変身ヒロインが守る世界にて十人の変身ヒーローは戦う 作:庫磨鳥
誤字りまくっていたらしくて前話はまじすいませんでした( ̄▽ ̄:)いつもの事ではありますが、こんな作品ですが楽しんでいただけたら幸いです。
――わたしはお姉ちゃんが好き。
優しいし頭が良いし、自分の事をなによりも理解してくれる。わたしの才能を分かってくれる。自分がアイドルになりたいと言ったら、母と父は賛同こそしてくれたが、あくまでも子供の戯言として可愛いと笑うだけだった。でも、お姉ちゃんはわたしが本気であることを分かってくれて、難しいことでもわたしなら理解してくれるって、丁寧に分かりやすく大事なことを全て教えてくれた。
それだけじゃない、お姉ちゃんは変わらなかった。有名になって動画の広告料が入るようになってからお母さんもお父さんも、私を放任したほうが良い結果になると思ったのか何も言わなくなった。でもお姉ちゃんだけは私を妹としてずっと見てくれていた。
駄目なことをすれば叱って、何でも買ってあげるって言えば妹に奢られるほど姉としてのプライドはへし折られていないと断わられて、どれだけ隠していても落ち込んでいればすぐにバレて慰めてくれた。そしてアイドルとして成功していく、わたしを家族としてちゃんと褒めてくれた。
みんなわたしのことをアイドルの頂点だと言う。それならお姉ちゃんは星だ。地球から遙か遠くに居るから目立たないけど、わたしをしっかりと照らしてくれてる。そんなお星様だ。
――〈コッペリア・レ・ステージ〉にて生成されたスピーカーから雨の音が聞こえてきて、それが徐々に強まっていく。
この曲が出来たのは些細な切っ掛けだった。『固有魔法』のための曲が必要という話になって、
そうして初めて書いた歌詞は、一度はアイドルらしくないとお蔵入りになった。それが様々な思惑から『お姉ちゃん』という名と曲を与えられて、こうして誰も居ない舞台で歌っている。
リトル♪ぽつり♪雨うたう♪
胸に詰まりきった切なさを出し切るように歌い出す。同時に静かで穏やかなヴァイオリンとピアノ、そして水たまりに落ちる雨をイメージした音に、静かに奏でられるギター、ベース、ドラムの音が重ねられ寂寥な世界が浸透するように広がっていく。
――あの日、雨が降っていた。学校の帰り、いつものようにお姉ちゃんに迎えに来てくれるように頼んだんだ。
三番目♪の路地を♪行かないでよ
雨合羽を着ているのにお姉ちゃんの傘に入って帰宅する。アイドル活動とは違う楽しさと充実感で満たされる時間だった。わたしの話を聞いてくれて、姉の学校の話を聞いて、笑い合ってちょっと不機嫌になって謝って謝られてまた笑う。きっと他愛もない、珍しくない仲良し姉妹の会話。それが長く続けばいいなって、私はわざと遠回りする道を選んだの。
マンホールの中には誰もいませんよ。気付くのはどうして?
知らない道、そこには見たことない絵が彫られていたマンホールがあって興味を持った私は姉を待つまでの暇潰しとして、しゃがみこんでマンホールを見ることにした。雨が強くなった、わたしは気がつかなかった、トラックがこちらに来ているのに。お姉ちゃんだけが気付いた。
長い♪長い逃げ水はどこ?
どうしてこうしてあっちへと……
――動かなくなったお姉ちゃんから水が、あっちこっちへと逃げていく。
伴奏が無くなり無音となった世界で、あの時のことを思い出す。泣き叫んで何度も何度も名前を呼んで。それでも未来は変わらなくて、だから曇天に向かって心の底から叫んだ。
……お願い神様!
他になにもいらない。だから!
この手を握って――
――エレベーターが開かれて、話に聞いていたとおりブレイダー・アビスと見たことのない眼を隠した魔装少女が現われる。
――Dear♪My♪Sister
――わたしはお姉ちゃんとずっとずっと暮らしていきたい。どれだけ大変でもお姉ちゃんが傍に居てくれればいい。だから。
「ここはぜったいに通さない!」
+++
「アルテメット・アイドル。第5支部のリーダーがどうしてここに……」
オルクスの言い分は尤もであるが、理由はここに居る時点で明白でもあった。彼女はシスター・イースターの門番としてブレイダー・アビスの前に立ちはだかっている。アビスは半球状の広大な座席無き地下劇場の壁や柱を見渡す。そこには無数のカメラが設置されていた。
アルテメット・アイドルの『固有魔法』である〈コッペリア・レ・ステージ〉はアルテメット・アイドルの歌を聞いた人を元に経験値を
――自分たちが来る前、彼女はカメラを通して第3支部の
その人数、二百万を超える。『戦争決闘五番勝負』の時に比べれば少数ではあるが、その二百万人は、第3支部から送られてきた通知を見て、第3支部の聖歌として認定されている『お姉ちゃん』を聴きに来た者たちであるため、二百万という数が余すことなく、コッペリアの経験値として付与されていた。
――雷光に届くには全くもって足りない。しかし炎を蹴散らすには十分だ。
「大人しく退いてくれるなら、なにもしないから……」
「君が、どんな事を言われてここにいるかは知らない。でも引き返すわけには行かないんだ」
「動かないで!」
アビスは一歩進んで止まる。目の前に居るのはアルテメット・アイドルである。しかしアイドルという姿を捨てた人間の少女、惹彼琉ひとみであった。彼女を動かしているのは恐怖だ。幾つもの恐怖が彼女の思考を奪い、都合のいいように利用されていることを理解しながらも便利な偶像へと身を落としてアビスの前に立っていた。
彼女の精神は極めて危うい状況である。人を殺せる一歩手前だ。口ではああ言ったがアビスは彼女を象る炎からすでに境遇を察していた。そもそも噂は元からあったのだ。幾人の魔装少女を調べていくうちにアビスの耳にも入っており、真実だったというだけの話だ。
「君とは戦いたくない」
しかしと、アビスは烏滸がましい存在として目の前に立つ少女の境遇を知らないと言わんばかりに前へ一歩、足を動かした。アルテメット・アイドルはびくりと後ろに下がりかけるが耐える。
「だ、だったら帰ってよ!」
「それはできない」
「なんでっ……! シスター様の『固有魔法』は本物だよ? それに何も悪い事してないよ!?」
「そうだろうね――でも、直接会って確かめないといけないことがあるんだ」
なにを言っても刺激を与えるだけなのは承知していた。だけど奥に目的の人物が居ると確信してしまった以上、アビスはアルテメット・アイドルを言葉で説得して平和的に退いてもらうという選択肢を自ら放棄した。
と言ってもアビスはアルテメット・アイドルと戦いたいわけではない。信念として自身が悪と認定していない魔装少女に『奈落の炎』を使うのは躊躇われ、また戦うとなれば本気を出さなければ敗れる可能性が高いからだ。
アビスの本気というのは、コッペリアだけではなくアルテメット・アイドルを燃やし、普通の少女へと元に戻すことを言う。アビスにとってアルテメット・アイドルという魔装少女はそれほど厄介なのだ。
アビスは〈コッペリア・レ・ステージ〉は理論上、悪魔に匹敵することも可能である『固有魔法』のひとつとして覚えている。そして、コッペリアから見える数え切れないほどの炎による繋がりから、デビルまでとは言わないが、自分よりも遙かに強くなっていると、コッペリアのステータスを正確に把握していた。
そうなると魔力によって生成された魔道具などを綿毛のように一瞬で燃やし尽くせる『奈落の炎』であれど攻撃が届くよりも前に燃やし尽くせる保証はないのだ。事実、過去にアビスは魔法とは違えど炎が燃え移る速度よりも速く殴られたことで、デビルに敗北したことがある。
そして真っ向から戦わなくても、アビスを止める方法は幾らでもあった。それをアビス本人が自覚している。例えば無差別に暴れ回って瓦礫を作りだしアビスを生き埋めにする。またはオルクスを人質にとるなど、コッペリアの動きにアビスがついて行けない以上。動き出したら室内を炎の海にしない限り止められないのだ。そうなれば本人の意志関係無く炎は無差別に燃え広がり、アルテメット・アイドルも燃やすことになるだろう。
「アビス様」
「だめだよ。魔装少女とは戦わさせられない」
「ですが……!」
「それよりも、できるだけ遠くに離れて」
サイレント・オルクスが自分が戦うと名乗りを上げるが、アルテメット・アイドルの今の精神状態を考えれば、手加減できるとは思えず。またオルクスも幾度も魔法を使っているためすでに限界に近い。それに本人が望んでいるが、彼女は魔装少女を殺すために育成された『元懲罰部隊』の魔装少女。戦わせるのは論外でしかなかった。
「――アルテメット・アイドル。君に語りかける資格をボクは持たない」
「だったら!」
「でも、君の想いを……君だけじゃ無い、彼女を信望し救われた人々の想いを踏みにじってでも、ボクは彼女に会いに行って――きっと燃やすだろう」
第3支部の様子をここまで見てきて、決して平和的に終われないだろうとアビスは正直に告げた。
「そんなの! 通せるわけないじゃん!」
「ならどれだけ烏滸がましい行ないをしてでも――通させて貰うよ」
進む理由は幾つもあって、帰る理由はひとつも無い。もしも本気で立ち塞がるというのならばアビスは戦うことを躊躇わない。アビスの気迫にアルテメット・アイドルは腰が引ける。アビスを相手にするということは魔装少女として全てを失うことを考え無ければ行けないのだ。
アビスに燃やされるというのは普通の女の子に戻るだけではない。断罪者として認識されている以上、燃やされた魔装少女の扱いは世間の眼から見れば犯罪者と同義である。そうなってしまえばアイドル活動もできなくなって、お金を稼げなくなる。
――あなた以外にも救いを求めている人はたくさん居ます。なのでおいそれと奇跡をあなただけに施し続けることはできません。ただし、あなたの“誠意”が本物であると示し続ければ、それにシスター・イースターは答えてくれるでしょう。
その“誠意”にはアビスの前に立つことも含まれていた。
「これから……これから仕事も増えて、お金ももっともっと稼ぐことができるの。だから、わたしの幸せを奪わないでよ!」
「そこを通してくれ、アルテメット・アイドル!」
アビスが右腕を前に出すと、その指先の黒い炎が灯る。
「――ッ! コッペリアッ!!」
自動人形が動き出し、奈落の三ツ目が開かんとする。舞台が揺れる。二人が引き起こしたものではない。
――ドォンドォンドォオオオン!。
外から小さくない破壊音が連続的に聞こえてきて、徐々にこちらに近づき大きくなっていく、そしてコッペリアとアビスが交戦するよりも速く、壁が爆発した。
ドォオオオオオオオオオオオオ!!
――偶像は灰すら残さず燃やされて結局は全てを失う。奈落も大切なものを砕かれて夢は永遠の果てに遠のく。そんな救われない未来をねじ曲げに“悪魔”がやってきた。
「デビル!?」
「悪魔のお兄さんッ!?」
ブレイダー・デビルが壁をぶち破って現われた。そのままコッペリアの横顔をぶん殴り吹き飛ばす。
「――ようアビス、それにアルテも、さっきぶりだな」
「どうして君が……」
「ちょっと約束が会ってな。お前がGPSを常時オンにしてくれていて助かった。まさか埼玉に居るなんてな」
「……単に地下に降りているわけではないと思っていたけど、まさか他県とはね」
「なんなら地下ですらねぇな。人気の居ない森の中、研究所みたいな建物の中だ」
アビスは『B.S.F』のGPSを常にオンにしており、どんな時でも他のブレイダーに居場所を分かるようにしてある。それを使いアビスの元へと来たのだ。目的の人物、アルテメット・アイドルに会うために。
「ど、どうしてここに!? お姉ちゃんとお見合いしていたはずでしょ!?」
「振られちまったんだよ」
「……え?」
デビルの発言は、アルテにとって状況を忘れるほど衝撃的であった。一回戦で戦った後、姉と同じ雰囲気をデビルから感じ取ったアルテは二人を出会わせた。その後、アルテは第3支部から要請を受けたことで、その場を後にした。関係を持っている業界人を何度も当ててきた観察眼が、二人なら自分が居なくても後は自然に仲良くなれると確信したから、デビルを義兄と言う日も近いと、そう思っていた。
――でも、そうはならなかった?
「振られたって、どうして?」
「……姉の元に帰るぞ。アルテ」
「――――どうして?」
迎えにきたとしか言わないデビルであるが、アルテは明らかにデビル本人の意志ではないことに嫌でも勘付いてしまっていた。そして先ほど言っていた約束という言葉からデビルは頼まれてここに来たのだ。そして頼んだ人物の当てをアルテは一人しか思い浮かばなかった。
「……想衣お姉ちゃんは、わたしよりも凄いんだよ? 優しくて賢くて、それに眼が曇っている奴らはみんな、わたしと比べて淀んでいるとか劣化版とか言うけど、ちゃんとおめかしをしたら美人なんだよ!」
「ああ」
「バラエティでのトークで参考にするほどお喋り上手なの! 機転も気遣いも凄くって何度も助けられた!
「ああ」
「……ッ! 悪魔の……お兄さんだって、話してみて……お姉ちゃんの良さに気付いたよね!? “ちょっと人と違っても”……いい人だって分かったよね!?」
「ああ、そうだな」
「だったら! お姉ちゃんの恋人になってよ!」
想衣とデビルをくっ付けるのには、世界で最も強いとされるブレイダーが身内になれば姉を全力で守ってくれるだろうという打算も含まれていた。それを抜きにしても姉が自分を幸せにしてくれたように、デビルならお姉ちゃんを幸せにしてくれる。そんな理想の未来を見たからだ。
――しかし、そうはならなかった。
「無理だ。なんども言うけどな。振られちまったんだよ、俺は」
「どうしてっ!? どうしてどうしてどうしてっ!? どうしてっ!!?」
錯乱気味に何度も何度もどうしてと問い掛ける。デビルにではない、ここには居ない。ずっと傍にいてほしい大切な人に向けて
「どうして!? ――想衣お姉ちゃん!!」
アルテの激情に反応してコッペリアがだらりと起き上がる。表情を持たない人形であるが、デビルたちには泣いているように見えた。デビルが電気をスーツ表面に迸らせる。
「デビル」
「これは“約束”だ。アビス」
「……わかったよ」
干渉は許さないと拒絶するデビルに、アビスは大人しく後ろへと下がる。コッペリアが何時でも動けるように構えるもアルテは迷う。自分の大切な、願いなら何でも叶えたい大切な想衣お姉ちゃんの願いを踏みにじる気か?。でもここで引けばアビスはシスター・イースターと出会ってしまう。そうしたらお姉ちゃんとはもう――。
「う……え……」
どんな時でも切り抜けてきた会話術は機能せず。全員を納得させ続けてきた提案も思い浮かばない。ただ無情にも閉演の時間が迫ってきている。
――帰りたくないと瞳で駄々を捏ねる。しかし悪魔の
「……お前を無理にでも連れて帰る」
「――嫌だ、嫌っ! お願いコッペリア! あの悪魔を倒してッ!」
大切で代えがたい日常を守る為に少女は覚悟を決める――しかし悪魔は容赦無く襲いかかる。バチッと音がしたと思えば、アルテの目の前からデビルとコッペリアが消えていた。
動き出したコッペリア。前に戦った時とは姿も挙動も違う。しかし、デビルにとっては関係の無い話であった。最初に戦った個体よりも遙かに遅いコッペリアを容易く掴み、そのままデビルは自分が来た道を戻る。
あっという間に外へと出て、そのまま施設がある場所から隣の山。そこに都合良く存在する採石場で足を止めて、コッペリアを力一杯ぶん殴り岩壁に強く打ち付けた。
壁がひび割れるほどの力でぶん殴られたコッペリアであったが、デビルの必殺技でようやく破壊できた頑丈さは“こっち”も持ち合わせているらしく、無傷で起き上がった。
コッペリアは動き出す。デビルと戦うのではなく背を向けて走り出した。自分が生み出された時に与えられた命令である施設内で侵入者の排除が命令としてまだ生きており、コッペリアは生みの親であるアルテの命令を忠実に実行するために施設内へと戻ろうとしているのだ。
「もう主の元には戻してやらねぇ。お前は、ここで終わらせる」
――コッペリアとの音越えの戦いは周囲に甚大な被害を及ぼす。ここで叩こうにもコッペリアは移動を優先するだろう。そのとき何かの拍子で街中に出るかもしれない、施設に戻ってしまえば、アビスたちに被害がおよぶかもしれない。今のアルテに戦うこと以外考えられる余裕は無く、見えないコッペリアを制御できるとは到底思えなかった。
だから、デビルはアルテの気持ちを躊躇無く踏みにじることに決めたのだ。彼女が破壊者にならないように――最後となる大切な者との時間を守るために。
「……行くぞ」
限界までスーツに溜め込んだ電気全てをバックルへと集中させる。するとベルトが黄金に輝きだして、金色に染め上げられた『B.S.F』がバックル真横の差し込み口から出てきた。デビルはそれを抜き出して画面に大文字で表示されている『SI・X』を押した。
|
音が増えて重厚感と激しさ変身時の音楽が森の全域に響き渡り、黄金に輝く『B.S.F』から電気が飛び散る。
暴虐的な男性の声で謳われる。それは宣告である。
「変っ身!!」
デビルは『B.S.F』を再びバックルに差し込んで二度目の変身を行なう。するとベルトの形状が『X』へと変わると同時に、金色の雷光がバックルから周辺に拡散し、デビルは全身が黒に染まる。それから拡散したはずの雷光は直角に曲がり戻るようにデビルの元へと集まってきて、それらが黒を覆い隠すように新たな金色のアーマーに変化していく。
デビルの姿は、より鋭利的に禍々しく人間らしい部分が削り取られていく、特に変化が著しかったのはマスクだ。人の顔は完全に消え去り、鋭利的なひし形へと変貌していた。
シイイイイイイィィジョォォオオオオオ!!
ここに“至上”の存在となった悪魔が現界する。
その名も――『ブレイダー・デビル・ダブルシックスフォーム』。
デビルは踵を上げる程度の軽い力でコッペリアに追いつき、その腹部にアッパーを食らわせた。コッペリアは数十メートル上空へと飛ばされる。そして遅れて雷鳴が轟くと共にデビルを中心として大地がひび割れ、アーマーから発せられた電気がそこら中に飛び散り、地面を抉る。
「ちっ!」
精一杯“最小”を意識した動きでこれだけの被害が発生する。やっぱり地上では使えないなと何時ものようにデビルは浮き上がったコッペリアの真下から全力で跳んだ。正しく
「――やめて、やめてよ!」
アルテの懇願は届くことなく、デビルはコッペリアを下から押し上げる。そうして辿り着いた高度五千メートル超えの遙か上空。飛行能力がないコッペリアは逃げること叶わず、なされるがままの状態となる。
――ダブルシックスフォームはあまりにも強力すぎる。動くだけで生物の命が脅かされて、僅かに触れただけで物が粉々になる。歩くだけで雷が迸り都市機能を麻痺させることが出来る。だからデビルはダブルシックスフォームを使用するさいには生命や物体が存在しない遙か上空にて、相手を一撃で葬る事を信条としている。
――たとえそれが、少女のたったひとつの願いだったとしても。
絶望
|
=
|
暴悪
|
ll
|
×
|
ll
|
蹂躙
|
=
|
滅殺
|
全身からバチバチと黄金のイナズマが発生し、その全てが拳に収束する。最大まで電気が蓄積された両腕は神々しく黄金に輝いた。デビルは限界まで肘を後ろに引き――全力を持って両拳をコッペリアが存在する前に突き出した。
「ダブルシックスパンチ」
DOUBLE SIIIIIIIIIIII・X!!
――バチバチバチバチバチバチィィッ!
――関東の空がぴかりと光った。その後、連続的な静電気音が周辺に響き渡る。なにも知らない人々が雨が降るのかと気にして空を見上げれば、ちょっとの雲が漂う逢魔時。首を傾げて何だったのだろうかと考えると、ふと思い当たるは雷を操る優しい悪魔。きっとどこかで敵と戦い自分たちを守ってくれたのだろうかと納得して人々は日常に戻っていった。
――全てが収まったころ地上に墜ちるは悪魔が一体。人形はもうどこにも居ない。
+++
施設内にバチリと電気音がしたかと思えば、ノーマルフォームへと戻ったデビルがへたり込んだアルテの前に立っていた。じっとこちらを見るデビルに、アルテは涙目で恨みがましく睨みかえす。
「……あ、悪魔……悪魔! 悪魔ッ!!」
「――悪魔だよ」
「いや! 離して!! ……う、はなして……よ――!」
慟哭する少女を抱っこする。アルテが悪態をつき精一杯の抵抗をするが、落ちないように優しくも力強く抱えられており抜け出すことはできない。アルテは辛くて声を殺して泣き出した。
「アビス。お前はどうするつもりだ」
「……いつも通りだよ」
「そうか……平気か?」
「どうだろうね。きっと平気じゃなかったからここまで来たんだと思う」
「……全員、お前の事を待っている。なるべく早く帰ってこい」
それを最後にデビルはアルテを気遣いながら外へと出て行った。アビスは立ち止まり動こうとしない。オルクスが恐る恐る近づいた。
「アビス様……?」
「……なんでもないよ。行こう。この先にシスター・イースターが居る……いや。どうやら向こうから来てくれたみたいだ」
「え?」
――奥の扉が開かれる。足音を立てずにこちらに来るのは丁度成人になりたてほどの女性。プラチナヘアーの長い髪に白い肌、瞼に隠された細い瞳に映る碧色。その人物は、わざとらしく神々しい純銀のシスター服型の魔装に身を包んでいた。
「約束も無しに訪問したあげく騒騒しくした上に、こんなに汚しちゃってごめんね。シスター・イースター」
純銀の聖女。『シスター・イースター』は自分の身体半分の大きさはある純銀の本を生成する。本は宙に浮き手に触れずともページが捲られる。
――とあるページを開いたとき本の動きが止まる。シスター・イースターはアビスを見て、にこりと微笑んだ。
「お会いできるのを心待ちにしていました。『
「……たま?」
それが人の名前であることをオルクスはすぐには認識できず聞き返してしまってから、アビスの本名だと気付く。
「そう呼ばれるのは随分と久しぶりだよ」
「愛するものと永遠の別れを経験し絶望して立ち上がれぬあなた。こうして顔を合わせたのも魔装の女神の思し召し。あなたに再臨の奇跡をお見せしましょう」
――奈落に潜む夢が、現世へと顔を出す。それは果たして許されるものだろうか?
+++
「ひとみ!」
「……お姉ちゃん」
『秋葉自警団』の本拠地。その中にある客室に強引に連れてこられたアルテメット・アイドル――惹彼琉ひとみと姉である想衣が再会する。
「――ありがとう」
「……外に居る」
自分のお願いを叶えてくれた悪魔に想衣は純粋に感謝する。それに対して悪魔は淡泊な態度で外へと出た。その背中へ想衣は最後まで優しいねと微笑みを向けた。
「どうして?」
「ひとみ……」
「わたしのこと嫌いになったの?」
「ううん。大好きだよ。本当ならずっと傍にいたいぐらい」
ひとみは最初から気付いている。ブレイダー・デビルにお願いして自分をここに連れ出したのは想衣だという事に。
「じゃあなんで! なんでっ! 嫌だよ!! わたしもっと頑張るから! お願いだからずっと傍にいてよ! ――死なないでよ!!」
大粒の涙を流しながら縋り付く妹を、想衣は優しく抱きしめた。
「――私はもう死んでるよ」
――惹彼琉想衣は故人である。ひとみが魔装少女アイドルになる前に車に跳ねられて命を落とした。しかし、シスター・イースターの『固有魔法』によって現世に蘇った、正真正銘の張本人である。
「大好きだから、私のために辛い生き方をして欲しくないの。お姉ちゃん賢いんだよ。だから、ひとみが私を蘇らせるために沢山の無理をしているの知っているんだからっ!」
天才的なアイドルとして、ひとみはどれだけ中身がガタついていても元気な姿を取り繕うのは得意中の得意だった。しかし想衣は妹がすでに限界を超えて活動していることを見抜いていた。
――ああ、お姉ちゃんは何時だってわたしを妹として見てくれているんだったね。
ひとみは、想衣を何度も現世に蘇らせるために日に日に増す
全てはなによりも大切なお姉ちゃんと過ごす日々のために、アルテは正に馬車馬の如く働かされていたのだ。
「ごめんね。ひとみとの生活が楽しすぎて……無理させちゃって……こんなお姉ちゃんでごめんね!」
――謝る必要はないよ。全部わたしが望んだことだよとひとみは反論しようとしたが、想衣が泣いている事に気づき声が出なくなる。お姉ちゃんが泣いているところ初めて見た。泣かせてしまったのはわたし?
ひとみは何が正解だったのかわからなくなって感情を爆発させる。
「……あ、う、あああああ――!」
「いままでありがとね。ひとみのお姉ちゃんとして生まれて来て本当に幸せだったよ。これからは自分のために生きて……」
泣き出した妹を姉は涙が止まらないながらも抱きしめながら頭を撫でるなどして宥めはじめる。シスター・イースターとアビスの会合の結果がどうであれ、“妹”離れをする決意した姉の、最期の触れ合いだからと思いつく限りの言葉を送りつづける。
「……ひでぇ話ですね」
「ああ、ほんとにな」
客室扉前で話を聞いていた悪魔と『秋葉自警団』の団長である霧升は、姉妹の傷と絆を利用して甘い蜜を啜っている大人たちに向けて怒りを露わにする。
「四回戦の時も思いましたが相も変わらず協会ってのは、つまらない物語を作っちまうのだけは得意なようですね。死者を利用するなんてあっちゃならねぇ!」
「落ち着いてくれ。霧升。お前ほどの大人が感情的になると……俺が我慢できなくなりそうだ」
「ですが、もし姐さんがっ! ……すみません」
そもそも死者を利用して金を稼ぐ第3支部の大人たちの蛮行は、誰であっても吐き気を催すものだ。さらに言えば『秋葉自警団』一同は、見捨てられた街で生活していく最中、時には仲間を目の前で失うことがあった。そしてそんな死者の中には霧升にとっても大切な人であった悪魔の義母親も居るのだ。竜の逆鱗に触れるどころの話ではない。
「しかし、若、知ってしまったからにはこのまま放っておくにはあまりにもご無体じゃありませんか?」
「別に放っておくって話じゃねぇ。五回戦、アビスの相手が第3支部のリーダー。シスター・イースターなんだよ」
「なんですって? ……ん? 若!? こちらをご覧ください」
霧升が震動したスマホをポケットから取り出し、通知を確認すると驚き、悪魔に画面を見せる。そこには先ほどの施設内にて、ブレイダー・アビスの視点で映し出されるシスター・イースターが映っていた。
――『戦争決闘五番勝負』、最後の戦いが始まる。
姉は死者である自分には妹を救える事ができないと諦めていました。そんな時、悪魔が目の前に現われたのです。
ダブルシックスの『SI・X』で点が付いてるとか意味はあるけど、ストーリーとかには全く(きっと)関わらない作者の遊び心程度のものなので悪しからずです。
残りあと一回戦。ここまで来れたこと感無量です。よろしければ最後まで楽しんでいただけると幸いです。
そして、よろしければお気に入り登録、感想、高評価などしていただけたら幸いですd( ̄▽ ̄)←。