原作女の子主人公(ミヅキ)がアニポケ世界のスクールに入学して自分の夢を探す話 作:きなかぼちゃん
1.夢の始まり
みんなの視線が自分に注がれているのを感じた。緊張ですこし胸がドキドキした。とくに隣にいる、肩にピカチュウを乗せた少年のワクワクした表情が気になって仕方がない。落ち着けミヅキ。人は第一印象が肝心なの、ゆっくり、落ち着いて……。一度すっと深呼吸して、彼女は口を開いた。
「えっと……、カントー地方のタマムシシティから来ました! ミヅキです! よろしくお願いします! 夢は……まだわかりません」
そうスクールのみんなの前で、サトシの次に自己紹介したことをミヅキはよく覚えている。夢はポケモンマスターになること! って楽しそうに言うサトシにつられてそう言ってしまったのだけれど、それからミヅキはなんとなく自分の中でモヤモヤと考えるようになった。
わたしの夢って、一体なんだろう?
なにかに本気で夢中になったこと、あるんだろうか?
アローラ地方。4つの島からなり、1年を通して温暖な気候が特徴で、よその地方からは観光地として有名な場所。ミヅキは3週間前にカントー地方のタマムシシティから、アローラの島の1つであるメレメレ島に引っ越してきた。
そしてここはそのメレメレ島の山のふもとにあるポケモンスクール。タマムシシティのスクールとは違って、窓もなければコンクリートの壁もない。なんなら教室には扉もない。巨大なツリーハウスのような開放的すぎる建物だった。風通しはいいけれどなんだかあまり落ち着かない。というのが現時点のミヅキの感想だった。
昼休み、お弁当を食べた後にミヅキは教室の机でボーッとしながら広いキャンパスの庭を見ていた。たくさんの生徒たちが自分のポケモンをボールから出して遊ばせたり、バトルしたりしてわいわいと遊んでいる。
ミヅキはまだポケモンを持っていない。もしわたしもそのうちポケモンをゲットしたらあんな感じに遊ぶのかな。というか、どんなポケモンを捕まえるんだろ。あんまり想像ができないなぁ……。
ふう、と軽くため息をつく。引っ越してから少し経って、アローラに慣れたような気がしたけど、まだまだそうでもない。
ミヅキの家はリリィタウンの外れにぽつんと建っている。不便だしスクールにもちょっと遠いし、どうせなら都会のハウオリシティに住めばいいのに。なんてミヅキは思う。ただ、こういう自然の中に住むのがママの夢だったから仕方ない。うちのペットのニャースも結構楽しそうだし。
ただ今まで都会に住んでいたミヅキにしてみれば、虫ポケモンは多いし、暖かいというよりは暑いしで暮らしが変わって戸惑うことが多くて、すこし疲れるのは確かだった。
そんな風にぽやぽやと色んなことを考えていると、いつの間にやらこっそりと背後に両手をわきわきさせている青色の人影が迫っていた。
「わ!」
「ひい!? びっくりしたあ……スイレンっいきなり何するのっ」
後ろから両肩に勢いよく手を乗せられて、びっくりしてミヅキはついビクッとしながら大声を出してしまった。スイレンはへへっと舌をぺろりと出してその反応を楽しんでいる。
「だってミヅキがぼーっとしてるから……昼休み、もったいないよ? 遊ぼ! 下でマオちゃんとリーリエも待ってるよ」
『アオッ!』
スイレンの傍にいたアシマリもニコニコしながら一緒に行こうと一鳴きした。
「ゴメンゴメン、ちょっと考え事しちゃってて……そだね! 遊びにいこ!」
スイレンは同じクラスの友達だ。いつも服の下に水着を着ている泳ぐのが大好きな女の子。友達をからかうのが好きで、澄んだ青色の髪の毛がトレードマーク。一緒にバタバタと階段を降りると、校舎の玄関に女友達のマオとリーリエが待っていた。このクラスは女子がミヅキを入れても4人だけなので、必然的にいつも固まって遊ぶことが多い。
「ほらミヅキー! 今日はサトシとカキがバトルするんだって! 見に行こうよ!」
「うん、あれ、マーマネは?」
「もう行ってるみたいです! バトルでワザがぶつかりあう時のエネルギーの測定をするとか……」
マーマネは食べるのが大好きなちょっとふとっちょな機械オタクの少年だ。凄い複雑な機械をいじってデータ収集するのが好きで、専門用語をよく使うのでミヅキにはわからないことが多い。
みんなでグラウンドの方向に行くと、少し遠くでちょっとした人だかりが出来ていた。
3人で人だかりの間から覗いてみると、そこではすでにサトシのピカチュウとカキのバクガメスがバトルを始めている。この2人はポケモンスクールの中でも1,2を争う実力の持ち主なので、いわゆる「ガチバトル」をするときは自然と他の生徒も参考にしようと集まってくるのだ。
「ピカチュウ、でんこうせっかだ!」
『ピカピィ!』
「バクガメス! トラップシェルで迎え撃て!」
『ガメェ!』
サトシがピカチュウに、カキかバクガメスに指示を出す。ピカチュウがでんこうせっかで突っ込んでくるのに合わせて、バクガメスが反転し甲羅を正面に向けた。バクガメスの固有ワザ・トラップシェル。バクガメスの甲羅に生えた棘に触れると爆発し、触れたものに大ダメージを与える強力なワザだ。
「ピカチュウそのまま突っ込め! 棘を避けろ! 甲羅を足場にして飛び上がるんだ!」
「何!?」
ピカチュウは甲羅の縁を使いトゲを掻い潜りうまく跳躍した。ピカチュウとバクガメスは今日だけでなく今まで何度もバトルをしている。その中でサトシとピカチュウが考えた新しい戦法だった。
「そのままエレキボール!」
「ドラゴンテールで相殺しろ!」
空中から投げつけたエレキボールがドラゴンテールで両断され、その衝撃で煙幕が広がった。そしてやがて煙が晴れる。
「!」
カキの目が見開かれる。前方にはどこにもピカチュウがいない。
ならどこに? 上? 横? 否。
「後ろだバクガメス!」
「遅いぜ! アイアンテール!」
『ピカァ!』
命令がワンテンポ遅れた。バクガメスが後ろを見る前にピカチュウが渾身の力でバクガメスの腹をアイアンテールでぶっ叩いた。
『ガメッ……!』
苦悶の声を出しながらバクガメスが吹き飛ばされる。ピカチュウの小さな身体のどこにそんな力が? と普通は思うけれど、スクールの子供達は既にピカチュウとバクガメスのバトルを何度も見ているので驚きはない。
「近距離戦に持ち込むつもりか……! バクガメス! まだやれるな!?」
『ガメェ!』
バクガメスはカキの声に力強く応えて起き上がった。
「追いこめ! ピカチュウ、もう一度でんこうせっかで攪乱しろ!」
「させるか! バクガメス、火炎放射でなぎ払って近づけさせるな!」
『ピカ!?』
直線的にでんこうせっかで距離をつめるピカチュウに対し、バクガメスはなぎ払うように火炎放射をばらまいた。それはわずかにピカチュウの身体を捕らえた。熱い! 思わずピカチュウはワザを解除してバクガメスと距離を取る。
「ピカチュウ、大丈夫か!?」
『ピカピ!』
全然まだやれる。ピカチュウは耳をびしっと立てて気合いを入れてサトシに応えた。
「相変わらずカキとサトシは互角だね!」
「ですね!」
「うんうん」
マオ、リーリエ、スイレンが2人を褒めると、
「いや……サトシこれはやばいかも?」
それに対してミヅキが呟いた。3人が「え?」と言う。ミヅキはピカチュウに近距離戦をさせないこの展開はZワザの流れだと思った。
事実、ピカチュウとバクガメスが距離を取り、バトルが一瞬膠着した。そしてカキの眼光が鋭くなり、腕を胸の前で力強くクロスし構えた。腕のZリングが光り輝く。
「いくぞ、バクガメス!」
『ガメェ!』
カキとバクガメスが呼吸を合わせる。光で出来たオーラのようなものが2人を繋ぎ、周辺の空気が震えた。
「俺の全身、全霊、全力! 全てのZよ! アーカラの山の如く熱き炎のように燃えよ!」
舞い、捧げるようにカキが口上を叫ぶ。周囲で見ている他の生徒が小さく歓声を上げた。これこそがZワザを発動する合図だ。それを見てサトシはすかさずピカチュウに指示を送る。
「Zワザか……! ピカチュウ、こっちもゼンリョクで10まんボルトだ!」
『ピッ……カァ!』
「くらえ! ダイナミック……フルフレイム!!」
炎と雷、大技同士の直撃。爆風が当りを包み、ミヅキは思わず顔を覆う。少しだけ目を開けてちらりと周囲を見ると、みんなも同じように爆風から身を守っていた。
やがて煙が晴れて目を開けると、そこには悠然と立つバクガメスと目を回して倒れているピカチュウがいた。ダイナミックフルフレイムを10まんボルトで受けきれずに、ピカチュウはダウンしてしまったのだ。
そして審判をしていたマーマネが気がついたように宣言する。
「ゴホ、ゴホ……あ、ピカチュウ、戦闘不能! よってバクガメスの勝ち!」
「当たった。ミヅキの予想」
少し驚いた表情でスイレンが呟いた。
「アハハ。たまたま、なんとなくだけどね……」
ミヅキは苦笑しながら答える。あんなものは素人考えのあてずっぽうで、今までサトシとカキがしていたバトルを見てなんとなく思ったことにすぎない。
「ピカチュウ、大丈夫か?」
『チャァ……』
サトシが急いでピカチュウを抱き上げると、ピカチュウは大丈夫だと返すように手を力なく振った。
「今日は負けちゃったな。でも今の10まんボルトすごかったぜ! 次は勝とうな!」
負けたけれどサトシは努めてポジティブにピカチュウに声をかけ、ピカチュウもそれに力強い声で応えた。サトシのこういうところを見ると、いいポケモントレーナーだとクラスのみんなは思う。
「ほらピカチュウ、オボンの実だよ~」
『ピカピ!』
すかさずサトシの元にマオが駆けより、ピカチュウに体力回復効果のあるオボンの実を食べさせる。家が食堂をやっているというのもあるけれど、マオはカキとサトシのバトルの後によくこういう気配りをしてくれるのだった。とっても優しい友達なのでミヅキは内心すごく見習っている。
「サンキューマオ! いつもありがとな。よかったなピカチュウ」
「ううん全然! 人でもポケモンでも、運動の後のご飯はマオちゃんにお任せだよ! ほらバクガメスにも!」
『ガメェ』
「よくやったな、バクガメス。マオもありがとな」
カキが表情を和らげて、バクガメスの勝利を称えてからみんなの元にやってきた。カキはクラスの中で唯一Zワザが使える生徒だ。家がアーカラ島で牧場をやっていて、その手伝いをしながら毎日バトルの鍛錬を積んでいる努力家である。しかも毎朝リザードンに乗ってメレメレ島まで登校しているのだ。わたしの家の距離くらいで遠いなんて言っちゃダメだなあ、とミヅキはなんとなく心でため息をつく。
「やっぱりカキのZワザはすげえや! 受け止めようと思って簡単にできるもんじゃないなあ」
「当たり前だ。毎日鍛錬してるからな」
サトシがストレートに褒めるので、カキは少しだけ照れたのか指で鼻を擦りながらそう答える。
「だがサトシ、いつもならZワザは避けようとするだろ。なんで今日は受け止めようと思ったんだ?」
「ああ、カキとはいつもバトルしてるじゃん。だから今日はZワザにどれだけ10まんボルトが効くのか試してみたかったんだ」
「なるほどな……だが、俺とバクガメスの熱い炎はそう簡単に受け止められるものじゃないぜ?」
カキはニヤリと笑う。これだからサトシとのバトルは何度やっても楽しい。毎回新しい発見がある。
カキは今までゼンリョクを出してなお対等にバトルできる同級生がいなかった。サトシがこのスクールに来るまでは。
サトシはカキにとってはじめての同年代のライバルだった。お互いに研鑽して高め合うという感覚、これが楽しくないわけがない。
「あーでも、俺も早くZワザ使えるようになりたいな~!」
「それなら、まず試練を受けないとな。しまキングに認められないと、Zクリスタルは手に入られないぜ?」
「わかってるよ。早く試練受けてみたいぜ! な、ピカチュウ!」
『ピカピ!』
サトシは同じようにやる気満々のピカチュウを見ながら、たぎる気持ちを抑えきれなかった。
手首に巻いたクリスタルのないZリングに目を落とす。サトシがZワザに興味があるのは、単純に強くなりたいというだけでなく、ピカチュウのためという理由もあった。
ふと、サトシは昔の旅路を思い出す。サトシといつもいる相棒はピカチュウだ。でもバトルでエースとして頼るポケモンは、リザードン、ジュカイン、ゴウカザル、ワルビアル、ゲッコウガ……いつもピカチュウ以外の誰かだった。
アローラ地方に来たばかりのころ、サトシはカプ・コケコの気まぐれでZリングとデンキZを授かった。そしてカプ・コケコとの腕試しでかみなりのZワザ・スパーキングギガボルトを撃ったあの日から、このZワザはピカチュウの新たな力になるかもしれないという予感があったのである。
サトシがまだZワザを使うには未熟だったのであの時のデンキZは砕け散ってしまったけれど、次は絶対に自分の力でZクリスタルをゲットするのだと決意を新たにしていた。
「今日はカキの勝ちだったねえ。これで何勝何敗?」
地べたに座ってホログラムのパソコンをいじりながらマーマネが言う。ついさっきリーリエが言っていた『ワザがぶつかり合うときのエネルギーの測定』をしているようだった。
『ピピッ、カキが4勝、サトシが2勝ロト。ちなみにピカチュウがカキのZワザでやられたのはこれで3度目ロト』
サトシの図鑑としていつも一緒に暮らしているロトムが答える。図鑑と呼ばれるだけあってロトムは色々な出来事をデータ化するのが好きだった。
「うーん、サトシも色々工夫してるけどやっぱりZワザがある分カキの方が有利だよねえ」
「ホントだぜ……あー俺もZワザ使いたい~!」
サトシがじたばたしながら言う。カキはそれにあきれ顔をしながら、仕方ないなといった風な様子だった。
「全くお前は……サトシ、焦るなって。前はZワザを軽く考えるなとは言ったが……今のお前にZワザを使う資格がないとは思ってないさ。そのうちククイ博士がハラさんの所に連れて行ってくれるだろ」
「ハラさん?」
「ああ、メレメレ島のしまキング、ハラさんだ。サトシが最初のZクリスタルをゲットするとしたら、ハラさんの試練しかないだろう」
「僕もサトシとカキのZワザがぶつかるところ見てみたいな! スパーキングギガボルトとダイナミックフルフレイム!」
「マーマネ、それいいな! 絶対すごいバトルになるぜ〜!」
「その時はゼンリョクで受けて立つ!」
サトシとカキとマーマネが楽しそうにあれこれ話している時、ふとスイレンが気がついたようにミヅキの方を向いた。
「あ、そういえばミヅキ、何かあった? さっき言ってた。考え事してたって」
「え? ミヅキ何かあったの?」
「何か悩み事ですか?」
何気なくスイレンが聞くと、マオとリーリエもミヅキの方を見た。
別にそんな大したことじゃないんだけど……とミヅキが苦笑いしながら呟くと、マオが心配そうな顔でぐいっと顔を近づけてきた。
「ほんとに〜? 言いにくいことじゃなかったらなんでも言いなよ!」
「う、うん」
マオはなんだか有無を言わさない強さみたいなものがあり、時々ミヅキは羨ましいと思う。
ミヅキが昼休みにキャンパスに出なかったのは、ポケモンを持っていないからではない。どちらかというと新たな生活環境にまだ慣れていないから。という理由の方が大きかった。なんとなくアローラの雰囲気にまだ馴染めずに気後れしているのだ。
「その……まだ、このスクールの雰囲気に慣れてないっていうか。どうしたらみんなみたいになれるかなって」
「「「えっ……?」」」
3人が意外そうな顔をする。最初こそ緊張していたけれど、ミヅキが転入してきてから3週間くらい経ってそろそろ仲良くなれたかな思っていたのである。
ミヅキはぽつぽつとカントー地方とは人との関わり方やスクールの形が全然違って、少しだけ戸惑っていることを話した。
ここの雰囲気はタマムシシティのような都会にあるスクールとは全然違ったりする。みんな当たり前のようにポケモンをモンスターボールから出して授業受けてるし、そもそも1クラスごとの人数が少ない。このクラスなんて7人しかいない。ミヅキは引っ越す前は30人くらいのクラスで授業を受けていたのだ。必然的にコミュニケーションが多くなる少人数制のうえ、フィールドワーク多めの授業はミヅキにとって初めての経験ばかりだった。
「そっか、サトシと違ってミヅキは旅してた訳じゃないから……まだアローラにあまり慣れてないんだね」
ミヅキの話を聞いてマオが納得したように頷いた。
サトシはアローラに来る前に色々な地方を旅していたらしく、特にアローラ地方の雰囲気に戸惑うこともなくあっという間に溶け込んでいた。なんなら来た次の日にはもうみんなと意気投合していたかもしれない。それに比べて、ミヅキは都会出身でいきなりアローラに来たのだから戸惑うのも無理はないと3人は思った。
「気づかなかった……サトシのてきおうりょく高すぎて。ごめんミヅキ」
「ううんいいの! ゆっくり慣れていけばいいかなって思ってたからさ」
「うーん、それなら……そうです!」
リーリエが閃いたと言わんばかりにパンと両手を叩いた。
「それでは、形から入ってみるっていうのはどうでしょうか?」
「形?」と首を傾げながら3人の声が重なる。
「そうです! 郷に入れば郷に従え、ではありませんが……」
リーリエはそう言うとミヅキの格好をじっと見た。
ミヅキが着ているのは特徴の無い無地のTシャツに短パンの組み合わせだった。
タマムシシティならよくいる学生で済むけれど、派手で特徴的な服装が多いアローラ地方ではなんだか地味な方かもしれない。実際リーリエ自身やマオ、スイレンの格好に比べると地味だ。
「新しい服ですよ! 論理的結論として、気分を変えるにはイメチェンするのが一番です!」
「で、でもわたしそんな、みんなみたいにかわいい服持ってないよ?」
「大丈夫です。わたしに考えがあります!」
びしっといたずらっぽくリーリエがウインクした。
こうしてその日の授業が終わった後、急遽女子4人による「リーリエの家でミヅキにアローラっぽい服を着せる会」が行われたのだった。
…………
次の日。
「アローラ!」
『みんなアローラロト!』
「「「「アローラ、サトシ、ロトム!」」」」
朝、サトシがピカチュウとロトム図鑑を連れて教室に入ると、みんな次々と「アローラ」と挨拶を返した。「アローラ」とはアローラ地方での挨拶だ。朝昼晩どこでも使えるので結構便利だとサトシは思っている。
ピカチュウがサトシの肩から降りて、みんなのパートナーに挨拶をする。スイレンのアシマリ、マオのアマカジ、マーマネのトゲデマル、カキのバクガメスはだいたいボールの外に出ているのでこれが日常の光景だった。ただバクガメスは大柄なので授業中はボールに入っていることもある。
「ほらモクローも寝てないでさ……あれ? ミヅキはまだなんだ」
鞄をひっくり返して中で寝ていたモクローを机に転がすと、ふと気づいたようにサトシは言った。遅刻するほどではないけど、登校前にポケモンバトルの特訓していたおかげで今日もかなりギリギリの時間である。だいたい特訓後に登校すると自分が最後なのに、今日は珍しくまだミヅキが来ていない。
『ミヅキが遅刻するのは初めてロト。ホームルーム5分前ロト』
「いや~……来てるんだけどね……」
「ちょっと事情がありまして……」
マオとリーリエが苦笑いしながらサトシとロトムに答えた。
「ミヅキならさっきポケモン捕まえに行ったよ。カイリュー!」
「マジで?」
「ウソです♪ ほんとはあっち!」
「全くスイレンったら……」
サトシがいつものようにスイレンのウソに引っかかり、それにマオが呆れたように言う。
「……アローラ、サトシ」
そしてスイレンが指差した場所からミヅキの声が聞こえた。みんなの目線がそちらに集中する。
そこにはサトシが入ってきた側とは逆側の教室の入口だった。そこから身を隠して手だけ出してぶんぶん振るミヅキがいた。もしかするとおはようのつもりらしい。
「ミヅキ、あんなところでどうしたんだ?」
「俺が来てからずっとあの状態だぞ」
「なにしてんだろうね。そっち行こうとすると来ないでって言うし」
男子3人はよく分からないので。そんなミヅキの手を見ながら首を傾げた。
「完全に恥ずかしがってますね……」
「ね、そろそろ助けてあげようよ」
「そうだね!」
リーリエ、マオ、スイレンの3人はお互いに面白そうに笑みを浮かべながら頷いて、無理やりミヅキを教室に押し込むことにした。きっと昨日4人で選んだ服を見せるのが恥ずかしいのだ。
「もー! あんまりこういう服着たことないから恥ずかしいんだってば!」
「大丈夫大丈夫!すぐ慣れるよ!」
マオがぐいぐいと右手を引っ張る。
「新しい服着た時って、最初だけはすごく恥ずかしかったりしますよね。わかります」
リーリエがさりげなく背中を押す。
「ほら、着ちゃったんだからもうどーんと見せちゃいなよ〜」
スイレンが面白そうに左手を引っ張る。
「あ……ちょっ……まだ心の準備が……っ!」
そうやって引き合ってるうちに、遂に女子たちに教卓の前に引きずり出されてしまったミヅキは、もはや恥ずかしそうにもじもししながら自分の着てる服を見られるしかなかった。
あかいニット帽に、黄色基調にピンクのはながらシャツ、黄緑のホットパンツ。昨日までとは大違いのカラフルでかわいらしい格好だった。
「ほら男子!なんか言うことないの!」とマオが男子3人に向けて言った。
「その帽子いいな! 俺と同じ赤色だぜ!」
サトシが言う。
「じゃなくて!」
「新しい服だねぇ」
マーマネが言う。
「じゃなくて!」
「その、なんだ、すごくアローラっぽくなったな」
みんなの視線が集中したカキが難しい顔をして言う。
「そうだけど微妙に違います~!」
最後にリーリエが頭を抱えた。
「かわいいね! とか、似合ってるね! とか言うところでしょここは普通!」
ビシッと男子3人を指差してマオが言う。
「そうだよ!」
「そうです!」
団結した女子の言い分に「えぇ……」と言う男子たち。その時丁度ククイ博士が教室に入ってきた。
ククイ博士はこのクラスの担任の先生である。上半身裸に直接白衣を羽織っている奇抜なファッションの持ち主。でもそういう意味では毎日上半身裸で登校するカキの方がヤバイかもしれないとミヅキは思う。
「みんなアローラ! ん、ミヅキどうしたんだそんなところで」
「あ、アローラ……ククイ博士」
ふ、普通にこの格好見られた。恥ずかしそうに目線を逸らしながら挨拶を返すミヅキを見て察したのか、ククイ博士はにっかりと笑った。
「その新しい服、似合ってるじゃないか! これで身も心もアローラに馴染んできたって感じだな!」
「え、あ、は、はい……!」
ストレートに褒められてミヅキは顔が赤くなりうまく答えられない。嬉しいのか恥ずかしいのか自分でもよく分からなかったけど、みんなにも変だとは思われてないみたいでミヅキはちょっとだけ安心した。
「そうでしょククイ博士! 昨日リーリエの家で4人で選んだんです!」
「なのにサトシもマーマネもカキも全然似合ってるって言ってくれないんです〜」
「これだから男子、鈍感……」
男子たちをジト目で見つめる女子3人にククイ博士は苦笑した。
「……ということだ、男子諸君。また一つ賢くなったな!」
女子の心はわからない。3人ともげんなりした顔をして「はーい」と答えるのだった。
そして今日の授業が始まる。
ミヅキは自分の席につくと、隣に座っているリーリエにこそっと話しかけた。
「いいのリーリエ? こんなに服貰っちゃって」
「ええ、これはわたしからのアローラサプライズです! ミヅキがアローラに引っ越した記念のプレゼントだと思って下さい」
「で、でも……」
ミヅキは着ているはながらシャツをじっと見た。服一式全部貰ったらかなり高いんじゃないだろうか。っていうかリーリエの家すごくお金持ちだし、もしかすると有名ブランドでとんでもないお値段なのかも……。
「いいんです! あまり大きな声じゃ言えないんですけど……わたし買い物しすぎちゃうクセがあって……買っても着ない服とかも普通にあって……エヘヘ。だからミヅキが着てくれてわたしも嬉しいです!」
なんとなく気後れしていたけれど、リーリエのにっこりした顔を見るとミヅキはとても「返す」とか「お金を払う」とは言えなくなってしまった。マオとスイレンの方をみると、2人ともリーリエに同意するようににっこり笑っている。
「……うん、わかった! ありがとリーリエ、大切にするね! でも今度何かお礼させてね」
「うふふ、楽しみにしてます!」
「ほら、リーリエ、ミヅキ! 仲良くないしょばなしもいいが、今日の授業始めるぞ!」
ククイ博士が苦笑いしながら2人に呼びかける。ミヅキとリーリエはそれに笑顔で返事を返すのだった。
「はい!」
「はーい!」
そう言ってリーリエとミヅキは顔を見合わせて笑い合った。
今日の1日はきっと楽しい。ミヅキはなんとなくそう思った。