変身ヒロインが守る世界にて十人の変身ヒーローは戦う 作:庫磨鳥
ブレイダーの中で己が扱う『スキル』と言うものを十全に把握しているものは居ない。どんな感じのものが使えるかという基本的な情報が気がつけば頭の中に入っており、それ以外のことは感覚による手探りで何ができるのかを探さないと行けない。
使われている
ブレイダー・アビスの『奈落の炎』ができることは、大まかに分ければ精神を焼くことができる黒い炎を操ること、そして心を炎として見ることができる二つになる。しかし、誰にも秘密にしながら生み出した能力がひとつ存在していた。
炎に包まれるアビス。抱きしめられているモニカも一緒になって燃えるが熱さは感じず、寧ろ心地の良い暖かさに思考が微睡む。
一方で、全身を焼かれているアビスは常人であれば叫び続けてのた打ち回るほどの激痛に耐えながら、絶大な集中力で適切に作業を進めていた。
アーマーが、スーツが、そして中身が溶けていき、それらがモニカに被さっていく、まるで寝袋に入り込んだような暖かさにモニカは今にも寝そうになる。
炎を扱った加工には
アビスが行なうのは自分という存在を『奈落の炎』で溶かし
アビスは溶けた命をモニカに流し込む。モニカの魂に付着している情報が細かな調整をアシストしてくれているため想像よりも簡単であるが、溶ける身体に、余分な己の
全身が焼かれる痛み。身体が溶ける痛み。心が燃える痛みに襲われ続ける。正しく奈落のような時間は永遠に感じられた。
それでも止める気は毛頭なかった。これこそがアビスの望んでいた事なのだ。自分の命を代償として、モニカを完全に復活させるのが今日、シスター・イースターに出会った真の目的だったから。
――自分がモニカの夢も命も奪ってしまったのだとずっと後悔していた。あそこは奈落だったんだ。彼女は本来いるべき場所じゃない。そこにしか生きることの出来ない畜生として、彼女を一刻でも早く突き放すべきだったんだ。それなのに初めて触れた光があまりにも心地よくて、その光ができるだけ傍で照らしてくれるように祈った。さらには同じ光となってずっと傍にいたいとまで考えた。
――夢を見た。目を開ければ覚めるような、そんな人の夢を。幸せで微睡みから抜け出せない、そんな夢に
――だから、命を、人生を、幸せな時間を、奪ってしまった全てを返す。
作業は最終段階へと入り、アビスはスキル名を宣言した。これにより残った細かな調整はモニカの魂に付着している記憶を頼りに行なわれることとなり、アビスの意識が途中で消えてしまっても作業が終わるまで止まることはなくなった。つまりアビスの死が確約されたという事でおある。
まるで竈門の中のように舞台も、天上も、壁も、その全てが炎に包まれるが、熱さを感じているのはアビスだけだった。
――体の感覚が消えていく、耳が焼かれて音は既に聞こえない、鼻も同じく。瞳は元からちゃんと機能していない。もはや熱さという痛みだけが自己がまだ存在している証明となっていた。そんな中でアビスは終わりを迎えられることに安堵していた。
アビスは『三途の川』の存在を知り、転生が実在するものだというのを知った。だから例え永劫の時を生きる事になっても転生してくるモニカが魔装少女となる夢を叶えるまで、もう二度と壊されないように悪い魔装少女を燃やし続けようと決意した。
――悪い魔装少女に恨みがあった。狂うほど激情と殺意を抱き続けた。復讐は中途半端に終わったことで心のそこら中に火種が残り、“黒い炎”を育て上げた。“彼ら”との出会いのおかげで多少はましになったけど、それでも消えることはなかった。
――あいつのような魔装少女を燃やすと心の温度が少しの間だけ低くなった。勝手我が儘なフェアリーを握り潰すと仄暗い感情と吐き気が込み上げてきた。
――誰かが善と言う、誰かが悪と言う、違う、ボクのは全て
――それが全て終わる。奪ったものを彼女に返してだ。まるで夢のようなこれ以上幸せな終わり方はないだろう。猫以下の畜生にしてはかなり長生きをした。これが天寿だと言われても笑って受け入れられる。
――ただ、贅沢を言うのなら最後にモニカを炎の塊ではなく、きちんとした人として見たかったな。
意識が途絶え徐々に考えられなくなる。痛みはとうの昔になくなっており、恐怖の感情も燃え尽きたのか死ぬと分かっていてもアビスの心はひどく穏やかだった。炎の塊にしか見えないモニカを惜しみつつアビスはゆっくりと瞼を閉じた。
――――――!
すでに音が聞こえないはずのアビスは確かに声のようなものを聞いた。すると二度と開くことのなかった筈の瞳が開き、ある一点に向いた。
アビスは見る。室内を埋め尽くす黒い炎、そして黒い炎の中にあった見覚えのある違う色の炎を。その炎の正体は――サイレント・オルクスだった。
+++
叫ぶ。叫ぶ。声が張り裂けて明日から二度と話せなくなってもいいとオルクスはアビスに向かって叫び続けた。しかし、既に耳が焼け溶けていたアビスにはもう届かない。
このままだと大切な人が死ぬと分かっていながらもオルクスにはどうすることもできなかった。ほんの僅かでも動いたら魔装少女としての力をあっと言う間に燃やす黒い炎に囲まれており身動きがとれない。
さらに、オルクスはアビスの目的を理解してしまったために足が動かなくなった。果たして邪魔をしてまで止めることが本当に彼の為になるのかと、このまま見送るのが正解ではないのかと。
だがオルクスはそれでも死んで欲しくなかった。大切な人なのだ。これが異性による好意なのか、親の様にと想う気持ちなのかは分からないが、オルクスにとってアビスこそ、モニカのような存在なのだ。“烏滸がましくも”生きていてほしかった。
だから、オルクスは己の夢とアビスの夢を天秤に掛けた。どちらに傾き落ちた所で結果がどうなるかわからない。それでもオルクスのしたいことは決まった。
――どうか届いて、私の夢は――あなたと一緒に居ることなんです!
「〈
なけなしの魔力を全て消費してオルクスは『固有魔法』を発動、他者の視覚への干渉を行ない認識力を操作する。アビスを対象に自分の存在感を限界までに引き上げた。
+++
オルクスに気付いたアビス。
思えば彼女たちとは奇妙な関係になったと思考が進む。アビスが『元懲罰部隊』の魔装少女たちを気に掛けたのは、自分とどことなく境遇が似ているからという同情心からである。心が壊れても仕方の無い日々を送ってきて、普通というものが欠けた人間と呼べるか怪しい女の子たち。
助けた責任をとってやれと言われて、行く当てのない彼女たちの保護者役となったアビスは、最初は戸惑うことしかできなかった。傷ついた子供の対応以前の問題であり、言うことは聞くが、少しでも目を離したら気配を殺して人目に付かない場所でじっと息するだけになる彼女たちにどう接すればいいのか分からなかったのだ。
――だから自然と過去を参考にするしかなかった。最初は動画を見ることから始めた。なにを話すわけでもなく、ただ四人で動画を見て、たまに言いたい事があったら口を開く時間を作った。最初は上手く行かなかった。オルクスたちの影響を気にしすぎて、つまらないものばかりを見せてしまったと思う。
それに気付いてから誰もが知っているような大手配信者や有名なゲーム実況者など、とにかくエンタメと呼べるものを手当たり次第見るようになった。その時間は過去を思い出すことが多くて辛いと思うことはあった。でも笑い声を出したり、感想を呟いたり、
それからアンギルに頼んでゲームやアニメなど娯楽を用意して貰って、一緒に色んなことをした。外にだって遊びに行った。水族館に動物園、遊園地とか思えば自分も初めてで戸惑うことが多かったけど……充実した日となった。
クリスマスはツリーを用意して、チョコレートケーキとターキーを食べて。炬燵に入ってゲーム大会になった。誰が言ったか日付が変わっても寝なければクリスマスは続くって話になって、皆が寝るのを我慢して色んなことをした。結局、まともに寝ることのできないボクが最後まで起きていて、慣れない後片付けを朝になるまでするはめになって、疲れ切ったあとの一杯のコーヒーは本当に美味しかった。
――コーヒーを好きになった。なんだか苦いけど美味しい黒い飲み物と聞いたのが切っ掛けで、香りが癖になって愛飲するようになった。銘柄とかに拘りはないけど、苦味と香りが強いのが好き、飲む度に、心にこびり付いた別の苦味が薄れていくような気がした。逆に砂糖とミルクを入れるのが嫌いだった。味とは別に苦いものを甘く装っているところが気に入らないってのはあったのかもしれない。
お気に入りの店に出会うと定期的に飲みに行くようになった。たまに正義にオススメだと教えられて飲みに行くけど、いつも癖が強いのが多くて感想に困ったりする。悪魔は苦手でなんでそんなもの飲めるのかって理解できない顔でパフェを食べる様子がなんだか面白くなかったので、わざわざ煙を吸うほうが理解できないと言い返したことがあった。混沌はカフェオレを飲んでいるところしか見たことがないので相容れない。そういえば失楽園も夜はコーヒー派だって言ってたっけ?
第2世代の皆はどうなんだろう? こういったのを話したことなかったな。思えば随分と慕われていた気がする。
そんな彼らの尊敬を裏切りたくなくて、ちょっとだけ格好付けたりもして、他愛もない書き込みが面白くて、気がつけば会話に入ることが日毎に増していって――
アビスの肉体は既に溶けきっていた。しかし魂はまだ現世に留まっていた。夢に微睡んでいるはずのモニカの意識に問い掛けられて、正直に告げる。
……君を時折、過去にしてしまうほどに気がつけばボクは楽しい“人”生を送ってしまっていた。
仲間が出来た、きっと友達とも言い換えられるそんな存在だ。保護するべき子たちがいる。家族と言ってもいいのかもしれない。こんな……こんなボクにだ! 君の死んだ理由になってしまったのに! こんなにも恵まれてしまった! 心のどこかで、こんな日がずっと続けばいいと思ってしまった! そんな資格があるはずないのに……っ!
「好きだよ、たま君」
+++
炎は次第に小さくなっていき、最後には跡形もなく消えた。
「……そんな……いやぁ……!」
アビスは跡形もなく消えており、立っているのは一人の少女。オルクスは現実を直視できず悲鳴を漏らす。
「……素晴らしい」
シスター・イースターは、はっきりと己の感情による涙を流す。死者を蘇生する『固有魔法』を使えるからか、炎の中から出てきた少女が土人形の器ではなく、真っ当な人間として復活を果たしたのだと直感的に理解した。
「完全なる奇跡は実在したのですね。ああ、魔装の女神よ。いま個々に人類の悲願が現実のものとなった事に心からの感謝を!」
天に向かって微笑むシスター・イースター。床に涙を落とすサイレント・オルクス。
――歓喜と悲痛、相対的な感情に挟まれながら少女は目を
左目はまるで太陽のように輝く琥珀色。そして涙を流す右目の瞳孔は白く、黒い虹彩が炎のように揺らめいていた。
「……泣かないで」
【……ほんとうによかったのか?】
「……え? な、奈落様……?」
少女――モニカが持っている『B.S.F』から、死んだはずの奈落の声がした。ただし人の声というかは機械音声染みており、ブレイダー・ベルトから発せられる例の音声に酷似していた。
「うん」
元から口数の少ないモニカは首を縦に振るうだけでそれ以上の事は言わなかった。だけど“彼”にはきちんと心が伝わってきており、たま君と一緒に生きたいと“想”われてしまえば、なにも言えなかった。
モニカの腰にベルトが現われる。『B.S.F』を上から差し込んで倒す。パイプオルガンの二重奏が鳴り響く、低く遅く重々しい音、高く早く軽快な音が次第に合わさっていき完璧な一つの音楽として完成する。
“彼”の――奈落の問い掛けに、ベルトに『B.S.F』がはめ込むとモニカは喉から声が出なくなり、代わりに奈落と同じ電子音声にて即答した。
――たとえ奈落の炎だとしても、
――――ヘンシン――――
黒い炎が囲むように現われてモニカを照らす。炎の光が肉体に収束していき黒いスーツとアーマーに変化していく。
――モニカが変身した姿は紛うこと無きブレイダー・アビスだった。ただしフォルムは女性的になっており、ペンキを垂らしたような右目がなくなり、人間らしい両眼に変わっていた。そして背中には太陽色に輝く蝶の翅が靡いており、動く度に火粉が舞う。
「あなたは?」
「……そうだね。名前を付けるなら」
二人の魂が混じり合って再誕した
「――ブレイダー・アビス≒アウターライト」
【よろしく!】
アビス関連の特殊タグはあえてシンプルにしています。
次話はできるだけ早めに出そうと思って居るのでお待ちになってください次回!
……言うて消化試合(ぼそ)
※謎のバグによってPC版だと後書きが中央揃いになっています。なにかエラーなどがあったらご報告ください。