変身ヒロインが守る世界にて十人の変身ヒーローは戦う   作:庫磨鳥

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本当ならもっと早めに出せる予定でしたが。コロナでもコロナワクチンでもなく、普通の風邪を引いて38度台の熱を出して四日~五日寝込んでいました( ̄▽ ̄)どうして……。熱が引いたいまでも咳だけは止まっていなかったり。

そんなわけで執筆に何かしらの影響が出ていると思いまして、もしかしたら後日大幅な修正があるかもしれませんが、それでも楽しんで頂けたら幸いです。




新米魔装少女の気苦労その3 後編

グレムリン。異世界から来たる精神生命体。『次元の狭間』を通って地球へと来たる彼らは、ただひたすらに暴れ、目についたものを壊し続ける。地球の物質兵器では傷付けることはできても、決して殺すことはできず。魔装少女の魔法によってしか殺すことの出来ない猛獣である。

 

そんなグレムリンたちはフェアリーたちと同じ精神世界出身であり、フェアリーとは進化の過程で袂を分かった起源を同じものとする精神生命体である。

 

精神世界において魔法を活用した現象や存在の変化を元に糧を得るフェアリーたちとは違い。グレムリンは他者を加虐したさいに発生する感情を糧にすることを選んだ。彼らが地球で暴れるのは食事行為以外のなにものでもなく、物を壊した時、命を傷付けた時に溢れ出る恐怖、怒り、嘆き、絶望などが彼らにとってご馳走だからだ。

 

つまるところグレムリンというのは餌を求める害獣でしかない。しかし地球産の兵器では死ぬことなく、ブレイダーや魔装少女の攻撃以外で受けた傷であるならば瞬時に回復してしまう。そしてフェアリーとは違い獣であるために交渉の余地はなく、己が生きるために必ず人間を襲う凶暴性。個体によっては一日放っておくだけで町ひとつを滅ぼしかけない危険性を持つことから、魔装少女が増え続けている現在であっても生物災害の評価は決して下がることはなかった。

 

 

――東京都内の自然豊かなキャンプ場。七月初め、夏の本格的な熱さがはじまる前にとキャンプに来ていた人は多く、手入れがされている芝の上には何十もののテントが設置されていた。キャンピングカーも少なくない台数停まっており、その周辺にはBBQコンロやクーラーボックス、焚き火用の薪などキャンプを楽しむ人たちのキャンプ道具で溢れかえっていた。

 

しかし、そんなキャンプ場は現在、放牧的では無い嫌な沈黙に支配されており、人がひとりも居なかった。その原因となったのは、CGで作られたかのような空間の亀裂。『次元の狭間』と呼ばれるものが出現しため、キャンプに来ていた人は全員、キャンプ場のスタッフたちに先導されて、遠く離れた場所に避難したからである。

 

グレムリンが地球へとやってくる前兆である『次元の狭間』であるが、これ自体は地球と精神世界が一時的に繋がった際に発生する自然現象でしかない。そんな偶々生まれた『次元の狭間』を使い、こちらも偶々近くに居たことで豊富な感情(食い物)の匂いを感じ取ったグレムリンが誘われるように地球に来る。というのが、グレムリンの地球来訪の原理である。

 

そのため『次元の狭間』が発生したとしても、精神世界の方でグレムリンが居ない場所に繋がり、そのまま時間が過ぎて何事もなく『次元の狭間』が消滅する場合も多い。しかしながら、何もない一方で“ありすぎる”というのもよく見られるものだった。

 

キャンプ場に現われたグレムリンは一体だけではなかった。巣に直結してしまったのか10体ほどのグレムリンが現われて、各々糧をえるために破壊のかぎりを尽くす。

 

グレムリンは地球の、物質世界の環境に触れた瞬間、生きていけるための“肉体”を本能的に魔法で作り出す。それはフェアリーの『着ぐるみ』と同じ、地球に存在する物質生命体の情報を取り込みんで肉体を作る魔法だった。

 

フェアリーの場合は燃費がよく魔力リソースを最低限にし、機能性に重視した『着ぐるみ』を作るが、グレムリンは魔力リソースを全て消費し、他者を攻撃するための頑強で性能のいい肉体、そして爪や牙などといった武器を得る。

 

10体のグレムリンは猪に人を足したような姿をしていた。その巨体、重量、大木を簡単にへし折る力、口横に生える鋭い角。どれをとっても人間に脅威にしかならない獣たちが、餓えを満たすために暴れ回る。

 

――ボロアアアアアアアアアア!

 

テントが壊され、キャンピングカーが粉砕される。遠くで見守っていた人たちが私物を破壊された事による感情(ショック)を大量に生み出す。それがあまりにも美味しくて、イノシシ型のグレムリンたちは歓喜のあまり雄叫びを上げる。

 

もっと、もっと食べたいと餓えるグレムリンたちは感情の発信源。つまり避難したキャンパーたちへと視線を向ける。

 

――あいつらが感情(食い物)を生み出す。直接危害を与えていないのにも関わらず今まで感じたことのない美味なる感情(食い物)を生み出す。であれば直接危害を加えればどうなるか? もっともっと美味しいものを生み出してくれるに違いない!

 

イノシシ型グレムリンたちが人間達を標的に選んだ。元とのなった生物特有の突進力を活かして突撃しようとする。全ては己の餓えを満たすために。

 

「――はいはいそこまででーす!」

 

しかし、その前にグレムリンの天敵と呼べる存在――魔装少女が空から現われた。声に反応したイノシシ型のグレムリンたちは足を止めて上を見上げる。

 

「〈魔法展開(スペル):マジックショット80〉!」

 

20支部に所属する魔装少女、ストーム・アローは自由落下するなかで生成した計80発の小さな魔力弾をグレムリンに射出。命中はおよそ半分程度で、ダメージも無いが元から注意を引くための攻撃であるため問題はなかった。

 

ストーム・アローが地面にある程度近づいた時、事前に発動していた魔法〈ウィンドパラシュート〉によってまるで開いたパラシュートを装備しているように落下スピードが急減速、ふわりと着地する。

 

「嵐のようにストームアロー推参でーす!」

 

名乗りをあげてノリノリでポーズを決めるストーム・アロー。これによってグレムリンたちの意識は完全にストーム・アローに固定される。

 

「いやぁ、今日は大量ですね。他の魔装少女はまだ来てないようで……あれ、私やばくないです?」

 

イノシシ型グレムリンが十体、一方で魔装少女は自分だけと人数不利は明らかである。

 

「めっちゃ怖いでーす!……なんてね!」

 

わざとらしい脅えた“ふり”をストーム・アローがすると、イノシシ型グレムリンたちは容易い相手だと認識したのか、彼女に向かって突進する。

 

自動車並みの速度且つ群れを成して突進してくるイノシシ型グレムリンたちに対してストーム・アローは跳躍。四体目と五体目の間ぐらいに移動。グレムリンたちはそのまま突撃するもの、振り向き再突進を行なうもの、足を止めて拳を振るうものなどに別れ、攻撃タイミングに大幅な時間差が発生した。

 

「〈魔法展開(スペル):フェンニングアーマー〉」

 

風の推進力を得ることができる魔法を唱え、魔装に風を纏わせたストーム・アローは、風に乗る木の葉のような動きで、ひらりひらりと舞い踊り、イノシシ型グレムリンの攻撃を避け続ける。

 

「嵐を捕まえるだなんて、命知らずですね!」

 

ストーム・アローは数が圧倒的に負けていること、明らかに見た目から防御値(DEF)が高そうな事から、すぐに自分がやるべきことを時間稼ぎへとシフトした。イノシシ型グレムリンの挙動は遅いために攻撃を避けること自体は簡単なのだが、不安があるとすれば他の魔装少女が何時来るかである。

 

「おっ、今回はいい感じでしたか」

 

今回は真面目に現場へ向かってねって言えばよかったですねと後悔していると、“大型スーパーで見かけるショッピングカート”を押しながら超高速でこちらへと走ってくる陸上選手が着るようなスポーツウェアにジャケットを着込むような魔装少女。マッハ・カームが見えた

 

「――おーまーたーせー。ストーム!」

 

自身と接触している物体に掛かる風圧を無にする『固有魔法』と、速度関係の魔法を駆使して自動車並みの速度で20支部からキャンプ場まで走ってきたマッハ・カームは、イノシシ型グレムリンの群れとストーム・アローよりも数メートル手前で停止。

 

「はいでーす。〈魔法展開(スペル):落葉風の術〉!」

 

魔力で生成された落ち葉のような物体が混じるつむじ風がイノシシ型グレムリンに襲いかかる。体中に纏わり付く葉に気を取られている隙にストーム・アローはマッハ・カーム“たち”の傍へと後退。ショッピングカートに中にいる“魔装少女”に声を掛ける。

 

「さあ! これ以上被害が広がらないうちに全部倒しちゃうです!」

「…………」

「行くですよ。エリアル・アイス!」

「…………おえ」

「だめそうでーす!」

 

エリアル・アイスは怠惰である事を別にしても、魔法の才能が『固有魔法』に振り切っているせいもあってか身体強化の魔法は殆ど効果が無く、魔装少女としてのステータスも素の状態とさほど変わらない上に運動音痴である。

 

なのでグレムリンが現われた際は、マッハ・カームに何かしらの手段で運んで貰うのだが、今回の“何かしら”であるショッピングカートの中でエリアル・アイスは顔を真っ青にしており、完全に重度の乗り物酔いを患っていた。

 

「乗り心地は酷かったみたいですね」

「さい、あくっ!」

「乗り心地も操作性もバツ。でもクッション入れたりタイヤを替えたりで改善できそう、次回もよろしくね」

「二度と乗らないっ!」

 

エリアル・アイスは最初こそまともな方だと評価したが、いざ乗ってみれば金属に直接座るだけあって動く前からちょっと痛い。タイヤではなく車輪は外で使うことを想定していないため道に少しの溝があったなら、浮くわズレるわ叩き付けられるわの大惨事。ちなみに二回ほど転倒して投げ出された。

 

「吐きそう……お尻痛い……というか全身痛い……吐きそう……うえ……」

「なんでもいいけど、魔法だーして、早くしないと被害が広がるです」

「鬼……」

 

現場に来た時点で満身創痍のエリアル・アイスに、ストーム・アローはいつものことだと遠慮無く要求する。イノシシ型のグレムリンたちはようやく落葉風から解放されており、その発生源であるストームに怒り心頭。十体全てが第20支部魔装少女に向かって突進する。

 

「鬼でもなんでも魔法発動してくれないと終わんないでーすよ」

「分かってるわよ。ああもう……〈固有魔法展開(エクストラ):凍る結晶〉」

 

〈凍る結晶〉は自らが生み出した“風”の中に氷の結晶を生み出す固有魔法。その氷の結晶に触れた物体は瞬間冷凍される。気分が悪いエリアルアイスが無気力に腕を仰いで発生した風でも条件は満たされており、複数のも氷の結晶が生まれる。

 

「これで終わりでーす! 〈魔法展開(スペル):ブリーズカプリーズ〉」

 

ストームの魔法によって生み出されたそよ風に乗り氷の結晶が飛んでいく。その行き先はイノシシ型グレムリン。

 

ボロアアアアアア――。

 

ストームがここに来て己の魔道具である弓を生成。氷の結晶がイノシシ型グレムリンに触れると、彼らは急速に熱を奪われて抵抗する暇もなく瞬間冷凍される。

 

「〈固有魔法展開(エクストラ):ストーム・アロー〉」

 

 

矢が装填されていない弓の弦を引き絞り、氷像と化したグレムリン達に狙いを付ける。すると風が弓に集まり矢の形へと固まっていく。

 

ストーム・アローは限界まで引き絞った弦を離した。放たれた風の矢は目標に命中する前に分裂していき、気がつけば百を超える風の矢がイノシシ型グレムリンに襲いかかる。

 

――イノシシ型グレムリンたちは氷像のまま命を終え、砕かれた氷たちから粒子が上がり、空へと溶けていった。

 

+++

 

「みんな凄かった!」

「ありがとでーす」

「というか間に合わなくてごめんね! 代わりに後片付け頑張るよ!」

 

それから少し時間が経ち、サンシャイン・ピーチと20支部の面々は壊されたキャンプ場に残っていた。

 

ピーチはマッハ・カームとエリアル・アイスに付いていく形で最近精度が上がった身体強化魔法を駆使して現場へと向かっていたのだが、途中転倒したために先に向かったのにも関わらず、マッハ・カームに追い抜かれて到着したのは全てが終わってからだった。

 

エリアル・アイスは今だ気分が回復しておらず日陰で休んでおり、ストーム・アローも小休憩。マッハ・カームはショッピングカートを活用してキャンパーたちの壊された道具などの後片付けの手伝いをしていた。ピーチはそんなマッハ・カームのお手伝いをしている。

 

「車は半壊の時点でグレムリン保険は満額でると思いますよ。民間の入ってません? じゃあ自動車保険のほうで請求したほうがいいですね。国民のほうだと最大でも車関係は百万しかでませんが自動車保険なら、これぐらい壊れていれば新品下ろして貰えますよ」

「保険のことめっちゃ詳しいんだね!」

「グレムリンが暴れた後って、やっぱり私物を壊される人が多いから知っておくと色々と助言が出来て便利なのです。あ、壊されたテントとかキャンプ用品は免許証とか保険証と一緒に纏めて写真撮っておくだけでいいですから――」

 

テキパキと身体も口もショッピングカートも動かすマッハ・カームのおかげで作業は滞りなく進んでいき、ピーチはグレムリンと戦うこと以外で活躍する彼女に尊敬の念を抱く。

 

「ああやって答えられたら格好良いよね! わたしも保険のこと覚えようかな?」

――何事も知識は武器になるから賛成さね。だけど保険関係は塾でやっていたはずなんだけど覚えていないのかい?

「……何回か聞かないと覚えれられないものってあるじゃん……」

――まずは予習復習って単語を覚えるところからかね

 

『魔装少女塾』、魔装少女のOGやフェアリーなどが在籍している、魔装少女になるため或いは魔装少女として役に立つ知識を学ぶ学習塾であり、桃川は魔装少女になる前から親に頼み込んで通っているのだが、難しい内容となると中々に覚えきれないのであった。

 

「お疲れでーす、はい差し入れ」

「うひゃ!?」

 

うなじに冷たい缶ジュースを当てられて変な声を出してしまうピーチ。予想通り良い反応だとストームは陽気に笑う。

 

「びっくりしたじゃん!」

「ごめんごめん。脅かしちゃった代わりにこれは私の奢りでーす」

「いいの? ありがとう!」

 

魔装少女とは言え夏の日照りに長時間晒されたため喉が渇いていたピーチは早速、貰ったジュースをグビグビと飲み出す。

 

「プハー! 染みる~!!」

――年寄りくさいねぇ

「だって喉渇いてたんだもん」

「ん?」

 

小声で鬼美に返事をするピーチだったが、距離が近かったこともあってストームに聞かれてしまう。

 

「あ、いや……そういえばっ! ストームさんすごく強くてすごい強いですね!」

――やっぱり何かを覚えるよりも先に語彙力という基礎をあげることから始めたほうがいいかもねぇ

「ありがとでーす。まっ、昔は第2支部に居たので、多少他の魔装少女よりかは動けないとってやつでーすね」

「え? 第2支部に!? 本当にすごいじゃん!」

 

――戦闘ガチ勢。武闘派魔装少女の根城などで名高い魔装少女としての戦闘能力を磨き上げることを何よりも優先する魔装少女第2支部。ピーチは強い魔装少女に憧れもあってか第2支部の事はよく調べており、元々はそこに在籍していたというストーム・アローに尊敬の念を送る。

 

「でものんびり好きな私としては毎日修行漬けの環境にあんまり馴染めなかったので。今は20支部でのんびりやらして貰ってるでーす」

「大変だって聞いたことあるけどやっぱり凄いんだ」

「そうですね。元の身体が強くないと魔装少女になっても弱いからって、魔装少女の力無しで富士山の天辺まで登らされたり、一日中ひたすらプールで泳がされたりする事があったです」

 

元の肉体を鍛えれば、魔装少女の基礎ステータスが向上する。第二支部はその基礎ステータスをあげる事を重点に置いており、結構ハードなメニューを魔装少女たちに与えていた。

 

ストームは当時の事を思い出して遠い目をする。実りのある日々ではあったが上から下まで体育会系を通り越した戦闘狂の集まりで年単位で在籍していたが最後まで馴染むことはできなかった。

 

「精神力を鍛えれば魔力も増えるからって滝行できる場所があったぐらいでーす」

「まじで!?」

「マジでーす。実際効果があったと言われると微妙ですけどね」

 

それはちょっと面白そうと思うピーチ。そんな内面で鬼美は精神力と魔力は違うものなんだけどねぇとぼやいた。

 

魔力とはフェアリーの因子を注入したさいに発生する体力、精神力とは違う第三のエネルギーである。なので精神力を鍛えたからといって、直接魔力が向上するかと言われればそうではなく、魔力は魔力としてあげるための訓練が必要である。

 

といっても、筋肉が増えれば精神に何かしらの影響が出るように、精神力を鍛えれば魔力に影響がでてくることで言えば間違ってはいないがと、民間医療に触れてしまった医者のようになんとも言えなくなる鬼美であった。

 

+++

 

作業が一段落したこともあり、ピーチは休憩がてらストームに頼まれて木陰で休んでいるエリアル・アイスの様子を見に行く。

 

「エリアルさん。体調のほうはどうですか?」

「吐き気も痛みもなくなったわ」

 

ただ移動しただけで、どうしてこんな目にと文句を言いながら地面に突っ伏していたアイスだったが、次第に回復していき今は木にもたれ掛かりジュースを飲みながら寛いでいた。

 

「それと呼び方も話し方も普通でいい」

「いいの? じゃあアイスちゃんって呼ぶね!」

「ちゃんはいらない」

「じゃあアイスだね。わたしの事もピーチって呼んでね!」

「ええ」

「あ、よかったらリライン交換しない? 後でストームさんとマッハにも聞くんだけど、アイスからも先輩の魔装少女として色んな話が聞きたいな!」

「別にいいわよ」

 

スマホを取り出してリラインのIDを交換しあう。その中で自分とは違い活力というものに溢れてるピーチであるが、苦手に思わないことに自分自身で不思議がる。しばらく彼女を観察したアイスは、その理由に思い当たり納得する。

 

「……あなたって兄さんたちにそっくり」

「アイスにはお兄ちゃんいるんだ! 私もお姉ちゃんが二人いるから同じ妹だね! どんなお兄ちゃんなの?」

「うるさい、うざい、めんどくさい」

「散々じゃん」

「でも、それが悪くない兄たちよ」

 

――自分とは違い太陽の化身と言われても信じてしまいそうな熱い兄たち。兄だけではなく自分を除いた家族がそうなのだが、働き者で休みでも何かしら動いていないと落ち着かない。そんな血筋に生まれた怠け者がエリアル・アイスだった。

 

そんな自分に熱く絡んでくるが、怠け者であることを否定しない家族の顔を思い出し、連鎖的に久しぶりに連絡をとった時の理由となってしまった戦争決闘の二回戦のことを思い出す。

 

「……あなたって『アーマード』側の魔装少女?」

「え? う、うーん。どうなんだろう?」

――まっ、黒稗天委と仲がいいんだ。『アーマード』派であることは間違いないさね

「えっと、多分そう!」

――多分は余計だけど……まあいいさね

 

自分の立場というものと全く分かっていないため曖昧にしか返答できなかったが、どこの支部にも属しておらず、『魔装少女塾』に通っている。またセブンスガールの一人とは友人関係であるサンシャイン・ピーチは間違いなく『アーマード』側の人間である。

 

「……………………」

「どうしたの?」

 

なにか言いたそうな雰囲気を全身に醸し出すアイスは、少し経ってから遠慮がちに口を開いた。

 

「……ブレイダー・エデンって知ってる?」

 

そう尋ねるアイスの頬が僅かに赤らんでいた事に気付いたのは鬼美だけだった。

 

「エデンって戦争決闘でアイスが戦った人?」

「…………うん」

 

恥ずかしそうに頷くアイスに、ピーチはどうしてそんな反応をするのか首を傾げる。

 

実は戦争決闘五番勝負でピーチがまともに見ているのは直接見た一回戦、後でアーカイブで見た三回戦のふたつだけである。他の試合を見ようとすると鬼美にお子様には刺激が強すぎると視界をジャックされたりなどして見れていない。

 

「うーん。あんまり知らないかな」

「そう……」

 

そもそもブレイダー・エデンを知ろうとすると、家族然り規制然りとよく邪魔が入るためピーチは殆ど知らない。また友達と会話をすることが多い分、一人SNSを眺めることは少なく周りが話題にしなければ流行に疎くなるのが桃川暖子という少女だった。

 

「……いま何処でなにしているか知ってる?」

「ううん。それも分かんない……アイスはブレイダー・エデンに会いたいの?」

「別に……別によ」

 

なにを聞いてるんだろうといった様子でため息を吐いたアイスはゆらりと立ち上がった。

 

――あの日、世間に醜態を晒したことで何かと周りに気を遣われたり、逆に卒業おめでとうとか抜かしてお祝いしてきた家族とか仲間がいたりしたが、最終的にはいつも通り考えるのがめんどくさくなって、割かしどうでもよくなっていた。

 

だが、エリアル・アイスはエデンが出した甘く蕩けるような女声を忘れられなかった。脳に刻まれたそれは発作的にリピートされてしまい、その度に心地の良い痒さが全身を襲うのだ。

 

「……ん」

「どうしたの?」

「な、なんでもないっ!」

 

ピーチに声を掛けられた事で“無意識に痒くなったところを掻こう”とした手を止める。

 

「なんなの……」

 

まるで変態みたいじゃないと自分の変化にめんどくさいといつものように零すが、自分でも吐いたため息が誤魔化すためのものでしかないと分かってしまう。これも全部あいつの所為だと鎮火することのないやきもきとした感情を、ここには居ない両生人類に向けた。

 

「……やっぱり一回会って文句言わないと気が済まない」

「どうしたんだろう?」

――年頃の女には色々あるのさ。放っておいてやりな

 

まだ子供には早いと話を打ち切ろうとする鬼美に、ピーチは余計に気になるが聞いても答えてくれそうにないと、当の本人であるアイスに視線を向ける。

 

「じーーーー」

「……ちょっと缶を捨ててくるわ」

 

アイスはそんな視線に耐えかねて、逃げるようにその場を後にした。

 

「――やはろー。サンシャイン・ピーチ」

「うわっ、びっくりした!?」

 

入れ替わるように、傍に来ていたマッハ・カームがピーチに話しかけた。近寄ってきたことにまったく気がついていなかったピーチは盛大に驚いた。因みに鬼美は気付いており、わざわざ教える必要はないかと無視していた。

 

「ど、どうしたの?」

「後始末手伝ってくれてありがとです」

「あ、いえ。こちらこそー」

 

見た目で言えば同年代、もしくは年下にしか見えないが、実際は年上であるマッハに頭を下げられたピーチは恐縮し、続くように自分も頭を下げる。

 

「活動記録は20支部のほうから送っておくよ。協会に口座登録していなかったら20支部での受け渡しになるけど、そのときはじぶんが持っていくからよろしく」

「え? いや、わたし戦わなかったし、受け取れないよ!」

 

グレムリンを討伐したり、魔装少女として活動したりするとそれに見合ったお金が『魔装少女協会』を通して支払われる。法律上の問題で給料ではなく、交通費や支援費などの名目で配られるものであるが報酬であることには変わらない。

 

グレムリン10体分となれば例え四等分にしても、中学一年生にとっては結構な値段になる。なにもしてないのにいいのかなと遠慮するピーチに、マッハは親指を突き立てた。

 

「無問題。お姉ちゃんからの奢り……ってのは冗談ですけど大人的社会系の事情で受け取らないほうが問題になるのであぶく銭だと思って遠慮無く焼肉か寿司でも食べてくださいね。そういえばピーチは他支部に登録してないんですよね?」

「う、うん」

「なら第20支部から支部褒賞出せたらよかったんですが、うちはあのとおり零細支部なので上げられるものといえばTシャツぐらい、あと数着ほど持っていきますか?」

 

所属する魔装少女に対して、支部からグレムリンの討伐数に応じてなんらかの報酬が還元されるシステムが存在する。内容は現金を直接渡さないこと以外、支部によって全く違うものとなっており、有名どころで言えば第2支部などはポイント制を導入していて、ポイントに応じて寮での生活環境の向上、支部内店舗での値引き、施設の優先使用権などを与えて競争率を煽っている。

 

ただし低予算な第20支部には報酬を用意できる余裕はなかった。それでも代表が代わりにと焼肉食べ放題を月一で奢ってくれるだけでマッハたちは十分だった。

 

「あ、それは普通に欲しい」

「あいあいさー。じゃあ最初にあげた奴とまとめて持っていくからよろしくです。あ、連絡するためにリライン交換しようか、いい?」

「もちろん!」

 

断る理由がないと二人は連絡先を交換。アイスとは先んじて交換していたのを知ったマッハは仲間はずれもアレだとストームの連絡先も教えた。

 

「ストームさんに聞かなくていいの?」

「実績と信用があるので無問題。後で適当にメッセージ送ってね」

「うん! なにからなにまでありがとう!」

「いえいえ。後輩魔装少女の面倒を見るのは先輩の勤めってやつです」

「そういえばマッハ・カームって幾つなの?」

「今年で21歳。お酒も煙草もエッチなこともしても大丈夫な立派な大人だよ。ちなみに魔装少女歴で言えば20支部で一番の先輩」

「うそぉ!?」

 

ピーチは自分よりも年上だとは知っていたが、想像よりも大分年上であることに驚愕する。

 

「驚くのも無理はない。じぶんでも鏡を見て中学生にしか見えないと思う日々、第二成長はまだ来ていない。これも魔装少女になった代償か」

「えっ!? 魔装少女になると身長止まるの!?」

「……そう、名前のとおりじぶんたちは永遠に少女である宿命を背負わされるのだ。嘘だけど」

「そ、そうなん……って嘘じゃん!?」

 

ナイスノリツッコミと親指を立てるマッハ。見事騙されたーと項垂れるピーチに流石に訂正を入れた方がいいかと鬼美は口を開いた。

 

――まるきり嘘ではないけどね。魔装少女に成っている間の肉体における物質活動は最小限になるから、その分細胞活動が鈍化になって成長も老化も遅くなるのさ。今の魔装少女がどういう仕組みかは知らないけど変わってないはずさね

「へー、そうなんだ」

「なにに感心したんです?」

「え!? えっと……タンナルヒトリゴトダヨー」

――おバカ

 

普通に感心してしまい声にだしてしまったピーチに、マッハはむむむっと顎に手をあてて何かを考える。

 

「ピーチちゃんって内なる自分と会話するタイプ?」

「そ、そう! 第二のわたしが呼びかけてくるの! 中学生なので!」

「なんだか嘘っぽいというか、私の予想が違う? サンシャイン・ピーチの固有魔法に関係しているのかな? それとも全く違うやつ? なんだかこういう話最近どっかで聞いたような……」

「ううっ……」

 

戦争決闘で派手に暴れてしまった鬼美は、この事が露見したら面倒にしかならないと、ピーチに改めて自分の事は誰にも知られないようにと言いつけた。ピーチは鬼美の存在を隠そうと努力してくれているが、ご覧の通り才能がなさすぎて時間の問題だねと鬼美本人、ちょっと諦め気味である。

 

「あれ? まだ帰ってなかったんです?」

 

好奇心が強いマッハは人に気を遣うことを忘れてピーチの謎の行動を暴こうと脳みそを回転しはじめる。もしかしてバレたかと焦るピーチ。そんな二人に合流したストームが声を掛けた。その側にはアイスもおり全員が集まった。

 

「マッハ。あんまり引き止めちゃダメでーすよ?」

「むっ、それもそうですね。でもこうやって一緒にいるので、予定がなければこのまま夜ご飯も一緒に食べませんか?」

「いいの? 食べる食べーーあああああああああああ!!」

「……うるさい」

「夕方には家に居ないといけないの忘れてた!」

 

黒稗の頼み事は第20支部に代理として訪問するほかに、もう一つあった。そのために約束の時間までにはマンションに帰らないといけなかったのだが、ピーチは今の今まですっかり忘れていた。ちなみに鬼美も普通に忘れてたのでだんまりを決め込む。

 

「やばい! 間に合うかな!?」

 

約束の時間まで後30分もなく、魔装少女の速度で急いでも間に合いそうになかった。焦るピーチの肩にポンっと手が置かれる。振り向くとマッハ・カームが親指を突き立てており、その親指を背後にあるショッピングカートに向けた。

 

「今ならタダですぜお客さん」

「……安全運転でお願いします」

 

――ジェットコースターって人が楽しめるように出来ている。後にサンシャイン・ピーチはそう語ったそうな。

 




ショッピングカート。星★★★

大型スーパーの古いものを頂いた。
流石の操作性。でも乗り心地は最悪らしく改良の余地あり。
アイスは投げ出された。アイスは投げ出された。
二回書き込んだのには意味がある。


今回の番外編では3章に必要な情報を事前提示も目的として書きました。こんなに長くなるとは思わなかったですはい()
そして、グレムリン周りなど一年近く出せなかった事になるとは( ̄▽ ̄)……出せた事を喜びます。

次回は体調次第となりますが、よろしければお待ちになってください次回!

( ̄▽ ̄)まっさおー……高評価よろしくね!
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