変身ヒロインが守る世界にて十人の変身ヒーローは戦う 作:庫磨鳥
暗い話が続きますが最後まで楽しんでいただけたら幸いです。
父の顔は知らない。母も父が誰だか知らない。金銭を得るために汗水垂らして働いていた時に、うっかり宿ってしまったもので皆目見当が付かないのだ。客の中には道具を嫌う人が多く母が断然薬派だったこと、また仕事を完遂するとボーナスが貰えるため張り切る悪癖があったことが原因なのだろう。事実、『三途の川』に出戻りした姉や兄がそれなりに居たと言う話だ。
ボクを産んだ理由は、最も愛していた猫の代わりだった。母は『たま』という名前の猫を飼っていた。母にのみ懐き、客が訪れている時は決して姿を現わさないが母だけになると、すぐに傍で甘えだす。そんな可愛らしい性格の猫だったらしい。赤ん坊のボクはそんな猫のたまに替われる存在だったようで、自我というものが芽生えるまではきっとちゃんと愛されて育ったようだ。
母は可哀想な人であった。どんな人生を歩んできたか知る気はまったく無いが仕事が辛いこともあって人を嫌っていた。そして憎んでいた。それは血の繋がったボクも同じであり、だうだうという舌っ足らずな鳴き声から、人の言葉を覚えて話すようになり、二足で立って歩くようになったボクはかなり可愛くなくなったのだろう。ハハかママか忘れてしまったが、そう呼んだらブランド物のバックで殴られたことが最も古い記憶だ。
そんな嫌われるだけのボクが息をしていたのは母と同じく顔はそれなりに整っており、母の手伝いを出来たからであった。正確に言えば仕事が終わった後の延長時間をボクが担うことになった。母に誘われてきて家へとやってきた大人たちは最初こそ戸惑っていたが、母の客とだけあってかすぐに無邪気な子供のように遊び始めた。子供のボクにとってはハードであり疲れて眠ってしまうことも多かったが、その度にまだ遊ぼうよと強めな力で起こされることも多く、あの時は窓を見ては、太陽がもっと早く昇ればいいのにと思っていた記憶がある。
無知であった母は無知なりにあくどい事を考えていたようで、大人が遊びに夢中になりすぎて壊してしまうのを期待し、もしそうなったら高額の弁償料金を請求するつもりだったらしい。それを使って3代目たまを手に入れることが母の夢だった。しかし、母の思惑なんぞ大人たちには筒抜けだったのか、大人たちはどれだけ夢中になっても全壊するようには遊ばなかった。大人たちは次第に年を重ねて不健康であった母の相手をしなくなってきてきたこともあり、プライドを酷く傷付けられた母の憎しみは過激的なものとなる。
正しく奈落のような場所で生きた。彼女を通して人としての常識を培う中でインスタントラーメンが酸っぱくないことを知った。白い物が苦くないと知った 風呂と言う物が水をぶっかけられる行為でないと知った、布団が暖かいものだと知った。親と子とは手を繋いで笑いながら歩くものだと知った。
小学校でもボクは家と同じ役割を与えられた。理由は先生の中に何時も遊んでいる大人がいて、そこからボクの仕事しているのが漏れたとされる。大人たちと違って学校での遊び相手は獣同然の子供であり手心というものが無かった。プールの授業で錨のものまねを強要された時は流石に死ぬかと思った。ボクの分の給食が常にじゃんけんの商品で、子供が嫌う不人気なメニューばかりが皿に盛られるためにあだ名がゴミ箱であった。学校帰りには遊ばれた痕が残ってしまうことも多かったが、多様の傷は寧ろロマンだと大人たちには寧ろ好評となることが多く、母との稼ぎの差はさらに開くこととなった。
母はできるかぎりボクを視界に入れたくなかった。だから平日は学校から二度と帰ってくるな仕事が入ったら帰ってこいと見送り、休日は二度と帰ってくるな仕事が入ったら帰ってこいと外へと追い出した。どこにも行く当てがないと扉の前で音を殺して座っていると母が外にも届くほどの声量でボクのことについて飽きずにひとり言を吐き出し続けていたのを聞いている内に、ボクはふらりと外へと出て行き、焼却炉があるゴミ捨て場に居座るようになった。
――猫にも劣る畜生。死者になることを望まれる命。それが“夢明たま”だった。
+++
ブレイダー・アビスの視点で世界中に配信されている映像。そこに映っているのは第3支部のリーダー魔装少女シスター・イースター。恐らくジャスティス経由で生中継が成されているものだ。何も知らされていなかったアンギルは怒りを押さえ込み、配信者としてのプロ根性を総動員して必要最低限の仕事を行なう。
『――ブレイダー・アビス対シスター・イースター。戦争五番勝負、最終戦。開始!』
アンギルの開始宣言によって視聴者達はこの映像が『戦争決闘五番勝負』に関係するものだというのは分かった。しかし、何が起きているのか全く理解できず、同じようにアンギルも殆ど何も知らされていないので説明できることはなく、とりあえずは無事に終わって欲しいと祈りながら様子を見守る。
――オルクスはシスター・イースターを見て気持ち悪さを抱く。アビスの手伝いで悪い魔装少女を何人も見てきたがそれらとは違う、彼女から発せられる得体のしれない何かが直接胃を刺激してくる。
事実、生物が炎に見えるアビスの瞳には彼女は異形そのものだった。感情を持つ生物であれば炎は必ず揺らめいている。しかし、彼女を象る炎はまるで無風の室内で灯る蝋燭のようだった。炎色から他人を想う献身性が見て取れるが、逆に言えばそれだけだった。己という自我を構成するべき感情がどこにも見当たらないのだ。
――彼女は人として既に壊れている。だからこそアビスは確認をするまでもなく、知りたかったこと全てが真実だと分かってしまった。
「――〈
シスター・イースターは粛々と『固有魔法』を発動した。彼女の前の床から魔方陣が現われて、そこからゆっくりと純銀の棺桶が出てくる。
「随分と展開が速いね。ボクがここに来た理由とか聞かないのかい?」
「全て分かっています。あなたに救済を」
シスター・イースターは定められた装置のように答える。しかし、アビスが来た理由を知っているわけではない、彼女はこの聖地に来た人間は全て自分に救済を求めに来ているという考えを固定化しているだけに過ぎない。
『三途の川』からひとつの
「……ボクは君に聞きたいことがあってね。いくつか質問してもいいかい?」
「なんなりと」
救われることに不安があるのであれば、それを取り除くために惜しむことはないとシスター・イースターは即答した。
「ボクの眼には『三途の川』と呼んでいる魂が行き着く先が見える。だから君の『固有魔法』が発動した時に『三途の川』から魂が降りてきて、その棺桶に入り込んだのが見えた。ボクにしか見えない物を証拠にして保証するのは烏滸がましい行為だとは分かってるんだけどね。……君の魔法は誤魔化しなしの死者蘇生だ」
オリジナルを模したコピーではない。『三途の川』にて洗い流される前の魂を降臨させて行なわれる死者蘇生だと、アビスは確かにこの目で見た。そして魂が入り込んだ棺桶の中で、徐々に炎が人の形を作っていくのが現在進行形で見えている。
「――たま」
名を呼ぶ声が棺桶から聞こえた。懐かしい声だった。アビスは反応しない。
「はい。魔装の女神によって与えられた
「死者蘇生は“本物”だ……。だからこそ君に尋ねなければならないことがある」
――奈落の門を開くとはこういう事を言うのかなと、アビスは自分が起こしてしまう天変地異の如く大混乱を他人事のように考えていた。そして次にこんな自分の事を仲間だと言ってくれる彼らに苦労をかけると心の中で謝罪する。
「君は復活させた人間を次の日には天に還している。そうしないといけない理由があるんだよね?」
「はい。ひどく悲しいことですが魂を宿す肉体は、あくまでも
「――たま」
死者蘇生そのものは本物であるが完璧とは言えない。復活するさいに与えられる肉体は言わば
「ひどく悲しい事です……出来ることならば、永遠の命を持って再臨させたいのですが、旧世代の神々はそれを許してくれません。ああ、魔装の女神よ。命を玩び死を与え続ける彼らから救われぬ者を救い給え」
「ああそうだ。君の魔法は死んだ人を蘇らせることができる神の奇跡そのものだ――でも、“蘇らせるだけ”なんじゃないかな?」
「…………」
さっきまでとはうって変わって沈黙するシスター・イースター。そうした理由は
「――たまぁ……どこぉ?」
「君が再臨させて“殺した”後の魂を何度も見た――そこにあったのは苦痛だ。苦痛だけだ。人間らしい感情が全て鎮火し、喉があったら天地に響き渡るほどの絶叫を上げていたであろう苦痛しか残っていなかった」
「たまぁ――」
アビスは純銀の棺桶に眼を向ける。棺桶の中の炎は完全に人の形になっていた。
「――答えろシスター・イースター。君はどうやって蘇らせた人を天に還している?」
「こっちにきて……たま……」
――観客にしかなれないサイレント・オルクスが、まさかと正解を想像してしまい。強い吐き気に襲われる。
「――仕方のないことです」
シスター・イースターは、アビスを事情を知っている人間だと判断し、自分たちの会話が全世界に配信されていることなど頓着せず答えを語り出す。
「蘇った人の肉体は、あくまで
――〈フロムバース〉は確かに神の奇跡に等しい人間には過ぎた魔法である。その効果は死を迎えて『三途の川』に還った魂を
「だから――」
〈フロムバース〉に死者を蘇生する以外の機能はない。製造する
「――――“細切れ”にするのは仕方がないことなんです」
「――たまぁ こっちにきてよぉ、たまぁ……」
「夢明たま様。先ほどから“お母様”がお呼びです。なにか反応されては如何でしょうか?」
純銀の棺桶にて蘇生されたのは、
「母が呼んでいるのはボクが産まれる前に死んで、ボクが産まれる理由となった猫のことだよ」
だからこそ弱々しく呼び続ける声が、自分に向けたものではないことも知っている。
+++
――年月が経つと母親は次第に物事を考えられなくなった。認知症の類いに見えたが実際のところは分からない。なにせ人が嫌いな母は病院に行くことは無く、病名すら分かる機会が無かったのだ。それに不健康な母親の事だ。どんな病気を患っても不思議ではなかった。
段階的に感情をなくしていった母は怒り暴れるようになった。それが切っ掛けで客たちは完全に母を見限って去って行った。それから病気は進行してしまえば後は転げ落ちるものと聞いた通りに、対策も治療もしなかった母親はあっと言う間に寝たきり状態になった。
自分ひとりでは何も出来なくなった母は毎日
反応さえしなければ乱暴をする事も罵倒を吐くこともしなくなった母。介護は大変であったが静かで穏やかな日々が始まった。正直言えば、もっと早くこうなって欲しかったとまで烏滸がましくも思った。
そんな母が死んだのは、ブレイダー・アビスになった時と同じ日であった。何時ものように母が買いあさっていたブランド物のバックや服を売りに行って、生活に必要なものを買いに行くために外へと出た。時間にして二十分ほどだったか、ボクの目に飛び込んできたのはアパートが勢いよく燃えている様子だった。
正義に調べて貰ったのだが自分が出掛けている間に同じ階に住む人が焼身自殺したらしい。さらにアパートにあった欠陥が幾つも重なって、火は燃え広がりアパートは全焼する事となった。
――こうしてボクと母の生活は終わりを告げた。
+++
――きっと、あの時も何度も何度も呼んでいたのだろう。唯一愛していた猫のたまを
どこまでも〈フロムバース〉は死者を蘇生することしかできない。そのため死ぬ前から記憶の殆どを失った人物を蘇らせたともしても健全な時の身体に戻るわけではない。忘却することは言わば魂に付着する記憶も減るのだ。なので蘇生された
「……そうですか。どうやら再臨する方を間違えたようですね」
感情こそ動いていないが、どこか残念そうに呟いた後。シスター・イースターは本を閉じて抱きしめるように抱えた。魔道具である純銀の本の中身には条件が当てはまり蘇生可能な人間が記載される。その内容には産まれてから死ぬまでを纏めた人物歴も載る。なので夢明たまをどんな扱いをしてきたのを知りながらシスター・イースターは、
「ああ、魔装の女神よ。再臨せし人を再び天へと還します」
天を見上げて祈りはじめるシスター・イースター。当然と言わんばかりに、当たり前だと言わんばかりに、仕方ないと言っていた通りに、どこまでも自然体な様子で言い慣れた風に“それ”を口にした。
「――〈
「ァァぁア!アあアアあアアあ!アアアアアアアアあああアアアアア!アアアあアアアアアアアあアアア!アアあアア!アアアアアアア!!?」
聖職姿の怪物 SiStEr EaStEr L e a d e r o f t h e 3 t h b r a n c h ≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡ ✧ ✧ ✧✧ ✧ ✧
✧ ▥ ―
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽ △△△△△△△△△△△△△△△△△△ ⠃ ⠕ ⠃ ⠳ ⠇ ⠕ ⠩⠐ ⠞ ⠉ ⠳ ⠟ ⠳⠕⠹⠫⠟⠪⠄⠃⠝⠑⠃⠃⠌⠐⠕⠐⠕⠛⠡⠃⠌⠐⠕⠕⠹⠫⠏ ⠌⠿⠟⠃⠕⠃⠃⠕⠃⠃⠕⠃⠃⠕⠃⠃⠕⠃⠃⠕⠌⠿⠟⠖⠖⠁⠁⠁⠌⠿⠟ |
「――魔装の女神のご加護を」
人の領域から完全にはみ出している狂信者を通り越した真性の怪物は眼を閉じて黙祷を行なう。
「うっ! おえっ――!?」
純銀の棺桶が消える。残ったのは色んなものが混ぜっ返した土の山。それが何だったのか理解したオルクスは吐くことを抑えられなかった。
アビスは静かに天に昇る魂を見る。今まで見てきた同じ苦痛に塗れた魂であった。
「――ああ、ほんと烏滸がましい」
母がこうなることを知りながらアビスは止めようとは思わなかった。“細切れ”になるのを止めたところで自分にできる事と言えば燃やすことぐらいで、苦しんで二度目の死を迎えるという意味では結果は変わらなかったと判断した。
そう思ったら理由なんてどうでもよくなって見送ったとアビスは訳も分からず笑いそうになった。これが恨みなのか怒りからか、それとも単に興味が持てないから来る反応なのかアビス本人も分からない。でも、母の叫びを聞いている時、心身が軽くなるような言いようのない気持ちになったのは確かだった。
そのあとアビスは『アーマード』のみんな。オルクスたち『元懲罰部隊』など親しい人物たちの顔が浮かびあがり、そして最後に彼女の顔が浮かんで、気持ちが底へと沈んだ。
「ボクは……所詮は畜生でしかなかったようだね」
「夢明たま様。先ほどは申し訳ありません。今度こそ再臨の奇跡によってあなたに救いを与えましょう」
変わらぬ態度でシスター・イースターは純銀の本を再び開いた。
「させない!」
オルクスが止めようと動き出す。“アレ”は生きていちゃだめな存在だとなけなしの魔力を振り絞って大鎌を生成する。オルクスはアビスの過去をよくは知らない。だけど大切な人が死んだ事だけは知っている。だから、今から行なわれるであろう非業を決して許すべきではないと、サイレント・オルクスは『懲罰部隊』とか関係無く、己の意志でシスター・イースターを殺す事を決意する。
「うっ!? ……そ、そんな!? どうしてですか奈落様!?」
黒い炎が壁となってオルクスの進路を塞ぐ、触れれば簡単に魔装が燃え尽きてしまう魔装少女にとって絶対的な壁に出現に、オルクスは信じられない気持ちを一杯に炎の壁を作ったアビスに問い掛ける。
「――ごめん」
それだけ言ってアビスは静かな歩調で歩き出す。
「〈
向かう先は純銀の棺桶。傍にはシスター・イースターがいるが彼女は微笑みを向けて見守るだけで動こうとしない。アビスはゆっくりとした動作で棺桶の蓋を奥へとずらした。その中には腕を組んで眠っている少女がいた。
「…………久しぶりだね。モニカ」
――夢を叶える時が来た。ゆっくりと瞼を開く少女をアビスはただじっと見続ける。
『三途の川』
『生命の樹』と同じく世界のシステムの一種。生物が生物としての存在を成り立たせるために必要な“魂”が循環する場所。死んだ生物の魂は、この“川”と呼ばれる循環装置にして魂に付着した生前の記憶や感情などの“情報”を削除していく。そして全ての情報を消した魂は改めて産まれてくる生物に宿るを繰り返す。
人の生は他の生物と比べても圧倒的に情報量が多いため、完全に削除しきるには50~100年は必要とされる。そんな魂の中には情報など削除しきれずに次の命に宿ることがあり、それらが前世の経験が、才能やトラウマ、あるいは記憶など何かしらに反映されることがある。
――全身を切り裂かれる痛みが削除しきれずに、来世へと共に降るのであれば必ず影響がでるだろう。
ちなみにアビスは魂に付着する炎を見て、自分なりに考察しているだけなので『三途の川』のシステムは三割ぐらいしか把握していなかったりします(何年かかる正確には分かっていないなど)
一周年前には2章を終わらせられるように頑張ります。