原作女の子主人公(ミヅキ)がアニポケ世界のスクールに入学して自分の夢を探す話   作:きなかぼちゃん

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11.だれかに似ている

 洞窟の前の小さな広場では殺気立ったバトルが始まっていた。

 

「ブラッキー、シャドーボール!」

「スピアー、ダブルニードルで切り裂きなさい!」

 

 矢継ぎ早に2人の指示が飛ぶ。

 片方はグラジオという少年。

 もう片方はヒアポという、全身ぴっちりとした白い服に身を包んだミステリアスな女である。

 

 おどろおどろしく紫色に光る球体がスピアーに迫るが、スピアーは神速の速さで両手の針を横に薙ぎ払う。瞬く間に、武者の一太刀のごとくシャドーボールを上下に切断した。

 

 その業を見たミヅキは驚愕で目を見開いた。

 

(シャドーボールって斬れるの!? 針で!?)

 

 特殊攻撃のエネルギー体に対して、物理攻撃で干渉するには相当のレベルが必要である。このスピアーが高レベルのポケモンであることは疑いようがない。

 

「ならば、あくのはどう!」

「上空に飛んで避けなさい!」

 

 スピアーには翼がある。ブラッキーの放った広範囲のあくのはどうも、空高く飛翔されては当たることがない。

 

「そのまま急降下してどくづき!」

「受け止めろ! アイアンテール!」

 

 ブラッキーが呼応する。瞬間、上空で停止したスピアーが音速と化しブラッキーに突っ込んだ。瞬間移動のごとく、人間には認識できない速度。

 

『ブラァッ……!?』

 

 一瞬の後、毒煙を立ち上らせる針はブラッキーを弾き飛ばしていた。命令を聞き、ワザを発動する。それすら許さない、まさに息をする間もない攻撃である。

 

「ブラッキー!」

 

 グラジオの叫び声がその場に木霊する。環境音の少ないせいか、それはひときわ大きく聞こえた。

 

 スピアーの真骨頂は発達した筋肉で生み出す瞬間的な機動性だ。停止状態から最高速度まで達するのに、その間は1秒も満たない。少しでも指示が遅れれば大ダメージは避けられない。

 

 ブラッキーはなんとか立ち上がるが、その足取りはおぼつかない。表情も苦しげて荒い息を吐いている。今の攻撃でどく状態を受けたのだ。

 

 グラジオの額を汗が伝った。目線がチラリと腰にあるもう一つのモンスターボールを捉える。

 

(ブラッキーでは分が悪いか。ならば……)

 

「スピアー、どくびし」

「ッ!」

 

『ブゥゥゥ……』

 

 スピアーはブラッキーのアイアンテールから逃れると、その場に大量の小さな針をばら撒いた。それらは地面に刺さると毒々しい紫色に変化する。

 

 どくびしはフィールド上にトラップを仕掛け、交代先のポケモンに毒状態を押し付けるワザだ。

 

 交代を読まれた。グラジオは歯噛みした。ほんの一瞬の迷いで目線が動いただけにすぎないが、それでもポケモンバトルでは致命的な隙になる。

 

「グラジオ様、律儀にスピアーを攻撃しなくても、別に私を狙ってもいいのですよ? そのためにわざわざ私を拘束したのですよね。その方が楽なのでは?」

「……」

 

 ヒアポは半目で薄く笑って、くろいまなざしで動けない自分をアピールする。その態度はまるでグラジオの焦りを見越しているかのようだった。

 

 たしかに、本当にルール無用の戦いであれば、トレーナーを攻撃して無力化すればよい。だがその挑発にグラジオは答えない。

 

「あくまでそのつもりはないと? スピアーと戦い続けたところで、相性不利は覆せませんよ。その洞窟にいるであろうタイプ・ヌルを戦わせるのであれば、話は別でしょうが」

「……言いたいことはそれだけか? お前は捕らえるついでにシルヴァディの戦闘データが欲しいだけだろう。その手には乗らない。ポケモンで人間を攻撃? ふざけるな! ポケモンを欲望で弄り回し道具にするお前たちと一緒にするな!」

『ブラァッ!!』

 

グラジオとブラッキーは燃えるような意志を秘めた瞳でヒアポを射抜いた。それを見たヒアポは、やれやれと手を広げて瞑目する。

 

「まあ、財団の一部がポケモンを道具にしている点について否定はしませんし、倫理的に褒められたことでもないと思いますが……組織に属するとはそういうことなのですよ、グラジオ様。私は命令を遂行する端末に過ぎません。そしてそこに意思はございません」

 

「自分に責任がないとでも言うつもりか? ブラッキー! もう一度シャドーボール!」

「何度やっても同じこと。意地を通したいのであれば、信念を曲げることも必要なのでは? スピアー、切り払いなさい」

 

 再びシャドーボールがスピアーの針に切り払われた。そしてスピアーは腹部の先にある黄色い針をブラッキーに向ける。

 

 それは今までにない構えだった。確実にとどめを刺すための、必殺の一撃である。

 

 あれはだめだ! ただ息を潜めて、戦いを見ていたミヅキの口は勝手に動いていた。

 

「スピアー、とどめばり」

「ヤトウモリ! ひのこ!」

 

『ブゥゥゥ!?』

 

 火が放たれた。

 ブラッキーに狙いを定めていたスピアーにまともにひのこが降りかかる。たまらずスピアーは上空に逃れた。

 

「……わざとでしょうか? このタイミングで攻撃してくるなんて」

 

 ヒアポは一瞬虚をつかれて目を丸くした。その目線の先には、ブラッキーを守るように立ちはだかるヤトウモリがいた。そのトレーナーであろう、赤いニット帽を被った少女もグラジオの横に立っている。

 

「お前……! これは俺たち身内の問題だ! 手出しをするな!」

「わたしだってわけわかんないけど、あのままじゃブラッキー大怪我してたよ。あなた、それでもいいの?」

「それは……」

 

 グラジオは辛そうに息をするブラッキーを見た。心が冷えて嫌でも冷静になる。

 

 すると思考がふっとクリアになった。戦略的に言えば、どくびしなど気にせずもう1つの手持ちであるルガルガンに交代すべきだった。どく状態があっても、いわタイプのルガルガンであればスピアーに有利だったはずである。

 

 冷静になれば簡単な話だ。グラジオは後悔した。口の回るヒアポのペースにいつの間にか乗せられていたのだろう。

 

(見たところ、このヤトウモリはそれほど強いポケモンではない……でも、自分が介入できる唯一のタイミングで、ピンポイントに攻撃してきた)

 

 一方、ヒアポとスピアーは尻尾を立てて威嚇をするヤトウモリを観察していた。

 

 実際のところ、ヒアポは戦闘中もミヅキの動きには気を配っていた。グラジオに加勢してバトルに乱入してくる可能性も考えていたのである。

 

 ゆえに、ここまでスピアーにも隙はなかった。いつ乱入されても対応するだけの準備はあった。そう、今このとどめばりを放つタイミングを除いては。

 

(ただの子供とポケモンではない、と思うべきでしょうか? でも今のバトルは圧倒的に優勢、このまま継戦しても問題なく追い詰められる。いや、待って)

 

 一瞬、ヒアポの背筋に冷たいものが走った。

 

 ヤトウモリが乱入したことでフィールドは変化していた。地面に巻かれたどくびしが効力を失い消え去っていくのだ。

 

(そうだ。どくびしはどくタイプのポケモンが踏めば無効化しその効力を失う……! 偶然! いや、この子、それすらも狙って……?)

 

 この状態であれば、グラジオは問題なく次のポケモンを繰り出してくるだろう。

 

 ヒアポは乱れた帽子を被り直した。こういうパターンはなにかまずい気がする。計算では起こりえない奇跡的な偶然が噛み合い、想定外のことが起きてしまうかもしれない。

 

 ()()()()()()()()で状況が一気に変わってしまった。

 

 これが全てあの女の子の狙い通りだとしたら? ヒアポは末恐ろしさを感じた。そしてその思考は完全に撤退へと傾く。

 

 ……実際のところミヅキはそこまで考えていなかったのだが、ヒアポの中でのミヅキはちょっとした頭の回る危険人物になっていた。

 

「くろいまなざしの効果も切れたことですし、今日はこの辺りで引き上げさせていただきますよ。それではまた、グラジオ様」

「何度来ても同じだ。シルヴァディは渡さない」

「はたしてそうでしょうか? 今回はその女の子に感謝することですね―――スピアー、帰りますよ!」

 

 ヒアポはスピアーの足を掴むと、飛翔してあっという間にその場から消えてしまった。

 

 それを確認すると、ミヅキはどっと疲れたようにその場に座り込んだ。剣呑な雰囲気が続きすぎて、もはや緊張が限界を突破していたのだ。すかさずそこにヤトウモリが駆け寄る。

 

「はぁ〜! ほんとどうなるかと思ったよ! ヤトウモリ、ありがとね」

『シュウウ……』

「……あんた、もしかして闘えなかったのが不満だった系?」

『シュウッ!』

 

ヤトウモリは物足りなさそうにぷりぷりしていた。ミヅキはため息をついた。ほんとこいつはいつもぶれないな。わたしもバトルは好きになってきたけど、あんな命の取り合いみたいなバトルはあまりしたくないぞ……。

 

「ぐっ……」

「えっ?」

 

 ミヅキは目を丸くした。うめき声と共に、隣で力なく少年の体が崩れ落ちたのだった。

 

「ちょ、ちょっと、いきなりどうしたの! ってかよく見たらめっちゃ怪我してるじゃん」

 

 さっきはそこまで気にしなかったけれど、少年の全身は思った以上に傷だらけだった。そこかしこにあざがある。今すぐ病院に行ったほうがいいだろう。

 

「俺のことは気にするな……! それよりもブラッキーを治療しなければ……ッ」

「気にするなってそんなこと言われても……」

『シュー! シュウウ!』

 

 ヤトウモリが慌てた声を出す。ミヅキが見ると、ブラッキーも体力を使い果たしたのか力なく横に倒れていた。この状態では2人まとめてポケモンセンターにぶち込むしかないだろう。

 

「とにかくみんなでポケモンセンターに行こうよ」

「駄目だ」

「なんでえ!?」

 

 ミヅキはぽかんと口を開けて大声をあげた。

 

「…………」

「いやちょっと! 黙らずに理由くらい言ってよ。乗りかかった船なんだから、もう。このままハイわかりました! って家に帰ったらモヤモヤ止まんなくなりそうだよ!」

 

 この人突然無口になるしよくわかんないな。このまま時間が過ぎていってもどうにもならないので、ミヅキはまくしたてるようにしゃべった。

 

 そんなミヅキの剣幕に押されたのか、やがて少年は観念して諦めたように口を開いた。その目線は洞窟の奥を見据えていた。

 

「シルヴァディ……この洞窟にいる俺のポケモンは今不安定なんだ。ボールにも入らない。だから、俺がシルヴァディをここに残していくわけにはいかない」

「不安定って……」

「そのままの意味だ。時々暴れる時がある。これはそれを止めようとしてできた傷だ」

「つまりあなたはいまここから離れられない?」

「そうだ」

 

 少年の薄い緑色の瞳がミヅキを射抜いた。はあ、これはてこでも動かなさそうだ。

 

「ならブラッキーだけわたしがポケモンセンターに連れていくよ。治療が終わったら救急箱持ってここに戻ってくるからさ。それでいいでしょ?」

「だが……お前にそれほどしてもらう義理は」

「乗りかかった船って言ったでしょ」

 

 ミヅキは腰に手を当ててジト目で少年の顔を見据えた。少年は瞑目した。

 

「わかった、ブラッキーを頼む」

「よろしい」

 

 少年は倒れているブラッキーをモンスターボールに戻し、ミヅキに渡した。それは優しげな色をした、薄い紫色のモンスターボールだった。

 

(ヒールボールって……この人怖そうだけど、そんな悪い人じゃないのかな)

 

 ヒールボールは野生のポケモンを捕まえた時、状態異常を全て治し体力を全回復する効果を持つ。ポケモンに対して優しさを持っていなければヒールボールなど使わないだろう。

 

「ねえ、わたしはミヅキ。あなたの名前は?」

「グラジオだ」

 

 グラジオはほんの一瞬だけ安心したような柔らかい笑みを浮かべた。

 

 その時の瞳は誰かに似ていたような気がしたけれど、ミヅキが走ってポケモンセンターへ向かっているうちに、その思いつきはいつの間にか頭のすみに追いやられていった……。

 

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