変身ヒロインが守る世界にて十人の変身ヒーローは戦う 作:庫磨鳥
今回は会話中心ですが楽しんで頂ければ幸いです。
画像が挿入されており、右上のメニュー→閲覧設定→挿絵表示を有りにしてくれると助かります。
――突如現われてグレムリンを圧倒した男性――『
「――改めて, 名を殻雲徹と言う者だ, よろしく頼む」
殻雲は名刺を机の上に置き、騎士に向かって滑らせる。騎士が萎縮した様子で名刺を確認すると目に見えておかしい所があった。
「よ、よろしくおねがいします……あの、名刺の所々が塗り潰されているのは……」
「不格好で申し訳ない, これは前職のものでな, 恥ずかしながら今後、名刺を使わないと思い代わりを用意しなかったのだ, なので名刺入れの中に余っていたのを使わせて貰った」
雰囲気こそ硬いが厳格ではない。よく言えば柔軟、悪く言えば適当な、彼が見せた人間味に騎士は、やっぱり
「前職……」
「ああ, 数日前に自己退職をした, いい職場ではあったが少し思う所があってな」
グレムリンを圧倒できる人が勤めた仕事がどんなものか気になった騎士だったが、今はそれを問い掛ける気分にはなれなかった。
「さて,名をなんと呼べばいい?」
「あ、騎士で……お願いします」
「わかった, では騎士, 突然言い出したのにも関わらず聞き届けてくれたばかりか, その素顔を見せてくれたことに感謝する」
「い、いえ。そんな礼を言われるほど大層なことじゃないです。自分もあなたと話をしたかっただけなんで……」
綺麗な姿勢で頭を下げる殻雲に騎士は戸惑い、つい卑下た発言をしてしまう。
騎士は自分の素性を完全に隠して活動している。自分がブレイダーであることを世間に周知されると、社会でそれなりの地位にある両親や姉に多大な迷惑をかけるからというのが理由だ。
自分の素性がブレイダーであることを絶対バレないようにする。それがブレイダーに成り立ての頃、第一世代たちや天使と相談して決めた絶対的な誓いだった。
なので話し合いたいと言う殻雲の願いに対して、自ら決めて忠実に守ってきた誓いを破ってまで叶えた重いものなのだ。なのに騎士は自らそれを軽んずる発言をしてしまう。
「いや, 私の考えが間違っていなければだが騎士, 君は素性を悟られないようにすることをブレイダーの誰よりも気にしているように見えた, それなのに今日初めて出会ったばかりの私に素顔を見せてくれた. 紛うこと無き大層なことだよ, 少なくとも私にとってはな」
「……あ、あのそれで変身アイテムを譲ってほしいってことなんですが……」
自分を尊重してくれる殻雲に、気恥ずかしさやら情けなさで気後れてしまった騎士は、話を逸らすように本題に入る。
「ああ, そうだ, 単刀直入に言おう――私はブレイダー・ナイトの変身アイテムを求めている, なので君と交渉するためにこの場を設けた」
「それは……殻雲さん本人がブレイダー・ナイトに成りたいという事で間違いないですか?」
「そうだ」
真剣の二文字のみが存在する肯定の返事。こちらを真っ直ぐ見てくる瞳に仰け反りそうになるのを耐えるが騎士は我慢ができずに喉を鳴らしてしまう。
ブレイダー・ナイトになる。それはつまり現在、ブレイダー・ナイトである騎士――
そもそも譲渡ができるかどうかはひとまず置いておくとしても、本来であれば即答で断わる内容だ。ブレイダーという立場は、どんな事情があるにしろ、おいそれと変わることなんてあってはならない。それが騎士の考えである。
「……理由を聞いてもいいですか?」
しかし、既に騎士の心は殻雲という個人に圧倒されてしまっており、一蹴することができなかった。先ほど親子の命を守ってくれた手前、蔑ろにするのは流石に……と自分を納得させる言い訳を立てて騎士は話を続ける。
「無論だ, とは言うものの……ふむ」
さっきから迷うことなく言いたい事を口にしてきた殻雲だが、ここにきて顎に手を当てて考え込む。もしかして複雑な事情がと緊張を強める騎士に対して、殻雲はどこまでも自然体に答えを口にする。
「……言葉に迷うところであるが, 言ってしまえば私は戦いたいのだ」
「戦いたい?」
「ああ、そうだ。私は――グレムリンのような怪物と戦いたいのだ」
理由は酷く単純なもので、だからこそ騎士は殻雲に対して理解を示してしまう。なぜならば彼の言う願いは大半の男性が抱える空虚で、ブレイダーになる前に騎士もまた抱えていたものの一人だったから。
だから復讐とか大義とか、仰々しいものを語られるよりも騎士の心に響いてしまう。
魔装少女とグレムリン。この二つの存在が現われたことで決定的に変わってしまったものがあった。それは“命を賭けて戦う者”が女性になってしまったことだ。
とはいっても警察や消防、山や海の救助隊や自衛隊に至るまで特別変わったことはない。ただ魔装少女に触発された事で、別の道を歩んだ女性たちが就くようになり、男女比率が少し近寄ったぐらいである。
もっとも過激的な女性保護を訴える団体が『協会』と連携を行ない、多少威張った時期があったものの、あまりにも派手に動き、あらゆる場所の尾を踏み続けたために組織だけに収まらず個人にまで被害が発展。魔装少女の反感を買うこととなり支援していた協会にすら見捨てられる。そして最終的には、某正義にまで噛みついてしまい完全に沈静化された。
そんな時代を通り抜けた現在では、女性だからと嘗められる事は少なくなったが、だからといって男性の立場が下がったというわけではなく、魔装少女が現われる前からそこまで変わっていなかった。それを言うならば髪色による差別の方が多いというのが現在の日本社会である。
――と、社会的観点からではそうだが、個人になるとまた話は違ってくる。
「もはや錆びて朽ちるべき感性なのかもしれないが私は男に生まれた以上, 戦いたいのだ, 一輪の歯車となる誇りを捨ててでも――私は男性としてブレイダーになりたい」
分かりやすい誰もが憧れるヒーローになれる資格。それが生まれた瞬間の性によって定められてしまう。蒼汰も子供ころテレビ番組に影響を受けて、グレムリンを倒し皆を守る。そんな自分を夢想するほどにヒーローに憧れていた時期も有ったが、男のだれもが通る現実に直面して、その夢を一旦諦めた。
――だから、ブレイダーの一人に選ばれて純粋に嬉しかったんだと、あの時は宝くじの一等賞が当たったかのように降って湧いた幸運に無邪気にもはしゃいだと、騎士は
「だから騎士よ, どうかその一席を私に譲ってくれないだろうか?」
――ここまでの本心を吐露するだけの時間は本格的な交渉を行なう前の牽制でしかない。それを騎士は重々承知している。だけど理由を聞いた。逆に言えばまだ理由だけしか聞いていないのに、騎士は殻雲という人間に対して男としての出来が違うと認めてしまっていた。
――もっと簡単に言ってしまえば、今日であったばかりの彼の方が自分よりもブレイダーに相応しい、という言葉が脳の溝に刺さって抜けなくなっていた。
「……その、譲る以前にそもそも人に譲れるものか分からないんです……それにどうしてブレイダー・ナイトなんですか?」
喋ることができたのはまだ殆ど彼の事を知らないという無知から来る意地であった。単に事実を口にしているだけなのだが、騎士は言い訳がましく言ってしまったと、なんだか恥ずかしくなり、続けざまに気になっていたことを質問する。
こうやって今日、喫茶店で話すことになった事態は偶然だろうが最初からブレイダー・ナイトに狙いを絞っていたように騎士は思えた。
「……デビル, カオス, エデン, アビス, ジャスティス, セブンス, キング, アンギル, そしてホープだったか?」
「は、はい」
まず殻雲は騎士を除くブレイダー九人全員の名前を挙げた。
「そしてナイト……騎士である君を含めて現存するブレイダーは全部で十人だ」
「そうですね。でもそれになんの関係が?」
なにが言いたいのか分からず、騎士は逸る気持ちを口に出してしまう。
「今から話すことは藁だと自覚しながらも掴んだような, 根拠など皆無に等しい話だ……
「……そんな他のブレイダーの名前に比べれば
「そうだ」
自分だけが違う、そんな疎外感を突きつけられたようで騎士の声は震えてしまう。
――“騎士”とは本来、王室などから与えられる名誉称号である。与えられること自体、特別なことであるが普通の人間でも辿り着けるチャンスがある頂きとも言える。
「時代によってあり方に差異はあるものの騎士と言う呼び名に注目し, 私は仮説を立てたのだ――騎士とは与えられて名乗れるものと考えれば、ブレイダー・ナイトは他人に譲渡できる機能を持ち得ているのではないのかと」
殻雲の主張は騎士とは“誰かに与えられた勲章”である。つまりはその勲章を与えさえすれば“騎士”になれるのではないかと。そしてその勲章に値するものこそ――変身アイテムである『B.S.F』と言うものではないのだろうかと。
殻雲が言うことは本人が言うとおり根拠もなにもない。名前だけで導きだした暴論も良いところだ。
しかしと、騎士は彼という人物が口にしているからか、短く自分の意見を纏めただけで、その裏には己には到底理解できない深い思考があったのではないかという気持ちに支配される。
騎士の頭の中に浮かんできたのは“なら、一回試して見ましょうか”という提案だった。確かにもっとも確実な方法であるが、自分の今の状況を鑑みてそれだけは決して言ってはいけない。言わしてはいけないと必死に飲み込む。
なぜならもし譲渡が成功したら、もうその時点で自分の心は折れる。そして失敗してしまった場合、彼のために方法を考えてしまう自分を騎士は容易く想像してしまった。
タイミングもすこぶる悪かったと言える。騎士の人生の中でもっとも運が悪い日。苦悩を抱え込む中で、自分と比べて、あらゆる面で強そうな人物が目の前に現われてブレイダーになりたいと言っている。だから騎士はドツボに嵌まる。
――これが物語の主人公であるならば、どれだけ強大な相手であっても断わるものだ。だけど同時に思うのだ。もしもここで自分が意地を張ってブレイダー・ナイトをやっていたら、今度こそ取り返しのつかない失敗をしてしまうのではという、不確定な未来を騎士は恐怖する。
――先ほどの親子だってそうだ。彼がいなければ少なくとも母親は最悪死んでいた。自分はあのときスキルも発動できずに、ただ立っていることしか出来なかった。そしてその親子を助けたのも、魔装少女にトドメこそ任せたもののグレムリンと戦うことで周囲の安全を確保したのは間違いなく、殻雲という男なのだ。
――自分はブレイダーになるのに相応しいのだろうか? 『アーマード』の一員として彼らと共に戦っていく人間なのだろうか? 最近ずっと湧いてくる単語の中に、ふとこれこそが自分の幸運なのではないかという言葉を見つけてしまう。
――彼が目の前に現われたのは、自分が望んだからではないのか?
「……すこし……考えさせてください」
ネガティブになっていく思考の中、騎士は絞り出すように答えた。断わるわけではなく承諾するわけでもなく、時間稼ぎのひと言。そんな煮え切らない返答に殻雲は静かに頷いた。
「当然だ, 急な話であることは重々承知している……しかし, にべもなく断わられると思って居たのだが意外だったな」
「……っ!」
「迷い, 悩み, 君からは様々なものが感じ取れる, それが戦いの足枷にも成ってしまっているようだ, 余計な世話かもしれないが早急に決着を付けたほうがいい, でなければ取り返しのできないミスを犯してしまうだろう」
全てを見透かす言葉に騎士は気がついたら口を動かしていた。
「自分は……正直、ブレイダーをやっていく自信がありません……今日の事だってそうですが……すでに自分は大きなミスをしました」
「ふむ」
「危うく友達の大切な人を不幸にして……関係のない少女を死なせかけたんです」
『戦争決闘五番勝負』、その三回戦でブレイダー・カオスに勝利をした魔装少女の正体を騎士は知っていた。あの日、七色たちが中心となった第8支部の『裏案件』で、騎士は相手の策略によって暴走状態となったシルバー・バレットと対峙する事となった。その場には不運にも巻き込まれた魔装少女であるサンシャイン・ピーチも居た。
――そして悲劇は起きた。判断を間違えてしまったと言えばそれまでである。状況把握を疎かにして咄嗟に自分の身を守ってしまったが故に、銃口がどこへと向いていたのか分からなかった。
銀弾が桃色の魔装少女の心臓を貫いた。騎士はスローモーションで倒れる少女を未だに思い出せる。しかしながらなんの奇跡が起きたのか桃色の魔装少女は白桃色の鬼となりナイトとシルバー・バレットを暴力で圧倒し、全てを強引に解決してしまった。
――時間が無いからこれぐらいで許してやるさね! だからこのことは誰にも言うんじゃ無いよ?
それから状況はまだ続いていたため考える暇が無く、何事もなくて良かったという安堵しかなかったが……。その日の夜、奇跡が起こりえなかったIFの映像が頭の中を占拠して、トイレで吐いた。
「あの日からずっと自分はブレイダーに成るべきではなかったのかと……みんなと比べてしまう自分が居て、そうやって考える自分にさらに嫌になって……」
段々と尻すぼみしていって、ついには言い切れずに口を閉ざしてしまう騎士。そんな彼に対して殻雲は遠慮無く自分の意見を語り出した。
「恐らく……苦労よりも幸せが多い人生を送ってきたのだろう, 食べることに困ることはなく, 学びたいものを干渉されること無く自由に学べ, 運も良かった, だからこそ大失敗から立ち直れないでいる, それだけではない, 自信を損失した君は自分の事を温暖な室内で不自由なく過ごしてきた犬だと思っている」
「……はい」
「対して横に並び立つブレイダーたちを, 厳しい自然を生き抜いてきた気高く強い狼だと, 憧れを抱いている」
「……はい」
殻雲の言う人物診断に、騎士は全て当たっていると首を縦に振るうことしかできない。
――自分が知る限り、七色は両親を無くし、奈落先輩は正に地獄の様な環境で生きてきた。悪魔先輩は見捨てられた秋葉原で生身でグレムリンと戦う日々を送り、王様は十人以上の妹たちを長男として面倒みていると言う。今だちゃんと過去を知り得ていないが、同等の気配を感じる事から間違いなく他のブレイダーたちも同じかそれ以上の厳しい人生を送ってきたはずだ。
――もしも自分が同じ立場だったら、あんな風にはなれないと断言できる。
――だから男としてどうしても思ってしまうのだ――なんて、格好いいのだろうと。
「本来誰しも羨まれる環境は, 逆転して望む姿を阻害する悪となっているか, なるほど, 難しいな……他のブレイダーに相談はしたか?」
「……こんなの言ったら、それこそ死にたくなりますよ。だって自分の悩みなんて言ってしまえば、恵まれすぎてるのが辛いとか、そんなんですよ? 無理に決まっているじゃないですか!」
思わず大声を放ってしまい周りの客を驚かせてしまう。しかし騎士にそれを気にする余裕が無く、代わりに殻雲が手を振ってなんでもないことを伝える。
「……最初は茶化してくるかもしれないけど、最後には真剣に話に乗ってくれる人たちなんです……だから……こんなこと口が裂けても言えませんよ」
例えば奈落は騎士の環境を理解できないなりに親身に接してくれるだろう。そして彼の地獄のような環境と比べて、恵まれているなら良いことじゃないかと心の底から優しい言葉を言ってくれると騎士は確信している。
――現に相手の感情が見えるのに、自分の
「確かに相手が持っていないものに関する悩みごととして話すのには礼に欠けていることだろう, 特に尊敬の念を抱いている者が相手ならば余計にな」
「バカみたいですよね? 分かってるんです。こんな事で悩むぐらいならブレイダーなんて……」
腹の中に押さえ込んでいた言葉が出かかり、ギリギリのところで飲み込む。
――ここに居続けてしまえば自分の全てを曝け出して、最後には『B.S.F』を渡してしまいそうだと騎士はポケットの中の財布を取り出そうとする。それを殻雲が手の平を見せて制した。
「無理を言ってこの場を設けたのは私だ, ここは持とう,……それと騎士, 良ければだが武術の手ほどきを受けてみないか?」
「え……?」
殻雲の突然の提案に騎士は思わず聞き返してしまう。
「ど、どうしてですか?」
「元よりブレイダーを一度の話し合いで諦めるつもりは無かった, だから交渉の一環と思ってくれればいい, それにこのまま君を放っておくのはな, どうやら余計に追い詰めてしまったという引け目もある, だからその贖罪と口にすれば大袈裟だが, 君が何かに納得できるように手助けがしたい」
都合の良いことを言って自分を諦めさせるつもりかと騎士は一瞬だけ疑ったが、ここまで話していてどうしても、そんな搦め手を使う人物には思えなかった。
「……お願いします……自分を強くしてください」
だから、他の悩みに比べれば簡単に答えをだせた騎士は深々と頭を下げた。
+++
――騎士と連絡先を交換したあと店を出た殻雲は帰路についていた。
角張った雰囲気は変わらないが、どこか機嫌が良さそうに歩いている彼のスマホが鳴る。連絡してきた人物の名前を見て、あちらから掛けてくるのは珍しいなと思い歩きながら通話をはじめる。
「――なにかあったのか?」
≪確認と悪い知らせがひとつずつ……どうだった? といっても声が弾んでるところから良いことがあったみたいだなぁ。お前のその分かりやすいところは好きだぜぇ≫
「……そうだな, クリアの予言に従いあの場に訪れたことで良いことがあった, 後で礼を言わなければなるまい, 甘い菓子は好きだろうか?」
≪しらねぇよ。でも年頃の女なんだし甘いものは何でも好きだろ≫
「そうか, それで悪い知らせとは?」
≪例のアレについてトラブルというかあのクソ。試しに最初に使ってみるねだとさ……ああもうっ! 思い出しただけでも殺したくなる!≫
「……止められなかったか, 予想出来ていたことだが無用な行動は控えてはくれないものだろうか」
≪脳みそ空っぽなんだから無理だろ……そういうことだ。どのタイミングでやりだすかは分からんが最悪『アーマード』の警戒が強くなる, 気付かれれば一瞬にして計画がぱぁだ。バレないように注意してくれ≫
「……承知した, 充分に注意しよう……君のほうで――アルメガの事を止められないか?」
≪無理というか殺してでも嫌だね。自分でやれ、お前のそういう所は嫌いだよ≫
乱暴に切られた通話に、殻雲は仕方ないかと静かにため息を吐いた。ふと後ろを振り向き、ぽつりと呟く。
「君はどうするかな――――騎士」
+++
「――来たわよ社長」
肩にエンブレムが刺繍されている黒い生地に赤色ラインロングパーカー。小さなツインテールが作られている癖が目立つ金色の長髪。外見こそまるで西洋人形のようだが鋭い目付きが彼女の人間らしさを確立させている。そんな童顔で144センチの身長から彼女が酒が飲める成人と見破れる人はどれくらいいるだろうか。
「よく来てくれた」
一番目上の上司に会うにしてはノックもせずに、気さくな感じで社長室へと入る小柄な女性に、中に居た“社長”も、彼女の態度に咎めることはせず向かい入れた。
成人男性の平均と同等の身長に、不揃い気味になった白髪に被さる瞳からダウナー系を印象付ける顔つき。グローブにスーツ、首から下を隠し喫煙する様は、どうにも堅気ではない気配を漂わせる。
一般人ならば脅えてしまい萎縮する社長を前にして、小柄の女性がまず行なったのは深く吸い込んでしまったため息を吐くことだった。
「――またこんなに吸い殻溜め込んで! 窓閉めっぱなしなのは仕方ないにしても、せめて換気扇付けてって何度言えばするのよ!」
「あ、うん。すまない」
毎日行っても直さないんだからと、ぷりぷり怒りだし山を築いている灰皿の煙草を、次捨てなかったら不格好でもなんでも社長室に入れるわよという宣言通り設置されたゴミ箱に入れる。
「というか煙草の灰、絨毯に落ちてるじゃない!? またうろうろしながら吸ったでしょ!?」
「あ、はい……あの。とりあえず話を聞いてくれないか、仕事の話なんだ」
掃除機を掛けようとする彼女を止めて、社長は萎縮した様子で言う。
「仕事って、もしかして『アーマード』のやつ?」
「そうだ。つい先ほど話し合いが全て完了した。目立った変更は無くこの間の会議で周知した通りになる」
「そう! それは良かったわ!」
うって変わって機嫌良く笑顔になる小柄の女性。
「変更がないって事は“彼”が来る手筈なのよね? これでもっと稼げるし、面倒も少なくなる。はぁほんと嬉しいわ~」
「ああ、先方はそのつもりで話を進めてくれるそうだ。それでだ……お前に彼の面倒を見て欲しいんだ」
「は?」
笑顔で固まる小柄の女性。先ほどからそうではあるが、決して上司に向かって放つべきではない怒気を醸し出しだす。それに対して社長は煙草を口に咥えて分かりやすく目を横に逸らす。
「なんで私? 社長、私がいまどれだけ忙しいか知ってるわよね? だって社長が直接、私に仕事ぶん投げてるんだものね? というか今一度なんで入社した順で下から二番目の私が現場リーダーみたいになっているか聞いていい?」
「本当にすまないと思っている……この会社でまともな奴がお前しかいないんだ」
「知ってるわよそんなの!? でもコロさんは……代わりに東京に行くんだったわね! セクスウェルは考えるまでもなく駄目に決まってるわよね! もうやっぱこの会社ほんと碌な奴いないわ!」
手を顔に当てて、ほんとなんなのこの会社と文句を吐き続ける入社三年目の小柄の女性に、社長は微妙な顔ですまないともう一度謝罪する。
「ああもう。分かったわよ。彼がちゃんと働いてくれれば負担は激減すると思うしね。ほかの奴に押しつけるのも可哀想と思うし」
よくよく考えれば同僚の面倒をみるよりかは楽だし、トラブルを起しそうにないからいいかと、小柄の女性は気持ちを切り替えて了承した。
「それじゃあ頼むぞ――デッド・キティ」
「というか掃除機かけるから、しばらく外で吸ってて」
「……分かった」
+++
「――あった」
寝る前にどうしても気になってしまい。念入りに『B.S.F』の機能を調べていく内にそれを見つけてしまった。
「……どうすればいいんだよ」
腕で瞳を隠し、今にも泣きそうな声で騎士は言う。
『B.S.F』の機能設定画面、一番下と思って居た項目のさらに下――“『B.S.F』と変身機能の譲渡”という項目があった。
男として――。
前話の感想で騎士や殻雲の全体評価を見てとてもにっこにこしてた作者( ̄▽ ̄)←。
※この作品に登場するエンブレムなどはゲーム【ARMORED CORE VERDICT DAY】のエンブレム作成機能によって作られたものです。問題が出てくればまた別の方法を考えたいとも思います。
次回は天使視点になります。それではお待ちになってください次回!