原作女の子主人公(ミヅキ)がアニポケ世界のスクールに入学して自分の夢を探す話   作:きなかぼちゃん

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アローラの光と影 編
10.静寂のテンカラットヒル


「へぇ〜……うちの裏山ってこんな風になってたんだね」

『シュゥゥ』

 

 見慣れない景色だった。

 

 ミヅキとヤトウモリは歩きながら、きょろきょろと周囲を見回していた。大小さまざまな岩が積み重なりできた天然の山道。1つ道をそれれば森とは違ったポケモンが生息していそうに思える。メレメレ島の東端にあるテンカラットヒルは、ごつごつした岩が積み重なった緑の少ない乾いた山だ。

 

 晴れた昼下がり、スクールから下校したミヅキとヤトウモリは自宅の裏山である、テンカラットヒルと呼ばれる小高い岩山を散策していた。

 

 草むらでは、野生のポケモンが飛び出す。なんてことは常識の話だ。だからポケモンを持ってない人は基本的に道をそれて森に入ったりはしないし、もっと言えばひとりで洞窟や山へ行くこともない。幼い子供がそれをやればもちろんこっぴどく怒られる。

 

 自然の領域を自由に探検するのはポケモンを闘わせられるトレーナーだけの特権だった。

 

 つまるところ、ミヅキはポケモントレーナーになったので一人で色々な場所に行けるようになったのである。行動範囲が広くなったことで、ヤトウモリと一緒にアローラの大自然でちょっとした冒険をすることが、ミヅキの新しい趣味になった。

 

「あ! 見てヤトウモリ。すごいよ、ハウオリシティが全部見えてる! あそこにポケモンスクールもあるじゃん!」

 

 登り始めてから30分くらい。草木が殆ど生えていないので、テンカラットヒルの中腹からでもすでにメレメレ島の全体が一望できた。まるで博物館のジオラマみたいだな。とミヅキは思った。所狭しとビルが建っているハウオリシティの中心部から、マーマネが住んでいる住宅街まで見渡すことができたし、ハウオリシティのはずれに目をやると、森の中に立っているポケモンスクールの建物もしっかりと見えた。

 

 タマムシシティではまずお目にかかれない絶景にミヅキはただただ興奮していた。

 

『シュウウ?』

「あんたこういうのはあまり興味ないのね……」

 

 一方、隣のヤトウモリはよくわからなさそうに首を傾げていた。ただの景色じゃないか。と言わんばかりである。ミヅキはため息をついた。はあ、バトルに向ける情熱の10分の1くらいでも、こういう楽しみに向けてみればいいのに。

 

「まあいいや。だいぶ歩いたし、今日はここでちょっと休憩して帰ろっか」

『シュ!』

 

 ミヅキが言うとヤトウモリは臨戦態勢かのように尻尾を逆立てた。ヤトウモリ的には帰る前にテンカラットヒルにいるポケモンとバトルがしたいらしい。ミヅキは閉口した。なんかサトシに似てきたような気がする……。

 

「はあ、それなら帰るときにポケモンが飛び出してきたらバトルするからさ。で、何もいなかったらそのまま帰る! それでいいでしょ」

 

 ミヅキはやれやれと言いながら手頃な岩の上に座った。そして斜め掛けしたカバンからスケッチブックと鉛筆を取り出す。ヤトウモリが不満そうな声を上げたがそれは無視。

 

『ミヅキ、そのスケッチブックはキミにあげる。これからも気が向いたら、ヤトウモリのことだけじゃなくて……歩いてるときにふと気になった景色とか、人やポケモンが暮らしてる姿とかを、描いてみて』

 

 それはマツリカに言われた言葉だ。ミヅキはスケッチブックの真っ白なページを眺めた。わたしはまだアローラのことをほとんど知らない。このテンカラットヒルから眺められるメレメレの景色みたいに、アローラにはもっと色んな綺麗な場所が沢山あるんだろうな。

 

 ミヅキはこの景色の綺麗さをマツリカに話すのを想像しながら鉛筆をとった。ミヅキの絵はお世辞にも上手いとはいえないけれど、これを目に焼き付けて大切な思い出の一つにすることが大事だと思ったのだった。

 

 

 

 

▼    ▲    ▼

 

 

 

 

 鉛筆をスケッチブックに滑らせる乾いた音と、済んだ風が吹く音だけが聞こえる。あとは時々、ポケモンらしき鳥の鳴き声がするくらいだ。世界からほとんどの音が消えたようで、ミヅキはなんだか不思議な気分になった。こんなにも静かな場所に来たのは初めてかもしれない。

 

「ふう……こんなもんかな」

 

 景色を描き終えて隣を見ると、ヤトウモリは丸まってあくびをしていた。相変わらずバトルをするとき以外はいつも暇そうな顔をしている。

 

『シュウ?』

「はいはい、終わりましたよっと。もうすぐ夕方だし、そろそろ帰ろっか」

 

 空を見ると太陽は西側に沈み始めていた。もう少ししたら空が橙色になることだろう。

 山は夕方になるとあっという間に暗くなるという。時間に余裕を持って山を下りた方がよさそうだ。ミヅキはスケッチブックをしまうと立ち上がった。

 

 その瞬間。

 

「えっ?」

 

 思わず声を出す。背後で、ジャリ、と音がしたからだ。

 

 さっきまでミヅキも立てていた、靴で砂利を踏みしめる音だ。ほとんどの環境音が消えていたこの場所だから、余計に目立つ。テンカラットヒルは観光地でもないのに、こんなところに来る人が自分以外にもいるのかな? やまおとこかもしれない。

 

 ミヅキは振り向いた。でもそこには誰もいない。ただ、岩に囲まれた荒地だけがある。

 

「だれ……?」

『シュー』

 

 返事はない。隣のヤトウモリも怪訝そうな顔で周囲を見渡していた。足音はしたのに人はいないというのはなんとも不気味だ。音からして、野生のポケモンの気配のようにも思えない。

 

 無視して帰ってもいいと思ったけれど、気味の悪さ以上になんとなく気になったミヅキは、足音の正体を突き止めてみようと思った。

 

「行ってみよう」

『シュウウ』

 

 ヤトウモリも乗り気だった。こういう怖い物見たさって時だけなんだか気が合うんだよなあ。ミヅキはなんとも微妙な気分で肩をすくめる。ミヅキとヤトウモリは足音がした場所の奥へと向かった。

 

 

 

 

▼    ▲    ▼

 

 

 

 

 2人が岩場の間にできた隙間で作られた、曲がりくねった天然の細道をいくつかするりと通り抜けると、やがて現れたのは小さな洞窟の入り口だった。ちょうど大人1人がかがんで入れるくらいの洞窟の入り口は、ホウエン地方で流行っているらしい「ひみつきち」のような雰囲気のようにも見える。

 

「こんなところに洞窟?」

 

 ミヅキとヤトウモリは目をぱちくりさせた。とりあえず入ってみようか。怖さより好奇心がまさり、ミヅキはそこに入ろうとした。誰かいたらごめんなさいしよう。

 

「待て」

「えっ」

 

 ガクン。ミヅキの足がドロのぬかるみに突っ込んだように全く動かなくなった。

 

 思わず前につんのめりそうになる。下を見るといつの間にか地面が濃い黒い影に覆われていて、ぴたりと縫い付けられたかのように靴裏とくっついてしまっていた。

 ヤトウモリも手足を動かそうともがいているが、全く抜け出せそうな雰囲気はなかった。

 

 ミヅキは戸惑いながら思った。きっとこれはポケモンのわざだ。

 

 首だけ回して後ろをちらりと見ると、黒ずくめの服を来た金髪の少年がいた。ずいぶんイケメンの山男だな。怪我でもしているのか、シャツもズボンもところどころ傷ついている。ボロボロの理由はよくわからないけれど、たぶんこの洞穴は少年の「ひみつきち」だろうとミヅキは当たりをつけた。

 

 勝手に入ろうとしたから咎められたわけだ。

 

「財団もずいぶんと手段を選ばなくなったようだな。お前のような怪しまれそうにない子供を刺客によこすとは。だがオレを欺こうとしてもそうはいかない」

「あの、ごめ……って、え? えーっと……?」

 

 ミヅキが謝ろうとすると、少年はいきなりわけのわからないことを言い始めた。ええ、なんだこの人。大丈夫かな? なんか物騒なことを言ってるけど。

 

「それで、お前は何者だ? シルヴァディを奪いにきたというなら、容赦はしない。抵抗しようとも、ブラッキーのくろいまなざしは永久にお前をその場に繋ぎ止めるぞ」

「あ、あの……よくわかんないけど人違いじゃないですか? わたし、ただここに散歩しにきただけなんですけど……」

「ただの散歩でこの洞窟まで来るというのか? つまらない嘘はやめろ」

 

 少年は薄い緑色の瞳を細めて、ミヅキを訝しげに見つめた。信用されていないらしい。ミヅキは剣呑な眼光におののきながら言葉を続ける。

 

「ええ……? だってここわたしん家の近所だし……それになんか、足音したからこっちの方に誰かいるのかなって思って。あれってあなただよね? 来てほしくないなら、さっき返事返してくれればよかったのに」

「足音だと……?」

 

 あまりに信じられてないので、ややむかついたミヅキは少しだけ棘を含んだ口調で言う。

 金髪の少年は虚をつかれたように瞬きすると、ほんの少し考える素振りをした。

 

「それは、おかしい。オレは今日はまだこの周辺から動いていない。この通りの格好だからな……気のせいじゃないのか」

「きのせいじゃないよ。ちゃんと人の気配したし。ヤトウモリも気づいてた。あれ、あなたのだと思ったけどちがうの?」

 

 瞬間、少年の眼光が鋭くなった。目の前の赤ニット帽女以外にも、もう一つ気配がある。行動は早かった。

 

「ーーーなるほどな。()()()()()()()。ブラッキー! くろいまなざし!」

「え? あわわわ」

 

 ミヅキがぽかんとした声をあげると、次の瞬間には足元の拘束は解けていた。急に足が自由になったので、その場で派手に転びそうになりヨタヨタと左右に動きながらバランスを取る。

 

『シュウウ』

 

 ヤトウモリも自由になっていた。その目線の先には1匹の黒い獣型のポケモンがいた。動けなくなっていた時は気づかなかったけれど、ミヅキは自分たちを拘束していたのはこのポケモンだと直感する。

 

 ミヅキはカントーのスクールでイーブイについて授業を受けたことがあった。遺伝子が不安定なポケモンであるイーブイには八種類の進化形態があり、そのうちの一匹がブラッキー。進化させるのも難しい、上級トレーナー向けのポケモンだといわれている。

 

「ふう、気づかれましたか。その子がいなければ不意打ちできていたものを」

 

 どこに潜んでいたのか、ブラッキーの視線の先には全身を真っ白な服に身を包んだ女がいた。この男の子の服とは対照的だな、なんてミヅキは思った。健康的な褐色の肌が、よりそのコントラストを際立たせる。

 

「お前……ハイジ。いや、違うな。ヒアポか」

「ええ、ええ。ハイジにはこんな汚れ仕事はさせられませんから。グラジオ様が素直にタイプ・ヌルを引き渡していただける方であれば、私もこのような強盗の真似事をしなくともよかったのですけれど」

「ぬかせ。くろいまなざしで拘束されているのに、よく口の回る奴だ」

「ええ、私を瞬時に拘束したのは流石ですが、私だってまさか丸腰でグラジオ様を襲おうとは思いませんよ。ゆえに……」

 

 女は肩口でばっさりと切った髪をかき上げた。そして、強い口調で命令する。

 

「スピアー! 降りてきなさい!」

 

 羽が風を切る音がした、瞬間、上空から巨大な蜂が飛来した。

 展開についていけず、ミヅキは怖い物みたさでここまで来たことを既に後悔していた。今ここが危険な場所になっていることだけはわかる。

 

(あー!!! やっぱりさっき気にせず帰ってればよかった!!!)

 




【あとがき】
ヒアポとハイジはバトルツリーに出てくるエーテル財団職員のひとだよ!
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