原作女の子主人公(ミヅキ)がアニポケ世界のスクールに入学して自分の夢を探す話 作:きなかぼちゃん
1.イワンコが謎の怪我をする
2.ミヅキ、筋肉痛になる
3.スイレンとミヅキがバトルする
結局イワンコは強くなるために、夜に行われる野生ポケモンの集まりで修行をしていたらしく、身体が傷ついていたのはそれが原因だった。それにいたく感動したサトシは、イワンコと一緒に新わざの開発を始めていた。
ということで、現在。週末休みの朝。
ククイ博士の家は穏やかな海岸の前に建っている。そこでサトシとイワンコが四つん這いになりお尻を振っていた。
「行くぞイワンコ!」
『ワンッ!』
『理解不能、理解不能』
ロトムがエラーを起こした。それを見ていたミヅキとスイレンは首を傾げた。
ちょうどテンカラットヒルに釣りに行くので近くで待ち合わせをしていたところ、サトシたちが海岸で奇妙な行動を始めたので2人して見に来たのである。
「サトシ、犬になった……」
「お、スイレン! オレ、イワンコに見えるか?」
「うん、すっごくイワンコ」
「これマジ?」
『意味がわからないロト』
スイレンとサトシは満足そうに笑った。よくわからない会話が成立していた。サトシはイワンコの真似をしているらしい。
スイレンはたまにぶっ飛んだことを言う。
「いわおとしを覚えるんだ! いいか、イワンコ? こうやってお尻に力を入れて、こう!」
『ワンッ!』
掛け声とともにふたりはお尻をくねくねと振り出した。ミヅキにはさっぱりわからなかったが、サトシの目はマジだ。
「……ねえサトシ、いわおとしってお尻から出るの?」
「え? どうなんだろう。わかんない!」
「わからんのかい!」
「え、ミヅキ……お尻から、って……」
ミヅキがツッコんで肩をすくめると、スイレンがドン引きした表情で後ずさりはじめた。その意味を理解したときには時すでに遅し。
「……は!? いやいやいやちがくて! 別にそーいう意味で言ったわけじゃなくてですねこれは言葉のあやというものでそうイワンコがお尻振ってるからその周りからエネルギー的なものを放出するのかなって思ったから言っただけであって決して」
『ビビッ、イワンコはとりポケモンのように石をお腹に飲み込む習性はないから、お尻から石は出てこないロト』
「わー!! わーっ!!!」
ミヅキは顔を真っ赤にしてロトムを破壊しようとしたが届かなかった。宙を浮く卑劣なポケモンである。
別に男子的なしもネタを言ったわけではない。ミヅキは思った。ていうかそういう解釈するスイレンとロトムの方がやばくない?
「ロトムわかってて言ってるでしょっ」
『お尻の穴からわざが出るのか聞いたのはミヅキロト』
「ちっがーう!! だだだだれもそんなふうに言ってないじゃんかあ!!」
『そう聞こえたロト』
ロトムは裏切った。許しておけぬ。これじゃあわたし、いわおとしがお尻(意味深)から出ると思ってる低俗しもネタ好きなヘンタイになっちゃうじゃん……。
ミヅキは肩を落とした。
「なんなのこの感じ?」
「ミヅキ、何落ち込んでんだ?」
『ワンッ!』
「あのさあ」
「大丈夫、ミヅキ。冗談だから」
「冗談になってないぃぃ!!!」
ミヅキが地団駄を踏んだ。スイレンはミヅキをからかうことを覚えた。
※
「ぶー」
「ごめんミヅキ、ちょっとからかいすぎた……」
「どーせわたしはからかわれ系ですよーだ」
『アウ……』
『シュウ……』
アシマリとヤトウモリのやれやれという鳴き声が聞こえる。
サトシとイワンコと別れ、テンカラットヒルのゴツゴツした山道を2人は歩いていた。ミヅキは頬を膨らませてふてくされていた。スイレンもついついからかいすぎたと反省している。
(あー、だめだ……わたし。仲良くなれはじめて調子にのっちゃった……ミヅキ、あまり怒らないからついからかっちゃう。マオちゃんだと普通に怒るかもだからやらないのに……)
スイレンとマオは幼馴染で親友同士だ。だからその辺りの線引きもわかる。それに比べると、ミヅキとの付き合いはまだ浅い。女の子の友達と仲良くなりはじめでテンションが上がってしまい、ついついやってしまったというのが本音である。
(マオちゃんに甘えすぎてたな……わたし)
スイレンはちょっとしたウソをついたり人をからかうのが好きだ。
この場にマオがいたらミヅキがいじける前にスイレンに怒ってその場を収めてくれただろう。マオはみんなのことをよく見ている。スイレンが何も気にせず人をからかえるのはマオがいるからだ。
「だ、大丈夫。この先の湖見たら、絶対ミヅキも機嫌良くなる!」
「そうなるといいね……」
「なる! ぜったい!」
ミヅキのテンションは低かった。それでもスイレンはめげない。一刻も早く信頼を回復しなければならなかった。
しかしギクシャクした雰囲気は戻らず、2人して会話がなくなるのにたいして時間はかからなかった。時折吹く風と鳥ポケモンの鳴き声だけが響く。
以前ミヅキがグラジオと出会った中腹も通り過ぎて、無言のまま山を登り続ける。そしてついに2人は山頂にたどり着いた。
「ミヅキ、見て!」
「えっ……?」
スイレンが指を指す先には、空があった。
「なにこれ……」
「ね、すごいでしょ!」
スイレンはただ、ぽかんとした顔をしているミヅキに笑いかけた。テンカラットヒルの頂上はなだらかな窪地になっていて、その中心に大きな青色のまるい穴が開いていた。
その中には空がある。空の向こう側へ落ちていけそうな、鏡のように青い湖がそこにあった。
「これがブルーホール。空の色を写した湖! それで……わたしのとっておきの場所!」
「すごい……わたし、こんなの見たことない」
「でしょ? ほらミヅキ、いこ!」
「えっ、ちょ、スイレンっ待って!」
スイレンはミヅキの手を取ると有無を言わさず湖のほとりへ走り出した。その繋がれた手を見ながら、ミヅキはどこか心地よさを感じていた……。
▲
ミヅキとスイレンは湖のほとりに着くとさっそく釣りの準備を始めた。アシマリは青色の湖の中で楽しそうに泳いでいる。まるで空を飛んでいるかのようで、なんだか不思議な光景だとミヅキは思った。
「……に比べて、あんたはブレないなあ」
『シュウ』
ヤトウモリは河原で丸まってうとうとしていた。
「はい、これ! ミヅキの釣竿」
「あ、ありがと……スイレン」
釣りの準備をしていたスイレンはミヅキに釣竿を押し付けた。なんとかミヅキの機嫌が治ったようで、スイレンは内心ほっとする。
「ううん。その……ミヅキごめん。ほんとに」
「あ……いーよ。わたしも大人気なかったし。それに、スイレンがからかい好きなのなんてもう知ってるからさ」
「うー……これから気をつける」
ミヅキも苦笑した。謝られているのに、こんなことで意地を張っていても仕方ないと思う。
「だいじょーぶ。わたしさ……こっちの人の雰囲気とかまだわかんないところもあるんだけど、クラスのみんなが優しいってことは知ってるよ」
「えっ……?」
「カントーのスクールじゃホントにわたしって地味だったんだ。そんなたくさん友達がいたわけじゃなかったし……まあ、普通っていうのかな。みんなとそれなりに遊んで、それなりに仲がいいって感じ」
ミヅキは自分の帽子に手を触れた。リーリエの家で、みんなで一緒に選んだ赤いニットキャップ。アローラに来る前はなかったもの。
「で、アローラに来て右も左もわからないわたしにも、みんな本当に優しかった。戸惑ってるだけのわたしの手を引いてくれた。スイレンが今日ここに連れてきてくれたのだってそう。だからアローラに来てよかったよ。わたし」
「ミヅキ……」
ミヅキはにっこりと笑った。
「だからスイレン。これからもっと教えて! アローラのいいところ!」
「……うん、いっぱい教えてあげる! アローラの綺麗な場所!」
ミヅキとスイレンが笑い合っていると、背後から唐突に声がかけられた。
「おや君たち、こんなところに何か用ですかな?」
2人は思わず振り向く。こんな人のいなそうな場所で声をかけられるとは思わない。
声をかけてきたのは相撲取りのごとく恰幅の良い体格をしたおじいさんだ。強靭な肉体に対して、その声はとても優しく人に安心感を抱かせる。その人の名前を2人はよく知っていた。
「「えっ、ハラさん?」」
意外すぎる人物の登場に、ミヅキとスイレンの声がハモった。その反応を見てハラは朗らかに笑う。
「そう、何を隠そうハラですな! ミヅキさん、スイレンさん。アローラ! こんな人の来ない山の上まで遊びに来るとは、ずいぶん元気な女の子たちですなあ」
「アローラ! ハラさん。今日は釣りに来たんです。わたしたち」
「こん……違う、アローラ! わたしはスイレンに案内してもらってるってカンジです」
ミヅキはまだ「アローラ」という挨拶がまだ意識しないととっさに出ない。唐突な展開だとたまにこんにちはと言ってしまう。
メレメレ島のしまキング・ハラ。
ちょっと前にサトシがはじめての大試練を突破した相手であり、Zリングを与えた人間。その後リリィタウンでお祝いのパーティを開いて、サトシだけでなくスクールのみんなにも美味しいご飯をご馳走してくれた太っ腹なしまキングだった。
((あの日のごはん美味しかったなあ……))
めっちゃヤドンのしっぽもりもりだったし。なんて。
ミヅキとスイレンは同じことを考えていた。2人のハラに対する印象は、美味しいご飯をご馳走してくれた優しいお爺さんでしかない。しまキングとしての威厳を見ていないので、仕方ないことだった。
「そうですか、釣りですか! いやあ、釣りは良いものですぞ。糸を垂らし、静かにただ待つ。そしてアローラの大自然と一体となり、己の内側を見つめ直すことができますからな」
「「えっ?」」
ミヅキとスイレンはハラの言葉の意味がわからず、2人して首を傾げた。ハラは静かに笑みを浮かべる。そんな2人の反応を予想していたような表情。
ハラは湖の方を見た。
「そうですな。水……いえ、海の声を聴く。と言えばスイレンさんにはわかりやすいかもしれませんな」
「海の声……あ! わかったかも!」
「えっ?」
スイレンは得心したように手を叩く。ミヅキはいつの間にか置いていかれていた。アローラの地元民にだけ通じる感覚らしく、ミヅキは諦めてばつの悪そうに苦笑いした。
「ごめんスイレン、わたしわからん」
「うーん……なんていうのかな、こう、スーっと、ふわっと? 自然を感じる、みたいな」
「うん……?」
スイレンが全てをリアクションで説明するサトシみたいになってしまった。考えるより感じろみたいな感じだ。ミヅキはふと思い出した。そういえばカキもヴェラ火山の息吹をいつも感じてたな。
よくわからなさが頭の中を駆け巡りはじめて、思わず丸まっているヤトウモリを見た。
『シュウウ?』
「ふう、あんたもわかんない仲間でよかったや」
ミヅキとヤトウモリはふたりしてわかっていなかった。ハラはそんなミヅキとヤトウモリを交互に見ながら、愉快そうに笑う。
「ハハハ! ミヅキさんにもいずれわかりますぞ」
「そ、そうですか……? わたしいま全然わかってないですけど……」
「ええ、もちろんです! なぜなら……そちらのヤトウモリ、良い目をしている。よきパートナーを見つけたようですな。ふたりでアローラの大自然を冒険し、さまざまな人とポケモンに出会う。その経験こそが、ミヅキさん。君の糧になるのです」
「糧……」
「そう! それこそが、我々大人がアローラの子供たちに伝えたいことであり、今の話の答えでもあります。それに気づくために、しまめぐりがあるのですからな」
「しまめぐりって、サトシがやってるあれですか?」
「そうですな。ですが、証を持って試練を受けるばかりがしまめぐりではありません。君たちもたった今、気づいていないだけでしまめぐりをしているのですぞ」
「「……?」」
ミヅキとスイレンは顔を見合わせた。自分たちは今日テンカラットヒルに遊びに来ただけだ。なのにハラから言うと、2人ともしまめぐりをしているという。
果たしてハラは満足げに、そんな様子の2人を見た。
「友達と連れ立って大自然を探検する。それだけでも十分に、素晴らしいしまめぐりを果たしているのですからな」
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そんなふうにハラは一通り難しい話をすると、気をつけて遊ぶようミヅキとスイレンに言い含めて帰ってしまった。
ミヅキとスイレンは釣りをしている。スイレンは釣りの達人らしく、もりもりニョロトノだのヒンバスだのを釣っていたけれど、ミヅキの竿にはてんで何もかからなかった。ただ、ミヅキはそれでも特につまらないと感じてはいない。
(全然かかんないけど、この景色見てるだけで十分って感じするなあ)
空の青さを写したような、神秘的な青い湖は静かに水を湛えている。それはぞっとするほど美しい。水の中に落ちたらそのまま吸い込まれて、空の底まで落ちてしまいそうだった。泳ぐことが得意なスイレンなら、ここに飛び込むのも怖くないのだろうか?
ぼーっとそんなことを考えていると、たった今釣ったコイキングをリリースしたスイレンがふと呟く。
「ね、遊びに来てるだけだけど……しまめぐり、してるのかな? わたしたち」
「うーん? 言葉通りならたしかに巡ってるのかも。自然を楽しむ的な意味で」
タマムシ育ちのシティガールであるミヅキからすれば、こうして自然の中で遊んでるだけでハラの言う通り十分島を巡っているような気がする。
「そういえば、ここで何してたんだろうね。ハラさん」
「さあ……? あ、かかった!」
「すご、大漁じゃんスイレン」
スイレンが巧みに釣り竿を操作するのを応援しながら、まあいっか。と浮かんだ疑問を消し去ろうとしたミヅキの手が唐突にガクンと揺れる。
初めてアタリがきたのだった。
「お! わたしもきた!? どどどどうしよう」
「ミヅキ落ち着いて! 魚の動きに合わせて釣り竿を引っ張って!」
焦るミヅキにスイレンが指示を飛ばす。自分もアタリが来ているのに他人に指示ができるあたり、流石の達人だった。
「……ん? でもこれ何も動いてない」
「えっ? ちょっと待ってて」
ミヅキは違和感に首を傾げた。釣竿は重かったけれど、特に魚が暴れるような感覚はない。
今度はニョロモを釣ってリリースしたスイレンが、釣り竿を置いてミヅキのもとへやってきた。
「もしかして針が引っかかっちゃったのかも。石とか水草に。ゆっくり巻き上げて」
「なーんだぁ……」
「ミヅキ、ドンマイ」
ミヅキは小さくため息をつきながら糸を巻き上げた。するとそこにはよくわからないものがかかっていた。
「……って、なにこれ」
「魚、じゃない……?」
ルアーをくわえていたのは、紫色の風船みたいな形をしたポケモンだった。点みたいな2つの黒い目があって、バッテンみたいな黄色い大きな口がついている。風船の下には糸みたいな黒い手が2本。
『ふんわ』
つり上げられたそのポケモンは、そんな間の抜けた鳴き声を出した。