変身ヒロインが守る世界にて十人の変身ヒーローは戦う 作:庫磨鳥
ふるゆわ日常系を目指しました。半分嘘です。
なぜか文字数が多くなって前後編分けることになりましたが、それでも楽しんで頂けたら幸いです。
――戦争決闘五番勝負からそれなりの日数が経ち。七月に入った。
戦後、協会が関わってきた。もっと広く言えば魔装少女に関係する悪事が止むこと無く表に出てくることになった。
汚職や事件のもみ消し、政治的や企業的なあれやこれやと延べ百を呆気なく超える罪によって、協会関係者のみならず司法、立法、行政全機関に取締役から社長、幾人かの魔装少女を含めた何十人単位の人間が逮捕される事態となった。
犯罪に問われなくても責任を取る形で立場を失ったものが、少なくとも万単位存在するほどで、社会全体が改革せざるを得なくなった
テレビも連日連夜、協会の事を常に発信し続けている。特に第3支部や本部を中心とした上層部の悪事がメインであり、例の第3支部の代表を見ない日は無い。
一方で魔法少女などは巻き込まれただけと擁護する報道が多く、そのため最初の頃はシスター・イースターを中心に魔装少女に対する過激的な不安感を表に出す者が多かったが、気がつけば世間のヘイトは第3支部代表を筆頭とした邪悪でありながらただの大人だった者たちに向けられる事となった。
ネットの方では奇妙なほど大人しく、話題やニュースは飛び交っても協会や魔装少女に関して過激的な意見や批判を行なうものは殆ど見られない。自由の海と評されたネットの世界はもはや昔のこと、それが暴力による抑圧であることは間違いないが、無関係でありながら関係者となってしまった者たちにとって触れる悪意は確実に減っている。なので正直ありがたいと思うものは後を絶たない。
迅速に物事は進んでいき、解決されたものも多くある。それでもまだまだ熟さなければいけない問題は多く、混乱は冷める様子を見せなかった。
そんな新たな時代に到来した中、鬼美という太古の魔装少女の魂を身体に宿す桃川にも転機が訪れていた。
「――というわけで、このマンションの所有者さんは引き続き魔装少女の支援してくれるみたい。だから暖子はこのまま住んでも良いって」
5LDKの高級マンションの一室。そこに住んでいる暖子とセブンスガールズのひとりである黒稗天委が今後の事について話し合っていた。
魔装少女協会は、様々な分野に肥大化してはいたものの、名目上はあくまで支援団体という事もあって、魔装少女の助けとなるならと一般人から様々な多額の支援や援助を貰っていた。暖子が住む高級マンションもそんな支援のひとつであり、魔装少女が快適な暮らしをしてくれるようにと、家賃光熱費水道ガスなど生活関わる全てが無料となっていた。
しかし、戦争決闘五番勝負以降。支援者やスポンサーは協会との関係を考え直す必要が出てきた。
完全に打ち切るものも居れば、ほとぼりが冷めるまで様子見をするものなどが居る中、桃川が住むマンション所有者は、むしろ魔装少女にとって今が大変な時期だと支援を続行してくれる事となった。
「……わかった! えっと……ありがとう!」
「暖子が感謝してたって所有者さんに伝えておくよ」
――難しく考える必要は確かにないけど、もうちょっと頭を動かしてほしいもんさね
桃川は聞いた詳細な話を自分の脳みそで解釈できるまでかみ砕いた結果、大体が消化されてしまい、このままマンションに住んでいいという事だけ理解した。日本が大混乱の中、とくに変わった様子のない桃川に黒稗は苦笑して、鬼美は諦めた様子でため息を吐いた。
「とまぁ、暖子の生活についてはこんな所かな? なにか質問ある?」
「えっと、じゃあアイちゃん、最近休めてる?」
「あ、えっと……あんまりかな」
まさか自分の事を聞かれるなんてと戸惑い、心配してくれた事に嬉しくなりながら黒稗は答えた。弁金から習った化粧で隠してはいたが目元にはうっすらと隈があった。心なしか少し窶れている。
「大丈夫なの?」
「ちょっと無理しちゃって弁金先輩に怒られちゃった。明日から少しお休み貰うから大丈夫だよ」
「やっぱり大変?」
「うん。殆どはリモート通話とかですんでいるけど、どうしても直接足を運ばないと行けない所があったりするから、東京中を行ったり来たりしてるよ」
戦争決闘後、黒稗だけではなくセブンス・ガールの五人は『アーマード』の手伝いをしていた。彼らは裏で協会に関係する様々な戦後処理活動の最中であり、特に天使と正義は忙殺されていた。そんな二人を筆頭に他のブレイダーたちにも相応の仕事が割り振られており、七色に与えられたのは魔装少女名鑑に載っている魔装少女たちを上から順に現状の確認、それには協会側の意向説明及び相手がわの意向確認も含まれていた。
本来であれば協会側がする仕事なのだが人手がまったく足りず、また協会に対して魔装少女たちの強い不信感が目立つことから、“まじむりぽ”と現協会長から泣きが入った事。その他色んな理由から『アーマード』側が担う事となった。
「本当に大変じゃん」
「でも明日はセブンスとずっと一緒に居られるから頑張る」
「そうなんだ! よかったね!」
「うん! 動く元気は余ってないかもだから漫画喫茶に行こうと思って、オススメの漫画を一緒に読もうって、今から楽しみ……」
「いいね! 楽しんできてね!!」
「うん!!」
七色が与えられた仕事はセブンス・ガールの仕事。それが当然と言わんばかりに五人は手伝ってと言われるまでもなく動き出して仕事の全てを強奪。七色に残ったのはその仕事で疲れた彼女たちへの慰労行為だけとなってしまった。彼女たちにとって“七色本人が忙しくなって一緒に居られる時間を作れなくなるほうが大問題”なのである。
なお天使は元から手伝って貰う前提で仕事振ったけど、動き早すぎてちょっと引いた。
そんなわけでセブンスガールたちは時々七色と一緒に休暇を楽しむ事を除けば、魔装少女の力を使いながらフル稼働していた。魔力と体力を調整するため人間状態の黒稗であるが、ここに来るまでの丸一日、ずっと魔装少女に変身しぱなっしだったりする。
「……暖子。二つほどお願いがあるの」
黒稗は気まずそうに頭を下げて上目遣いで桃川を見る。お願いってなんだろうと桃川は首を傾げた。
「わかった、いいよー」
まあアイちゃんのお願いだし、なんでもいいかと桃川は話を聞く前に承諾した。
――暖子、ちょっとトイレ行くさね
「ア、ハイ……ゴメンチョットトイレー」
「う、うん……?」
ドナドナな様子でトイレへと行く桃川。もしかしてずっと我慢して話し聞いてくれたのかなと勘違いした黒稗は戻ったとき謝ろうと反省する。
――三分ほどトイレで鬼美の説教を受けた桃川は改めて、黒稗にどんなお願いか内容を尋ねた。
+++
翌日、桃川は東京都内にある田んぼ道に囲われた町へと来ていた。
「なんだか東京の中でもちょっと外れるだけで別世界だね」
――どの時代でも取り残された田舎ってのは減らないものさね
「はっきりいうじゃん……でも、本当にここが協会支部なの?」
――看板横の張り紙を見るに間違いないみたいだねぇ
桃川がナビに従い辿り着いたのは、築30年以上は経っているであろう町の住民達が集まる“公民館”。玄関横には公民館の名前が彫られた看板があり、その隣に『魔装少女協会第20支部』とえらく達筆な字で書かれた張り紙が貼られていた。
黒稗のお願いとは自分たちの手伝いだった。黒稗の疲労が限界に近づいてきたことに気付いた弁金はスケジュールを変更。その事により訪問するはずだった支部へ行けなくなったのだ。それを踏まえて流石に五人で回すのに限界を感じた弁金は、各々に手伝いが出来そうな信頼できる魔装少女や人物などに声を掛けるようにお願いしたのだ。
なので友達と呼べるものが一人しかいない黒稗は、その一人、桃川に手伝いをお願いするのは当然であり、改めて事情を聞いた桃川も友達のたのみだからと即OKを出した。
桃川が来た町の“公民館”は協会の第20支部として使われていた。桃川にとって協会支部は派手で大きい建物というイメージだったため、言ってしまえば年期が入った普通の建物が支部という事に純粋に驚き、廃校を使った『魔装少女塾』のようだと親近感を持った。
「不安だなー。うまく出来るかな?」
――やることは決まってるんだから、そう難しいものじゃないさね
「でも、アイちゃんから頼まれたことなんだし、ちゃんとやりたいよ」
――下手に意気込むよりかはいつも通りでいいさ。ただでさえドジが多いんだ。気を遣った所で失敗するのは目に見えてるよ
「それなにも言い返せないやつじゃん。でもそうだよね、よし!」
鬼美の言うことを単純思考で真に受けた桃川は気負っていた気持ちを放り投げて、いつもの調子に戻り、チャイムを鳴らした。
「こんにちわー! 誰か居ますかー!!」
――暖子。こういう時は叫ぶにしても名前と用事を言うものさね
やっぱり多少緊張を持たせたままのほうが良かっただろうかと、鬼美はちょっと後悔した。
しばらくすると支部内から小走りで廊下を歩く足音が近づいてきて扉が開いた。中から出てきたのはスーツを着た丸眼鏡の女性。
「――はい、こちら魔装少女協会第20支部です。なにかご用でしょうか?」
+++
第20支部は、下から二番目の数字を与えられている支部とあって振り分けられる予算はスズメの涙。在籍魔装少女は3名、スタッフは代表1名の計四人と地方支部と比べてもとても小さい支部であった。
地味で目立たない。コアなファンでも存在だけは知るものが多かった支部であるが、そこに在籍する20支部のリーダーであるエリアル・アイスは、戦争決闘五番勝負でブレイダー・エデンと戦った事で知名度が一気に上がった。
とは言うものの、彼女に対する世間の評価は“可哀想”である。何故なら本部から脅迫紛いな行為で渋々出場させられたあげく、エデンにセクハラ紛いな事をされて大敗。最終的には本当に巻き込まれただけだったと発覚したことがさらに同情を集めた。
「……あつい」
――そんなエリアル・アイスは20支部内にある大広間にて、畳の上に寝そべってアイスを堪能していた。細身で高身長な彼女に合わせるように、あえて裾が余分でぶかぶかな『エアコン全開!』と書かれたTシャツとハーフパンツを着て完全にだらけている。
「ストーム、エアコンの温度下げて」
「これ以上は寒いのでいやです。するにしてもせめて自分でやってくださいでーす」
「めんどくさい」
「私もそうでーす」
アイスと同じ20支部に所属する魔装少女――ストーム・アローは壁にもたれ掛かって動こうとしなかった。その傍にはおやつのチーカマが雑に置いてあり、包装フィルムを剥いては食べている。
アイスがロシア美人と呼ばれているならば、ストームは日本人が考える金髪碧眼のイギリス美人である。そして『寝ながら喰うチーカマは美味い』と書かれたTシャツとジャージ姿であることから、アイスと同類である事が一目で分かる。
「……いま思い出したんだけど、今日だれか来るんだったっけ?」
「そうですよー。たしか協会だか『アーマード』だかの人が私たちのこと見に来るとか」
「どうして?」
「さあ?」
アイスは少し考える。間違いなく戦争決闘五番勝負関係だ。なんだか代表が話していたのを思い出した――あたりで考えるのが面倒になって、思考を放棄した。
「ところで私たちせめて変身した方がいいじゃないです?」
流石にTシャツで客人の前に出るのは不味いのではと言うストーム。アイスも確かにと同意する……が、なんか別にいいような気がしたし、アイス食べてるし、魔装少女になると暑くもなければ涼しくもないから、あんまり落ち着かないと、ひと言ですむ変身が億劫となる。
「あー……いいんじゃない?」
「そうですね。これが私達の日常、つまりスタイル。なにも恥る事は無いですね!」
「イエス」
「いいわけないでしょ!?」
どこまでもマイペースな二人の鼓膜に怒鳴り声が突き抜ける。その声の主は丸眼鏡でスーツ姿の二十代後半の女性――20支部の代表である。ちなみにその隣には桃川も立っており怒声の被害にあっていた。
「おーう……」
――あっはっは! 大人しい子かと思ったら存外良い声だすさね
「……はっ!? す、すいません! と、とりあえず何もない場所ですが座ってください」
「五月蠅い……」
「もうお客さんを驚かすなんて、代表ってばドジですね」
「元はと言えば貴女たちの所為でしょ!? 今すぐ着替えるか変身しなさい!」
「「えー」」
「あ、わたしも魔装少女になったほうがいい?」
「あ、えと……お構いなく!」
「代表、それ客が言うやつでーす」
――それから少し経って、渋々と魔装少女になったエリアル・アイスとストーム・アローが部屋の隅っこで、そして何故か釣られて変身したサンシャイン・ピーチがチーカマとお茶を堪能していた。
「チーカマ美味しい~」
「私のおやつが……」
「何か?」
「ナンデモナイデス」
中世の狩人を思わせる魔装姿となったストーム・アローが次々と食べられるチーカマに切ない声を出すも、20支部代表の人睨みに顔を背ける。
代表がお茶請けを用意しようとしたところ、客用に別の場所に閉まっていた筈のお菓子たちが全滅していた。犯人はもちろん20支部の魔装少女たちである。なので20支部の代表は遠慮無くストームが備蓄しているチーカマをお茶請けとして出した。ピーチが望むならばエリアル・アイスの
――暖子、食べるのはいいけどやることやってからにしな
「んっ! っとそうだった! えっとアイち……じゃなくて約束していたパンチャー・ノワールの代わりに来たんだけど、えっとえっと……」
「大体の話は伺っています。改めてここ20支部の代表を務めさせて頂いています
「あ、どうもです」
テンパるピーチに、対面で綺麗な姿勢で正座の20支部代表こと廿里は名刺をピーチの前に出した。
「では事を急ぐようで申し訳ありませんが、今から私たち魔装少女協会20支部の意向についてご説明させていただきたいのですがよろしいでしょうか?」
「は、はい」
「端的に申しあげれば、エリアル・アイス。ストーム・アロー。そして今はここに居ないマッハ・カームの協会第20支部に属する3名の魔装少女全員、今後とも協会の魔装少女として活動していきたいと意見が一致しました」
ピーチが反省中の二人を見れば、廿里の言葉に同意するように頷いていた。こっそり足を崩したりしてるのは見ないことにしてあげた。魔装少女でも慣れない正座は辛いものである。
「そして三人は引き続き20支部での活動を強く希望しています」
「わ、わかった……じゃなくて! な、なんだっけ……! わ、分かりました! 20支部のみなさんの意志はしっかりと確認しました! これからも協会の魔装少女及びスタッフとして健全な活動をお願いします!」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
「ふぅ……ありがと~鬼美~」
――まっ、元気いっぱいに言えたのは褒めてやるさね
話し合いは終わったと、廿里は雰囲気を柔らかくして、ピーチは無事に終わった事にほっとする。そしてとっさにカンペ役を担ってくれた鬼美に小声で感謝を伝えた。鬼美のほうは別に“下手でも言い切るだけでよかったこと”もあって、甘々に評価する。
言ってしまえば、この二人のやり取りは形式上のものである。廿里は既に代表として20支部に関わるもの全てを上に報告しており、意向確認や話し合い自体は既にネットを通して終わっていた。しかし20支部から正確に言えば廿里から、形だけでも直接的なやりとりは出来ないかとお願いされた事で、ピーチが来たのだった。
「私のためにわざわざ来てくれて本当にありがとね。協会の状況が状況だから、どうしても信用できなくて……。自分の我が儘でとても無駄な事をさせてるって自覚はあるけど……来て貰えて本当に嬉しかったわ」
廿里は代表という責任ある立場として、魔装少女たちを護らなければいけないという強い使命感を持っている。それを抜きにしても友達として、あるいは親友として三人のことが好きだった。そんな彼女たちの生活を不躾で荒らす協会上層部には強い嫌悪感を抱いていた。
そう思うようになった理由は幾らでも挙げられるほどであり、協会の様々な悪事が明るみになった事は言わずもなが、支援は常に最小限。改善を求めても適当にあしらわれるだけと元から待遇が酷く、極めつけは20支部の存続を盾に、エリアル・アイスを戦争決闘に参加させたこと等々。
なので新体制となった協会、および必ず関与しているであろう『アーマード』に対して、どうしても拭えない嫌悪感の緩和。そして信頼したいがゆえに誠意が欲しかったのだ。
「あの……代理なわたしでよかったんですか?」
「誰よりも忙しいのは分かっているわ。それなのにこんな良い子を送ってれたんだもの……。私も協会で働く大人として精一杯働くわ」
新体制の協会とはすでに話し合いの中で様々な事を約束してくれたが、それでもすぐには信じきることはできない。『アーマード』の干渉でどんな未来に進むのか不安もある。それでも誠意を見せてくれた以上。廿里の腹は決まった。
「って、ごめんなさい。お客様に、それも関係の無い魔装少女である貴女に愚痴を言うなんてひどく申し訳ないことを……」
「そうです。そういうこと言うなら私たちに言うべきです」
「私たちにも遠慮無く相談するべき」
「ストーム……アイスもありがとう……でもこっそり楽な姿勢で怠けようとしない!」
「「ちっ」」
年はそこまで離れていないが、二人に対する廿里はまるで母親のようであり、そんな彼女に二人は甘える子供のように見えた。
仲がいいなーと暖子は一仕事終えた充実感に浸りながらお茶を啜る。そんな和やかになったところで、ドタドタと騒騒しい足音が鳴り響き、襖が勢いよく開かれる。
「――おまたせ。用事を済ましてマッハ・カーム。マッハでカムりて参上」
中学一年生のピーチとほぼ同じ背丈で、くせっ毛が目立つ焦げ茶色の髪をした褐色肌。そして学校のジャージ姿である少女が決め台詞的なものを口に出してポーズをとっていた。
「あれ? お客さん居たんだ。ようこそなにもない支部ですがせめてお菓子でも……と思いましたが、このあいだ私たちで全部食べちゃったので、ストームのチーカマかアイスのアイスでもお食べください」
「すでにお出しましたでーす」
「あれ? 二人はどうして正座してるの? もしかしてお客さんの前であのだらけたTシャツ姿で出ました? まさか怠惰な二人と言えど、そんなこと……するよね」
「あれが私たちの正装」
「そんなわけないでしょ!」
――また癖が強い子が現われたねぇ
抑揚ない声色と無表情なマッハ・カームであるが、台詞と挙動が妙に五月蠅い。鬼美は今時の魔装少女は個性がないと務まらないのかと疑問に思ったが、よくよく思い出せばあたしたちの方が酷かった気がすると思考が遠いどこかへ旅立ちかける。
「これで20支部全員揃った」
「だから何かって言われるとなにもないでーす」
「手作りダサTをあげたらどうですか? 代表が書いたあの無駄に達筆のやつ」
「いや、流石にどうかと」
「え? くれるの!? 欲しい欲しい!」
「まさかの好印象」
マッハ・カームの言うとおり無駄に達筆な字で『ほどほどな労働』と書かれた手作りTシャツをお土産として貰ったピーチは純粋に喜んだ。今日早速パジャマに使う予定である。
「うむむ、都会住まいの魔装少女に気に入って貰えるなら、自作ダサTを20支部名物として売り出してみるのもありかも、善は急げ、段ボールの中に閉まってあるやつ全部だして吟味しますか」
「いやでーす。面白半分で作ったあれらが世間の目に晒されるのは流石に恥ずかしいです」
「めんどくさい。どっちでもいい」
「魔装少女投票賛成2で可決。では今すぐ押し入れから出してくるね」
「アイスのは別に賛成ではないです! ぐぬぬ、こうなったらお客様! お客様の中に魔装少女はいませんかー!」
「――わたしが魔装少女です」
20支部のやりとりにピーチノリノリで参戦。手を上げながらスッと立ち上がる。
「お客様! このままでは恥ずかしい自作ダサTが売られてしまうです! 助けてください!」
「はい! それ私も見たいし、ちょっと欲しいです!」
「私抜きにしても二票でストームの負け」
「墓穴掘ったでーす!」
ちなみにあたしを含めれば実質三票で完全敗北さねと言う鬼美に、ピーチは吹きかけたが気付かれることはなかった。
サンシャイン・ピーチも混ざって盛り上がる魔装少女たちに廿里はなにしてるのと呆れながらも、外部の人間がいても何時もの調子であるエリアル・アイスに安堵する。
エリアル・アイスは
――とはいえ表面上は平気に振る舞っているかもしれない。私たちの前だけいつもの調子でいられるのかもしれない。悩みは人並みに溜め込んでいるかもしれない。
考えすぎかもしれないが、少しの変化も見逃さないように彼女たちを見守る大人として他20支部に所属する魔装少女たちを、改革期となった時代でもしっかりと護っていきたいと廿里はひとり静かに意気込む。
「あ、これなんてどうです? 『コーヒーよりも紅茶を飲める毎日になりたい』って中々の名言っぽくていいですね!」
「迷言の間違い。それよりこの『血と汗と丸眼鏡』のほうが売れそう」
「それもいいけど『仕事のデータが消えるぐらいなら世界が消えろ!』がインパクト高くて第一弾に適してるのでは?」
「全部字が綺麗! というかめっちゃあるじゃん」
――なんだか凄い気迫を感じるさね
「なんで全部、私の作品なんですかっ!?」
魔装少女達の手に持っているシャツが全て、自分の作品だと気付き顔を真っ赤に声を荒げる。ちなみにカームに誘われてやりだしたら、思いの外嵌まってしまい。今では月に理由を見つけては3~7枚作っており、作品数は誰よりも圧倒的に多いので、こうなるのは必然だったりする。
「ああもう。とにかくTシャツを販売するにしてももう少し落ち着いてから――グレムリン警報!」
スマホから独特の音楽が鳴り響く、それは魔装少女たちにも馴染みがあるものでグレムリンが現われた事を知らせるものだった。
「はぁ、めんどくさい」
ゆらりと立ち上がるエリアル・アイスに引き続きマッハ・カームとストーム・アロー、そしてサンシャイン・ピーチも続く。
「じゃあアイス。いつもの所に先に行ってるので早く来てね」
「……また違うやつ?」
「はい。そんな嫌そうな顔せずともご安心を、今回はすごく自信があります。それでは」
「いつもそう言って……はぁ」
忙しなく外へと出て行ったカーム。アイスは盛大にため息をついたあとゆっくりした歩調で追っていった。
「じゃあ、私は先に現場へと向かうです。ピーチちゃんはどうします?」
「私も一緒に行きますけど……あの二人はどうするの?」
「心配しなくても大丈夫ですよ。……ピーチちゃんがよければ最近巷で噂の名物を見ますか?」
悪そうな顔でそう言うストームに、ピーチは何かと興味津々に瞳を輝かせて。廿里は馴染みすぎてピーチが外の魔装少女だと忘れていたため、ちゃんとするように言うタイミングを逃したと眉間に皺を寄せた。
金「みなさんどれぐらい集まりましたか? 因みにわたくしはゼロですわ」
銀「ゼロ」朱「ゼロ」灰「ゼロ」
黒「ひ、ひとり……」
みんなでめちゃくちゃ黒を褒めた。
この作品を描き始めて一周年が経ちました(9/19)。
本当に嬉しい限りです。ありがとうございます!
前話で語るの忘れてました!
そして2章終わりの活動報告にて失楽園を書くの忘れてました(気がついたの数日前)
……こんな作者ですが、作品を楽しんで頂けたら幸いです!
投稿した日はワクチン(一回目)なので、次第によっては更新に影響があると思いますが悪しからずです。それではお待ちになってください次回!