変身ヒロインが守る世界にて十人の変身ヒーローは戦う   作:庫磨鳥

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3章『北陸支部編』はじまります。騎士と天使の両サイドを交互に展開していく予定となっています。しょっぱなから前後分けるのは予定外です()はい。

※演出上の都合のため前回あったカラオケ演出は省略していますのでよろしくお願いします。




北陸支部編
騎士というもの 前編〈騎士〉


 

――なにをやっているんだろう。

 

与えられた役割が重要なものであることは理解している。だけどこんな風に地下にぽつんと立ち、指示されるとおりにしか動かない自分があまりにも滑稽で無様に思えた。

 

そもそも仲間に力を貸して欲しいと頭を下げさせてしまった時から、否定的な態度をとって距離を置いてしまった自分があまりにも惨めで辛かった。そしてそう考えてしまう自分が反吐が出るほど嫌いになりそうだった。

 

だから戦争の合間は何も知る気になれなくて、全てを知ったのは何もかも終わったあとだった。

 

尊敬する先輩の過去も誰よりも後になって知った。そんな先輩を皆が叱る中で何食わぬ顔を装い、とてもよくない事を考えてしまって吐きそうになるほどの自己嫌悪に陥っていた。

 

――ああ、なんでこんなに――。

 

 +++

 

「――奏汰、ちょっと奏汰?」

「……あ、えっと……どうしたの? エマ姉さん」

「最近ぼーっとしているけど、大丈夫なの?」

 

朝食を食べている最中にどうやら箸を止めてしまっていたようで、姉さんに心配をかけてしまった。

 

「大丈夫だよ。最近バイトや大学で色々立て込んじゃってるから少し疲れているだけ」

「私が言うのもなんだけど、あんまり無茶しないでよ」

「……本当に姉さんにだけは言われたくないな。俺と同じ歳の頃なんて毎日残業漬けだったって記憶があるんだけど?」

「あの時は会社設立してすぐの頃だったんだから仕方ないでしょ……まあ私たちの見積もりの甘さがすぐに出ちゃったってだけなんだけどね……。そんな訳で過労寸前まで休まなかった姉からの有り難い言葉よ。素直に受け取りなさい」

「はいはい、肝に銘じるよ」

 

言っていることはごもっともだが冗談交じりであることは分かっているため、適当に返事をして食事を再開する。

 

姉は二年生の時に大学を中退して、高校からの友達と共にアパレル会社を設立。いわゆるベンチャー企業の代表取締役となった姉は当時、寝る間も惜しんで仕事に明け暮れて過労で倒れそうだった事を覚えている。

 

しかし、そんな姉はとても楽しそうで、会社を立ち上げた友達たちもそんな姉と共に懸命に働いた。それが実を結んで今では姉さんたちがデザインした服が、雑誌の表紙で使われて若者たちに支持を受けている。

 

去年の確定申告時期に、もうちょっとで億いったのにーと少し悔しそうにぼやいていたのを見た感じ、稼ぎも相当なものらしい。

 

「というか姉さん。今日はリモートだけなの?」

「まあね。でも明日はコラボ先の会社に挨拶行くから大阪に一日中ってかな」

「大変だね」

「あっちの人は別にいいって言ってくれたんだけど、やっぱり直接商品を見てほしいし説明もしたいから自分からお願いしたの。だから全然よ」

 

リモートじゃあどうしても魅力は全部伝えられないからねと言う姉さん。今回の商品はいつも以上に自信があるらしく明日が楽しみといった様子で、とても輝いていた。

 

「あ、あと。母さんも父さんも今日は帰って来れないから昼と夜は自分でどうにかしてって」

 

母は会社員、父は公務員として現役で働いており、詳しくは聞いたことないが結構上の立場の人らしく今日みたいに帰れない日も多い。特に父親に関してはここ数年は出ずっぱりであり、泊まり込むことも少なくない。

 

だけど子供のことはちゃんと愛していると伝わるぐらい、自分たちとの交流も大切にしてくれている。母さんは忙しい日を合間縫って手料理を食べさせてくれたり、家事だってやってくれた。父さんもそうだ。少なくとも自分は親に関して寂しいとは一度も思ったことはない。

 

「わかったよ。姉さんはどうするつもり?」

「うーん。私としては弟の手料理を久しぶりに食べたい気分だけど……また今度みたいね」

「ごめん。俺もエマ姉さんのために久しぶりに腕を振るいたいけど今日は予定で詰まってるんだ」

 

結構本気で残念そうにする姉さんに申し訳ないと両手を合わせる。

 

「いいわよ。本当に頑張ってるの知っているんだもん。むしろ何か困ったことがあれば姉さんに相談しなさい」

「……いいよ。もう沢山貰ってるから」

「奏汰?」

「……ごちそうさま。姉さんもそろそろ時間じゃないの?」

 

自分がそう指摘すると、姉さんは時計を確認してやばっと言いながら私室へと向かった。

 

時間をちょっと忘れやすい所に助けられた。家族を第一に考えてくれる姉さんの事だ。自分に悩みがあるとバレれば踏み込んでくる……それが嫌じゃなくて、そんな姉さんに甘えてしまいそうな自分が嫌だった。

 

食器を洗うと外へと出るのに丁度いい時間となり、自分の部屋へと向かう。ふとリビングの窓から外を見る。十八階建てのマンション、上から三番目。そこから見渡す東京の街は子供のころやけに好きだった。

 

でも今は辛い。そして辛くなる自分が死ぬほどキライで何もかも嫌になる。

 

――生まれた時から与えられた自分の部屋。それをひと言で表現すれば“充実した空間”といった所だろう。十畳の床にはお洒落なカーペットが敷かれており、その上には様式の家具とテレビなどの電化製品が並べられている。

 

学年が上がるたびに買い換えられたベッド。今使っているのは姉のお下がりとはいえ一式で20万を超えるものだ。本棚やクローゼットも十万円はするもので、これらは親が自分のために買ってくれたものだ。

 

さらに言えばクローゼットの中にある服も自分で買ったものはない。中にあるものは全て姉が似合うからと買ってきてくれたものばかりである。アパレル会社の社長だけあってか弟の衣服にも手は抜かず。自社製品を含めて一着でクローゼット本体が買えるほどの高級品。それが十着以上、中でハンガーにぶら下げられている。

 

パソコンは高校入学の時に親が買ってくれた。少し前に調べて初めて知ったが当時の最新機器で30万の新品だった。さらには父親が使っていた高性能のスマホとタブレット端末も譲り受けた。

 

当時は自分が入学した私立高校の学費もあっただろうに、中学校を無事に卒業できたから、大会でいい成績を残せたから、第一希望の高校に合格できたから、良い子に育ってくれたからとプレゼントしてくれたんだ。

 

それを聞いた時、パソコンやタブレットが自分のものになった瞬間よりも嬉しくなって涙汲んだのを鮮明に覚えている。

 

犯罪の類いは一切してこなかったが、譲れないことがあったため同級生と喧嘩したことがあった。失敗も沢山あった。迷惑も沢山掛けた。でもそういったものを一切口には出さす。自分の事を信じて受け止め続けてくれた父さんと母さんには本当に感謝している……。

 

「……行ってきます」

 

なんだか黙って出て行くことに耐えられなくなって自分は、そう言いながら部屋を出た。

 

 +++

 

「はぁ……」

 

カフェのテラス席で深いため息を吐いてしまう。勿体ないと注文したものを口に入れるがサンドウィッチと抹茶ラテはすでに冷めてしまっていた。

 

プロを目指さないか?最近通い始めたボクシングジムにて、コーチからそう話を振られた。断わるもしつこく勧誘してくるので、殆ど逃げるようにジムを後にした。もう二度とあそこには行かないと退会申請をメールで送る。

 

「これで6回目か……」

 

“あの事件”からもっと強くなりたいと色んなジムや道場に通っては勧誘を受けて辞めるを繰り返していった。中には三日で辞めてしまった所もある……それでも、教えて貰った技術をほぼ完璧に会得する自分は確かに才能があるのだろう。

 

サッカー部のコーチから将来プロサッカー選手になれると言われたこともある。それだけじゃない。中学、高校ともに友達に誘われたり、先輩から言われて出た空手や柔道の大会で優勝こそしたことはないが好成績を残してきた。そこまで練習をしたことも無いのにだ。

 

気合い“だけ”が足りないと言われたことがある。それを聞いたとき正しいと思った。

 

なんでも出来るというのは楽しかったが、なにをしてもそこまで情熱的になれなかったのが自分という人間だった。それでも良いと思って両親や周りに甘えて“何も考えずに遊んでいた”自分は誰かにとって酷く滑稽に見えたのではないかと嫌なことを考えてしまう。

 

「――あの。少しよろしいでしょうか?」

「……はい、なんでしょうか?」

 

過去に思い耽っていると、身なりが整ったスーツ姿の男性に声を掛けられた。知らない人だったがどういった人物かは慣れすぎていてすぐに分かった。

 

予想通り、彼は芸能事務所の関係者で自分をスカウトしに来たとのことだ。彼が勤めている会社は自分でも聞いたことがある大手でテレビだけではなく動画投稿サイトでも人気のタレントを何百人単位で抱えている。

 

あなたは百年に一人の逸材だと、アイドル、役者、どの枠組みでも“輝ける”可能性を秘めた存在だと彼は言った。おべっかを言われているだけとは思えなかった。なぜなら彼の真っ直ぐな瞳から邪さは感じられず、心の底から本気で自分をそういう存在だという本気が伝わってきたからだ。

 

「――でもご覧の通り俺は黒髪ですよ?」

 

世界から人種差別がなくなった代わりに髪の色で差別する人間が増えたなんて言われるようになった時代。もっとも嫌悪される黒色の髪を見せる。といっても黒稗さんに比べれば薄く灰に近しいものであるがタレントとしては致命的だろう。

 

他の人と同じく髪を染めればいいなんて言ったら、適当に嫌がる素振りを見せて断わろうと身構えていると、スカウトマンはだからこそスカウトしたいとテンション高く宣言した。

 

彼は最近マシになったとは言え色差別が行なわれている現代社会に一石を投じたいとのこと。だから黒髪を持つあなたを輝かせれば世間の目を変えることができると熱く語った。

 

彼について少し興味が出てきて名刺に書いてあった名前をタブレットに打ち込んだ。すると彼の顔写真が出てきて、次に淡泊な文章で彼の簡易的な経歴、そして自らがスカウトし、なおかつ自分でプロデュースしたタレントやアイドルたちが出てくる。

 

そこに書かれているタレント名は自分でも名前を知っている人ばかりで、どうやら彼は凄腕のスカウトマンであると同時に敏腕プロデューサーだったらしい。そんな人に声を掛けられたという事実は驚きと共に嬉しく感じてしまい、気持ちが前向きになってしまう。

 

「――どうか私たちが用意するステージの上で輝いてくれませんか? お願いします」

 

頭を下げながら放たれた言葉に惹かれた自分が居た。彼はこうやって相手の本質を見抜き沢山の人を導いてきた人間なのだろう。もしかしたら自分の悩みをある程度読み取っているのかもしれない。

 

彼を改めて見る。“あの人”たちに比べてしまえば見劣りしてしまうが、彼には確かな強さを、一緒に働けば将来はよかったと思える人生を送らせてくれると、そう確信させる何かを感じた。

 

――ああ、なんでこんなに――。

 

「……あの……っ!?」

 

左のポケットの中に閉まっていたもの――『B.S.F』の画面にグレムリン出現の通知が届いていた。

 

「すいません!」

「あ、ちょっと!?」

 

放っておけないと財布から適当に金を抜き取って走り出した。後ろからせめてお金をっと彼が叫んでいるが無視して足を動かす。

 

――昼間の都会でも人気が無いところは探せばあるにはある。事前に調べていた通り誰もいない事を確認して、『B.S.F』の画面に向かって十字を切った。すると『B.S.F』が赤黄色のベルトへと変化して腰に巻き付く。

 

 

[覚醒せよ! 我らが守護者!!]

 

 

聞き慣れたテンポアップ気味に奏でられるファンファーレ。それに負けないぐらいの音量で機械音声がベルトから発せられる。

 

そしていつものように歌がはじまる。ほんの数ヶ月前までは聞くたびに心が弾んだ歌……それが今では聞くと心が軋む。

 

[お前が~いなきゃはっじっまっらない!]

 

 

本当にそうだろうか?

 

 

自分と同じ身長の機械的な十字架が背後に出現したのを見計らい両手を水平にして背中を預ける。

 

 

[世界を~照らすために~~!!]

 

 

こんな自分に照らせるとは思えない

 

 

「……変身」

 

 

[輝いてイカ~ナイト~~!!]

 

 

――っ! わかっている!

 

 

「…………行こう」

 

問題無く『ブレイダー・ナイト』に変身した自分は背中にある十字架――『クロスベル』を前に出して手を離す。地面に向かって倒れる『クロスベル』は重力から解き放たれたかのように水平に浮く。

 

そんな宙に浮いた『クロスベル』に乗って進みたい方向を念じると、『クロスベル』は太陽のように輝きだし空に向かって急加速した。

 

飛行中は足の裏がくっ付いているようでどれだけ急な角度になっても『クロスベル』から放り出される事は無く、緩い波に乗るサーフィンのような気軽さで空を飛ぶ。

 

――向かう先はグレムリンが現われた場所だ。

 

 +++

 

それから三分も掛からず現場へと到着する。上空から様子を伺えば既に『次元の狭間』は消えており、三体ほどグレムリンが街を壊しているのが見えた。

 

そんな最中、もっとも近くの支部から来たであろう数人で構成された魔装少女チームが現われてグレムリンと交戦を始める。

 

「――よし」

 

こんな所で悠長に観戦している理由はないので急降下を開始。魔装少女たちの後ろへと降り立つ。

 

「ブレイダー・ナイト!」

 

なんどか会ったことのある魔装少女が来てくれて助かると言ってくれた。その事に嬉しさと微かな辛さを感じながらも、今は戦いに集中する。

 

「街と人の守りは俺に任せて――フィルムバリア!」

[フィルムーバーリア!!]

 

自分が技名を叫び、それに続いて『クロスベル』が倍ほどの音量で謳うように叫ぶと半透明の膜のようなものが広がっていき道路からビル。標識に電線まであらゆる物体に被さっていく。

 

膜が被さった物たちは仄かに発光しており、まるで世界が輝きだしたように見える。そんな光景を初めて見るひとりの魔装少女が綺麗だと呟いているのが聞こえた。

 

ブレイダー・ナイトのスキル『騎士の盾』による技のひとつ『フィルムバリア』は膜状のバリアを生成して物体を守るものだ。これによって被害が最小限に留められるようになり、物を壊さないようにと普段は力をセーブしている魔装少女たちが本気で戦えるようになると利点が多いため、必ず最初に発動する技となっている。

 

「みんないくよ!」

「「「はい!!」」」

 

魔装少女たちは練度の高い連携によってグレムリンを倒していく。

 

「ライトシールド!」

[ラーイトシーールド!]

 

「わっ! ありがとう!」

 

時折、危ないと思ったら先んじて魔装少女の周辺に光輝く十字盾を出現させる。自分は守りに徹して魔装少女たちは攻撃に徹する。面白みの無いなんて嫌な批判も受けたこともある堅実な戦いの結果、だれも怪我することなくグレムリンを全て討伐することができた。

 

「来てくれて助かったわブレイダー・ナイト、おかげ周りを気にせず戦えて被害を最小限に抑えられた」

「こちらこそ、すぐに来てくれて助かったよ」

「あの、守ってくれてありがとうございます!」

「こちらこそ、戦ってくれてありがとね」

 

お互いがお礼を言い合う。いつものやりとりだが最近はどうしても魔装少女と話すと変な緊張をしてしまう。天使は仕事はまだまだ仕事は残っているが安定し始めたといっていた。だが『戦争決闘五番勝負』以降、魔装少女たちは否が応でも身の振り方を考え無いと行けなくなった。

 

そのことを意識すると何かブレイダーとしてやらないと行けないのではと色々と考え込んでしまう。このままいつものように立ち去っていいのだろうか? なにか労いの言葉でもかけたほうがいいのではないか?

 

そうやって少し悩んで、結局なにが最善か分からないまま口を開く。

 

「……生活はどう? なにか困っていることはない?」

「ん?」

「ああいや……。あれから少し経ったから気になってね」

 

中途半端な聞き方をする自分に内心で悪態を付く、幸いにも尋ねられた魔装少女は聞きたい事を察してくれたようで。苦笑しながらも話始めてくれた。

 

「私たちが二桁支部所属だからってのはあるかもだけど特に変わった感じはしないわね。いつも通りやらせてもらっているわ」

「そっか……それならよかったよ」

「……正直、変わってきてると分かっていても協会の事は少し怖いわ。でも貴方たちブレイダーやちゃんとした大人たちがいますごく頑張ってくれてるんでしょ? だったら私も魔装少女として頑張ろうって決めたの。可愛い後輩もいることだしね」

「先輩!」

「いま行くわ! じゃあね」

 

物足りなさそうにしていたのを気付かれたのか、少しだけ自分の意見を出してくれた。ちゃんと前を向いて大変な時期だからこそ魔装少女を頑張りたいと言う彼女はとても輝いていた。そんな彼女を慕う後輩の魔装少女たちもそうだ。

 

――自分が居なくても人はきちんと輝ける。そんなくだらない事が延々とループされる。

 

「――きゃああああああああああああ!!」

 

魔装少女たちがいる真反対。背後から甲高い悲鳴が聞こえた。振り向けばグレムリンが子を庇う母親の傍まで来ており、口を開き鋭い牙を突き立てる寸前だった。どこかに隠れていたのか!?

 

「しまっ――!?」

 

――しまったと言う暇があったら技の名を叫べ! と自分を罵倒するが、それが災いしてか脳の回転が止まり口が上手く回らない。体は動いているがナイトの移動速度では間に合わない。魔装少女たちも悲鳴に気付いて走り出しているがこちらも間に合わない!

 

――“あの日”の光景がフラッシュバックする。暴走した銀の弾丸が桃色の心臓を貫いた。あれが繰り返される。

 

あの時は訳の分からない奇跡が起きたがけど――今回は――!

 

「――だめだ!!」

 

子供を庇う母が噛まれる寸前、グレムリンが真横から伸びてきた足に蹴り飛ばされた。

 

「だ、誰が――もしかして!?」

 

ブレイダーの誰かが来てくれた。なぜだかそう思ってグレムリンを蹴飛ばした人物をしっかりと確認する。

 

――知らない男性だった。180はあろう高身長に紺色のスーツ。それと同じく紺色の髪を綺麗に整えており、臙脂色のネクタイとスクエア型の眼鏡を着用していて、その姿をサラリーマンのようだと簡単に評するにはあまりにも気品があった。

 

「あ、貴方は……」

「――ふむ, これなら行けそうだ」

 

そう言いながら男性はグレムリンに自分から急接近する。

 

「速い!? じゃなくて危ない!」

 

グレムリンは既に体制を立て直しており、接近してくる男性に向かって腕を振るった。それは人の命なんて容易く葬れる一撃だ。しかし男性は身を屈めて回避し、一瞬で懐に入るとグレムリンに殴り掛かった。

 

殴る、殴る、蹴る。避けて反撃する。大昔のカンフーアクションのような速度でグレムリンが攻撃を外せば、お返しにと言わんばかりに男性は何十発と打撃を繰り出す。

 

強化された視覚のおかげで男性の動きは分かる。だけど意味が分からない。掠ってしまうだけで死んでしまうかもしれない攻撃をあんな風に避けて、なおかつ反撃なんて出来るんだ!?

 

自分には出来るだろうか? いや、絶対に出来ない。自分が戦えるのはブレイダー・スーツという安全な(スーツ)があるからだ。生身で戦おうとすれば死ぬのが怖くて一歩も動けなくなる自分が容易く想像できた。

 

「やはり, 息の根は止められないか……魔装少女, トドメを任せたい」

「は、はい!?」

 

魔装少女たちは状況を把握しきれていないが、グレムリンを倒すのが先決だと動き出す。しかし男性は後退する気は無く、体は無事でも痛みは感じているのかグレムリンは苛立ちのあまりと言った風に大ぶりの攻撃を行なう。それが致命的な隙となり、男性は難なく回避したあと人で言う顎の部分に向かって強烈な掌底を繰り出した。

 

「今だ」

 

脳震盪を起こしたのかグレムリンはふらつき無防備となった。そこへ尽かさず魔装少女たちが魔道具で攻撃を加えてトドメを刺した。

 

――それから、グレムリンが完全に粒子化するのを確認した魔装少女たちは念には念を入れて周辺にグレムリンが残っていないか索敵を開始。あの男性はと探すと、いつの間にか被害に遭った親子の傍に居た。

 

「怪我はないか?」

「は、はい。ありがとうございますっ!」

「おじちゃん強かった! ブレイダーなの?」

「こ、こら!」

「ふっ, おじちゃんは少々武術を嗜んでいる一般人でしかない……今のところはな」

「あの……」

 

なんて声を掛けていいか分からず。言葉に詰まる。こちらを見た男性はじっと自分の顔を見つめる。マスク越しなのに、まるで奥の奥まで見透かされているようで怖かった。

 

この感覚に覚えがあった。さきほどブレイダーが来てくれたのだと勘違いした理由も分かった。この人は先輩たち――第一世代ブレイダーのようなんだ。

 

アビスの全てを見透かすような。

デビルの全てを惹き付けるような。

カオスの全てを抱えるような。

エデンの全てを受け入れるような。

ジャスティスの全てに重さを与えるような。

 

種類が違うけど、そんな先輩たちと同じ“凄み”をこの人から強く感じるんだ!

 

「……運が良かったな」

「っ!! 自分はっ! ……自分は……」

 

――心を読み取られた気がして、それがあまりにも情けなくて必死に言い訳を口にしようとするが、余計に無様になるだけだと自覚しているためか言葉が出ない。

 

「すまない, 軽率な発言だったようだ……ブレイダー・ナイト, 突然だが話せないだろうか?」

「え? なにを……ですか?」

「目的を話す前に自己紹介をしておこう, 私は『殻雲 徹(からくも とおる)』というものだ, そしてブレイダー・ナイト, 君に頼みがある」

 

――その瞳は昏かった。だけど無性に惹き付けられるなにかを感じた。

 

「――私はブレイダーになりたい, だから君の変身アイテムを譲って欲しいのだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――理想と言える家族の元に生まれた。金にも自由にも困ったことがない環境で生きてきた。天才と呼ばれるだけの才能を持っている。容姿も完璧と評された。そして運もある。望めば今からでもプロのスポーツ選手、トップアイドル、スーパースター、だれもが羨むものに成れるというのは決して驕った考えではないのだろう。

 

そんな自分は何千万といる日本人の中でブレイダーに選ばれた。世界でたった十人しかいない男性のひとりに選ばれたんだ……どうして自分が選ばれたんだ。

 

 

 

――ああ、自分はなんでこんなにも――――恵まれているんだ。

 

 

 

 

 




装うのはそれなりに得意な男の子。


やっぱり色んな意味で騎士が一番難しいような気がします。

後編は早めに出せるように頑張るので、それではお待ちになってください次回!

作者事ですが性懲りもなく新作出しました。
https://syosetu.org/novel/272262/
今後暫くは新規作品と交互に投稿していきたいと思いますのでよろしくお願いします。
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