に言えばそれだけだったのに、私が言ったからと第7支部の方針は反対者を出さず、反ブレイダーを掲げることとなった。もうこうなったら仕方ないと、私は周りが言うブレイダーが居てはいけない理由をそのまま飲み込んで、別の誰かへと吐き出すことを繰り返した。そうやっていくうちにブレイダーに被害にあったという人たちが次々と集まってきた。
みんなが助けてくれと言う。どうにかしてくれと言ったんだ。断わることなんて出来なかった。私の行動によって作り上げたものを一度でも拒絶してしまえば、私が
――
「――女神様!」「頑張って、女神様!」「負けないで!!」
――観客席から声援が聞こえてきた。それは観客だった人たちがいなくなった事によって届くようになった、フスティシアを尊敬する第7支部の魔装少女たちの声だった。
空っぽになりかけた心に想いが注ぎ込まれる。彼女たちの声が力になる。
「……私は第7支部の魔装少女、みんなのリーダー。そうよ! 私にはまだ戦う理由がある!」
彼女たちのために戦う。もう迷わないと、自分を呼び覚ましてくれた彼女たちに礼を込めて改めて宣言するために、後輩の魔装少女がいる観客席へと目を向けた。
「私は――」
き え ろ
ひ と で な し
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――目に入った看板の文字の羅列はジャスティスに向けられたものである。そのことをフスティシアは判っている。
判っているが、持ち直しかけた少女にそれはあまりにもタイミングが良すぎて、残酷なほど現実を見ろと叩き付けられたようで、恐れが妄想を生み出し、過去の出来事が元となり勘違いを呼び起こす。
実の親から自分たちの子ではないと言われた、生徒たちからは同じ人間とは思えないと言われた。魔装少女になることが当たり前のようだった。そして私は常に人では無く――。
――なら、今までの言葉はジャスティスにではなく、私に向けられていたものだった?
自我に目覚めてから、なんであれ人として扱われなかった少女は、縋り付くようにジャスティスに目を向ける。その瞳は絶望に溢れていて、どこにも焦点が合っていなかった。
「……私は…………なんなのよ? 教えてよ……ねえ」
「――人間は愚かってよく言うだろ? 逆にいえば愚かじゃないと人間じゃあないらしいぜ? 女神様」
ただ孤独を嫌い、人の輪の中に生きたかったか弱い少女は、今までの努力が無駄であったと突きつけられて、あまりにも呆気なく膝から崩れ落ちて蹲る。
――『戦争決闘五番勝負、第四回戦勝者。ブレイダー・ジャスティス』
試合終了の宣言が静まり返った会場に響き渡る。ジャスティスが何事もないようにグラウンドを去って、ひとりぼっちの少女が泣き続ける。
――正義はもういない。元から正義ではない、真面目に夢を見ていた少女は現実を知り消え去った。ここにあるのはその名残である。そうでなければ、あまりにも痛ましい。
この話を書いていて、自分の執筆能力の足り無さに改めて悔しく思いました。同時に、ずっと書きたいものを書けて嬉しい気持ちになりました。これも見てくれている皆様のおかげです。本当にありがとうございます。
次回はスレ回となります。すでに半分は書き上げているので数日中に出せると思うのでよろしくです。それは暫くお待ちになってください次回!
↓前話のジャスティスの設定欄の解説です。かなり簡易的なものなのでアレな所が沢山あると思いますので、おまけ程度に見ていただけると幸いです。
『DAMAGE OPERATION』 生成した兵器における与えるダメージ先を選択することが出来ます。 OBJECT=物体 物質生物を殺傷することができるため注意。 ETHERIC=精神 物質生命体の場合肉体には影響を与えず痛みのみ与えることが出来ます。別の設定と合わせる事で痛みを付与し続けることが可能。 『DEAD SAVE』 物質生命体の肉体の具合を数値化して、設定した%を超えるダメージをカットします。また心臓や脳など生命が即死する箇所へのダメージは完全にカットします。 1%=瀕死、生命活動が停止する直前までダメージを与えることが出来ます。ダメージ箇所によっては数秒間、放っておけば死に到るでしょう。 50%=半殺し、急所及び内臓のダメージは殆どカットされます。 100%=訓練、どんな兵器であれ生命を脅かすことが無くなります。痛みも発生しません。 OFF 『WEAPON SOUND』 オリジナルの音を100として発生する音を調整することが出来ます。0-300まで変更することが可能です。数値を0にすると完全な無音になります。 『GIFT METHOD』 兵器を生成するさいの方法を変更することができます。 THINKING=操作パネルにて手押し入力による選択 VOICE=使用者の声による音声入力 INPUT=思考入力。 『GIFT RESTRICTIONS』 生成できる兵器をクラスごとに制限することができます。 WORLD=世界と戦うことができるレベルの兵器です。 COUNTRY=国と戦うことができるレベルの兵器です。 ARMY=軍隊と戦うことができるレベルの兵器です。 『EQUIPPED WITH AI』 一部の兵器にAIを搭載することができます。 『RANGE LIMIT』 自身を中心として兵器を呼び出せる範囲を決めることができます。 『RADIO』 ラジオを生成することが出来ます。兵器ではないのでバグが発生する可能性大。 『NEWSPAPER』 新聞紙を生成することが出来ます、内容は生成した時の日付に投稿されたネット記事を引用します。兵器ではないのでバグが発生する可能性大。 『LANDMINE INSTALLATION』 地雷を生成設置するさいの配置を決められます。視覚に配置予測ヴィジョンが表示されます。 Auto-A=円形をベースに配置することが出来ます。 Auto-B=直線をベースに配置することが出来ます。 Semi-auto=ひとつずつ配置することが出来ます。 『SENTRY GUN DEPLOYMENT』 セントリーガンを生成配置するさいの並びを決められます。視覚に配置予測ヴィジョンが表示されます。生成数を変更したい場合は別途の設定で行なってください。 auto-A=自身を中心として、その周辺に円状に配置します。 auto-B=自信を開始地点として直線上に配置します。 『B.C.N WEAPONS』 危険な兵器使用を許可しますか? よく考えてください。承認する場合は幾つかの確認を行うことをご了承ください。 APPROVAL=承認 REJECT=拒否 |