変身ヒロインが守る世界にて十人の変身ヒーローは戦う   作:庫磨鳥

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大変遅くなりました。ようやく終盤前までかけたので投稿できるようになりました。

感想、評価、ここすき、お気に入り登録本当ありがとうございます。こうやって続きを書けるのはみなさんのおかげです。
これからもよろしくお願いします。
※すいません! 誤字報告も本当にありがとうございました!


【七色】相談に乗って欲しいっす!【緊急】 後編①

――お母さんは、変身ヒロインになるのが夢でした。

 

そのために沢山の努力をして、声優にもなったそうです。でも求めるものが違って夢を諦めたそうです。

 

でも平凡で優しいサラリーマンのお父さんと結婚して、娘を産んだころ、本物の変身ヒロインである魔装少女が現れました。

 

お母さんは新しい夢を見つけました。それは娘を魔装少女にすることです。

 

お母さんは頑張りました。娘を魔装少女にするためにはどうすればいいのかと沢山の人に聞いて、たくさん習い事を連れて行って、勉強も言葉使いも料理も魔装少女らしく可愛く見られるものを片っ端から厳しく教えて……魔装少女にらしくないことをするともの凄く娘を叱って、あなたのためを思って言ってるのと涙を流してくれました。

 

そうやって、自我が芽生える前からの努力が実り、11才になったとき娘は晴れて魔装少女になりました。

 

ものすごく喜んでくれたお母さん。

 

――貴女はきっと比恵の顔を見たことが無かったのでしょうね。

 

+++

 

183:騎士

移動中に状況報告をしようとおもってスレ覗いたんだけども……。

 

正義先輩ぃ……なにしてるんですか……。

 

184:天使

絶対なにかやらかすとは思ったけど、まさか直前で居なくなるとは天使の目を持ってしても予測できませんでしたよこのやろう。

なにが性質悪いって、本当に必要だから動いたって分かるから怒りづらいんだよ! もおおおおおおおおおおおおおおお!!

 

185:騎士

荒ぶっているなー……。

 

それで正義先輩はどこにいったのかわかんの?

 

186:天使

SNSで目撃情報多数。町中でド派手に暴れたみたい。作りかけのビル全壊させたとか、いつも通りやることが派手だし普通に迷惑だねー。

 

……あー。どうやら金と朱が襲われてたみたい。それを助けたんでしょうねー正義さんは。

 

187:騎士

そうなのか!? それで二人は無事!?

 

188:天使

無事かどうかわかんないけど、正義が行ったんだからなんとかはなってると思う。

それで騎士、いま状況はどうなってるの?

 

189:騎士

公園で桃ちゃんがグレムリンに襲われた。明らかにフェアリーに改造されてるやつで魔装を貫通出来るタイプ。狙いはほぼ間違いなく七色の『B.S.F』だと思う。

 

190:天使

やばいね。七色だけの問題じゃすまなくなってきたっぽい。

……騎士、僕のこと迎えに来れる?

流石にショーの後片付けとか言ってられないでしょ?

 

191:騎士

ごめん。俺はそっちいけそうに無い。

いまクロスベルに乗って、桃ちゃんとモググ。そして銀の三人一妖精で七色がいるホテルに向かってるよ。途中王様も一緒だったんだけど、希望からの別地点にグレムリンが現れたって連絡が来て、そっち向かった。

けど、話聞く感じ正義先輩がいるとこっぽいね。

 

192:天使

あー。しまったなー。僕の方から連絡すればよかった。

とにかく状況は分かったよ、僕もお客さんが会場出たら、なるはやで抜けてそっちに合流するね。

  

193:騎士

いいのか?

 

194:天使

見るだけの範囲超えてると思うしねー。

怪我人出てるのにショーを運営してたから治しに行けませんでしたは、ヒーラーの沽券に関わるよねー。

もうショー自体は終わるから握手会とか残りのイベント消化は悪魔だけに頑張って貰うよー。

さすがに主役がいなくなるのは無理。

 

195:騎士

混沌先輩は?

 

196:天使

出番終わったら、そそくさとどっか行っちゃったみたい。もしかしたら現場に向かってるかも?

タクシー……いや、こうなったらアンギルのままで自転車漕いだ方が速いよねー……。

アンギルのままでチャリで行くのかー……トレンド一位とっちゃうぞー(死んだ目)

 

197:騎士

うーん。シュール。

というかアンギル飛行能力持ってたでしょ?

 

198:天使

浮遊能力なんだよなぁー。ちょっとぐらいは動く事出来るけど基本は浮くだから、移動凄く遅い。王様みたいに飛べたらよかったのになー!

人生ままならねぇぜ!!

 

199:騎士

ああ、滅多に使わないのってそういう……。

 

200:天使

風とかの影響も受けないから、場合によっては風船より遅いよ……。

 

そういえば、ちょっと聞きたかったんだけどフェアリーが絡んでいるのは絶対として、桃ちゃんのフェアリーはどう?

 

201:騎士

彼……と言っていいかは分からないけど、良いフェアリーだと思うよ。それこそ桃ちゃんの心配ずっとしてた。

所感なんだけど、なんていうのかな。グレムリンを操って裏でなにかやるタイプって感じはしないかな?

 

202:天使

騎士がそう言うなら『塾』のフェアリーってのも本当っぽいかな? 

改造グレムリンってことは『協会』に関与しているフェアリーだろうし、白確と考えてもよさそう。

……魔装少女の需要を増やすためにグレムリンを強くするって本当に嫌な発想だよね。どの口が正義のこと批判しているんだか。

 

203:騎士

『協会』全部がそうってわけじゃないけどね。ちゃんと魔装少女の生活を支援してるのは確かだし、少なくとも本部は本心から魔装少女とフェアリーのことを想って動いているって先輩たちも言ってた。

 

なんにせよトラブルの最中を狙われたのは確かだね。

 

204:天使

情報がどこから漏れたか、今回の襲撃者の目的とか気になることはたくさんだけど、とりあえず『B.S.F』を七色に渡すのが最優先かー。

 

……そういえば桃ちゃんと銀はどうやって移動してんの?

 

205:騎士

あー……。銀はビルを跳んで目的地へと誘導してくれてるよ。

桃ちゃんは……『クロスベル』に乗せたんだけど俺の足にしがみつけながら震えてる……。

さっきから顔伏せて呪詛のごとく無理無理無理無理って言ってる……。

 

206:天使

桃虐かな?

 

207:騎士

そんなつもりは無かったんだけどね……王様や銀だとお姫様抱っこになるから、こっちの方が楽かなと提案したんだけど……。ごめんね……。

 

208:天使

飛行機並の速度で空飛ぶ鉄の十字架の上に乗って移動するのは普通に怖いよねー。

重量200キロ越えの物体がどうやってそんな風に高速で飛んでるんだか……。

 

209:騎士

多分、重力か斥力操ってるのかな。わかんない(理科58点)

 

210:天使

何歳の時の点数かは聞いちゃいけないやつだねー(そもそも理科だったっけ?)

 

211:騎士

て、てんし……?

 

212:天使

まぁほら、スキルも魔法も地球の元ある物理学に当てはめるのは不可能って言われてるしねー。ちょっとはね?

さてと、僕もそっちに向かうよ。

悪魔、君の犠牲は無駄にしないよー。

 

213:騎士

悪魔さんが子供に配慮して、小声で抗議しているのがすごく見える。

 

214:騎士

まって、銀の様子がおかしい。

ビルの屋上に立ち止まった。なんか胸を押さえている?

 

215:天使

どうしたの?

 

216:騎士

確認してくるよ。

 

217:騎士

まずい色が黒に……だめだっ!

 

218:天使

ちょっとなにが起きてるの!?

 

219:天使

騎士!?

 

 

 

+++

 

「はああああああああああ!」

「ふっ!」

 

建物に挟まれたコンクリート道路にて、片方が剣を、片方が拳を振るい、魔装少女同士が殺意をまき散らしながら舞っている。二人の間に共通している唯一のもの。それは目の前の敵を排除することである。

 

「二人とも今すぐ戦うのをやめてくれっす!!」

 

穴が開いたビルから七色は大声で静止を呼びかけるが、二人の耳には届いておらず止まる気配が無い。

 

「〈魔法展開(スペル):ビートルアップ〉!」

 

STR()強化の魔法を唱えたパンチャー・ノワールは強烈な右ストレートを繰り出す。対するグレイ・プライドは剣で受け止めるのは不味いと判断し、上空に跳躍して回避する。

 

グレイ・プライドは七色がいるラブホと向かい合うビルの屋上へと着地して、パンチャー・ノワールを見下ろしながら、魔力を生成する。

 

「〈固有魔法展開(エクストラスペル):マリッジマジック〉」

 

左右の手の甲に魔方陣が浮かび上がる。

 

「させない! 〈魔法展開(スペル):ホッパージャンプ〉!」

 

パンチャー・ノワールは魔法が発動しきる前に倒すと、跳躍飛距離を上昇させる魔法を発動させて、グレイ・プライドよりも高く跳んだ。

 

「〈魔法展開(スペル):シュリンプキック〉!」

 

続いて空気を蹴る事が出来るようになる魔法を発動。パンチャー・ノワールは空間を蹴り斜めに直線的にグレイ・プライドにむかって跳び足を向ける。

 

受ければ怪我だけではすまない必殺の飛び蹴りに、グレイ・プライドは冷静に“詠唱”を続ける。

 

「〈フォックスファイア〉×〈ラクーンウィンド〉=〈フェニックス〉」

 

地面に浮かび上がった二種類の魔方陣が重なりあい、渦巻く紫色の炎の肉体を持つ大鳥を生み出した。

 

グレイ・プライドの『固有魔法』は一度発動してしまえば、任意で解除するまで魔力を微量に消費しながら常時発動し続ける。その効果は自分が扱える二種類の魔法を合成し、新たな魔法を生み出すものであった。

 

「行って」

 

生みの親の命令に従い、紫炎の大鳥は迫り来るパンチャー・ノワールに向かって羽ばたく。

 

「それはよく知ってるからあああ!」

 

大鳥の形をした炎の塊は見た目の怖さとは裏腹に強い衝撃を加えれば簡単に炎が散って霧散すると、パンチャー・ノワールは何度も見てきたグレイ・プライドの得意魔法の弱点を熟知していた。そのため多少の火傷を覚悟してそのまま突っ切る。

 

そんなパンチャー・ノワールの知識通り〈フェニックス〉は蹴りがヒットした瞬間、勢いをろくに殺すこともできず呆気も無く消失。

 

衣服(魔装)』を焦がしたパンチャー・ノワールは攻撃が通ることを確信する。しかしグレイ・プライドは極めて冷静に一手はやく対策を講じていた。

 

「〈モンキーゴーレム〉×〈タートルシールド〉=〈サイクロプス〉」

 

グレイ・プライドの前方に魔方陣が二つ展開し、先ほどと同じく重なると今度は、甲羅模様がある岩で出来た単眼のゴリラ型巨人〈サイクロプス〉が現れる。パンチャー・ノワールの跳び蹴りを正面から受け止めた。

 

――ドゴン!

 

元々岩並に頑丈なゴーレムに、ロケット弾ですら壊せない魔法の盾を合成した〈サイクロプス〉の胸部にパンチャー・ノワールの足が突き刺さる。拘束するためにパンチャー・ノワールの背中へと腕を回そうとする〈サイクロプス〉であったが、パンチャー・ノワールはすでに次の行動に移っていた。

 

「〈魔法展開(スペル):ブルインパクト〉……すぅ――はぁ!」

 

――ドゴンッ!!

 

衝撃力増加の魔法を唱えたパンチャー・ノワールは、もう一本の足で力一杯〈サイクロプス〉の体を踏み抜いた。〈サイクロプス〉の全身に亀裂が走り粉々に砕け散り瓦礫となり動かなくなる。

 

「…………っ!」

「…………はぁ!」

 

再度、対面する二人の魔装少女であったが口を開くことなく衰えない敵意に従い即座に動き出す。

 

「ああもう! なんで『B.S.F』落っことしちゃったっすかね!」

 

自分の馬鹿さ加減に後悔しながら、七色は激化する戦いを見て、立ち止まってられないと外へと出る。

 

突然の魔装少女同士のバトルに、周辺にいた人々は揃って屋上に向かって視線とカメラを向けていた。七色はその中を通り抜けて二人がいる屋上へと向かう。

 

「こんちくしょう! 無駄に階段多いっす!!?」

 

ビルの中では遅いと、七色は非常階段を一気に駆け上がる。

 

「ヒーローになってから鍛えてきた筋肉の使いどきぃ!」

 

最上階の扉前まで辿り着いた七色は勢いを付けて飛び上がり、フェンスを掴んで、そのままよじ登り屋上へと到着する。

 

「――なんて顔してるんすか」

 

戦っているグレイ・プライドは殺意に満ちており、七色が見たことのないほどに怖い顔をしていた。そして黒色の魔装少女も同じように。喧嘩を超えている雰囲気に七色は思わず体を震わせる。

 

「はぁ……はぁ……。」

 

しかしながら鬼気迫る勢いとは別に激しい猛攻のすえ、パンチャー・ノワールはバテ始めていた。魔力保有量がグレイ・プライドと比べて半分ほどであり、消費量が少ないとはいえ肉体強化魔法を多用。さらに高速で動き回る戦闘スタイルのため運動量も桁違いに多く体力消費も激しかった。

 

一方でグレイ・プライドは〈マリッジマジック〉で、普通に使用する際の何倍もの魔力量を消費しているが、元の魔力保有量が多いためまだまだ余裕であり、体力も温存していた。

 

グレイ・プライドは、『固有魔法』もさながら、ペース配分と立ち回りに関しては魔装少女の中でも群を抜いていた。何故なら彼女もまた他のセブンスガールと同じく、そして誰よりも長く孤独に戦い続けてきたためにスタンドプレイの経験が豊富であった。

 

「はやく消えてください……邪魔をしないでください……どうして、あなたはここにいるんですか?」

 

誰が見ても、よほどの事が無い限り決着は付いたも同然であった。勝利の確信によって怒りは衰えないものの少しばかりの余裕が生まれたグレイ・プライドは口を開いた。

 

「……あなたたちが……セブンスを連れ去ったからっ!」

「それがあなたになんの関係があるんですか!?」

「セブンスはわたしの……みんなのヒーローだからっ!」

「意味が分からないよ!」

「終わらせない! 終わって欲しくない! だからっ! 〈魔法展開(スペル):キャットウォーク〉!」

 

油断はしていなかったが、パンチャー・ノワールはなりふり構わず、相打ち覚悟で正面へと突っ込んできたためにグレイ・プライドは剣を止めざる負えなくなり致命的な隙となってしまう。

 

このとき二人の明確な違いは理性の残り具合と、ある事を知っているか否かだった。

 

「――『ノワールクラッシュ』」

 

必殺の一撃がグレイ・プライドに向かって繰り出される。

 

――ちゃんとした説明はできないんだけどね。人が魔装少女となった時。あちらで言う物質生命体の特徴である“肉体に精神が定着している”という概念が逆転するんだ。そうすることで“精神に肉体という殻を覆わせている”と体の仕組みがフェアリーやグレムリンみたいになる。もっと簡単に言っちゃえば擬似的に精神生命体になるってことだね。だから魔装少女による魔装少女へのダメージはグレムリンと同じぐらい効果てきめんだからそれだけは覚えておいて。そして君の魔装少女たちにも教えといてね。取り返しの付かないことが起きないように。

 

「ばかやろう!」

 

魔装少女の攻撃は魔装少女を殺せてしまう。それを奈落から教えられた七色は生身のまま二人に向かって駆け出した。だが間に合わない。自分が割り込む前に拳は届いてしまうと判断した七色は後先のことなんて考えずグレイ・プライドを突き飛ばした。

 

「――あ」

 

それは誰の声だったか、七色の腹部に『ノワールクラッシュ』が直撃する。

 

七色はまず始めにあれだけ強烈なパンチを受けて吹き飛ばされていないことを不思議に思い、その後すぐに腹部に違和感を覚える。それが激痛だと気付いたのは数秒後だった。呼吸の仕方を忘れて膝から崩れ落ち、意識がゆっくりと消えてゆく。

 

――幸太!

 

――セブンス……!?

 

七色は自分の呼んでいるであろう声を聞きながら、意識を落とした。

 

+++

 

激情に支配されるままに拳を振るい続けてきた黒い少女は予想だにしない結果に呆然と立ち尽くす。

 

「幸太!」

 

グレイ・プライドが剣を投げ捨てて必死な面持ちで七色に駆け寄る。

 

魔装少女の攻撃を生身の人間が受けた場合は、魔装少女がグレムリンの攻撃を受けた時と同じく人体に影響は無く、しかし痛みは受けることになる。だから七色は体こそ無事だが、腹部に風穴があくほどの強烈な殴打により、激痛に襲われて脳が肉体の状況を誤認。血流が異常な動きをしてしまったことにより、一時的な気絶状態となる。

 

「幸太! 起きて……こうたぁ……」

 

命に別状は無いのだが、愛する七色が自分の身代わりとなって必殺の攻撃を受け倒れたとあって、冷静な判断が出来ず。グレイ・プライドはパンチャー・ノワールの事を忘れて、ただただ七色の名前を呼ぶ。

 

――灰稲は、母親の夢を叶える道具でしかなかった。

 

娘である自分を大成させるための愛ではないと灰稲が気付いたのは、離婚前に父と母が喧嘩していたのを目撃した時だった。

 

あまりにも娘に厳しすぎるだろと父の指摘に、最後まで母は自分の夢を叶えるためであることを主張し、娘の想いは二の次よりも遠くにあった。皮肉なことに苛烈な教育の所為で年齢以上に賢くなっていた灰稲はそのことに気付いてしまう。

 

親権の話で、父の誘いを灰稲が断ったのは魔装少女としての教育を受ける中で植え付けられた自己犠牲によるものだった。もしも自分が父を選んでしまったら、この母親のことだ。“夢”を連れ戻すためにありとあらゆる手を講じて、場合によっては父親の人生を地獄に変えてまでも自分を連れ出すだろうことが容易く理解出来た。

 

母親はブレーキがいなくなったことで、さらに灰稲比恵という個人を追い詰めることになる。いつしか灰稲は母親が楽しそうならそれでいいかと考えだし、感情をそぎ落としていき、夢を叶える機械へと変わっていった。

 

そうやって母親の夢は叶えられ、灰稲は魔装少女となる。噎び泣いて喜ぶ母親を灰稲は無機質な表情でじっと見ていた。

 

娘が魔装少女となったことで母親の夢は終わった。しかし今度は理想を膨れ上がらせた。魔装少女となった娘を誰からも好かれる人気者になってほしい努力をし始めたのだ。あまり世間受けしない灰色だったことも情熱の炎に油を注いだのかもしれない。テレビ出演、アイドル活動、Bランク以上のグレムリンを単独撃破に、終わらない魔法の習得に勉強。ついには安らげる学校の時間も徐々に減っていった。

 

自分はもう、灰稲比恵として生きられない。そんな諦めと共になにをするわけでもなく無気力に机でぼーっとしていた灰稲に転機が訪れる。

 

――比恵さん、でよかったかな名前?

 

転校してきた七草幸太が話しかけてきた。内容はずっと座っていて天井を眺めているから心配になって声を掛けたというものだった。

 

誰から見てもたった一言、名前を呼んだだけの平凡でありふれた些細な出来事。それでも灰稲は――救われてしまった。

 

「こうたぁ……ごめんね……」

 

それから灰稲は転げ落ちるように依存した、幸太と触れ合う事が灰稲にとって“比恵”で居られる時間であったから、小学校から始まって、中学校、高校へと決して離れるような事はしなかった。その中で灰稲は自立心が芽生えていく。最初は母親を騙す形で、徐々に魔装少女の活動を自分で管理するようになり、スケジュール調整を行い、開けた時間に幸太の家に行くなどをした。途中母親にばれてしまい、魔装少女が男と一緒にいるなんてと烈火の如く怒声を浴びせられたのを切っ掛けに“お仕置き”を行ったことで、彼女は本当の意味で自由となった。

 

家庭の事情の解決は、すべて灰稲比恵が自分で行った事であり、幸太はその事について殆ど知らなかった。しかしながら、灰稲は自分が自分でいられたのは全て幸太のおかげとして、より彼のことを愛した。それと同時に強い不安を常に抱き続けることになる。もしかして自分は母のように優しい幸太に想いを押しつけているだけなのだろうかと。

 

優しい世界が無くなることを怖れて、その不安を仕舞い込み、今までの苦痛を受けていたのだから自分には幸せになる権利があると言い訳をしながら、幸太の傍に居続けた。

 

そんな不安を押し込めることに我慢できなくなったのは、自分を守るためにブレイダーに変身してボロボロになった幸太を見て、母親に夢を押しつけられた時期の自分と重なったからである。

 

ほんの些細な穴から湧き出てくる不安と恐怖、幸太といるだけで幸せになることに罪悪感を覚え始めてしまい。考え始めてしまう。幸太は優しいから自分と一緒にいてくれるだけで、本当は迷惑で辛い思いをしているんじゃないかと。

 

今日覚悟を決めて尋ねることにしたのだ。それは灰稲にとって決死の覚悟と言えることだった。例えそれが植え付けられた自己犠牲が囁くものであっても、自分に全てを与えてくれた人に不幸になってほしくないと。

 

しかし、その結果がこれだと。自分を庇って人が受けていいはずのない痛みを与える結果になってしまったと、灰稲は後悔し涙を流す。

 

「――私は……なにを」

 

冷水を浴びせられたように、先ほどまで抱いていた怒りが沈静化したパンチャー・ノワールは、自分のしでかしたことに、ただただ胸を締めつけられる。

 

「あ……」

「――よくやったクツね~」

 

なんて声を掛ければいいか分からない。でも、このまま逃げることも出来ないとグレイ・プライドと七色の方へと歩いていこうとしたとき、聞き覚えのある声が後ろから聞こえた。

 

「クツツ……どうして?」

「遠目で見ているだけじゃ我慢できなくって、ついつい現場へと来ちゃった。クツクツクツ」

「ク、クツツ……?」

 

自分を魔装少女に選出してくれた、シマエナガのような見た目をしているフェアリーのクツツ。優しく頼れるフェアリーとして信頼を置いていたクツツが、今まで聞いた事のない粘り着くような笑い声をだしていた。

 

「が、我慢って何を言ってるの……?」

「ほらはやく唱えなよ。君のお決まりのアレをさ」

「アレって……まさか『固有魔法』のこと!? ダメだよアレは危険すぎる! それにもう戦う気は……」

「君が無くても、クツツにはあるんだよほんとバカだな!!」

「え?」

「まあ、どうせ拒否ると思ってね――細工は施しておいたんだ」

「く、クツツ!? なにをするの!?」

「〈魔法生成(クリエイト):オープニングコール〉」

 

クツツが魔法を発動すると、パンチャー・ノワールは異変をすぐ感じ取る。体が勝手に魔力を練り上げられる。全身に出てはいけない黒色の魔法陣が浮かび上がる。

 

「だ、だめ……やめてっ! クツツ!?」

 

パンチャー・ノワールが抵抗するも、本人の意志を無視して衣装がより深い黒へと染まっていき、肌も白肌から褐色へと変貌する。

 

「うっ! ……あ。あああがっ!」

「物質生命体の精神構造は理解不能だから出来ないクツけど……語尾めんどっ。出来ないけど、こうやって時間を掛けて仕込めば、魔法を強制発動させるぐらいは出来るんだよ!」

「あああああああああああああああああああああ!!」

 

悲鳴は咆哮へと変わり、瞳孔が開いた瞳はバイザーで隠されることになる。

 

――パンチャー・ノワールの『固有魔法』。その名は〈ブラックサレナ〉。“全力”を特大強化を付与する。自分の行動全てが増加される第一級クラスの強化魔法であるが、致命的なデメリットがあり、それこそが理性を喪失させ、敵と認識したものを殲滅させる“狂化”の付与である。

 

「――なにが?」

 

七色に膝枕をしながらずっと泣いていたグレイ・プライドは、パンチャー・ノワールの咆哮によってようやく状況の変化に気付く。明らかに危険な見た目へと変わったパンチャー・ノワールに、見知らぬ妖精のすがたを見て、ただ事ではないと七色を守るように抱きしめて剣を構えた。

 

その様子を見て、クツツは鳥の嘴を歪ませて嗤う。

 

「――ああ、仮説は正しかった。クツクツクツ! 本当に最高の日だ!」

「え? ぐっ!? ……こ、これはなんですか?」

 

グレイ・プライドは唐突に胸が苦しくなって抑える。それは内臓の異常とかではなく制御が効かない感情が溢れ出てくる感触だった、なにが起きたのかと原因を探るために自分の体を見ると、灰色の花嫁衣装が黒に染まっていた。

 

「こ、この魔法は周囲にも影響するの!?」

「ノーだよ。この魔法って言うか黒稗天委は生まれながらの出来損ないで魔力を外に放出できないんだ。ほんっと雑魚。だから他者を魔法の対象とすることは出来ないのさ! でもね! なんらかの方法で別の魔装少女にパスを通すことで、その問題を解決したの。クツツって天才でしょ!?」

 

クツツの嬉々とした声の説明を聞き、その“パス”には覚えがあり、パンチャー・ノワールが“黒”の魔装少女であることに漸く気がついた。

 

「自我が無くなって暴れる魔装少女が二人。どうなるかな? 二人で殺し合うかな? それとも周囲の人間へを殺しまくるのかな? もしくはそこの忌々しいブレイダーで遊ぶのかな? クツクツクッひゃひゃひゃ!! 苦痛だ! 苦痛を見せろ!? 美味なる苦痛をいまここで!!」

 

「……ごめんなさい、比恵は――」

 

徐々に眠気のようなものに襲われて思考がおぼつかなくなるなかなか、グレイは愛する人に謝罪し、グレイ・プライドは剣を手に取った。

 

――黒に染まった二人の魔装少女。

 

戦いはまだ終わらない。

 

 

 

 

 




変身シーンはお預けになってしまいました。すいません( ̄▽ ̄:)

アンケートありがとうございます。この章が終わり次第書いていきたいと思います(頑張る)。

※分かりづらいかなと思ったので簡易的に致命的な攻撃を受けた際どうなるかと載せておきます。

グレムリン→人間=死
グレムリン→魔装少女=痛みだけ
魔装少女→グレムリン=死
魔装少女→人間=痛みだけ。
魔装少女→魔装少女=死
フェアリー→人間/魔装少女=そもそも物質生命体に対しての攻撃手段がない。
人間(物質兵器)→その他=衝撃だけ(痛みもなければ傷もつかない。威力に対して空気で押されたぐらいになる)

ややこしいなおい(作者)
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