原作女の子主人公(ミヅキ)がアニポケ世界のスクールに入学して自分の夢を探す話 作:きなかぼちゃん
「ジョーイさん! いますか!? 怪我してる、ポケモン、が……ゼエ……ゼエ……」
走り続けて、ただでさえない体力の全てを使い果たした気がする。
ミヅキはポケモンセンターに入るやいなや両膝に手を当てると、肩で息をしながら死にそうな声で受付のジョーイさんに呼びかけた。隣のヤトウモリは心配そうに、そんな疲労困憊のミヅキを見ている。
ただごとではない。ミヅキの疲れ果てた様子を見かねて、ジョーイさんは小走りでミヅキのもとへ駆けよってきた。その顔はすでに、急患を受け入れる医療者の気迫に満ちていた。
「その様子を見るに急患のようね? ミヅキちゃん。ひとまずそのポケモンを見せてくれるかしら」
「こ、このポケモン……です。おねがいします。ハァ、ハァ」
ひどく腕が重かった。やっとのことでミヅキはカバンの中からヒールボールを取り出すと、ジョーイさんに手渡した。
「わかったわ。ミヅキちゃん、よくがんばったわね。ハピナス! 治療の準備をして!」
『ハピ!』
ポケモンセンターの中が一気に慌ただしくなる。ミヅキはカートに乗せて運ばれていくヒールボールを見た。ようやくこれでブラッキーも大丈夫だろうと思うと、今まで強ばっていた身体の力が抜けてしまう。
「なんとか元気になるといいけど……」
『シュウウ』
ミヅキはいつの間にか気が抜けて地べたに座り込んでしまっていた。ヤトウモリはそんなミヅキに寄り添うように右肩に上ると、同じくブラッキーが運ばれていった先を見つめていた。
12.こういうのがかっこいいって思ってるわけ?
「おまちどうさま。エネココアだよ。ヤトウモリくんには、おまけのポケマメだ」
「ありがとうございます!」
『シュウゥ!』
店員のおじいさんがミヅキの注文したエネココアを運んでくる。
ミヅキとヤトウモリは、ブラッキーの治療が終わるまでポケモンセンターに併設されたカフェスペースで休んでいた。
エネココア。その正体はエネコのイラストがプリントされたマグカップに注がれている、ただのココアだ。おいしいけれど、味の部分にエネコ要素があるのかどうかミヅキはよく知らない。
隣ではヤトウモリが器用に手を使って、口の中にポケマメを投げ込んでいた。ボリボリと無表情でマメを咀嚼する姿はどこかおじさん臭い。
しばらく静かにエネココアを味わっていると、飲み終わったのと同じタイミングで奥の扉が開いた。
「ミヅキちゃんお待たせ! ブラッキーはすっかり元気になりましたよ」
「ほんとですか! よかったぁ……」
『ブラキッ!』
ブラッキーはミヅキの前まで歩み寄って一鳴きした。その闇のように黒い瞳は、ただ静かに落ち着いた雰囲気を湛えている。
(感謝されてるってことかなぁ)
ミヅキはいつの間にか肩に乗っていたヤトウモリと顔を見合わせた。たぶんそうなんじゃないの。というふうにヤトウモリは何も言わない。
「その子、ずいぶん育てられたブラッキーだわ。鍛えられてるだけあって、回復も普通のポケモンよりずっと早い。ミヅキちゃん、詮索するわけじゃないけれど、あのブラッキーはあなたのポケモンではないのよね?」
「あ、はい。ちょっと知り合い……友達? のポケモンが怪我しちゃって、本人が来れないのでわたしが連れてきたんです」
「なるほどね……怪我をしたのはポケモンバトルが原因かしら」
「そう……ですね」
ジョーイさんの問いにミヅキはやや歯切れ悪く答えた。さっきのあれを「ポケモンバトル」と言っていいのかどうかミヅキは迷っていた。少なくともミヅキがクラスメイトとやるような、安全なポケモンバトルでは決してない。
ミヅキはジョーイさんの表情を伺った。その顔はどこか憂いを秘めたような雰囲気があり、思わずどきりとする。もしかしたらジョーイさんはブラッキーが危険なバトルをしていたことを薄々気づいているのかもしれない。
「この子はきっとトレーナーとの絆が強いんでしょうね……でもね、だからこそ、この子のトレーナーに伝えてほしいの。危ないバトルを続けていたら、いつか取り返しのつかないことになるかもしれないって」
「えっ……」
「硬い絆で結ばれたポケモンは、時おりトレーナーのために限界を超えて闘ってしまうことがあるわ。そしてその結果、悲しい別れを経験したトレーナーを何度もわたしは見てきたの……だから、頑張り屋なポケモンを見るとね、言わずにはいれないのよ……」
「ジョーイさん……」
「もちろんバトルがしたいポケモンとトレーナーに、バトルをやめてとは言えない。ただ、危ないと思ったらやめさせることもトレーナーの役割だと、わたしは思うわ」
そういうと、ジョーイさんは力なく微笑んだ。
ポケモンが傷つくことはけっして良いことではないけれど、適度なバトルはポケモンとそのトレーナーにとって必要だ。医療者には常にその葛藤がある。
ミヅキはまだ子供だけれど、それでもジョーイさんが何を言わんとしているかは理解できた。いつもミヅキたちはなにげなくポケモンセンターを使っている。それでも、ここに運び込まれたポケモンがすべて元気になってもどってくるとは限らないのだと……。
『シュウウ?』
思わずミヅキはヤトウモリの顔を見た。ヤトウモリはよくわからないようで首を傾げている。
(ヤトウモリはバトルが好きだ。わたしもバトルは好きになってきたけれど、きっと無謀なことはしちゃいけないんだ……ヤバそうだったら逃げることだって。わたしがヤトウモリのトレーナーなんだもん)
その言葉を胸に留め、ミヅキはきりっとした顔でジョーイさんに向き直った。
「わかりました! 絶対に伝えます!」
「お願いするわね」
ジョーイさんの顔は、いつもの優しげなお姉さんのものに戻っていた。
この顔を見ると、ポケモンセンターを訪れるトレーナーはみんなほっとするのだ。
▼ ▲ ▼
ポケモンセンターでブラッキーを回復して外に出ると、いつの間にかもう外は真っ暗になっていた。今日は晴れていたおかげて月の光が地面を照らしてくれている。この程度の明るさがあれば、懐中電灯で照らせばテンカラットヒルくらいは上れるはずだ。
今日は遅くなることが見えていたので、家に帰るのが遅くなることは治療中に電話で伝えてある。
(そういえばママに怒られると思ったけど、すんなりオッケーだったなあ)
ところどころぼかして、怪我して困っているトレーナーがいるからテンカラットヒルまで助けにいくと言うと、母親のミキは「がんばんなさい」と一言でミヅキを送り出した。
理由はわからないけれど、ヤトウモリをパートナーにしてからママは自分に甘くなった気がする。ミヅキはなんとなくそんなふうに思っていた。
「じゃあグラジオのところにもどろっか! ヤトウモリ、ブラッキー!」
『シュウウ!』
『ブラキッ!』
疲れはだいぶ回復したから、テンカラットヒルまで戻る体力はあるはずだ。ミヅキが走り出そうとすると、手に持ったジョーイさんが用意してくれたトレーナー用の救急箱が揺れた。
(結構重いけど体力持つかなこれ!?)
そうして先を走るヤトウモリとブラッキーとはぐれないよう、ミヅキは冷や汗をかきながら必死の走りを再開するのだった。
▼ ▲ ▼
「……礼を言う」
「へいへい、ちょっと染みるよ~」
「その程度気にするな……ぐっ!」
「ほーらー、強がったって痛いもんは痛いでしょ」
高レベルのポケモンであるブラッキーがいたおかげなのか、夜にも関わらず野生のポケモンに襲われることもなく、ミヅキはグラジオのもとへ戻ることができた。
そしてたった今、ミヅキはグラジオの手足にできた痣やら裂傷を手当てしていた。
細かい傷ばかりだけれど、それでも痛いものは痛いだろう。
(まったく、男の子ってなんで怪我したら強がるんだろ? グラジオってもしかしてカッコつけたがりなのかな。なんかあんま喋んないし、クール系のキャラでいたいのかも)
お礼は言ってくれるものの、グラジオはミヅキが何か言わない限り治療中もほとんど喋らない。イヤなやつだとは思わなかったけれど、それでも無言が続くと気まずいのは事実だった。
「……ねえ、グラジオってさ、なんか危ない人たちに追われてるの?」
「さっきも言ったが、これは俺たち身内の問題だ。それに事情を話せばお前にも危険が及ぶ」
「乗りかかった船!」
「…………」
ミヅキが頬を膨らませて言うが、グラジオは口を開かない。こればかりは喋るつもりがないということだろう。ミヅキは肩をすくめてあきらめた。
「はあ……まあいいよ。でもこれだけは言わせて。さっきみたいな危ないバトルばっかりしてたら、いつか取り返しのつかないことになるかもしれないよ。今回はポケモンセンターに連れて行けたからよかったけど……」
「……問題ない。今回は不覚を取ったが、ヒアポ……奴のバトルスタイルは分かった。俺もブラッキーも、次からこれほど追い込まれるつもりはない」
「そういうことじゃないんだよ」
「……? 負ければ、対策をしてより己を強くすることは当たり前のことだろう」
ミヅキは心の中でため息をついた。ミヅキはまだバトルが強いわけではないのでジョーイさんの言うことが理解できたけれど、グラジオのような強いポケモントレーナーからすると「危なそうなら逃げる」ということが分かりづらいのかもしれない。
「はあ……ちなみにこれは、わたしじゃなくてジョーイさんが言ってたことだから。ポケモンを治してくれる人が言ってることくらい、少しは考えてみてもいいんじゃないの」
「そうか」
「そうだよ。はい、おわりました!」
「痛ッ!?」
あらかた治療を終えて包帯を巻き、ミヅキは八つ当たり気味に強めにグラジオの肩を叩いた。突然の衝撃にグラジオは悶絶した。
「そのくらい元気なら大丈夫でしょ? じゃあわたし帰るから。お腹すいたし」
そう言ってミヅキは立ち上がった。もう時間は19時を回っている。いい加減走りすぎてお腹が空きすぎて、ミヅキは疲れでちょっぴりイライラしていた。
「……すまない」
「謝るくらいなら事情を教えてほしいんだけど」
「それは、無理だ。あと、俺がここにいることは誰にも言うな。さっきも言ったが―――」
「はいはい、わたしにも危険が及ぶ、でしょ! そうでしょうとも。心配しなくても誰にも言いませんよーだ。帰ろ! ヤトウモリ」
『シュウウ』
ミヅキは面白くなさそうにべーっと舌を出すと、ヤトウモリを連れて岐路についた。帰る途中にテンカラットヒルから眺めるハウオリの夜景は、ミヅキの不機嫌を少しだけ治してくれた。
(そういえば、グラジオくん、じゃなくて、普通にグラジオって呼んじゃったな)
▼ ▲ ▼
「あのやろう……」
『シュウウ……』
次の日。
人の気配がない洞窟の前で、ミヅキとヤトウモリは盛大にため息をついた。
ミヅキとヤトウモリが下校後にあらためてグラジオの怪我の様子を見に行くと、グラジオの姿はそこからきれいさっぱり消えていたのだ。洞窟の中を見回しても、中の小さな空間には誰もおらずもぬけの空だ。
洞窟を出たミヅキは、入り口の岩盤に小さな書き置きが貼り付けられているのを見た。
内容は簡素なもので、短い言葉でのお礼と出ていく旨、ここで起きたことは忘れろということと、自分と会ったことを誰にも口外するなということが念押しされていた。
そんなグラジオの一方的すぎる態度にミヅキはキレた。
「う〜〜〜あのばか! あんぽんたん!! こういうのがかっこいいって思ってるわけ!?」
『シュウウ……』
そんなすぐに怪我が治るわけでもあるまいし、どうせ無理して出ていったのだろう。ミヅキは眉間に皺を寄せながら呆れた。
(クールな男は華麗に去るぜってか〜? 全然華麗じゃないけどね! やれやれ)
「はあ……まあいいけどさ。せめて挨拶くらいはしたかったよねえ。ヤトウモリ」
『シュー』
ヤトウモリもやや残念そうに鳴いた。ミヅキは手元の書き置きを改めて見る。意外にも上手い字で書かれた書き置きを眺めながら、次に会ったら絶対文句言ってやるんだから、とミヅキは決意した。
【あとがき】
グラジオ、思ったより書いてて楽しいキャラクターでした。
アニポケのグラジオは中二病成分を少し引いてすこし礼儀正しくしたイメージ!
ミヅキの性格がだいぶ固まってきた気がします!うれしい!
次から原作アニメ回に戻る予定だよー!
感想、評価、質問、なんでもお待ちしてまーす!
いつも感想書いてくれるみんな、ありがとー!
一言でもめっちゃうれしい!やったー!