原作女の子主人公(ミヅキ)がアニポケ世界のスクールに入学して自分の夢を探す話   作:きなかぼちゃん

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【前回のあらすじ】
1.ミヅキがフワンテをつり上げる
2.スイレンと一緒にバトルしてどさくさにまぎれてゲットする
3.なんか最近ゴーストタイプのポケモンが増えてるらしい


16.マオのお料理大作戦!

 今日はあいにくの雨の日。マオが新メニューの試食会をするというので、放課後にクラスの7人がアイナ食堂に集まっていた。

 

 床では皿に山盛りになったポケモンフーズにみんなのパートナーが勢いよくがっついている。その中には新入りのフワンテとサトシのイワンコもいたけれど、すでに仲間に溶け込んでいた。

 

 サトシはいわおとしをイワンコと一緒に完成させて、そのまま流れでゲットしたらしい。

 

「あ〜〜! お腹すいた! もう待ちきれないぜ! な、マーマネ!」

 

 サトシが口を開くと、みんながいっぺんに喋り始める。

 

「うんうん、ボクもお昼抜いてきたんだから!」

「おどろき。マーマネがお昼抜くなんて」

「アハハ、2人ともすごい気合ですね……」

「お前らなあ……あくまで試食会ってこと忘れてないか?」

「どー見てもお腹いっぱい食べる気だよね」

 

 ミヅキがジト目で呟いた。そのとき、厨房から「バチバチバチィ!」と電撃が弾ける音が響いた。一瞬、みんながしんと静まり返る。

 

「大丈夫ー!? マオちゃん!」

 

 スイレンが立ち上がって厨房を覗き見た。

 

「明らかに10まんボルトの音がしたな……」

 

 カキがまさかというふうにサトシの顔を見る。サトシは首を傾げた。

 

「10まんボルトって……ピカチュウはここにいるぜ? ほら」

「いなくない?」

「いないね」

「いませんね……」

 

 みんながパートナーたちのほうを見ると、そこにはピカチュウだけがいなかった。

 

「……あれ、どこ行ったんだ? おーい、ピカチュウー!」

 

 サトシがお店の中を見渡すと、ちょうど焦げくささを纏ったマオとピカチュウが厨房から出てきた。2人とも身体が黒い煤だらけだ。両手には鍋の寸胴を抱えている。

 

「もしかして……失敗!?」

「えー!?」

 

 お昼を抜いてきたサトシとマーマネは絶望的な顔をした。するとマオは安心させるようにニッコリと笑う。

 

「エッヘヘヘ……大丈夫大丈夫! 幻のアローラシチュー、完成しましたー!!」

 

 

 

 

「「「「「「あばばばばばばば」」」」」」

『なにごとロトォ!?』

 

 シチューを一口食べたみんなが痙攣しながら机に頭を打ちつけた。

 

 シチューからは10まんボルトの味がした。舌がびりびりして味がわからない。ミヅキはヒリヒリした舌を出しながらひぃひぃと息をしていた。

 

「なに……これえ……」

「マオ……この料理はいったい……」

「びりびり……しびれびれ……」

「うふふ、すごいピリッとしたのが癖になるでしょ! ピカチュウに手伝ってもらって、隠し味に10まんボルトを入れてみたんだー!」

 

 そうはならんやろ。みんなは頭の中でつぶやいた。マオは満面の笑みで理解不能なことを言う。気が狂い始めたカキがマオに詰め寄る。

 

「その理屈はおかしい! なぜ! WHY!?」

「でもこれビリビリしておいしいよ?」

『は!?』

 

 たった一人マーマネだけが復活してがつがつとカレーの続きを食べていた。みんなはびっくりしてすっとんきょうな声をあげて、ミヅキはもう考えることをやめて流されることにした。

 

「あーそっかーマーマネの特性はひらいしんだったかートゲデマルもそうだもんねー」

「新事実! マーマネ、ポケモンだった…….」

「ま、まあね? ……ってちがーう! ボクは人間!!」

「でもすごいなマーマネ……オレ舌が痺れて食べれないよ……」

「論理的に考えて、マーマネの舌は……その、なんというか」

「バカ舌だな……」

「えー!! ひどいよカキ!! みんなもなんでそんな目でボクを見るのさぁ!」

 

 みんなはやや引き気味にマーマネを見ていた。

 

「アハハ……成功したと思ったんだけどなあ……マーマネ、ありがとね」

『マッジィ……』

 

 マオとアマカジは苦笑しながらため息をついた。するとサトシがふと声をあげる。

 

「そういえばマオ、幻のアローラシチューって何なんだ?」

「ボクも知らないや。ハウオリのレストランでそもそもアローラシチューなんてメニュー見たことないし。ミヅキ知ってた?」

「ん、わたしはスイーツ専門だからね〜。聞いたことなかったなあ」

「えーっとそれはね……」

 

 マーマネとミヅキはハウオリの食べ物に詳しいが、それでも2人とも聞き覚えがない。マオが口を開こうとすると、厨房の奥からマオのお父さんが顔を出した。

 

「それは僕が説明しよう」

 

 

 

 

 マオのお父さんがいうには、アローラシチューというのは昔のお祭りやお祝いによく作られていた宴会向けの料理らしかった。ただ今ではその伝統もなくなり、レシピも失伝してしまっているという。

 

「で、海外で修行してる私のお兄ちゃんがこの前文献で偶然作り方を見つけて、内容を送ってきてくれたんだ! シチューの特徴的なピリピリした味を出すのに必須なのがやまぶきのミツ、なんだけど……今は時期はずれで咲いてないんだって」

 

 マオが恥ずかしそうにぽりぽりと頭を掻くと、ぴんと来たようにスイレンの表情が強ばった。

 

「マオちゃん、まさか……その代わりに10まんボルト……?」

「あはははは……もしかしたらって思ったんだけどね……」

『マオ、10まんボルトは調味料じゃないロト』

「おっしゃる通りで……ウウッ」

 

 ロトムの突っ込みにマオはがくりと肩を落としながらさめざめと泣いた。

 

「いくらなんでもぶっ飛びすぎだろ。かえんほうしゃで焼き肉をするようなもんじゃないか? それ」

「つよすぎ。火力」

「10まんボルトが強すぎるなら……うーん、エレキボールならよかったかもなあ。な、ピカチュウ」

『ピッカチュ!』

「そういう問題じゃなくない……?」

「ど、どうでしょうか……」

「これおいしすぎ! おかわり!」

 

 マーマネ以外が試食できなかったので、新しくマオのお父さんが作ってくれた料理を囲みながらみんなは感想を話し合っていた。マーマネは一心不乱にみんなの残したシチューをがつがつと食べている。

 

 そこでミヅキはふと思い出した。

 

「そういえばやまぶきのミツって、前にロトムがいってなかったっけ? なんかオドリドリの姿が変わるとかなんとか」

『ミヅキ、よく覚えてるロト! ジェイムズさんのオドリドリとモクローがバトルした時に説明したはずロト!』

 

 ミヅキが覚えていたことが嬉しかったのかロトムがテンション高めに言う。一方サトシはあまり覚えてないようで首をひねった。

 

「えーそうだっけ?」

『サトシはもうすこしボクの説明をしっかり聞くべきロト。ポケモンの基本情報はバトルの勝敗に直結する要素ロト!』

「聞いてるんだけどバトルに集中しすぎて忘れちゃうんだよなあ」

『ピーカァ』

 

 ピカチュウはだるーんとした顔をしながら苦笑した。サトシの猪突猛進バトルマニアなところには慣れっこらしい。

 

「モグモグ……まあ、サトシって、ムシャムシャ……感覚派っぽいからね、ボクと違って……はぐはぐ」

「マーマネ、食べながら話さないー。美味しそうに食べてくれるのはうれしいけどね……」

『やまぶきのミツは3月から5月に取れるらしいロト。今は6月だから見つけるのは難しいかもしれないロト。具体的には……ビビビ、計算中……発見率8%ロト』

 

 アローラは常に温暖なので他の地方ほど季節を感じないけれど、それでも四季はちゃんと存在する。いまはちょうど初夏で、海水浴がしたくなってくる季節だった。ロトムの計算結果を聞いてマオは苦笑いした。

 

「アハハ、8%じゃちょーっと厳しいなあ……」

「8%もあるんじゃん! なら見つかるって!」

「え?」

 

 サトシのポジティブシンキングにマオはぽかんとした表情になる。それを聞いてみんなはくすりと笑った。

 

「確かに100回に8回っていうと難しそうだが、10回探せば1回くらいは見つかるって考えればそこまで低い確率じゃないかもしれないな」

「うんうん、見つかる!」

「そーそー、7人もいるんだから」

「論理的結論として、7人で探せば見つかる可能性もぐっと上がるはずです!」

「モグモグ……えっ? みんななんか言った?」 

「マーマネの食べた分のカロリーを運動して消費するって話だよ」

「えっ?」

 

 ミヅキはしたり顔でそんなことを言うけれど、当のマーマネはまったく意味がわからず首を傾げるだけだ。ミヅキはちょっと滑ったかなと思い顔が赤くなった。

 

「でもみんな、悪いよ……試食だけじゃなくて食材探しまで手伝って貰うなんて」

「困ったときはお互い様! でしょ、マオちゃん」

「スイレン……」

 

 申し訳なさそうに断ろうとするマオに、スイレンがにっこりと笑みを向けた。

 

「うんうん、オレもマオの完成したアローラシチュー食べてみたい!」

 サトシのその言葉にみんな力強く頷く。マオを手伝うという気持ちは一緒だった。

 

「そうと決まったら、明日みんなでやまぶきのミツを探しに行くぞー!」

『おー!!!』

 

 

 

 

「今日は晴れてよかったね!」

「ああ。でもそういえば、どうやってやまぶきのミツを探すんだ?」

『そうロト。やまぶきのミツを探すにはオドリドリを目印にすればいいけど、その肝心のオドリドリが時季外れで今はあまりいないロト。遭遇確率はミツと同じ8%ロトよ』

 

 次の日、スクール周辺の森の中にみんなは集合していた。そしてカキとロトムが至極もっともな疑問をあげる。

 

 やまぶきのミツを見つけるならそれを餌にしているオドリドリを見つけて追跡すればよい。しかし肝心のオドリドリが今この森にはあまりいない。

 

「歩いてれば見つかるさ! 行こうぜピカチュウ! イワンコ!」

『ピッカァ!』『ワンッ!』

「サトシ、ちょっと待ってください!」

「えっ?」

 

 リーリエが焦って飛び出していきそうなサトシを止めた。その表情はどこか自信に満ちあふれている。みんなの視線がリーリエに注がれた。

 

「わたくしは昨晩考えました! ロトムの言うとおり、やまぶきのミツを探すにはオドリドリを目印にすればよいと。ならば……出てきてください! オドリドリ!」

『クルルルル!』

 

 リーリエが投げたモンスターボールから出てきたのはぱちぱちスタイルのオドリドリだ。マオはそれにピンときて手を叩いた。

 

「あ、もしかしてジェイムズさんのオドリドリ!」

「そうです! ジェイムズにお願いして借りてきたんですよ。今日はよろしくお願いしますね。オドリドリ!」

『クルルッ!』

 

 オドリドリはやる気が満ちあふれたように踊りながらリーリエにハイタッチしようとした。そしてみんな虚を突かれたように「あ」と声をあげた。

 

「ひ、ひゃああああああ!」

『クル!?』

 

 リーリエが高速で後ずさりしてガタガタと身体を身震いさせる。オドリドリはしまったという顔でリーリエを心配そうに見つめていた。マオとミヅキはそんなふたりを見ながら苦笑する。

 

「あらー、そうだ……リーリエまだシロンにしか触れなかったもんねぇ……」

「シロンにふつうに触れてるからその辺忘れてたよね……たぶんオドリドリも」

『クルル……』

「ああっオドリドリ、あなたのせいじゃないんです。わたくしがまだシロン以外に触れないせいで……」

『コン……』

 

 リーリエはすぐに立ち直ったが、それでもその表情は晴れない。心配そうなシロンの顔を見た。まだわたしはシロンにしか触ることもできないし、みんなみたいにポケモンバトルだってうまくできる自信がないのに……。

 

「大丈夫、触れるようになる、絶対! シロンにだって触れるようになったんだから! ファイト、リーリエ!」

「うんうん。それこそ、論理的結論、でしょ?」

 

 スイレンとマーマネの言葉は、不安になったリーリエの心の中にすっと入り込んでいった。そう、今までのように少しづつできるようになっていけばいい。

 

「スイレン、マーマネ……ありがとうございます。わたくしは大丈夫です! ひとまず今は、やまぶきのミツを探さないと。オドリドリ、やまぶきのミツがある場所に心当たりはありませんか?」

『クルル』

 

 オドリドリは周辺の匂いを探るようスンスンと鼻を鳴らすと、やがて一つの方向に向けて飛び立った。何か見つけたようだ。

 

「行ってみましょう!」

 

 7人は頷きあうと、森の奥へと進んでいった。

 

 

 

 

 果たしてやまぶきのミツは割と簡単に見つかった。

 オドリドリが案内してくれた先にあった、周囲を崖に囲まれた広場には、一面の山吹色の花が咲いている。

 

「オドリドリ、すごいです! ありがとうございます!」

『クルルルン♪』

 

 作戦成功だ。リーリエが満面の笑みでオドリドリにお礼を言うと、オドリドリは上機嫌にぱちぱちと踊ってそれに答える。

 

『8%なのにあっという間に見つかっちゃったロトー!』

「だろー? だから見つかるって言ったじゃん」

『見つかるにしても簡単すぎるロト。ボクの確率計算に間違いはなかったはずロト……』

「そんなのカンケーないって! みんなで力を合わせればできる!」

『理解不能、理解不能』

 

 驚愕の叫びをあげるロトムに対して、サトシは得意げにそういった。やってみなきゃわからない。それがサトシの口癖でもある。

 

「まあ、実際に探してくれたのはオドリドリなんだけどねえ」

「案の定、ノープランで飛び出そうとしてたな。あのままじゃいつまでかかったことか」

「ぎくり」

 

 マーマネとカキがあきれ顔でそう言うと、サトシの顔がこわばった。実際のところ、サトシは別に今日はなにもしていないのだった。そんな様子を見てリーリエとミヅキはくすりと笑う。

 

「まあまあ、やまぶきのミツを探そうって言ってくれたのはサトシですから」

「もしかすると、サトシが8%でも見つかるよって言わなかったら、みんなで探そうってならなかったかもだよね」

「あ、たしかに……」

 

 サトシはポジティブ思考で周囲を巻き込むのがうまいとミヅキは思っている。ちょっぴり無鉄砲で勢いだけなところもあるけれど、それは自分にはない才能だし、正直羨ましいとも感じていた。

 

(サトシみたいにいつもポジティブになりたいって思う時もあるけど、わたしには難しいんだろうな)

 

 ミヅキがそんなふうに考えていると、ひとり花畑を見つめたままぼうっと黙っているマオにスイレンが声をかけた。

 

「マオちゃん、どうしたの?」

「え!? ううん! すごい……って、思っちゃって」

「えっ……?」

 

 マオは嬉しそうではあったけれど、それでもどこか遠い目をしていた。スイレンの怪訝そうな声にみんなも反応する。

 

「マオ、どうかしたのか?」

「嬉しすぎて言葉も出ないとか〜? あ! ボクも完成したアローラシチュー楽しみだけどね!」

『モキュキュ!』

「マーマネもう食べることしか考えてないし……でもマオ、ほんとにどうしたの?」

 

 ミヅキもマオの表情を覗き見た。いつものマオなら「食材だー!」なんて言って誰よりも先に駆けていきそうなものだったから。

 

「ううん。そんな大したことじゃないの。あたし、1人じゃやまぶきのミツを探しに行こうなんて思わなかったし、やっても見つからなかったと思う……。でもこうしてみんな手伝ってくれて……あっという間にミツを見つけられたの、ホントにみんなが凄いと思って!」

 

 マオは卑下しているわけではないけれど、自分よりクラスのみんなの方がすごいと思っている。だからこそみんなを尊敬しているし、クラスみんなで仲良くいることを人一倍大切にしていた。

 

「そんなことないって。マオだっていつもオレたちを助けてくれてるじゃん!」

「そうだな。マオがいるから、俺たちはみんなまとまっていられるんだぞ?」

 

 サトシとカキが意外そうな顔でそう答えると、みんなも「うんうん」と深く頷いた。

 

「へっ?」

 

 マオは心当たりがなさそうにきょとんとした顔をする。それを見てスイレンはにっこりと笑って、マオの手を握った。

 

「マオちゃんはいつだってみんなのことを見てくれるよね。おせっかいって言うけど……わたし、ううん。わたしたちはみんなそんなマオちゃんのことが大好き。だから自信持って!」

「スイレン……」

「やまぶきのミツを探しに来たのだって、マオちゃんに喜んでほしいからだよ。そうでしょ? ね、みんな」

「そうそう! それにさ、みんなマオの作るアローラシチューがすっごく楽しみなんだから!」

「マーマネ……いや、でもまだどんな味になるかわかんないし……」

「えー、美味しくないわけないよ! パーティーするときとかいつもすっごく美味しい料理作ってくれるんだからさ! ボクたちあんな美味しい料理作れないもんね」

「わ、わたくしは料理は作ったことがありません! だからマオはすごい、です!」

「リーリエ、なんかそれ墓穴掘ってない……?」

「そ、そうでしょうか……? わたくしも料理を練習した方がいいのでしょうか……」

 

 なんだか空回りしたようなリーリエにミヅキは苦笑いした。そして自分の服にチラリと目線を移すと、やがてマオに話しかける。

 

「マオ、わたしね……この服をリーリエの家で3人が選んでくれたちょっと後にさ、はじめて1人でハウオリを散歩したんだ。それで何となくアイナ食堂にご飯食べに行ったんだけど、あの時のこと覚えてる?」

「えっ……? うん。確かミヅキにカントーの暮らしとか色々聞いたよね! でもそれがどうかしたの?」

「あの時、忙しいだろうしもしかしたら迷惑かなって思ったんだ。だからああして何気なくわたしとおしゃべりしてくれたこと、すっごくうれしくてさ。なんていうのかな……わたしもアローラでやっていけるかも、って安心できたの」

「そ、そんなあ。大げさだよミヅキ! ただ普通におしゃべりしただけじゃない」

「ううん。そうやってマオが当たり前だと思ってることで、みんな助けられてるんだよ。だから、マオはすごいんだ!」

 

 みんなのことを普段から思いやれる人は想像以上に少ないし、そうでなくても仲の良さによって差はできる。気配りはマオ自身も意識していない才能だった。

 

 マオは真っ直ぐに自分を見据えるミヅキの瞳を見た。嘘でもお世辞でもない本音がそこにある。

 

「そう、なのかな。みんな……ありがとう」

 

 マオの胸の中にはなんだか安心感にも似た温かい気持ちが広がっていた。

 

「さ、早くミツを取りに行こうよ! アローラシチューのために!」

「マーマネもうホントそればっか……」

「台無し、いい雰囲気」

「えー! なんでさ!」

 

 みんなが花畑に向かって歩き出すと、いち早く走り出したマーマネが振り向いてぼうっとしていたマオを呼んだ。

 

「マオもはやく来なよー!」

「あ、うん!」

 

 みんなを追ってマオが歩き始めたその瞬間、空にキラリ鈍く何かが光った。最初にそれに気づいたのはスイレンだった。

 

「えっ?」

「スイレン、どうしたの……ってうわぁ!」

 

 気づいた時にはすでに遅かった。上空に現れた巨大な気球から落とされた巨大な網がみんなを捉え、そのまま宙吊りにされてしまう。無事なのはみんなよりすこし離れていたマオとアマカジだけだった。

 

「みんな大丈夫!?」

「なんなんだこれは!」

「うぐぐ。なーんかこのパターン覚えがあるような…」

「狭いよお! 誰かのいたずら!?」

 

 マーマネが言うと、それに答えるように花畑に3つの影が躍り出た。

 

 

 

 

「誰かの悪戯!? と聞かれたら」

 

「聞かせてあげよう、我らが名を」

 

 

花顔柳腰・羞月閉花

 

儚きこの世に咲く一輪の悪の華!

 

 

「ムサシ!」

 

 

飛竜乗雲・英姿颯爽

 

切なきこの世に一矢報いる悪の使徒!

 

 

「コジロウ!」

 

 

一蓮托生・連帯責任

 

親しき仲にも小判輝く悪の星!

 

 

「ニャースでニャース!」

 

 

「「ロケット団、参上!!」」

 

「なのニャ!」「ソーッナンス!」

 

 

 

 

「ロケット団! またお前たちか!」

 

 サトシが怒っている横でミヅキはふと思った。

 

「……ねえサトシ、ロケット団っていつもこんなことやってるの?」

「ああ、いつも悪さばかりしてる悪いヤツらだからな」

「もしかしてサトシのストーカーなのかな」

「ありうる、それ」

『ロケット団のサトシとの遭遇率から導かれるその可能性は99%ロト』

「マジか……」

 

 みんなが網の中からロケット団の方をジト目で見始めると、ムサシの顔がほんの少し青くなる。

 

「ごちゃごちゃうるさいわね! あんたたちがなんかコソコソなにか探してるのを見かけたからついてきただけよ!」

「そしたら高級品のやまぶきのミツが大量にあったってわけだ」

『このミツはニャーたちが全て頂くニャ。でもってロケット団の活動資金源にさせてもらうのニャー! ニャハハハ!』

『ソーーナンスッ!』

 

 ロケット団が高笑いすると、カキの表情が一気に鋭くなった。

 

「全てだと!? アローラの自然の恵みを根こそぎ奪っていくなんて許せん!」

「ハァー? この土地は誰のものでもないじゃない。だからあたし達が何しようが自由ってわけ。なんであんた達にそんなこと言われなきゃいけないのよ?」

 

 アローラの自然の恵みは、そこで生きる全てのものと分け合わなければいけない。アローラの人々は昔からそうやって生きてきたのだとカキはよく知っていた。マオもそれに続く。

 

「自然のものを無闇にたくさん取っちゃダメなの知らないの!? 花のミツだって人のためにあるわけじゃない。このミツを食べて暮らしてるポケモンだってたくさんいるんだよ!? 人はそれを分けてもらってるだけ! なのに……」

「ハイハイ。そういうお説教は勘弁だわぁ。そんなに止めたきゃポケモンバトルで止めてみなさいよ! そこの緑ジャリガールだけでできるもんならね」

「くっ……」

 

 思わずマオは後ずさりしてしまう。以前リーリエの家で見たムサシのミミッキュの強さを思い出したのだ。

 

(あたしとアマカジだけでロケット団を倒せるの……?)

 

 マオは思わず足下に佇むアマカジを見た。アマカジは震えていたけれど、それでも強いまなざしでロケット団をにらみつけていた。

 

「アマカジ……」

『マジッ!』

 

「……うん、そうだね! アマカジがこんなに頑張ってるのに、トレーナーのあたしが怖がってちゃダメだよね」

 

 マオはあらためてアマカジの横に立ってロケット団を正面に見据えた。1人でもやる気のようだ。ほう、とムサシは意外に思う。

 

「はん? 緑ジャリガール、前もミミッキュにビビってたくせにそんな弱っちいポケモンでなにができるってぇのよー!」

「その通り、オレたちを舐めてると痛い目見るぞ!」

『この機会にロケット団の真の恐ろしさを教えてやるニャ……」

「……今までのあたしならしょうがないってあきらめてたかもしれない。でもね! みんながあたしの背中を押してくれたからやまぶきのミツを見つけられたの。だから……あたしたちだってみんなのために戦える!」

「マオちゃん……」

 

 スイレンが心配そうに呟く。マオを信頼していないわけではないけれど、それでも幼馴染みの立場からすると傷ついて欲しくない気持ちの方が強かった。

 

 マオはスイレンの気持ちを察したのか、まっすぐにスイレンの方を見た。それは闘志を秘めた1人のポケモントレーナーの瞳だ。

 

「だいじょうぶ! スイレン、みんな。あたしを信じて!」

「はん、美しい友情ですこと。じゃあこうしましょ。アタシたちが勝ったらやまぶきのミツはぜーんぶいただいていくわ。そのかわり、緑ジャリガールが1人でアタシたちに勝てたら、ミツはあんたたちに譲ってあげる」

 

 実際のところ、ミミッキュはピカチュウにしか興味がないのでこのバトルで使うことはできない。ただムサシの見立てではソーナンスでもこのアマカジには十分勝てると踏んでいた。

 

「そんなの信用できるか!」

「そーだそーだ!」

「ハァー? 聞っこえませーん」

 

 ムサシがサトシとマーマネを煽ると、マオがゆっくりと口を開いた。

 

「……あたしが勝ったら、やまぶきのミツは諦めるのね?」

「そうよ? っつってもアンタがアタシたちに勝つなんてありえないけどねー!」

「やってみなきゃわからない!」

 

 マオが力強く叫んだ。それはどこか自分自身に言い聞かせているようにも聞こえた。サトシはハッとした。それはサトシ自身がいつも言っている言葉だったから……。

 

「……ああ、そうだな。俺はマオとアマカジを信じる!」

「俺もだ」

「サトシ!? カキまで……」

「2人の気持ちは分かります。でも、わたくしはマオとアマカジが傷ついたらと思うと……」

「ボクも心配だよ……」

 

 スイレンとリーリエ、マーマネが心配そうな顔を浮かべた。

 

 極論、スイレンは逃げてもいいと思っていた。ロケット団が狙っているのはミツだけだし、自分たちは捕まっているけれどマオがジュンサーさんやククイ博士を呼んできてくれれば何とかなるだろうと思っていたから。

 

「大丈夫だ。お前たちが心配なのはわかる。でもマオのあの決意を見たら、信じない方が失礼だろう。同じポケモントレーナーとしてはな」

 

 カキの目はどこか確信めいていた。幾度もバトルを経験しなければわからない何かをカキとサトシは感じたのかもしれない。納得はできなかったけれど、それでも純粋にスイレンはそれを羨ましいと思った。自分も2人と同じように迷いなくマオを信じたかった。

 

 だから、信じることにした。

 

「……わかった。頑張って、マオちゃん! でも、絶対に無理はしないで。アマカジも」

「……ありがと、スイレン。あたしさ、まだみんなが言ってくれるみたいに自分のこと、すごいって思えないんだ。でもね、だから……このバトルはあたしにやらせて! そうしたら、何かが見えてくる気がするの」

 

 ミヅキは気づいた。マオは自信がないのだ。それは以前の自分とどこか重なって見えて、思わず叫んだ。

 

「マオ! リーリエの家で一緒に戦ったときのこと思い出して! アマカジと自分を信じて! あの時の感覚があれば絶対にマオは勝てるから!」

「……うん!」

 

 マオとミヅキは頷きあった。あの時一緒にバトルした2人にしか分からない気持ちがある。

 

「ふん、ごちゃごちゃうるさいのよ! ちゃちゃっとやっちゃいましょ! ソーナンス!」

『ソーーーナンスッ!』

「いくよアマカジ!」

『マジッ!』

 

 一瞬の間。みんなが息を呑んだ。そして。

 

「アマカジ、こうそくスピン!」

「ソーナンス! 適当にやっちゃって!」

 

 アマカジのこうそくスピンがソーナンスに激突した。しかし、

 

『マジィ!?』

 

 確実にヒットしたはずがアマカジの身体は勢いよく弾き飛ばされる。

 

『あれはカウンターロト! マオ! ソーナンスはがまんポケモン。基本的に相手の攻撃を跳ね返して戦うことが得意なポケモンロトー!』

「カウンターか……厄介だな」

「でも今カウンターなんて命令されてなかったよ!?」

「あのソーナンス、できる……」

「適当にやっちゃってっていうのもトレーナーとしてどうなの……?」

 

 みんなの戸惑いを聞いてムサシは高笑いした。

 

「オホホホ! 凄いでしょーうちのソーナンスは! だからあんたが勝つ可能性なんて万が一もないわけ! 分かった?」

「くっ……」

 

 こちらから攻撃すればカウンターで跳ね返される。正面からぶつかりあってもしょうがないことは明白だった。

 

(これは前に野生のヤトウモリと戦った時と同じ……! 正面からがダメなら、あの時みたいに注意を逸らして攻撃するしかない!)

 

「アマカジ、あまいかおり!」

『マッジィ!』

 

 周囲にあまいかおりが漂い、サトシのモクローがリュックから出てふらふらと網に激突した。そしてソーナンスにも変化が起きた。一瞬アマカジへの注意が逸れたのをマオは見逃さなかった。

 

「今だよ、アマカジ! もう一度こうそくスピン!」

『ナンスッ!?』

 

 今度はソーナンスが吹き飛ばされた。ムサシの指示がなかったおかげでカウンターの発動が一瞬間に合わなかったのだ。

 

「ちょっとソーナンス! ちょっと良い匂いがしただけでやる気なくしてんじゃないわよー!」

『ソソソーナンスッ……』

「あん!? 何よ!」

『ちゃんとムサシが指示してくれないとタイミングがわからないから今みたいになるって言ってるニャ……』

「そりゃそうだよな……」

 

 ニャースとコジロウはため息をついた。ムサシはある意味ソーナンスを信頼しているので、何でも適当に自分でやれると思っている。そもそもムサシはカウンターとミラーコートの違いすらうろ覚えなのだ。

 

「ハァー、まったく手の掛かるやつね! わかったわよ。ちゃんと指示するから勝ちなさいよ!」

『ナンスッ!』

 

 ソーナンスとムサシがマオとアマカジに向き直った。油断がなくなった敵を見てマオの額に汗が伝う。それでも攻撃を止めるわけにはいかない。

 

「アマカジ、もう一度あまいかおりからこうそくスピン!」

「ふん、同じ作戦がそう簡単に通じると思わないことね! ソーナンス……今よ! えーっと、カウンター!」

「あっ、アマカジ駄目!」

 

 マオは止めたがすでに遅かった。あまいかおりで集中力が途切れたかに見えたソーナンスは、果たしてムサシの指示通りのタイミングでカウンターを行いアマカジをはじき飛ばしたのだった。

 

『マッジィ!?』

「アマカジ! 大丈夫!?」

 

 マオの足下にアマカジが転がる。思わず駆け寄って無事を確認するが、アマカジはマオの言葉に応えるように顔を顰めながらも気合いで立ち上がった。

 

(やっぱり、同じ作戦はもう通じない……。アマカジが使えるわざはこうそくスピンとあまいかおりだけ。それなら次はどうすればいいの……!?)

 

 前はミヅキがうまく指示をくれた。でも今度は1人で戦わなければいけない。今になって冷めたい氷をお腹の底に落としたような不安がマオを襲う。

 

(考えるのよマオ! カキやサトシなら!? いや、ミヅキならどうする!?)

 

 自分にはカキやサトシのようなポケモンバトルの腕はない。それはわかってる! 実力が足りなくたって、工夫次第でバトルはいくつもの可能性を見つけられる。ミヅキが前にそうしていたみたいに!

 

 そこまで考えてマオははっとした。

 

(ミヅキなら……? ちがう! 大事なのはあたしならどうするか! あたしにできること! あたしが得意なこと―――!)

 

 無意識にマオは足を動かした。じゃり、と靴と乾いた土がこすれ合う音がする。

 

(土……?)

 

 マオはふと思った。ここは自然に花畑ができる程度には肥沃な土がある場所だ。質の悪い硬い砂地じゃない。柔らかければアマカジのこうそくスピンでも十分地面を掘れる。

 

 そして昨日は雨だった。土の表面は乾いているけれど、その下の層は泥のように湿っているはずだ!

 

 マオは閃いた。それならもしかして、攻撃になるかもしれない……!

 

「なにぼーっとしてんのよ。もしかしてこのまま降参ってことぉ?」

「誰が! アマカジ! ソーナンスの目の前の地面にこうそくスピンだよ!」

「は!?」

『マジッ!』

 

 虚を突かれたムサシをよそに、アマカジは迷いなくソーナンスの目の前の地面に攻撃した。ドリルのように地面を掘るアマカジの四方八方に泥が飛び散る。

 

 そしてその中の一塊がソーナンスの目に直撃してたまらず声をあげた。

 

『ソ、ソーナンスッ!?』

「ちょっとソーナンスなにしてんのよ! そんな泥カウンターで跳ね返しなさいよ! ほら!」

『ソ、ソナ! ナンスッ!』

『これはわざじゃないからどうにもならんって言ってるニャ……』

「もーなによそれー!」

 

 予想外すぎてムサシの頭は一瞬パニックになり、その隙に命令が一歩遅れた。それをマオは見逃さなかった。

 

「よそ見しないでよ! アマカジ、そのままソーナンスにこうそくスピンだよ!」

「あ、しまっ……」

 

 アマカジの渾身の一撃が視界の奪われたソーナンスを突き飛ばした。みんなの歓声があがる。

 

「効いてる!」

「地形を使ってどろかけを再現したか!」

「マオ、すごいです!」

「でもソーナンスも持ちこえてるよ!」

「ダメージはある。だが、ソーナンスを倒すにはパワーが足りないんだ。今のアマカジのパワーではソーナンスの防御力を突破できない……!」

「そんな……アマカジ……マオちゃん……」

「なんとかならないんでしょうか……?」

「今の攻撃もあくまで奇襲だったからね……どうにかあと一回わざが当たればいいんだけど」

 

 ミヅキはちらりと息の上がっているアマカジを見た。ソーナンスだけでなくアマカジにも疲れとダメージが蓄積している。持ってあと一撃……思ったその時、アマカジの身体が青く光り始めた。

 

 一番最初にそれにびっくりしたのはマオだった。

 

「え、何!? アマカジどうしたの!?」

「あれは……もしかして!」

「進化だ!」

 

 アマカジの姿が一気に大きくなり、人型になる。そして進化が終わった時、そこには小柄な女の子のような姿をしたポケモンがいた。

 

『アマーイ!』

 

 そのポケモンはマオに向き直るとにっこりと笑いかけた。その優しげな表情は、姿が変わってもかつてアマカジだったことを教えてくれる。

 

「アマカジ、あなた進化したのね……!」

『アマイ!』

『アママイコ フルーツポケモン。とびはねるように うごきまわり あたまの ヘタを ふりまわす。 ぶつけられると かなり いたい ロトー! マオ! アママイコの得意な攻撃はおうふくビンタロト!』

 

 ロトムが大声で叫んだ。マオとアママイコは強く頷く。コジロウとニャースはどこか心に寒気を感じた。

 

「なあニャース……これって」

『なーんかいつものパターンに入ってる気がするニャ……』

「何言ってんのよあんたたち! 進化したからって何よ! そいつの攻撃をカウンターすればこっちの勝ちなんだから。ほらソーナンス、カウンターよカウンター!」

『ソーナンスッ!』

 

 ソーナンスは正面に防御を固めた。それでもマオは構わず叫んだ。

 

「アママイコ、おうふくビンタ!」

『アマイッ!』

 

 アマカジの時とは比べ物にならないスピードでアママイコがソーナンスに迫る。そして、

 

「今よ! カウンター!」

「そのまま回り込んでアママイコっ!」

『ナンスッ!?』

 

 ソーナンスに衝突するギリギリのところでアママイコはぐるりと回転しながら脇をくぐり抜けた。そこにあるのはカウンターを固めていないソーナンスの背後である。

 

「見えない後ろはカウンターできないでしょ!思いっきりやっちゃって!」

『アッッッマイ!』

 

 思いっきり振りかぶったおうふくビンタがソーナンスの後頭部をぶっ叩いた。そのまま吹き飛ばされ、ソーナンスは目を回しながら地面に崩れ落ちた。

 

 アママイコとマオの勝利だった。ムサシが呆然とした表情でKOされたソーナンスを見つめる。

 

「ちょ、ちょっとウソでしょソーナンス!」

「約束は守ってもらうから!」

「チッ……こうなったら! 行きなさいミミッキュ!」

 

 ムサシはミミッキュを繰り出した。あくまでミツを譲る気は全くない。それを見てサトシとリーリエが声を荒げた。

 

「おい勝負はついただろ! 卑怯だぞ!」

「そうです! 潔く負けを認めてください!」

「誰も1対1だなんて言ってませーん。ほらミミッキュ、行くわよ!」

『ク……クカッ!』

『ピカピ!?』

 

 果たしてミミッキュは網の中にいるピカチュウの方を見ていた。

 

「ちょっとミミッキュ! だからそっちじゃないって言ってるでしょうが!」

 

 ムサシが怒ったその瞬間だった。空に閃光が瞬き、みんなを宙吊りにしていた網が切断された。

 

「お、落ちるー!」

「きゃあああ!!」

「アシマリ! みんなをバルーンで包んで!」

『アウッ!』

 

 ボヨンボヨンという音と共にバルーンに包まれたみんながゆっくりと地面に落下する。無事だったみんなはそれぞれ安堵の声を出した。

 

「ちょっとコジロウ! ニャース! なに逃してんのよー!」

「俺はなにもしてないぞ!」

『ニャーもだニャ』

「ってことは……」

 

 ロケット団の3人の視線がぎこちなく一点に集中した。そこにはピンク色の巨大な熊が無表情に3人を見下ろしていた……。

 

「「「なんなのこの感じー!?」」」

 

 あっという間にロケット団たちを回収し小脇に抱えると、キテルグマは一瞬にして走り去っていった。ただみんなはそれをポカンとした顔で見送っていた。

 

 

 

 

「ハイ! やまぶきのミツを取り入れた本当のアローラシチュー! 完成しましたー!」

『アマーイ!』

 

 テーブルを囲んだみんなから歓声があがる。その日の夕方、アイナ食堂。改めてアローラシチューの試食会が行われていた。

 

 みんなが同時に一口目を口に運ぶ。マオとアママイコはごくりと唾を飲んだ。そして、

 

「「「「「おいしー!!!!!」」」」」

 

みんなは一斉にそう言った。美味しさでみんな顔がほころんでいる。それを見てマオは目頭が熱くなった。

 

「ホント!? よかったぁ……!」

『アマイ! アマーイッ!』

『そんなに美味しいならボクも食べてみたいロト!』

「故障しても知らないよ……? マオすごいよこのシチュー! 無限に食べられちゃうかも! 絶対ハウオリグルメ5つ星間違いないって!」

「ちょっとミヅキ! ボクのセリフ取らないでよ! ボクだってそう思ってるからね! マオ!」

 

 謎の張り合いをしているミヅキとマーマネに続いてみんなも便乗する。

 

「あ! オレもオレも!」

「わたくしもです!」

「看板商品間違いなし!」

「みんな……ほんとにありがとう! ってカキ、どうしたの? お腹痛いの!?」

 

 マオは焦った。突然顔を伏せてカキが震え出したのである。尋常ではなかった。

 

「俺は……」

「う、うん……」

「俺は、俺は今! とてつもなく感動しているッッッッ!! このコク! 深み! まろやかさ! 全てがアローラの大自然、そして歴史を感じさせる! このシチューなら俺は毎日食べたいくらいだッッッッ!!」

 

 カキは涙を流しながら興奮していた。そのテンションにみんなドン引きしている。

 

「え、ええ……って泣くほど!? 喜びすぎだよカキ! しかも毎日って! そんな大げさだってば! それに時期外れだから毎日は作れないしさ……」

 

 褒められすぎてマオの顔は赤かった。それでも満更ではないようで少し顔がにやけている。そしてスイレンがピンと来たように言う。

 

「そっか、出せないんだ。メニューに。やまぶきのミツが取れる時期じゃないと……」

「えー! それじゃあ不採用ってことー!? ボクもっと食べたいよー!」

 

 マーマネが絶望的な顔で言うと、マオはクスリと笑った。

 

「うんうん。スイレンの言う通りなんだけど……だからすぐに新メニューとはいかないけど、春の期間限定メニューにすることにしましたー!」

「じゃあ来年の春は毎日食べ放題ってことー!?」

「その通り!」

「ホントか!? やったなマーマネ!」

「うん! サトシも来年はたくさん食べに来ようね!」

「ああ!」

「俺も行くぞオオオオ!!!」

「「う、うん……」」

 

 サトシとマーマネはややドン引きしながらカキに答えていた。それを笑いながら見つつ、ミヅキは今日のマオの戦いを思い出していた。

 

「それにしてもさ、今日の2人、ほんとにかっこよかったよね!」

「うん! マオちゃん、すごくかっこよかった! アママイコも!」

「おふたりの絆、わたくし感動してしまいました……!」

『まさかこうそくスピンで地面を掘ってどろかけにするとは思わなかったロト!』

「あはは……あれはただ夢中だっただけっていうか。みんなと一緒に見つけたものを絶対に奪われたくないって思っただけで……だからあたしだけの力じゃなくて、アママイコやみんながすごいってことで……」

 

 マオはすこしモゴモゴしながらそんなふうに言った。戦ってる時は考えていなかったけれど、終わった後に考えるとずいぶん恥ずかしいことを言っていたような気がする。

 

「ね、ミヅキ、リーリエ。ほんとずるいよね。マオちゃんって」

「そういうのを恥ずかしがりながら普通に言えちゃうとこね」

「そこもマオらしさというか、凄いところですよね」

「うん、マオちゃんって感じ。すごく」

 

 3人は顔を見合わせてくすりと笑った。マオは自分だけが何かに気づいていないような感じがして焦りはじめる。 

 

「えー!? どういうこと!?」

「「「ううん。なーんでも!」」」

「だからわかんないってばー!」

 

 マオは答えがわからずうなだれて、アママイコはそれを見て嬉しそうに笑った。今日もアイナ食堂は賑やかである。

 

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