原作女の子主人公(ミヅキ)がアニポケ世界のスクールに入学して自分の夢を探す話 作:きなかぼちゃん
カプ・コケコはメレメレ島の守り神だ。
それはハウオリ観光ガイドにも写真付きで紹介されている。
カプ・コケコは伝説のポケモンでありながら人に近いポケモンとして知られている。神として崇められているにもかかわらず、頻繁に人の前に姿を現すというのは、他の地方では見られない珍しいことだった。
かつてサトシとピカチュウはハウオリに旅行に来た時、カプ・コケコと出会った。そしてZリングを渡され、一対一の勝負をした。
そして今、二度目の勝負がスクールのグラウンドで行われようとしていた。
朝、カプ・コケコが唐突に現れたのである。
「カプ・コケコ! オレとバトルしてくれ!」
『ピカピィ!』
サトシとピカチュウの闘志を燃やした瞳、上空に浮かぶカプ・コケコの無機質な視線が交錯した。目と目が合ったら勝負。
『コケエエエエエッ!』
怪鳥のごとき雄叫びと共に電撃が放たれた。エレキフィールドが顕現する。
※
ピカチュウとカプ・コケコの戦いはカプ・コケコの勝利で終わった。でもそれはどこか、サトシとピカチュウが試されているような、そんな戦いだった。
※
職員室にククイ博士が戻ると、中ではさっきまで野次馬をしていた他のクラスの先生たちが、カプ・コケコとサトシのバトルについて興奮した様子で話していた。それを見たククイ博士の口元は自然とにやける。
自分のクラス、しかも家に下宿している生徒がカプ・コケコに認められてバトルしたのだ。気分が良くならないわけがない。
(サトシ……やっぱりお前は人もポケモンも惹きつける何かを持っているんだろうな)
ククイ博士が自分の机に戻ろうとすると、突然目の前に眼鏡をかけた一人の女教師が現れる。別のクラスを受け持つエリコ先生だ。その表情は明らかに怒っていてククイ博士は思わずのけぞった。
「ククイ先生! 今日もクラスの授業内容を勝手に変更したんですか!?」
「ハハハ……エリコ先生。面目ない……カプ・コケコが来たらついそうしたくなってしまって」
朝に唐突にカプ・コケコが現れたことで、今日の午前中の授業は全てアローラの伝説に関する歴史の講義になってしまったのである。
「つい、ではなく! 私が言ってるのは今回だけのことではありません! 今まで何度も同じ事があったから言ってるんです!」
「ぐっ……」
痛いところを突かれて何も言えなくなる。実際のところ、ククイ博士はその場の雰囲気とノリでその日予定していた授業を変更してしまうことが頻繁にあった。それも生徒のことを考えてのことではあるのだが、あまりにフットワークが軽すぎて今のように他の先生から白い目で見られることもある。
ククイ博士がどう釈明しようか迷っていると、ちょうど職員室にいたオーキド校長が助け船を出した。
「まあまあエリコ先生。ククイ博士には彼なりの指導方針があるんじゃ。君がいつもクラスの生徒のことを考えているようにのう」
「オーキド校長まで……私はククイ先生の指導法を批判しているわけではありません。クラスごとにカリキュラムに大きな差があるのは問題だと感じているだけです」
エリコは不服そうに小さくため息をついた。
エリコはサトシたちとは別のクラスの担任だ。ポケモンスクールは多くの子供が通う場所で、少人数制のクラスがいくつもある。担任によって指導方針も様々だけれど、もともと用意されているカリキュラムから大きく逸脱するのは良くないことだとエリコは常に思っていた。
それは見える格差に繋がるからだ。
ククイ博士のクラスは優秀である。なにしろZリングを持っている生徒が2人もいる。ポケモンスクールに通う子が大試練を突破するのはまれであり、1年に1人いるかどうかというレベルの話だ。
そういう、偶然エリートが集ってしまったクラスは憧れや嫉妬を呼び込みやすい。
あのクラスは特別なのではないか? 自分たちは下に見られているのでは?
そんな気持ちになる生徒が生まれないともかぎらない。
「何事もなければいいのだけれど」
エリコはほんの少しの不安が混ざった表情で呟いた。
※
「ふんふふっふふんっふっふふーん♪」
「ミヅキ、今日はずいぶん機嫌が良さそうですね」
「だって今日は週一で食べるアローラパンケーキの日だもん!!」
「そういえばそうでしたね。毎週金曜日はものすごい早さで帰りますもんね。ミヅキは」
「てへへ……」
ミヅキは言ってから恥ずかしくなって赤面した。
昼休み。ミヅキとリーリエ、ヤトウモリとシロンはキャンパス内の広場でお昼ご飯を食べていた。フワンテは芝生に置いたニット帽の上で丸まって寝ている。
「だからお弁当も少なめなのですね」
「……バレてた?」
「はい、それはもう」
いつもより控えめな弁当箱を見てリーリエはくすりと笑った。わたしってもしかして分かりやすいのかな。なんてミヅキは思う。
「ねえ、あなたがた。ククイ先生のクラスの子ですわね?」
突然2人の背後から剣呑な声がかけられた。立っていたのは目立つ黄色のサマードレスを着てパラソルを差した、いかにも金持ちそうな金髪縦ロールお嬢様だ。傍らにはパートナーらしきエレキッドと2人の取り巻きの女の子を侍らせている。
「えっ? そうだけど……」
「なにぼさっとしてますの。早くお立ちなさい」
「そうよそうよ! レイン様を待たせるなんてシツレイなんだから!」
「なんだからっ」
取り巻きと一緒に圧をかけてきた。こいつは人の話を聞かなそうだ。
「だってご飯食べてるし……」
「あら! トレーナーは目と目があったらバトル。そう教わってませんの? これだから田舎者は嫌いなのです」
「あ! そのルール久しぶりに聞いた! こっち来てから忘れてたけど」
ミヅキは両手を叩いた。カントーでは有名なルールだ。ミヅキは転校前のカントーのスクールでそれを聞いたことがある。
「あの……それは旅しているトレーナー同士の取り決めであって、ポケモンスクールにそんな決まりはありませんよ?」
『コォン』
「たしかにそんなルールあったらクラスで毎日何度もバトルしなきゃいけないよねえ」
リーリエがもっともなことを言うと、ミヅキがなんともいえない顔で口を尖らせた。そしてお嬢様に目を向ける。
「そもそもなんでバトルしたいの?」
「うふふ、ククイ先生のクラスはみなさまバトルが強いと聞きましたわ! それもカプ・コケコが勝負しに来るくらいに。だからそれがどれほどのものか、私が確かめて差し上げようということです!」
「「ええ?」」
「レイン様のエレキッドはすっごく強いんだから! あんたたちのポケモンなんて『いちげきひっさつ!』よ!」
「そうよっ」
ミヅキとリーリエは首をかしげた。確かにカキとサトシはZリングもZクリスタルも持ってるし強いと思う。でもそれは個人の力であってクラスみんなバトルが強いわけじゃない。
「いやまあカキとサトシは強いけどさ。わたしは別にそこまでだよ?」
「わたくしもほとんどバトルはしたことありませんし……強いトレーナーと戦いたいならカキやサトシに挑まれた方がいいのではないでしょうか……?」
「あらあら見苦しいこと。謙遜は美徳ではありませんわよ?」
「ケンソンじゃないんだけどなあ……」
『シュウゥ!』
ヤトウモリが好戦的な声をあげる。バトルの匂いを嗅ぎつけたようだ。少女の口角が釣り上がる。
「あなたのパートナーはやる気のようですわね?」
「ええ~……この流れでバトルするのなんかヤダな……」
なんか勝っても負けても面倒なことになりそうな気がする。
「逃げるのかしら? オホホホ! 私のエレキッドを前に恐れをなしたわけですわね! ククイ博士のクラスも噂ほど大したことありませんのね!」
「そういうわけじゃないけど……しょうがないなあ。それじゃあやる?」
自分があれこれ言われるのは別にいいが、クラスのみんながバカにされるのはどうにも気分が悪い。
「ミヅキ、大丈夫ですか?」
『コォン…』
リーリエとシロンが心配そうな顔で見つめていた。ミヅキは薄く笑う。
「ま、たぶん大丈夫だよ。リーリエ、審判お願いできる?」
「ミヅキがそう言うなら……わかりました! 精一杯務めさせていただきます!」
「あなたもそれでいい? えーっと……」
「レインです。胸に刻みつけておきなさい。貴方が敗北する者の名ですわよ」
「レインちゃんっていうんだ。わたしはミヅキ。よろしくね」
ミヅキは笑って握手しようと手を差し出した。レインはそれに答えず背を向ける。
「ふ、これからバトルする相手に対して握手をするなんて、随分と余裕のある方ですこと」
「そういうつもりじゃないんだけどなあ……」
なんだかあまり相性がよくないらしい。ミヅキはため息をついた。そして傍らでやる気になってるヤトウモリに声をかけた。
「ごめん! ヤトウモリは今日は休憩~」
『シュウゥ!?』
「あんたが闘いたいのはわかるよ。でもたまにはフワンテにもバトルさせてあげて? ね、お願い」
ミヅキが手を合わせるとヤトウモリはすねて丸まってしまった。しぶしぶ譲ってやるってことだろうとミヅキはやれやれと肩をすくめる。
「じゃあいくよ~! フワンテ、お、き、ろ!」
『ふふふふふんわ』
ミヅキは寝ているフワンテの足元からニット帽を引き摺り出すとそのまま被った。フワンテもその勢いのまま叩き起こされて、ごしごしと目を擦りながらくるくる回る。
「おや、お使いになるのはそちらのポケモンですか」
「うん。ダメかな?」
「どなたでもよろしくてよ? どのようなポケモンが相手であろうと、勝利は常に我が手にあるのです! 行きますわよ、エレキッド」
『ビリビリィ!』
「「さすがレイン様、気高くお美しいですわ~!」」
レインとエレキッドは自信満々な目つきでミヅキとフワンテに言い放った。二人の間でそれを見たリーリエはほんの少し心配になる。リーリエはフワンテのバトルを見たことがないから、ミヅキが勝つという確証が得られなかった(ミヅキとスイレンは捕まえた翌日にフワンテの強さをアピっていたけれど、それだけである)。
(ミヅキ……大丈夫でしょうか。分かっているとは思いますが、ひこうタイプのフワンテはでんきタイプのエレキッドと相性が悪いはずです)
いいや、きっとミヅキなりに考えがあるのだ。自分はミヅキとフワンテの勝利をただ信じよう。腕に抱いているシロンと顔を見合わせて、リーリエは気持ちを切り替えた。
「ただいまよりフワンテ・エレキッドによる1対1の勝負をとり行ないます! お二人とも、よろしいですね」
「うん!」
「いつでもよろしくてよ」
リーリエは大きく息を吸った。
「では、バトル開始!」
「フワンテ、かぜおこし!」
「エレキッド、かみなりパンチです」
指示が交錯する。上空に舞い上がったフワンテがぐるぐると回り強風を吹かせた。そしてエレキッドは風の中を突っ切るようにして一直線にフワンテに向かって槍のように跳躍する。
『ふわ!?』
『ビリィ!』
そして動揺したフワンテをそのままかみなりパンチで殴りつけた。
「っフワンテ! 大丈夫!?」
『ふわわんわ』
ミヅキはちょっぴり安心してため息をついた。こいつわりと大丈夫そうだな。フワンテはダメージはあるものの吹っ飛ばされた先で気楽そうにふよふよ浮かんでいる。
(それにしても、すごい。かぜおこしの強風の中で正確にパンチが当てられるなんて。このお嬢さまとエレキッド、普通に強いかも)
お嬢様とエレキッドを見てミヅキは素直に舌を巻いた。色物だと思ってたけど気を引き締めないとまずい。
「エレキッド、そのまま追撃しなさい!」
「させない! シャドーボールで迎え撃って!」
かみなりパンチの二撃目がフワンテに迫る。間合いに入るすんでのところでシャドーボールが炸裂した。
『ビリリッ……』
エレキッドは吹き飛ばされるが、そのまま華麗に受け身を取って地面に着地した。レインは面白くなさそうに鼻を鳴らす。
「ふうん、やはりそこそこやるみたいですわね」
「そ、そう? それほどでもっ」
『ふんわわ』
レインはミヅキとフワンテのそんな態度にイラッとした。こういう「わたしたち強くないですよ」なんて態度をしながら実は懐に刃を隠し持っているやつは本当に気に入らない。優等生のつもりか?
「こんどはこっちから! フワンテ! シャドーボール!」
「避けなさい。そしてかみなりパンチ」
シャドーボールが放たれた。軌道がわかりきっているようにエレキッドは走りながらその間を縫って腕に雷を纏わせフワンテを殴りつける。
『ビリッ!』
『ふんわっ!?』
クリーンヒット、フワンテの胴体がゴム鞠を殴りつけたように吹き飛ぶ。これにはさすがにフワンテも顔をしかめた。
「オホホホ! そんな工夫のない直線的な攻撃、私のエレキッドには通用しませんわよ」
「そうみたいだね……」
ミヅキはレインの煽りを流しながらフワンテを見やった。ちょっぴりムカついたように黒い瞳をつり上げている。
フワンテはゲットしてからというもの、いつもミヅキのニット帽の上で寝てばかりだった。ゲットしたときのポテンシャルの高さからしたら強いポケモンのはずなのだが、ミヅキはいまだにそれを実感できていなかったのである。
だからこそ、タイプ相性が不利だろうとバトルさせてみようと思ったのだ。
(いつもぼうっとしてるけど、ちょっとやる気になったかしら。さあ、あんたの強さを見せて!)
「もう一度かぜおこし!」
『ふーわー!』
「何度やっても同じ事!」
レインはそれをあざ笑った。ワンパターン戦術ではさっきと同じようにやられるだけだ。ミヅキはニヤリと笑った。
「そうかな! フワンテ、風に乗って飛び上がって!」
『ふわわわっ』
フワンテは空にふわりと飛び上がりエレキッドと距離を取る。しかしお嬢様はくすりとほくそ笑んだ。
「飛び上がったくらいでわたくしのエレキッドの拳から逃れられると思って!? エレキッド、ジャンプしてかみなりパンチ!」
『ビリィッ!』
エレキッドは跳躍し一直線にフワンテに迫る、その瞬間、風が不規則に歪んだ。
「フワンテ! そのまま風に乗って!」
「ッ!?」
『ビリ!?』
レインとエレキッドは目を見開いた。フワンテは自分で巻き起こした風に乗り不規則に動き始めた。
風に乗った風船のようにふらふらと動くそれはエレキッドに狙いを絞らせない。
「そのまま風に流されながら連続でシャドーボール!」
「ッゴリ押しですわね!? エレキッド! ほうでんで全て打ち落としなさい!」
バチィ! と、エレキッドを中心に巨大な電撃が迸りフワンテが放った魔弾を全て破壊する。フィールドが爆煙に包まれる中でミヅキは驚愕した。物理わざのかみなりパンチも相当な威力だったのに。
(特殊わざまでこの威力……よく育てられてる……! でも負けないよ!)
ここまでは想定内だ。ミヅキの策はこの先にある。
やがて煙が晴れると、そこにはエレキッドだけがいた。レインとエレキッドは慌てて周囲を見回したが、フワンテはどこにも見当たらない。空にも浮かんでいない。
「っ……! どこですの!?」
フワンテの姿はいずこかにかき消えていた。
ミヅキは燦々と輝く太陽を見た。眩しくて目がくらむ。それでも目を凝らすとそこに一点の丸い影があった。やがて音も無くエレキッドの背後に影が降り立つ。
それにレインも気づいた。エレキッドは、気づかなかった。
「後ろですわエレキッドっ! 振り向きざまにかみなりパンチ!」
「フワンテおどろかすッ!」
フワンテは反撃しなかった。ただパンチを放つエレキッドをその無機質な瞳で見据えていた。ただそれだけなのに……。
「エレキッド! 何をしているの! そのまま攻撃なさい!!」
『ビ…ビリ……』
エレキッドは腕を振りかぶったままの体勢で顔を青くしブルブルと震えていた。そこでレインはようやくエレキッドが状態異常になっていることに気づいた。
「まさか、ひるみ状態……!? でもどうやって!」
「おどろかすは一定の確率で相手をひるませるワザ。その感じだと効いてるね! フワンテ、そのままゼロ距離でシャドーボール!」
「エレキッド迎え撃って! 動きなさいッ!!」
フワンテが一際大きい全力のシャドーボールを形成した。続いてレインの悲鳴のような指示が聞こえた。
『ふわーっ!』
『ビリィッ……!?』
こうして勝敗は決した。地面に倒れて目を回しているエレキッドを確認したリーリエはおずおずと宣言する。
「え、えっと……エレキッド、戦闘不能! フワンテの勝ち!」
「やったー! フワンテすごい!」
『ふわわんわ?』
ミヅキがフワンテに抱きつくと、フワンテはよくわからなさそうな声を上げた。とくに勝った喜びとかはないようである。
「ミヅキ。やりましたね!」
『コォン!』
「いやー、あそこでおどろかすが効くかは完全に賭けだったから……あれが効いてなかったらわたしの負けだったよ」
てへへとミヅキは謙遜するように笑った。リーリエは思った。それは本当に賭けだったのか? そもそも太陽の光を目くらましにしてエレキッドとトレーナーに気づかれずに隙を突くこと自体、偶然できることでもない。いったいどこからどこまでがミヅキの作戦のうちだったのだろう?
もしそれを意識せずにやっているのだとしたら……。
リーリエの心はざわついた。脳裏に天才という2文字が浮かぶ。
「あ、そうだった。レインちゃんに挨拶しなきゃ」
なんであれバトルが終わったらお互い健闘を称え合うのが筋だ。
ミヅキが見ると、レインは負けたままその場からぴくりとも動いていなかった。そしてただ下を向いて俯いていた。尋常じゃない様子にミヅキは思わず口を開く。
「……どうしたの?」
「う」
「う?」
「うわあああああああん!! ひっぐ! ひぐっ!」
レインは泣き出した。
ギャン泣きだった。ボロ泣きだった。
ミヅキはドン引きした。そんなに泣くなよ……。
「こんなの嘘! 夢! 夢ですわあああああ! うわああああんっ! わだぐじがまげるなんて! あっではならないこどですわああああ」
「「れ、レイン様ー! 待ってくださぁーい!」」
レインは泣きながらエレキッドをボールに収めると、踵を返して全速力で走り去っていった。取り巻きの女の子たちが慌ててその後を追う。後にはぽかんとした顔のミヅキとリーリエだけが残った。
「ぼうふうみたいに去っていったね……」
「そうですね……」
『コン』
『シュウウ』
声が1つ足りない。あれ?
「……あれ、そういえばフワンテどこ?」
「えっ……? さっきまでいましたよね……あ」
リーリエの間の抜けた声に釣られてミヅキは同じ方向を見た。するといつの間にか二度寝しながら風に吹かれてふよふよと遠くに飛び始めているフワンテが見えた。このままだとスクールの外まで飛んでいって迷子になってしまう。
「あああああ!! あいつ寝てる!! フワンテまってえええええ起きろおおおおおお!!」
「ミヅキ! モンスターボールです! フワンテをボールに戻してください!」
「はっ! そうだった。フワンテ戻れ!」
ギュンと赤い光がフワンテに向かった。でも遠すぎて届かなかった。がっくり。ミヅキは走る覚悟を決めた。明日は多分筋肉痛。
「あーんもう! フワンテまってよー!」
「ミヅキー! もうお昼休みが終わってしまいますよー!?」
「リーリエごめえええん!! ククイ博士に伝えといてえええええ!!」
『シュウウ……』
ミヅキはべそかきながらふわふわと飛んでいくフワンテを追いかけ始めた。ヤトウモリもやれやれと目を細めると、ミヅキの後を追いかけていく。
※
「ということで、ぜぇ、授業、すっぽかしました……ごめんなさい」
「ハハハ……ま、そういうことならしょうがないな。でも次からは昼休みにバトルする時は授業に遅れないようにしてくれよな、ミヅキ!」
リーリエのフォローもあり、ククイ博士はミヅキの遅刻を大目に見ることにした。ああ、こういうのの積み重ねでエリコ先生に怒られるのかもなあ。と少し心の中でため息をつく。
肩で息をして疲れ切っているミヅキの頭の上には何事もなかったかのようにフワンテが丸まって寝ていた。スクールの外まで飛んでいって海の方まで行きそうだったのを何とかボールで戻したのである。
その日、ミヅキは全体的にうとうとしながら午後の授業を聞いた。ノアさんの所で食べるアローラパンケーキの味を想像するだけで授業が終わろうとしていた。
いつも上の空で授業を聞いてククイ博士に怒られるのはサトシの役目なのだが、今日に限ってはミヅキにその役目が移っていた。
※
そして放課後。ミヅキは当たり前のようにみんなに囲まれていた。
「ミヅキ、大丈夫でしたか?」
「うん、なんとか海の向こう側まで行くのは阻止したから……アハハ。海まで行っちゃったらスイレンに助けて貰わなきゃだったからその前に捕まえられて良かったよ」
「それにしたって寝たまま飛んでっちゃうなんて、モクローみたいだよね」
「捕まえた時からそうだった、フワンテ。ずっと寝てるよね……」
机に置いたニットの上で寝ているフワンテの頬をぷにぷにとマオがつついた。
『ホロ?』
モクローが解せぬというふうに首を90度横に傾けた。それを見たサトシは呆れるようにしてオーバーに手を広げた。
「モクローはいつも寝ぼけたままアママイコに蹴られてるもんなあ」
「名付けてひっさつのモクシュート! なんちゃって」
「アハハ、なにそれマーマネ。Zワザ?」
マーマネが冗談めかしていうと、そういえば、とカキが声をあげた。
「ミヅキ、いったい誰にバトルを挑まれたんだ?」
「えーっと……なんか高そうな服着た金ぴかお嬢様……?」
「「「「あ、それ知ってる」」」」
ミヅキが言うと途端に声がハモった。カキとマーマネ、マオとスイレンだ。4人はサトシとミヅキ、リーリエの3人より前からスクールにいるから知っているのかもしれない。もしかして割と有名人だったり?
「え、みんな知ってるの?」
ミヅキが意外そうな声をあげると答えたのはスイレンだ。
「うん。他のクラスで凄くいばってるって。お金持ちの家の子。確か……レイン様って呼ばれてた」
「そうそう! レインちゃん。でもそんな評判悪い子だったんだ」
「そうそう。なんかいつも取り巻きの子たちと一緒に行動してて、見かけたときも道を空けなさーい! とか言っててあたしも怖かったな~」
「俺も何もしてないのに睨みつけられたことあるな」
「お嬢様なのに不良のボスみたいだね……」
確かにそんな感じの高飛車なお嬢様だったな、とミヅキは振り返った。でもバトルをした感じだとそこまで悪い子でもないような気がする。
「でもレインちゃんのエレキッド、かなり育てられてたよ。それに、お互いに信頼し合ってた、気がする。だからわたしはあまり悪い子だとは思わないかな……」
「え~! ミヅキずるい! オレもその子とバトルしたいー!」
「ずるいっても通り魔みたいにバトル挑まれただけなんだけどね……なんか強い人と戦いたいみたいだからサトシのところにもそのうち来るんじゃないかな」
「ホントか!? 待ちきれないぜ! な、みんな!」
『ピカピィ!』『ワンッ!』『ホロロロ?』
バトルと聞くと闘いたくなってしまう戦闘民族サトシのワクワクした表情を見ながら、スイレンはなんだか面白くないような気がしてむくれた。なんだろうかこの気持ち。その正体にスイレンはまだ気づかない。
「サトシ、覚えてる? この間の約束。わたしとアシマリとバトルの練習するって」
「え? あ、うん。もちろん覚えてるぜ!」
「今日授業終わったらやろ」
「お、おう!」
スイレンはにっこりと笑った。サトシは特に断るつもりもなかったけれど、なぜかその笑顔には有無を言わさない圧力を感じていた。
(今さ……なんかスイレンの圧強くなかった……?)
(わかる。なんかホウちゃんとスイちゃんを怒るときに似てた気がする……!)
(サトシ……何かしたのでしょうか?)
(いや〜…なんだろねアレは……)
スイレンの様子に女子3人は一瞬で固まりひそひそ話を始める。
「あいつらなに小声で話してるんだ?」
「さあ……?」
カキとマーマネは2人で怪訝そうな顔をしながらみんなの事を見ていた。
するとバタバタと教室の入り口で足音が聞こえた。
「ミヅキさん!! おりますわね!!」
「いるわね!!」
「いるわねっ!!」
噂をすれば取り巻き2人と一緒に何事もなかったかのようにレインが現れた。その勢いにクラスのみんなはぽかんとしている。ミヅキは反応に困った。ついさっきまであんなにボロ泣きしてたのに随分元気だな。
「えーっと……?」
ミヅキが答えあぐねていると、カツカツとやたらデカイ靴音と一緒にレインはミヅキの目の前まで歩いてくる。なんだかものすごい剣幕だ。
「よいですか!? 今回のバトルはた・ま・た・ま! あなたが勝利しましたが、次は絶対にギッタギタのボッコボコにしばいてやりますわ!! 覚えてなさい!!」
「泣いてたのに復活はや」
「あー!! あー!! 聞こえませんわ!! そんなことは覚えておりません!!」
「ええ……」
どうやら泣いて逃げたことは無かったことにしたいらしい。なんというかお嬢様口調が崩壊している気がしたけれどミヅキは突っ込まないことにした。すると一番最初にフリーズ状態から解除されたサトシがワクワクした表情でレインに詰め寄る。
「オレ、サトシ! よろしくな。なあ、よかったらオレともバトルしようぜ!!」
「サトシ……あら? あなたがあのカプ・コケコとバトルしたとかいうトレーナーでして?」
「あ、うん! まあ負けちゃったんだけどな……っ痛!?」
ヘヘヘと恥ずかしそうに言うサトシの顔がいきなり歪んだ。シャツごしにサトシのお腹をスイレンがつまんでいた。その表情はにこにこ笑っている。が、何故か怖い。
「サートシー? 約束」
「い、今からじゃないって! ちゃんと覚えてるからいだだだだ」
「……いきなり痴話喧嘩するのはやめてくださいます?」
レインはジト目でサトシとスイレンのやり取りを見ていた。ちわ、の意味がわからないサトシは首を傾げる。
「ちわ……?」
「
時が止まった。
「えっ?」
みんなはスイレンの方を見た。
そしてスイレンの顔がゆでだこみたいに真っ赤になった。
「ちちっちちがうそういうのじゃなくて!! ちがくて!! わたしはただサトシにバトルのこと教えてもらいたかっただけでそんなことなくて……とにかく誤解!! ちっがーうそんな目で見ないで!! ちがうからっ!!」
その後にははちゃめちゃに言い訳するスイレンと、それを見てニヤニヤしながらひそひそ話をするミヅキとマオとリーリエがいたという。
そしてやぶ蛇に突っ込んでしまった気がしたレインはばつが悪くなってそのまま帰っていった。ミヅキはノアのお店に爆速で向かい、週一のパンケーキをいつも通り楽しんだ。そんないつも通りの1日である。
レイン(オリキャラ)
金髪縦ロールお嬢様。着てる服も金とか黄色とか。
いつも周りに手下がいる。実家が金持ちの土建屋らしい。