原作女の子主人公(ミヅキ)がアニポケ世界のスクールに入学して自分の夢を探す話 作:きなかぼちゃん
ミヅキがイメチェンして数日経った。
今日はスクールが休みの日。
ミヅキはリーリエから貰った新しい服を着て街中を歩いていた。服の力は不思議なもので、アローラっぽい格好をするとなんとなく街にも出やすい気分になるのだった。ちょうど天気も晴れているので気持ちがいい。
ということで今日はミヅキは1人でハウオリシティを散策している。引っ越してからそこそこ経つのに、こうやって1人で街をゆっくりぶらぶらするのは初めてかもしれない。今まではママの車に乗って一緒に買い出しに行くくらいだった。
ここはハウオリシティのショッピングエリアにある果物市場。大通りにずらりと並んだ露店では新鮮なフルーツだったり、きのみだったりが沢山売っている。タマムシシティではそうそうこんな光景は見ないので、アローラでは日常でもミヅキにとってはお祭りのような感覚だった。
「あんた、最近ここに引っ越してきたのかい?」
きょろきょろしていると、ミヅキは突然声をかけられた。声の方向を見ると、人のよさそうな恰幅の良いおばちゃんがニコニコしながらこちらを見ていた。
「えっ、どうしてわかるんですか?」
「そりゃあ初めて見るからね。それにしては服はアローラ風だ。それなら引っ越してきたばかりなのかなと思ったのさ」
その通りなので驚くミヅキにおばちゃんはそう言う。そして手際よく皿にいくつかモモンの実をを載せると、ミヅキに差し出した。
「毎日ここで色んな人とポケモンを見ているからねえ。見慣れない娘が歩いていたらわかるものさ。さあどうぞ、今日は暑いから疲れてるだろう?」
「え、で、でもお金払ってないです!」
「ハハ、そのくらい気になさんな。引っ越してきたばかりの若者にアローラからの贈り物ってところさ」
「そ、それじゃあ……いただきます。ありがとうございます」
人の親切は素直に受け取るもの。自分の服を見ながらリーリエのことを思い出してミヅキは遠慮がちにそうすることにした。
「そういえばあんたはどこから引っ越してきたんだい?」
「タマムシシティです! こんな場所なかったからすごく新鮮で」
「タマムシシティ! カントーのかい? ずいぶん遠くから来たんだねえ」
カントーからアローラは飛行機で1日かかる距離だ。
「はい、最初は戸惑ったんですけど……もう何週間かいるので、ちょっとづつ慣れてきました」
「フフ、アローラはいいところだろう? ほらニャビちゃんにも」
ニャビちゃん。そう言っておばちゃんは屋台のそばで佇む小さな赤い子猫にオレンの実をあげていた。ミヅキはそのポケモンに見覚えがあった。
「あれ、このポケモンって……ニャビー?」
「知ってるのかい? いつも来てくれてねえ。本当可愛いんだよ。どこに住んでるのかはわかんないんだけどねえ」
ニャビー。ひねこポケモン。前にスクールで話題になったのでロトムが図鑑を見せてくれたことがあり、ミヅキはよく覚えている。ミヅキとニャビーの目が合う。眼光がやや鋭く、人懐っこいポケモンではなさそうだとひと目見て思った。
「あ! ニャビー見つけたぞ!」
おばちゃんがあげたオレンの実をくわえるニャビーを見ていると、突然横から聞き慣れたクラスメイトの声が聞こえた。
「あれ、サトシじゃん。ピカチュウもロトムも」
「え!? ミヅキも!」
『ミヅキ、アローラロト!』
『ピカピ!』
両手に大荷物を持ったサトシとピカチュウとロトムがそこにいた。3人とも揃ってニャビーのことをじっと見ている。するとニャビーはキッと瞳を鋭くして、サトシたちを一瞥するやいなや、オレンの実をくわえたままあっという間に広場から逃げていってしまった。
「おいニャビー! ちょっと待ってよー!」
サトシとピカチュウは「ちょっとニャビーに用があるんだ! ごめん! またなー!」とか何とかいいつつ、逃げたニャビーを追ってあっという間に走り去ってしまった。それをロトムが慌てて追いかける。
『さ、サトシー! 待つロトー!』
あっという間にみんながその場からいなくなって、露店にいるのはおばちゃんとミヅキだけになる。ドタバタすぎてミヅキはサトシたちに別れの挨拶を返すこともなく一瞬ポカンとしていた。
「……なんだったんだろ?」
「ハッハッハ、元気なことだねえ。あの子はずいぶんとニャビちゃんのことが気になるみたいだ」
そういえば、サトシは前にもスクールでニャビーをゲットするとか息巻いていたような気がする。もしかしてあのニャビーがそうだったのかな。なんか見た感じ一筋縄じゃいかなそうなポケモンだったけど、いつかゲットできるといいなあ。なんて思いながらミヅキは皿のモモンの実を食べた。カントーで食べるものとは違う新鮮な味わいが口の中に広がる。
「おいしい……これすっごくおいしいです!」
「そうだろう? それが自然の恵みさ。ポケモンと共に、自然の恵みに感謝し、みんなで分け合って生きる。それが、アローラの日常さね」
「ポケモンと一緒に……」
ミヅキが呟くと、数匹のツツケラたちが空から降りてきて、あっという間に屋台に並んだフルーツをいくつか持ち去っていった。おばちゃんはそれを止めることもなくニコニコした顔で「持っておいき」と答えていた。
そんなツツケラたちの姿を、ミヅキはモモンの実を貰って食べている自分自身と重ねた。
ポケモンと分け合って生きる。
言われてみると、あまりポケモンと一緒に生活することを意識したことがなかったなとミヅキは思う。家にはニャースがいるけれど、ママのポケモンだし。そしてミヅキ自身ポケモンスクールには通っているけれど、特にポケモンを捕まえたいと思うことがなかった。どちらかというとママに通わせられてるという思いの方が強い。
自分はそこまでポケモンに興味が無いんじゃないか? と内心ミヅキは思っていた。当たり前のようにポケモンに対して情熱があるクラスのみんなが羨ましかったりする。リーリエはポケモンに触れないのでミヅキと同じくポケモンは持っていないけれど、知識でいえばクラスで一番だ。
これはミヅキ自身意識していなかったが、都会ではインフラが発達しているので、意識しなければ日常的にポケモンと触れあうことはない。極端なことを言えばポケモンを所持していなくても何不自由なく暮らしていける。ミヅキ自身があまりポケモンに興味がないと思い込んでいるのはそのせいでもある。
「一緒に生きる、かぁ……」
モモンの実を食べ終わって、露天のおばちゃんにまた来ますとお礼を言ってから散策を再開すると、ミヅキはその言葉を頭の中で反芻していた。
するとメレメレ島の観光パンプレットを見ながらコイルと楽しそうに話している少女とすれ違った。観光客だろうか。多分彼女もとってもポケモンと仲がいいのだろう。
ふと周りを見渡す、そして意識して街の風景を見ると、すれ違う人が当たり前のようにポケモンを連れているだけでなくて、ポケモンと一緒に仕事をしている人も見つけられるようになった。カイリキーと一緒に荷物を運んだり、ケンタロスが馬車をやっていたり、お店の中でライチュウがパンケーキを運んでいたり。意識していなかっただけで、この街でもみんなポケモンと一緒に生きている。そして、ポケモンと一緒にいる人は総じてみんな楽しそうなのだ。
今までそんなこと気にしてなかったなあ。
その人達を見ると、ミヅキはなんとなくこの先アローラで自分がポケモンと一緒に暮らしているのを少し想像できるような気がした。
一体どんなポケモンを自分は捕まえるんだろう。サトシのモクローみたいなくさタイプかな。スイレンのアシマリみたいなみずタイプかな。それともニャビーみたいなほのおタイプかしら。そんなことを想像するとちょっぴり心がワクワクした。
…………
ショッピングエリアを抜けて公園をぶらぶらしていると、広場にある大きな樹の下で絵を描いているお姉さんが目に留まった。沢山のイーゼルに色とりどりの絵を飾りながら、静かに絵を描いている。
綺麗な絵だ。
ミヅキは1枚の絵に近づいてまじまじと観察する。惹かれたのは夜の雪山に星々が輝く絵だった。タマムシ育ちのミヅキは豪雪地域にあまり馴染みがない。
するとお姉さんが気づいたのか、筆を止めてミヅキに声をかけてきた。
「おぉ、アローラアローラ! わたしの絵に興味を持ってくれてありがとう」
「アローラ! はい、この絵、凄くきれいです!」
「おぉ、ありがとう。アローラ中の色んなところに行って絵を描いてるんだ。ここはラナキラマウンテンで、ここはヴェラ火山。ここはポニの大峡谷。そしてわたし、画家のマツリカです! この子はパートナーのアブリボン」
『りぼぼぼん♪』
アブリボンがマツリカの頭の上に止まって挨拶をする。
次々に絵の説明をしてくれるマツリカは顔と髪の毛をピンクの絵の具? でメイクしている、ものすごい個性的ファッションのお姉さんだった。近くで話すとほんのり油絵の具の香りがする。
わたしより少し年上なのかな。かなり背高いし。そうなんとなくミヅキは思った。見た目からしてアーティストって感じ。アローラってすごいなあ。服装が尖ってる人が多い。
「わたしミヅキっていいます! ポケモンスクールに通ってます」
「ワ、ポケモンスクール! ミヅキ、あなたにはパートナーはいないの?」
「その……まだ引っ越してきたばかりでポケモン捕まえてないんです……」
「おぉ……そうなんだ。どこからきたの?」
「カントーのタマムシシティです。だから今日初めて1人でハウオリに来て、雰囲気の違いにちょっと驚いちゃった」
「おぉ! わたしもカントーに行ったことがあるんだ。この絵を見て」
そう言うとマツリカは荷物の中から1枚の絵を取りだしてミヅキに見せた。オレンジ色の夕日が印象的な優しげな風景画だ。
「これはクチバシティの港から見た海の景色。このときは船に乗り遅れちゃって、大変だったな」
「あれ、これ、サトシとピカチュウ……?」
ミヅキはふと見知ったシルエットを見つけた。絵の中には桟橋に立って夕焼けで光る海を見つめている人とポケモンがいる。赤いキャップを被り、肩の上にピカチュウを乗せたポケモントレーナー。うーん、サトシに似ているような似てないような。
「その絵を描く前、そのトレーナーさんとバトルしたんだ。負けちゃったけど、楽しいバトルだったよ」
「マツリカさん、この絵の2人とすごい似てる友達がいるんです。今度ここに連れてきてもいいですか?」
「おぉ、そうなんだ! いいよ。最近はここでよく絵を描いてるから、いつでも来てね!」
色々な場所を旅してるって言ってたし、もしかしてサトシはマツリカさんとバトルしたことがあるのかもしれない。なんてミヅキは思った。
「ありがとうございます! あ、いつもここで絵を描いてるんですか?」
「うーん、色んなところで絵を描いてるかな。この子と一緒にアローラの色んな場所を巡ってるから……だから次どこ行くかとかは決まってないんだ。その時の気分で決めちゃう感じ」
マツリカは少しだけ考える素振りをしてからそう答えた。旅行する時、プランをまったく決めない人としっかり決めてから行く人がいるけれど、マツリカは前者なようだった。
「でもそのうち世界中を巡って絵を描いて、こんな綺麗な場所があるんだって絵を通してみんなに伝えていきたいなって思う。今はまだ修行中だけどね」
そこまで喋ってマツリカは気恥ずかしさでハッとして手を口に当てた。初対面なのに少し喋りすぎたかもしれない。自分よりちょっと年下の女の子が、絵に自分から興味を持ってくれたというのが嬉しかったのもある。
「おぉ、ごめん、ごめん! 初めてなのにこんな自分のこと喋っちゃった」
「ううん、すごいなって思いました! それがマツリカさんの夢なんですね」
ミヅキはにっこりしてそう答えた。人が夢中になっていることを聞くのは楽しい。すらすらと自分のやりたいことを楽しそうに話してくれるマツリカが、ミヅキには輝いて見えた。
「夢……なのかなあ。ね、アブリボン」
『りぼぼん?』
マツリカはきょとんとしているアブリボンを見た。夢と言われれば夢なのかもしれない。でもマツリカの中では今やりたいことを気ままにやって、なんとなくこれからやりたいことを口に出しただけだ。やりたいことをやっていればそれがいつか夢になるのだろうか?
「キミには夢はあるのかな? ミヅキ」
マツリカがなんとなくミヅキにそう聞くと、ミヅキはちょっとだけ恥ずかしそうに「まだ探し中です」と答えた。
嘘である。
夢=やりたいコト。というならミヅキはとくに探してもいないし見つけてもいない。
…………
「ふぅ……そろそろ今日の山も越えたかなあ」
お昼過ぎ、ハウオリシティ外れにあるアイナ食堂。ピークタイムも済んで客入りもまばらになったので、マオは洗い物をしながら忙しさで張り詰めた緊張の糸を緩めていた。すると入り口のドアからチリンチリンと音がする。
「こんにちはー!」
「はーいただいま! いらっしゃいまー……あれ! ミヅキじゃない!」
「マオ、アローラ! いきなりごめんね! 今忙しかったりする……?」
「ううん! ちょうどお客さんの入りも落ち着いてきたから。何か頼む?」
「ありがと! うん、じゃあパイルジュースがいいな! 今日ずっと歩いてたから喉渇いちゃって」
「いいよー! お安いご用!」
ミヅキは「ふう」と一息つきながら腕で頭の汗をぬぐった。くたびれ方からしてずいぶん外にいたらしい。マオはふふっと笑った。
「ご飯はいいの? お腹すいてるんじゃない?」
「あ、もしよかったらそれも……エヘヘ、ランチタイム過ぎてなかったら」
「オッケー! そんな遠慮しなくていいのに~日替わりランチとパイルジュースセット入りまーす!」
商売上手なマオはにししと笑う。傍らのアマカジもぴょんぴょんと飛びはねていた。
「マオ、お友達かい? っと……ミヅキちゃんじゃないか。いらっしゃい!」
「アローラ! マオのお父さん!」
ホールで話していると、厨房からマオのお父さんが顔を出した。ミヅキはアイナ食堂に何度か来ているので既にマオのお父さんとは面識がある。
「マオ、今日はお客さんも落ち着いてきたから、店はこっちに任せて2人でゆっくりしたらどうだ?」
「えっ、いいの? ありがとうお父さん!」
「ああ、マオもまだご飯食べてないだろう?」
「うん。おなかペコペコだよ~」
気を緩めるとマオは一気にお腹がすいてきた。ずっと働き詰めだったので昼ごはんをまだ食べていなかったのだった。
やがてマオのお父さんが日替わりランチと2人分のパイルジュースを持ってくると、マオとミヅキは元気よく「いただきます」をしてから食べ始めた。今日の日替わりランチはミックスグリル。ハンバーグとポテトを交互に味わうのがミヅキのお気に入りだった。
「へぇ~、ポケモンと一緒に暮らすっていうのが、ミヅキにはあまりしっくりきてなかったんだ」
「うん、でも今日街に遊びに行って、みんなポケモンと一緒に遊んだり仕事してたりするのを見たりして……ポケモンと一緒に暮らすってこういうことなんだ! ってちょっとだけ分かった気がする」
ご飯を食べながらミヅキは今日街であったことをマオに話していた。わざわざアイナ食堂にご飯を食べに来たのは、友達に今日の発見を話してみたかったというのもある。
「わたしたちはポケモンと一緒にお仕事したり、暮らしたりするのは普通だから気にしなかったけど、ミヅキはカントー出身だもんね!」
マオはアローラ以外の暮らしをほとんど知らない。テレビで他の地方の番組を見ることもあるけれど、それはあくまで画面越しに見る情報にすぎないので実感を伴うものではない。
なので仲の良いクラスメイトから直接他の地方の話を聞くのはなんとなくワクワクする。
「ね、逆にさ、わたしも都会の暮らしって全然知らないんだ! ミヅキがどんな風に暮らしてたのか聞いてみたいって思ってたの!」
「えっ? でもそんな普通だよ?」
「その普通が知りたいの! ね、聞かせて?」
マオはわくわくした表情をミヅキに向ける。カントーでは当たり前のことでも、アローラではそうじゃないのかも。わたしがこっちに来て戸惑ったみたいに。ミヅキはなんとなくそう思った。
「えっとね、まずわたしが住んでたタマムシシティは……」
タマムシシティには電車がたくさん通っていること。凄く大きいデパートがあること。夜もすごく明るいこと。ハウオリシティより明るいかも。なんてミヅキが言うとマオはとっても驚いていた。
「あ、大きなゲームセンターとかもあるよ。なんかスッゴイお金使うから絶対やるなってパパに言われてたけど、1度やってみたかったなあ」
「あ、危なそうだね……どんなのなの?」
「なんだっけ……スロットだったかな。機械で番号と絵柄を揃えるゲームなんだけど、コインを9999枚揃えるとものすごく珍しいポケモンが貰えるらしくて……給料とかボーナスを全部突っ込んで一文無しになる人がいっぱいいるんだって」
「うわぁ」
『マッジィ?』
なんかよくわかんないけどヤバそう。都会の闇を知ったマオは顔を少し引きつらせていた。アマカジはよくわからなったようで頭にクエスチョンマークを付けている。
…………
ずいぶん沢山マオとお喋りしてしまった。
いつの間にか空はオレンジ色。ミヅキはマオと「また明日ね!」と言い合ってアイナ食堂を出ると帰路についた。
しばらく歩いて家の近くまで来ると、ミヅキはサトシが砂浜でピカチュウとモクローと特訓しているのを見た。
ククイ博士の家はミヅキの家の通り道にあり、サトシは博士の家に下宿している。なので博士の家の近くの砂浜で特訓しているサトシを見ることは、ミヅキにとって初めてのことではなかった。
今日は友達と良く会うなあ。と思いながらミヅキはサトシに声を掛けた。
「おーい! サトシー! ピカチュウ! モクロー!」
「あ! ミヅキじゃん!」
『ピッカチュ!』
『ホロロー!』
サトシ達が返事を返すと、ミヅキは階段を降りて砂浜に駆け下りて、サトシ達のいるところまで向かった。
「昼間はごめんな! すぐどっかいっちゃって」
「ううん、気にしないで! そういえばニャビーは見つかった?」
「それがまた見失っちゃってさ~。あいつ本当にすばしっこいんだよ」
「そっかぁ……でも次はゲットできると良いね!」
ミヅキがそう励ますと、サトシはニッと笑った。今日の朝までニャビーのことになると難しい顔をしていたのに、珍しく晴れ晴れとした表情だったのでミヅキは意外に思った。
「いや、ゲットはもういいんだ」
「えっ?」
サトシはミヅキにムーランドとニャビーが身を寄せ合って一緒に暮らしていたことを話した。そしてムーランドのために食糧を捜すニャビーの手伝いをしたくて探していたことも。この2匹の絆を引き裂いてニャビーをゲットすることなどできないとサトシは思っていたのだった。
「そんなことがあったんだ……」
「ホロ?」
ミヅキはモクローの方を見る。モクローはただ見つめられて首を傾げていた。モクローの時もそうだった。モクローにはドデカバシたちという家族がいて、それを見たサトシは一度モクローをゲットすることを諦めたことがあった。でもモクローは父親のドデカバシに背中を押されて、自分からサトシの仲間になっている。あの時はロトムと一緒に「こんなゲットの仕方見たことない!」って驚いたものだ。
マオは「サトシらしい」って言ってたっけ。ミヅキはふと思い出した。たしかにこれが「サトシらしさ」なのかもしれない。
サトシはまず自分が捕まえたいかどうかより、そのポケモンがどうしたら幸せなのかを先に考えるタイプだ。
ポケモンが自分から仲間になりたいとやってくるのは、サトシにそういう優しさがあるからかもしれない。そしてそういうことを意識しているトレーナーは、そんなにいないと思う。
まだ出会ってからそんなに経ってないけれど、ミヅキはサトシというクラスメイトをそんなふうに見ていた。
わたしまだポケモンを捕まえたことないから偉そうなこといえないけど、とミヅキは内心突っ込む。
「ね、サトシって今更だけどポケモントレーナーなんだよね」
「ん? おう、そうだけど……」
「ポケモントレーナー的に……サトシにとって、ポケモンってなんなんだろう。サトシが思ってる答えで良いから、聞かせてもらえないかなって」
これはミヅキがなんとなく聞いてみたかったことだ。ポケモンと一緒に楽しく過ごす。それだけじゃなくて、ポケモンバトルを楽しむ人達はポケモンとの関係をどう考えているのだろう?
ミヅキの目はサトシの目をすうっと捉えて離さない。目つきは普通なのだけど、吸い込まれるような力強さを感じる瞳だった。初めて見る表情。ミヅキってこんな顔もするんだ、とサトシは思った。そして何となくこれはきちんと答えなければいけないとも。
「スキなんだ、こいつらが」
サトシは傍のピカチュウとモクローを抱き寄せた。
「俺、うまく言えないけどさ、ポケモンとスッゴく仲良くなって! それでたくさんバトルして、一緒に強くなるのがスッゲー楽しいんだ! ピカチュウ、モクロー……今までも沢山の仲間と出会って、楽しいときも苦しいときもずっと一緒に過ごしてきてさ、これからもみんなでどんどん強くなって……そしていつかポケモンマスターになる!」
『ピカピ!』
『ホロロー!』
いつの間にかサトシは海に向かって叫んでいた。そしてふと冷静になってミヅキに向き直る。
「……あ、ごめん。もしかしてそういう話じゃなかった?」
「ううん! へへ、マオじゃないけど。サトシらしいっていうか」
ミヅキはくすりと笑った。サトシはまっすぐな人だと思う。サトシにとってポケモンは当たり前のように人生の一部としてそこに居るものなのかもしれない。
「サトシ、ピカチュウ、モクロー! そろそろ飯の時間だぞ……ってミヅキじゃないか。どうしたんだ? こんな時間に」
家の方から声が聞こえた。サトシとミヅキが声の方に顔を向ける。ククイ博士がサトシを呼びに来たのだった。
「ククイ博士、アローラ! たまたま帰る時にサトシが特訓してて、見にきちゃいました」
「そうか! さては、ミヅキもそろそろポケモンをゲットしたいと思い始めてきたか?」
博士がしたり顔で言う。
どうなんだろう。ミヅキはまだ自分がポケモンが欲しいと思っているのかどうかよくわからなかった。けれど自分のゲットしたポケモンと一緒に過ごすのは楽しそうだなと思う。
「そうなのかな……? そうかも。今までわたしあまりポケモン捕まえたいって思うことがなくて……」
「ああ、たぶんそうなんじゃないかとは思ってたよ」
「え、わかってたんですか?」
「これでも君達の先生だからな! でも、それを俺に言うってことは、君の中で考えが変わってきたんじゃないか? ミヅキ」
博士は教師としてミヅキのことをまだ数週間しか見ていないが、なんとなく転入してから何かを考えているような風に見えていた。思ったことをすぐ口に出すサトシがいるのでその傾向はより顕著だったように思う。
おそらく自分の中で考えをじっくり整理するタイプなのだろう。こうやって話を切り出してくるということは、何かを知って答えがまとまりかけているということなのかもしれない。そしてそれを見守りたいと思っている。
「はい、でも……わたしにポケモンが育てられるのかなって」
ミヅキは少し躊躇ってから不安げに言う。憧れはある。でも自分にポケモンが育てられるのだろうか? そこにサトシが口を挟む。
「やってみなきゃわかんないぜ! ミヅキ!」
サトシはキラキラした目でミヅキを見ていた。やらないわけない。そんな気持ちが言わずともミヅキには伝わってきた。
「サトシの言う通りかもな。ミヅキ。たぶんそれは、君が実際に自分のポケモンと一緒に生活することでわかることだ。人によって、ポケモンとの関わり方は千差万別。君がポケモンを育てて、関わることで君だけの答えをスクールのみんなと一緒に見つけられたら、俺はとても素敵なことだと思うぜ」
「そうそう!」
「みんなと一緒に……?」
「おう! もちろん俺も! クラスのみんなだって、ピカチュウとモクローも手伝うぜ!」
『ピッピカチュ!』
『ホロロ!ホローッ!』
「サトシ……2人とも……」
サトシとピカチュウとモクローが明るい声でミヅキを元気づける。もしかすると自分はポケモンに興味が無いんじゃなくて、育てるということに少し怖さを感じていたのかもしれない。ミヅキは今まで言葉に出来なかった漠然とした感情に気づいた。
「ところでミヅキ、もう夜だけど家には帰らなくていいのか?」
博士が少し心配そうに声をかける。
え。ミヅキは空を見た。いつのまにか太陽は沈んで空は暗い。カントーでは見られない満点の星空だった。ああ月と星が綺麗だなあ。って違う! ヤバイ!
「あー! もうこんな時間!? ママに怒られる!! みんなごめん!! もう帰るね!! さよなら!! また明日ー!!」
みんなの挨拶を待たずに置いてきぼりにして、ミヅキはドタバタしながら砂浜から走り出した。
「ミヅキ、また明日なー!」
『ピッピッカァー!』『ホロロ!ホロ!』
全速力で爆走するミヅキの後ろ姿に、サトシとピカチュウとモクローは元気に手を振った。
「ミヅキ、元気出たみたいだな!」
『ピカァ』
ピカチュウもサトシの肩に乗ってにっこりと喜んでいた。そしてみんな揃ったようにお腹が鳴る。それを見て博士が「仲がいいな」と苦笑する。
「まさにとんぼがえりってところだな。みんな、飯にしようぜ!」
「はい! ククイ博士!」
明日の授業の内容は決まりかな? ふふっとククイ博士は笑みを浮かべながらサトシたちと一緒に家の中に入っていった。
…………
ミヅキはバタンと勢いよく家の扉を開けた。
「ただいまー!」
「おかえり! 遅かったわね」
「ごめんママ! 夜になってるって気づかなくて」
玄関で肩で息をしながら言う娘に、ミヅキの母親であるミキはしょうがないなあと言う風に笑った。昔自分も時間を忘れてニャースと特訓してお母さんに怒られてたっけ、なんて懐かしいことを思い出す。ミヅキと同じくらいの歳の頃、ミキはバトルに夢中なポケモントレーナーの1人だった。
「ニャー」
ミキのパートナーのニャースもミヅキを出迎えた。ミヅキの顔を見ると、疲れはあるがそれ以上に楽しそうな、充実したような顔をしていた。
「何か楽しいことでもあった?」
「え? あ、うん。結構、すごく!」
アローラに引っ越してからというもの、ミヅキは最初こそ元気そうに自分を装っていたけれど、何週間か経つにつれて住み慣れたカントーとの違いに戸惑って疲れたような表情を見せることも増えていた。ミキは心配していたけれど、お友達から貰ったという可愛い服を着てからもともとの明るい性格が戻ってきたように思う。
本人に聞くとクラスの女友達が選んでくれたらしい。近いうちに何かお礼をしないと。とミキは思っている。ミヅキも同じことを言っていた。本人たちに直接ありがとうと伝えたい。
「今日のご飯はあんたが好きなヤドンのしっぽの炙りテールカレー! だから早く手洗ってきなさい」
「えっホント? あれ美味しいんだよね!」
カントーではそうでもなかったけれど、アローラではヤドンのしっぽがかなりメジャーな食材だった。アローラに来てからミヅキはヤドンのしっぽのおいしさにハマっている。
晩ご飯を食べたらいつもより早く眠気が襲ってきた。
今日は一日中遊んでいたので、たぶん自分が思っているより疲れが溜まっていたんだろうとミヅキは思う。
ミヅキはベッドに入ってぼーっとしながら窓の外を見る。今日は色んな人と話したなぁ。みんなポケモンと一緒に楽しそうに過ごしてた。
わたしもみんなみたいになれるかな?
なんとなくそんなことを考える。窓の外には空には眩しいばかり月と、満天の星空が広がっていた。そんなキラキラした月と星空に照らされながら、ミヅキは久しぶりに心にワクワクしたきらめきを感じながら、まぶたを落として眠りについた。
…………
次の日の朝。
いつものように登校する途中、ミヅキは見慣れないものを見た。
「なんだろこのポケモン……黒い……トカゲ?」
ミヅキは最初はそのポケモンが寝ているかと思った。でもちょっと近くで見るとなんだか様子がおかしい。なんだか凄くぐったりしているように見えた。そして恐る恐るすぐ側に寄ってみると、全身傷だらけだった。近づいても威嚇どころか逃げることすらしないほど弱っている。
どうしよう。こういう時ってポケモンセンター? でも1人じゃ入ったことないし、勝手がよくわからない。そしてミヅキはクラスのみんなの顔が思い浮かぶ。
とにかく、連れて行こう。その名前も知らないポケモンを抱き上げてミヅキはポケモンスクールに向かって走り出した。
ミヅキママの名前「ミキ」はカントーの8番道路に出てくるニャース大好きミニスカートから取ってます。